魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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先日の遊戯王VRAINSの第2話を観てて、主人公の頭の回転の良さに感心しました。これは5D'sの不動遊星と良い勝負が出来るかも……?


89.散り際の花

ミラーワールドに響き渡った轟音が鳴り止み、再び静けさが辺りを包み込む。ついさっきまでひっそりとそびえ立っていたコンクリート式の壁の幾つかは、今や面影一つ残さずに瓦礫の山と化していた。

そして注目すべきは、まだ崩壊していない壁の一つに、1人の少女の体がめり込んでいる事だった。所々白い部分が見え隠れしているが、今や真紅に染まっている箇所が多い。装飾として付けられていた花やつぼみは真っ赤に変色しており、顔を中心に亀裂だけでなく、血で出来た楕円が広がっている。

クラムベリーの拳をまともに受けたスノーホワイトは吹き飛ばされ、その前面を壁に打ち付けられていたのだ。

やがてズルズルと地面に向かって顔を壁に引きずるようにしながら落下し、倒れこんだ。壁には縦一文字に血の跡がべっとりと伝っている。

 

「……っ! ……ぁ」

 

息をする事すら苦しく、身体中を駆け巡るような痛みが容赦なくスノーホワイトに襲いかかる。それでもまだ体は動くと判断したスノーホワイトは、膝と両手をついて立ち上がろうとした。

と、その時。スノーホワイトの目線の先に血だまりがある事に気付いた。しかもその血だまりは、上から降り注ぐ血の水滴によってどんどん広がっていく。水滴がどこから流れ落ちてくるのか疑問に思ったスノーホワイトは不意に、自身の顔面がヒリヒリしているのと同時に、生臭い匂いやベトっとした気持ち悪い感触に気付いて、思わず右手を顔面にやった。

右手のひらを見たスノーホワイトは息を呑んだ。手のひらについたのは、生まれてこの方、見た事のないほどの血の量。なぜこれほどの量の血が顔面についているのかが気になったスノーホワイトは目線を外し、偶然近くに落ちていた、ガラスの破片に目をやった。

刹那、スノーホワイトはガラスに映る光景が信じられなかった。普段チャットやブログなどで噂されている、幼げで可憐な表情はそこになかった。あるのは、ほぼ赤一色に塗りつぶされ、とても公には晒す事のできないぐらいに血だらけの、元は白き魔法少女の顔。

 

「……!」

 

信じられなかった。魔法少女になってから一度も悪い事など一つもしてこなかったはずの自分が、幼馴染みを傷つけた同じ魔法少女の手によって、こんなにも醜く変わり果ててしまった事が。

 

「随分と驚いた顔をしていますね。ひょっとして、こういう経験自体初めてなのですか?」

 

不意に横手から聞こえてきたのは、自身の顔をここまで醜くした原因を作った魔法少女の声。震えながら振り向くと、クラムベリーが悠々と歩み寄ってくるのが見える。

 

「私にとってはなんら不思議な現象ではありませんよ。戦いにおいて血が流れるのは当然の事。血の流れない争いなど、戦いとは呼べません。おままごとみたいなものです」

「……ぅ! あっ……!」

 

月明かりをバックに、妖しく光るクラムベリーの目を見てスノーホワイトの恐怖心はより一層ました。

 

「私が望むのは強敵との戦い。今のあなたからは、強者の匂いが感じられません。……まぁ、そもそもあなたを最初から強敵と称えようなど、微塵も思っていませんけどね」

「……!」

 

逃げなきゃ。逃げなきゃ殺される。

頭ではそう分かっていたが、体が言う事を聞かず、少し動いただけでスノーホワイトは出血が多すぎた影響からか朦朧とし始め、気がつけば立ちくらみでフラついて、仰向けのまま瓦礫の山に身を置いた。

喉に血が溜まっているのか、気道を確保できず、呼吸が上手くいかない。血で覆われている為か、視界も赤くボヤけていた。

 

「やれやれ。もう少し抗ってもらいたかったですが、もうその体じゃ無理そうですね。一思いに楽にしてあげましょう」

 

クラムベリーは心底残念そうに肩を竦め、血に染まったスノーホワイトの前に立った。そしてその右手をスノーホワイトに向かって、今度こそ息の根を止めようと伸ばしてきた。

死が目前に迫る中でも、スノーホワイトは無抵抗だった。まともに動ける体ではないという事もあるが、それ以前に抵抗するという選択肢が浮かぶよりも早く、今日までの自分を振り返り、そして責めた。

 

「(罰……なのかな。これって……)」

 

フラッシュバックする記憶の中で最初に浮かんだのは、彼女が魔法少女に憧れを抱くようになったきっかけのアニメ『キューティーヒーラー』が映るテレビの前で夢中になる幼少期の姫河 小雪。そして幼馴染みで同じ魔法少女好きとして遊んだ仲の岸辺 颯太。中学に入って魔法少女に憧れを抱きつつ、表に出さずに仲を深めた2人の友人。そして本物の魔法少女になって知り合い、共に人助けをするようになった仲間となった者達。その中には、初めてモンスターに襲われていた自分を助けてくれて、後にパートナーとなって、様々な障害にあいつつも乗り越えてきた、スノーホワイトにとって憧れの仮面ライダー、榊原 大地。

が、そんな彼らとも、あの日を境に決別してしまった。他ならぬ自分から彼らを見放した。挙げ句の果てに、パートナーには罵声を浴びせて。

 

「(守ってもらってばっかりで、そのくせ私はそれをいいことに、何もしなくて……。自分の価値観ばかりを押し付けて……。バチが当たって当然だよね……)」

 

スノーホワイトはそこで観念したかのように、体の力を抜き、ありのままを受け入れる事に決めた。解放感からか、意識がさらに薄れ始めてきた。

 

「(……だいちゃん。……そうちゃん。ごめん、ね……)」

 

もう届くはずもない声を、心の中で呟くスノーホワイト。

そんな彼女の前に、クラムベリーの右手が迫る。

 

「……散り際の花も、こうしてみると少しは美しさがありますね。もっと枯らしてみましょうか」

 

クラムベリーの手がスノーホワイトに届く、まさにその寸前だった。

 

「!」

 

長年の経験で培ってきた感が冴えたからか、気配を察したクラムベリーが右手を引っ込めると同時に、彼女の右腕を何かが掠め取り、地面に突き刺さった。滴る血を気にせずに顔を地面に向けるクラムベリー。突き刺さっていたのは真新しい手裏剣だった。

 

「手裏剣……。なるほど、そうきましたか」

 

クラムベリーの表情から笑みがこぼれたと同時に、追撃とばかりに幾つもの手裏剣がクラムベリーめがけて出現した。クラムベリーは勢いよく後退しながら体勢を整えてそれら全てを足蹴りではたき落とした。

が、それによりスノーホワイトとクラムベリーの距離が離れ、クラムベリーの前に2人の人物が降り立った。紺色のコウモリと忍者。目の前に現れたのはクラムベリーの予想通りの人物だった。

 

「パートナーである九尾の登場にも期待してたのですが、あなた方がスノーホワイトを助けに来るとは思いませんでしたよ。ナイト、リップル」

「……フン。カラミティ・メアリにも言ったが、俺には人を助ける能はない。戦うことぐらいは出来るがな」

「……」

 

リップルは一度、後方に見えるスノーホワイトに目をやった。ぐったりとしているスノーホワイトの顔面には血が覆われている。そしてクラムベリーに目線を戻して尋ねた。

 

「……あれはお前がやったのか」

「だとしたらどうします? 敵討ちでもしますか?」

 

笑みを浮かべるクラムベリーを見て、リップルはためらいなく舌打ちした。どのみち話が通じる相手ではないと察していたし、戦う事に変わりはない。リップルは懐から取り出したクナイを投げつけて牽制した。

 

「フフッ。血の気が多い敵は嫌いではありません。あなた方なら、私を楽しませてくれますね」

「楽しむ、か。腐ってるな、貴様も」

「それはお互い様でしょ?」

「……あぁ」

 

ナイトは特に否定する事なく、腰にさしてあるダークバイザーにカードをベントインした。

 

『SWORD VENT』

 

ウィングランサーを構え、直接勝負を仕掛けるナイト。クラムベリーはそれに応じるように正面から迎え撃った。リップルもスノーホワイトの事が気になりつつも、目の前の敵に集中する為に駆け出した。クラムベリーの動きは、先ほどスノーホワイトを痛めつけていた時と違って俊敏かつ威力を高めていた。相手がそれなりに戦闘経験豊富だと知っているからだろう。

2対1という状況下でも、ほぼ互角で渡り合っているところから見て、クラムベリーの底知れぬ力を感じさせる。

 

「(……話には聞いていたが、あの九尾とラ・ピュセルを追い込んだだけの事はあるな)」

 

下手に出し惜しみをしていると危険だと感じたナイトは一歩下がって、カードデッキから一枚のカードを取り出した。引き抜くと同時に風が吹き荒れて、突き出したダークバイザーが変形してダークバイザーツバイとなり、クラムベリーは腕で目を隠した。ナイトの次の動きを察したリップルもマジカルフォンを取り出してタップした。

 

『『SURVIVE』』

 

ナイトはカードを差し込み、リップルは光に包まれると、それぞれナイトサバイブ、リップルサバイブに姿を変えた。

 

「なるほど。今度はサバイブですか。ますます楽しみですね」

 

サバイブを前にしても動じる様子を見せないクラムベリー。むしろサバイブの力を得た相手と戦える事に悦を感じているのかもしれない。

ダークブレードを引き抜いて、クラムベリーに斬りかかるナイトサバイブ。リップルも同じようにダークブレードを手に持ち、挟み込むようにクラムベリーに向かっていった。

サバイブとなった2人の攻撃力は先ほどと打って変わって高くなっており、それに伴ってクラムベリーの猛攻も激しさを増した。

 

『NASTY VENT』

 

ナイトサバイブがカードをベントインすると、ダークレイダーが姿を見せ、超音波をクラムベリーめがけて放った。それに対しクラムベリーは右腕を突き出す。動作はそれだけだった。にもかかわらず、クラムベリーは苦しむ素振りを見せない。そして不意打ちとばかりにナイトサバイブと距離を詰めて、その胴体に蹴りを入れた。

呻き声を上げながら後ずさるナイトサバイブだが、瞬時にクラムベリーがノーダメージだった原因を察した。

 

「超音波を自分で操ったといったところか。どうやらそれがお前の魔法のようだな」

「中々に使い勝手が悪いように思えるかもしれませんが、案外便利なものですよ? それにこの魔法は、ただ音を遮るだけにあらず。こんな風に」

 

クラムベリーが右腕を突き出すと、そこから放たれた衝撃波がナイトサバイブに迫る。が、すんでのところでリップルサバイブが突き倒して回避した。音波の威力を操り、攻撃に転換したのだ。当たればかなり危険な攻撃である。

 

「フフッ。サバイブを手にしたからといって、油断は禁物ですよ。私やオーディンにはそれを凌ぐ力がある」

「だったら……!」

 

リップルサバイブはマジカルフォンをタップして駆け出した。するとその両隣に同じ容姿のリップルサバイブが出現し、次々と分裂していった。サバイブの力を得たリップルは、ナイトサバイブの『シャドーイリュージョン』を使えるようになっており、言うなれば『影分身の術』。

クラムベリーも予想外の攻撃パターンに僅かながら目を開くが、臆せず倒しに向かった。四方八方からの攻撃に精神を研ぎ澄ますクラムベリー。そのせいか、ナイトサバイブの方までは気が向かなかった。

 

『BLAST VENT』

 

続いてナイトサバイブが使ったのは『ブラストベント』のカード。再びダークレイダーが姿を現すと、両翼にあったホイールが勢いよく回転し、そこから放たれた突風がクラムベリーめがけて発射された。

 

「!」

 

リップルサバイブが突然後退したのに気付いた時は、『ダークトルネード』が間近に迫っており、音波で相殺する暇はなく、クラムベリーは直にダークトルネードを受けて、宙を舞った。

クラムベリーは空中でバランスをとりながら、片膝をつく形で着地した。クラムベリーの頬に、突風によってつけられた傷が付いており、そこから血が僅かに垂れ落ちた。が、本人は全く気にする様子はない。

 

「やりますね。戦闘経験の豊富さを活かし、ここまで対等に渡り合えるとは。本当ならもっと拳で語り合いたいところですが……」

 

クラムベリーがそこまで呟いた直後、警報が鳴り響いた。それはクラムベリーのマジカルフォンから流れてきていた。活動時間の限界が迫っているようだ。

 

「どうやら時間切れのようですね。スノーホワイトと少し遊びすぎましたか」

 

クラムベリーは少しばかり残念そうに呟くと、頬の血を拭ってから2人に告げた。

 

「では、キリもいいので勝負はまた別の機会に、という事で。今度会う時は、より至高な戦いが出来るようにしましょうね」

 

そう言ってクラムベリーは背中を向けて、あっという間に飛び去っていった。気配が消えたところから見て、本当に撤退したようだ。それを確認した2人は武器を下ろして、スノーホワイトのところへ駆け寄った。ぐったりとしている、顔面が血だらけのスノーホワイトに触れたナイトサバイブは、彼女の状態を確認した。その間にリップルサバイブは元の姿に戻り、スノーホワイトの手を握った。気を失っており、反応はないが、まだ温かい。

 

「傷は深いが、息はあるようだな。このままこいつを連れ出すぞ」

 

ナイトサバイブもスノーホワイトの無事を確認し、スノーホワイトを軽々と抱き上げた。そしてリップルと共にミラーワールドを出た後、リップルの提案である場所へと向かった。本当ならこのまま病院へ連れて行くべきところだが、普通ではありえないような大怪我を診せて、後で大事になってしまうのも面倒だったので、蓮二と華乃が向かった先は、彼女を人知れず休ませるのに適した場所である。

 

 

 




『スノーホワイトの血だらけの顔面』という描写は、本編の6話でラ・ピュセルが負った怪我をスノーホワイトに置き換えてみたものと解釈しておいてください。(というよりアレは小説には無かった描写だったが故に、アニメ版は中々にエグかった)

さて、次回はいよいよ蓮二の過去が明らかに……!

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