インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
理由は二つありまして、一つ目はネタバレになりますので言えることは時間が足りなかったことです
もう一つは夏休みの内容を考えてる途中で悠人の家の話が書けないことに気付いて、下書きしていた話の大部分を変更をして投稿が大幅に遅れます
「それってなに?」
お昼になると食堂に行き、更識先輩が作ったお弁当を食べていると鈴が僕の食べているのを見ていた。
「チェブレキ。春巻に似ててけっこう美味しい」
「春巻が食べたいならアタシ作るけど」
「そうだ。僕、キッシュが得意料理だから食べてみたい?」
「キッシュなら我がドイツにもツヴィーベルクーヘンという似たようなパイがある。明日、私が作ってやろう」
「あ、でも……」
「良いんじゃないかしら。他の国の家庭料理も気になるしね」
更識先輩がそういうならいいか。
「ふふん、アタシのご飯じゃないと満足出来ない料理を作ってあげるわ」
「僕だって負けないよ」
「ここまで言われて参加しなければ部隊長の名折れだ」
隊長は関係ないと思うよ。
「…………」
「簪?」
「ううん、私も家庭料理じゃないけどカップケーキが得意だから作る」
おぉ、カップケーキか。食後のデザートは至福のとき。明日が楽しみだ。
◇
最近、お姉ちゃんの様子がおかしい。
なんて言えばいいのか分からないが雰囲気が違うというか胸のざわつきが収まらず気になって二年生の寮に行き、お姉ちゃんの部屋の扉をノックした。
「簪ちゃん?」
「入っていいかなお姉ちゃん」
「いいわよ」
そう言えばお姉ちゃんは部屋って初めて入った。生徒会長の権限があって部屋には同居人がいない。
「どうしたの簪ちゃん? お姉ちゃんに何か用事があったの?」
「用事じゃないけど少し気になったことがあって」
「気になったこと?」
「お姉ちゃんは悠人君をどう見てる?」
「そうね……可愛い弟かしらね。からかったりすると面白い反応するし」
間を置いて答えた。突然の事で驚いてすぐに言えなかったのか。それとも──
「もし、悠人君が私を選んで結婚したらお姉ちゃんは嬉しい?」
「嬉しい決まってるでしょう。簪ちゃんが悠人君と結婚して子供産んで、幸せな家庭を作ってくれたらお姉ちゃんは幸せよ」
「嘘。だってお姉ちゃん今、すごく辛そうな顔してる」
ポーカーフェイスが得意なお姉ちゃんが他の人でも分かるように辛い表情をしている。
「……大事な妹だからね。悠人君の家に暮らして実家に離れるから寂しくなるわ」
意地でも本当のことを話してくれないようだ。なら、少しだけかまをかけよう。
「そうだね。お姉ちゃんのことだから私を悠人の家に嫁入りして名字を変えると思う」
「簪ちゃんには……危険なことをさせたくないからね……」
「今は代表候補生だけど代表になれれば悠人君が私を支えてくれる。仮になれなくても専業主婦になって悠人君を支えることも出来る」
「お互い……支え合っていくのね」
「お姉ちゃんは完璧だから1人で何でも出来るけど私はお姉ちゃんみたいに凄くないから悠人君に支えて貰わないと」
「そう……なのね」
皮肉を込めて言っているのにまだ本当のこと言わないお姉ちゃんにイライラしてきた。強引だけど私から話そう。
「お姉ちゃん、悠人君のことは弟みたいにしか見てないの?」
「えぇ、簪ちゃんのお婿さんになったら義理の弟に」
「本当のこと言ったらどうかな」
「本当のこと? 私は簪ちゃんが幸せなら」
「お姉ちゃんは
「簪ちゃんがいなく」
意地でも言わないお姉ちゃんにいい加減キレてしまい胸ぐらを掴んだ。
「か……簪ちゃん?」
「お姉ちゃん……なんで正直に言わないの? なんで悠人君のことは弟みたいと嘘ついているの?」
「嘘なんてついてないわ。本当に弟のようにしか」
「なら、なんでそんな悲しそうな顔をしているの!?」
もし、本当に弟として見てないなら暖かい表情をして嬉しそうにしているが今にも泣きそう表情だった。
ここでようやく確信した。お姉ちゃんも悠人君のことが好きなんだと。
「悠人君が好きなんでしょ! なんで正直に言わないの! 遠慮しないで好きだって言えば良いじゃない!」
「だって……そんなことをしたら悠人君は私を選ぶかもしれないじゃない!」
胸ぐらを掴んでいる手を離してようやく本音をぶつけた。
「私は強くて料理も得意でスタイルも良いから悠人君の心を掴んじゃうかもしれない。そんなことをしたら簪ちゃんが悲しんじゃう。簪ちゃんが辛い思いした分、私が辛い思いをしないといけないの」
「確かにお姉ちゃんが凄いのは認める。私よりも料理は上手でISの操作も整備も私よりも出来る。だけどそれだけで悠人君がお姉ちゃんを選ぶ理由にはならないよ!」
恋は戦争というけど恋愛は実績とか性能とかが勝つという訳じゃない。大事なのは好きな人が何処まで自分を見てくれるかである。
例え、料理が上手くてもそれで好きな人が振り向いてくれるかは分からない。もしかしたら料理が下手な人を選ぶ可能性だってある。
「お姉ちゃんが告白したら悠人君はお姉ちゃんを選ぶ……それって嫌味なの?自分は他の人よりも優秀だから絶対選んでくれるっていう優越感なの?」
「違うわ! 私は簪ちゃんのことを想って」
「だったら勝負しよう。どっちが悠人君の彼女に相応しいか」
お姉ちゃんに比べて勝てる要素はない。だけどね、私は負けるつもりなんてない。
もう逃げてばかりの私にはなりたくない。
「もし、悠人君に好きだって言わないなら私はお姉ちゃんのことを軽蔑する。やるときにやれないない臆病なお姉ちゃんだって」
宣戦布告。
生まれて初めてお姉ちゃんに一対一の勝負を申し込んだ。
「良いわよ……そこまで言うなら私も悠人君の告白する。言うのが遅くなったけど私も好きになったの。簪ちゃんのお見舞いのときに強引に手を掴まれて病室に入ったときに意識したの。出来るなら楯無の名を捨ててまで悠人君の側に居たいわ」
血の繋がった姉とはいえ、遠慮はいらない。いや、姉だからこそ本気で立ち向かわないと。
お姉ちゃんは自他も認める完璧だから。
◇
「簪ちゃんが挑発とはいえ、大人気ないことをしたな」
部屋を出ていった簪ちゃんがあそこまで強くなるとは思いもしなかった。押しの弱い簪ちゃんが積極的になるなんて。
「悠人君のおかげかしらね」
もし、悠人君が簪ちゃんと同じクラスじゃなかったら孤立していたかもしれない。
たまに食堂で見かけるとクラスメイトと楽しそうに話している。
「恋をすれば人は変わるのね」
私もその中に含まれているけどね。
◇
整備室ではデュノア社の第3世代機体……仮名称として『デュノアストライク』と呼ぶことにした。
デュノアストライクを8割方が完成したので後は明日にしよう。
「みんなに話したいことがあるからいいかしら」
更識先輩がなにか言いたいことがあるらしい。
「お姉ちゃん、私のことは良いから本当のことをみんなに言って」
「えぇ、ありがとう簪ちゃん」
微笑んでいる簪に更識先輩は僕を見た。
「悠人君……私は貴方のことを一人の男性として意識しています」
「い、意識?」
「もしかして……」
「更識先輩もでしたか」
僕以外に鈴達も更識先輩が言った言葉の意味を理解していた。
「私、更識楯無は山田悠人君をお慕い申しております」
頭をさげて僕に告白をした。
「本当は簪ちゃんのことを考えて隠したまま諦めようとしたの」
自分の事よりも簪を優先している。更識先輩は本当に妹想いで良い人だ。
「ごめんねみんな。しばらくの間、悠人君と二人っきりにして貰って」
そして鈴達に頭をさげて謝罪をする。
「まあ……今さらですし、好きになったんでしたら仕方ないと」
「僕……私も鈴が悠人のことが好きなのを知っていて好きって言ったからとやかく言う権利がないですからね」
「私もシャルロットと同意見だ。大勢が見ている場所で堂々と告白した」
全員、更識先輩を許してくれるようだ。
「お姉ちゃん……これでお姉ちゃんもライバルだね」
「えぇ……妹だからといって手加減はしないわ」
僕に告白した更識先輩は簪を見てるとお互い、良き好敵手として見ている。
「じゃあ、今日から機体が完成するまでお姉ちゃんは悠人君のご飯を作る禁止ね」
「えっ、な、なんでなの?」
「だってお姉ちゃん嘘ついて悠人君のご飯作ってしばらく二人っきりだから」
「そうね。ご飯作ってあげようとしたけど更識先輩がいつも作ってたから」
「機体が完成するまでは4人で順番に決めよう」
「なら、公平にじゃんけんでどうだ?」
「あ、あの。私は除け者なの?」
好きと言ったから参加してもおかしくないだろうと更識先輩が恐る恐る聞いてくるが──
「嘘ついたからお姉ちゃんはダメだよ?」
「ゆ、悠人君。簪ちゃんになにか言ってよ」
「先輩……ごめんなさい」
「そんな~!」
ペコリと頭をさげた。
更識先輩のご飯を食べた僕も同罪なので発言する権限がない。
◇
デュノアストライクが完成するまでは鈴達はローテーションを組んで作ってくれるらしい。ちなみに更識先輩は好きな事を隠してご飯を作っていたので禁止になった。
「ということで今日の晩御飯は広東料理よ」
テーブルには鈴のお手製中華が並べられている。
「広東……中華料理のひとつだっけ?」
「そう、日本だと四大中華のひとつで中国は八大中華料理とのひとつと呼ばれてるわ。悠人が知ってると言えば
「八種類もあるんだ」
「大まかに言えばね。デザートはマンゴープリンよ」
「おぉ! デザートはプリンか」
「あんた甘いもの好きよね」
「食後のデザートは格別だならね」
それから鈴が作った広東料理を美味しくいただいた。
余談だが鈴の得意料理である酢豚は広東料理らしい。
◇
「久しぶりに本格的なのを作ったかな」
シャルロットが作ったフランスの家庭料理がテーブルに置かれる。
「ポトフとキッシュに……これは?」
「ラタトゥイユのことだね。刻んだ野菜をオリーブオイルで炒めて塩こしょうとハーブで味付けして煮込んだの」
「野菜を刻んでいるからたくさん摂れるね」
「そしてこれがアシ・パルマンティエ。フランスを代表する家庭料理」
グラタン皿が真ん中に置かれる。
「本来は前の日に残った肉料理をほぐして、茹でて潰したジャガイモをたっぷり入れて焼くの。あとこれがカスレと言って白いんげん豆を煮込んだ料理」
「これだけ見るとけっこうカロリー高そう」
「う~ん……確かに悠人から見たらカロリー高い料理に見えるよね。日本の料理はヘルシーだから。あとクレープもあるから食後に食べよう」
シャルロットが作ったフランスの家庭料理は美味しかったがカスレは少しだけ味付けが濃かった。
あとクレープ美味しかったです。
◇
「家庭料理を作ることがなくて時間がかかってしまった。すまない」
ラウラの作ったドイツの家庭料理がテーブルに置かれる。
「これはツヴィーベルクーヘン。玉ねぎとベーコンを入れたオニオンパイだ。それとドイツではケーキのことをクーヘンと呼ぶ」
「
「
言われてみればバームクーヘンは何層にも重なっていて年輪にも見える。
「このパスタはシュペッツレと言ってドイツでは唯一のパスタ料理だ」
「パスタってこれしかないの?」
「残念ながらな」
確かにパスタと言えばイタリア料理とも言われてるから仕方ないかもね。
「本当ならザウアーブラーテンという一晩浸けた子牛肉を煮込んだ肉料理を振る舞いたかったが時間が足りなくて断念した。本当にすまない……」
「大丈夫だよ。これだけの料理をラウラは一人で一緒懸命作ったんだから。ラウラはすごい頑張ったよ」
僕のためにドイツの家庭料理を作ってくれたラウラの頭を撫でた。
「嫁……私はもっと勉強する。他に作れなかった我がドイツの家庭料理を全てこのテーブルに並べられるようにもっと練習する」
「うん、楽しみにしてる」
ドイツ料理を食べるとラウラの一緒懸命さが伝わった。
◇
「悠人君、ご飯出来たよ」
簪がテーブルに並べた料理は懐かしさを感じた。
「ちょっと形が崩れてるけど味は多分、大丈夫」
白米に肉じゃが、ほうれん草のお浸し、冷奴。味噌汁の具は豆腐とワカメ。
典型的な和食である。
「あぁ……こうして和食を見ると落ち着く」
「私も悠人君も純粋な日本人だからね」
ということで簪が作った和食を頂く。はぁ……この味付けは本当に懐かしい。ヤバい……涙出そう。
「ゆ、悠人君……もしかして美味しくなかった?」
「いや、違うんだ……やっぱり和食は良いものだと改めて認識したら涙が出て来て……」
「そ、そうなんだ」
若干引かれているが仕方ない。和食が上手いんだもん。
「あ、悠人君って抹茶とあんこは大丈夫?」
「大丈夫だけど?」
「実は
「食べる食べる」
コクコクと頷いた。
和食を食べ終わって簪が作った餡蜜を食べるとけっこう美味しかった。簪って料理よりお菓子作りのほうが得意じゃないかな?
デュノアストライクはあくまで仮名称なのでデュノア社が発表するときは別の名前が出ます