インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
遅いって?活動報告にも1月中は投稿お休みすると言いましたし
原作4巻開始…というより3巻と4巻の間の話を開始します
ここはIS学園にある食堂。
そこにいるのは4人の少女。それぞれ茶髪、金髪、銀髪、水色の髪をしている。
「あんたも悠人のことが好きになったのね……簪」
「うん……」
睨んでいるような呆れているような鈴の視線に簪は小さく縮こまる。
臨海学校が終わってしばらく経ったある日、簪は悠人の事が好きになったことを伝える為に放課後の食堂に鈴達を集めて告白したことを話した。
「はあ、なんで悠人はこう……家庭内事情が重い人に惚れられるのかしらね」
「ごめんなさい……」
鈴もだが3人も事情を話すと各々家庭内事情が重かった。
「これだけ見るとアタシが一番軽いわよね。両親の離婚で国に帰るだけだし」
「そ、そんなことはないと思うよ。僕はお母さんが亡くなったけどお父さんと正妻の人の会社で働いているだけだし」
「私はどうだろうか? 軍の中で暮らしているが私は人工的に産まれた人間だから」
「わ、私のほうがそれほどじゃないかも。お父さんとお母さんは離婚してないし、家族……あの人とはその……」
「あの人?」
「……今の生徒会長」
「確か更識先輩だったわね。あんた、お姉さんと仲悪いの?」
「悪いというか悪くないというか……」
ゴニョゴニョと口もごり、なかなか話してくれない。
「まあ、お姉さんに関しては悠人に相談しなさい。あいつは真耶さんがいるから姉事情に詳しいわよ」
「うん……そうしてみる。ありがとう」
「いいのよ。アタシ達、友達でしょ? それに……」
ビシッ!指を簪に向けた。
「あんたもアタシ達と同じ悠人を好きになったライバルだからね」
ニヤリと笑い、好敵手を見るような表情で宣戦布告をする。
「う、うん。私……負けないから」
同じ人を好きになった以上は負けられない。ここにいる4人の少女は闘志を燃やした。
「へぇ~簪ちゃんが……ねぇ」
遠くから彼女達の会話を聞かれているのを気付かずに。
◇
「ふ~んふふん♪ふふんふんふん♪」
believeを鼻歌しながらニッパーでパーツを切り取る。
僕の専用機がストライクからフリーダムに変わった。IS学園に入学して臨海学園で現れたガンダムから守ってくれたストライクに敬意を込めてストライクのガンプラを丁寧に組み立てていた。
「受験中は時間がなかったから久し振りにガンプラ組むと楽しいな」
説明書通りにパチパチとパーツを合わせてヤスリがけして機体のパーツを作っていく。
「新しくなったストライクはすごく進化したよね。特にエールストライカーの翼が折り畳めるのが一番の進化だよ」
旧式のストライクはずんぐり体形でエールストライカーは固定式の翼だった。
今、組んでいるHGCEストライクは旧式よりもシャープな体型でRGストライクと並べて素人が見れば同じどっちがHGかRGなのか分からない程の完成度。SEEDが好きな僕からしてとても喜ばしい出来映えだ。
「前にHGCEフリーダムも組んで次にHGCEストライクフリーダムを買う予定だし、もしかしたら次のHGCEはジャスティスかデスティニーかもしれないね」
もし、そうなら塗装して部屋の目立つ場所に飾ろう。
右がフリーダムで左がジャスティス、デスティニーは別の棚に飾って。
「で~きたっと」
エールストライカーを完成させて先に完成させたストライクの後ろに装着させた。
「スタンドにストライクを差して…例のポーズにしてと」
スタンドにセットして右腕を一直線にしてビームライフルを持たせて、シールドを持った左腕は肘を曲げて脇を締めたポーシングにした。
「そう言えばストライクってISでいう第三世代機体だって千冬さんが言ってたな……」
第三世代の機体は特殊兵器を目標とした機体で試作型である機体が鈴達の専用機となっている。
ストライクには特殊兵器がない代わりに
架空の兵器である筈のストライクは現実に実在してISの機体となっている。学年別トーナメントで代表候補生であるラウラと戦ったとき各国の重役達が機体の性能としては素晴らしい出来映えだと評価された。
どの国にも所属されていないのでストライクの設計図及び2人しかいない男性である僕の身柄を欲しいと国同士が牽制し合っていると姉ちゃんが教えてくれた。
「それに比べてフリーダムは下手すれば紅椿よりも危険かもしれない」
ここまでは前の専用機であるストライクについての機体説明だが問題は今、僕の専用機になっているフリーダムのスペックだ。
フリーダムの動力源は核エンジンであり、高火力の武装を無限に撃てる。簡単に言えば箒の専用機である紅椿の
それに装甲はPS装甲で実弾は無効化してビーム兵器ならある程度耐えられる。
「プロヴィデンスを倒した後、リミッターをかけてるから多分、大丈夫だと思うけど」
プロヴィデンスと戦っていたときフリーダムの性能に振り回されたので機体のスペックをストライクの2倍に抑えた。
3倍にしないのかって?赤い彗星じゃないし、3倍だと振り回されたから2倍に抑えたんだよ。
このおかげで乗りやすくもなり、ISと戦うときも高火力の武装を躊躇せずに使えるようになった。
余談だがフリーダムのスペックはストライクの4倍らしくキラもフリーダムのスペックを見たときそう呟いていた。
「使い方間違えないようにしないとね……」
出力を制限しないで戦ったりしたら無人機ならともかく有人機で機体を壊したら人体に関わる。
ISにはシールドエネルギーがあるがフリーダムのバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲を直接喰らえば絶対防御を貫いて殺してしまうかもしれない。
ISよりも強大な力を持つガンダム。これを戦争目的に使わせる訳にはいかない。
「ガンダムはアニメとゲームの中で十分。現実の世界には必要ない」
コンコンコン。
「誰かな?」
組み立てたストライクを自分の机に置いて扉を開けた。
「更識先輩?」
「こんにちは悠人君、上がっていいかしら?」
「いいですよ」
更識先輩が来るのは久し振りだな。立ち話もあれだから部屋に入れた。
「珍しいですね。先輩が来るなんて」
「ちょっと簪ちゃんについて聞きたいことがあってね」
簪のこと……多分、僕に告白したことだろう。
「簪ちゃん、悠人君のこと好きになったそうね」
「あ、あの先輩。これは」
「いいのよ。なんて言えばいいかな……悠人君なら安心かなって思って」
「僕なら?」
なんで僕だと安心するんだ?
「悠人君って簪ちゃんと同じ趣味だし、簪ちゃんも悠人君のことを頼りにしてるからね。IS学園に入学する前は男子とはあまり関わりがなくて女子の友達も少なかったから。簪ちゃんのことお願いしていいかな……?」
最愛の妹をそんな簡単に任せてもいいのか?普通なら絶対に妹は渡さない!と言うだろう。
もし、姉ちゃんが好きな人が出来たら彼氏に姉ちゃんが欲しいなら僕を倒してみせろ!とか絶対に言う。
そのときは彼氏を血祭りにしてやるつもりだ。
「先輩……聞きたいことがありますがいいですか?」
「なにかしら?」
「どうして、簪のことを避けているんですか?」
僕の護衛をしていた最初の一ヶ月は毎日のように簪のことを聞いてきた。
最初は妹想いなんだなって軽い気持ちで考えていたが僕の部屋が個室になってからは更識先輩が来ることがなくなった。
それに簪のことを思っているのに教室に一度も来なかった。
「簪のことを思っているなら普通は妹を簡単に渡さないと思うんです。僕も姉ちゃんが好きな人が出来たら渡さないって言いますしね」
「随分……姉想いなのね」
「えっと、先輩は知らないかと思いますが僕の家族は」
「数年前に交通事故で両親が亡くなったのよね?」
な、なんで知ってるんだ。
このことは唯一の肉親である姉ちゃん以外だと一夏と千冬さん、鈴と鈴の家族しか知らないのに。
「どうしてそれを」
「更識家は裏社会で暗躍する組織。普通の家の家族構成ぐらい朝飯前よ?」
あぁ、そうだったね。更識先輩の家って対暗部用暗部の組織だから僕みたいな普通の家の家族事情くらい赤子を殺すより楽な作業だよね。
「さっきも言ったけど更識家は対暗部用暗部の組織。裏社会はかなり危険な仕事が多いの。簪ちゃんにはそんな危険な事をさせたくないわ」
「だから僕に簪を頼むと?」
「えぇ、簪ちゃんは悠人君の嫁入りしてもらって名字も変えて、『山田簪』として普通の生活をして欲しい。それが私にとって幸せだから」
「け、結婚前提ですか」
「そのつもりよ?」
この人は冗談をよく言っているが簪のことは割りと真面目に考えている。本当に妹想いなんだな。
「でも、名字を変えても簪ちゃんは更識家の次女だから狙われる可能性も考えられるわね。護衛を数人配備しておこうかしら……」
ぶつぶつと呟いて更識先輩は自分の世界に入ってしまった。
コンコンコン。
「またか、誰かな?」
独り言を言っている更識先輩を無視して扉を開ける。
「こ、こんにちは悠人君」
「簪?」
噂をすれば影が差す。この場合に使うことわざだよね。
「えっと……打鉄弐式のマルチ・ロックオン・システムを開発してるけど上手く出来なくて、悠人君のフリーダムにあるマルチ・ロックオン・システムを見せてもらってもいいかな?」
「それぐらいならお安いご用だよ」
「ありがとう悠人く」
「誰と話してるの悠人君?」
更識先輩が僕の背中からひょっこりと顔を出す。
「か、簪ちゃん……」
「どうして……貴女が……」
更識先輩と簪はお互い目を見開いて驚いた表情をした。
「簪が僕のことが好きだと先輩が知っていて、そのことで」
「悠人君のことが好きなのを知って……なら打鉄弐式のことを知ったのはあの人から聞いたの?」
「え? そうだけど?」
一夏の白式について話したとき、倉持技研という企業が開発したと話していた。
そのとき簪の専用機である打鉄弐式も開発していたが唯一の男性操縦者である一夏のデータ採取が最優先にされて打鉄弐式の開発はストップされたと更識先輩から聞いた。
「じゃあ、打鉄弐式を手伝ってくれたのは……」
「待って簪ちゃん、悠人君は何も」
「聞きたくない!」
更識先輩が何か言おうとしたら簪が走り去ってしまう。
「先輩、すいませんが簪を追いかけます」
「え、えぇ……簪ちゃんをお願い」
様子がおかしかった。
更識先輩のことを避けているとは違う雰囲気と言えばいいのか…とにかく追いかけよう。
簪を追いかけると整備室に入っていく姿が見えた。
「かんざ」
「来ないで!」
整備室に入るや否やドライバーを投げてきた。
「あぶなっ!」
投げてきたドライバーを避けると次々と工具を投げてくる。
「信じてたのに! 悠人君は違うって! 悠人君はあの人に言われて来たんじゃないって信じてたのに!」
なんで更識先輩が関係あるんだ?確かに簪の専用機が完成していないとは聞いたけど、手伝って欲しいとは一言も──
「ぐっ……!」
鈍器に殴られたような感覚と共に痛みが走ってくる。
「ゆ、悠人君!」
痛みを感じる額を押さえると簪が僕に近付いた。
「血が出てる……保健室に行かないと」
「簪、僕は」
「止血しないと危ないのよ! ほら、ハンカチ使って」
制服のポケットからハンカチを取り出して僕の額に押し付けて止血する。
「はやく保健室に行くよ」
「……わかった」
簪に手を引かれながら整備室を出ると保健室で包帯を巻いてもらった。
保険医に事情を聞かされると専用機を整備中に工具をぶつけて怪我をしたとある意味、本当のことを話して誤魔化した。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい…」
あれから整備室に戻ると簪がずっと謝ったままでいる。包帯で巻かれた額を撫でる。
「ねぇ、簪。僕はもう大丈夫だから」
「でも……私は悠人君に怪我させちゃったから…悠人君は悪くないのに私は……」
う~ん、どうしたらいいか。簪がこのままだと沈んだ気持ちになるし……そうだ
「簪、お姉さんのことで聞きたいことがあるけど」
「悠人君も……あの人に言われたの?」
「言われたってなにを?」
「打鉄弐式を開発するのに手伝ってとあの人から……」
「何も言われてないよ? 更識先輩から打鉄弐式のことを聞かれたけど手伝ってほしいとは一言も言われてないから」
「本当に?本当にあの人から言われてない?」
なぜ、更識先輩に言われて手伝ったのかと勘違いしているのか。それは分からないが……。
「信じられないかもしれないけど僕は自分の意思で簪の専用機の開発を手伝いたいって思って手伝ったんだ」
政府が決めた事とはいえ、自分の専用機を後回しにされたとき悲しかっただろう。
一夏には悪気はないが彼女は一夏を恨んでいる。一夏の幼馴染みとしてその責任を償うために打鉄弐式の開発を手伝った。
「信じるよ。悠人君は私を何度も助けてくれた。私は悠人君が好きだから……だから信じる」
なんとか落ち着いてくれたようだ。
「聞きたいことがあるけどいいかな?」
「なにを聞きたいの?」
「更識先輩について、なんであんな事になったの?」
更識先輩が言った言葉に簪のあの態度。
仲が悪いのか分からないがいくらなんでもおかし過ぎるが部外者である僕が関わる権利はないけどやっぱり気になってしまう。
「言いたくないなら聞かないけど」
これ以上居ても仕方ないとは思うが簪をこのままにして帰るのもちょっと……。
「悠人君、聞いてくれるかな……私があの人を避ける理由を」
簪が勇気を出して更識先輩を避ける理由を話してくれるそうだ。僕は頷いて黙って聞くことにした。
◇
私、更識簪は対暗部用暗部である更識家の次女。私の姉で現当主である更識…本名は家系の事情で明かせないので今は楯無と言う名である。
「あの人は私と違って勉強もスポーツも出来て、スタイルも良くて友達が多かった。それに一人で専用機を開発したの」
「一人で専用機を!?」
悠人君が驚いているが無理もない。私もそれを聞いたときは同じように驚いた。
専用機だけではなく量産機も言えることだが機体を組み上げるのはとても大変な作業である。それをあの人は一人でやってのけた。
「IS学園に入学する前にロシアの代表になって入学してから一年で生徒会長になって。本当に……本当に自慢出来るお姉ちゃんなの! でも、それに比べて私は!」
勉強もスポーツもあの人よりも出来ない。スタイルも良くない。明るい性格じゃない。専用機も一人で組み上げることも出来ない。あの人に勝てる要素なんてひとつもない。
一時期あの人がやってない事をやろうと思って薙刀術を習って全国大会に出る程の実力を手にした。
でも、その時いつも思う。あの人なら私よりももっと上にいくんだろうと。
「私はあの人を越えようと思って専用機を……打鉄弐式を一人で開発しよう思ってた」
「ごめん簪……僕が手伝ったせいで先輩を越えようとしたチャンスを」
「それは違う!」
悠人君が自分が手伝わなければ良かったと思ってしまった。
違う、それは絶対に違う。悠人君が手伝ってくれたおかげで専用機が完成して学年別トーナメントも臨海学園に出て来たガンダムの破壊作戦も参加出来たの。
「悠人君が手伝ってくれたから私は自分の専用機で戦えるようになった! 悠人君がいてくれたから私は人に頼るのが決して弱いことじゃないって知った!」
気付かないうちに私は感情的になっていた。気持ちを抑えようにも抑え切れず──
「悠人君と出会って、同じ趣味を話して、専用機が出来て、友達が出来て、だから……だから」
「もう、いいんだよ簪」
息が苦しくなって途切れ、途切れになって話そうとしていると悠人君が肩を包むように抱き締めてきた。
「誰かに認めてほしくて頑張ったんだよね?」
「うん……」
「先輩……お姉さんに勝てないと分かっていたけど、それでも頑張って努力したんだよね?」
「うん……」
「大丈夫だよ簪、僕は君の実力を認めるから」
「本当? あの人に勝てる要素がない私を認めてくれるの?」
「うん、僕は……簪が頑張った実力を認める」
「うっ、うぅ……うわぁぁぁぁ!!!」
はじめて誰かに認めて貰えた。
それが嬉しくて……心が暖かくなって……本当に……本当に……。
それから涙が止まらなくて落ち着くまで悠人君が側にいてくれた。
「もう……大丈夫だから」
抱き締めてくれた腕を離した。
本当はこのままずっとしてほしかったが私にはそんな事をしてもらう資格はないから。
「一夏がガンダムに倒されたとき簪がいたおかげで撤退出来たんだよ? 簪がいなかったら僕が囮になってみんなを逃がしてた」
「だけど私のせいで悠人君が倒れて…」
「それは否定出来ないけど海に墜ちたおかげで僕のストライクが
「私が……自慢出来ること」
あの人には出来なくて私に出来た事……それはとても自慢出来ることだ。
箝口令を敷かれて話せないのは悔しいがあの人には出来ないことを私がやったのは変わりない。
「ありがとう悠人君……」
「元気になって良かった」
そう言って安心したような笑顔を見せた。悠人君のその笑顔を見ているとドキドキしてしまうが不思議と落ち着く。
「あ、そういえばマルチ・ロックオン・システムがまだなんだよね?」
ストライク……今はフリーダムの待機状態である翼のブレスレットからコンソールを呼び足してデータを空中投影ディスプレイに映し出した。
「簪、コード」
「えっ、うん」
言われるがままコードを渡すと待機状態であるフリーダムにコードを差した。
「データ転送っと」
フリーダムのマルチ・ロックオン・システムのデータが打鉄弐式に送られた。
「これ……」
「ほら、僕も手伝うから」
「……うん!」
打鉄弐式を呼ぶと待機状態である右手の中指に付けたクリスタルの指輪が輝き、機体が現れた。
この整備室は悠人君と私だけ……私達だけの空間。恥ずかしくてこそばゆいけど嫌じゃない。
それに打鉄弐式は私と悠人君……好きな人と一緒につくった専用機だから。そう考えると悠人君が手伝ってくれて良かったと思う。
無意識とはいえ悠人も一夏と同じようにフラグを立てている
けど、一夏と違ってちゃんと意識してますのでご安心を
告白を受けるかは別として…