魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

88 / 144
今回は、ゾルダにある異変が……⁉︎


84.ゾルダ危機一髪

夜明けから降り続いていた雨は、ようやく勢いを弱め、雲の隙間から日光が見え始めた夕方。

令子は亜子が襲撃された現場を中心に、下校途中の生徒や、通りかかった人々から情報収集をしていた。

 

「じゃあ、その黄色いパーカーを着た人は、その場で突然蒸発したかのように、姿を消したという事なんですね?」

「えぇ。遠目で見ただけですけど、驚きましたよ。いやぁ、あの時のやつ撮っとけばなぁ……」

「ホントですよね。それに後で聞いた話じゃ、ナイフ見たいな鋭いものを持ってて、それで急に女の子に振り下ろしたって」

「そういえばあの女の子、大丈夫だったのかなぁ……」

「その子の事ですが、こちらの調べでは、無事に保護されて、念のために病院に連れて行って、問題なかったそうです」

「へぇ、そうだったのか」

「そりゃあ何よりだ。……けど、2日前の中宿のアレといい今回の事といい、なんか急に慌しくなったよな」

「そうそう。ちょっと前までは仮面ライダーとか魔法少女とかがブームになってたのに、最近は目撃情報が減ったらしくて……」

「……魔法少女、仮面ライダー……」

 

取材に応じてくれた2人のサラリーマン達の会話を聞いて、令子は少し考え込む素振りを見せた。

その後2人にお礼を言ってからその場を後にし、次の聞き込み調査へ向かおうとしたその時。令子の視界に、見慣れた人物がいた。坂の上で傘をさしながら、下方に広がる街を寂しげに見下ろすスーツ姿の男性は、令子にとってできる事なら関わりたくない人物だったが、その時の彼の表情が気になった令子は声をかけた。

 

「北岡さん。どうかしたかしら?」

「……あぁ、令子さん。こんな所で会えるなんてね」

「あら。今日は口説き文句から入らないのね」

「おっ? ひょっとしてちょっと期待してた感じ?」

「いえ全く」

 

令子は冷たくあしらい、北岡はそれを見て肩をすくめる。

 

「まぁぶっちゃけ、今日はそんな気分じゃないってところかな」

「珍しいわね。……ところで、今日は他の2人は一緒じゃないの?」

 

そう尋ねられて一瞬、表情が固まる北岡だったが、令子を前にしている事に気付いて、慌てて返事を返した。

 

「ま、まぁね。真琴は友達の家に戻ってるし、ゴロちゃんは……。……うん。買い物に出かけてる。たまには1人でぶらぶら歩きたかったからさ」

「そう」

「(令子さんには、余計な心配させたくないもんな)」

 

北岡はなるべく平気を装って誤魔化した。

1人になりたいという気持ちは本当だった。2日前に長年秘書を務めて唯一心を許した親友の吾郎は、カラミティ・メアリが仕掛けた爆弾による被害から人々を守ろうとし、そして命を落とした。戦いという渦中の中で、何の関係もない者達が巻き込まれること事態、北岡も真琴も想定していた。が、仲間の死を前に、想像以上に堪えるものが確かにあった。

だからこそ、北岡も真琴も変わろうと思った。やはり自分の手を汚さずに勝ち残れるほど、現実は甘くない。が、それでも迷うところはあった。

 

『先生は、最後まで変わらないでいてください』

 

「ゴロちゃん……」

 

脳裏に、吾郎の最後の言葉が浮かび上がる。北岡は蚊の鳴き声ほどのトーンで親友の名を呟いた。

 

「? どうかしたの?」

「あ、いや何でも……。それより令子さんこそ、今日はどうしてここに?」

「あなたが知ってるかどうか分からないけど、今朝この近くで通学途中の女子中学生が、通り魔に襲われて、怪我をしたの。それでその取材中だったわけ」

「へぇ。そういえばさっきからパトカーをよく見かけてるけど、そういう事だったんだ。……あぁ、立ち話も何だしさ。ちょっと休憩しない?」

「……まぁ、それぐらいなら」

 

そこで北岡と令子は、雨宿りに最適な場所へと移動を始めた。

2人の後方に広がる水たまりが雨に打たれて波を打っている。その水たまりから、音もなくピンク色の髪の少女の頭だけが出てきて、2人の後ろ姿をジッと見つめている事に、2人は気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくたどり着いた場所は、現場からそれほど離れていない、人の少ない通りに佇むビルの屋外のベンチだった。屋根が上にあるため、多少の湿気こそあるが、座って腰を休めるには申し分なかった。

道中で北岡が購入したホットコーヒーを受け取り、一口含んだ令子は北岡にこれまでの取材で判明した事を話し始めた。

 

「普通に考えれば、人がその場で蒸発するなんてありえない。あるとすれば、地面に潜り込んだとしか……」

「潜り込んだ……? どうしてそう思うんだ? 大体、人間にそんな芸当ができるわけ……」

「そう。普通の人間ならね」

「? じゃあ何? その子を襲ったのは、普通の人間じゃないって事?」

 

北岡が首を傾げる中、令子はこんな事を話し始めた。

 

「あなたもこの街に住んでるなら、魔法少女や仮面ライダーの噂ぐらい、耳にしてるわよね?」

「え、えぇまぁ。ってか、まさか令子さん。そんな奴らが現実にいるって、本気で信じてるわけ?」

「私も最初は単なる都市伝説だと思ってたわ。……けど、これまで頻繁的に目撃されているって情報が多いのも事実だし、一昨日の中宿の事件でも、多数の目撃情報が入ってきてるわ。それに今回被害に遭った女の子……亜子ちゃんは確かに白いライダーと白い魔法少女を見たそうなの。それに……」

「それに?」

「ついさっき仕入れた情報なんだけど、近くで若い女性の刺殺死体が見つかった事に関連して、最近この街で相次いで起きてる不審死も引っかかる所があるの。一昨日の件に、今朝の件。そしてこの街を中心に起きている、行方不明事件や不審死……。魔法少女や仮面ライダーの事と合わせて、この一連の事と、何か繋がりがあるように思えるの」

「へぇ〜。でも令子さんらしくない見解だね。そりゃあバカバカしいよ」

 

実際は当事者でもある北岡は内心焦りながらも、どうにかして否定的な言葉を告げる。が、逆にその対応が令子の気に障ったらしく、眉をひそめて問いかけた。

 

「あなた、もしかして何か知ってたりする?」

「さぁ。考えすぎじゃないですか? まぁあまり思いつめないで、少し頭を冷やしましょうよ」

 

そう言って温かいコーヒーを口にする北岡。令子は鼻を鳴らして、同じくコーヒーを口にする。

 

「でも、何か気になるのよね……。この街で起きてる様々な事が、単なる偶然が重なってるとは思えないの」

「行き詰まってるなら、いっその事違う取材に切り替えたらどうです? 『北岡 賢治の密着24時』……的な?」

「あのね……」

 

やはりいつも通りだった、と言わんばかりにため息をつく令子。とはいえ北岡自身も、令子と話すうちにモヤモヤしていた気分が晴れていくような気がしていた。やはり令子さんは今までの女性と格が違うなぁ、と思っていると、異様な視線を感じて、北岡は気配のした方に顔を向けた。

一瞬だけだったが、ピンク色のスク水を身にまとった、無表情な少女が顔や全身を引っ込める動作を北岡は確認した。

 

「! (あいつは……)」

「どうかした?」

 

チャットルームで、アバター姿だけではあるが、彼の記憶が確かならば、ルーラがリーダーとして統括していた派閥に所属していた、胸が異常に大きかった少女がそこにいた。北岡が眉をひそめ、令子が気になって声をかけた。

北岡は顔を令子に向けて、何ともない、と言おうとして、気付いてしまった。令子の左手奥にできた水たまりに一際大きな波紋が広がり、鋭く光る刃が突き出てきた事に。そして勢いよく刃が飛び上がり、それが薙刀だと分かった時には、その持ち主の全身が地上に出ていた。ピンク色のスク水と巨乳が特徴的な少女は手に持った薙刀を振り下ろそうとしていた。その目線の先には令子が。

 

「令子さん!」

「えっ⁉︎ きゃあ!」

 

令子が振り返るよりも早く北岡が引き寄せ、振り下ろされた薙刀『ルーラ』は、令子の頬を掠め取った。傷は大した事なく、少量の血が流れる程度で済んだが、北岡が気付いていなければ、令子も無事では済まなかっただろう。

 

「令子さんしっかり……!」

「うっ……」

 

令子はどこかで頭をぶつけたらしく、そのまま気絶した。北岡は令子から手を離し、彼女に襲いかかった魔法少女『スイムスイム』をこれでもかと睨みつけた。スイムスイムは相変わらず無表情のまま、近くのガラス窓に飛び込んだ。ミラーワールドへ逃げたようだ。

令子を屋根の下に寝かせた後、スイムスイムが逃げ込んだガラス窓に向かって取り出したカードデッキをかざした。

 

「変身!」

 

ポーズを決めて、ゾルダに変身した北岡は、誘われるようにミラーワールドへ突入した。

スイムスイムを追いかける為に走っていたゾルダは、ミラーワールド内のビルの前で足を止めた。スイムスイムがルーラを手に持って、待ち構えていたのだ。ゾルダは憤然とした態度でスイムスイムに怒鳴った。

 

「どういうつもりだお前! 何で令子さんを狙った! 令子さんは関係ないだろ!」

「ルーラが言ってた。正面から勝てないと分かってる強い相手に、無闇に正面から戦うのは愚図のやる事。正面から勝てないなら、それ以外の方法で戦えばいい」

 

呆然と呟くスイムスイムを前に、ゾルダは怒りを通り越して、呆れが生じていた。

 

「お前、何言ってんだ……⁉︎」

「魔法少女も仮面ライダーも、一般人に正体を知られてはならない。立ちはだかる敵は、どんな手を使ってでも倒す。ルーラならきっとそうする」

 

今朝方、ハードゴア・アリスを仕留め損ね、ミナエルまで脱落したが、念のためにと襲撃現場を見回っていたスイムスイムだが、偶然にも自分達の事を探ろうとしている令子に目をつけたようだ。

スイムスイムにとって、令子は自分達の正体を探ろうとしている『敵』であり、秘密がバレる前に排除しようと考えているようだ。当然ゾルダが納得するはずもなく、マグナバイザーに手をかける。

 

「さっきから訳のわからないことばかり口にしてるけどさ。……どうせお前も魔法少女だからな。倒すに越した事ないからね」

「……邪魔するなら、倒す」

 

スイムスイムがルーラを両手で持ち、掲げると同時にゾルダの持つマグナバイザーの銃口から火が吹いた。銃弾をルーラで弾きながら、スイムスイムは反撃とばかりにルーラを振り回してきた。これをゾルダは身を翻しながらかわし続ける。元々遠距離戦法を得意とするゾルダに、接近戦は不向きなのだ。

 

「フンッ!」

 

だが不得意な接近戦を利用して敵にダメージを与える方法もある。左腕でルーラを振り払い、バランスを崩したスイムスイムに向かってマグナバイザーを狙い定めて、引き金をためらいなく引いた。

が、すぐにゾルダは目を見開いた。銃弾がスイムスイムの体をすり抜けたのだ。直撃を受けたにもかかわらず、スイムスイムの体からは血が流れず、本人は平然としている。動きが止まったその隙をついて、スイムスイムは反撃とばかりに、ゾルダの腹を蹴り上げた。そしてルーラの柄を振り回し、ゾルダを弾き飛ばした。

 

「ぐっ……! こいつが効かないなら……!」

 

『ADVENT』

 

スイムスイムがルーラの刃先を突き出す前にゾルダがマグナバイザーにカードをベントインし、契約モンスターであるマグナギガを盾にして、新たなカードをベントインした。

 

『SHOOT VENT』

 

自身の身長よりも長いギガランチャーを構えて、マグナギガの合間を縫うように砲撃した。が、結果は先ほどと同じく、砲弾はスイムスイムの体をすり抜け、後方にあった木に被弾し、根元から折れた。

 

「何⁉︎」

 

自身の攻撃をまるで寄せ付けていない事に驚くゾルダ。

 

「(ひょっとして、あいつの魔法か? だとしたら相当マズいだろこの状況……!)」

 

次の一手を迷うゾルダに対し、スイムスイムの方は早かった。

 

「……アビスハンマー」

「うわっ⁉︎」

 

スイムスイムがパートナーの契約モンスターの名を呟くと、現れたアビスハンマーがゾルダの後方から狙撃を始めた。不意をつかれたゾルダは前のめりに倒れ込み、スイムスイムに接近を許してしまった。慌てて立ち上がって回避するゾルダだが、ルーラの一太刀が彼の右腕を掠め取り、血が流れた。

 

「グゥッ……!」

「……アビスラッシャー」

 

スイムスイムは出し惜しみする事なく、もう一体の契約モンスターを呼び寄せて、ゾルダと交戦させた。2刀の刃を振るうアビスラッシャーを前に、右腕を負傷したゾルダは対抗手段が間に合っていない。追い詰められたゾルダはアビスラッシャーに羽交い締めにされて、身動きが取れなくなった。アビスハンマーもそれに加わり、抵抗する術を失ったゾルダが叫んだ。

 

「随分と汚い真似するじゃないか……! そういう女は美しくないね……!」

「『強い奴はどんな手を使っても倒せ』。それがルーラの言葉だから」

「ルーラって、お前……!」

 

ゾルダが何かを言いかける前に、迅速に仕留める。そう決めたスイムスイムはマジカルフォンを操作して、自身の右腕にアビスクローを装着し、突き出した右腕のアビスクローから『アビスマッシュ』を放ち、激しい水流がゾルダの視界を遮った。水を飲んで意識が朦朧としているうちに、スイムスイムは接近し、ルーラを振り下ろす。

 

「ハァッ!」

「……!」

 

だがルーラがゾルダに届く事はなかった。それを剣で受け止める者が現れたからだ。

それはダークバイザーを持ったナイトだった。そしてそのままスイムスイムを押し戻し、スイムスイムとの一騎打ちを始めた。

 

「あいつ……!」

「ラァッ!」

「先生!」

 

と、今度はゾルダを押さえつけていたアビスラッシャーとアビスハンマーに向かって体当たりをする2つの影が。1人は白い狐のライダー『九尾』で、もう1人はゾルダのパートナーであるマジカロイド44だった。

 

「ゾルダ!」

「!」

 

九尾の合図を受けて、ゾルダは落ちたマグナバイザーを拾って、2体に連射を放った。2体は銃撃を正面から受けて後ずさり、ナイトに苦戦していたスイムスイムの横に並び立った。スイムスイムがルーラを構え直すと、ゾルダとスイムスイムのマジカルフォンから、音が鳴り響いた。活動時間の限界を迎えたようだ。

 

「(時間もないし、数の差がありすぎる……。これは私1人では難しい)」

 

そう判断したスイムスイムは、以前ルーラが口にしていた、戦略的撤退という言葉を思い出しながら、高く跳躍してその場を後にした。2体の契約モンスターもその後に続いて、退散した。

九尾が一息ついていると、ナイトが口を開いた。

 

「すぐに出るぞ」

「先生、私に掴まってくださいな……!」

「あ、あぁ……」

 

スイムスイムとの戦闘で疲労したゾルダを、マジカロイドが右腕を首の後ろに回して、肩を支えた。が、身長の低いマジカロイドだけでは動きづらいだろうと思ったのか、ナイトと九尾も手を貸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人の協力を経て、ミラーワールドから脱出したゾルダは、その場で変身を解いた。雨はすっかり上がっていたが、額から流れる汗は尋常ではなかった。他の3人も変身を解除し、息を整えていた。3人が合流したのは偶然であり、反応をたどって行き着いた先でゾルダがスイムスイムと戦っているのを見て、介入したのだ。

すると、北岡が後方の壁に体を預けた。

 

「北岡さん、大丈夫ですか?」

「先生!」

 

真琴が心底心配そうに駆け寄る中、北岡は自分の手を見つめていた。よく見ると、その手は震えている。

 

「信じ、られるか……! この俺が、あんな、訳の分からない奴に……! あいつが強いのか、それとも、俺、が……」

 

そう呟きながらも立ち上がって、どこかへ立ち去ろうとした北岡だったが、不意に北岡の体がグラつき始めた。

 

「!」

 

そしてそのまま、北岡は前のめりに濡れた地面に向かって倒れこんだ。

 

「北岡!」

「先生!」

「おい!」

 

3人は慌てて駆け寄り、体を揺さぶるが、目を覚ます気配はない。真琴がこれでもかと体を揺らし続ける中、異常事態だと悟った蓮二はスマホを取り出し、病院に連絡を入れた。

大地はただ、目の前で突然倒れた北岡と必死に彼の名を叫ぶ真琴の姿を見て、困惑するしかなかった。

 

 




何気に初めて会合したゾルダとスイムスイムの戦闘回でした。今更かもしれませんが、やっぱりスイムスイムとタイガはよく似てますよね。

そして次回、ゾルダに隠された秘密が明らかに……!(まぁほとんどの方はもうお判りかもしれませんが)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。