インフィニット・ストラトス ただあの空を自由に飛びたくて 作:如月ユウ
「一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」
「一応分かっているつもりだったんだが……」
今日は土曜日、午前授業だけなので午後からは自由時間となる。
土曜日はアリーナが全解放しているのでほとんどの生徒がここで実習として使っている。
「多分、知識として知っているだけって感じる。さっき僕と戦ったときもほとんど間合いを詰められなかったよね?」
「確かに
「一夏の白式は近接格闘特化だからね。より深く射撃武器の特性を把握しないと勝てないよ。特に一夏の
「あ~でも、無理に軌道を変えるのはやめた方がいいよ。空気抵抗とか圧力の関係で機体に負担がかかると最悪の場合骨折もするから」
ガンダムでも急旋回をするときがあったが負担がかかるのはMSだけなので人体に関しては何も問題はない。
だが、それを人の身体でやるとGが深くかかり、骨折をする。
「私のアドバイスをちゃんと聞かないからだ」
「あんなに分かりやすく教えてやったのに」
「わたくしの理路整然とした説明に何が不満だというのかしら」
箒、鈴、セシリアさんの順番で愚痴をこぼす。 ちなみに3人が説明をした場合。
『こう、ずばっとやって、がぎんっ!という感じだ』
『感覚よ感覚、習うより慣れろとかよく言うじゃない』
『防御のときは右半身を斜め上前方へ5度傾けて、回避のときは後方へ20度反転ですわ』
わかるかよ。特に箒と鈴、それ説明とは言わないからね。
「一夏の白式って
「何回か調べてもらったけど
「前に白式には
「零落白夜だろ?多分、それが原因かもな」
ゲームの振り分けポイント式でいう特殊能力に全て振り分けたということになる。ありがた迷惑な能力だよ。
「白式は第1形態なのにアビリティーがあるのは前例がないよ。その能力って織斑先生…初代『ブリュンヒルデ』が使っていたISと同じなんだよね?」
「姉弟だからじゃないからかな?」
「それだけじゃ理由にはならないと思う。ISと操縦者の相性が重要だからいくら再現しようにも意図的に出来るものじゃない」
「そうか……まあ、そのことはとりあえずおいとこうか」
「じゃあ射撃武器で練習してみようか。これ使って」
シャルルが使っていた
「他のやつの武器って使えないんじゃないのか?」
「所有者が
アサルトライフルを受けとるとぎこちながらも基本的な構えをする。
「一夏、銃とか撃ったことあるの?」
「全くないがゲームで何度か見たことあるから構え方は知ってる」
「火薬銃だから瞬間的に大きな反動がくるけどISが自動で相殺するから、センサー・リンクは出来てる?」
「全然、出来ないんだが……」
「なら、目測で撃ってみて。実際に撃つのと違いはあるのには代わりないから」
アサルトライフルの引き金をゆっくりと引く。
バンッ!
「うおっ!」
一発撃つと空薬莢が出て来て地面に転がる。
「撃ってみた感想は?」
「なんかはやいってのはわかった。ゲームと実際に撃つのは違うんだな」
「そう、違うんだ。一夏の
「つまり一夏は特攻するときに集中してるけど、心のどこかではブレーキをかけてるってこと?」
「そういうこと」
「なるほど……だから間合いが開くし、攻撃もされるのか」
ようやく自分の敗北を理解した一夏は何度も頷いた。
「そのマガジンは全部撃っていいから」
「わかった」
一夏はそのまま的に向かって撃ち続ける。
「こうしてみると銃って恐ろしいな……」
「ジーンも言ってたよね……ただ1発の銃弾で世界が容易く殺されるって」
「ジーンって?」
「MGS OPSに出てくる敵キャラ。
「ジーンが言ってたあの言葉はあながち間違っていない。同じ国の人が隣人が戦友が家族が俺達に銃を向けるかもしれないって」
「僕達はこうして友達でいるけど、もしかしたら武器を向けるかもしれないし」
「ねぇ、あれ……」
アリーナにいる誰かがざわめきはじめる。僕はその方向をみた。
「…………」
腰まである長い銀髪で左目に眼帯をつけていた女子生徒。まるで
最初に思ったのは雰囲気は軍人。さらにいえば特殊部隊の訓練をしたような鋭い視線。彼女はエリートだと理解した。
「あれってドイツの第3世代のISよ」
「まだ本国でトライアル段階って聞いたけど」
女子の言葉を無視してドイツからきたあの子は
「貴様も専用機持ちそうだな。ならば話ははやい。私と戦え」
これは僕ではなく、一夏に言っている。なぜ、一夏なんだ……。
「悪いな、理由がないから断る」
「貴様にはなくても私にはある。貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえていた。だから私は貴様の存在を認めない」
もしかして『あの事件』を言っているのか?
あの子が言った偉業とは第2回IS世界大会『モンド・グロッソ』のことである。決勝を控えたときに一夏が誘拐され、千冬さんが大会を棄権して一夏を助けに行った。
それから千冬さんの行方は知らなかったがあの子は千冬さんのことを『教官』と呼んでるのでもしかしたら千冬さんの教え子かもしれない。
「また今度な」
「ならば戦わざるを得ないように──」
パンッ!
シャルルが持っているアサルトライフルよりも小さい発砲音がアリーナに響いた。
「悪いけど一夏は被害者なんだ。あまり悪く言わないでほしいな」
僕はイーゲルシュテルンをあの子に撃った。あくまで牽制だけどね。
「貴様は……」
「名前を聞くときはまず自分から言うのが常識だと思うよ?」
「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
怒りを僕に向けているがちゃんと自己紹介をしてくれた。
「僕は山田悠人、4組のクラス代表してる」
「お前は織斑一夏が憎くないのか?」
もしかして藍越学園の入学が取り消しされたことを言っているのか?
いや、それはない。あれを知ってるのは姉ちゃんと千冬さん、一夏と鈴だけ。千冬さんが教えるわけもないし……。
「それに関してはノーコメントでいいかな?」
「好きにしろ」
「それはどうも、出来ればだけど一夏との戦いは次の学年別トーナメントにお願い出来るかな?君はそこまで短気じゃないって思ってるから」
「いいだろう」
ボーデヴィッヒさんはISを解除すると一夏を睨みつける。
「織斑一夏、貴様を倒し、2度と動けなくしてやる」
そう吐き捨てて僕達から姿を消した。
「サンキュー悠人」
「気にしないで一夏、もしかしてあの子が一夏のクラスに転校した子?」
「あぁ……」
そう言って一夏は難しい顔をする。
「気に病むことなんてない。悪いのは一夏を誘拐した人だからね」
「そうだな……悠人……」
◇
「織斑君、デュノア君、悠人はいる?」
更衣室で着替え終わると姉ちゃんがはいってきた。
「あれデュノア君は?」
「先に部屋に戻ったけど、どうしたの?」
「今月下旬から大浴場が使えるようになるの。時間帯にすると色々問題があるから週二だけですが」
「おぉ!本当ですか!」
一夏は湯槽に浸かるのが大好きだからね。姉ちゃんから聞いたけど大浴場はかなりすごいらしい。
「先生ありがとうございます!」
一夏が姉ちゃんの手を握ってきた。
「あ、あの織斑君……」
「おい、一夏。姉ちゃんに手ぇ出したら……」
「お、おう、悪かった」
僕の殺気に気付いたのかすぐに手を離した。
「そういえば織斑君は職員室まで来てください。白式の正式な登録に関する書類なので」
「一夏、言っておくが」
「だ、大丈夫だから。なにもしないって」
姉ちゃんと一緒に職員室に向かった。僕も部屋に戻ろう。
◇
「ただいま~」
部屋に戻るがシャルルがいなかった。シャワールームにいるのかな?
「シャルル~?」
「えっ…」
シャワールームにシャルルがいた。部屋にいないならシャワールームにいるのは当たり前だから良い。
問題なのは……。
「えっとシャルル……」
「あ、これは……」
胸元には大きな膨らみ。
そう、シャルルは男子でもなく、男の娘でもなく……。
「もしかしてシャルルって……」
女の子だった。
一夏と悠人のただ1発の銃弾の話はジーンの演説を調べてください