インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
今回はかなり長い&原作2巻が終わります
「悠人……」
あいつの名を口にする。
織斑一夏とは違う雰囲気。
普段は優しく、戦うときは勇敢、私の不意を付くような行動をよく仕掛ける。
「友達……か」
悠人は私を友達と言ってくれた。あんなことを言うやつは生まれてはじめてだ。まさか男子に言われるとはな。
『ボーデヴィッヒさんを支える人が見つかるまで僕が一緒にいてあげる』
私を支えてくれる人……それはお前じゃないとダメなのか?お前以上にいる人はいるかもしれないが仮に見つからなかったらずっと一緒にいてくれるのか?
「いや、私には必要ない」
そうだ、必要ない。私はお前と一緒にいたい。見つかったとしても私はお前の側から離れたくない。
「これは……」
それは多分、私が女だからかもしれない。人というものは異性に意識すると心が乱れると聞いた。
「あぁ……」
これはあいつに惚れてしまったかもしれない。
心臓が速く動く、悠人のことを考えると緊張して笑ってくれると嬉しく、辛そうにしていると悲しくなる。
「この気持ち……悪くない。むしろ心地いい」
これが恋というものか。
◇
「そういえば学年別トーナメントはどうなるの?」
「一回戦だけやるって姉ちゃん言ってた」
ボーデヴィッヒさんのIS暴走により、学年別トーナメントは中止となった。
僕と一夏は事情聴取をしていて食堂の終了時間ギリギリだったのに箒とシャルルが待ってくれていた。
「トーナメントが中止……」
「交際……無効……」
「「「うわぁぁぁぁぁん!」」」
一部の女子が泣きながら食堂を出て行った。一体何なんだ?
「そういえば箒」
「な、なんだ?」
一夏の隣に座っている箒だがなぜか元気がない。疲れてるのかな?
「先月の約束だが……つき合っていいぞ」
「ほ、本当か!」
おぉ!いつ箒が告白したのかわからないけど一夏はついに箒の告白を──
「買い物くらい付き合うぞ」
思わず僕はずっこけた。
ゲシッ!
「いってぇぇぇぇ! なにするんだよ!」
「自分が言った言葉を思い出せ!」
一夏の足を踏んづけてトレーを持ち、返却口に行ってしまう。
「一夏……今のはないよ……」
「うん、箒が可愛そうだ」
「俺……箒になにかしたか?」
「「した」」
「あ、ここにいましたか」
姉ちゃんが食堂に来ると僕達を見つけて近づいた。
「先生、どうしたんですか?」
「実は朗報です! なんと男子の大浴場が使えるようになりました!」
「おぉ! 本当ですか! 使えるのは来月あたりかと思ってましたが」
「今日は大浴場のボイラー点検があった日なので元々使えない日なんです。ですが点検自体は終わってますから男子だけで使ってもらおうと思いまして」
へぇ~もう風呂使えるようになったんだ。どんな大浴場なのか楽しみだ。
「ありがとうございます!山田先── 」
ゲシッ!
「あいたぁ!」
姉ちゃんの手に触れる前に一夏の足を踏んだ。
「悠人……てめぇ……」
「喜ぶ気持ちは分かるけどとりあえず落ち着け」
「それと足を踏むのとはどういう関係があるんだよ……」
「過去の出来事を思い出したまえ」
てめぇの
「箒といい悠人といい……俺ってなにかしたのか…」
鈴……僕が言うのもあれだけど一夏を好きにならなくて良かったと思うよ。多分、僕を好きになる以上に大変だから。
「大浴場の鍵は私が持ってますから脱衣場の前で待ってますね」
そうだ、大浴場が使えるから──
「あっ」
ヤバい、非常にヤバい……。
「なあ、2人ともはやく部屋に戻って着替え取りに行こうぜ?」
一夏はトレーを持って返却口に行く。
シャルルの正体を知らないからそんなこと言える一夏がある意味羨ましい。
「そ、そうだね。行こう悠人」
「う、うん……」
どうすればいい……どうすれば……。
◇
部屋に戻って着替えを持つがシャルルだけ部屋にいるのは明らかにおかしい。
僕からしてシャルルは部屋で待つのは普通だけど僕以外の人はシャルルを男子と見ているからここで大浴場に行かないと怪しまれる。
「それじゃあ一番風呂をどうぞ!」
「ありがとうございます!」
一夏が元気良くお礼を言って僕達は脱衣場にはいる。
「どうしたお前ら?はやく風呂行こうぜ?」
上着を脱いで上半身裸になっている。
「先に行ってて一夏、僕達まだ服脱ぐのに時間かかるから」
「そうか?ならお先~」
スッポンポンになった一夏はそのまま大浴場へ行く。
「どうするシャルル……」
「どうしよう悠人……」
僕は問題ないが問題はシャルル。シャルルは女の子だから説明は不要。
「悠人、僕はここで時間を潰して頃合いを見て部屋に戻るよ」
「けど、僕より一夏が先に上がったら不味くない?ここで時間潰しているときに一夏が来たら」
「あっ、そうだよね……」
「僕がなんとか時間稼いでシャルルが入れるようにするよ」
「……お願い出来る?」
「任せろ! ……と言っても正直かなり不安です」
女の子がはいってるのを隠しながらはいるなんて普通やらないからね。
「シャルル、お先に」
「うん……」
服を脱いで僕も大浴場へ行く。
「おぉ……」
すげぇ……これホテルじゃないの?
大きい湯船を中心部にジャグジー、檜風呂、全方位シャワー、サウナ、打たせ滝まである。
「おーい、ゆうと~」
大きく手を振っている一夏はジャグジーにはいっている。
「すげぇよな、このIS学園! ジャグジーなんてデカいホテルじゃないとないぞ!」
風呂好き一夏にはたまらない充実設備だろうな。
一夏の趣味は温泉だし、夏休みの温泉旅行したとき一夏に任せたら良い温泉にも巡り会えた。
「全方位シャワーなんて映画でしか見たことないもんね」
試しに全方位シャワーを使って見る。
「うお!」
な、なんだ、この全方位からの水流攻撃は!これはちょっと癖になるって!
「これすげぇ気持ち良い。ハマるわ」
「そうだよな!」
藍越学園に入学しようとしたけどIS学園に来て良かったと思ってしまう。
「そういえばシャルルのやつ遅いな」
「準備に時間かかっているんじゃない?社長の息子なんだし」
「それもそうか」
本当は社長令嬢だけどね。
「一夏、サウナ行くぞ。ちょっと2人で話したいことがあるから」
「おう」
お互いタオルを持ってサウナ室にはいる。
「それで話ってなんだ?」
「男同士で話すことはひとつしかないだろ」
「話すってなにを」
「下の話だよ」
大浴場にシャルルはいるけどサウナ室には行かないと信じて僕はこのサウナ室で時間を稼ぐことにした。
「このIS学園って女子のレベル高いよね」
「それは俺も思った。海外からも来てるから黒髪黒目の女子とか少ないし」
「あとぶっちゃけるとおっぱい大きい子が多い」
「おまっ」
いやだって仕方ないじゃない。海外の女子ってみんなスタイルが良いもん。
ISスーツを着た女子の身体なんて下のオカズにしてくださいって言ってるようなものだしね。
「いや確かに気持ちはわかるけど」
「そういうお前だって箒のおっぱい嘗め回すように見てただろ?」
「んなわけないだろ!」
「否定するなよ……ほら、ここは僕しかいないから正直に言えって」
肘で一夏の身体をぐいぐい押す。
「えっと……最初に会ったときは驚いたな。見た目は変わりないけど箒もちゃんと成長しているんだなって」
「成長していたそのおっぱいが?」
「……あぁ」
あっはっはっは!
一夏もちゃんと男の子してる。関心、関心。
「そういう悠人はどうなんだよ?」
「鈴のこと?」
これは予想は出来ていた。僕が箒と話したら一夏は鈴のことを話すと思っていたからね。
「あ、あぁ……お前も鈴のことをエロい目で見たりしていないのかよ」
「ここだけの話。正直に話すと鈴の制服が色々アウト」
「肩を露出している以外普通だろ」
「その肩がアウトなんだよ」
あの肩を露出させた制服を着た鈴がエロいんだよ……何でか知らないけど……。
「悠人、肩フェチか?」
「それはわからない。鈴以外の肩はどうかは知らないけど」
なんで鈴は肩露出させたんだろう。
「制服といえばセシリアさんの制服とかってお嬢様っぽいよね」
「他の女子と違ってスカートも膝下だったしな」
「お嬢様学校とかって膝下スカートが鉄則なのかな?」
「さあ、どうだろうな?」
蘭の学園もお嬢様学校だから今度聞いてみよう。
「ボーデヴィッヒさんの制服はなんていえばいいかな……ナチスドイツの武装親衛隊の服装に見えるんだよね」
「それに関してはわからん」
「毛が生えた程度の知識しか教えないもんね学校だと」
ボーデヴィッヒさん……なんであんな軍人らしい制服にしたんだろう。
「そういえば俺のクラスで制服の裾をだぼだぼにした女子がいたな」
「丈があってないの?」
「いや、それがな。裾が合ってないのに胸が大きいから制服からその胸が見えるんだよ」
「一夏……裾より胸を見てたんだな」
「いや、ばっ、違うって!」
「いいって、否定するなよ。お前も男なんだからな」
ポンポンと肩を叩いた。
「なんかこうして下の話が出来る環境があるだけで心の中にある重荷をおろせるよな」
「それは同感。僕と一夏しか男はいないからこうやって心置きなく下話が出来る空間はほしいよね」
「全くもってそうだな」
その後、下の話に花を咲かせたせいで長くサウナ室に居座ってしまった。
サウナ室を出て、水風呂にはいりクールダウンさせて一度湯船に浸かって部屋に戻るときには頭の中がオーバーヒートしていた。
「な、長く……居過ぎた……」
「悠人……大丈夫?」
僕の頭はシャルルの膝においていた。俗に言う膝枕だ。
「シャルルはゆっくりはいれたの?」
「悠人達がサウナ室に行ってくれたからそれなりに入れたよ」
それは良かった。シャルルは女の子だから長湯したいよね。
「ありがとね悠人」
「いきなりどうしたの?」
「何となく悠人にお礼がいいたくてね。私がこうして生活出来たのは悠人がいてくれたからだよ」
「僕はなにもしてないよ?」
「ううん、悠人は私にいっぱいしてくれてる」
そう言って頭を撫でている。シャルルが撫でてくれるその手がとても気持ち良い。
「悠人……私、やっぱり正体明かすことにした」
「どうしてなの」
自分の正体を明かすと言って僕はシャルルの膝から離れて起き上がる。
「今はこうして隠しているけど近い内に正体はバレると思うんだ」
確かにさっきの大浴場みたいに一夏にバレそうになった。
「大丈夫だよ自首するんじゃないし、学園長にちゃんと訳を言って私はただ純粋にこのIS学園で生活したいって話すよ」
スパイ目的で男装して僕や一夏に近づいたシャルル。学園からしてそれを見逃す訳にはいかないだろう。
「僕も一緒に行く」
「悠人が行かなくても大丈夫だよ。これは私の問題だから」
「学園に報告しないでシャルルが男装していたのを隠していた。これは立派な共犯で僕も同罪だよ」
「悠人……」
「だからシャルル、僕も明日一緒に行ってあげるね」
「ありがとう……」
僕が居場所になるって言ったんだ。正体を明かしに行くなら僕だって匿っていたのを正直に話さないと。
「明日は学園長に話をしないといけないから今日ははやめに寝よう」
「待って悠人」
シャルルのベットから離れて自分のベットに行こうとしたら呼び止められる。
「私のことはシャルロットって呼んで。それが本当の私の名前、お母さんからもらった本当の名前なの」
「……シャルロット」
シャルル……いや、シャルロットの名前を呼んだ。
「おやすみシャルロット」
「うん、おやすみ悠人」
◇
翌日、朝早く起きた僕達は朝食を部屋で済ませて学園長室に行き、シャルロットは自分の正体と会社の状況を包み隠さず話した。
「それで君が男装したのは男性データを盗むためですねシャルロットさん」
「はい」
対面に座っている初老の男性はシャルロットに聞くと彼女は正直に答える。
「貴女も大変な仕事を任されてとても辛かったでしょう」
「いえ、学園長。僕……私はただ会社の社員の1人として働いていただけですので……」
初老の男性……轡木十蔵さんは表向きは用務員として働いているが本当の正体はこのIS学園の学園長だったとのこと。
日当たりの良い人で『学園の良心』とも呼ばれていた。
「どうしてそのことを話さなかったのかしら?」
轡木学園長の隣に座っているのは生徒会長である更識先輩。
なぜ、自分に相談しなかったのか僕に聞いてくる。
「更識せ……生徒会長は学園の生徒を守るのが仕事です。もし、デュノアさんのことを話せばスパイ活動をしていたと言って学園を追放すると思いまして……」
「だから教師である私にも話さなかったんだな」
「はい……」
一年の寮長である千冬さんも学園長室に呼んで僕は正直に話した。
「最初はスパイ目的で山田君や織斑君に接触しました。山田君に正体がバレたときは自首して刑務所に行く覚悟でいました」
「けど、僕は彼女を正体を知りながらあえて匿っていました。彼女も本当は好きでやっているわけじゃないって分かってます」
ソファから離れると床に膝をついて頭を擦り付けて土下座をする。
「お願いです。デュノアさんを……シャルロットを学園から追放しないでください。彼女は本当に学園生活をしたいだけなんです」
懇願するようにシャルロットを退学させないように頼んだ。
「もし、彼女を追放するんでしたら僕もこの学園を去ります。脅しでも脅迫でもありません。本当に学園を去る覚悟で言ってます」
シャルロットを追放するなら僕も本気でIS学園から退学するつもりでいる。
鈴には本当に申し訳ないと思っている。謝って許して貰える訳じゃないことはわかっている。
だけどシャルロット、1人だけ退学させるなんて僕は我慢出来ない。それなら僕だってこの学園を去って彼女を支えながら生きる道を選ぶ。
それがどれだけ醜くて非道な選択でもシャルロットが幸せになれる道が見つかるなら僕はそれでも構わない。
「悠人君……私達は誰もシャルロットちゃんを退学させるなんて一言も言ってないわよ」
「そうだ。お前達の生活を見て、純粋に学園生活を謳歌しているのは分かる」
「先輩……織斑先生……」
思わず頭をあげると更識先輩と千冬さんはシャルロットのことを退学するつもりは最初から考えていないと言わんばかりに僕を見ている。
「シャルロットさん、貴女は自分の境遇を……自分の正体を私達に話してくれました。本当は話してはいけないことを私達に……だから私は貴女の言葉を信じます」
「学園長……」
シャルロットの目尻には涙を浮かべていた。
「山田君、君はよく頑張った。誰にも相談出来ないこの状況で彼女を一人で守ってきた。とても立派なことだ」
轡木学園長の言葉はとても重く、心に響いてくる。
「あとは私達に任せてください。シャルロットさんがこのIS学園の生徒として安心して生活出来るようにします」
「ありがとうございます……学園長……」
「ありがとうございます学園長……シャルロットを学園から追放させないでくれて本当に……本当にありがとうございます」
僕達は深く、深く頭をさげた。
良かった……シャルロットが退学されなくて本当に良かった……。
◇
シャルロットの事は任せてほしいと言われ、僕達はその言葉を信じて部屋に戻ることにした。
僕達の部屋だが千冬さんの計らいで昨日の大浴場は男子のみ使用許可だったので湯冷めして風邪を引いたということになり、面会拒絶の札を置いてくれた。
「それでアタシにも相談しないで隠していたってこと?」
なぜ、鈴だけが部屋に入っているのか。
それは僕からのお願いで鈴は僕に告白したからシャルロットの男装は先に知っておくべきだと千冬さんに話したからだ。
「ごめん……鈴」
「あんたの性格だから全部自分で背負って解決しようとしてたんでしょ?」
「うん……」
「はあ、あんたって本当……」
「悠人を悪く言わないで。元はと言えば私が悪いんだから……」
コルセットをはずして髪を解いたシャルロットは僕は悪くないと言ってくれる。
「いや、悪いけどこればかりは譲れないわ。こいつは馬鹿だからね。相談出来る相手がいるのに相談しなかった馬鹿だから」
「馬鹿って……僕は」
「馬鹿でしょ」
「はい……」
どうせ僕はシャルロットが追放されたら退学しようとした馬鹿ですよ……。
「これからはアタシ達に相談しなさい。もう、シャルロットの正体を隠す必要がないんだから」
「……わかった」
「んじゃ、もう行くね」
僕のベットに座っていた鈴は立ち上がる。
「好きな人が辛い思いしてるとアタシも辛いんだから」
そう言って部屋を出た。
僕は鈴の告白を握り潰してまでシャルロットを助けようとした。僕と一緒にいる時間が少なかったから辛かったんだろう。
「凰さんって悠人のこと……」
「うん、僕のことが好きなんだ。告白を受けたんだけど今は保留中にしてる」
「どうしてなの?」
「僕が弱いからだよ。世界中から狙われてるから強くならないといけないから」
「そんなことない! 悠人はすごく強いよ。私が自首しようとしたとき必死に引き止めてくれた。私が辛いときに側にいてくれた。そんな悠人が弱いはずなんてない!」
「それはあくまで結果だよ。それに至るまでの過程はまだまだ未熟な部分が多かった」
「それでも……私は……」
こんな僕を好印象に見てくれるのは嬉しい。
だけど……。
「人は自分が強いと決めた瞬間、そこで成長は止まるんだ。本当に強い人は自分から強いとは言わない」
僕はまだまだ弱い部類にいるんだ。だから強くならないといけない。
「暗い話はここまでにしよう。今日は部屋から出れないからガンダム見よう」
ガンダムSEED DESTINYのDVD-BOXから1巻目を抜いた。
「SEEDはもう見終わったから今日はDESTINYを見よう」
「学校サボってアニメ見てるなんて。私達まるで不登校者みたいだね」
「それも学園生活のひとつでもあるんだよ」
DVDプレーヤーにいれて僕達はシン・アスカの活躍を見る。
◇
「はぁぁぁぁ……」
SEED DESTINYを見終わって部屋で2人で夕食を作って食べ終わると僕はシャワーを浴びていた。
「これで学園にいる間はシャルロットは大丈夫そうだね」
残るはシャルロットの会社であるデュノア社だけ。シャルロット自身、デュノア社をどうしたいのか分からないので今は保留でいいだろう。
「悠人……はいるよ」
「しゃ、シャルロット!?」
シャワールームのドアを開けてきたシャルロット、その格好はタオル一枚だけ。
彼女のスタイルは良く。出ているものは出て、引っ込むものは引っ込んでいる。
「その……身体を洗ってあげようかなって」
「そ、そんなことしなくていいから。その気持ちだけでも僕は十分だよ」
「でも、私は悠人になにもお礼はしてないの。私に出来ることと言えばこれくらいしかないから……」
そんなことをしてほしくてシャルロットを助けたんじゃ……。
「いや、でも……」
「お願い、私は悠人にお礼がしたいの。でないと私、自分でも取り返しのつかないことをするかもしれないから……」
肩は震えて羞恥心に耐えている。今でも逃げ出したいのにシャルロットは僕のためにここまでしてくれている。
「わかった……お願いできるかな」
「うん……」
お互い口を閉ざしたまま、シャルロットは僕の背中を洗っている。
懐かしいな……小さい頃には姉ちゃんしてもらって、ここにくる前は弾の家に泊まって風呂で馬鹿騒ぎしてたら厳さんに怒られたな。
そういえば、昨日のときも一夏と背中流し合ったっけ。
「悠人って背中大きいね」
「僕はそう思ったことはないかな。他の男子よりも小さいし」
「ううん、私はそうは思わない。だって……」
背中に触れると僕はピクンと身体を振るわせる。
「悠人の背中はすごく安心する……大きさじゃないと思うよ」
「そう……かな?」
「そう、悠人だから安心出来る」
背中から伝わる確かな膨らみと柔らかさ、シャルロットの正体がバレたときに抱き締めたあの感触が僕の背中に……。
「しゃ、しゃりゅ……」
「ごめんね……悠人の側にいるとこうしたいなって」
呂律が回らず動くことが出来ない。
脇から手を回して抱き付いてきて、布越しなのに暖かくて……すごく柔らかい……。
「悠人、私ね……もう自分に嘘を付きたくないの」
「嘘を……?」
「私……悠人のことが好き」
背中からくる柔らかさが消えるような感覚。
シャルロットが僕を?僕のことが好きと?
「凰さんが悠人のことを好きなのは知ってる。だけど私も悠人のことが好き……好きになったの」
抱き締める力が強くなっていく、シャルロットの鼓動が僕の背中に……。
「え、あの、僕は……」
「今すぐ決めなくていいよ。悠人だっていきなりのことで迷ってるから」
抱き締める力が緩まり、僕から離れる。
「ほら、お湯かけてあげるからそのまま動かないでね?」
「わかった……」
シャワーからくる熱いお湯が僕を包む泡を流していく。
「じゃあ、私は先に出てるね。ちゃんと身体温めてから出てね?」
シャルロットが出ると僕は身体の芯まで温めてシャワールームから出た。
◇
「あがったよ」
シャワーを浴びたシャルロットが脱衣室から出て来た。
今の僕はシャルロットのことを直視出来ない。シャワールームにいきなりはいってきて、突然の告白。僕には刺激が強すぎる。
「私に好きって言われて戸惑っているんだよね?」
「うん……」
シャルロットが女の子だと知ったとき以上に僕はドキドキしている。
「シャルロットは……」
「なに?」
「シャルロットはどうして僕を好きになったの? 見た目も良くないし、強くもない」
僕を好きになる要素がどこにあるんだ?僕は一夏と違って得意なことはないのに……。
「悠人の真剣な思いだと思う」
「真剣な思い?」
「私が安心して学園生活が出来るように女の子であるのを必死に隠してくれて、正体を明かしたとき悠人も一緒に学園を去るのを覚悟して、私のために必死になってくれる悠人が好きにならないわけがないよ」
顔を見ていないが多分、僕以上に顔を赤くしてるかもしれない。
「こんな私のために一生懸命になる悠人だから……そんな悠人だから私は好きになったの」
「そうなんだ……」
「そう……私が悠人を好きになった理由」
鈴といいシャルロットといい。なんで僕のことをこんなに想ってくれるんだ……?僕よりも……本当は……。
「そ、そろそろ寝ようか。明日から色々大変だと思うし」
「そうだね」
下手に考えるよりもう寝たほうがいい。明日も学校なんだから……って。
「シャルロット」
「なに?」
「君のベットそっちだよね。なんで僕のベットに来るの?」
布団を被ろうとしたらシャルロットが僕のベットに入ってくる。
「悠人と一緒に寝たいから……」
「1人で寝なさい」
「いや、明日から悠人と離れ離れだから」
「だめです。小学生じゃないんだから」
「悠人は私と一緒の布団はいや?」
上目遣いで僕を見てくる。
くそ、シャルロットそれは反則だ!そんな目で見たら良いよと言ってしまう。
ダメだ、僕は男の子でシャルロットは女の子。ただでさえ、同じ屋根の下で暮らしているのに一緒の布団で寝るのはもう色々アウト。
色々……アウトなんだよ……。
アウト……なんだけど……。
「……わかった」
僕も男の子なんだな……こんな可愛い女の子と一緒に寝るのは天文学的の数字とも言える。
「はいるね悠人」
シャルロットがはいってくると僕の身体にくっついてきた。
あたって……あたってる。シャルロットの柔らかい胸が……腕が……僕の身体に……。
「ねぇ……悠人」
「な、なに?」
か、顔がとても近い。それにシャルロットの甘い匂いと吐息が僕にかかる。
「その……悠人は男の子だから我慢出来ないことがあるよね」
なにを我慢するんだ?
「だから……そのときは我慢しなくていいから。私もそれを受け入れる気持ちでいる」
シャルロットが受け入れるってなにを?深く考えるよりもう寝たほうがいい。うん、そうしよう。
僕達はお互いの体温を感じながら意識を手放した。
◇
「シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
ズボンではなくスカートをはいたシャルロットは改めて教壇で自己紹介をした。
「まあ……デュノア君はデュノアさんでしたってこと。はあ……また寮の部屋割りの組み立て直し作業がはじまる……」
エドワース先生、ホントすいません。今度、なにか美味しそうなおみやげ買ってきます。
「デュノアさんってことは山田君は同室だから知っていたはずだよね?」
「ちょっと待って、一昨日って確か男子が大浴場使っていたよね!?」
ざわざわと女子は騒ぎだすがこれだけで済むならいいけど。
「…………」
いきなり席に立った簪が僕の席に来る。
「か、簪?」
顔を真っ赤にしていてぷるぷると唇を振るわせている。これって……。
バシンッ!
「最低」
だよね……簪とは友達だと思っていたけど相談したのは鈴だけだから怒るのは無理はないよね。
◇
「叩かれた頬、大丈夫?」
午前中の授業が終わり、僕は鈴とシャルロットと一緒に食堂まで歩いていた。
「まあ……あれは自業自得だし……」
頬よりも心が痛い。
あれから謝っても簪は僕を見てくれず、一緒に食堂に行こうとしたが1人で行ってしまった。
「あんた、簪に何かしたの?」
「なにもしてないけど、大体予想は出来てる」
「予想って……あぁ、それは仕方ないわよね。アタシにしか話してないし」
僕が考えていることを理解したのか。同情するような顔をみせた。
「悠人」
食券を買おうとしたら後ろから声をかけられので振り向くとボーデヴィッヒさんがいた。
「昨日はいなかったが大丈夫だったのか?」
「一昨日から大浴場が使えるようになったからはしゃいでいたら風邪引いてね。今はもう大丈夫だよ」
我ながら酷い嘘であるがシャルロットがこの学園にいるための嘘なら安いものさ。
「…………」
「ボーデヴィッヒさん?」
黙っていて何か迷っていそうな顔をしていると意を決したのか僕に近づいてきて……。
「んっ……」
「……ッ!」
ボーデヴィッヒさんの顔がすごく近い……それに唇になにかあたって……あたって?
「お、お、お前を私の嫁にする! これは決定事項だ! 異論は認めん!」
僕から離れたボーデヴィッヒさんは指をさして、いきなり俺の嫁宣言をした。まるで周りにいる女子達に公表するかのように
「え……よ、よめ……?」
思わず自分の唇に触れた。
頭の中の処理速度が追い付かず、パンクする。
「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしと聞いた。故にお前を私の嫁にする」
後ろにさがって足がもつれると僕は尻餅をついた。
はい、シャルロットとラウラは悠人を好きになりました
一夏は天然タラシなら悠人は無意識フラグメイカー
けど悠人は一夏と違ってちゃんと異性として意識します
悠人は誰を選ぶのかな~?
それもとハーレムにするか?
はたまた悠人に落とされる人が増えるか?増えるのか?