魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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5月に入って急に暑くなりましたね。こういう時は体調を崩しやすいですから、気をつけてくださいね。


87.孤高の英雄

「……えぇ。以上が現時点でこちらが把握している面々の動向です」

 

居酒屋が立ち並ぶ繁華街の路地裏にて、スーツ姿の男性……『鎌田(かまた) 春水(しゅんすい)』が、人目につかないような所を選んで、電話越しに会話をしている。一見、勤めている会社関係の話かと思うかもしれないが、その中には所々奇妙なワードが入っている。

 

「……えっ? クラムベリーとオーディンですか? ……さぁ。中宿での一件でチラッと見たきりですね。死亡アナウンスも無かったですし、第一あの程度で死ぬようじゃ、あなたも幻滅しますでしょ? 興味を抱いていたそうですし。……えぇ、その通りです。向こうがさらに8人まで枠を削減しましたから、まだしばらくはあなたの望み通り観察出来そうです」

 

鎌田は空を見上げるが、雲に隠れて星一つ見えない。

 

「……分かりました。何か動きがありましたら、また報告しますよ。……えぇ。あなたの期待に応えれる人材なら、ある程度絞れてますからね。気に入ってもらえれば何よりです。……フフッ。監視の方も続けてもらっても結構ですよ。必要なら、髪の毛の方も可能な範囲で調達しましょう。……『ピティ・フレデリカ(・・・・・・・・・)』」

 

電話の相手の名前を呟いたのを最後に、鎌田は電話を切った。

 

「(今週だけで3回目、か)」

 

一息ついてから、ネオンの輝く繁華街に目を向けた。

 

「場は違えど、やる事は結局変わらない……か」

 

どのような環境下に置かれようと、鎌田はいつも同じ立場にいた。誰かが作り上げたデータや周りの動向を細かくチェックし、次の相手に報告する。いわば仲介役を買って出ているのだ。先ほどの報告もその類。もっとも鎌田自身、それが苦になっているわけではないが。

それでもやはり刺激は欲しかった。地味な作業に精を出し、才能を開花させたいわけではないが、飽きてきたのも事実。ガイが企画したようなものほどとまではいかない。が、やはりどこかで物足りなさを感じる。

色々と思考を巡らせていたその時、彼の持つマジカルフォンが鳴り響き、開いてみた。見れば、タイガからの呼び出しだった。この後、彼が指定した場所で果たしたい事がある、という文面が書かれている。彼から呼び出しをするのは珍しいものだ、と思いながらも考えさせられる事はあった。

ここ最近は、タイガの様子がどこかおかしいようにも見える。まるで何を考えているのか見えてこないのだ。

 

「(まぁそれを言ってしまえば、俺のパートナーも変なところだが)」

 

何を仕掛けてこようが、自分にはそれを凌ぐ力がある。そう自分に言い聞かせて、周りに誰もいない事を確認してから、ポケットからカードデッキを取り出して、近くの窓ガラスにカードデッキを映し出し、腰回りにVバックルを取り付けた。

 

「変身!」

 

かざしたカードデッキをそのままVバックルに差し込むという、言って見れば地味な変身方法だが、鎌田自身、変身ポーズにそこまでこだわる理由が今ひとつ見つかっていない。第一、シローやファヴにも確認したが、そんな決まりなど作られていないではないか。それが、水色のサメをモチーフにした仮面ライダー『アビス』という男の言い分だった。

アビスはミラーワールドを通じて、タイガが待ち合わせている場所へと直行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タイガが指定してきた場所は、王結寺から少し離れた、線路下を通る地下道だった。ミラーワールドを出てその場所へやってきたアビス。しばらく電車が通過する音を耳にしながら待っていると、呼び出し主であるタイガが現れた。

 

「やぁ、来てくれてよかったよ」

「わざわざこんな所まで呼び出して、何を企んでいる?」

「企むなんて人聞きの悪い。僕はね。試したい事があるんだ。……僕が英雄に近づけているか。それを確かめる為に、君を使いたいんだ」

「使う……か。回りくどい言い方は好まないんでね。つまりは俺と戦いたい、と言いたいんだな?」

 

その問いに対し、タイガは不敵な笑い声をあげた。

 

「大切な人を倒せば、それだけ英雄に近づける。君も例外ではないさ。だって僕達、なんだかんだでチームとしてやってきたわけだし。君達を倒せたら、僕は英雄になれる。そう思わないかい?」

「前から言おうと思っていたが、お前のくだらん理想には付き合ってられない」

「へぇ……。そんな事言うんなら、僕だって言いたい事はあるよ。君は英雄に相応しくないってね」

「英雄……か。念のため聞くが、お前は自分がどれだけ近づけているか、把握はしているのか」

「最初は光希を、インペラーを倒せた。ユナちゃんはリュウガってやつにとられたけど、ミナちゃんはこの間、僕が倒せた。僕が英雄になる為の、小さな犠牲なんだよ」

「やはり、ミナエルはお前が殺ったのか」

 

ここでようやく、先日判明したミナエルの不審死の原因を察したアビス。とはいえ張本人の口から出た言葉をそのまま信用するほど、アビスも単調ではない。いずれにせよ、目の前のライダーは倒すべき敵だと判断はできた。

 

「先ほども言ったが、回りくどいのは好きではない。食後の運動にはなるだろうし、遠慮なくかかってこい。……だが、俺はそう簡単に殺られるほどヤワではないがな」

「へぇ。なら、始めようか」

 

『STRIKE VENT』

『SWORD VENT』

 

タイガがデストクローを、アビスが2刀のアビスセイバーを持ち、互いにミラーワールドへ突入した後、前進して火花を散らした。

 

「ラァ!」

「フンッ!」

 

最初のうちは互角と言ってもいいかもしれない戦いだった。が、次第に押され始めたのはタイガの方だった。ただ無作為にデストクローを振りかざすタイガに対し、アビスは器用にかわしつつ、反撃とばかりにアビスセイバーを突き出し、タイガにダメージを蓄積させていく。遂にはアビスセイバーの一太刀で、デストクローがタイガの手元から離れてしまった。

 

「!」

「ダァッ!」

 

その隙を逃すまいと追撃を加えるアビスだが、タイガもデストバイザーで受け止めて、これに対抗している。

 

『ADVENT』

 

タイガが距離を置いてカードをベントインし、デストワイルダーを出現させると、アビスに襲わせるように指示した。

 

「ならば」

 

『ADVENT』

 

対するアビスもカードを取り出し、アビスバイザーにベントインさせると、アビスハンマーが出現して、デストワイルダーの進行を妨害した。

 

「数で圧倒しようと思ったのだろうが、無駄だったな」

 

アビスとタイガ、アビスハンマーとデストワイルダーが双方で激しい戦いを繰り広げ、その勢いは止まる事を知らず。デストバイザーを振り回すタイガに対し、アビスは新たなカードをベントインさせる。

 

『ADVENT』

 

「!」

「ガイの真似ではないが……。カードは1枚とは限らないぞ」

 

アビスの言うように、彼が契約しているモンスターは2体。現在アビスハンマーはデストワイルダーの相手をしているため、現れたのはアビスラッシャー。タイガの後方から鋭い刃を構えて迫ってくる。

 

『FREEZE VENT』

 

だがタイガも負けじとカードをベントインし、アビスラッシャーを凍結させた。

 

「(これで、向こうもこれ以上攻められないさ……! 後はこれで)」

 

『TRANS VENT』

 

続けざまに取り出したのはミナエルのアバター姿が描かれたパートナーカード。それをデストバイザーにベントインし、タイガは走り出して飛び上がると、その姿はミナエルの魔法同様、生き物以外の姿に変え、一本の先が尖った槍となった。

 

「!」

「ハァッ!」

 

槍(タイガ)は、その勢いのままに、アビスを貫こうと、体を回転させて殺傷力を高める。地下道は一本道の為、横に飛んで回避する事は難しい。タイガの一撃が迫る中、アビスは依然として狼狽える素振りを見せない。その事に不審がっていたタイガだが、それはアビスの取り出した、パートナーであるスイムスイムのアバター姿が描かれたパートナーカードによって判明する。

 

『LIQUID VENT』

 

すると、槍がアビスの体をすり抜けて、アビスは振り返りざまに回し蹴りをタイガに叩き込んだ。

 

「グアッ⁉︎」

 

トランスベントの効力が切れて、元の姿に戻るタイガ。平然としているアビスを睨みながら殴りかかるタイガだったが、その拳もアビスの体をすり抜けて、逆に体に沈み込んだタイガの腕を掴んだ。

 

「!」

「忘れたか? パートナーカードはお前だけの専売特許ではない。こういう使い方もあるんだよ!」

「ガァッ……!」

 

抵抗虚しく、アビスの拳をもらい、吹き飛ばされて地面を転がるタイガ。そこで一旦冷静になったタイガは、アビスのベントインしたカードの効力を確認した。アビスが使ったのは『リキッドベント』と呼ばれるカード。パートナーのスイムスイムが駆使する魔法『どんなものでも水みたいに潜れるよ』は、その名の通り、あらゆる地形に潜り込める。それは自らを液体化させる事で意味を成す。当然液体になった場合は、あらゆる物理攻撃はすり抜けてしまう。接近戦を得意とするタイガに、勝ち目はなかった。

 

「こ、のぉ……!」

 

だが、タイガはしぶとく立ち上がろうとする。

 

「僕が、英雄に……!」

 

英雄になる。その一心で、腕に力を込めて起き上がろうとしていたが、その様子を見ていたアビスが、呆れたように口を開いた。

 

「どうした。さっきまで意気込んでいた奴が、その程度なはずがないよな」

 

そう言ってタイガを無理やり起こすと、その腹に何度も拳を叩き込んだ。タイガの口から、これでもかと悲鳴が溢れ出た。その足元に、血が滴り落ちてきた。今までに見た事のない、アビスの容赦のない攻撃に、タイガの中で戸惑いと恐怖が入り混じってきた。

 

「お前、英雄になりたいんじゃなかったのか?」

「……! ん、ウァァァァァァァァァァァァァ……!」

 

ヤケになったタイガはアビスを振りほどいて、デストバイザーを振り下ろそうとするが、そこへ背中に衝撃が走った。

 

「アグァ……⁉︎」

 

困惑しながら前のめりに倒れようとするが、そこへアビスの蹴りが入り、タイガは吹き飛ばされ、デストバイザーを落とした。振り返ったタイガはそこでアビス以外に別の人物がいる事に気付いた。

 

「! スイムスイム……!」

「……」

 

アビスの隣に並び立ったのは、彼のパートナーであるスイムスイム。無表情にタイガを見下ろしていふ彼女の手には、血の付いたルーラが握られていた。先ほど背中に衝撃が走ったのは、スイムスイムが背後からルーラで攻撃したからだろう。

アビスとスイムスイムの攻撃を受けたタイガの中で、これ以上戦っては危険だという本能が働いたのか、後ずさりながら逃亡しようとした。

 

「……逃げるのか」

「勘違い、しないでよね……! 僕は、必ず英雄に、なってみせる……! 君達の力も借りないし、誰にも、僕の邪魔はさせない……! まだ時間はたっぷりあるからね……! 今度会ったら、その時は、倒してみせるよ……!」

「……抜けたいなら、どうぞ、抜けてもいい。リーダーの指示が聞けないなら去るも良し。ミナエルの後を追わせてやるだけ。ルーラならそう言う」

「……君も、英雄には相応しくないね。スイムスイム」

 

捨て台詞を吐き捨てたタイガは、体を引きずりながら、その場を後にした。その背中からは血が滴り落ちている。

 

「……英雄? 私がなりたいのは、ルーラみたいな、お姫様。それだけあれば、良い」

 

辺りに静けさが戻り、アビスはタイガが逃げていった方向に目を向けながら、ポツリと呟く。

 

「孤高の英雄を目指す……といったところか」

 

その道がどれだけ険しいものか、彼は分かっているのだろうか。

 

「……まぁ、勝手に自滅してくれれば、こちらとしては大助かりだがな」

 

この戦いは、あくまで自分を守る為のもの。これ以上干渉する必要もないと判断したアビスは、スイムスイムと共に、王結寺へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一部始終を陰から目撃していた魔法少女『たま』は、ズルズルと地面にへたり込んだ。その目からはポロポロと涙が零れ落ちている。

 

「タイガまでいなくなっちゃった……! ミナちゃんもいない……! このままじゃ、みんなバラバラになっちゃう……! こんなんじゃ、生き残れるわけ、ないよぉ……!」

 

頭を抱えて必死に打開策を考えてみるが、良い案が全く浮かばない。たまは改めて己の無能さに打ちひしがれ、どう自分を責めれば良いのか分からず、頭の中がグチャグチャになっていくのを感じた。彼女のそばにメタルゲラスがいるが、人間の言葉を喋れるわけもないので、たまにとっては慰め程度にしかならない。

顔を埋めながら、たまは体を震わせ、自分の首輪についていたリールを手にとって、ポツリと呟く。

 

「ガイ……。私、これからどうしたら、良いのかな……」

 

今は亡きパートナーに問いかけるが、その声は風と共に流されて、消えていった。

 

 

 

 




ここからはタイガは基本的に単独行動になります。

そしてアビスの口から出た人物……。ちょっと衝撃的だったかもしれませんが、先に申し上げておきますと、現時点でこれ以上試験に絡ませるつもりはありません。

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