インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて   作:如月ユウ

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長らくお待たせしました
鈴編はシリアス面が多めです


57話 鈴と夏休み

「悠人!」

 

懐中時計を見ながら空港で待っているとゲートをくぐった鈴が一緒に来た女性にボストンバッグを渡して走ってきて抱き付いてきた。

 

「鈴、苦しい……」

「だって……悠人に会うのは三週間ぶりだから……」

 

周りを気にせず首に手を回していると鈴のボストンバッグを持った女性はカートを引いて近づいてきた。

 

「久しぶりね悠人君」

「お久しぶりです星彩(せいさい)さん」

 

茶髪でショートカットの髪型で髪飾りを着けた女性は鈴のお母さんである凰星彩(ファンセイサイ)さん。

僕が小学5年生の頃に日本に住み始めたが中学2年生の頃に離婚してしまい中国に帰ってしまった。

 

「聞いたわよ? 鈴以外に他の子も彼女にしたって?」

「は、はい。その」

「いいのよ。鈴も悠人君のお嫁さんになる夢が叶ったってうるさくて」

「お、お母さん! なに言って」

 

顔を真っ赤にして僕から離れた。

 

「はぁ~寂しくもなるけどようやく馬鹿娘が離れるのか」

「馬鹿じゃない! アタシは代表候補生で専用機持ちだから優等生よ!」

「はいはい、お母さんみたいにおっぱい大きくなったら認めるわよちんちく鈴」

「ちんちく鈴言うな!」

 

鈴とは違い、落ち着いた雰囲気をしているが勝ち気なところは似ていてスタイルは鈴と同じスレンダー系だが胸部は大きい。

 

「泊まる場所は決まってますか?」

「まだ決まってないから何処か安いホテルでも拾うわ」

「なら、僕の家に泊まってください」

「あら、いいの?」

「ホテルに泊まるよりも僕の家なら出費を抑えられます」

「なら、私が泊まる間、鈴が作る中華を朝昼晩三食でどう?」

「いいですね。交渉成立」

「アタシをダシにホテル代ケチるな!」

 

 

 

 

鈴と星彩さんを連れて家に帰る。

簪と刀奈さんのような歴史がある家じゃないが二階建ての和風構造をしていてリビングや広い部屋には畳を敷いていている。

扉もドアノブを回して開ける開き戸ではなく、横にスライドさせて開ける引き戸である。

僕が3歳の頃に一夏と千冬さんも一緒に住んでいて中学に入学すると共に元の家に戻った。

 

「やっぱり畳は落ち着くわね」

「ゆうと~むぎちゃ~」

 

座って休んでいて星彩さんに対して鈴は寝転がってだらけている。

てか、かなりくつろいでいるなこの親子。

 

「悠人がいるからこっちに来たけど暑い……」

「暑いの苦手だもんね鈴は」

 

コップに麦茶と氷をいれて二人に渡す。

冬派の鈴は暑いのが苦手で僕は逆に夏派で寒いのが苦手である。

 

「夕方になれば涼しくなるから夜になってから買い物に行く?」

「悠人君はなにが食べたい?」

「そうですね……スタミナ補給にレバニラ炒めはどうです?」

「冷蔵庫を見ても大丈夫?」

「はい、どうぞ」

 

僕の許可をもらって冷蔵庫を確認しながらスマホを見ている。

 

「お母さんなにしてるの?」

「ちょっと待って。今、チラシとタイムセールを調べている」

 

どうやらチラシを見ているらしくしばらくするとスマホをポケットにしまう。

 

「よし、買うものが決まったわ」

 

軽く雑談をして外が暗くなり、財布とエコバッグを持って家を出た。

 

 

 

 

「メニューお願いします」

「はい、ご注文はお決まりですか?」

「レバニラ炒めとチャーハン、玉子スープ、デザートは白玉団子をお願いします」

「デザートは食後にお出ししますか?」

「はい、お願いします」

「オーダー! レバニラ炒め、チャーハン、玉子スープ、白玉団子!」

「はーい!」

 

接客(星彩さん)が大声で言うと料理人()が注文したメニューをキッチンにて調理する。

 

「なんでこんな事をするんですか?」

「雰囲気が大事なのよ。今なら私を独り占め出来るわよ?」

 

日本にまだいた頃は星彩さんは接客係をしていて中華美人と言われるほど綺麗で彼女目当てに来る常連客が後を断たなかった。

 

「レバニラ炒め、チャーハン、玉子スープ出来たわよ!」

 

鈴が作った中華がテーブルに並べられるが一人前ではなく三人前である。

 

「中国に帰ったあと鈴はなにしてたの?」

「小学校の頃に引っ越したからアタシを覚えてる友達がいなかったし、あっちに帰っても訓練ばかりしてた」

 

鈴が産まれた故郷なのに友達と一緒に過ごすことがないなんてなんか寂しいな。

 

「あっちに戻っても悪いことばかりじゃなかったわね。代表候補生になって専用機持ちになったとき追加で開発して欲しい装備も受理したわ」

「まさかだけどシャイニング、ゴッド、ダークネスとか言わないよね?」

 

Gガンダムが好きな鈴のことだからフィンガー系を造れと言うはず。

 

「確かに頼んだけど技術的に無理だから諦めてって言われた。ほら、あれって液体金属を纏って使うでしょ?装甲に浸透して一度使うたびに交換しないといけないらしい」

 

液体金属ってかなり危険じゃない?特に水銀は毒性があって気化したのを吸い込むと死に至らしめることもある。

 

「でも、マスターガンダムの装備は開発出来たわ。スラスターとシールドを組み合わせた複合兵装で身体を包むように展開されて折り畳むとスラスターに変わるの。マスタークロスも開発中だから練習用に耐ビームコーティングした高電圧縛鎖(ボルテック・チェーン)も新しい装備にした」

 

やっぱり抜け目のない鈴だった。これだと甲龍はマスターガンダムになる未来になりそう。

 

「アタシのことはもういいから今度はあんたの番よ」

「私も気になるわ。悠人君がどう過ごしているか」

 

鈴だけではなく星彩さんも興味津々に聞いてくる。

 

「フランスのときはシャルロットと一緒に観光地行って、ドイツは観光出来なかったからラウラが所属している軍隊の基地に込もってた」

「なんか事件があったらしいけど大丈夫だったの?」

「僕が来たときには解決したって聞いた。日本に帰ったあと簪達と一夏と一緒にお祭りに行ったよ」

「いいなお祭り、アタシも行きたかった」

 

お盆休みは過ぎていて近くでやっているお祭りも終わっているのでお祭りに行けなかった鈴は残念な気持ちになる。

 

 

 

「あ、そういえば駅前に新しいお店が出来てたんだ」

 

鈴と星彩が泊まって次の日。

前に潰れたファミレスが新しいお店になってたのを思い出した。

 

「駅前ってファミレスがあった場所よね?」

「そうそう、平日も行列で中華が美味しいお店だって」

「へぇ、中華があるお店なら見過ごせないわね」

 

対抗心を燃やしたらしく、今日のお昼は駅前のお店に決まった。

 

「眼鏡かけてるけどそんなに悪かった?」

「伊達眼鏡だよ。たまにかけたい気分とかあるんだよ」

「ファッションするよりガンプラにお金かけるあんたも気にするようになったのね」

「うるさいな」

 

外に出るとジメジメとした暑さが襲いかかる。

僕がかけているのはオーバル型の伊達眼鏡でフレームは革製を使っている。

駅前に着くとお昼時なのか行列が出来ていた。

 

「並んでるけど、どうする?」

「待つに決まってるじゃない」

 

最後列に並んで暑い日差しに刺されながら30分ほど待つとようやく店内に入れた。

 

「あぁ……涼しい」

「いきかえる~」

 

炎天下のなかで待っていたのでエアコンの冷たい風が暑くなった身体を癒してくれる。

接客の人から席を案内されてメニューを渡される。

 

「女性が頼みやすいようなメニューが多いわね」

「オススメの組み合わせとかカロリーを計算しやすいセットもある」

 

手頃な値段でお会計が簡単に出来るように端数とかを極力減らしている。

 

「アタシは決まったわ」

「私も選んだわよ。悠人君は?」

 

鈴と星彩さんは食べるか決めたようで僕も急いで選び、テーブルにあるボタンを押すと接客の人がメニューを聞きに来た。

 

「アタシはこのエビチリセットをひとつ」

「回鍋肉セットをひとつ」

「酢豚セットをお願いします」

「エビチリセットがおひとつ、回鍋肉セットがおひとつ、酢豚セットがおひとつでよろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

 

接客の人がメニューを復唱して間違いがないかを確認すると一礼をして離れた。

 

「鈴、ちょっと気になったことあるけどいい?」

「どうしたの悠人?」

「なんて言えばいいかな……懐かしい感じがするような」

「懐かしい?」

 

初めて来たのに新鮮さがなく違和感が拭えない。

店内の装飾も若い人向けのような飾り付けをしているが周りの雰囲気に覚えがある。

 

「お待たせしました。エビチリセット、回鍋肉セット、酢豚セットです」

 

料理が運ばれてテーブルに置かれると注文した伝票を伝票差しに入れた。

 

「久しぶりに外食したからじゃないの?」

 

戸惑っている僕を無視してエビチリを食べると突然、箸が止まった。

 

「鈴?」

「お母さん、これ……」

「この味……」

 

回鍋肉を食べていた星彩さんも同じく箸を止めて、鈴と同じ表情をしていて驚きを隠せていない。

 

「ゆ、悠人。酢豚貰うわよ」

「別にいいけ──」

 

僕の言葉に耳を傾けず僕が注文した酢豚を食べた。

 

「あ、あの、すいません!」

 

箸を置いて鈴が立ち上がり店員を呼んだ。

 

「どうしましたか?」

「こ、これ作った人を呼んでください!」

「お、お気に召さなかったですか?」

 

店員は注文した料理が口に合わなくてクレームかと思い込んでいる。

 

「えっと、その……と、とにかく呼んでください! お願いします!」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

頭をさげて店員は小走りで厨房に向かって行った。

 

「鈴、大丈夫?」

「えぇ……でも、これ……まさか……いや、だって……」

 

目の焦点が合ってなく、酷く焦っていて呼吸が乱れ始めている鈴を落ち着かせようと肩を抱き締めて腕を擦る。

 

「大丈夫だよ、何があったかわからないけど僕は鈴の味方だから、鈴の彼氏だから」

「うん……ありがとう」

 

店員が来るまで落ち着かせると厨房から店員ともう1人出て来た。

厨房が出たのは中華風の厨房服を着ていて汗が垂れないようにタオルを頭に巻いている。

温厚な雰囲気を持つ男性も僕達を見て驚いている。

 

「鈴……星彩……それに悠人君も……」

劉禅(りゅうぜん)さん……」

 

このお店の料理を作っていたのは鈴のお父さんで星彩さんの旦那さんである凰劉禅(ファンリュウゼン)さんだった。

 

「あなた……」

「なんで2人は日本(ここ)にいるんだ? 中国(あっち)に帰ったのを見送ったのに……」

「お父さん、アタシ……」

「劉禅さん! ちょっと来て!」

「……少し待ってくれ」

 

少しだけ苛立ったような表情をして劉禅さんが厨房内に入っていき、しばらくするとまた戻ってきた。

 

「店長から今日は終わりだから帰っていいって言われた。店の外で待ってろ」

「わ、わかったわ」

 

お互い顔を見るのが気まずいのか視線を外して劉禅さんは厨房に戻ると僕達は異様な空気の中、無言で料理を食べ終えて会計を済ませて店を出た。

 

 

 

「中国の代表候補生だからIS学園に行ってるのか」

 

店の裏口から劉禅さんが出て来て、そのまま家に帰ると鈴と星彩さんが日本にいる訳を話した。

 

「夏休みが終わるまで悠人君の家にいて、二学期になったらそのままIS学園に行くのか」

「うん……」

 

離婚して離れ離れになった父と再開してソワソワして落ち着かない様子である。

 

「ニュースで見たが悠人君は一夏君と一緒にIS学園に通っているんだね? 鈴と同じクラスか?」

「いえ、僕のクラスは4組でして一夏は1組、鈴は2組です。合同でやる場合は一夏がいる1組とやってます」

「娘は迷惑かけてないか?」

「鈴には色々と感謝しています。手料理とか作ってもらったり、ISについて色々助かってます」

「アタシがいないとカップラーメンで済ませてるからね。本当、アタシがいないと駄目になるんだから」

「それはいかんな。ジャンクフードは手軽で食べやすいが毎日食べてたら健康に悪い。一日に必要な野菜は毎日摂ってる?」

 

管理栄養士の資格を持っている劉禅さんはその知識を使って手頃な値段かつ栄養化が高いメニューを考えている。

個人料理店を経営していた頃は薬膳料理も作っていて健康面を気にしているお客さんに人気があった。

 

「お父さん、あのね……アタシ、悠人と付き合うことになったの」

「ついにか……彼なら娘を任せられる」

 

安心したかのような目で僕を見ていて、この先なにがあっても未練がないという表情をしている。

 

「それとねアタシ以外に」

「待って鈴、それは僕が言う」

 

これは彼氏である僕がいう責任がある。

 

「劉禅さん、僕は鈴以外に複数の女性と付き合っています」

 

鈴と付き合うと喜んでいたが複数の人と付き合うと聞いた途端、僕を見る目が厳しい視線に変わった。

 

「星彩」

「鈴、男同士で話をするから出るわよ」

「悠人はアタシ達の告白を断った。それで合意で全員で付き合うことで事を収めたの。お父さん、それだけは忘れないで」

 

一方的に非難すると思い、出来る限りのフォローをして星彩さんとリビングを出る。

 

「これが僕が付き合ってます人達です」

 

前に撮った集合写真を劉禅さんに見せる。

 

「金髪の女の子はシャルロット・デュノア、フランスにあるデュノア社の社長令嬢でして銀髪の女の子がラウラ・ボーデヴィッヒ、ドイツの軍隊の人で水色の髪の姉妹は更織楯無さんと簪です」

 

しばらく眺めていて無言で写真を返してくる。

 

「悠人君、足を開いて歯をくいしばって欲しい」

 

コクリと頷いて立ち上がり腕を後ろに組んで足を開いた。

握りこぶしをつくった劉禅さんの拳が僕の頬を殴り付けた。

 

「これで複数の女性と付き合うことは許そう。悠人君、娘をよろしく頼む」

 

畳に倒れた僕に手を差し出した劉禅さんの手を掴んで立ち上がった。

 

 

 

 

「お母さん、お父さんのところに行くの?」

「お邪魔虫はいないほうが良いでしょ?」

 

劉禅さんに交際を認められて次の日、星彩さんは旅行カートを持って玄関前にいた。

 

「あの、星彩さん」

「なにかしら?」

「どうして……劉禅さんと別れたんですか」

 

二人の仲は僕や一夏達以外に常連客の人達も知っていたのにどうして別れてしまったのか。

 

「あの人は健康を気にしている人や新しく来た人にも馴染んでもらうためにメニューとか必死に考えて、何度も徹夜をしてた。それに加えて厨房の仕事も疎かにしなかった」

 

少しづつ劉禅さんの事を話始める。

 

「今のままでも十分やっていけてると言っても聞いてくれなくてそのまま喧嘩別れ。鈴を育てないといけないから親権を私に譲ってくれてお店をたたんで残った売り上げも鈴のためだと言ってほとんど私に渡してくれた」

「お父さん……」

「中国に帰ってもあの人のことばかり考えていた。ちゃんと寝ているのか。自身の健康管理をしているのかって」

「後悔していますか?」

「そうね……それで日本に来てあの人を見たとき思った。私がいないと体調崩して倒れるかもしれないから支えないといけないって」

「なら、答えは見つかってますね」

「答え?」

「鈴や劉禅さんのことを思ってるなら再婚したほうが良いです」

 

離婚して後悔してるなら寄りを戻してまたやり直せば良い。

幸い、劉禅さんはアパートを借りていて泊まる場所も問題ない。

 

「鈴は最低でも3年間は日本にいないといけませんし、劉禅さんは仕事を残しています」

 

IS学園は寮生活だがやはり自分の家に帰るほうが精神的にも落ち着ける。

 

「それに……劉禅さんのお店で作った酢豚がまた食べたいです」

 

正直な話、こちらが本命である。

劉禅さんの作る中華は絶品で毎日食べても飽きないほど美味しい。

 

「私が日本に戻れば元通り……そうだったわね。なんでこんな簡単なことを忘れていたのかしら」

 

ふぅ……と自分の重荷を降ろしたように力なく息を吐いた。

 

「鈴のためだと思って中国に帰ったけど、やっぱり好きな人の隣にいたほうがよっぽど鈴のためになるわ」

 

何かを決心したかのように僕達を見た。

 

「よし、決めた。来年になったら日本にまた住み始めるわ」

「お母さん……もしかして」

「お店はまだ先だけど鈴が卒業するまでには開業しようかしら。お父さんと一緒にね」

 

頬を吊り上げて笑い、いつもの星彩さんに戻った。

 

「ヤるのは構わないけどちゃんと避妊してよ? 私はまだお婆ちゃんにはなりたくないから」

「ひ、ひに……お母さん!」

 

顔を真っ赤にして鈴を見た星彩さんはひらひらと手を振って玄関の扉を開けて出た。

 

「お母さんったら……もう……」

 

そうは言っているが嫌な顔はしていない。

 

「きょ、今日からふ、二人きりなのよね」

「えっ? まあ、そうだけど」

「夏休みまでずっと二人で……これって新婚生活みたいな」

「新婚?」

「う、ううん何でもない!」

 

星彩さんがいなくなってから鈴は急にソワソワと落ち着かない様子になっている。

 

「ねぇ、鈴」

「は、はい!」

「弾の所に行かない? 久しぶりに戻ってきたし、顔とか会わせとこうよ」

「い、いいわね。アタシ、蘭にお土産を渡す予定だったし、すぐ準備するわ」

 

パタパタと忙しなく足音を立てて準備を始める。

服装はいつものでいいか。

自由と描かれたシャツに黒いズボンを履いて、肩掛けショルダーバッグを背負う。

玄関前で待っていると鈴も用意が出来たので玄関を出て鍵を閉めた。

 

 

 

 

無言のまま弾の実家である五反田食堂まで歩いている。

 

(う~ん、星彩さんが行ってから鈴の様子がおかしい)

 

顔を動かさず視線を鈴に向けると女性用ショルダーバッグを両手で持って歩いている。

 

「もしかして体調とか崩してる?」

「ぜ、全然大丈夫! 絶好調よ、うん!」

 

問題はないと言っているが目が泳いでいて落ち着きがない。

目的地である五反田食堂に着いたので扉を開ける。

 

「いらっしゃ──おう、悠人と鈴か」

「悠人さんと鈴さん。お久しぶりです」

 

エプロンを着けている弾はテーブルにある食べ終わった皿を片付けていて、弾と同じエプロンを着けている蘭もお手伝いなのかテーブルを拭きながらお客さんが使った調味料を元の位置に戻していた。

 

「久しぶり蘭。あ、これお土産」

 

ショルダーバッグから中国から買ってきたお土産を蘭に渡した。

 

「これはなんですか?」

「中国にあるお茶よ。良い匂いだからお茶の香りを楽しみながら飲むの」

「はい! ありがとうございます! これ、メニューですので決まったら呼んでくださいね」

 

お冷やを置いて嬉しそうお土産を母屋に持っていく。

 

「いつものを頼むんでしょ?」

「うん、鈴は決まった?」

「アタシも決まった。らーん、ちゅうもーん!」

「メニュー決まりました?」

 

伝票を持ってきて注文を聞いてくる。

 

「カボチャ煮定食と業火野菜炒め定食をひとつをお願いします」

「おじいちゃん、業火野菜炒め定食とカボチャ煮定食!」

「おーう」

 

五反田食堂の店主である厳さんは厨房で僕達が注文したメニューを作る。

 

「そうだ。蘭、前にテレビ当たったけど部屋に置いているの?」

「あれはリビングにありまして前に使ってたテレビは私の部屋に置いてます」

「テレビ?」

「前に祭りに行った話をしたでしょ? 箒の神社で神楽舞いを見て、みんなで射的したら蘭が特賞を落とした」

「うそ、すごいじゃない」

「あ、あれはたまたまですよ。どちらかと言えば箒さんが羨ましかったです……」

 

羨ましい?テレビよりぬいぐるみが欲しかったのかな?

 

「もうひとつ忘れてた。アタシ、悠人と付き合うことになったの」

「そう……なんですか」

「蘭?」

 

おかしな事を言ったのかと思い込み、首を傾げる。

 

「簪達と一緒に祭りに行ってね。そのときに他の女の子と付き合ってるって話したの」

「あぁ、なるほど」

「蘭! ガキ二人の分が出来たから運んでこい!」

「う、うん! わかった!」

 

厳さんの大声でカウンターから料理を受け取り、テーブルに運んでくる。

 

「お待たせしました。カボチャ煮定食と業火野菜炒め定食です」

「おっ、きたきた」

 

出来立ての定食が並べられる。

 

「蘭のお店のカボチャ煮ってかなり甘いよね」

「その甘いが良いんだよ」

 

他のお店のカボチャ煮は中途半端な甘さだから物足りなくて甘くするならちゃんとしろと言いたい。

それに違ってここのカボチャ煮はちゃんとした甘さをしていて冷めても甘さがしっかり残っている。

五反田食堂のカボチャ煮は甘いという認識をしている。

 

「鈴って部活とか決まってる?」

「部活?」

「更識先輩に生徒会に入って欲しいって頼まれてね。特に入りたい部活とかなかったから生徒会に入部したんだ」

「ふ~ん、アタシも入っても良い?」

「先輩は生徒会長で本音さんが書記、虚さんは会計。簪は庶務だけど複数いても大丈夫だから良いか」

「悠人も庶務なの?」

「僕? 僕は……副会長」

「えっ? 副会長?」

 

まばたきをしながらきょとんとして、遅れて反応した。

 

「えっ、えぇ~悠人が副会長? それはないわね」

「ぼ、僕だって好きでやってる訳じゃないよ。庶務で良いって言ったけど聞かなくて仕方なく」

 

IS学園の生徒会長は生徒のリーダーとして存在していて簡単な話、一番強くなくてはならない。

副会長は実質、IS学園の生徒の中でトップ2である。

それなら代表候補生で専用機を持っている簪が適任だと思う。

 

「プロパガンダじゃない? ほら、悠人と一夏は男なのにIS使えるし、何処かの部活に入れば間近で見たいからという理由で入部が増えるわ。千冬さんが顧問している茶道部も同じ理由で入部の後が断たないんでしょ?」

 

茶道部の入部が殺到しているのは千冬さんがいるからで入部条件が正座を二時間耐えることである。

海外から来ている人が日本文化を体験したいから入部するという理由ならまだ綺麗な心だと思うが。

 

「食堂を出たら次はどこ行く?」

「駅前のレゾナンスで良いんじゃない?」

「わかった。蘭、お会計お願い」

「はい、ちょっと待ってくださいね」

 

定食を食べ終えて伝票を渡してお金を支払う。

 

「二人はまだお手伝いなの?」

「いえ、夜もお手伝いしますので先に休んでろって言われまして」

「じゃあアタシ達と出掛けない? レゾナンスでぶらつこうと思って」

「お兄! 出掛けるから準備して!」

「えっ? 俺、夏休みの宿題やらなきゃ」

「いいから! はやく準備して!」

「へいへ~い」

 

特に反論することなく弾は蘭と一緒に母屋に行く。

なんだかんだで蘭には甘くて妹思いなお兄さんだからな。

 

「蘭と弾を見てたけど、どうしたの?」

「ううん、兄妹(きょうだい)は良いなって」

 

 

 

 

五反田食堂を出て、レゾナンスにあるゲーセンでひと通り遊んで休憩しようと@クルーズでティータイムをしている。

 

「もう少しで夏休みも終わりね」

 

フォークをペン回しと同じ領域でクルクルと弄んでいる。

 

「夏休みがもうそろそろ終わりに近付いてますけど、これからの予定ってあります?」

「予定? こっちに戻ってからはやることないから夏休みが終わるまで暇ね」

「ねぇ、あなた!」

「は、はい?」

 

メイド服を着て接客をしていた人が暇と言った鈴に声をかけてきた。

 

「今、暇って言わなかった?」

「は、はい……言いましたけど」

「君達も?」

「えっと……」

「まあ……」

「暇ですけど……」

 

それぞれの言葉を聞いて更に好都合という表情をしていた。

 

「あなた達バイトしてみない?」

「「「「バイト?」」」」

 

僕達に話しかけてきたのはこのお店の責任者である店長さんらしく、詳しく聞いてみると働いている人が少ないうえにふたりが辞めてしまったらしい。

 

「やめた人の分のバイトを募集しないといけないけど本社から視察の人が来るから時間が足りないの。今日だけでいいからバイトして欲しいの。お礼に君達が注文したメニューは私が奢るから」

「どうする?」

「良いんじゃない? やることないし」

「俺達ってなにすれば良いっすか?」

「実家が定食屋なのである程度は出来ます」

「裏方は足りてるから接客をお願い出来る? 男の子はこっち、女の子はこっちの服に着替えて」

 

店長さんは僕達が頼んだメニューを支払い、スタッフルームに連れていかれると執事服とメイド服を渡される。

 

「じゃあ、私は戻るから着替えたらカウンターに行ってメニューを運んでね。話はしておくから」

 

お店が忙しいのか店長さんは早歩きでスタッフルームを出た。

 

「私達は着替えるからお兄達は出てって」

「はいはい」

 

鈴と蘭が着替えるのでスタッフルームを出て、扉の前で着替え始める。

 

「いつも思ってたけどその髪って洗うの面倒くさいない? トリートメントとかしないといけないし」

「長くしてるが別に気にならないぜ?」

 

私服を脱いで執事服に着替えながら雑談する。

 

「弾は僕と違って素材が良いんだから見た目を少しだけ変えればけっこうイケると思うよ」

「そ、そうか?」

「だって男で髪を伸ばす人はそういないよ? 例えばこうやって……」

 

弾が付けているヘアバンドを外して前髪をおろして、後ろ髪を三つ編みにする。

 

「りーん、髪留め持ってる?」

「あるよ、はい」

 

ノックすると扉をあけて、鈴の手だけが出てきて髪留めを貰い、三つ編みにした髪に留める。

 

「あとは伊達眼鏡をかけてと」

 

伊達眼鏡を弾につけると長髪バンド系男子から三つ編み眼鏡の知的執事になった。

 

「悠人、着替え終わった?」

 

スタッフルームから出て来た鈴と蘭の姿は私服からメイド服になっていた。

 

「悠人さんと……お兄?」

「おう、お前のお兄ちゃんだぞ」

 

ヘアバンドを外してだらしなく伸ばしていた髪が三つ編みになっていて眼鏡をかけた弾の姿に蘭の口はあいたまま塞がらなかった。

 

「どう悠人? アタシのメイド服は?」

「実は少しだけメイド服に憧れてまして……」

 

恥ずかしそうにしている蘭のはドジっ子みたいに見えて、逆に鈴のメイド服は見た目からして活発的なメイドに見える。

鈴も蘭も素直に可愛い。

 

「似合っているよ」

「あ、ありがとうございます」

「ふふん、アタシってお母さん似だから似合って当然よね」

「胸は似てないけどな」

「ぶっ飛ばすわよ」

「悪かった、悪かったからその手を向けるのは止めてくれ」

 

馬鹿正直に言った弾は殴られるのが嫌なのか引き気味になりながら謝った。

 

「メイド服を着るの滅多にないと思いますので写真とか撮ります?」

「良いわね。せっかくの思い出だし」

 

一ヶ所に集まって蘭がスマホを持ち天井高く上げて写真を撮った。

 

「じゃあ、今日だけメイド喫茶でアルバイト頑張ろう!」

 

お~!と腕を掲げてカウンターに向かうことにした。

 

 

「五反田君は9番テーブル、山田君は4番テーブルのメニューを運んで」

「了解っす」

「わかりました」

 

カウンターから注文されたメニューが置かれたトレーを持ち、それぞれの席に行く。

 

「弾、さっき言ったように」

「わかってる。声を低くしてたまに微笑むだろ?」

That't right(そのとおり)

 

接客が売りの喫茶店は定食屋とは違って接客係が一定の容姿が必要。

いつもの話し方だと見た目が良くても台無しになるので少しだけ格好をつけないといけない。

 

「失礼します。アフタヌーンティーのセットでございます」

 

ケーキと紅茶をテーブルに置いて、@クルーズの『とあるサービス』をするか聞く。

 

「ミルクと砂糖はお入れしますか? よろしければ、こちらで入れさせてもらいますが?」

「は、はい。お願いします」

「私も……」

「かしこまりました」

 

徹夜でガンプラを組むときはインスタントコーヒーをよく作っていたのでそれと同じように砂糖とミルクを入れて音を立てないようにかき混ぜる。

 

「どうぞ」

「ありがとう……ございます」

「また何かありましたら何なりとお呼びください。お嬢様」

 

ゆっくりとお辞儀をして足音が聞こえないようにカウンターに戻る。

 

(鈴達ってこんな大変なことを疲れた顔ひとつ出さないでやれるよね……)

 

心の中でそう呟いて3人の姿をちらりと見る。

 

「それでは失礼します」

「長い赤髪を三つ編みしてる執事さんって知的よね」

「お城にいる凄腕執事みたい」

 

執事服を着ている弾の姿を見ている女性の人は見惚れている。

どうやら好評のようだ。

 

「何かありましたら何なりとお申し付けくださいご主人様」

「日本にもあんな可愛い女の子がいたんだ」

「膝のうえに乗せてあの髪を弄りたい」

 

男性客がツインテールを揺らしながら離れる鈴の姿を見ていると心が曇った感じがしてきた。

 

(なんであの人達を見てこんな気分になった……鈴は可愛いのはわかるけど……)

 

考えれば考えるほどムカムカしてきて、これ以上は不味いと思い、蘭を探していると男性客の注文を聞いていた。

 

「ねぇ、君って新人?」

「えっ? はい、そうですけど」

「実はここの常連客でね。良かったら名前を──」

「おい」

 

男性客と蘭の間に弾がやって来てトレーを肩に担いで睨み付けていた。

眼鏡を付けているからなのかより鋭い視線に見える。

 

「俺の妹に手を出すとは良い度胸じゃねぇか?」

「お、お兄さんも一緒にいたのでしたか?」

「てめえみたいな奴に兄って呼ばれたくねぇよ。出会いとかしたいならここじゃなくて他所でやりな」

「は、はい! すいませんでした!」

 

ガチギレした弾の姿に恐怖に染まった男性客は脱兎のごとく、お店を出た。

 

「大丈夫か蘭?」

「あ、ありがとうお兄」

「気を付けろよ? あぁいった奴は身体が目当てだ。これじゃあ一夏か悠人、数馬じゃないと安心出来ないな」

「弾、声が戻ってる」

 

急いで弾に近付き、肘でつついて素に戻っていると小声で伝える。

 

「おっと、お騒がせてしまい申し訳ありません」

「当店ではあのような行為は他のご主人様にご迷惑をおかけしますのでお控えください」

「それではティータイムを後ゆるりとお楽しみください」

 

3人でゆっくりとお辞儀をしてカウンターに向かう。

 

「カッコいい……」

「知的かと思ったらワイルドな人だった」

「二人っきりのときあんな風に迫られたら……」

「隣にいた優しそうな執事さんも素敵」

「兄妹揃って使用人……絵になるわ」

 

先ほどの行為を見た人達が異様な興奮を覚えて、変な空気が立ち込み始めた。

 

「追加の紅茶をお願いします。さっきの男の子に運ばせてください」

「これ頼みますので眼鏡の執事さんをお願いします」

「これをお願いします! できればツインテールのメイドさんに」

「あ、赤髪のメイドさんにこれを!」

 

一人のお客様が追加を頼むとそれを皮切りに他の人達も追加を頼んできた。

忙しなく店内を回り、メニューを運んでいて疲労を隠せないが店長さんや他のスタッフが出来る限りのフォローしてくれたおかげでなんとかなっている。

 

「悠人、ちょっといい?」

 

カウンターから戻ってまたメニューを運ぼうとしたら鈴が僕を呼び止める。

 

「なに? 今これ運ばないといけないのに」

「ほんの少しだけでいいからお願い」

 

ISの訓練をしているときと同じ真面目な表情をしていて、雑談をしたいという訳ではないのが分かる。

 

「わかった、手短にね」

「ありがとう、実は十三番テーブルの様子がおかしいの」

「おかしい?」

「外は凄く暑かったのにスーツの上着すら脱いでないの。あと、注文したコーヒーとかあまり手をつけていない」

「それで?」

「ちらちらと周りを見たり、腕時計を確認したりしてて、カバンもサラリーマンが使うようなカバンじゃなくて中身を守るようなゴツいカバンでそれを足元に置いて隠してる」

「弾と蘭には伝える?」

「下手に情報を流せば相手を余計に刺激するから言わないで」

「わかった」

 

コクリと頷いて、警戒しながら十三番テーブルの人達の様子を探る。

 

「お待たせしました。紅茶のおかわりをお持ちしま──」

 

パァン!

 

「ッ! ふせて!」

「きゃあ!」

 

注文を受けていた二人の女性の首根っこを掴んで無理矢理テーブルのしたに隠れさせる。

突然の爆発音──僕と鈴は聞き慣れた発砲音が店内に響いた。

 

「お前ら、動くんじゃねぇ!」

「こいつは何か分かるよな?」

 

スーツを着ていた男性達は上着を脱いでハンドガンを持ち、腋にはホルスターを装着して、他の男性の手にはショットガンやサブマシンガンを持っている。

カバンは開かれているので恐らくカバンの中身が銃火器のようだろう。

 

「な、なにが起きてるの?」

「あれって本物?」

 

聞き慣れていない発砲音に僕の近くにいる女性は肩を震わせている。

警戒していたのが幸いなのか、それともこんな事が起きて欲しくなかったのかと思い、犯罪者達を観察をする。

 

(相手は三人で武装はハンドガンとショットガンとサブマシンガン……)

 

ハンドガンとサブマシンガンとの弾は共有で9ミリパラベラム弾でショットガンは日本でも購入可能な12番ゲージ弾だろう。

 

(弾数はハンドガンが大体が15で多くても20発。サブマシンガンは形状からしてUZI系に見えるから30発。ショットガンは二連装式だから2発……)

 

予備マガジンがあるのは確定としてどうやって銃火器を購入したのか疑問に感じた。

 

「ははっ、女尊男卑とはいえコイツの前だと女は何も出来ないな」

 

ショットガンを天井に向けて撃ち、火薬の炸裂音を聞いた人達は悲鳴をあげて怯え始める。

 

(今の発砲音……やっぱり!)

 

一瞬だがこの一幕で疑問から確信に変わった。

これなら勝算がある、はやく鈴と合流しよう。

 

「今は犯人の言うことに従ってください。僕達で何とかしますので」

「でも、鉄砲持ってるんですよ」

「そうですよ、当たったら死んじゃいます」

「お嬢様、赤い彗星が言った言葉にはこんな台詞があります」

 

安心させるように優しく、そして大丈夫だと伝えるように──

 

「当たらなければどうという事はない」

 

と言って鈴と合流するためにその場から離れる。

 

 

 

 

(あんな風に言ってけど実際は分の悪い賭けなんだよね)

 

あくまで状況の把握と確率論を述べただけで本当に合っているかわからない。

 

(でも大丈夫、ショットガンを撃ったときに確信した。それなら問題は……)

 

どうしてあんな事をしたのか。

女尊男卑の世界になってから男性の肩身が狭くなり、怒りや不満を溜め込んでもおかしくない。

しかし、ここまで大胆にやるのはとてもではないが出来ない。

とある物理学者が言っていた。

物事には必ず理由がある(・・・・・・・・・・・)……と。

 

(もしかしたら裏があるかもしれない。終わったら刀奈さんに連絡しよう)

 

キョロキョロと鈴を探しているとカウンターの端から鈴が顔を出して目が合うと首を動かし、こっちに来いと伝えてきた。

 

「悠人、大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。弾と蘭は?」

「スタッフルーム。縛るものがないか探してる」

 

カウンターの裏側に合流して相手の人数と武装、状況を伝える。

 

「サブマシンガンを乱射されたらかなりヤバイけど一番危険なのは──」

「「ショットガン」」

 

口を揃えて同じ考えだった。

銃火器が出ているゲームをしている人なら分かるがショットガンは和名で散弾銃。

ひとつの実包(ショットシェル)に小さな弾丸がたくさん込められていて発砲すると扇状に拡散する。

扇状に拡散するということは近くにいれば多くの弾丸を受けるので相手が近いほど高い殺傷能力を持つ。

特に室内は至近距離による射撃が確実なのでショットガンが活躍できる場面でベトナム戦争でもゲリラ対策に瞬発的火力が必要でショットガンを携帯する兵士もいた。

 

「日本でも連装式ショットガンは購入出来るけどハンドガンとサブマシンガンは海外じゃないと不可能よ」

 

実銃の所持は基本的に警察、自衛隊しか持つことを許されていないが先ほど鈴が言ったように複数の銃身(バレル)がある連装式か装填数を抑えて改造したポンプアクション、セミオートショットガンは購入出来る。

仮に海外から銃火器を購入しても銃規制が厳しい日本では簡単に見つかってしまう。

 

「犯人を倒す対策ってある?」

「あるにはあるけど命に関わると思ったらISを使うことになるけどリスクが大きすぎるわね」

 

ISは使用許可が出ている場所以外で一部でも使うと違反である。

それに鈴は中国の代表候補生で最悪の場合、ISを剥奪されて降ろされるかもしれない。

 

「ずっと気になったけどあれって本物なの?」

「なに言ってるの? 見た目からして本物でしょう? 撃ったら発砲音と薬莢が出てたわ」

「確かに薬莢が出てたね。でも、それだとおかしいんだ」

「なんでおかしいのよ」

「銃って撃ったらどうなる?」

「もちろん弾が……まさか」

 

どうやら鈴もわかったようだ。

 

「仮にそうだとしたら辻褄が合うわ。本当にそうなら──」

「僕達だけでも対処出来る」

 

敵は複数いるが鈴は代表候補生で対人格闘術に精通している。

鈴程の実力はないがシュヴァルツェ・ハーゼ隊や刀奈さんに対人格闘技を習っていたので一人程度なら制圧できる。

 

「だけどあくまで可能性で本物かもしれないから信憑性は」

「信じるに決まってるじゃない。あんたは一夏と違って理論的に考えるからね。それに」

 

頬を吊り上げてニヤリと笑い。

 

「彼氏の言葉を信じないと彼女なんて名乗れないわ」

 

自信満々に言い切った。

 

「じゃあ、いくよ!」

 

合図と共にカウンターから出る。

僕はサブマシンガンを持った犯人、鈴はハンドガンとショットガンを持った犯人に近付く。

 

「おい、お前!これが──」

 

サブマシンガンを構えるが姿勢を低くして手薄な下半身に足払いをすると床に倒れた。

そして追い打ちに肘に全体重を乗せた鳩尾を叩き込むと痛みに堪えきれずそのまま気絶する。

 

「このガキがっ!」

 

ショットガンの銃床で殴りかかろうとしたが代表候補生である鈴には全く効かなく、掌底のカウンターを食らうとテーブルを吹き飛ばして白目を剥いて倒れた。

 

「なんだよ……お前ら」

 

残りはハンドガンを持った犯人で僕と鈴の姿に後退りしている。

 

「なんで……こんなガキなんかに」

「先ほど言いましたが」

「当店では他のご主人様にご迷惑をおかけする行為はお控えくださいと」

「「言ったはずです! (よ!)」」

 

腹部と顔面を殴り、最後の犯人を無力化させた。

 

 

 

 

「やっぱり……見てよ、これ」

「これってモデルガン?」

 

ハンドガンを分解すると銃身の内部には鉄の板が入っていた。

弾薬も取り外しが出来て火薬キャップが埋め込まれている。

 

「このサブマシンガンは実銃よりも軽いからエアーガンだ」

「それなら持っていてもおかしくないわ。弾薬も偽物だからこれもモデルガンなのね。でも、どうして本物じゃないってわかったの?」

「うえを見て」

 

天井に指をさすと鈴が見上げた。

 

「何もないけど?」

「そう、何もない(・・・・)。それが決定的な証拠。さっき、犯人がショットガンを天井を狙って撃ったけど、もし本物なら」

「銃痕が残る……!」

 

これはどの銃にも共通して言えることで本物ならば弾が発射されて何処かに銃痕が残っている。

冷静になって犯人達の行動を確認するとハンドガンを持った人は最初の一発以外は何もしていなく、サブマシンガンを持った人は一発も撃っていない。

 

「あとは警察に任せて、ずらかろう」

「えぇ、長いは無用ね」

「ね、ねぇ……」

 

ぐるぐる巻きに縛られた犯人達を放置してスタッフルームに行こうとしたら店長さんが僕達に声をかけた。

 

「貴方達は一体……」

「すいません、事情があって教えることは出来ません」

「でも、強いていうなら──」

「「世界最強(ブリュンヒルデ)の知り合いですよ」」

 

スタッフルームに行き、私服に着替えて@クルーズをあとにした。

 

 

 

強盗事件を解決してその場から去るように僕の家に避難した。

 

「うぉ~疲れた~」

「あんな事が起こるなんて……」

 

非日常的な体験で弾と蘭は心身共に疲れ果てていた。

 

「悠人さんと鈴さんは疲れた様子がないのですがIS学園ではあのような事もやるのですか?」

「本格的な事じゃないけどね。代表や候補生の人は軍隊と同じような訓練もやっている」

「アタシの場合は中国で訓練してて今回、起きた強盗が始めての実戦」

 

強盗事件に巻き込まれたがドイツで対処法を学んでおいて良かった。

銃乱射事件が起きて観光が出来なかったが軍隊と同じような訓練に参加して、銃火器の射撃訓練に参加したり、武装した相手を生身で制圧する訓練もした。

今回のようなISが使えないときの対処しないといけない時もあるからもっと強くならないと。

 

「あの……鈴さんは」

「なに?」

「悠人さんが鈴さん以外に人とお付き合いしているのに不満とかないのですか?」

「おい、ちょっと待て。悠人と鈴が付き合っているのはまだ良いが鈴以外ってどういう意味だ?」

「アタシ以外に他の女の子も付き合っているのよ」

 

バックから写真を取り出して弾と蘭に見せる。

 

「金髪の子がシャルロット、銀髪がラウラ、水色の髪をした姉妹が簪と楯無さん」

「マジかよ……むちゃくちゃ可愛いじゃねぇか」

 

五人の女の子に抱かれている写真を見ている弾の目は血の涙が出そうなほどだった。

 

「私、応援してました。悠人さんとの恋が叶うように願ってました……それなのにどうして」

「いろいろあるのよ……いろいろとね」

 

事情を知らない蘭は鈴の応援をしていた。

僕と鈴が付き合うことに祝福してくれたが他の人も合意で付き合うのに納得していない。

これは事情を知らない人達も蘭と同じ気持ちだろう

 

「シャルロットは会社が経済危機になっているから経済回復ため、ラウラは国のため、簪と楯無さんは日本を脅かす組織から守るためにIS学園にいるの」

 

IS学園にいる人はほとんどが国や企業の利益のために通っていて、鈴のように家族を養うためにISを操縦している人は滅多にいない。

 

「アタシとラウラはいくらでも代わりがいるから辞めようと思えば辞められるけど簪と楯無さんは日本を守る義務があって特にシャルロットはデュノア社の運命を背負っているの」

「デュノア社ってフランスにあります大きな会社ですよね?」

「そう、代表候補生から降ろされたらデュノア社は終わり。だからシャルロットはかなり重大な仕事を任されていて、自分の会社が生き残るのはシャルロットの存亡がかかっているの」

 

僕と会うまでシャルロットはそんな事を考える余裕もなかったはずだ。

アルベールさんは冷たい態度で親のような優しさはなく、ロゼンタさんに叩かれて周りは大人しかいないから頼れる人がいない。

普通なら荒れていてもおかしくないのにそんな態度は一度もしなかった。

 

「普通こういうのは大人がやるものよ。それなのにアタシ達みたいな子供が専用機持って国や企業のために働いて……周りのプレッシャーやストレスがどれだけあるか蘭も分かるでしょ?」

 

まだ未成年なのに鈴達は国家機密に関わる代物を持っている。

それを持つ責任やプレッシャーはかなりのものだろう。

 

「貶すような言い方をするけど一夏に比べたら悠人は見劣りするけどアタシからすれば逆に都合が良かった。悠人を狙う人がいないから独り占め出来て、そのまま付き合ってゴールイン──って訳にはいかなかったわ。みんな、悠人のことが好きになって」

「ごめん……僕が他の人の告白を断って鈴だけ付き合えば」

「いいのよ、あんたは優しいから。迷ったわよね……誰を選んでも悲しむ人がいて、自分だけ幸せになるのは納得出来ないって」

「うん……」

「ISが出てきてから今の世の中は女尊男卑だから女は男を奴隷のように扱うけど全員がそうじゃないわ。でも、男からすれば女は偉いという立場を理解しているから下手に動くことが出来なくて近付くこともしない。でもね、アタシ達だって頼ったり甘えたりしたいのよ。好きな男と一緒に出掛けて、ご飯食べて、家に泊まって同じ布団で寝て……恋人のような事をしたい」

「それで悠人はこんな可愛い彼女達に囲まれてる毎日を過ごしていると……どんだけモテるんだよこの野郎」

 

緊迫した空気をわざと壊すように茶化してくるが弾なりのフォローだろう。

 

「蘭、あんたは納得してないと思うけどアタシは今の関係で満足してる。二人っきりの時間が少ないのに不満はあるけどそれは他の人も同じ。相手を想う気持ちがないと恋って続かないものよ? 自分の好意を押し付けるのはただの迷惑、多少の妥協点が持たないと続かないわ」

 

恋は一方通行というがそれは相手を考えていないと同じで相手を想うなら押し付けるのではなく、理解することが恋が叶う秘訣だと教えた。

 

 

 

 

実家の定食屋の手伝いをしないといけないらしく弾と蘭は帰って行った。

 

「ねぇ、悠人」

「なに?」

「アタシの髪を弄ってるけど楽しいの?」

 

部屋に戻るとベッドに座り鈴を膝に乗せて髪の毛を触っていた。

 

「昔の鈴は短かったけど今の鈴は長いなって」

「髪が長い人が好きってあんたが言ったから頑張って伸ばしたのよ」

「言ってたっけ?」

 

昔の鈴は星彩さんと同じようにショートカットにしていたがある日を境に髪を伸ばし始めた。

小学校を卒業するときには肩が隠れるほどに伸びて、今のようなったのは中国に帰るときだった。

 

「初めて会ったときは一夏を殴ってたよね」

「あ、あれはその……一夏が怖かったからつい」

 

箒が転校してから一夏はグレていて鈴が転校したとき、殴り合いになりそうだった。

あのときは本当に焦った。男の子だから女の子よりも力があるが剣道をしているから他の男子よりも強い。

 

「あのとき痛かったな~一夏と鈴のダブルパンチ」

「やめてってあれは本当に悪いと思ってるから」

 

喧嘩を止めようと間に入ったら一夏と鈴の拳が僕の頬に命中してしまう。

お互い、僕に謝ってその日から仲良くなって鈴に日本語を教えたり、ガンダムを見たりして一緒に過ごした。

 

「なんか懐かしいわよね。数ヶ月前は馬鹿みたいに騒いで過ごしていたのに今のアタシ達は国のために働いているからそんな余裕がないし」

「鈴は国のため、僕は世界中に狙われているから強くならないと」

「それで? いつまで触ってるの?」

「触られるのは嫌なの?」

「別にそういう意味じゃなくて……せっかく二人っきりだから、その……」

 

ゴニョゴニョと小さな声でなにか言ってる。

朝から様子がおかしいけど本当に大丈夫なのかな。

 

「あ~もう! 言えば良いんでしょ言えば! あんたとエッチしたいのよ!」

 

痺れを切らして逆ギレしながら自爆した。

 

「どうせあんたのことだからみんなとヤったんでしょ?アタシだって……シたいわよ」

「わかった、リボン取るよ?」

 

髪を弄るのを止めてリボンを外してストレート髪にさせる。

 

「んっ……」

 

軽く触れるようなキスをすると、もっとして欲しいのか自分から唇を押し付けてくる。

 

「ゆうとぉ……もっとぉ……」

 

三週間も会えなかった反動なのか積極的にキスをしてくる。

何度もしているとこっちも持たない。

 

「鈴、僕は……もうっ!」

「あ、待って……アタシは逃げないから、ちょっとそんなとこ触っちゃ……やんっ!」

 

誰もいない部屋で僕は幼馴染の身体を貪欲に求めた。

 

 

 

 

性欲を発散したあと晩御飯を摂り、汗を流して部屋で再戦していたら朝日が昇っていた。

 

「ちょっとやり過ぎたかな」

「悠人……絶倫過ぎ……」

 

お互い服は一切着ていなく、鈴は腰を抜かしてしまい動ける様子じゃない。

 

「あんた……毎日シてたわよね? 他の人は身体は持ったの?」

「シャルロットは積極的でラウラは部隊の人達も含めてヤって、簪と刀奈さんとは三人でシてたから」

「部隊の人と? あんた、ラウラの部下とヤったの?」

「あ、あれはあっちから言い寄られて。その……全員と……」

「あんたねぇ……」

 

だって仕方ないじゃないか。

シュヴァルツェア・ハーゼ隊の人達は軍隊の知識しかなくて他の事も体験させようと和食とか日本の番組鑑賞とかしていたが僕とラウラがヤっていたのを見ていたらしい。

シャワールームで汗を流しているとき部隊の人がやって来てお礼がしたいと言って折れてしまい、けっきょくシてしまった。

 

「懐かれているんじゃない? 頼りになるお兄さん的な感じの」

「それは否定出来ない……」

 

彼女達の目は好奇心で見ているのではなく、僕のことを年上のお兄さんみたいな目で見ている。

ラウラが見ていないときにボディタッチが多く、身体を押し付けたりもした。

 

「IS学園に来てからモテてない?」

「う~ん、なんでだろう。なにか惹き付けるような要素は全くないのに」

 

腕を組んで唸ってみるが僕はゲームやアニメ、プラモ作りが好きな普通の高校生だ。

趣味が同じ友達としてなら分かるがモテる要素がない。

 

「ISが使える事を除けば悠人は普通の人なのは否定しないわ、でも……」

 

首に手を回して密着して身体を重ねる。

 

「それでも悠人が好きなのよ。こうして抱き付くと暖かくて安心する。暑いのは嫌だけど夏の日でもこうしたいわ」

 

胸元に頭を置いて僕の鼓動を聞いている。

自然と頭に手を乗せて撫でていた。

 

「悠人に撫でられるの好き……もっとして……」

 

スリスリと頬ずりする寂しがり屋の幼馴染をあやすようにしばらく撫で続ける。




鈴の両親を登場させました
これも独自解釈で喧嘩別れをして鈴と星彩は中国に帰国し、劉禅は帰らず日本に残りバイトをして細々と生活してました
どちらも後悔していたが鈴が悠人と結婚して幸せになればそれで満足なのは同じです
名前の由来は三國志を参考にしました。興味がある人は調べてみてください

銀行強盗してあんな堂々と喫茶店に入るのはさすがに無理があると思いまして、規模を小さくしました

これでヒロインズの保護者が揃いました
キャノンボールファウストは未定ですが学園祭は全員、登場させます

次回は蛇足回なので5000文字以下になると思いましす

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