インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
飛行機の中でゲームをしたり仮眠して時間を潰しているとドイツに着いた。
「時間通りに来たな」
ゲートをくぐると軍服を身に纏ったラウラが迎えてくれた。
「ようこそ我がドイツへ。早速で悪いが外で車を用意しているので話は車内で聞く。クラリッサ、彼の荷物を運べ」
「はい、隊長」
ラウラと同じ軍服を身に纏って眼帯を着けたの20代の女性に旅行カートを渡した。
外に出ると車が用意されていたが周りに重装備をした警官が大勢いた。
「あぁ、あれは警備しているだけだから気にすることない」
特に目にする事なく車に乗り、僕も乗り込むと車は動き出す。
「久しぶりだな嫁よ」
「1週間ぶりだねラウラ。ドイツに帰国したあと何をしてたの?」
「溜まっていた書類の整理さ。IS学園の生徒だが私は軍の幹部だ。上官は現場で指揮をとったりもするが大半が書類に追われる身だ」
戦争映画を見てると将軍の人は基地で作戦を考えたり、山のように積まれた書類に囲まれたりしてた。ラウラもそんな立場の人間なんだ。
「フランスではどう過ごした?」
「観光地に行ったりシャルロットの家族に和食とか振る舞ったよ」
「ほう、和食か。そうだ、紹介するのを忘れていた。彼女はクラリッサ・ハルフォーフ。私の副官だ」
「初めてまして、クラリッサ・ハルフォーフと申します。階級は大尉です」
「山田悠人と言います。日本語がお上手ですねハルフォーフさん」
「私のことはクラリッサと呼び捨てで構いません。隊長がIS学園来る前に私が部隊に日本語を教えておりまして」
なるほど、クラリッサさんが教えていたんだ。それなら日本語をスラスラ言えても当然か。
「お聞きしますが山田殿は隊長を含めたハーレムを形成していると」
「えっと……まあ、そうですけど。あの、それはですね」
「隊長自身も満足している関係と聞いています。隊長がそれで良いのであれば私から言うことはありません」
「そう言ってくれるなら僕として有難いですが」
軍の基地に設置してある検問所に身分証を見せて基地に入っていく。
「ここが宿泊する場所だ。ホテルを取ると嫁を狙う輩が襲いかかってくる可能性があるから我が部隊の兵舎に泊まることとなった」
ラウラの部隊であるシュヴァルツェ・ハーゼ隊はドイツが保持しているISコアの10個のうち3個を所持していてドイツの中で一番多くのコア保有している部隊である。
一つは部隊の訓練用として使われてもう二つはラウラとクラリッサさんの専用機として使われているらしい。
女尊男卑の影響もあるのかひとつの兵舎を丸々ラウラの部隊が使っている。
「足元にご注意ください山田殿」
「その……山田殿なんて大層な呼び方をしなくても」
「山田殿は我がシュヴァルツェ・ハーゼ隊を救って下さった救世主です」
「皆さんを教えたのは千冬さんだと思いますが?」
「織斑教官も山田殿のご両親に救われたと仰っております。山田殿のおかげで私達は織斑教官という素晴らしい人にお会い出来ました」
車から降りて僕が泊まる兵舎に入ると──
「「「「「お帰りなさいませご主人様!」」」」」
メイド服を着たラウラと同い年の女子が一列になって頭を下げていた。
彼女達もラウラやクラリッサさんと同じ眼帯を着けている
「これ……なに?」
ラウラと同い年の女が軍隊にいるのは置いといてなんでメイド服を着ているんだ?
「日本では目上の人をお迎えするときはメイド服を着てお迎えすると聞きました」
1人の女子が日本語でそう言って……おいちょっと待て。誰だそんなこと教えたやつ。
「クラリッサさん」
「なんでしょうか」
「ラウラに日本語を教えたのは」
「私です」
「ラウラの部隊に日本語を教えたのは」
「私です」
「最後にメイド服を着るよう命令したのは」
「私です」
お前が犯人か!
好きな人を嫁と呼んだり部屋に侵入して寝る事を教えたのは全部この人のせいか!
「ラウラ……僕が泊まる部屋に案内して。クラリッサさん、軍服に着替えてもらってノートと筆記用具を持ってきて貰うよう言ってください」
「わかった、部屋は私が案内する。クラリッサ」
ドイツ語で指揮をすると部隊の人は敬礼をして早足で移動した。
「クラリッサさん、何処から全員が座ってノートを開ける場所はありますか?」
「兵舎の食堂があります。そこに集まるように言っておきます」
「お願いします。ラウラ」
「こっちだ」
ラウラについて行き、僕が泊まる部屋に案内される。
◇
荷物を部屋に置いて必要な物を持って食堂に行くと部隊の人が全員、集まっていた。
「今から日本について色々教えようと思いますが日本語がまだ上手く聞き取れない人は?」
ラウラが通訳すると手を上げた人が数人程いた。
「オーケー、日本語がまだな人はラウラがドイツ語で通訳するからちゃんと聞くように」
ラウラがホワイトボードに日本についてとドイツ語で書いた。
「まず、みんながやったメイド服だが日本ではそんな事は絶対にやらない」
「えぇぇぇ! クラリッサ副隊長は日本について勉強していたんですよ!」
「それにボーデヴィッヒ隊長に好きな人が出来たときは赤い米を炊いて祝ったりしたんです!」
「嫁よ、赤い米とはなんだ」
「僕の予想だと赤飯だと思う」
「赤飯……なるほどあれのことか」
「赤い米を食べたことがあるのですか隊長!」
「もち米に小豆という豆を入れて作っているらしい。甘くて美味しかった」
「さすが日本! 血のように真っ赤な米を食べるその勇姿!」
「そこに痺れます!」
「憧れます!」
聞いたことあるセリフに見えるがこれはいうまでもないよね。
「ジョジョの奇妙な冒険、置いてあるよね」
「はい、娯楽室に最新刊まで置いてあります」
「クラリッサ副隊長の日本知識はぁぁぁぁ!」
「「「「「世界一ぃぃぃぃ!!!」」」」」
もうやだ、こんなおバカ部隊。
僕が想像するに軍隊はこんなおちゃらけた感じじゃない筈。
プライベートは多少、気を抜いてふざけるかもしれないけどここまでおふざけ全開はあり得ない。
女尊男卑でおかしくなったのか?
僕には向いていないけどここは心を鬼にしよう。
バンッ!
「ひっ……」
「おふざけはそこまでだ」
テーブルを強く叩いて少しだけ声を低くして睨むような目をする。
「クラリッサさんが教えた知識は全部とは言わないが間違っている。僕が滞在する期間中は日本の知識が徹底的に叩き込むから覚悟しろ」
こういうのはあまり好きじゃないけどここは軍隊だから多分、こんな感じで教えたほうが良いんだよね。
◇
IS配備特殊部隊とはいえ軍隊に所属しているということでシュヴァルツェ・ハーゼ隊も他の軍隊と同じような訓練もしている。
「うわっ!」
「足元がら空きですよ!」
相手の足払いを食らって地面に叩き付けられる。
体勢を整えようとしたが拳が顔に突き付けられた。
「まいった……」
大きく息を吐いて地面に倒れたまま降参した。
刀奈さんから護身程度に合気道を習っていたが実戦慣れをしている人と手合わせして強くなるのも大事かと思い、僕も格闘訓練に参加している。
「やるじゃんネーナ」
「へへん、まあね」
シュヴァルツェ・ハーゼ隊と手合わせをしているが戦歴は全敗である。
「悠人殿、約束はちゃんと守ってくださいよね?」
「……わかった」
大の字で倒れたままの僕を見下ろすようにニヤついている。
◇
「これでいいの?」
「はい、あの……重くはないですか?」
「ぜんぜん重くないよ?」
「これが日本にある伝説のお姫様抱っこ……」
なぜ、お姫様抱っこをしているのかというと日本について教えたあとそのまま食堂でラウラ達が作ったドイツ料理を食べて部屋に戻ろうとしたら部隊の人達が我先に日本にあることをして欲しいと言ってきた。
して欲しいことは様々あったが代表としてお姫様抱っこである。
日本ではそんな事はしないと言ったが女の子にとって憧れらしく勝負に勝ったらやっても良いと言ったのが運の尽きということである。
「少し歩いてくれます?」
「ゆっくり歩くけど落ちないでね」
落ちないようにゆっくりと歩いていく。
「わっ、わっ……宙に浮いているけどISと違う。なんて言えばいいのでしょう……楽しいような感じがします」
お姫様抱っこをされて楽しいって……女の子はよく分からない。
「イヨ、そろそろ悠人殿から離れなさい。他の人がつっかえてるから」
「ということだから降ろすよ」
膝を曲げてイヨさんの足を地面に着けた。
「勝ったらまたお姫様抱っこをしてもらいますから!」
満足そうにして僕から離れた。
ちなみに名前で呼んでも良いと言ったら悠人殿と呼んでいて殿を付けなくても普通に呼び捨てで大丈夫と言ったら──
『呼び捨てで呼ぶなんてとんでも御座いません! 我が部隊以外にボーデヴィッヒ隊長を救ってくださったのです! 我々にとって山田殿は敬服される立場なのです!』
……と言って中々聞いてくれず悠人殿と呼ぶことで決着がついた。
普通に呼び捨てでいいのに……。
「次はネーナさん」
「はい! 私には壁ドンというものをやってもらいたいです」
「じゃあ、端っこに移動しようか」
「了解です!」
端まで移動して壁に背を向けたネーナさん。その周りに他の隊員(女子だけ)が見ている。
「壁ドンやりますよ」
「見るときは見下ろすようにお願いします。それと壁ドンしたとき何か言ってくれれば……」
「わかった」
バンッ!
壁ドンをして顎を引き、ネーナさんを見ながら追加で言葉攻めする。
「僕からはもう逃げられないよ」
うわぁ……ナルシストみたいじゃないか僕。これは引かれ──
「悠人殿にされて羨ましい……」
「いいなぁ……私も壁ドンにしてもらおうかな」
……引かれてはいないようです。
「はい……」
ネーナさん……なんか頬が赤くなってるような。
「ネーナ、もう終わりだよ。次は私の番」
「うん……」
ふらふらとおぼつかない足で身体を揺らして離れた。
「ファルケさんはどういったことをして欲しいですか?」
「な、何でも良いんですよね?」
「僕が出来ることなら」
「じゃあ……後ろから抱き締めてください」
ファルケさんの背後に回って抱き締めた。
「暖かいです悠人殿……」
女の子って良い匂いするんだよな。なんで良い匂いするんだろう?
「ちょっとファルケ、もう終わりだよ。はやく交代しなさい」
「ずっとこうしていたいのですが暫しの辛抱です。勝ったら他の事をしてもらいますよ」
腕から解放してファルケさんが離れた。
「おんぶ、おんぶしてください悠人殿!」
「はいはいわかりましたよ、マチルダさん」
腰を低くしてマチルダさんが背中に乗ると腰を上げて落ちないように手に太ももを乗せる。
「悠人殿の背中は広いですね」
「僕、身長低いよ?」
「そうは思いません。優しさが伝わります。ボーデヴィッヒ隊長も悠人殿の優しさに触れて私達に歩み寄ったのですね……」
「ラウラが?」
「織斑教官に御指南して貰ったあと隊長は強くなる事に固執して周りから疎開されてました。7月に入った時期に悠人殿に好意を抱いているとお聞きして私達のアドバイスを必死に聞いてまして」
ラウラ、部隊の人と仲良くなろうと自分から話しかけたんだ。
彼氏として嬉しく思う。
「隊長とのわだかまりが消えて本当の意味で一つの部隊として成り立ったのは悠人殿のおかげです」
「マチルダーはやく降りなさーい」
「話し込んでしまいましたね。ありがとうございます」
膝を曲げてマチルダさんが背中から降りてくれた。
「次は──」
「随分、面白いことをしているな」
背後から冷水を浴びたような感覚が襲う。
ギギギ……と首を回すとタンクトップとカーゴパンツに着替えて髪を結んだラウラがいた。
「ラウラ、サンカ、スルノ?」
「朝からずっと書類を片付けていて肩をほぐすには運動が一番だと思ってな。手合わせしてもらおう」
「いえっさー」
試合開始の合図と共に一瞬で意識が刈り取られた。
◇
ラウラにシバかれて気絶しても叩かれたり蹴られたりして起こされてまたシバかれるのを繰り返した。
てか、なんで逆エビ固めとかロメロスペシャルとか知ってるんだよ。プロレスにハマったのか?
訓練(というなのフルボッコ)を終えると部屋に来いと言われてボロ雑巾にされた身体を引き摺ってラウラの部屋にむかっていた。
「ラウラ、来たよ」
扉をノックして部屋の中から入れと言われて扉を開けると複数の人が使うのか部屋の中は広かった。
「定刻通りに来たな。そこは評価しよう」
ラウラは仁王立ちしていて駅前のショッピングモールで購入したワンピースを着ている。
その視線は初めて会ったときと同じような鋭さをしている。
「こっちに座れ」
ベッドに指さして座るとラウラが膝の上に座った。
「私がデスクワークをしている間、部下とイチャついてるとは良いご身分だな?」
「仰る通りでございます少佐殿」
負けたとはいえイチャついていたのは間違ってない。
「お前は私の嫁なんだ。その自覚はしているのか?」
「ラウラの彼女なのは一応自覚はしてる」
「なら、あんな事はするな」
ぷくーと頬を膨らまして拗ねていた。これは僕の責任だよね。
「どうすれば許してくれる?」
「私を抱け」
ラウラの身体は小さいから腕の中にすっぽりと入り、包まれてしまう。
「お前は勘違いをしているのか? それとも……焦らしているのか?」
お互いの身体を抱き合うよう密着すると首筋に吸い付き、両肩の紐を緩めてするりと半脱ぎ状態になった。
「部下の色目に誘惑されないように私が徹底的に管理しないといけないな」
ベッドに押し倒されてラウラが教える誘惑防止の訓練が始まった。
◇
「うわぁ……隊長があんな淫らになって悠人殿の……」
「ボーデヴィッヒ隊長……すごく嬉しそうな顔してる」
ラウラの部屋に入る悠人の姿を見たイヨ、ネーナ、ファルケ、マチルダの4人。
どんな話をしているか興味本位で扉に耳を当ててたら喘ぎ声が聞こえて、音を立てないように開けると悠人とラウラが裸になって抱き合い、腰を動かしていた。
「あ、あれって……日本の薄い本をやってるんだよね」
「うん……日本だと官能本って言うらしいよ」
軍人とはいえ彼女達は思春期の女の子。悠人とラウラの性行為に目が離せなかった。
「ね、ねぇ……悠人殿は明日も訓練に参加するのよね?」
「本当ならドイツ観光の予定だったけど8月に入ってから銃の乱射事件が起きたから中止しちゃったらしい」
悠人がドイツに来るのを知っていたのか定かではないが空港内で銃の乱射事件が起きて、警察の特殊部隊が出動するが死亡者が少なからず出てしまった。
「ドイツ観光が出来ない分、私達で悠人殿を楽しませましょう」
「そうだね」
悠人とラウラがしていたのをこっそり見た
◇
「あ~くそっ、一回も勝てずに終わった」
「数ヶ月前までただの一般人だから勝てないのは無理ない」
今日も手合わせをしたが連敗を重ねている。
シュヴァルツェ・ハーゼの人達は特殊部隊の人だから実力はあるが女の子に負けるのは男として情けないので一度くらい勝ちたいと思う。
ラウラとも手合わせをしたが頑張って粘っても5分で倒されてしまう。
「アドバイスをするなら動きがまだぎこちない。楯無さんから武術を習っていると聞いたが技を使うタイミングを掴めてないな」
技の発動タイミング……確かに攻撃しようとしたとき速かったり遅かったりして防がれて反撃されたりした。
「多くの技を覚える事は良いがどれが有効なのかわからず結局負ける。それが嫁の敗因だと私は考える」
なるほど……だから一回も勝てずに連敗を重ねてのか。
「明日から使う技を絞ってやってみろ。何度がやればタイミングが自ずと見えるだろう」
「そうしてみるよ。ありがとうラウラ」
「ふっ、当然のことさ。私の背中を守れるほど強くならないと困る」
さーて、格闘訓練してベトベトになったから汗を流そう。
◇
「あぁぁぁぁ……」
シャワーノズルから温かいお湯が流れてベトベトの汗を流してくれる。
「ラウラもそうだけどあの歳で軍隊の人と同じ事をしてるのはすごいよね」
シュヴァルツェ・ハーゼ隊はクラリッサさんを除いて全員が十代の女性。
ISが登場する以前に銃火器をはじめ、戦車や戦闘機といった兵器の操縦が出来るので車の運転も出来る。
「戦場で戦うために生まれた存在……か」
ラウラが編入して間もない頃に相談に乗ったとき、彼女が言った言葉を小さく呟いた。
僕はISを動かしたから自分の行きたい道を閉ざされたが中学生までは自分のしたい事を自由に出来た。
だけどラウラ……シュヴァルツェ・ハーゼ隊は最初から祖国のために戦う道しか残されていない。
「そんなのおかしい……」
あぁ、そうだ。おかしいに決まってる。
祖国を守るために軍に入隊をすることは間違ってない、むしろ尊敬する。
誰しも死にたくもないし、戦争にだって行きたくない。いつ死ぬか分からない場所でただ耐えるなんて僕には無理だ。
でも、ラウラ達は死ぬかもしれない戦争にしか行く道しかない。
それが自分達を産んだ国のためでも。
「僕に出来ることはあるのかな……」
今まで普通に生きていた僕に出来ることはなんだろう……。
「悠人殿、お背中を流しに来ました」
「へ?」
声がしたので振り向いたらシュヴァルツェ・ハーゼ隊の人達がいた。しかしその姿は──
「な、なななな、なんで来たんですか! それにその格好は」
彼女達の格好はタオル一枚だった。大事な部分をタオルで隠す。
「日本だと身体を洗うときは背中を流すと言いまして、するときの格好は裸になってタオルを巻くと調べました」
は、はだっ……裸!?
「や、やらなくても良いからはやく出ていって。ぼ、僕はひとりで入るのがす、好きで……」
「私達は悠人殿にお礼がしたいのです」
「誰かに身体を洗われるた精神的に落ち着くとお聞きしました」
シャルロットにして貰ったときは落ち着きはしなかったが嫌な気分にはならなかった。
「本来なら基地に籠らず、観光地に足を運んでいたのですが私達の不手際のせいで観光旅行が台無しになってしまって……」
「観光が出来なかった分、私達、シュヴァルツェ・ハーゼ隊で悠人殿の奉仕をしようと」
彼女達は自分が行きたい道を行くことが出来ない。
出来る出来ないではなく
なら、少しだけ戦場とは違う体験をさせても良いだろう。
「じゃあ……お願い──」
「お前達! 何をしている!」
脱衣室からラウラが出て来た。
「た、隊長。私達はその」
「誤魔化したりしないことだ。嫁が入っていると貼り紙をしておいたはずだ。」
一睨みして黙らせると僕に頭を下げた。
「不出来な部下達ですまない。同い年の男性が来ることがなくて、はしゃぐの気持ちは理解していたがまさか迷惑をかけているとは思わなかった。本当にすまない」
「少し驚いただけだから大丈夫だよ」
「処罰は私がしておく。お前達、はやく」
「待ってラウラ」
シャワールームに出ようとしたラウラの腕を掴んだ。
「みんなは悪気がなくて純粋に普通に背中を流そうとしてただけなんだよ」
「背中をだと?」
「ドイツで事件があったから観光が中止になったんでしょう?」
「昨日、私が説明したな。ドイツの観光地は私が案内しようとしたが中止になってしまい、お詫びの言葉も考えてみたがなにひとつ思い浮かばなかった」
「みんなもその事で悔やんで僕を楽しませようとしてたんだ」
観光が中止になったのは事件を起こした犯人で彼女達はなにひとつ悪くない。
それなのに自分の罪だと意識していて僕に何かしようとしてくれた。
「一般人である僕が言う権利はないけど処罰はしないで欲しい」
「……わかった。処罰は不問にする」
ため息をついて処罰は無しにすると言ってくれた。
「ただし、私と共に寝ることは絶対条件だ。異論は認めん」
「それぐらいならお安いご用意だよ」
「私が満足するまで寝かせないぞ?」
「わかった。ラウラの部下の人が身体を洗ってくれるから出てくれると僕として嬉しいかな……」
「私では不満なのか?」
そんな捨てられた犬のような目で見ないで欲しい。
「ラウラだけはちょっと不公平だから……ね?」
「今日の夜は激しくするから覚悟しろ。ネーナ、私の分はちゃんと残せよ」
「了解です! ネーナ班、悠人殿の奉仕を開始します!」
「「「よろしくお願いします悠人殿!」」」
こうしてドイツ観光が出来なかったお詫びとしてシュヴァルツェ・ハーゼ隊による奉仕が始まった。
◇
シュヴァルツェ・ハーゼ隊を指揮している高官が僕と面談したいらしく、スーツに着替えてラウラについて行き、応接室に向かった。
「初めましてミスター山田。私はドイツ軍IS配備特殊部隊総括長を任せられている。ミハイル・カウフマン少将だ」
扉を開けると50代後半の男性がソファに座っていてにこやかに笑って挨拶をした。
「は、初めましてカウフマン将軍。山田悠人と言います」
深く頭をさげて挨拶するとはははっと軽く笑っていた。
「そんなに固くならなくても大丈夫だ。ちょっと話をしたいと思ってだけだ。ほら、こっちに来て座りたまえ」
手招きされて僕は来客ソファに座るがラウラは座らず僕の後ろに立っていた。
「君と話をしたかったのは他でもない。6月に起きた学年別トーナメントでは我が国が多大な迷惑をかけた。本当にすまない」
ソファから離れて軍帽を外すと頭をさげてきた。
「あ、頭を上げてください! 僕のようなただの一般人に頭をさげて謝罪なんて……」
頑なに頭をあげようとせず、謝罪の言葉を続ける。
「我が国の第3世代機体にVTシステムが搭載されていたことを見抜けずボーデヴィッヒ少佐に受理させ、あげくに彼女自身に危険を負わせてしまい、それと同時に君も巻き込まれてしまった。これは私の責任である」
「本当なら教員が救出する筈でしたのに僕は身勝手な行動をしたせいです。だからカウフマン将軍が謝罪する必要はありません。その、感謝の言葉だけで僕は十分ですので……」
「……ありがとうミスター山田。ボーデヴィッヒ少佐を救出してくれて本当に感謝する」
より深く頭をさげてお礼を言うと軍帽を被り、ソファに座る。
「今回、君を呼んだのは学年別トーナメントでの謝罪を込めて大金を君の口座に振り込む事とボーデヴィッヒ少佐を──」
「いやいやいや! お金なんてとんでもございません! さっき言いましたがラウラを助けたのは僕自身の身勝手な行動ですし」
「これは我が国だけではなく、私自身の謝罪を込めての謝礼である」
「でも……」
「将軍、発言許可をお願いします」
「よかろう」
「ありがとうございます」
直立姿勢をしたまま微動だしなかったラウラが口を開いた。
「悠人、カウフマン将軍は私がVTシステムを起動した事に責任を感じていた。私が感情に任せて力を求めたのがVTシステムを起動させたのが原因で本来なら罰則されるはずが私を庇ってくれて証拠を集めて無罪にしてくれた」
「部下を助けるのは当然の事だ。VTシステムを搭載させた者は牢屋に叩き込んだから安心してほしい」
束さんから聞いていたがどうやら本当に刑務所行きになっているらしい。
「話が脱線したな。謝礼金の事だが遠慮しないで使ってほしい。それとシュヴァルツェ・ハーゼ隊は君の護衛任務に着かせ、ボーデヴィッヒ少佐は君の身辺護衛をする事となった」
「ラウラが?」
「ミスター山田は自身がどういう立場か分かっているかね?」
「は、はい。世界中から狙われていて誘拐や拉致とか考えている国がいるとか」
そういえば僕と一夏は世界中から狙われている立場である事をすっかり忘れていた。
「我が国も含めてどの国も君やミスター織斑を自国の国籍にしようと躍起になっている。ボーデヴィッヒ少佐を君の身辺護衛をさせるのはミス織斑からの提案である」
「千冬さんからの?」
いきなり千冬さんが出て来て驚く。
「彼女は我がシュヴァルツェ・ハーゼ隊の力を借りたいと相談してきた。なぜ、シュヴァルツェ・ハーゼ隊なのかと聞いてみると君を守る組織が無いと聞いてボーデヴィッヒ少佐率いるシュヴァルツェ・ハーゼ隊に守らせて欲しいと頼んできた」
「はあ……」
「ミス織斑から直々の申し出は私やシュヴァルツェ・ハーゼ隊にとって、とても名誉ある事だ。シュヴァルツェ・ハーゼ隊やボーデヴィッヒ少佐に華を持たせるために守らせて欲しい」
そう言って頭をさげて頼んできた。
僕にとって些細な事でほんの少し手を貸しただけなのに……。
「カウフマン将軍、僕よりも一夏のほうが守る価値があります。それでも僕を選ぶんですか?」
「ミス織斑の弟君も守る価値は確かにあるが私は君を選ぶ。そしてボーデヴィッヒ少佐も君を守りたいと言った」
「私はカウフマン将軍の命令でも織斑教官の頼みでもなく、自分の意思でお前を守りたい」
「ボーデヴィッヒ少佐もこう言っている。身勝手な事だが私達は君を狙う輩を守る力になりたい」
「僕のような普通の人を守ってくれるならとても心強いです。よろしくお願いしますカウフマン将軍」
「ありがとうミスター山田。我が誇り高きドイツ軍……いや、我が国が総力をかけて君を守ることを約束しよう」
差し出された手を触れて固く握手をした。
◇
「おかわりください!」
「私も!」
食堂では僕が作った和食を振る舞っている。
軍隊の人は日本はおろか海外に行くのも難しく和食も滅多に食べれないと思って人数分の2倍程を用意していたが予想以上におかわりが多く、厨房でおかわり用を必死に作っている。
軍人だからよく食べると思ったがまさかここまで食べるとは思わなかった。
「おかわりをするとは若いな……」
おかわり用の分を用意すると何時の居たのかカウフマン将軍も和食を食べていた。
「あの、なんでここにいるんですか?」
「わざわざ高い金を払って日本に行くよりもここに来れば食べられるからの」
「将軍、日本茶をどうぞ」
「すまないな大尉」
「いえ、悠人殿もどうぞ」
「あ、ご丁寧にどうも」
わざわざ急須に淹れた日本茶を湯飲みに注いでくれた。
自分の分をトレーに置いてようやく落ち着いて食べられる。
「日本の自衛隊ではこのような食事をしているのかね?」
「僕の家族に自衛隊の人はいないのでどういった食事をしてるか分かりませんね」
僕が作った和食は一度に多く作れるコロッケと肉じゃがにした。
肉じゃがは切った野菜と肉を鍋に入れて醤油とみりんと麺つゆで味付けして煮るだけなので簡単に出来て、コロッケはジャガイモを茹でて種を作ってパン粉にまぶして揚げるだけなので大量に作れる。
米もわざわざ30kgの米袋を何個も買ってきてパン粉や調味料等をまとめたクーラーボックスもフリーダムの
武装は機体に取り付けて運用してるし、使い道ないんだよね。
「でも、オカズがあっても白飯なくては戦えませんと言っておきます」
「日本の自衛隊は白米への執着心が凄いのですね。感心しました」
「そりゃ、そうですよ。ドイツで例えるならソーセージとジャガイモのような存在です」
自衛隊でも保存に適した缶詰めにしてまで白米を食べるほどだが、かさ張るので最近はレトルトパウチに変更して食べているらしい。
「自衛隊では金曜日はカレーの日ですからその日は日本のカレーを振る舞いましょうか?」
「カリーブルストで使うカリーの粉がある。用意しておこう」
一応、カレールーも用意したけど粉も一緒でいいか。
◇
「カレーのおかわりお願いしまーす!」
「私は大盛りでかけてください!」
金曜日になったこの日はカレーを振る舞っている。てか、よく食べるなこの子達。
「今日も来ましたか」
「はははっ、日本のカレーは滅多に食べれないからの」
ご飯を持った皿にカレーをかけてカウフマン将軍のトレーに置く。
「日本のご飯は寿司が有名だけど他のご飯も美味しいよね」
「コロッケとかマッシュポテトを揚げたようで美味しかったしね」
「肉じゃがはすごい。肉と野菜を入れて味付けするだけで出来るって悠人殿が教えてくれた」
「それなら牛丼や親子丼も同じだよ。調味料を変えず食材を変えるだけでメニューが違うんだから」
シュヴァルツェ・ハーゼ隊の人達が日本の食事について談笑しながら食べている。
「日本の食事は調味料が命なのかね?」
「調味料もですけど手間を加えたり省いたりしたら変わります。例えるなら卵を割ってそのまま焼いたら目玉焼き。炒めたらスクランブルエッグ。溶いて丸めたら卵焼きといった感じですね」
「調理工程を変えるだけでメニューが変わる……不思議なものだ」
◇
ドイツでの滞在期間が過ぎ、日本行きの飛行機がやってきた。
「数日間お世話になりました」
「こちらこそ日本の正しい知識を教えてもらい感謝します」
詳しく書くことは出来なかったが日本についてまとめたのを紙に書いておいた。
「ラウラはまだドイツにいるの?」
「二学期が始まる前までには日本に行く予定だ」
次に会うのは夏休みが終わった後になるのか。
「じゃあ、行ってくるね」
「次に会うときは二週間後、場所はIS学園で会おう」
「我がシュヴァルツェ・ハーゼ隊はボーデヴィッヒ隊長と悠人殿と共に!」
「「「「「ボーデヴィッヒ隊長と悠人殿と共に!!!」」」」」
ラウラとクラリッサさん、後ろで8人2列で整列したシュヴァルツェ・ハーゼ隊に敬礼されながら日本行きの飛行機に乗った。
シュヴァルツェ・ハーゼ隊の編成は空軍一個小隊を参考にしています
ラウラとクラリッサ以外に名前が出た人は部隊の班長です
実際の人数は20人ですが班編成が4つ+ラウラ、クラリッサという18人一個小隊で編成にしています
シュヴァルツェ・ハーゼ隊の編成
隊長 ラウラ・ボーデヴィッヒ
分隊長 クラリッサ・ハルフォーフ
班長 イヨ、ネーナ、ファルケ、マチルダ
それ以外は名無しの隊員が12名