魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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もう直ぐゴールデンウィークに入りますね。皆さんはどう過ごしますか?
私はとりあえず1日ぐらいはこの作品の投稿に専念しようかと。


85.迷える狐

「……本当なんですか、それ」

「……確信はありませんけど。近頃の先生の様子を見てると、どうにも悪い事ばかり想像してしまって……」

 

空のベッドの上に腰掛けている大地と真琴は、直ぐそばのベッドに目を閉じて横たわっている北岡に目をやった。

スイムスイムを撃退した後、突然倒れた北岡を介抱する為、蓮二が呼んだ救急車に乗せて、病院へと搬送された。幸いにも意識はあるとの事で、じきに目を覚ますだろうと担当医は語っていた。

だがその場に立ち会った大地と蓮二には、何故急に北岡が体調を崩して倒れこんだのかが分かっていなかった。2人が原因を知ったのは、他に患者がいない大部屋のベッドに運ばれて、ひと段落ついてからの事であり、パートナーの真琴の口から、倒れた理由や、彼が無理してでも戦おうとする訳が話された。

 

「吾郎さんの分まで生きたい。それは私も同じです。でもその為には、戦わなくてはいけない。……何れこうなる事は分かっていました。でも……」

「敵討ち……か。俺と同じ事を、北岡さんは……」

 

大地もまた、恩師や同胞に手をかけたベルデを殺そうと、孤独を背負う覚悟で戦った。が、結局それは叶わなかった。自分自身が無意識のうちに踏みとどまってしまったからだ。もしこのままいけば、北岡は自分と同じようにためらってしまうのだろうか。

そんな疑念が浮かぶ中、病室の扉が開いて、缶ジュースを買いに別行動をしていた蓮二が戻ってきた。

 

「北岡の方は……?」

「もうじき目を覚ますそうです。ただ……」

「病状の悪化は間違いない、と」

「……」

 

真琴が黙ってコクリと頷く。

北岡を運び終えた後の診察室で担当医が語った、北岡が背負っているもの。それこそが、いつ死ぬかも分からない恐怖との戦いだった。

聞けば、真琴が知り合うよりも前から不治の病に侵されていたらしく、吾郎も出会った当初はその事を知らなかったらしい。以来、真琴と吾郎以外の面々にはその事をひた隠しにして、弁護士の仕事とライダーの仕事を両立させていたのだという。

 

「(医者の話だと、もう末期に近いって事になってる……。今続いてる戦いの決着がいつになったらつくのか分からないのに、そうまでしてこの人が戦う理由って、何なんだよ……)」

 

大地の疑問がさらに膨らむ中、不意にベッドの上に寝かされていた男が咳き込むと共に目を開けた。

 

「! 先生……!」

 

真琴が立ち上がり、北岡のそばに寄った。北岡は真っ先に真琴の姿を確認した後、後方にいる大地と蓮二に顔を向けた。

 

「真琴……。それに、お前らまで……」

「傷の方は大した事はない。お前が倒れた本当の理由。……医者と真琴から聞いてる。全てな」

 

北岡は真琴に目を向けると、目線を逸らされた。事情は全て向こう側に知られていると分かった北岡は、素っ気なく答えた。

 

「別にお前らが気にする事じゃない」

「もちろんだ。お前が不治の病にかかっていようが、友の仇を考えていようが、ライダーや魔法少女の世界に同情なんてない。それだけだ」

「……」

「ま、そういう事だな」

 

同情なんてない。その言葉が大地の胸の奥底に染み付いた。しばらく沈黙が続いたが、蓮二は立ち上がって、背を向けた。

 

「そろそろ失礼させてもらうぞ。今日はトップスピードから招きを受けててな。リップルと龍騎も一緒だ」

「トップスピードから……?」

「大地。お前も家に帰ったらどうだ? 親が心配するぞ」

「……はい」

 

そう言って大地も蓮二の後に続こうとする。すると2人に向かって、北岡が疑問を投げかけてきた。

 

「しかし分からんな。お前ら、そこまで分かってて、何で俺を助けようとしたんだ?」

 

蓮二は一旦立ち止まり、一瞬だけ脳裏に龍騎の変身者である正史の顔を浮かばせてから、首を横に振って、こう答えた。

 

「前に作らされた借りを返そうとしただけだ。これでチャラになっただろ」

 

蓮二が言っているのは、以前ファム改め霧島 美華の死を受けて、半ば自暴自棄になりかけていた正史の事を大地達にマジカルフォンを通じて教えてくれた事だろう。

それを察した北岡は、病院に似つかわしくないような高笑いをした後、ポツリと呟いた。

 

「嫌な奴だな。お前」

「お互いにな」

 

蓮二もフッと笑みを浮かべて、再び歩き出そうとする。が、そこへまた北岡が声をかけた。が、今度は大地に向けられたものだった。

 

「それはそうと、そこのお前。えぇっと、大地……だったか?」

「……?」

「お前、随分と何かに迷ってるみたいだけど、早いとこ解決しとかないと、取り返しのつかない事になるかもよ」

「……」

「ま、俺が言うのも何だが、こういう機会を使って、大人の黒い所もちゃんと目を通しとけば、良い事あるかもよ。別に俺みたいになれとは言わないけどさ。でも俺は、俺の為に戦うつもりだし。今は降りるつもりないよ」

「……ご親切にどうも」

 

それだけ呟くと、大地も蓮二と共に病室を後にした。

 

「しっかしまぁ。シローもファヴも、思い切った人選をしたもんだねぇ。何も未成年相手にここまでやらせる事もなかっただろうに。真琴はどう思う?」

「私は……」

 

大地とさほど歳が離れていない少女もまた、返答に困り果てている様子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

この日の授業も全て終わり、身支度を済ませようとしている大地に、クラスメイトが声をかけてきた。ゲームセンターに寄り道しないか、という誘いだったが、

 

「……ごめん。送ってく用事があるから。またな」

 

とだけ告げて、教室を後にした。

 

「送ってくって、誰の事だ?」

「あいつじゃねぇの? ほら、小学校の時の同級生で、今足を怪我してるって……」

「あぁ。そいつを家まで送るって事か。よくやるよなぁ」

 

クラスメイトは口々にそう語り合っていた。

彼らの推測通り、大地がまっすぐに向かったのは、親友の颯太がいる教室。扉を開けて、窓際の席で椅子の代わりに車椅子に座って、窓の外を眺めている颯太を見つけて、近寄って声をかけた。

 

「颯太。行くか」

「あ、大地か。……うん」

 

大地は颯太の後ろに立ち、車椅子の取っ手を掴んで、外へ連れ出した。颯太のクラスメイトだけでなく、通りかかる生徒達もここ最近は見慣れた光景だったので、気に留める者は少なかった。

学校の門を出て、静かな住宅街に差し掛かるまで、2人の間に会話はなかった。そんな中で最初に口を開いたのは颯太だった。

 

「小雪とは、あれからどうなってる……?」

「……別に。連絡してるわけじゃないし。しばらくはそっとしといた方が良いって、手塚さんも言ってただろ?」

「でも……。……まぁ、そうなるか」

 

小雪ことスノーホワイトは、あの日以降、集合場所に来ることはなくなった。ひょっとしたらどこかで待っているのではと淡い期待を寄せて、鉄塔やビルの屋上など、これまで拠点にしていた所は立ち寄ってきたが、誰1人としてスノーホワイトの姿を見る者はいなかった。彼女自身が魔法少女を否定してしまったので、もう活動すらしていないのでは、と大地は推測する。

 

「小雪……」

 

幼少期は、よく魔法少女の事を互いに語り尽くしていた颯太は、ショックを隠しきれていない様子だ。

 

「(人殺し……か。でも今の俺はどっちつかずだ。北岡さんは自分の為に戦おうとしてる。でも俺は……? 俺は何かを背負って、目的があって戦おうだなんて考えた事なかった。……いや、そもそも)」

 

そもそも、なぜこのような事になってしまったのか、自分でもよく分かっていない所がある。大地は周りを見渡して、2人以外誰もいない事を確認してから、マジカルフォンを取り出して操作した。

 

「大地? 何を」

『呼んだかね?』

 

大地のマジカルフォンに立体映像として現れたシローは、呼び出し主に問いかけた。颯太が険しい顔つきになる中、大地はシローに質問を返した。

 

「……N市の仮面ライダーや魔法少女を削減する為の、マジカルキャンディーの競い合い。それが当初のコンセプトだったはずだよな」

『あぁ、その通りだ。それがどうした?』

「でも今、どこで歯車が狂ったのかも分からないまま、文字通り、命がけの戦いが始まった」

『そうだな』

「……なぁお前。最初から、こうなる事を分かってたんじゃないのか。最初は16人、次に8人。どう考えたって、土地の魔力が枯渇してるからって理由付けは、無理があるように見える」

『それを知ってどうするつもりだ。今更このルールを変える事は出来ない』

「シロー、お前……!」

 

颯太が今にも飛びかかろうとするが、大地がそれを制し、こう尋ねた。

 

「お前が簡単にボロを出すだなんて思ってない。聞きたい事は他にある」

『何だ?』

「お前らの目的は何だ。何を理由に、こんな戦いを仕組んだんだよ」

『仕組んだ、とは人聞きの悪い言葉だな』

 

シローが呆れたように呟く。が、やがてこう語り始める。

 

『理由を問われているわけだが、そんなものはない』

 

理由はない。またその一点張りかと思っていた2人だったが、シローは続けざまにこう答えた。

 

『だが、私の客観的立場からして意見を述べるとすれば、今の状況を作り出した要因。それは「内にある欲望」だと私は考えている』

「僕達の、欲望……⁉︎」

 

予想外な返答に目を見開く2人。

 

『一国の女王や国の大統領、首相、救世主と謳われている者、奴隷、平民、ごく普通に生活している者。ありとあらゆる人物に共通して保持しているもの。それが「欲望」だ。秘めたる度量に違いはあれど、人は必ず欲を持って社会を動かす。君達もまた、欲望を持って力に選ばれた』

「欲望……。それがこの戦いに何の関係があるんだよ」

『ここまで来たのだから、話しても良いだろう。我々が選抜した32人のメンバーには、この街の住民の中でもより強い欲望が見受けられていた。「夢の中でずっと楽しんでいたい」「大切な人と幸せになりたい」「仇を討ちたい」。……そういった欲望がこの戦いを創り上げた』

「……!」

 

シローの言う通りかもしれない。

大地は『退屈な日常を変えたい』と思っていた時に仮面ライダーに選ばれた。颯太は『魔法少女を大好きでい続けたい』、小雪は『魔法少女になれたらなりたい』、手塚は『避けられない運命を変えたい』、正史は『仮面ライダーみたいに人助けを勤しみたい』と、心のどこかで願っていた。皆が、何かしらの形で欲望を抱いていた。

 

『全ての人間が欲望を背負い、その為に戦う。そして、その欲望が背負いきれないほど大きくなった時、力に変わる。その象徴こそが仮面ライダー。それこそが魔法少女』

 

シローの言葉に、何も言い返せない大地。そんな彼を見て、シローは思った。

 

『(人間……。やはり複雑な回路を形成している生き物だ。この試験が終わるときに得られる「答え」がますます気になるな。人材育成計画とはよく言ったものだ)』

 

シローは考え事をやめると、呼び出し主に告げた。

 

『では、これ以上質問がなさそうだから、この辺りで失礼させてもらうよ』

 

そう言ってシローは姿を消した。颯太は前を向いたまま、車椅子の上で拳を握りしめた。一方で大地は険しい表情を崩さない。

 

「(欲望……。こんな俺にも、まだ残ってるって事なのか……? 仇も取れず、パートナーを傷つけて、信頼を失った俺に、まだ戦う理由があるとしたら、それって……)」

 

夕日に照らされている大地は、マジカルフォンからしばらく目を離せなかった。

彼が『答え』を見つける時は、いつ来るのだろうか……。

 

 

 




とくにこれといった動きはありませんでしたが、次回は龍騎、トップスピード、ナイト、リップルにスポットを当てていきます。

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