インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「実は私は……人工的に作られた人間なんだ」
「人工……的?」
「私は戦場で戦うために生まれた存在なんだ……」
ボーデヴィッヒさんの口から出た衝撃的な真実。
最初に思い浮かび、口にした言葉は……。
「恐るべき子供達計画……」
MGSに出てくる架空の計画。
ビックボスであるネイキッド・スネークのクローンの製造のために計画された。最強の兵士を人為的に作りだすことを目的とした計画。
架空だと思われた計画だが、まさかそれと似た計画がドイツで実在するとは思わなかった。
「私の名前であるラウラはあくまで相手が認識するための記号にすぎない。戦場で戦うために訓練をして、人間らしいことはしなかった。いや、人間らしいというのはわからないと言ったほうがいいか」
まるで道具のように扱われているだけじゃないか……。
「あの頃の私は別に自分はどういう人間なのか興味はなかった。軍人である以上、私は強くなるために訓練に訓練を重ね、優秀な成績を修めてエリートと呼ばれた。あれが出るまでは…」
「あれって?」
「ISだ」
ISが関係している?ボーデヴィッヒさんは女の子だから操縦出来るのは当たり前だし、何も問題はないはず。
「ISが登場したことで軍の方針も変わった。IS適合性向上のために目に
「えっと……」
「実際、見せたほうがよさそうだな」
ボーデヴィッヒさんは左目につけている眼帯を外した。
「……ッ!」
目を見開いて、驚きを隠せなかった。ボーデヴィッヒさんの左目は彼女の右目と同じ赤い目ではなく、金色の目をしていた。
「オッドアイ……」
「理論上この処理には危険性はなかったが私はこの移植手術に失敗、左目の色は金色に変わってしまった。移植手術の失敗により、常にハイパーセンサーが稼働した状態となり、それと同時にISの訓練で遅れをとって成績はどんどん落ちて周りから嘲笑と侮蔑、軍からは出来損ないという烙印を押された」
「そのとき千冬さんに会ったんだね」
「あの人は私の光だ。軍よりも厳しく辛い訓練だったが私は充実していた。私は教官のおかげで再び、エリートと呼ばれるようになった」
千冬さんがいたあの頃は素晴らしかったと感じながら笑っていた。
「私は織斑一夏が許せない。私にとって教官は素晴らしい人だ。あのとき誘拐されなかったらIS世界大会二連覇という素晴らしい偉業を修めていた」
違う……ボーデヴィッヒさんはそう言っているが何かが違う。こう……一夏という存在を恨んでいるというより嫉妬しているというか……嫉妬?
「ボーデヴィッヒさん、もしかしてだけど一夏に嫉妬しているの?」
「嫉妬だと?」
「何て言えばいいかな……ボーデヴィッヒさんが一夏のことを話していると千冬さんが一夏にとられて嫉妬しているような…そんな感じに見えるんだ」
「嫉妬……」
眼帯を外したまま考えことをする。
「嫉妬……そうか。これが嫉妬というものか……」
「ボーデヴィッヒさん?」
「お前のいう通り私は織斑一夏に嫉妬していたかもしれない。教官にはあって私にない。そんな存在に嫉妬していたんだ」
今まで一夏を恨んでいたのかその理由が分かると目に力を入れるのをやめて、納得したような表情をする。
「ありがとう山田悠人、お前のおかげで私は織斑一夏という存在がなぜ気に入らないかわかった」
「千冬さんをとられたくなかったんだよね?」
「そうかもしれない。私にとって教官は光。それをとられるのが何よりも嫌だったんだ。それで織斑一夏に嫉妬した」
「千冬さんにとって一夏は唯一の家族だから?」
「私になくて教官にあるもの……私はそれに嫉妬していたんだ」
ここでようやくわかった。
ボーデヴィッヒさんは寂しいんだ。家族がいなく、軍でも罵倒されて居場所がなかった。唯一、千冬さんの側がボーデヴィッヒさんにとっての居場所。
その居場所をとられるのが嫌で一夏を恨む態度をとっていたんだ。
「それと僕のことは悠人って呼んでほしいかな。フルネームはちょっと……」
「それはすまなかった。ありがとう悠人」
「話してみたらスッキリしたでしょう?」
「そうだな」
最初に会ったときの表情とは違い、今のボーデヴィッヒさんの表情は悩みが解決してスッキリしたような表情だ。
「それと僕、そのオッドアイ好きだよ。カッコイイし」
「そ、そうか?」
「うん、なんか中2病みたいな感じに見える」
「中2病?」
「ネットスラング用語。ボーデヴィッヒさんで例えると『この目はとある事件に巻き込まれて左目だけが変わってしまった』とか言う感じで思い込み、自分には特殊な力があると感じているんだ」
「変わった言葉だな」
ボーデヴィッヒさんは眼帯をつけて左目を隠した。
「悠人、お前のおかげで私にある悩みは消えたが織斑一夏のことはまだ許せない」
やっぱり一夏のことはまだ恨んでいるんだね。
「あいつを倒し、教官に認められれば私は強くなれると思う。だから私は織斑一夏を倒す」
「そのことに関しては僕は何も言えないかな。ボーデヴィッヒさんと一夏の関係だし、部外者である僕は止める権限もないから」
「すまない……悠人の友を傷付けることをして。だが、私は織斑一夏……あいつだけには勝たないといけない。自分を証明するために」
今のボーデヴィッヒさんは一夏を恨んでいる表情ではなく、一夏を倒して千冬さんに認めてもらいたいという表情をしている。
「引き留めて悪かった」
「いいよ別に、ボーデヴィッヒさんの悩みが解決出来たんだから」
多分だけど一夏に対する態度はある程度変わるかもしれない。僕はそうでありたいけど。
「そろそろ戻ろう。教官に何か言われる前に」
「そうだね」
ベンチから離れると寮へ戻る。
◇
「織斑一夏、私と勝負しろ」
午前の授業が終わり、食堂に行くとボーデヴィッヒさんが一夏に勝負を申し込んでいる。
「悪いな、まだお前と戦うつもりはない」
「私はお前が許せない。お前を倒さないかぎり私の中にある怒りは収まらない」
「学年別トーナメントでいいだろ?お互い決勝までいけば戦えるんだし」
「今回の学年別トーナメントは代表候補生が多くいるのに随分余裕そうだな?そんな慢心な態度では初戦敗退は確実だぞ?」
「なんだと……」
「あ~はいはい、やめやめ、ここで喧嘩は周りに迷惑がかかるから」
一夏とボーデヴィッヒさんの間にはいって制裁をする。
「悠人、邪魔をしないでほしい」
「ボーデヴィッヒさん、前に言ったけど学年別トーナメントで決着をつければ良いって話したでしょう?」
「だが私は」
「とりあえず今はご飯、腹が減っては戦は出来ぬ。日本のことわざだよ?」
ボーデヴィッヒさんは僕から視線をはずして食券を持って行ってしまう。
「一夏もボーデヴィッヒさんの挑発にのらない」
「悪かった……」
「うんうん、素直でよろしい」
◇
「「あ」」
放課後、僕は鈴と一緒に第3アリーナに行くとセシリアさんもいて2人はお互いを見ていた。
「奇遇ね。アタシはこれから学年別トーナメントにむけて特訓しようとしてたの」
「奇遇ですわね。わたくしも同じことを考えていましたの」
2人の間には火花を散らしているような雰囲気を感じる。
「ちょうどいい機会だし、この前の実習のことを含めてどっちが上かはっきりしようじゃない」
「珍しく意見が一致しましたわね。どちらの方がより強く優雅であるかこの場ではっきりとさせましょうではありませんか」
専用機を装着して鈴は双天牙月、セシリアさんはスターライトmkⅢを構えた。
「悠人、あんた審判やりなさい」
「えっ、僕が?」
「ここでどちらが強いか悠人さんに判断してほしいのです」
「別にいいけど」
2人の戦いを見るのも勉強の内だ。僕が立会人となって──
ドガンッ!
「「「……ッ!?」」」
誰かが僕達を狙って砲弾が発射させる。
「悠人!」
「悠人さん!」
鈴とセシリアさんは緊急回避をしたが僕は間に合わず砲弾に巻き込まれる。
「悠人……悠人!」
「大丈夫だよ……鈴」
咄嗟に対ビームシールドを呼び出して砲弾の衝撃を防いだおかげで大事には至らなかった。ストライクの被害だがそれほど酷くなかった。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
セシリアさんがボーデヴィッヒさんの名を口にした。
ボーデヴィッヒさんはドイツの第3世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を装着して僕達を見ていた。
すごく言いずらい名前だ。
「どういうつもりなの?いきなりぶっ放すなんて。悠人に何かあったらどうするつもりだったの?」
「そのときは悠人の実力はその程度ということだ」
「なに!?」
「鈴、抑えて」
鈴が食いかかろうとして僕は肩を掴んでとめる。
「ボーデヴィッヒさんの言う通りだよ。僕はまだ素人なんだから」
「あんた、自分に被害遭ってなんであいつを怒らないの」
「ISの訓練なんだからこういうこともあるんだよ」
「でも……」
「ふん、代表候補生とはいえ素人に論破されるとはな」
「ボーデヴィッヒさんも」
「悠人、あんたは優しいからそんなこと言えるけど」
「あそこまでやられたら男として示しはつきませんよ?」
ぐっ、何も言えない……。
「イギリスと中国、2人がかりで量産機に負ける程度の実力では専用機持ちとはよほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と古いだけが取り柄の国はな」
「セシリアさんと鈴が量産機に負けた?」
一体と誰と相手したんだ?
「知らないのか?この2人は山田教諭に2人がかりで挑んだが不様に負けたんだ。山田教諭は量産機だったのにな」
あ~それなら納得だ。
姉ちゃんと対等に渡り合えるのは千冬さんしかいないから2人がかりで挑んで負けるのは当然だよ。
「そりゃ当たり前だよ、姉ちゃんは」
「へぇ、スクラップにされるのがお望みのようね」
「鈴さん、どちらが先にあの機体をスクラップにしますか?」
この2人は完全に臨戦体制完了してるよ。少しでも動けば戦闘開始しそうだ。
「譲り合うより、3人がかりで来たらどうだ?」
「えっ、僕も参加なの?」
「参加しないのか?」
ボーデヴィッヒさんは僕も頭数にいれて戦闘準備をしていた。
「悠人、あんたは引っ込んで」
「ここまで言われては代表候補生の名が泣きますわ」
「話す暇があるならさっさと来い」
「「上等!」」
3人は僕を無視して戦闘を始めてしまう。
セシリアの過去話もそうですがラウラの過去話を聞く人って意外と少ないんですよね
ヒロインが主人公に好意を持つにはヒロインの過去を聞くことは大事かと思います