インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「…………」
「…………」
あれからお互い座ったままどれくらい経ったかわからない。ちらりとシャルル?を見る。
シャルル?は僕から視線をはずしている。髪は解いて長いストレート髪。身体も女性らしい体つきで窮屈そうにしているジャージにより女性らしい体つきを強調させている。
ジッパーは苦しいのかは鎖骨下まで開いていて、女性の象徴であるふくよかな胸が見えている。
シャルルに似た女の子ならまだ分かる、まだ分かるんだ。けどこの子は……。
「シャルルって本当は女の子なんだよね…? 男子でも男の娘でもなくて……」
「うん……」
彼……いや、彼女の口から自分は女の子だと正体を明かした。
「なんで男装してIS学園に?」
「父からの命令なんだ」
「お父さんからの?」
「父って言うけど詳しく言うなら愛人の子かな」
絶句してしまった。
愛人の子……どういう立場なのか知らないがそれはとても辛い立場なのはわかる。
「引き取られたのは2年前。ちょうどお母さんが亡くなったときに父の部下がやってきてね。色々検査したらISの適正が高くて非公式だけどデュノア社のテストパイロットをしてたんだ」
ポツポツと自分の過去を話していく。
「父に会ったのは2回くらいで会話は指で数えられるくらいかな。普段は別荘で暮らしていたけど一度だけ本邸に呼ばれてね。そのとき本妻の人に殴られたんだ。『この泥棒猫の娘が!』ってね。お母さんも言って欲しかったな……自分は父の愛人だって……」
親からすれば自分は愛人だとは言えないだろう。もし、シャルルのお母さんが私はお父さんの愛人なのって言ったら、子であるシャルルはその真実に絶望するんだから
「それから少し経ってデュノア社は経済危機に陥ったんだ」
「デュノア社って量産機ISシェアが世界第3位なんでしょ?」
「そうだけど結局ラファール・リヴァイヴは第2世代型の機体。ISの開発ってものすごくお金がかかるんだよ?」
「にわか程度だけど新規銃を開発するがどれだけ大変なのはわかる」
「ほとんどの企業は国から支援してもらっているんだ。フランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』に除名された。現在、第3世代型の開発は急務なんだ。国防のためでもあるけど資本力で負ける国が最初のアドバンテージを取れないと悲惨だからね」
そういえばセシリアさんの機体である『ブルーティアーズ』は第3世代型の試作型と言っていた。ISも次期正規量産型の開発に忙しいんだ。
「デュノア社も第3世代の機体を開発をしているけど難航していてね。元々第2世代型の最後発だから圧倒的にデータと時間が足りないんだ。政府からも予算は大幅カットされて次のトライアルに参加出来なかったら援助は全面カット、そしてIS開発許可も剥奪されるんだ」
「それとシャルルが男装する理由はなんで関係してるの?」
「簡単な話、広告塔のためだよ。男性操縦者がいる企業があるって聞いたら他の国から注目を浴びれるからね」
なんとなくわかる気がする。
有名選手が付けている服やアクセサリーはデザインが悪くてもとても人気になる。そんな感じだろう。
「それに……同じ男子なら一夏と悠人に接触しやすいし、可能であれば使用機体と本人のデータも盗める」
「盗めるって……」
「そう、父からの命令は男装操縦者である2人のデータを盗んでこいって言われたんだ。あの人から……ね」
シャルルは父とは言わずあの人と言った。
「悠人にはバレちゃったし、僕は本国に呼び戻されるかな。デュノア社は倒産か別の企業の傘下にはいるか……もう僕には関係ないことだしいいか」
自分の運命は決まったかのように他のことはどうでも良いやと思っている。
「悠人との生活は楽しかったよ。一緒に授業受けたり、お昼食べたり、ガンダム見たり話したり……僕の知らないことをいっぱい教えてくれた」
「シャルルは……」
「えっ……?」
「シャルルはどうするの」
「自首するよ。男装して偽って悠人に接触したんだし、刑務所行きは確定かな。代表候補生から降ろされるけど別にいいやって思っている」
「…………」
「もう会えないかもしれないけど僕は大丈夫だよ。悠人にはいっぱい思い出をもらったから」
笑顔を見せると立ち上がって部屋を出ようと扉に行く。
まるで2度と故郷に帰ることが出来ない戦地に行く兵士が愛する人に笑いかけるような笑顔で……。
「ありがとう悠人……僕のたったひとつだけの……」
シャルルは扉に手をかけようと──
「ダメだ……」
かけようとした手を僕は掴んだ。
「悠人……?」
「絶対にダメだ……」
彼女は望んでここに来たわけじゃない。僕自身もそうだ。けど、僕はこの運命を受け入れて強くなるって誓った。
「シャルル……君の人生は君だけのものなんだ。他の誰でもない、君自身のものなんだ」
「僕だけの……」
彼女はまだ運命に受け入れてない。ただ流されているだけなんだ。
「自分のやりたいことを自分で決める権利は誰にでもある。それが例え、親や他人に言われても自分が好きに生きる権利を奪われる理由にはならない!」
「…………」
「シャルル、君は自首して残りの人生を牢屋で過ごすの? それは自分で決めたことなの?」
もし、自分で決めたことと言ったら僕は止める権利はない。
だってシャルルの人生はシャルルのもの。他の人が介入する権利なんてないんだから。
「そんな……」
「シャルル?」
「そんなわけないじゃない!」
今まで溜めていた感情を爆発させる。
「僕だってこんなことしたくないよ! 悠人と一緒にガンダム見たり、まだ見てないガンダムも見たりしたいよ!」
そして悔しそうに涙を流す。
「だけどお母さんが死んじゃったから会社の言う通りに動かないと僕の居場所がなくなるんだよ……だから最後の悪あがきとして自首しようとしたのに……」
「だったら僕が君の居場所になるよ! 仮に本国から呼び戻されそうになっても僕が君を守る!」
「だけどフランス政府は黙っていないよ? 僕を国家犯罪者にすることだって……」
「IS学園特記事項第21条は覚えてる?」
「えっと……本学園における生徒はその在学中においてありとあやゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されない……って」
「そう、このIS学園は隔離された学園。ここの生徒ならたとえフランスでも介入することは出来ない」
仮に介入すればフランスは世界としての信頼を崩壊し、国として成り立たなくなる。
「守れるかどうかはわからないけど、それでも僕は君を守るから!」
扉のドアノブに手をかけているその手を離させる。
「信じなくてもいい。言葉だけの約束だと思ってもいい。だけど僕は必ず君を守るよ」
その手を離さないように握る。
「だからここにいて。僕の側にいて。僕が君の居場所になるから……だから」
逃がさないように抱き締めて、しっかり伝わるように彼女の耳元で
「もう安心していいよ」
安心良いと言った。
「ほんとうにいいの……僕はここにいていいの?」
シャルルが僕に聞いてくる。
自分の意思でここにいていいのか、自分の意思でこの学園で生活していいのかと。
「シャルルがそうしたいなら僕は何も言わない」
「うぅ……ぐすっ……」
居場所がなく、孤独に耐えていたシャルルは堪えきれずに大粒の涙を流す。自分を守ってくれる人を、自分の居場所を見つけて安心したかのように……。
「大丈夫だよシャルル……僕が君を守る」
「うん……」
僕の服の裾をつかみ、シャルルの涙は僕の服に吸収される。
「これでいいんだ……」
そう……これでいいんだ。
「鈴……」
シャルルに聞こえないように小さい声で幼馴染みの名を言う。
ごめん鈴……僕はこの子を見捨てることは出来ない。もしここでシャルルを見捨てたら人として生きていけない。人として最低な人間になってしまう。
だから……。
「これでいいんだ……僕は……これで……」
鈴の告白を握り潰すかのようにシャルルを強く…強く抱き締める。
一夏みたいに鈍感じゃないので悠人が決める選択肢はかなり苦難するんですよね
シャルロットが安心して暮らせるために鈴の告白を断る選択
悠人の人間らしさが出てましたかね?