インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「ねぇ、例の転校生の噂聞いた?」
「噂?」
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだって」
代表候補生といえば一夏が戦ったセシリア・オルコットのことを指すんだよね?
「専用機持ちは1組だけだけど決勝まで当たらなければ山田君でも勝ち目はあるよ」
「そうそう、デザートフリーパスのために頑張って山田君!」
デザートフリーパスは魅力的だ。どの年齢でも食後のデザートというのは贅沢なもの。これは頑張って訓練しないと。
「その情報古いわよ」
この声……もしかしてと思い、教室の扉を見た。
「2組にも専用機持ちのクラス代表がいるから、そう簡単には優勝はできないわよ」
扉に背中を置き、片膝をついているツインテールの女子。他の女子の制服とは違って肩を露出させた制服を着ている。
「りん……鈴だよね?」
「そう、この
扉から離れると僕に向かって指をさした。
「悠人、あんたが4組の代表なんでしょ?」
「まあ……うん……」
「ふふん、ならクラス対抗戦が楽しみね」
周りの女子の視線を無視して僕に近付く。
「ほら、久々に『あれ』やるわよ」
「『あれ』って?」
「答えよドモン!」
「……ッ! 師匠!」
「流派! 東方不敗は!!」
「王者の風よ!」
「全新!」
「系烈!」
「「天破侠乱!!」」
「「見よ! 東方は赤く燃えているぅぅぅぅ!!!」」
お互い拳を放ち、最後に拳と拳を合わせるとニヤリと笑う。
「アタシが引っ越したから忘れてるかと思ってたよ」
「まさか、鈴も忘れてたんじゃないの?」
「そんなわけないじゃない」
鈴はGガンダムが好きで小さい頃からこのシーンをやるのによく付き合わさせていた。好きなキャラは東方不敗マスターアジア
「すごい……まさか流派東方不敗のあのシーンをここで見れるなんて」
「しかも代表候補生の人は中国人で山田君は日本人だから」
「まさにドモンと東方不敗ね」
僕と鈴がGガンダムの名シーンを再現したのを見てざわざわと騒ぐ。
「SHRをはじめるから席に着いて」
「やばっ! 悠人またくるからね」
エドワース先生が教室に入ると鈴は自分の教室へと戻った。
◇
午前中の授業が終わり、鈴と一緒に食堂に行く。
「まさか鈴が日本に来てたなんて、いつ代表候補生になったの?」
「去年中国に帰ってからよ。あんたもなんでISなんて動かしたのよ。ニュース見たときびっくりしたんだから」
「その原因は」
「鈴じゃないか!」
僕がなぜISを動かしたのかその根源である一夏が来た。その隣に箒と一夏と戦ったオルコットさんもいた。
「一夏じゃない」
「久しぶりだな鈴。いつこっちに帰って来たんだ?親父さんとお袋さんは元気か?」
「一度に質問しないで、テーブル席で話すから」
ラーメンを受けとると僕達はテーブル席に移動する。
「一夏、そいつとはどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、もしかしてこちらの方と付き合っていらっしゃるの!?」
この2人は噛みつくような姿勢で一夏に問い詰める。
箒はまあ、幼馴染みだから分かるけどオルコットさんはなんでなんだろう。
「まっさか~アタシ達はただの幼馴染み。それだけよ」
はははっと笑って、付き合っていることを否定する。
「そ、そうなんですか」
「幼馴染みだと?」
オルコットさんはほっとしているが箒の声が少し低くなっている。
「言うの忘れてたな。箒が引っ越したのは小4の終わりで鈴が転校したのは小5の頭。中2の終わりに国に帰ったから会うのは一年ぶりかな?で、こっちは箒。小学生からの幼馴染みで俺の通っていた道場の娘」
それぞれの関係を説明すると鈴は興味深そうに箒を見る。
「へぇ~あんたが一夏の幼馴染みね」
目を細めて口元を歪める。あ、これなにか企んでいる顔だ。
「な、なんだ」
ニタニタしている鈴の顔を見て警戒していると鈴が箒とオルコットさんに顔を近付けた。
「あんた達、一夏が気になってるでしょ?」
「なっ!」
「そ、それは!」
「いいの、いいの否定しないで。大丈夫、一夏には興味ないから。アタシはあっち」
鈴が僕のことを見ている。なに話してるんだろう?箒とオルコットさんは慌ててるし。
「一夏のやつ、かなりの唐変木だから狙うなら積極的にいかないとアイツは落ちないわ」
「そ、そうか」
「それを聞いて安心しましたわ」
「気になったヤツがかなり大変なヤツだけどアタシは応援してるわ。頑張って」
鈴が2人から離れた。結局なに話してたんだろう?
「名前まだだったわね。アタシは凰鈴音。中国代表候補生よ」
「わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」
「篠ノ之箒だ。代表候補生ではないがよろしく」
改めて自己紹介をして、女性陣のほうはなんだか仲が良さげになっていた。僕も自己紹介したほうが良いよね。
「はじめまして山田悠人です。成り行きで4組のクラス代表になってます。えっと……」
「セシリアで構いませんわ。もしかして山田先生の親族のお方ですか?」
「うん、姉ちゃんの弟。僕のことは悠人でいいよ」
「悠人さん、これからよろしくお願いしますね」
昨日とは打って変わって、穏やかな口調で話している。
戦いをするときは気持ちを切る替えるのに高圧的な態度をとってるのかな?
◇
「ふぅ……今日も疲れた」
「お疲れ様」
更識先輩との訓練を終えて更衣室のベンチに座って深く息を吐いた。
更識先輩も専用機を持っていて代表とあって実力は桁違いで代表候補生であるセシリアさんと一戦を交えたが更識先輩の圧勝で終わった。
「悠人君は専用機は欲しくないのかしら?」
「専用機ですか?」
「IS学園に入学した子はみんな専用機を欲しがるものよ?限られた数のコアを独占出来るのは国の代表と軍のエリートだけだから」
専用機と言えばガンダムだと思えば良い。
ガンダムは主人公クラスの人物しか操縦していなく、その実力は折り紙つき。
ガンプラを組んでいるとき、自分も操作してみてみたいなって思ったことはあるけど。
「欲しいのかと言われれば欲しいかもしれませんがそこまで欲しいかと言えばいらないかなと僕は思います」
「なんていうか、変わってるわね」
「男がISを操縦する事自体変わってますがね」
「これは一本取られたわね」
扇子を開くと『お見事』と書かれている。
「私は部屋に戻るけど、悠人君は?」
「もう少し休んでから戻ります」
「そう、じゃあお先に」
「はい、ありがとうございました」
頭をさげると、更識先輩は軽く手を振って更衣室を出た。
「専用機か……」
一夏とセシリアさんの戦いを見て、訓練機では動かせるのか?という動きで戦っていた。
「僕はあまり必要ないかな」
欲があまりないと言われているが僕はそう思わない。本当に欲しい人が貰えば良いと思っている。
「悠人」
更衣室の扉が開けられると鈴が入ってきて手にはタオルとスポーツドリンクを持っていた。
「お疲れ、これタオルとスポドリ」
「ありがとう鈴」
鈴はたまに気の効くことをしてくれる。
身体を動かしたときには水分補給は大切。スポーツドリンクを飲んでタオルで顔を拭いていると鈴が僕の隣に座る。
「こうして2人で話すの久しぶりね」
「そうだね。鈴もIS学園に来るなんて思わなかったから」
「それ、アタシの台詞。なんで女子の学園に男であるアンタがいるのよ」
「原因は一夏だよ。一夏がISを動かしたせいで全世界で適正検査をしてね。藍越学園の入学を控えた僕が適正があったってこと」
「あ、ごめん……アタシ、そういう事を言いたいわけじゃなくて……」
「気にしないでと言えば嘘になるかな。姉ちゃんのために就職確実の藍越学園にいこうとしたから」
もし、一夏と逆の立場だったら一夏に申し訳ない気持ちになる。一夏も千冬さんのために勉強を重ねてきたんだから。
「真耶さんもこのIS学園の先生なんだよね?」
「そうだよ。あと、千冬さんもIS学園の先生で一夏の担任だって」
「千冬さんが担任……一夏、大変そうね」
鈴は未だに千冬さんに苦手意識を持っている。下手な男よりも男らしいし世界の頂点になった人だからカリスマ性もある。
「あ、そうだ悠人。さっき更衣室から出た人って誰なの?」
「更識先輩のこと? あの人は僕の同居人だよ」
「ど、同居!? それ、どういう意味よ!?」
「どうもなにも僕と一夏は政府に言われて無理矢理、寮生活を強いられて別の女子と同じ部屋になったんだよ」
驚くのは当たり前だと思うが鈴の場合はなぜか怒っているような感じに見える。
「悠人」
「はい、なんでしょうか」
「アタシ達幼馴染みだよね」
「はい」
「なら、問題ないわよね?」
「多分……」
何が問題ないかはわからないけどここは曖昧にして誤魔化したほうがいいと本能が察していた。
「そう、ならいいわ。あと部屋番号言いなさい」
「えっ、なんで?」
「い・い・か・ら!」
「……1040だけど」
「わかった。アタシもう行くからね」
なにか閃いたのか。鈴は更衣室をさっさと出る。なにがしたかったんだろう。
◇
「というわけですから、部屋を替わってくださいますか?」
「あら、その必要はないわ」
晩御飯を食べ終わり、部屋でゲームをしていると鈴が僕達の部屋にやってきた。
「先輩は男子との同室は大変かと思いまして。アタシ、悠人と幼馴染みなんです。ですから一緒の部屋でも大丈夫ですので代わってあげようかと思いまして」
「そんなことないわよ? 悠人君は弟みたいで可愛いし、簪ちゃんについて色々聞いてるからなにかと助かってるわ」
「簪ちゃん?」
「私の大事な妹よ。悠人君は簪ちゃんと同じクラスなの。ね? 悠人君」
更識先輩が僕の方を向いて聞いてくる。別に嘘をついているわけでもないので本当のことを言ってもいいだろう。
「先輩が言っていることは本当だよ。簪さんと同じクラスでゲームとかの話をしてるんだ」
「ふーん、それって別にどうでもよくないですか? 妹さんと一緒だから悠人と一緒に住むんでしたら悠人と同じクラスの他の女子でも良いかと思いますが」
すげぇバッサリと言うな。僕はそんな風には言えないよ。
「そうだ、鈴ちゃんはなんで私が悠人君の同居人なのか知りたいんだよね?」
更識先輩はなにか思い付いたように鈴に質問を投げ掛けた。
「えぇ、まあ……」
「ISは扱えるのは」
「女性だけですよね?」
「そう、それなのに男性である一夏君と悠人君がISを起動してしまった。この意味分かる?」
「えっと……つまり、二人はイレギュラーだからその身体を調べたいと国が言いますね」
「悠人君と同じ立場ならなんて答える?」
「絶対に嫌だと答えます」
「もし国の立場なら無理矢理にでも調べようとするなら?」
「誘拐や拉致を考えます」
「一夏君の同居人は篠ノ之博士の妹とブリュンヒルデである織斑先生がついているけど、悠人君は元代表候補生である山田先生しかいない。どちらか選ぶなら悠人君を選ぶ可能性があるわ」
頭が良くない人でもISの創設者と世界最強が後ろにいる一夏よりも元代表候補生である姉ちゃんの弟である僕のほうが拉致誘拐をしやすいと考えるだろう。
「ですがアタシはこれでも代表候補生です。悠人になにがあっても必ず守る自信はあります」
「自信だけじゃ駄目よ。実力やその功績がなければ守ることは出来ない」
「ですが!」
「私はこれでもロシア代表よ? 候補生ではなく正式な代表のね」
扇子に『学園最強』と書かれている。
「鈴、気持ちは嬉しいよ。けど、更識先輩の言う通り僕は世界各国に狙われる立場になった。先輩は僕を守るために僕と同じ部屋にしたんだ。先輩の家は対暗部用暗部の家で先輩はその暗部のリーダーなんだ」
正論に正論を重ねられて鈴は黙ってしまう。なんで僕の部屋に住みたいかはわからないが鈴なりに配慮をしたんだろう。
しかし世の中はそう簡単にはいかない。各国企業と隔離されたIS学園でも必ず安全とは言えない。
「でしたら先輩に勝てば良いんですよね」
なにか納得したのか更識先輩のほうを見た。
「先輩、アタシ、先輩に決闘を申し込みます」
「決闘!? やめときなよ鈴。先輩は国の代表なんだよ? それにセシリアさんも先輩に挑んだけど手も足も出ずに負けたんだよ」
「あいつがただ弱いだけだったんじゃない? アタシは自分が強いと思っている」
自信家と言うか怖いもの知らずというか…とにかく鈴は無鉄砲な性格だ。ここはなんとか折れてもらって穏便に済ませないと
「別に構わないわよ?」
「先輩まで、駄目ですって鈴とセシリアさんが二人がかりでも先輩のほうが」
「へぇ……悠人、更識先輩のほうに肩持つんだ?」
何故か鈴の声があまりよろしくない。僕は先輩は強いから無理して戦うつもりはないと言っているのに
「とにかく決闘することに決めた! いいですよね?」
「いいわよ。明日、第1アリーナでやりましょう?」
「わかりました。もし、アタシが勝ったら部屋を代わってもらいますから」
「なら私が勝ったら悠人君を貰っていいかしら?」
「えっ?」
「なっ!?」
部屋の交換ならともかく僕を景品にするなんてどうかしてるよ。
「私、悠人君のこと凄く気に入っているのよ。もし悠人君が私の弟になってくれるなら嬉しいかなって」
冗談のつもりで言っているんだろう。
毎日僕のことをからかって、その誘惑ボディで触ってくるから正直言うと少し参っている。
「わ、わかりました。その条件でやりましょう」
「なら決まりね」
扇子が開いて『契約成立』と書かれてる。
「今日のところは失礼します」
ペコリとお辞儀をして荷物らしきボストンバックを持って部屋を出た。
「先輩、その……すいません。僕と鈴のいざこざに巻き込んでしまって」
「気にしてないわ。それにああいう自信過剰な子のプライドをへし折るのすごい好きなの」
悪魔だ、悪魔がここにいる。さっきまで申し訳ないと思っていた気持ちを返せ。
「悠人君、ひとつ教えてあげるね。女の子はね、表向きは他人のことを気遣うことを言うけど、裏では自分の利益になるように仕向けるものよ?」
「それってどういう……」
「これは宿題。答えが解ったらあの子に伝えてあげて」
「はあ……」
それからゲームを再開しようと思ったがやる気分にはなれず、そのまま寝ることにした。
鈴は悠人のこと好きな設定です
もし、一夏のことが好きじゃなかったら箒とセシリアにはフランクに話しかけて応援しているでしょうね
楯無のことはライバルとして見ています
最初のセシリアは高圧的かつ蔑視した態度をとっていますが悠人は知らないので試合のときの態度は気持ちの切り替えをするためだと考えてます
次回鈴対楯無の決闘です。珍しい組み合わせですよね
あとGガンダムのネタはごめんなさい