魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回は亜子の父親の名前が登場しますが、調べても判明しなかったので、オリジナルとさせていただきます。もし分かる方がおられましたら、お手数ですが、私にコメント欄で教えてくださるとありがたいです。


92.戦う理由は十人十色

「う〜ん……。この写真はここで……、ッシャア! やっと終わったぁ!」

「お〜い正史。終わったのはいいけどもうちっと音量下げろよ」

「す、すいません……」

「まぁいい。令子、ちょっと正史の出来を見てくれ」

「はい」

 

いよいよ肌寒くなり始めた休日。『OREジャーナル』では今日も平和な光景がそこにあった。

ペットのイグアナの餌やりに夢中の島田に、令子から記事に関する指摘を受けている正史。さして変わり映えのない光景だった。そんな中で大久保は正史のデスクに近寄り、後方から彼が作った記事を覗き込むながら口を開いた。

 

「にしてもお前。相変わらずジャーナリズムに欠けてる点はあるが、遅刻は免れてるじゃねぇか」

「そ、そうですか? いや〜、照れますよ」

「別に褒めてねぇよ。社会人として当たり前だろ?」

 

孫の手で軽く正史の頭を叩く大久保。

 

「(……まぁ、実際はつばめに助けてもらってばかりなんだけどな)」

 

正史が心の中で呟くように、正史が遅刻せずに出勤できるのは、現在訳あって同居しているトップスピードの変身者、室田 つばめのお陰でもあった。決まった時刻に起こしてくれて、栄養バランスのとれた朝食を提供してくれる。おまけに昼食の弁当も作って渡してくれる。正史にとってこの上なくありがたい事だった。

 

「(けどまぁ、体の事もあるし、迷惑かけたくないのも本音だけどなぁ。パートナーの俺もしっかりしないとな)」

「正史? 何にやけてるんだ?」

「えっ? 別に何でも……」

 

正史が適当に誤魔化しながら熱いお茶を飲んでいると、外からドアをノックする音が。誰かが尋ねて来たのだろう。

 

「は〜い。鍵開いてますけど、どちら様で」

「お邪魔しま〜す!」

 

不意にハキハキした声と共に、その声の主が勢いよくドアを開けて入ってきた。その人物を見た途端、正史は驚きのあまり吹いて、口の中のお茶を撒き散らした。おかげでお茶は直線上にいた大久保の腕にかかってしまい、大久保は悲鳴をあげながら暴れまわった。

 

「編集長⁉︎」

「ちょ、おい正史! 何してんだよお前!」

「す、すいません編集長! ってか何でここにいるんだよ、つばめ!」

「えへへ、来ちゃった!」

 

正史に向かってウインクをする女性は、紛れもなくつばめだった。その手には手提げカバンが握られている。

 

「にしてもここが正史の仕事場かぁ。もっと広いとこを想像してたんだけどな」

「いや、そういう事聞いてるんじゃなくて……! 何でここに⁉︎」

「前にここの会社の事を教えてくれただろ? スマホ一つありゃあ、場所なんて分かるに決まってるし」

「いや、だから……」

 

一方で大久保達は、突然現れた妊婦が、仕事仲間と普通に会話している事が気になった。特に島田はこれでもかとつばめを睨みつけている。

 

「お、おい正史。その人お前の知り合いか?」

「えっ? あ、あぁはい。まぁ、その……」

「チィっす! 俺、室田 つばめ! 正史と仲良くしてもらってるんで、よろしく!」

「お、おう……。ていうか正史。お前いつから別の女と知り合ってたんだ⁉︎ しかも子持ちとか!」

「城戸君、どういう事?」

「えっ? いや、これは……」

 

令子にも迫られ、どう答えていいのか分からない正史だが、それよりも早くつばめが正史に近づいて、カバンから何かを取り出した。

 

「それよりもほら正史。忘れ物」

「……あ」

 

つばめが差し出したのは、いつも弁当箱を包んでいる風呂敷だった。どうやらつばめの自宅に忘れてきたらしく、それを届けにOREジャーナルに出向いた、という事だろう。

 

「あ、ありがとなつばめ」

「おうよ。おっとそれから、これ、みんなに差し入れって事で」

 

次につばめが取り出したのは、料理が入っているであろう、中ぐらいのタッパー。それを正史のデスクに置いた。

 

「お、おう……。ってかちょっと待て正史。お前結局その女とはどういう」

「い、いやこれは……! あ、すいません編集長! そんなわけでこれから取材に出かけてくるんで、行ってきます! 昼にはまた戻ってきますから、その時にまた説明します! ほ、ほらつばめ! 行くぞ!」

「ちょ、おい勝手に引っ張るなよ……! あ、そんじゃまた!」

 

つばめは大久保達に手を振りながら、正史と共にOREジャーナルを後にした。

嵐のように現れ、嵐のように去る。その言葉通り、つばめにつられて正史もいなくなり、何とも言えない空気が漂い始める。あの令子でさえ、状況が追いついていない。

 

「……正史君に、新しい女……!」

 

一方で島田は歯ぎしりしながらワナワナと震えている。触らぬ神に祟りなし、という諺がある以上、今は島田に触れない方が良いと考えた大久保と令子は目を合わせた。

 

「……見たところ、私よりも若かったわね。それでもって妊娠中……」

「あいつ、女が出来てたのか……。しかし謎だな……。よりによって何で妊婦と?」

「不倫……って線はないですよね。城戸君に限って」

「まさか……。だとしたらとっくにバレてるだろ、向こうの夫に」

 

正史に新しい彼女ができた。そう結論付けてから、つばめが持ってきた正史用の弁当とタッパーに目を向けた。

 

「これ、いつも城戸君が持ち歩いてる弁当箱ですよね。じゃあここ最近の弁当は全部彼女が……?」

「差し入れって言ってたけど、何なんだ?」

 

大久保が開けてみると、中にはかぼちゃの煮付けがぎっしり詰まっている。3人は一口だけ口に入れると、程よい舌触りによって目を見開いた。あの島田でさえ、悔しがるほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、びっくりした。つばめも忘れ物届けに来てくれたのは嬉しいけど、言ってくれれば良かったのに」

「この近くのスーパーで買い物してくつもりだったし、良いだろ?」

 

会社の玄関前で、同居中の2人が並んで外に出た。そこで不意にある事に気づく正史。

 

「てかつばめ。お前ひょっとして、アレで飛んできたのか? ラピッドスワローで」

「モチのロンだぜ。あれならここまでひとっ飛びだしな!」

「……やっぱり」

 

普通に考えて、妊婦が公共交通機関を使わずに走ってここまでくるとは考えられない。だとすれば、魔法少女として近くまで文字通り飛んできた事になる。よく周りにバレなかったなと思いつつ、正史はホッと一息つく。

 

「んで正史。お前これからどうするの?」

「とりあえずネタ探しかな? 色々飛び回ってくつもり。じゃあ俺、行くから。弁当ありがとな」

「おう! 仕事頑張れよ! ところで今日も帰りはいつもと同じ?」

「多分そうだと思う」

「じゃあ美味いもん用意して待ってるからな!」

 

そう言ってつばめは手を振りながら人気のない路地に入っていった。人目のつかないところで再びトップスピードに変身して、移動するのだろう。正史は苦笑しつつも、原付バイクに跨り、ヘルメットに手を伸ばした。

 

「(俺もまだまだだな。2人を守る為にもしっかりしないといけないのに……。ま、これから少しずつ頑張るか!)」

 

改めて気合いを入れてエンジンをふかしてから、正史は郊外へと足を運んだ。

しばらくバイクを走らせていると、前方に見知った人影が見えたので、近くまで寄ってから停車し、ヘルメットととって声をかけた。

 

「亜子ちゃん!」

 

その声に、若干俯きながら歩いていた小柄な少女……鳩田 亜子は振り向いて、笑みを浮かべなからお辞儀をした。

 

「正史さん。お久しぶりです」

 

以前、スイムスイムらに強襲を受けて、傷を負った亜子を九尾、ラ・ピュセルと共に救い、傷の手当てをする為にOREジャーナルに出向いて以来の再会だった。

 

「怪我の方は大丈夫だった?」

「あ、はい。お医者さんも、大事はないって仰ってました。それに……、叔父さんや叔母さんに、本当の気持ちを伝えれたから」

 

亜子によると、手当てをする為に大久保の運転する車で病院に向かい、そこで亜子が暮らしている家の叔父と叔母と合流し、無事を喜び合った2人に、亜子は今までひた隠しにしてきた心情を全て吐露したのだという。今までの亜子なら考えられない決意だっただろう。涙を流しながら謝罪と共に全てを打ち明けた亜子に、2人も涙を流しながら、彼女を精一杯抱きしめた。2人に余計な迷惑をかけてしまった事に罪悪感を感じつつも、今は受け入れる事にした。拒絶してばかりでは、何も変わらないからだ。そのことを、OREジャーナルが教えてくれたのだから。

あの日以来、亜子は態度を改めて、少しずつではあるが、前に向かって進む事に決めた。

 

「ところで亜子ちゃんは、どうしてここに?」

 

正史の質問に、亜子はハッとしてから、こう告げた。

 

「今日は、お父さんに、会おうと思ってここに来たんです。……でも、今日はお父さんの方から一方的に断ってきたらしくて。だから、会えなくて……」

「(! そういえば……)」

 

正史はふと、亜子の口から、「父親から面会の際に『もう来なくていい』と言われた」と言っていた事を思い出した。スイムスイムとの一件もあり、勇気を振り絞って再度父親との面会を望んでいた亜子だったが、その父親が娘との面会を断ったのだ。

正史は自然と拳を握りしめていた。

 

「それで、亜子ちゃんはこれからどうするの?」

「とりあえずは、今日はもう諦めて帰ろうかと……。これ以上、お父さんに迷惑かけたくないから……。それに、もしこれ以上お父さんが会いたくないって言ってるなら、もう無理に……」

「そんなの……! 絶対後悔するよ! お父さんに、ちゃんと自分の気持ちを伝えたいんじゃないの⁉︎」

「でも、お父さんが、それを望んでいるなら、私は……」

 

こうなっては亜子は頑として、自分の決意を曲げないだろう。

だが、正史としても放ってはおけない事だった。少しでも、困っている彼女の力になりたい。そう思った正史は、ある決意を固めた。

 

「分かった。俺がなんとかするよ。とりあえず今日は、亜子ちゃんはお家に帰ってもいいよ」

「えっ? でも……」

「心配すんなよ。俺が何とかするから」

 

何か策でもあるのか、と思っていた亜子だったが、一番の疑問をぶつける。

 

「何で、私の為にそこまで……?」

「俺は、俺のしたいようにやるだけだよ。それで亜子ちゃんが少しでも救われたら、俺はそれで満足だよ」

 

そう言ってから、正史は急転換して、反対方向に走り去っていった。その方角には、亜子の父親……鳩田 重蔵(じゅうぞう)が服役している留置所がある。亜子はただ呆然と、正史の後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、俺に何の用よ。電話でアポもなしに突然来られても困るんだけど」

「その点はゴメン。でも、北岡さんだから頼みたい事なんだ」

 

それから約1時間半後、正史がいたのは留置所ではなく、北岡法律事務所だった。

正確に言えば、一度は留置所に出向いて、重蔵との面会を試みた。が、そもそも彼とは何ら接点を持たない正史がどれだけ求めても入れてもらえるはずもなく、門前払いのような形で、断念せざるを得なかった。

だが正史とて、この程度で諦めるはずもなく、一生懸命考えて、ある策を思いついた。確かに今のままでは亜子の父親に会う事は難しい。向こうから人との面会を断っているからだ。だがもし、それらの権限を打ち負かすぐらいに強い発言権を持つ人に、面会を受託してもらえたらどうだろうか。すなわち、無理やりにでも面会を取り繕う事が可能な弁護士に頼み込めば、話が出来るのではないか?

そして正史は、そういった弁護士に1人、心当たりがある。それが仮面ライダーゾルダ改め、北岡 賢治だ。

玄関先で対応にあたった、彼のパートナー兼補佐役の真琴も、突然の訪問に驚きつつも、正史が口うるさく入らせろと言ってくるので、追い返すのも面倒になった真琴は彼を部屋に招き入れた。

 

「で? 俺に何を依頼すんのよ?」

「亜子ちゃんのお父さん……鳩田 重蔵と面会する機会を、作ってほしいんだ」

「理由は?」

「今の亜子ちゃんには、服役中のお父さんと話し合う機会が必要だからだよ。だから先ずは、俺が説得しに行く。亜子ちゃんとの面会を断り続けてるその人に、直接会って、何とかしてみせる!」

 

全てを聞き終えた北岡の反応はというと……。

 

「ハハハッ!」

「な、何だよ……」

「お前がバカなのは今更分かりきってる事だけどさ。それにしたって、何でそうまでして赤の他人の為に、一肌脱ごうとするわけよ?」

「関係なくないね! ……この際だから話すけど、その亜子ちゃんってのは、魔法少女なんだよ。ハードゴア・アリスの」

「!」

 

後方で様子を伺っていた真琴は僅かに目を見開く。一方で北岡は動じなかった。

 

「ならちょっと訂正するよ。他の魔法少女の為に、そこまでする必要がどこにあるんだ?」

「亜子ちゃんが、心の底からそれを望んでるから。だから俺は、それに出来る限り応えたい。俺が説得しても向こうが首を縦に降るかは分からない。けど、やってみなくちゃ分からないだろ! ライアだって、それを信じて運命を変えようとしているように、俺だって……! やれる事をやりたいんだ!」

「結局他人の為に、か。お前らしいけどさ……」

 

正史の熱の入った言葉は、冷たい態度を見せている北岡には届いていないらしく、椅子に深く腰掛けて、口を開いた。

 

「悪いけどお断りだ。大体さ。そんなに俺に依頼をしたいんなら、令子さんみたいに美しい女を連れてくる事から始めるんだね。それにお前、依頼するだけの金あるの? とてもそうには見えないけど。分かったら、さっさと帰ってくれる? ここんところ俺も真琴も気分悪くてさ」

 

ヘラヘラと笑う北岡。その一方で、真剣な表情を見せる正史は、引き下がる事なく呟いた。

 

「北岡さんならそう言うと思ってたよ」

「……ほう」

 

これだけ罵詈雑言を浴びせながらも退かない正史を見て、何を条件にしてくるのかに注目する北岡。

 

「だから俺は、この方法で北岡さんに依頼する」

 

だが、その北岡をもってしても、正史の次の行動は予測出来なかった。真琴もまた然り。

正史はポケットに手を伸ばし、あるものを取り出した。龍の紋章が刻まれた、カードデッキだった。それを相手に見せつける事、すなわち……。

 

「俺と、戦ってくれ。北岡さん」

「⁉︎ ちょ……」

「俺があんたをねじ伏せて勝ったら、重蔵さんとの面会を取り繕ってもらうよ。逆にあんたが勝てば、令子さんと食事する機会を作るとか、何でもするよ。これでどう?」

 

カードデッキを見せつけて同意を求める正史だったが、北岡は戸惑いを隠せない。

 

「お前、正気か? あれだけ他のライダーや魔法少女が戦う事を止めたがってたお前が? 俺と戦えだって? 何の冗談よ」

「あんたにとって冗談かもしれないけど、俺は本気だよ。本気で北岡さんに、俺の考えを納得させてもらうから!」

「お前……。あの時みたいに頭でもおかしくなったのか⁉︎ それともお前、やっぱりこの戦いを肯定して……」

「そんな事はないよ。俺は最後までこの戦いを否定する。それは変わってない」

「だったら何で……! お前はライダーや魔法少女同士の戦いを拒んでいるのか、望んでいるのか、どっちなんだよ⁉︎ お前なら止める側だと思ってた俺が間違ってたのか⁉︎」

 

ますます困惑する北岡に、正史はこう語りかけた。

 

「正直、俺は美華が死んで、トップスピードの励ましをもらってまた仲間になってから、ずっと考え続けてきた。戦いを止める事が正しいのかどうか」

「それで?」

「まだ分からないところもあるさ。自分でも頭が悪いのは分かってる。でも、俺はこの戦いだけはどうしてもしたい」

 

カードデッキを握りしめる手に力が入る。

 

「俺には、守りたいものがある。繋げたい命がある。その為に、俺は戦うって決めたんだ。その約束を果たす為に、どうしても戦わなきゃいけないんだったら、俺は相手になる。北岡さんや真琴ちゃん、他のみんなだって、何かを背負って戦ってる。相手の戦いの重さを受け止めるには、今はそれが一番だと思うから」

「……」

「今の俺は、亜子ちゃんの心を救う為に、戦う。それだけだ」

「……」

 

正史の戦う理由を聞き終えた北岡は、しばし無言を貫く。それが1分ほど続き、我慢の限界を迎えた真琴が正史の背後から詰め寄る。

 

「あの……! 私は反対です! 先生は」

「いいよ真琴」

 

そう口を挟んで、北岡は両手を机に当てて立ち上がった。

 

「こういうバカは、言って聞かせないと分からないタチだし」

 

それに……。

北岡はポケットから、スイギュウの紋章が刻まれたカードデッキを取り出し、正史に見せつける。

 

「今、お前となら、戦う理由はあるしね」

「先生……!」

「そういうわけだから、真琴は手を出さないでよ。これは俺と奴の勝負だから」

 

結論は出た。後は戦いの舞台に場所を移すだけとなる。2人は近くに立てられている鏡の前に立った。変身する前に、北岡は正史に確認を取る。

 

「そういやさっき、お前は言ってたよな。この勝負で俺が勝ったら、令子さんと俺に食事の場を設けるって」

「あぁ」

「その言葉、忘れるなよ」

「北岡さんこそ」

 

両者は、互いに意地をを賭けて、睨み合った。

そして2人は鏡に向かってカードデッキをかざす。鏡にVバックルが映り、それが腰に装着されると、現実世界の2人の腰にも同じくVバックルが装着された。

 

「「変身!」」

 

カードデッキがはめられ、胸像が重なり、正史は『龍騎』へ、北岡は『ゾルダ』へそれぞれ変身した。

 

「ッシャア!」

「……フン」

 

龍騎はいつものように気合いを入れ、ゾルダは鼻を鳴らしてから、同時に鏡を通じてミラーワールドへ突入した。真琴もマジカロイド44に変身して入ろうかと思ったが、北岡の言葉通り、介入する事なく、戦いの様子を眺める事に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラーワールドに入り、龍騎が舞台に選んだ場所は、近くにあった工事現場。5階建てのうちの3階部分にて、両者は睨み合っていた。機材などがあちこちに点在しており、入り組んだ形となっている。

 

「(わざわざ狭い所を選んで、直接飛びかかってくる……ってのが向こうの狙いか? だとしても、俺の方が早い。狭くなってるおかげで、狙う的も当てやすくなるし。……まぁ、あのバカの事だから、無策って可能性もあるけど)」

 

ゾルダは龍騎の考えを気にすることなく、普段通りの戦い方を貫くことにした。

しばらく睨み合う両者だったが、先に動いたのはゾルダだった。

 

「フンッ!」

 

マグナバイザーに素早く手を伸ばし、銃口を龍騎に向け、問答無用でトリガーを引く。龍騎は横に飛んでこれを回避する。ゾルダも逃すまいと続けざまに銃弾を放つ。やがて重機材の間をくぐった所で龍騎がカードをベントインした。

 

『GUARD VENT』

 

龍騎の両手にドラグシールドが展開され、前に突き出す事で、銃撃を全て防いでいる。マグナバイザーの火力では、ドラグシールドを突破できない。

その間にも、龍騎は一歩一歩確実にゾルダへと近づいている。このまま接近戦に持ち込んでも問題ないのだが、万が一のこともある。ゾルダは足元を狙い、龍騎が怯んだ隙に迷わずカードデッキから1枚のカードを取り出す。

 

『SHOOT VENT』

 

ギガキャノンが両肩に装着され、マグナバイザーよりもはるかに威力の高い砲撃が、龍騎に襲いかかる。

 

「うぉっ⁉︎」

 

さすがにドラグシールドでは防ぎきれず、龍騎の手から弾かれてしまった。そこへゾルダは容赦なくギガキャノンの砲撃を撃ち込む。ただし今度は龍騎本体ではなく、その足元へ。

何発もの砲撃を受けて、耐えきれなくなった地面は崩落を始めた。当然龍騎もそれに呑まれて、悲鳴をあげながら地面へと落下した。

煙が晴れて地面に開いた大きな穴から下を覗き込むゾルダ。龍騎の姿は確認出来ないが、あれぐらいで仕留められる程度なら、こんな戦いで苦労はしない。念のためにと、ゾルダは1階部分に降り立った。しばらく歩き回っていると、上の方から羽交い締めされる感覚が。ゾルダが振り返ると、龍騎が背中からしがみついていた。どうやら天井に張り付いて、ゾルダが通り過ぎるそのタイミングを計って奇襲を仕掛けてきたようだ。

 

「! こ、のぉ……!」

「大人しく、しろよぉ!」

 

必死に腰回りにしがみつく龍騎に、ゾルダは苛立ちを覚えた。綺麗な女性に付きまとわれるのはいいが、男性の、それも他人の事ばかり気にかけている人物には、嫌気がさす。ゾルダはマグナバイザーに新たなカードをベントインした。

 

『STRIKE VENT』

 

「離せ!」

「ぐぉっ⁉︎」

 

ゾルダの頭部にスイギュウの角を彷彿とさせる『ギガホーン』が装着され、ゾルダは頭突きをかました。普段のゾルダは銃撃といった遠距離戦法をスタンスにするため、ギガホーンは滅多に使わない。逆に言えばこういった接近戦の際に効力を発揮するのだ。

頭突きをまともにくらい、軽く脳震盪に陥った龍騎に対し、ゾルダは追撃とばかりにマグナバイザーに手を伸ばし、銃弾を無防備な龍騎に向けて放った。

勢いに押されて、龍騎は屋外に弾き飛ばされる。地面を倒れこみ、立ち上がろうとする龍騎が滑稽に見えたのか、ゾルダは小バカにしたように言い放つ。

 

「シローも随分とつまらない奴をライダーに選んだな。これだったら、まだ浅倉の方が張り合いがあるよ」

 

ゾルダは銃撃を止める事なく、龍騎にダメージを与えていく。龍騎は息を荒げながら後ずさり、その姿をゾルダは仮面の下でさも分かりきっていたかのように口を開いた。

 

「なぁ、何でここまでお前が追いやられているか教えてやろうか? お前はこの戦いを、ハードゴア・アリスの変身者……つまり他人の為を想って戦いを挑んでるわけだが、それじゃあ俺には勝てない」

「何でそう言い切れるんだよ!」

「お前よりかは、ずっと人間ってものを見てきたからに決まってるだろ? 俺がライダーとして戦うのは、全部自分のためだからね。真琴も同じさ。その一線を踏み外すと、お前達みたいに弱くなるんだよ」

「……!」

 

ゾルダのいう『お前達』とは、龍騎だけでなく、彼と行動を共にする九尾やスノーホワイトらの事を指しているのだろう。

 

「それでもまだ否定する? この状況、どう見ても俺の優勢だよね? まぁ、俺の言ってる事なんてお前に理解してもらうつもりなんてないけど」

 

そう言ってゾルダはトリガーを引き、龍騎に連射をかまし、龍騎は倒れこむ。それを見て、ゾルダは1枚のカードを取り出した。

 

「結局正しい事を言ってるのは、最後に勝ち残った奴なんだよ。……そろそろ終わらせようか」

 

『FINAL VENT』

 

ゾルダの前に契約モンスターのマグナギガが現れ、その体に敷き詰められた銃口が、龍騎に照準を定めている。ゾルダはマグナバイザーをマグナギガの背中に接続する。後はトリガーを引けば、それで龍騎は『エンドオブワールド』の波に飲み込まれ、死ぬ。

 

「(最初から他人の為に、なんて微塵も考えてなければ、ゴロちゃんも死なせずに済んだかもしれないけど)」

 

もう後の祭りだしな。

その呟きと同時に、ゾルダは迷いなくトリガーを引いた。

 

 

 




次回、龍騎とゾルダの戦いに決着が……!

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