インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
ここから悠人がこういう性格なった過去が明かされます
懐かしい夢をみた。
何処にでもある休日。お父さんの手を僕が握り、お母さんの手を姉ちゃんが握って歩いていた。姉ちゃんが学校の出来事を話していて、歩くのが疲れたと言った僕にお父さんがおんぶしてくれた。
どの家庭にもある日常、僕にとってそれが一番の幸せだった。
欲しい物なんてない。
叶えたい夢なんてない。
お父さんとお母さんと姉ちゃんといる日常。それが僕の一番欲しかったもの。
何度願っても何度努力しても叶えられない
二度と見ることが出来ない
◇
「夢……そうだよね。お父さんとお母さんはもういないんだ」
謹慎室にある簡易ベットに横になって寝ていた。
「デュノア社を救うって決めたんだ。他の事をやる余裕なんてない」
期限は夏休みが始まる前まで。ストライクを元に開発した機体以外にストライカーパックも考えないと。
「問題が山積みだね」
休みの日に組んだガンプラを持ってこよう。
◇
謹慎室に閉じ込められて2日くらいに僕は解放された。
侵入してきた機体と同じ機体だと言われているがそれだけでは繋がりがある証拠にはならないという結論らしいが僕が考えるに千冬さんがゴリ押しをしてくれたお陰かもしれない。
「おはよう、みんな」
教室の扉を開けると何人かが驚いた目をしていた。
「悠人!」
一番最初に駆け寄ったのはシャルロットだった。
「2日振りだね」
「もう大丈夫なんだよね?悠人は無関係なんだよね?」
「織斑先生が言うには機体破壊はやり過ぎだけど僕がやった事は学園を守ったことだから大丈夫らしい」
「そうなんだ……良かった」
無実と聞いて安堵している。
「簪はいないの?」
「怪我がまだ治りきってないから入院中って先生に聞いた」
第3世代機体もそうだが簪と更識先輩の仲を修復させないと。あれは僕が言った言葉が原因だから。
「山田君! 侵入してきたISってガンダムって聞いたけど本当なの!?」
「どの作品? ファースト? Z? 逆シャア? SEED? OO? ビルドファイターズ?」
「ほらほら、どのガンダムなのか全部吐き出しなさい!」
どこから来た情報原なのか不明だが侵入してきたのがガンダムだと知った女子達がわらわらと集まってくる。
「山田君が戻って来て嬉しい気持ちになるのは分かるけどSHRをはじめるから席に着きなさい」
そう言って手を叩いたのはエドワース先生だった。
「やっと帰って来たわね。山田君がいないからみんなが侵入したISはガンダムなのかと私に聞いてくるから大変だったのよ」
「すいません。僕がいない間に」
「いいのよ。更識さんはまだいないけどこれでいつもの4組に戻るわね」
「簪がいる病室は分かりますか?」
「SHRが終わったら後で教えるわ。それとこれを返すわ」
渡されたものは蒼い翼の形をしたブレスット。
「これは君の専用機だからね」
「ありがとうございます」
受け取ったフリーダムを右手首に付けるとSHRが始まった。
◇
無事に戻った事を報告するために最初は2組に行くと鈴が僕を見るなり抱き付いてきて、1組に行こうとしたら腕にくっついたまま離れずその光景を見たラウラも反対側の腕にくっついてきた。
「せめてご飯食べるときは離れてよ」
「いや」
「だが断る」
休み時間になる度に教室に来て腕に抱き付き食堂に行くときも離れてくれず今に至る。
「2日前にシャルロットと会ったんでしょう。不公平よ」
「それは同意見だ。抜け駆けするのが好きだなシャルロット」
「あ、あれは悠人が私を呼んだから」
呼んだのは僕だからシャルロットを責める必要ないと思うんだよね。
「それでなんでシャルロットを呼んだの? 誤魔化さないほうが身のためよ? 悠人が絡む話はかなり重い内容だからね」
先を読まれていた。鈴だけなら良いけどラウラには聞かせられない内容だからどうしよう。
「実は私の会社がちょっと絡んでね」
「……デュノア社の第3世代機体か」
「悠人には悪いけど鈴以外の人にもデュノア社の事情を話したの」
そうだったんだ。他の人に話しても問題ないならいいけど。
「悠人が自分の専用機を使ってデュノアの第3世代の機体を開発するって言ったの」
「やることが大きいわね」
今更だけど僕もそう思うよ。力のないただの子供がひとつの会社を救うとか、漫画みたいな展開に思える。
「嫁はISに関して知識はあるのか?」
「流石に僕一人ではやれないよ」
「そりゃね。それでどうするつもりなの? アタシ達も手は貸すけど?」
「鈴達にも協力してもらうつもりだけどその前にやることがある」
「やること?」
「機体開発には優秀なメカニックの力が必要だからね」
お昼を食べ終わりトレーを返却口に戻しに行く。
◇
放課後、簪がいる病室に行こうとしたがやることがあって別の場所にむかっていた。
「あの子って一年生の子よね?」
「ほら、山田先生の弟君よ」
一年生の教室はもう慣れたが二年生の教室は女子しかいない未知の領域。
女子校なのに男である僕が汚しているみたいな罪悪感がある。
「織斑君も良いけど山田君の雰囲気も良いよね」
「保護欲をかられるというか、保護したい」
「そして甘やかして養いたい」
聞こえないふりをしよう。ここの先輩方はISの知識が僕よりもあって知的な──
「姉ショタとかいいよね?」
「複数とかもかなりアリだよ」
もうやだ帰りたい。けど、こうやって探しても見つからないから適当な先輩に声かけよう。
「あの、すいません」
「ひゃい!」
僕が声をかけたら驚かせてしまった。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまって」
「あ、ううん。大丈夫、大丈夫。それでどうしたの?」
「更識楯無先輩は何処に行ったか分かりますか?」
「更識さんを探してるの?」
「はい、ちょっと用事がありまして」
「ねぇ、更識さん何処に行ったか分かる?」
「私は分からないわね」
「ごめんね。私も見てないから分からないわ」
「そうですか。わかりました、ありがとうございます」
軽く頭をさげて他の先輩に聞きに行くが大した情報がなかった。
「どうしよう……簪のお見舞いに行きたいけど更識先輩がいないんじゃ」
「楯無を探してるの?」
途方に暮れていると後ろから声をかけられて振り向いた。
僕よりも少しだけ身長が低く、三つ編みをしている女子。リボンが黄色なのでこの人も先輩なんだろう。
「は、はい。更識先輩が何処に行ったか分かりますか?」
「妹さんがいる病室に行ったらしいッスよ」
「更識先輩、先に行ってたんだ。ありがとうございます」
「ん、気にしないッス」
お礼を行って、簪がいる病室まで行く。
◇
「フォルテ、今のが噂の男性操縦者」
「そ、山田悠人君。山田先生の弟君で織斑一夏君とは幼馴染みらしいッスよ」
フォルテと呼んだ女子生徒は悠人の後ろ姿を眺めていた。そのリボンは赤で彼女は三年生の生徒である。
「アリーナに現れた謎のISを一人で撃破したと聞いたが?」
「それ眉唾物だと思いますよ? だって楯無がいたんですからあの人がやったんでしょう」
「いや、オレが思うにあいつはかなり強い。あの襲撃事件もあいつ一人で倒したと見る」
「ダリル先輩、まさかだけど」
「機会があればだよ、フォルテ」
「まあ、私に火の粉が来ないなら別にいいッスけどね」
◇
更識楯無が先に行ったと聞いて簪がいる病室に行くと本当にいたが扉にある貼り紙を見ている。
「先輩どうしたんですか?」
「悠人君……」
貼り紙に書いてある文字は『面会拒絶』と書かれていた。
「私のせいだよね……悠人君にあんな事をしたから簪ちゃんが怒って。嫌われても当然よね」
簪には会わず病室から離れようとしている。
「どこに行くんですか」
「私には会いたくないと思うから」
何処かへ行こうとする更識先輩の手を掴んだ。
「離して悠人君。私は簪ちゃんに会う資格なんて」
「逃げるな。先輩は簪……現実から逃げてる」
「逃げてなんかないわ……簪ちゃんのために私は一生懸命」
「先輩は今の現実が辛くて逃げ出したくて楽をしたいから他人に押し付けてる」
「違う!私は……私は」
「逃げるな! 簪から逃げるな! 現実から逃げるな! 簪が言う言葉に目を背けるな! 簪の姉なら目を見て本当のことを言って現実を受け止めろ!」
面会拒絶の貼り紙を破り捨てて病室にはいる。
「ゆ、悠人君? まだ謹慎中って聞いたのに……それになんで入ってきたの? 面会拒絶の紙を貼ってたのに」
「面会拒絶? そんな紙なかったけど?」
ついさっきまであったけど破り捨ててなかった事にした。
「なんで貴女がいるですか」
更識先輩を見るや否や不機嫌な顔になる。
「帰ってください。私は貴女の顔なんて見たくありません」
「簪ちゃん……あのね」
「帰ってよ! 悠人君にあんな事をした貴女なんか!」
「逃げるな簪!」
簪も実の姉から逃げようとしている。
「簪はまだ自分の気持ちを先輩……お姉さんに話してない」
「あの人に話すことなんてなにもない」
「違う、本当の事を言うのが怖くて逃げてる。簪も先輩と同じように現実から逃げてる臆病者だ」
「……そうだよ、私は臆病者だよ。あの人に勝てないから逃げて悠人君に甘えてる。それの何処が悪いの! 勝てないから逃げて何が悪いの!」
「悪いに決まっている! 嘘を付いたまま現実から逃げて偽りの世界に甘えてる。そんな世界で生きてなんの為になる! 例えどんな理不尽な世界でも、その現実を受け入れろ!」
努力をして手に入れた合格通知を消されても同じ機体だから疑われても仕方ない。
それが現実なんだ。受け入れなければいけない。
「それが出来ないなら僕はそんな簪が嫌いだ。現実を見ない人間なんて僕は嫌い」
キツい言い方だが簪も更識先輩も本当の事が言うのが怖くて逃げている。
「ここで本当の事を言えないなら僕は二人を見捨てる。現実を見ない人間なんて助ける価値なんてない。そのまま現実から逃げていれば良い」
更識先輩の手を離して病室を出ようと扉に手をかける。
「私は貴女が……お姉ちゃんが嫌いだった」
一番最初に本心を伝えたのは簪だった。
先輩、どんな事があっても現実を受け止めてください。
この先は僕が介入する権利はない。簪と更識先輩を置いて病室を出た。
◇
「私は貴女が……お姉ちゃんが嫌いだった。何でも出来てみんなにチヤホヤされて完璧と言われていたお姉ちゃんが大嫌いだった。頑張っても誰も褒めてくれなくて、お姉ちゃんがやってない事をしてもお姉ちゃんなら私よりももっと上手く出来るんだろうと思って諦めてた」
何でも出来る姉に簪は妬んでいた。
「私を褒めてくれたのは悠人君だけだった。何が悪いのかちゃんと教えてくれて出来なくても次から頑張れば良いって励ましてくれた。私の事を見てくれたそんな悠人君に憧れて好きになった」
助けを求めれば手を差しのべてくれる悠人は簪にとってヒーローだった。
「悠人君から聞いたの。私が危険な場所に行かないで普通に暮らしてくれればお姉ちゃんはそれだけで幸せだって。お姉ちゃんにとって私は必要なの? 私は大事なの?」
「そんなの……大事だからに決まってるじゃない! 簪ちゃんには危険な事をしてほしくないのよ。本当ならIS学園じゃなくて普通の高校に行ってほしかった。普通の高校に通って、普通に勉強や部活して、普通に恋して、卒業したら普通の仕事に就職して欲しかった」
IS学園はセキュリティに関しては世界トップレベルだがその分、危険が隣り合わせである。
それならセキュリティレベルが普通の高校に行ったほうが危険性がない。
「だけど私がいるから簪ちゃんはIS学園に入学してしまった。私が簪ちゃんの未来を奪ったの。自分が行きたい高校を私が奪っちゃったの」
簪の未来を奪ったことを嘆くように涙を流す。
「ごめんなさい……私のせいで簪ちゃんの未来を奪って。駄目なお姉ちゃんで……最低なお姉ちゃんでごめんなさい」
「お姉ちゃん……」
腕に刺した点滴を引っ掻けるスタンドを持って楯無に抱き付く。
「私がIS学園に入学したのはお姉ちゃんを越えようとしたからじゃないよ。私も代表になりたくて入学したの」
「違うわ。あのときの私は日本の代表候補生だった。もし、ロシアから勧誘がなかったら私は日本代表だった」
簪がまだ中学生の頃、IS学園に入学したばかりの楯無は日本の代表候補生だったがロシアには優秀な代表候補生がいなくロシアとの関係を作る条件に楯無はロシアの代表候補生になった。
二年生に進級したとき楯無の実力が認められて候補生ではなく正式な代表に抜擢された。
「じゃあ、私が入学しても日本の代表にはなれなかったの?」
「そうよ」
無慈悲な事だがそれが現実である事を伝えた。
「…………」
長い沈黙。
最初から代表にはなれない現実が突き付けられた簪はどう思っているのか。怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも……。
「なら……仕方ないね」
楯無が代表なら仕方ないと納得していた。
「お、怒らないの?」
「もし、ロシアの勧誘がなくてお姉ちゃんが日本代表なら納得だなって。代表になるためにお姉ちゃんが努力していたのは知ってる」
「でも……私は……」
「ごめんねお姉ちゃん。お姉ちゃんが努力してたのを知ってたのにお姉ちゃんに酷いこと言っちゃってごめんね」
「簪ちゃん……がんざじぢゃゃゃゃん……」
涙で顔がぐしゃぐしゃになっている姉をあやすように背中をポンポン叩いた。
本心をさらけ出してお互い謝り、不器用な姉妹がやっと手を取り合った。
アニメしか見てない読者には分からないですがフォルテとダリルを登場させました
フォルテはまだ普通の生徒としかみてません
ダリルは悠人を高く評価しています
時間があれば二人をまた登場させます