魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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先週から始まった『遊戯王VRAINS』のビジュアルが凄くカッコよくて、今後に期待出来そうですね!

話は逸れてしまいましたが、今回はスノーホワイトの目の前にあの魔法少女が……⁉︎


88.snow "red"

『いやー。ここ最近は疲れてばっかりだぽん』

 

夜明け近くの船賀山。その中腹にひっそりと建っている山小屋の中で、ベッドに寝転んでいた『森の音楽家クラムベリー』は、形式上彼女の補佐役を担っているファヴの愚痴を興味なさげに聞いていた。

先日ファヴとシローから発表された、魔法少女及び仮面ライダーの枠を当初予定していた16名から8名に減らすという内容は、他の魔法少女や仮面ライダーから罵声の的となった。ファヴとシローは運営役として、嫌われ役を演じてきた。ようやく鳴りは静まりつつあり、ファヴもシローもひと段落ついたようだが、実際苦労はしているのだろう。クラムベリーの目から見て、球体の白い部分が少しばかりくすみ、羽の動きに力がないように見えた。

 

『やれ詐欺だのペテンだのインチキだのイカサマだの言われたい放題で、休む暇がなくて困ってたぽん。やっぱりアイテム追加のせいで生存枠を8人にするって言い訳はちょっと苦しかったんじゃないかぽん?』

「苦しいならそれはそれで結構」

 

クラムベリーはあくまでドライな対応をとった。こうなる事ぐらい、クラムベリーだけでなく、パートナーのオーディンやシローも分かっていた事実であるのは間違いない。

 

『マスター』

「なんですか?」

『ファヴがどんなに苦労したってファヴだからいいやとか思ってないぽん?』

「今更何を。嫌われるのも仕事のうちでしょう」

 

寝転んだまま頬に手を当てながら、クラムベリーはゆっくりと目を開けて、冷徹に呟く。

 

「それに、血の気は多い子の方が断然良いですからね。大体、この状況で文句の一つや二つも言えないようなら……」

『言えないようなら?』

「……全員殺して、試験を最初からやり直した方が良いくらいですよ」

『それはそうかもしれないぽん』

「とにかく、今はあなたもシローも嫌われ続けてください。私達はその間に色々と考えておきますから」

 

そう呟いた後、いなくなったファヴを他所に、クラムベリーは現状を頭の中で整理する。

現在まで死亡した魔法少女や仮面ライダーは、ねむりん、ルーラ、インペラー、シザース、オルタナティブ、ヴェス・ウィンタープリズン、ユナエル、ファム、シスターナナ、ベルデ、ガイ、ミナエルの12名。クラムベリーとしてはウィンタープリズンやオルタナティブとの再戦を果たしたかったが、残念ながらベルデ達に殺された後だ。正直なところ、彼女やオーディンを除いて、ウィンタープリズンとオルタナティブは最後まで残ると思っていた節もある。

 

「……あと20人ですか」

 

クラムベリーがそう呟くように、20人が残っており、目標人数まで、まだ先は長い。もう直ぐ半分までさしかかろうとするわけだが、これは当初予定していたペースよりもはるかに遅いとクラムベリーもオーディンも感じていた。今回の試験では血の気が多い者がそこそこいるのは間違いないが、本来ならこの辺りで10人ほどに絞り込めてもおかしくない。急ぐ理由はないが、久々に試験官側から手を加える必要がありそうだ。クラムベリーはそう結論付けた。

 

「ここから先は、強者だけが集う戦いが相応しい。そろそろ引き立て役には消えてもらいましょうか」

 

誰ともなしにそう呟くと、クラムベリーは起き上がって地面に足をつけた。そこへまたファヴが姿を現した。

 

『あ、ところでマスター。途中経過まとめて報告書にして送ろうってシローが言ってたけど、そっちから何かリクエストは……って、どうしたぽん?』

「いえ。ちょっと野暮用を済ませようかと思いまして」

『野暮用? 誰かに会いに行くぽん? ならファヴが言伝を』

「結構です。私の方から勝手に出向きますよ。オーディンにもそう伝えておいてください。……それから報告の件ですが、適当でいいですよ」

『はいはい』

 

なんとも適当な返事だが、クラムベリーは特に気にかける様子はない。

 

「(あぁ見えてきちんと形にして、魔法の国にちゃんと健全なものとして報告してくれますからね)」

 

血の色で彩られた『バトルロワイアル』を、牧歌的で平和的な『良い子選びの試験』に見せかけてくれる才能を褒めつつ、クラムベリーは入ってくる朝の冷たい風など気にもとめず、小屋の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日も沈み、辺りの街灯に段々と灯りがともり始めた頃。ピンクのフリルをつけた少女が、人気のない道を歩いている。姫河 小雪である。平日ではあったが、普段は一緒に行動している友人に表情を見られないようにしながら家に帰って、そこから更に、母親に見られないようにしようとして、家を出て街をあてもなく彷徨い歩いていた。

 

「(もう、私は1人なんだ……。あの時、だいちゃんに、みんなに酷い事言って、きっともう、私の事なんて忘れて、今でも戦ってる……)」

 

街灯の真下で立ち止まった小雪は、肩を震わせながら、口を開いた。

 

「……どうして、戦わなきゃいけないの? 私達魔法少女や仮面ライダーは、戦うために生み出されてきたの?」

 

もしそれが本当なら、自分が抱いてきた魔法少女への感情そのものが間違っていたのだろうか。他の面々が狂っているのではなく、それが当たり前の定義であり、本当は自分が今まで目にしてきた事が、幻想だったのか。そんな疑問が頭の中を駆け巡る。

 

「……だったら、私にはもう、魔法少女になる資格なんて」

 

ポケットの中に入れてあるマジカルフォンに手を伸ばし、触れてみたその瞬間、ポケットの中から耳鳴りのような音が響いてきた。

 

「……!」

 

モンスターが近くに出現したようだ。普段の癖で、マジカルフォンを握って駆け出そうとする小雪だったが、唐突にその足をピタリと止めた。

 

「……私なんかが変身して、これ以上誰の役に立てるの? だってもう、魔法少女は……」

 

魔法少女は、もういない。そう自分に言い聞かせて、あれ以来マジカルフォンをタップする事はなかった。

小雪は180度回転して、来た道を引き返そうとした。が、依然としてマジカルフォンから音が鳴り止まない。耳障りだから止めてやろうかと思ったが、マジカルフォンにその機能は付いていない事を彼女は知っている。

小雪は再び立ち止まり、拳を自然と握りしめ、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュルルルルルルルル……!』

「……っ!」

 

夜の街にもかかわらず、静けさが辺りを支配する世界。それがミラーワールド。そこにはモンスター以外住み着かない。例外として、魔法少女や仮面ライダーだけが、時間制限こそあれど、その世界を行き来できる。行き来できるという事はつまり、戦うこともできる。

白い魔法少女『スノーホワイト』は、目の前にいるモンスターを睨みつけていた。そこにいたのは、ジョロウグモ型のモンスター『レスパイダー』。かつて、スノーホワイトが最初に対峙したモンスターである。あの時、スノーホワイトのひ弱なパンチやキックでは到底相手にされず、いたぶられ続けていた。そこへ救世主として彼女を助けてくれたのは、後にパートナーとなる仮面ライダーだった。その圧倒的な強さを目にして、スノーホワイトは憧れを抱いていた。そして、それ以来行動を共にした。

生き残りをかけた戦いが始まってからも、九尾はスノーホワイトを常に気にかけてくれた。守ってもらえる事にありがたみを感じていた。だがそれは、恩師であるオルタナティブの死をきっかけに、全てが堕落した。復讐に走り、仮面ライダーとしてあるまじき行動を起こしかけた。その姿に、スノーホワイトは絶望した。彼だけは、本物の仮面ライダーでいて欲しかったとつくづく思うが、結果的にスノーホワイトは彼を拒絶した。冷酷にも『人殺し』と罵って。

もう、あの時と同様に九尾は助太刀にやってこない。そして、魔法少女や仮面ライダーの実態を目の当たりにして、魔法少女を辞めたいと考えた。殺しあう事でしか力を発揮しないのが定石なら、少なくとも自分だけは正しい存在であり続けたい。そのために、魔法少女にならないと決めていた。

……はずだった。

 

「……いい加減に、してよ……!」

 

スノーホワイトはレスパイダーを睨みつけ、そしてありのままの感情をぶつける。

 

「私はもう、魔法少女になりたくなかったのに……! なのに、あなた達は、私の気持ちなんか知らないで、悪さばかり働いて……!」

『シャァァァァァァァァ!』

 

だがレスパイダーは、それがどうしたと言わんばかりに両手の鋭い鉤爪を突き出して、スノーホワイトに襲いかかる。

慌ててスノーホワイトは回避するが、そこから反撃に打って出るという選択肢は彼女になかった。

元々は、レスパイダーは現実世界に映る女性をターゲットにしていた。が、背後から襲いかかろうとした矢先に、スノーホワイトが行く手を遮り、獲物を逃してしまった。そこでレスパイダーは急遽標的を変えて、スノーホワイトを捕食しようと鉤爪を振るってきた。

スノーホワイトからすれば迷惑な話だった。結局、また人助けに一役買ってしまった。もうなっても無意味なはずなのに。そして何より、スノーホワイトに『闘う』という選択肢はない。あくまで、困っている人を手助けするために、力を使うと最初から意気込んでいた事を忘れずに、モンスターを相手にした。

だが今のスノーホワイトと、元から凶暴性の高いレスパイダーを見れば、結果はどうなるかなど一目瞭然だ。レスパイダーの容赦なき攻撃は、徐々にスノーホワイトの逃げ場を失くしていく。

 

「うっ……!」

 

遂にレスパイダーに吹き飛ばされ、地面に片膝をつくスノーホワイト。息を荒げながらも、威圧だけで何とか追いかえせないかと足掻きを見せるスノーホワイトだが、レスパイダーは止まらない。距離を詰められて、レスパイダーの口から糸が吐き出されようとしたその時。レスパイダーやスノーホワイトの横手から、何者かによる飛び蹴りが、レスパイダーに直撃した。

レスパイダーは悲鳴をあげながら地面を転がり、スノーホワイトは思わずその人物に目をやる。ひょっとして、九尾かラ・ピュセルが助けに来てくれたのか。そんな淡い期待を寄せて、その人物の顔に注目するスノーホワイトだったが、すぐに開いた口が塞がらないような表情に変わった。

レスパイダーを蹴り飛ばしたのは、スノーホワイトにとって予想だにしない人物だったからだ。その人物は、スノーホワイトと同様に、花を基調とした服に包まれている。バラと共に妖艶な雰囲気を纏った、エルフの魔法少女は、スノーホワイトに見下ろした。

 

「随分と腰が引けてますね。モンスターを目の前にしてそんな無様な姿を晒しているようでは、相手にとって餌みたいなものですよ?」

「クラム、ベリー……!」

「今日はあなたと会うために出向いたのですが、その前に、先ずは邪魔な害虫を駆除しましょうか」

 

そう言ってクラムベリーがマジカルフォンをタップすると、両手にゴルトセイバーが握られて、月明かりに照らされながら、黄金の剣は向かってくるレスパイダーに振り下ろされた。斬られ続けてもなお、レスパイダーは鉤爪を振るってクラムベリーを狙うが、クラムベリーの動作は、スノーホワイトから見れば余裕そのものが出ている。本人も退屈そうに身を翻し、隙あらばゴルトセイバーの一振りが的確にレスパイダーへカウンターとして必中する。勝負は圧倒的にクラムベリーの方が優勢だった。

スノーホワイトはただジッとクラムベリーの動作を見ているだけだったが、不意に彼女の表情を目撃したスノーホワイトは、息を詰まらせた。彼女は、レスパイダーを斬り刻むたびに笑っていた。まるで闘う事に悦を感じ、自己満足の為だけに、力を振るい続けているかのように。その不気味な事と言ったら……。

そんなスノーホワイトに目もくれず、クラムベリーはトドメとばかりに飛び上がり、ゴルトセイバーを上空から投げつけて、レスパイダーを貫いた。よろけるレスパイダーの正面に立ち、膝を曲げて下からすくい上げるように、突き出した右手がレスパイダーの胸を貫いた。

 

「……!」

 

スノーホワイトが目を見開き、レスパイダーがよろめいている間に、クラムベリーは突き刺した右腕を横に振るい、レスパイダーを真っ二つに引き裂いた。レスパイダーはそのまま爆散し、スノーホワイトとクラムベリーのマジカルフォンからキャンディーの獲得を知らせる音が伝わってきた。が、今のスノーホワイトにそれを気にする余裕はなかった。

クラムベリーは右腕にこびりついた、緑色の液体を振り払うように右腕を横に振るい、液体を飛ばした後、スノーホワイトに向かって歩を進めた。スノーホワイトは立ち上がり、ゆっくりと後ずさる。

 

「な、何なの……⁉︎」

「なぜ逃げようとするのですか? 私達は魔法少女。やっと2人きりになれたのですから、これで思う存分戦えます」

「! やっぱりあなたも……! 私は、戦いたくなんかない!」

 

そう叫んでからクラムベリーに背を向けて、鏡のあるところから脱出しようと駆け出すスノーホワイトだったが、すぐさま背中に強い衝撃が走り、前のめりに倒れこんだスノーホワイトはそのままバウンドしながら地面を転がった。クラムベリーがスノーホワイトの背中に蹴りを叩き込んだのだ。

 

「どこへ行くつもりですか? あなた程度がこの私から逃げられるとでも?」

「うっ……! くぅ……!」

「いや、そもそも敵を目の前にして逃げ出すなど、力を有する者としてあるまじき行為ですよ。……さぁ、悔いのないように全力で歯向かってきてください」

「いや、だ……!」

 

両手を広げて、あえて隙を見せつけるクラムベリーに対し、スノーホワイトは両腕に力を込めて、膝をついて起き上がりながら、戦う事を拒んだ。元から戦いに向いている性格をしていない事を分かっていたのもあるが、それ以上に魔法少女同士が戦うシナリオを思い描けない。

 

「私は、戦いなく、ない……! 魔法少女も、仮面ライダーも……! こんな事の為に、力を使うなんて、そんなの、間違ってるよ……!」

「この後に及んで、まだそんな悠長な事を口にできるとは。これでここまで残れたのも、どうせ九尾らがそばにいたからでしょうね。……でも、それももう終わりです」

 

クラムベリーはため息をつき、そしてスノーホワイトの前に立つと、冷ややかな目つきで見下ろしながら、こう告げた。

 

「本音を申し上げますとね。もうあなたは『用済み』なんですよ。今までは九尾の引き立て役として見逃していたところもあるのですが、これ以上生かしておいても、何ら引き出せそうにないですし」

「どういう事、なの……⁉︎」

「シスターナナがウィンタープリズンやオルタナティブを目立たせる為の小道具だったように、あなたも九尾という逸材を育て上げる為に生かされ続けた小道具のような存在なんですよ。ここまで舞台が整えば、もう小道具も必要ありません。そして、いらない道具は速やかに処分するべきなのです。そうなれば九尾も余計な世話を焼かずに済む。……いや、あるいはあなたを始末する事で、彼の中で新たな潜在能力を引き出せる事もありえますね」

 

九尾という主役を引き立たせる為の、スノーホワイトという道具。クラムベリーの評価を受けて、スノーホワイトは身の毛もよだつ恐怖に襲われた。ラ・ピュセルを襲撃したという情報を聞いてから予測はしていたが、目の前の魔法少女は、人としては異常なまでにズレている。

 

「わ、わた、私は……! こ、殺し合いなんて、したく、ない……! そんな事をしたら、魔法少女どころか、人間じゃ、なくなる……!」

「だから魔法少女になりたくない、という事ですか?」

「⁉︎」

「私は他の魔法少女より耳が良い方です。だからあなたが殺しあうだけの魔法少女になりたくないと仰っていた事など、お見通しですよ。その上で言わせていただきます。……あなたもラ・ピュセルと同じ勘違いをしている大バカなんですね」

 

クラムベリーに睨まれ続けているスノーホワイトは、その場から一歩も動けずに、怯えた表情を向けていた。

 

「力を持っている以上、同じ力を持つ者が集うのはなんら不思議な事ではありません。そしてそれは、互いにぶつかり合い、勝った者は負けた者を喰らい尽くす。それこそが戦いの定義なのですよ」

「ち、違……!」

「もっとも、あなたの場合は初めから戦う意思がないようですね。……目障りで仕方ありませんね。戦う気がないなら、死んでくださいよ。それが嫌なら、もう少し抗ってみてください」

「……!」

 

スノーホワイトがハッと目を見開いた直後、クラムベリーは目にも留まらぬ速さで詰め寄り、足を振り上げた。紙一重のところで後ろに仰け反って直撃を避けたスノーホワイトだが、クラムベリーの猛攻はそれで終わらない。軽くジャンプしたクラムベリーは振り上げた右足をそのままスノーホワイトの胸に突きつけ、よろめいたスノーホワイトに向かって回し蹴りを叩き込んだ。とっさに肘を曲げて両腕でガードしたスノーホワイト。鈍い音が腕から鳴り響き、呼吸が荒れている。

このままでは嬲り殺しにされると思ったスノーホワイトは遠ざかろうとして駆け出そうとするが、クラムベリーがそれを見逃すはずもなく。その髪を鷲掴みにして、驚くスノーホワイトを正面に引き寄せた瞬間、クラムベリーは膝を曲げて、無防備な腹に膝蹴りを入れた。

 

「ガファ……⁉︎」

 

腹の底からこみ上げてきたものが、スノーホワイトの口から吐き出された。口の中で鉄のような味が広がる中、真下を見ると血が滴り落ちていた。まぎれもなくスノーホワイトのものである。生まれて初めてみる自身の血を見て青ざめるスノーホワイトだが、クラムベリーは容赦なく追撃として、前のめりに倒れようとするスノーホワイトの後頭部に肘を曲げて、エルボードロップを決めた。勢いよく地面に叩きつけられたスノーホワイトの背中を踏みつけ、踵がこれでもかとくいこんでスノーホワイトの口から悲鳴が漏れた。

 

「元から期待はしていませんでしたが、これでは想像以上に面白みに欠けますね。弱者をいたぶるのは趣味ではありませんが、まぁ、ここから先に強者を残すためなら仕方ないですね」

 

強者との熱い戦いを望んでいたクラムベリーにとってスノーホワイトでは不満足だったのだろう。だが目的のためだと自分に言い聞かせて、スノーホワイトを蹴り上げたクラムベリー。息を荒げながらも立ち上がるスノーホワイトに向かって、クラムベリーは猛追を仕掛ける。伸びた爪を立てて、スノーホワイトを引き裂こうと迫ってくるのを見て全力で体を捻るスノーホワイトだったが、狙いから逸れた一振りは、スノーホワイトの腕を掠め取り、鮮血が飛び散った。

 

「あぁ⁉︎」

「フフッ」

 

スノーホワイトの腕から流れ出た血を見て、クラムベリーは紅潮した。そして本能の思うがままに、逃げ回るスノーホワイトを執拗に狙い撃ちした。ひっ掻くだけでなく、足蹴りも駆使して、スノーホワイトの体力を徐々に削っていく。

そして気がつけば、白かった学生服姿も、4割近くが真紅に染まっていた。腕や足についた切り傷からはダラダラと血が流れ落ち、震える全身からは、立っているのがやっとに見える。

 

「フッ!」

「ぅあ……!」

 

振り落とされた足蹴りが、スノーホワイトのこめかみに直撃し、新たにつけられた傷口から飛び散った血が、頭部のリボンについた大きなつぼみを赤く染めあげる。意識が朦朧とし始めた頃、スノーホワイトはいつの間にか今いる場所が、最初にクラムベリーと対峙した地点から離れた港付近に移行している事に気付いた。僅かに潮の香りが鼻にこびりついてくる。

 

「良い加減鬼ごっこも飽きてきましたよ。それにあなた。魔法少女を辞めたいそうじゃないですか。……だったらこのまま楽になった方が良いでしょうに。まだ抗おうとするなんて、とんだ傲慢ですね」

「い、嫌……! 死にたく、ない……! だって、私は……! 魔法少女と戦いたく、ないけど……! 死ぬのは、もっと、嫌ぁ……!」

 

とうとう走る気力さえ失くしてしまい、視界が滲み始めるスノーホワイトだが、クラムベリーの目にとまる事はない。

 

「戦う意志のない者は、この世界において不必要です。ここは他の参加者の為に死んで枠を減らす事を望むべきでしょう」

「嫌……! やめて……!」

 

後ずさるスノーホワイトだが、それよりも早くクラムベリーが接近する。そして拳を固めて、スノーホワイトの眼前に立つ。

 

「王道であれば、最後に何か言い残す言葉をせがむところですが、あいにく私はそういう王道を一番嫌うものでしてね。どうせ殺すなら、手っ取り早く殺したいので」

「や、やめ……!」

「その代わり、私から一言申し上げておきますとね」

 

怯え続けるスノーホワイトの耳元に向かって、クラムベリーは一言呟く。

 

「魔法の国はね。あなたみたいな『偽善者』を求めてなんかいません。あなたは最初から、脱落していたのです」

「ヒッ……⁉︎」

「それじゃあ、死んでください。守られるだけの哀れな魔法少女、スノーホワイト」

「や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

スノーホワイトが叫ぶと同時に、クラムベリーの拳が迫り、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔面を中心に鈍い音が全身に伝わり、気がついた時には、浮遊感と共に視界が大きく歪み、数秒後には、轟音と共に全身を引き裂くような激痛が、スノーホワイトを直に襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラムベリーがやってのけた事は至極単純だった。

 

泣き顔の魔法少女の顔面に右手拳をめり込ませ、その剛腕で遥か後方に吹き飛ばし、華奢な少女の体は軽々と宙を舞って、立ち並ぶ工場のコンクリート式の壁を何枚も突き破っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……はい。というわけで今回はスノーホワイト、フルボッコ回でした。
ちょっと今作ではスノーホワイトにも戦う事で背負う重さを知ってもらおうと、痛い目に遭ってもらう事にしました。言っておきますが、私は決してSな人間ではありません。どちらかというとMです。

果たして、スノーホワイトの運命やいかに……。

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