インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「ここは……」
砂浜の上を一人歩いていた。
白式を装着していた俺はいつのまに制服を着ていて手には自分の靴を持っている。海水で濡れないようにズボンの裾は捲っている。
「ラ、ララ~♪ララン♪ララン♪」
歌声が聞こえる。とても綺麗な声で心が洗われるような気分になり、声の方へ歩いていく。
「ラ~ランラン♪ラララ♪ラララ♪」
そこに少女がいた。
少女は素足のまま踊るようにクルクルと回って歌っていて白くて長い髪が少女の動きに合わせてなびいている。
近くにあった流木に腰を下ろして少女の歌を聞いている。
ザァン……ザァン……。
さざ波の音と時折吹いてくる風が心地良い。
「行かなきゃ……」
ふと気がつくと少女は歌は終わっていて踊るのを止めていた。
「どうしたんだ?」
少女に近付いてみると空を見ていた。空になにかあるのかと思い、俺も少女と同じ空を見る。
「私を呼んでる……行かないと」
「行くってどこに」
視線を少女に戻すとそこには少女の姿はなかった。
「あれ?何処に行ったんだ?」
左右を見るがあるのは俺が座っていた流木と少女と見ていた空だけだった。
「力を……欲しますか?」
後ろから声をかけられて振り向いた。
その姿は身体全身を包む白い甲冑を身に纏い、手には身の丈程の大きな剣を地面に突き刺していた。
顔は目を覆う西洋の鎧兜に隠されていて下半分しか見えない。
「力を欲しますか?」
「そうだな……うん、必要だな」
「何のために……?」
何のために力が欲しいか……難しいことを考えるのは俺には苦手だし……いや、こういうのは分かりやすくシンプルな答えがあった。
「友達……仲間のためかな」
「仲間……」
「俺はみんなに守られてばかりだった。だから俺は仲間を守りたい。そのために力が欲しいんだ」
「なら……行かないとね」
少女の声と共に周りが眩しいほどに輝きはじめた。
◇
「うっ……」
輝きがなくなり気がつくと見知らぬ天井で周りは薄暗かった。
「一夏……起きたのか?」
声の主を確認すると髪を解いて長い髪を揺らしている箒が隣に座っていた。
「ほう……き?」
「一夏……いちかぁ……」
涙を浮かべて俺の身体に抱き付いてくる。肩は震えて離さないと言わんばかりに抱き付いている。
「箒……ここは……」
「旅館の部屋だ。私はお前が起きるまでずっと側を離れず看病してた」
「そうか……ありがとう」
安心させるように頭を撫でた。
「あ、そうだ。箒に渡すものがあった」
箒から離れると旅行鞄を開けて『あるもの』を取り出した。
「これは……リボン?」
「誕生日おめでとう箒」
今日は箒の誕生日。
いつもポニーテールにしているので普段付けているものが良いと思ってリボンにした。
「これは……私のために?」
「そうだ。ほら、付けてみろよ」
リボンを受け取った箒は髪を一束にしてリボンを結んだ。
「やっぱり箒は髪を結んだほうが似合うな」
「似合うって、一夏!」
「お、怒ってるのか?」
「い、いや、違う。怒っているんじゃなくて。その……あ、ありがとう」
「あ、あぁ……」
喜んでいるんだよな?ならいいか。
「そういえば箒、みんなはいるのか?」
「それは……」
「頼む箒、みんなは……悠人は何処に行ったんだ」
「……姉さんから聞いた話だと一夏の仇をとるために」
俺から視線を外して静かに答えた。
「俺の仇って……ならあいつら!」
「待機命令を無視してガンダムを倒しに海に行った」
「だったら俺達も行かないと!」
「待ってくれ一夏」
布団をはね除けて部屋を出ようとしたら箒が腕を掴んできた。
「私の側に居てくれ……」
「だけど箒」
「頼む一夏……もう一夏が倒れる姿を見るのは嫌なんだ……私のせいで一夏が倒れてしまった。もうあんな事をしてほしくない」
弱々しい声だが俺の腕を掴んでいる力はとても強く、絶対に離さないと言わんばかりの力だ。
「一夏が側に居てくれるなら私はそれで良い……たとえどんな場所でも……一夏さえいれば……」
泣きそうな声で行かないで欲しいと言っている。確かに俺はあのとき死に際というのを体験した。
あれは本当に恐ろしいもので二度と体験したくない。だけど……。
「悪い、箒……俺は行かないと」
「どうしてだ……私達ではガンダムに勝てるわけがない。なのにどうして行こうとする」
「勝てる勝てないの問題じゃない。俺は悠人を……みんなを助けたいんだ」
「なぜだ! 私は危険な場所に行かなくても良いと言っている! なのになぜお前は行こうとする!」
「みんなが大切だからだ」
だから俺は助けに行かないといけない。
実の親が何処かへ行ってしまって俺と千冬姉は見知らぬ親戚に引き取られそうだったとき悠人の家族が助けてくれた。俺と千冬姉は赤の他人なのに自分の子のように愛してくれた。
「悠人が居てくれたから今の俺と千冬姉がいる。俺にとって悠人は命の恩人なんだ」
悠人の両親が亡くなったときは俺は悠人と真耶さんを絶対に守ろうと心から誓った。千冬姉も俺と同じ気持ちだと思う。
「本当に行くのか一夏……」
「言っただろ? みんなを助けに行くって」
「だけど、私は」
「いっくんを説得するのは無理だと思うよ、箒ちゃん」
箒以外の声が聞こえて部屋の襖を見ると束さんがいた。
「いっくん、ゆっくんを助けに行くんだよね?」
「はい」
「なら、これを渡すね」
束さんが近付いて待機状態の白式にコードを差し込んだ。
「今、送ったデータにゆっくんがいる場所をさしてる」
「束さん、ありがとうございます」
「今の私に出来ることはこれくらいしかないから」
「姉さん……私は」
「箒ちゃん。今、箒ちゃんがやることはゆっくんを助けることだと思う。私と話すのはゆっくんを助けてからね?」
「……はい!」
「箒、俺と一緒に悠人達を助けに行こう」
「勿論だ」
俺と箒は悠人達を助けるために部屋を出た。
◇
「一夏、悠人がいる場所まで後どれくらいなんだ?」
「もう少しで着くと思う」
束さんから貰ったデータを目印に俺と箒は海上を飛んでいる。
「悠人達……無事だと良いんだが……」
「いや、絶対に無事でいる。悠人がみんなを守っているに違いない」
はやく悠人達と合流しないと。
「いた!」
4機のガンダムが1機のガンダム……多分、悠人が乗っているガンダムだろう。そのガンダムを囲うように攻撃していた。
鈴達はガンダムから離れていて悠人が戦っている姿を遠くから見ている。
「悪い、待たせた!」
「みんな、大丈夫か!」
「一夏……箒!」
鈴が俺と箒を見るとみんなも気付いて、近付いてくる。
「一夏、あんたその格好」
「もしかして一夏も
「どうやらそうらしい。目を覚ましたら白式の装備が追加されていた」
鈴とシャルロットに言われたが俺の白式は進化していた。
新たに増設された大型のスラスター。左腕にはビームを撃てる兵器が増築されている。
「『雪羅』……これが俺の新しい装備らしい」
俺の装備の説明なんて後でいい。今は悠人を助けないと。
「ここに来るとき近くに無人島があった。鈴、お前らはそっちに行って待ってろ」
「嫌よ。アタシ達も戦う」
「そんなボロボロの状態じゃ、足手まといだ」
「それぐらい知ってるわ。だけどあいつらに一度くらい殴らないとアタシの中にある怒りが収まらないのよ」
「みんなの仇は俺が」
「やらせたらどうだ一夏」
お互い一歩も引かずにいると箒が間にはいる。
「女というのは愛する人のために何度でも立ち向かう。たとえボロボロになってもな」
箒……。
「悠人も一夏と同じことを言うだろう。だが、私達は愛する人のために戦う。どんな戦いであっても。それにここで言い争って悠人が墜とされたら元も子もない」
珍しく、箒の正論で俺は何も言えなくなる。
「鈴、準備に時間はかかるか?」
「シールドエネルギーの状態を見てから可能なら譲渡してもらうつもり」
「なら、その時間は私が稼ごう。行くぞ一夏」
「あ、あぁ!」
いつのまにか箒が指揮をしていて俺は悠人を助けるために雪片弐型を構えた。