インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
今回で原作3巻終了です
「任務を完了して無事に戻ったのはいいがお前達は待機命令を無視した。その意味分かるな?」
満身創痍で旅館に戻ると千冬さんと姉ちゃんが玄関前で待っていた。それもかなり威圧的な雰囲気を放ちながら。
「学園に戻ったら反省文の提出と特別カリキュラムをやらせるつもりだ。いいな?」
こういう時なんて言うんだっけ?あぁ、そうだ思い出した。
現実は非情である。
「織斑先生、みなさんはお疲れの様子ですからそろそろ中に入れたほうが」
「そうだな。後のことは学園に戻ってからにしよう」
千冬さんが旅館に戻ると一夏達もその後ろをついて行った。
「…………」
「…………」
今、ここにいるのは僕と姉ちゃんだけ。僕がここに残ったのはちゃんとした理由がある。
「みんなを焚き付けたのは悠人でしょ? 待機命令なのにそれを無視して海に行ったのは」
「そうだよ」
誤魔化したりせず正直に答える。
「悠人、自分がやったこと分かってるの? 特殊任務の状態で違反をすると重度の処罰が下されるのを」
「それくらい知って」
後の言葉が言えず、叩かれる音と共に頬から痛みが走る。
「なら、どうして待機命令を無視して行ったのよ!」
IS学園では滅多に見せない表情でなぜ命令違反をしたのか聞いてくる。
「ガンダム……一夏の仇をとるため」
一夏が倒れたのは僕が周りを把握していなかったからだ。それに待機命令を守ってガンダムを放置していたら他の場所が被害に遭う。
「あのときガンダムを知っているのは僕達しかいなかった。待機していたら他に被害があったかもしれない」
「だから命令違反をしたの?」
「ガンダムを破壊して他の人達に被害が遭わないようにするためにね」
「だからって命令違反していい理由にはならないわよ!」
姉ちゃんが言っていることは正しい。
僕達は任務中でありながら独自で行動をしてガンダムを倒しに行った。
運良くガンダムを破壊したが僕達がやったことは命令違反である。
「ISは……いえ、世の中は規則があるのよ。それを破ったらそれ相応の処罰が下されるの。たとえ自分達が良いことをやってもルールを破ったら罰を受けるのよ」
「だったら……だったらあのまま無視しろって言うの!? 一夏が重傷になって、ガンダムを放置して、他の場所で被害があっても仕方ないって姉ちゃんは言うのかよ!」
「そうとは言ってないわよ!」
「姉ちゃんはそう言ってるんだよ! ガンダムはアニメやゲームの中にあるものなのに今、ここに出てきて他の国が被害にあった。運良く僕達が泊まっている旅館近くに来たから僕達が対応してガンダムを破壊出来たけどもし、待機命令を守ってガンダムが遠くに移動して僕達が追い付けない場所まで行ったらどうするんだよ!?」
「そのときは付近にいる国が対応していたわ」
「出来る訳がない! 軍用ISがやられたのに普通のISがガンダムに勝てる訳ない!」
現代兵器を凌駕したISを使ったのに僕達がボロボロになった。
あのとき僕の専用機がフリーダムにならなかったら全滅していた。
「ガンダムを倒せるのは自分しかいない。だから命令違反したの?」
「そうだよ。現にガンダムと同じ機体なのは僕だけだからね」
また叩かれる音が響くと頬の痛みを感じた。
「傲るのはいい加減にしなさい! 自分だけが特別だと思わないで!」
「思うはずないだろ! 僕は勉強もスポーツも他の人より劣ってる! 一夏達みたいに実力なんてない!」
お互いに譲れない。
姉ちゃんは正しいことを言っていて僕がやったことは悪いことだとぐらい知っているけど一夏を重傷にしたガンダムを許せなかった。
大事な幼馴染みの仇を討つために命令違反をした。
「ISという強大な力を誤れば自分だけならまだしも本当に大切な人を失うのよ」
大いなる力には大いなる責任……アメコミヒーローにあった言葉。
ISは軍隊を壊滅する程の戦力を持っている。そしてガンダムはそれ以上の力を持っている。
その使い方を間違えれば取り返しのつかないことを起こしてしまう。
「命令違反をしたことはいけないことなのは分かってる。だけど僕は命令違反したことに後悔はしてない。そのおかげでみんなが助かったんだから」
これだけは絶対に譲れないこと。
命令違反は悪いことなのは理解しているがそのおかげでガンダムを破壊出来てみんなが無事に旅館に戻れたんだから。
僕が言った言葉に姉ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
「専用機を持っている以上、規則とかはちゃんと守るようにはする。だけど、もしガンダムが敵として出て来たらガンダム破壊を最優先に動くから。たとえ命令違反でも」
もう姉ちゃんに言うことは何もない。僕は旅館に戻ろうとしたら。
「悠人」
後ろから姉ちゃんが声をかけてくるが振り返らずに足を止める。
「これ以上無茶なことはしないで。私の家族はもう悠人しかいないの。悠人が危険な場所に行かないで普通に生活してくれるならお姉ちゃんはそれだけで幸せなんだから」
怒っていた声はなくなっていつもの優しい姉ちゃんだった。
小さい頃は……いや、今も姉ちゃんには迷惑をかけている。IS学園に入学して迷惑をかけないように頑張っていたが逆に姉ちゃんを苦しませていた。
これ以上姉ちゃんに負担をかけさせたくない。そう思っているが……。
「ごめん姉ちゃん……それは無理な相談。今の僕は無茶とかしないとみんなを守れないから」
ラウラを助けるときも簪を庇ったときも自分を犠牲にして救った。この先もこんなことをするかもしれない。
「そうならないように僕は強くなるよ。無茶をしないためにね」
そう言って僕は旅館に入っていく。
◇
旅館に戻ってバイタルチェックを終えるとクラスの……ほとんどの女子が専用機メンバーに押し掛けてきて何があったのかと問い詰めてきた。
ガンダムが現れたとは言えず、おろおろしているとシャルロットと簪が──
「話してもいいけどIS学園在学中はずっと監視がつくよ?」
「トイレ、お風呂、彼氏の部屋にいてもずっと監視されるけどそれでもいいなら聞く?」
ある意味脅しのような言い方をして女子達を黙らせた。
夕食を終えると僕はこっそり旅館を出てある場所に向かっていた。
「海岸沿いの崖がある場所で待ってるって言ったけど、どの海岸なんだよ」
ぶつぶつと愚痴を言いながら海岸沿いの崖を目指して歩いていると。
「あ、ゆっくん。こっち、こっち~」
手を大きく振っているのは束さんだった。
夕食を終えて部屋に戻ろうとしたら差し出し不明のメールが来て、確認すると『ガンダムの機体回収の約束を忘れないでね』と書かれていた。
ガンダムを破壊した後、海に沈んだ機体を回収して僕の
本当ならあの場で破壊すれば良いと思ったがもし僕が何かあったときの保険として機体を回収しておいた。
「ゆっくん、ガンダムの機体はちゃんと持ってきたんだよね?」
「ありますよ」
「ありがとうゆっく──」
「その前に聞きたいことがあります」
回収した機体を守るように前に出る。束さんに聞きたいことがたくさんある。
「束さん、聞きたいことがいくつかあります」
「なにかな?」
「僕が言うことには正直に答えてください。もし、誤魔化したり、意図的に話題を変えたりしたら」
ISを起動してフリーダムを装着するとルプス・ビームライフルとバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲をガンダムに向ける。
「この機体を全て破壊します」
束さんが開発した紅椿は現ISよりも凌駕している。
もし、ガンダムを束さんに渡して新たなISを開発したら世界の均衡が崩壊するかもしれない。
「分かった。ゆっくんは本気らしいから束さんは正直に答えるよ」
目の前にあるガンダムが破壊されるのは惜しいと思った束さんは僕の条件を飲んでくれた。
「まず、クラス対抗戦に出て来た無人機IS。あれは束さんが差し向けたやつですか?」
「そうだよ。いっくんの白式デビューに無人機を放ったの」
やっぱりか。ISを無人機にする技術は未だに完成していない。
だとしたら束さんが無人機を作ったのかと推測していたが当たっていたようだ。
「次に学年別トーナメントについて聞きます。ラウラの専用機に出てきた黒い泥のようなもの。ヴァルキリー・トレース・システムでしたっけ? あれも束さんがつくったものですか?」
「あんな不細工なものなんて束さんはつくらないよ。それをつくった研究所は地図から消えてもらったけどね」
ヴァルキリー・トレース・システムに関しては白ということか。
この様子だと関与していた人達は刑務所に行ってると考えてもいいだろう。
「最後に今回のガンダム出現ですが」
「あれは束さん関係ないよ。箒ちゃんに頼まれて紅椿を持ってきただけなんだから」
束さんが関与していないのは僕も理解している。
あのとき無意識にPS装甲はつくれないって言ってたし、機体も欲しいと言った。
もし、機体が欲しいと言わなかったら僕は束さんを疑っていただろう。
「ガンダム出現に関しては束さんは関係ないのは知っています。ですが、もしガンダムが出て来なかったら束さんはどうしてました?」
僕にとって重要なのはガンダムが出なかったら束さんはどうしていたのか。それを聞きたかった。
白式の性能を調べたいと言って無人機をアリーナに放った。なら、紅椿の性能も調べてみたい筈だ。
今回はガンダムの出現により、紅椿の性能を見れたがガンダムが出なかったらどうしていたのか?
「そうだね~あ、確かアメリカとイスラエルが合同で開発したIS…福音だっけ? あれ使ってたかな~?」
おどけた声をしているのが余計に怒りの沸点を上げてしまいルプス・ビームライフルを束さんに向けた。
「束さん……あなたは身内を殺す気でいるんですか?」
なんとか怒りを抑えて穏やかな声で束さんに聞く。
「殺すなんて大げさだよ。確かに福音は軍用ISだけど箒ちゃんといっくんなら福音くらいなら倒せたよ」
「箒と一夏なら? ここに来たのが福音だったら束さんは2人に任せるつもりだったんですか?」
「うん。そうすれば2人の距離も縮まるし、白式と紅椿のデータも取れるから束さん的には大儲けだよ」
「遊びでやってるんじゃないですよ!」
もう我慢が出来なかった。
この人はISのデータされ取れれば人の命……身内さえ簡単に殺そうとする。そういう人なんだ。
「今はスポーツとして使われているISですが僕達がやっていることは『殺し合い』なんですよ! ガンダムにあるようなあの『戦争』のようなことを! もし、身内が死んだらどうするんですか!?」
「その時はその時だよ。悲しくもあるけど、その人の分まで結果を出そうと思うね」
「簡単に言わないでください!身内が……お父さんとお母さんが死んだときの悲しみを味わったことがないくせにそんなことを簡単に言うな!」
軽く考え過ぎている。
家族が死んだらどんな気持ちになるのか。この人は全く理解していない。
「お父さんとお母さんが亡くなったとき涙が枯れるほど泣きました。いつも変わらない毎日がなくなって……おはようと言えばおはようと返して、おやすみと言えばおやすみと返してくれる毎日がなくなって……本当に辛いですよ……」
小学4年生の頃、千冬さんがISの世界大会で活躍していた時期にお父さんとお母さんは交通事故で亡くなった。
日本に帰って来た千冬さんはお父さんとお母さんの葬式で世界一になったことを報告したのは世界的にニュースにもなった。
葬式が終わったあと僕と姉ちゃんを誰が引き取られるのか親戚同士で話していると千冬さんが親戚の前に出て来て僕と姉ちゃんを引き取ると言った。親戚は反対したが千冬さんが言った言葉で親戚は口を挟む事が出来なくなった。
『私と一夏は真耶の両親……宗村さんと舞さんに救われた。だから今度は私が2人を助ける番だ。それに子供3人を養うぐらいの金は私は持っているからな』
そのときの千冬さんの年収は確か億を越えていたと思う。
世界一を獲った人には勝てないと感じて親戚は引き下がり僕と姉ちゃんは千冬さんに引き取られた。
「お父さんとお母さんが亡くなって数年は経ちましたがあのときの事は今でもしっかりと覚えてます。家族の誰かが死ぬと心の奥底まで辛くなるんですよ?」
今はもう見ることはなくなったが4年生の終わりの頃になるまで寝ているときずっと泣いていてそのときは姉ちゃんが添い寝をしてくれた。
「ガンダムと戦っていてもし、僕が死んでいたら姉ちゃんは多分、心が折れるかもしれない。僕も同じ気持ちだけど姉ちゃんにとって僕は最後の心の在処で唯一の肉親だから」
旅館に戻ってきて僕と姉ちゃんだけになったとき姉ちゃんの声は少しだけ震えていた。
本当なら無事で良かったと言いたかったかもしれないが心を鬼にして僕を叱った。
あのときは本当に申し訳ない気持ちで一杯だった。
「ISを開発するのは止めろとは言いません。ですが身内を殺すようなことはしないでください。身内が……箒が死んだとき僕が言ったことを理解しますよ。そういう事が起きないのを願ってますが」
一夏や箒が死んだら僕は泣いていると思う。
そのとき千冬さんや束さんは心が折れるかもしれない。
2人にとって一夏と箒は身近に居て、触れることが出来る家族。家族が死ぬことは本当に辛いことなんだから。
「ごめんゆっくん……束さん、軽率なことを言ってた。ゆっくんはお父さんとお母さんが死んじゃったのに束さんはゆっくんに酷いこと言っちゃった」
自分が言ったことに深く反省していている。
「気にしないでください。家族は姉ちゃんだけって割りきってますから。この機体……ガンダムはISよりも恐ろしい兵器です。使い方を間違えれば箒が死ぬことになります」
「分かった。この機体は調べるだけにしてIS開発には触れないようにする」
「あともうひとつお願いがありますが良いですか?」
「なにかなゆっくん?」
「出来るならで良いので無理なら駄目と言ってください」
「駄目なんて言わないよ。束さんはゆっくんに酷いこと言ったからね。ゆっくんのお願いなら何でも聞くよ?」
「ISのコアを3つ程つくってくれますか?」
本来の目的はガンダムの機体をカードにISのコアを開発して欲しかった。
ISはひとつあるだけで軍隊の戦力と同じ。それが3つもあればひとつの国と渡り合えることも可能。
「なんでISのコアを3つなのゆっくん?」
「2つは千冬さんと姉ちゃんの分。もう1つは僕の分です」
「ゆっくん、専用機あるよね? なんでコアが欲しいの?」
「もし、専用機が使えないときに襲撃にあったら予備の機体として持っておきたいんです」
ISだって万能じゃない。
機体が壊れれば修理も必要だし、もし修理しているときに襲撃にあったら自分の命に関わる。そういうときに備えて予備の機体が必要だ。
「分かった。ちーちゃんとまーちゃんの分もコアつくっておくよ」
「ありがとうございます」
交渉成立すると僕はフリーダムを解除して回収したガンダムから離れると束さんは自分の
「あ、コアつくるのはいいけど機体はどうする? どういう機体がいい?」
「いえ、コアだけで十分です。実はやってみたいことがあるので」
「やってみたいこと?」
「ある意味賭けですよ。もしその賭けが負けたら束さんにお願いします」
「まっかせて! どんなレートに賭けたか分からないけどゆっくんが負けたら束さんは嬉しいし」
賭けに負けろと言われてちょっと悲しくなる。まだどうなるか分からないけどやってみる価値はあると思う。
「僕との約束は無事に終わったし、出てきていいよ箒」
合図を出すと箒が出てきた。
「ほ、箒ちゃん?」
「数年振りの再会なんですから話をするくらい神様は許してくれますよ」
実は箒には事前に教えていて話が終わったタイミングで来るように言っておいた。
ここからは
山田悠人はクールに去るぜ。
◇
悠人の提案で姉さんと話をすることになった。
一夏が目を覚ましたときは悠人達を助けに行かないといけなく、姉さんとは話が出来なかったので有り難い提案だった。
「そういえば今日は箒ちゃんの誕生日だったね。誕生日おめでとう箒ちゃん」
「ありがとうございます……」
「箒ちゃんもあと数年経てば私と同じように大人に成長しちゃうのか~あ、おっぱいは大人以上に成長しているけどね」
冗談混じりに笑っている姉さん。
「というかガンダムが出てくるとは束さんびっくりだよ。ゆっくんのISもガンダムだし、世の中どんなことが起こるか分からないね~」
「姉さん」
「なにかな箒ちゃん?」
「あ、あの……その……」
逃げるな篠ノ之箒、ここで逃げたらまた昔の自分に戻ってしまう。
悠人が私のために用意してくれたチャンスだ。姉さんに正直な思いを伝えるんだ。
「姉さんは……辛くはないですか?」
「辛いってなにが?」
「数年間ずっと独りでいて辛くはなかったんですか?」
「ん~考えたことはなかったかな? ほら、私って世界中から狙われているからそんなことを考える余裕がないって言うか。あ、でも凡人ごときが束さんを捕まえようとするなんて片腹──」
「正直に答えてください。数年間ずっと独りでいて辛いはずです。私なら辛くて悲しい気持ちになります」
悠人が姉さんと会うと話してついていったとき……。
『束さんは多分、泣いていると思う』
『泣いている?』
『無理して笑顔でいるって言ったほうがいいかな? 数年間独りでいるのは辛いのにそんな顔を見せないようにしてると思う』
『どうしてそんなことを?』
『簡単な話、心配かけたくないからだよ。周りに迷惑をかけるのが束さんでしょ? その姿を崩さないために無理して笑顔でいるんだ』
自分の姉ではないのに悠人は姉さんのことを理解していた。
「悠人から言われました。私に会うまでずっと独りで過ごして、世界中から狙われていて、普通なら心がボロボロになっているはずです。悠人は姉さんの気持ちを分かっていました」
それなのに私は姉さんの気持ちを理解しないで偏見をしていた。
「私は姉さんの気持ちを知らずに突き放した態度をとってました」
私は姉さんに深く頭をさげた。
「ごめんなさい姉さん。姉さんの気持ちを知らずに私は姉さんのことを」
「箒ちゃん」
頭をさげていると姉さんが私を包むように抱き締めた。
「箒ちゃんは何も悪くないよ。悪いのは私なんだから」
「姉さん、私は」
「その原因をつくったのは私自身なんだから。いっくんとちーちゃんとゆっくんとまーちゃんと離れ離れにしたのは私がISを開発したからだよ。箒ちゃんは悪いことなんてひとつもないよ」
姉さんの手は髪をとかすように撫でてくれる。
「箒ちゃんがいっくん達と楽しく過ごしてくれるならお姉ちゃんはそれだけで幸せなんだから」
「でも……でも、わたしは……」
「ごめんね箒ちゃん……私のせいで箒ちゃんの人生をメチャクチャにしちゃって本当にごめんね……」
「姉さん……ねえさぁん……」
今まで溜めていた涙が流れてしまう。
ISを開発したせいで家族や一夏達とバラバラになってしまったが姉さんは独りでいたのに私は突き放した態度しかとらなかった。
姉さんも本当は辛いのに私は姉さんの気持ちすら理解しようとしなかった。
私が泣き止むまで姉さんは優しく撫でてくれた。
「落ち着いた箒ちゃん?」
「はい……ご迷惑をおかけしました」
涙が止まると姉さんから離れる。
「姉さんはこれからどうするんですか?」
「また逃亡生活をするよ。束さんはみんなの人気者だからね」
「IS学園には来ないんですか? あそこなら各国企業から干渉せずに」
「所詮、人がつくったお約束だから簡単に破ると思うよ」
姉さんの言葉を否定することは出来なかった。
国同士が決めた法律とはいえ、姉さんを捕まえるならそんな法律を簡単に破るだろう。
「大丈夫だよ箒ちゃん。もし何かあったらお姉ちゃんがすぐ駆け付けるからね」
「必要ありませ……いえ、そのときはお願いします」
「うん。じゃあね、箒ちゃん。お姉ちゃんは箒ちゃんのことちゃんと見てるからね」
「はい」
一礼をして私は姉さんと別れた。
ありがとう悠人。
悠人のおかげで私は姉さんに本心を伝えられて和解出来た。
次に姉さんに会うときは心から嬉しい気持ちになれる。
◇
「それにしてもなんでガンダムが現れたんだろう」
海岸沿いの崖から離れた僕は思わず呟いた。
架空の兵器であるガンダムが今、ここでISの機体として存在している。束さんが開発したならまだ分かるが束さんはガンダムを作ってないと言った。なら、誰がガンダムを作って僕に渡したのか?
「また……ガンダムが出てくるよね」
砂浜を歩いていた僕は海を見た。
満月が昇っていて月明かりが海を照らしている。
「もし、ガンダムが出て来たら、そのときは戦わないとね」
覚悟はある。僕は戦う。
ガンダムを操縦するパイロットとして。
「悠人君」
誰かに呼ばれて海を見るのをやめて振り向いたら簪がいた。
「簪?その格好って……」
今の簪の格好だが水着の格好である。泳ぎに来たのかな?
「悠人君、その……ごめんなさい!」
簪がいきなり頭をさげて謝ってきた。
「え、えっと簪」
「あのとき……シャルロットが男装していたことをみんなに話したとき私は悠人君のことを叩いちゃった。シャルロットにも事情があって悠人君もそのことを知ってたから隠していた。けど、私は頭に血がのぼって悠人君を叩いて酷いことを言ったから」
シャルロットが自分の正体を明かしたときのことを言っているだろう。
クラスの女子は戸惑っていたし、簪もみんなと同じ気持ちだっただろう。
「別に僕は叩かれたことは気にしてないよ。あのことを話したのは鈴だけ……あ」
不味い……思わず口を滑らしてしまった。これだと怒っても文句言われない。
「簪、今のはその」
「知ってる。鈴が話してくれたから」
あれ、知ってるの?でも、どのタイミングで鈴はその事を話したんだ?
「一昨日、山田先生に部屋に呼ばれてね。そのとき鈴がシャルロットが男装をしていたことを知ってたって話したの」
臨海学校初日にみんなが僕の部屋に集まってソワソワしていて何話してたか教えてくれなかったがそのことを話してたんだ。
「本当なら悠人君が部屋に戻ったときに謝ろうと思ってたけど怖くなって……悠人君が私を庇って海に墜ちたときすごく後悔した。悠人君が戻ってきたときに謝れば良かったって何度も……何度も……」
「ありがとう簪」
簪は何も悪くないのに僕に謝ってくれた。
シャルロットの事情を隠していてそのことで叩かれたのは仕方ないと思っていたが僕を叩いたことに罪悪感を持ち、そのことでずっと苦しんでいた簪は勇気を出して謝ってくれた。
「シャルロットの事情を隠してたことは怒っても仕方ないよ。それなのに簪は謝ってくれた。それだけで十分だよ」
「だけど私は悠人君を」
「さっき言ったけど僕はもう気にしてないから。簪が謝ってくれたから許してあげる」
「でも……」
もう気にしていないのになかなかひいてくれない。あ、そうだ。
「なら、簪の水着をじっくり見たいな」
「ふぇ!?」
予想外の発言で驚いている。
僕だってこんなことは言わないけど簪が折れるならこれしかなかったと思った。
簪が慌てているけど流石に水着を見たいはやり過ぎたようだ。
「なんて」
「いいよ」
「えっ」
「この水着、悠人君に見せようと思ってたから」
そ、そうだったんだ。
本音さんは僕のために水着を選んだと言っていて冗談だと思っていたがまさか本当に僕のためとは思わなかった。
「似合うかな……この水着」
目は泳いでいて落ち着かない表情。月明かりに映された簪の姿は神秘的にも見える。
「似合ってるよ簪」
「あ、ありがとう……も、もっと近くで見ていいんだよ?」
水着を近くで見せようと近付いてきてくる。
「この水着ね、本音に相談して選んだの。悠人君はどういう水着が好きなのか考えたら本音が大胆な水着にすれば良いって言ってこの水着を選んだの」
近くで見ると簪って鈴やラウラに比べて意外と胸ある。水着のサイズが小さいのかその胸が大きく強調されている。
「ゆ、悠人君。もしかして気になるの?」
「気になるって?」
「悠人君……私の胸を見てる気がして」
「そ、そんなことないよ」
「そうだよね……シャルロットや本音に比べれば私の胸なんて…」
えっと、見ていないと嘘を言ったら簪が落ち込んじゃった。どうしよう……正直に話したほうがいいかな?
「か、簪……実は見てたよ。その、簪の……む、胸を」
「見てたの?」
視線がすごく怖い。睨んでるようにも見えるが言ったことは覆せない。
「はい、見てました……」
正直に答えると簪が手を振り上げた。
これは僕を叩こうとしてる動き。正直に話したとはいえ、胸を見て怒るのは仕方ないよね。叩かれるのを甘んじて受けよう。
次にきたのは叩かれる音と痛みではなく僕の手を掴んで柔らかい『何か』を触れる感触だった。
「き、気になるなら良いんだよ? 私……悠人君なら触られても良いから」
振り上げた手は僕の手を掴んで簪は自分の胸に押しつけていた。
「か、かんざ、し……なにをやって」
手を離そうにも力強く掴んで離してくれない。
「こんなことをするのは悠人君だけ……ううん、悠人君にしかしない」
「な、なんで、こんなことを……」
「私、逃げないって決めたから……悠人君と向き合うって決めたから……だって」
泳いでいた視線が何かを決意した視線に変わった。
「私は悠人君のことが好きだから!」
僕を見ながら告白してきた。
「僕が……好き?」
「うん……悠人君のことが好き」
「な、なんで……僕を?」
「打鉄弐式の開発を手伝ってくれて、何度も助けてくれて、私のために必死な悠人君がカッコいいから。私は……私は好きになったの」
手から伝わる簪の鼓動は早鐘を打つように大きく鳴っている。
「臆病で惨めで情けない私じゃ、悠人君とは釣り合わないのは知ってる。だけど私は好き……好きなの、好きになっちゃったの」
顔を真っ赤にして息切れをしそうになっている。
「鈴やシャルロット、ラウラも悠人君のことが好きなのは知ってる。でも私も好きなことを忘れないで!」
「かんざ──」
僕の手を離した簪が走り出して何処かに行ってしまい、僕はその背中を追うことは出来なかった。
「柔らかかったな……簪の胸」
簪の胸を触れていた感触を思い出して顔が赤くなり、潮風が熱を帯びた頬を冷やしていく。
なんとなく感付いていた人はいましたが簪のフラグをたてた悠人
それと悠人の両親の名前が出ましたね
それぞれ宗村(ときむら)と舞(まい)と呼びます
今回のタイトルはそれぞれの話を元にしています
衝突(姉と弟の譲れない思い)
和解(姉と妹がお互いの気持ちを伝える)
本心(少年と少女の決意)
皆さん来年もよろしくお願いします