インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「パーフェクトとガンバレルは破壊されて使えないから残っているストライカーパックは4つか」
僕が使っているストライカーパックはパーフェクトストライカーの簡略版であるI.W.S.P.。
劇中では使われることはなかったがSEED DESTINYでは式典としてストライクルージュのストライカーパックとして使われていた。
武装はレールガンと単装砲、対艦刀がそれぞれ2つ。シールドには6連装ガトリングが備え付けられていて、ソードストライカーパックのマイダスメッサーと同じビームブーメランがシールドに装着されている。
このI.W.S.P.はビームブーメラン以外全て実弾なのでPS装甲持ちのガンダムに対抗できる武装はなく、唯一ビーム兵器はビームライフルのみである。
「ガンダムの機影を確認した。砲撃用意をする」
シュヴァルツェア・レーゲンの両肩には大型レールカノン砲『ブリッツ』を装備していて左右に1つ、前に2つ……計4枚の物理シールドがラウラの機体を守っている。
「ターゲットロック……ファイア!」
ドガンッ!と耳を塞ぎたくなるような爆音と共に砲弾が発射された。
「初弾命中! 次弾装填後、引き続き砲撃を行う」
レールカノン砲を撃った後に出る光で僕達の存在を知られ、ビームを撃ってくる。
「やらせない!」
ラウラを守るように僕は前に出ていく。狙う機体はただひとつ
「さあ、再戦と行こうかプロヴィデンス!」
シールドに備え付けられているガトリングの銃身は回転しながら実弾を吐き出していく。プロヴィデンスはドラグーンを射出して、僕を囲うように配置されビームを撃ってくる。
可能な限り避けているが技術不足なのか被弾を許してしまう。決死の覚悟でプロヴィデンスに近付いて対艦刀2本を抜いた。
「うぉぉぉぉ!」
対艦刀を使った我流剣技でプロヴィデンスのシールドエネルギーを削ろうとするがシールドに内蔵されているビームサーベルで防がれる。
「こんちくしょうが!」
蹴りも追加させているがシールドエネルギーが減っている様子はない。
「僕じゃ……やっぱり無理なのか」
わかってる……わかってるんだよ。戦いなんて僕には向いてないことぐらい。
一夏のような強い信念なんてない。箒のように剣を上手く扱えない。セシリアさんみたいに高度な射撃は出来ない。鈴みたいに努力して結果なんて出していない。シャルロットみたいに高速で武器の入れ替えなんて出来ない。ラウラみたいに部隊長のようなことは出来ない。簪みたいに大量のミサイルを操作なんて出来ない。
僕はその辺にいるただの人間なんだ。
「けど……」
こんな僕を好きだと言った人がいる。僕は一夏みたいにはなれない。
だけど……それでも僕は!
「守りたい人達がいるから僕は!」
負けるわけにはいかないんだよ!
「この距離なら!」
近距離でレールガンと単装砲、イーゲルシュテルンを撃つとプロヴィデンスに被弾した。
PS装甲だからダメージはないと思うがせめてシールドエネルギーだけでも削る。
「ドラグーンが僕から離れて」
僕が近距離にいるからドラグーンを撃てないのはわかる。なら……はっ!
「その場から離れろ! ガンダムを巻き添えにドラグーンが来るぞ!」
オープン・チャンネルを使ってガンダムから離れさせるように言った。敵味方関係なくドラグーンを使うなんて想像出来なかった。
『悠人、アタシ達は離脱したから大丈夫だけど』
『簪さんがまだガンダムと戦っていていますわ!』
遠くから簪を確認するとフォビドゥンのニーズヘグによる近接格闘していて離れることが出来ていない。
『嫁、私が近付いてAICで動きを止める!』
『待ってラウラ、僕のガーデン・カーテンで簪を防ぐから!』
『そのシールドじゃ耐えられるわけがない!』
『AIC使って動きを止めてもドラグーンのビームで撃たれたら終わりなんだよ!』
『そのシールドでも同じことだ!』
どうする、ここはもう一度簪に言うか?それとも僕が救援にいくか?
2人が言い争っていると簪とフォビドゥンの周りにドラグーンが配置されていく。
「不味い!」
プロヴィデンスから離れると背後からユーディキウム・ビームライフルを撃ってくる。
「I.W.S.P.パージ! エールストライカー!」
I.W.S.P.を盾にしてエールストライカーを装着、
「あ……」
簪はドラグーンが周りにいるのを気付いた瞬間、恐怖に染まってしまい動けずにいた。計11基のドラグーンが簪に向けていた。
「まぁぁぁぁにぃぃぃぃあぁぁぁぁえぇぇぇぇ!!!」
機体を軽くするためにエールストライカーパックを外して簪に近付いた。
「悠人く──」
簪と触れる距離にたどり着いた瞬間、合計43発のビームが撃ちこまれるが僕は簪の身体を守るように抱き締める。
「くっ、うぅ……がぁ……」
歯を食い縛ってただひたすら痛みから耐える。
耳元から響き渡る大量のアラート音。ハイパーセンサーからシールドエネルギーとPS装甲の限界数値を表示しているがそんなのを見ている余裕なんてない。
ビームをなんとか耐えきり、簪に被弾していないか確認しようと腕を離した。
「ゆ、ゆうと……く……」
今でも泣きそうな顔をしていた簪。良かった、どこも怪我はしていないようだ。
「なんで……私なんか庇って……」
「そりゃ……危ない!」
突き放すように簪を押し出して僕から離れされると
「……!」
フォビドゥンのフレスベルグ、カラミティのシュラークとスキュラ、レイダーのツォーンがストライクに被弾した。
「かはっ……」
身体全身が焼けるように痛い……意識が……
「まだ……僕は……ここで……ガンダムを残した……ま……ま……」
身体が重く感じて目の前にいる簪の姿が水によって遮られ──
◇
「嘘だよね……」
ストライクが海に墜ちてしまった……私のせいで悠人君が……。
「うっ……」
目の前に
あいつらが悠人君を……悠人君に!
「うわぁぁぁぁ!」
薙刀を構えてフォビドゥンに近付く。
「あぁぁぁぁ!」
フォビドゥンも大鎌を振り上げるが柄で鎌の部分を弾き飛ばして、斬りつける。
「よくも悠人君を!」
ランチャーストライカーパックの稼働データを流用して開発した荷電粒子砲『春雷』を構えて撃つ。
撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
春雷を撃ち続けているとフォビドゥンのバックパックにある左右のシールドを前に向けるが……。
「邪魔だぁ!」
薙刀の構えなんて関係ない!ただシールドを叩き壊す!
力任せに薙刀を持ってシールドに叩きつけた。
打鉄弐式の装備である
私から距離をとろうと離れていくが。
「逃がさない!」
キーボードを複数呼び出して一斉に入力する。
「大気の状態……格弾頭の機動性、タイムラグ……爆発における相互干渉……発揮出来る攻撃力……」
キーボードを打ち込み、山嵐の発射準備を整える。
「山嵐……起動!」
打鉄弐式の周囲に8連装ミサイルポットが6機……合計48発のミサイルがフォビドゥンに向けて発射された。
フォビドゥンは全ての兵装を使ってミサイルの迎撃しているが何発か撃ち漏らして着弾、他のミサイルも追うようにフォビドゥンの機体にいって全体が隠れるほどの爆発がフォビドゥンを包んだ。
「この量なら」
ISとはいえ、この量のミサイルを撃ちこんだなら─
「うそ……」
煙が消えてその姿が見えるとフォビドゥンの機体があった。シールドエネルギーがなくなって装甲には多少の傷があるが機体自体何ともなかった。
「本当にTP装甲なの……」
フォビドゥンのビーム兵器が私に向かって放たれた。
回避しようにも恐怖で動けず打鉄弐式にあたってしまう。
「あぐぅ……!」
打鉄弐式のシールドエネルギーがもう……。
「ごめなさい……悠人君……」
突き放した態度をとって……ごめなさいって言えなくて……仇を取れなくて……役立たずで……ごめなさい……。
◇
「うおぉぉぉぉ!」
片手に一挺づつサブマシンガンを構えてカラミティに撃ち続ける。実弾だから仮に被弾しても機体には傷1つ付かないのは私でも知っている。
だけど……。
「悠人を返せぇぇぇぇ!」
私の居場所を
お母さんがいなくなって会社で居場所はなく、唯一血の繋がりがある
スパイ目的で悠人に近付き、正体がバレて自首しようとしたとき悠人が引き止めてくれた。IS学園では女の子として普通に生きていけるようにしてくれた。
心から信頼出来て、私がはじめて好きになった人を!
「……ッ!弾切れ!」
サブマシンガンを捨てて、
「シールド展開!」
エネルギーシールドを前方に展開させてビームを拡散させる。
「今のでシールドのエネルギーがけっこう持ってかれたね……」
あと1、2回が限界かもしれない。悠人はそれを……。
「くっ……うおぉぉぉぉ!」
煮えきったお湯のような怒りが込み上げてきて、
「許さない……」
「あんた達だけは……絶対に!」
接近しながら
カラミティがシールドで散弾を防いでいるがラファール・リヴァイヴカスタムⅡの装備である物理シールドをカラミティのシールドに叩きつけ、盾の裏に隠している兵器をカラミティにむけた。
私が取り出した兵器は
杭とリボルバーの核である回転式弾倉を一体化させたパイルバンカー。
通称『盾殺し』。
「その盾ごとお前の機体を壊してやる!」
ズガンッ!
火薬の爆発と共にパイルバンカーがカラミティのシールドを壊すがシールドが凹んだだけだった。
「
弾倉が回転して次の火薬が爆発してパイルバンカーが放たれる。
「返せっ! 返せっ! 返せっ! 返せっ! 返せぇぇぇぇ!」
同じ場所を何度も何度も撃ち続けて6発目でシールドを貫通した。
「これで!」
「しまっ……」
ガーデン・カーテンを展開しようにも間に合わず、カラミティのスキュラを直接喰らう。
ラファール・リヴァイヴカスタムⅡのシールドエネルギーが限界に達しそうになる。
「このまま海に落ちたらお母さんのところに行けるかな……」
ここで死んでお母さんのもとに行けるならもういいかな。
「でも、お母さんがいなかったら独りなんだよね」
私が死んでお母さんがいなかったら私は独りで生きないといけない。
そう考えると身体中に寒気が……恐怖が襲ってきた。
「嫌だ……独りは……独りぼっちは……」
もう独りでいるのは嫌だ!
私にはもう悠人しかいないの。悠人だけが私の……私の不安を取り除ける唯一の居場所なの。
「お願い、悠人を……私の居場所をとらないで……」
私の居場所を奪わないで……。
◇
「一夏だけじゃなくて……悠人まで!」
龍砲と新たに増設された機能増幅パッケージ『崩山』の砲門がレイダーに向かって撃つ。
本来なら見えないはずの衝撃砲は赤い炎を纏っていて、不可視の弾丸ではなく炎を纏った火炎弾。
「逃がさない……」
「悠人を……アタシの好きな人まで奪って!お前達だけは絶対に許せない!」
アタシの怒りを現すように炎の弾丸がレイダーに向かっていくがミョル──あぁ、もう!まどろっこしい!ガンダムハンマーを投げてくる。
「そんな鉄球!」
少し溜めて龍砲を撃つとガンダムハンマーにあたって跳ね返されてレイダーに直撃する。
「ふっ」
思わず鼻で笑った。
投げた鉄球が自分に跳ね返されて良い気味だわ。
レイダーはMS形態からMA形態に変えてマシンガンを撃って接近してくる。
双天牙月を盾に銃弾を防いでいるがレイダーのクローが左側の龍砲を挟み、その鋭い刃が内部まで食い込んだ。
「龍砲が!」
不味いと思い、すぐ左側の龍砲をパージすると爆発した。遠距離兵器のひとつが失われてしまった。
「アタシの装備は龍砲がひとつと双天牙月がふたつ」
圧縮した衝撃砲でははっきり言って勝てる見込はない。悠人が言ったようにビーム兵器じゃなければ装甲を貫くことはできない。
だけど……。
「一発殴らないと気が済まないのよ!」
多少の被弾を覚悟でレイダーに接近して双天牙月を振り上げるがクローで防がれる。
「くっ、うぅ……」
歯軋りをして双天牙月とクローのつばぜり合いをしているとレイダーの口からビームを出してきた。
「背は腹に変えられないわね」
唯一の遠距離兵器である龍砲を盾にした。
ビームに耐え切れなかった龍砲はスパークを起こしてしまい、パージさせて誘爆を防いぐ、これでアタシが持っている武器は双天牙月だけ…
「アタシじゃ……悠人を守ることなんて……」
勝てないと理解してしまい双天牙月を手から離してしまう。
「神様……あんたって酷いよね。アタシの大事なものみんな持っていくんだから」
お店も家族も幼馴染みも……そして好きな人も……。
「ぐぅ……」
ガンダムハンマーが甲龍に直撃してシールドエネルギーが削られた。
「返せよ……」
アタシの好きな人を……悠人を返してよ。
中国に戻って悠人が好きと言えなくて
お願い……お願いします。これ以上アタシの大切なものを盗らないで
悠人を返してよ……。
◇
「ブリッツ、パージ!」
遠距離から砲撃をしていたがプロヴィデンスガンダムの持つビームライフルがブリッツに直撃した。専用機であるシュヴァルツァ・レーゲンの誘爆を防ぐために廃棄する。
「残るはワイヤーブレードとプラズマ手刀、物理シールドのみ」
砲撃兵器を失い、機体にダメージを与えるには接近しなければならない。
「やるしかないか」
シュヴァルツァ・レーゲンを囲うように物理シールドを展開して接近する。プロヴィデンスのビームライフルとビットからビームが放たれる。
「AICはあまり使えそうにないな」
ビーム兵器に複数のビットを持つプロヴィデンスだと相性が最悪だ。
「だが、私は誇り高きドイツ軍人。後退の二文字など存在しない!」
物理シールドを操作してビームを防ぎ、プラズマ手刀で斬りつけるがシールドに内蔵されているビームサーベルでつばぜり合いをする。
「隙があればAICを……」
一瞬、ほんの一瞬でいい。
AICで動きを止めて武装を破壊すれば少なからず私に勝算が上がる。意識を集中させてプロヴィデンスの動きを制限させる。
「はあっ!」
大型ビームライフルを斬り付けるとプロヴィデンスは大型ビームライフルを捨てて、目の前に誘爆を回避するのに意識を途切らせてしまう。
動けるようになったプロヴィデンスは頭部と肩部に搭載されている機関砲を撃ちながら後ろにさがった。逃がしてしまうがメインである大型ビームライフルが使えなくなるのは私としてはかなり大きい。この調子で少しづつ確実に武装を──
「ちっ」
ビットが私の周りを飛び回りビームを次々と撃ってくる。
近付こうにもビットが邪魔で上手く近付けず、物理シールドのひとつが貫通していまいシュヴァルツァ・レーゲンに被弾した。
「貫通したか……仕方ない」
貫通して穴が空いた物理シールドをプロヴィデンスにむけて投げるがビットのビームにより粉々になって消えた。
その後もビームの雨を掻い潜るが疲労が少しづつ溜まりビットのビームが被弾する。
「くっ……」
シールドエネルギーを確認するとゲージが赤く染まり、残り僅かになっていた。
「あのガンダムに乗るパイロットも私と同じように人の欲望のために生まれたと嫁は言っていた」
ラウ・ル・クルーゼ。
人の欲望によって人工的に生まれた存在。コーディネーターという生まれたときから能力が高い人達のなかに放り込まれた彼はナチュラル……普通の人間と同じ能力でありながら指揮官になった。
周りが優秀でありながら指揮官になれたのは彼も私と同じように死にもの狂いで努力をしただろう。
「だが彼は私と違って誰にも頼らずに指揮官となった」
私からして彼の努力は尊敬に値するものだ。織斑教官のような人の力を借りずにエリートを越えた。
「見事だ……」
すまない悠人……仇をとれなくて。
もし、あの世で逢えるなら、そのときは私の全てを……。
◇
「あ、あぁ……」
悠人さんが海に墜ちてしまい、鈴さん達がボロボロになってしまった。
「これが……ガンダムの強さですの……」
恐ろしい。
この言葉以外に思い浮かべる言葉はなかった。
逃げ出したい。
これ程、恐ろしい機体と戦っても勝てるわけがありません。
仲間を置いて逃げた臆病者と言われても構いません。この場から真っ先に離れたい。
離れたいのに身体がすくみ、動けない。
「助けてくださいお父様……お母様……」
今は亡き両親に助けを求める。お父様とお母様はもうこの世界にはいない。祈りが叶わないと分かっていますが。
「一夏さん……」
愛する人に助けを求めてる。
ザバァン!
海から水飛沫を上げて『何か』が空に飛んだ。上空から4つのレーザーが放たれてガンダムの機体に被弾する。
「あれは……」
月明かりがその『何か』を映した。
悠人さんの専用機であるストライクに似ている機体。
左右のスカートには折り畳まれた武装。その上に筒状の棒……ビームサーベルが備え付けれている。
右手にビームライフル。
左手に大型の物理シールド。
背中の翼を大きく開かれるとわたくしのブルーティアーズと同じ蒼の色をしている。
その機体を見たときわたくしはこう思いました。
蒼い天使。
ストライクに似た蒼い天使…いったい何ダムなんだ