魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回はタイトルからも察せる通り、あのライダーが動き出します……!


82.僕が英雄になる為に

簡単だった。

 

 

迫り来る死の恐怖に、なす術もなく怯えた様子を見せる亜子を目の前にして、スイムスイムが率直に浮かんだ感想はそれだった。

2日前に繰り広げられたゲリライベントでは、結果的に自分達の陣営から2名が脱落した。ベルデとガイである。ベルデの場合は、自身をよりルーラへと近づける為に、このタイミングでどうしても消さなければならなかった。だからスイムスイム自身が手を下した。だが、ガイの脱落はそれなりに痛手だったかもしれない。インペラーほどではないにしろ、自分の力を過信しすぎていたところがある。自分の能力の力量を測れないようでは、足元をすくわれるだけなのだ。

それでも、ガイがやられてしまったのはスイムスイムにとっても誤算だった。

 

「(ルーラなら、殺される前に引き止めてたのかな……)」

 

王結寺に戻り、かつてルーラやベルデが立っていた位置と全く同じところでスイムスイムは、マジカルフォンを通じて伝えられた、脱落者の追加削減の文面に目を通していた。16名から8名。今現在、21名がN市に在籍している為、あと13名の命を奪わなければならなくなった。気の遠くなるような仕事だが、スイムスイムは項垂れる事なく、リーダーらしく次の標的を考え始めた。

最初にターゲットに考えたのは、生き残っている魔法少女の中で戦闘能力の低いスノーホワイトだが、透明外套を羽織ったたまの奇襲が失敗した事を考えると、スノーホワイトの魔法は相手にすると厄介になりそうだった。彼女のパートナーである九尾は、2日前の戦闘を見るからに、容易に倒せる敵ではないだろう。彼らと行動を共にするラ・ピュセルも、決して侮れない。そのパートナーのライアもトリッキーな戦闘スタイルで、やり辛いところが見受けられる。トップスピードはあともう少しというところで殺せそうだったが、龍騎に止められてしまった。初めて対峙して分かったが、龍騎は攻守のバランスがとれている為、トップスピードにも手が届きそうにない。リップルも2日前に戦闘をしたが、とにかく素早さなら全魔法少女の中でもトップクラスであり、スイムスイム1人でならまだしも、たまやアビス、タイガが一緒にいると、倒せるか、確信が持てない。パートナーのナイトも同じようなものだろう。加えて前述で出た魔法少女や仮面ライダーの内、6人は強化用のアイテムが付与されている。龍騎サバイブとトップスピードサバイブの攻撃には身の危険を感じ、見逃すしか手はなかった。

では、他の面々はどうだろうか。リュウガはとにかく強い。そのパートナーのハードゴア・アリスも驚異的な治癒能力で、上手く倒せるようなビジョンが見えてこないのだ。ガイを殺したカラミティ・メアリと王蛇のペアは、今はなるべく干渉せずに、どうしてもという時は臆せず倒しに行けば良いだろう。ゾルダとマジカロイド44のペアは、少し情報量が少ない為、彼らの弱みを握ったところで倒しに行こうと考える。それ以上に情報がないペアは、クラムベリーとオーディンのペア。未知という事で懸念されるところもあるが、『何よりも強い敵は、何よりも打ち滅ぼさなければならない敵である』と教えてくれたルーラの言葉を思い返し、スイムスイムは考え直した。

スイムスイムは顔を上げて、周囲に目を向けた。彼女のパートナーであるアビスは、王結寺に戻ってから姿を少しばかり消していたが、すぐに戻ってきていた。タイガは何をするわけでもなく、ジッと座って待っていた。もっとも手を焼かせたのは、たまだった。パートナーのガイを目の前で殺されたショックから立ち直れていないらしく、常時すすり泣きし、時折しゃっくりを上げながら、室内の片隅で丸まっていた。ミナエルだけは、まだ合流もしていないし、帰ってきていない。どこへ行方をくらませたのだろうかと頭を働かせていた矢先に、音を立てて扉が開けられて、ミナエルが荒々しく入り込んできた。

そしてスイムスイムが口を開くよりも早く、ミナエルは叫んでいた。

 

『殺せる奴がいる! 今度こそ失敗しない!』

 

詳しく聴きだしたところ、ミナエルは魔法でハードゴア・アリスの所持しているウサギのぬいぐるみに化けて、アリスの正体を目撃したのだという。加えて、偶然の産物と言うべきか、その道中で龍騎の正体を知る事もできた。龍騎の方はともかく、アリスなら今からでも殺れる。興奮気味に熱弁するミナエルだが、スイムスイムはそこで一旦冷静に状況を分析した。

相手は治癒能力の高い魔法少女。魔法少女姿では到底勝ち目がない。倒すのなら、変身前にするべきだと考えたスイムスイムは、襲撃のタイミングを厳選するところから始めた。以前、ウィンタープリズンを相手にピーキーエンジェルズが油断して変身魔法を解いてしまって、反撃されそうになった経験も活かして、絶対に反撃をもらわない場所。即ち人間に囲まれ、変身すれば正体を知られてしまう場面。

そして、殺る気満々のミナエルを初め、アビスとタイガも2日後に行動を開始した。たまだけは参加させなかった。ガイの死で精神的にも疲れているように見え、とてもじゃないが、無理やり連れて行っても足手まといにしかならない。よってスイムスイムを含めた4名でアリスの変身者、鳩田 亜子の殺害を実行した。

作戦は功を奏し、亜子は魔法少女に変身できぬまま、追い詰められていた。後はルーラで倒す。それで厄介だった敵が排除される。実に簡単な戦いだった。とスイムスイムは思っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「こ、のぉ……!」

 

魔法少女というよりも、騎士という言葉が相応しそうな少女が、ミラーワールドから出てきて、亜子とスイムスイムの間に割り込んで来るまでは。

 

「あ……!」

 

亜子は開いた口が塞がらない。彼女にとって予想外の人物が、そこにいた。彼女に助けられるとは思っていなかったのだ。

 

「お前……、ラ・ピュセル!」

 

ミナエルが、大剣でルーラを受け止めて拮抗している魔法少女『ラ・ピュセル』の登場に歯ぎしりしながら、スイムスイムの代わりにと、前に出て亜子に襲いかかろうとする。

 

「フンッ!」

 

だがそこへ新手が加わり、唐突にねじ伏せられたミナエルは後ずさった。フォクセイバーを構えた九尾が、ミナエルよりも真上から飛びかかってきたのだ。

 

「! 九尾……!」

 

亜子は思わず呟いた。憧れの対象が、そこにいる。が、九尾は亜子やミナエルに目もくれず、ラ・ピュセルの援護とばかりに、スイムスイムに斬りかかる。スイムスイムは一旦後退し、間合いをとってから、素早く前進する。目の前にいる九尾やラ・ピュセルは後回しにして、先ずは亜子を倒すと決めた彼女はフェイントをかけて、間を縫うようにルーラを突きつけながら狙いを定める。

が、2人がそれを見逃すはずもない。スイムスイムの行動を読み取ったラ・ピュセルが真っ先にバックして手刀でルーラの柄を振り払った。その際、軌道が逸れた影響でルーラの刃先はラ・ピュセルの太ももをわずかに掠め取った。

 

「……っ!」

 

降り注ぐ雨に混じって傷口から血が流れ落ちるが、踏ん張って大剣を振り回した。当然スイムスイムもこれを避けるが、ラ・ピュセルに気を取られすぎたからか、

 

『BLAZE VENT』

 

九尾の放った火炎玉『ブレイズボンバー』までは予測できず、爆発に巻き込まれて、衝撃波で吹き飛ばされた。

 

「! んの野郎!」

 

逆上したミナエルが、小さい体を活かして、爆発を掻い潜りながら九尾にデストクローを振るった。九尾はとっさに両腕をクロスして防御の構えに入るが、デストクローの鋭い爪が、両腕に傷をつけて、血が流れた。

 

「!」

「九尾!」

「平気だ……!」

 

九尾は後ずさりながらも、ラ・ピュセルに無事を伝える。出遅れたアビスやタイガとも交戦するが、九尾とラ・ピュセルは怪我の具合を気にする事もなく、亜子を守ろうと躍起になっていた。背中についた傷ほどではないにしろ、2人は傷を負いながらも、自分を守ろうと戦っている。特に九尾は、自分が守ってやらなければならないはずなのに、いつの間にか守られる立場にある。その事が、亜子にとって胸を締め付けられるような感覚を覚えさせる。

 

「くっ……!」

 

アビスは舌打ちしながら後退し、タイガもそれに続く。スイムスイムが今後どうするかを模索していると、ミナエルが怒りをぶつけた。

 

「何なんだよお前ら……! あたしらの邪魔をすんなよ! 大体そんな奴守ったって、何の価値があるんだよ! ちっぽけで安いものなんか、ユナと比べたら石ころにしか……!」

「だからこそ!」

 

そこへラ・ピュセルが唐突に遮り、ミナエルは黙り込む。

 

「ちっぽけだからこそ、守らなきゃいけないんだ! 誰だってそうだ! 例え周りから見て小さなものだったとしても、それを刈り取る理由なんて、一つもない! だから……! 彼女を傷つけようものなら、僕が勝手にそれを守る! それが、僕が決めた正義のあり方だ!」

「……!」

 

亜子は目を見開き、ラ・ピュセルの後ろ姿を見つめた。初めてだった。スノーホワイトや九尾以外に、自分を惹きつけるようなものが見受けられたのは。

ラ・ピュセルに続いて九尾も口を開いた。

 

「……俺にはまだ、ラ・ピュセルみたいなもんは持ち合わせてないけどな。それでも、こんな状況を放っておけるほど、俺だって落ちぶれちゃいない」

「……これでも、ダメなのかよ! 最初からこうすれば良かったと思ったのに! そうすれば、ユナは死ななくても済んだってなるはずだったのにぃ!」

「! ミナエル……!」

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

アビスの制止を無視して飛び出すミナエル。九尾とラ・ピュセルが身構えていると、

 

『GUARD VENT』

 

「ダァッ!」

 

2人の前に、ドラグシールドを構えた龍騎が現れてミナエルを押し返した。

 

「「龍騎!」」

「大丈夫⁉︎」

 

龍騎は顔を向けて、2人の無事を確認した。それから、背中から血を流している亜子に目をやって状況を確認した龍騎は、スイムスイム達を睨みつけた。

 

「お前らがこの子にこんな酷い事したのか……! どうしてなんだよ! この子は関係ないだろ!」

「関係あるよ。足元を見てよ」

「えっ」

 

タイガに指摘されて、龍騎だけでなく九尾とラ・ピュセルも亜子に目をやる。彼女の足元には、先ほどデストワイルダーに体当たりされて手放してしまった、薄紫色のマジカルフォンが。見覚えがあった。黒い魔法少女が所持しているものと同じ色のもの。

 

「! ひょっとして君、ハードゴア・アリスの……!」

「変身前に襲うなんて、姑息な手を……!」

「お前……」

 

九尾は改めて亜子の姿を見つめるうちに、思い出した事があった。まだラ・ピュセルやライアとチームを組む前に見かけた事があった。鍵を紛失して家に入る事ができずに困っていた少女だ。

 

「そうか……。だからお前は……」

 

何かを察した九尾だが、雨に打たれて段々と衰弱しているように見える亜子をどうにかしなければと思い、九尾は2人に話しかけた。

 

「とにかく今は、ここから離脱しよう」

「あぁ、それが良い」

「うん! 先ずはこの子を守らないとな!」

 

龍騎とラ・ピュセルも頷き、九尾の前に出た。そして龍騎はカードを引き抜き、サバイブのカードをスイムスイム達に見せつけると、左腕を突き出してドラグバイザーツバイを手に取り、口の部分に差し込んだ。

 

『SURVIVE』

 

ラ・ピュセルもそれに続いて、マジカルフォンをタップして腰についたホルダーにマジカルフォンをセットした。

 

『SURVIVE』

 

龍騎サバイブ、ラ・ピュセルサバイブへと変化した2人は、前進してスイムスイム達の足止めに徹した。その隙に、九尾は亜子をなるべく背中の傷に触れないように抱えて、屋根のありそうな場所へと駆け出した。

 

「! 狙いはそっちか!」

「逃がすかよぉ!」

 

ミナエルが九尾を追いかけようとするが、強化された大剣を振るいながら、ラ・ピュセルサバイブはマジカルフォンの画面をタップして、大剣を掲げると、彼女の真上にエクソダイバーを出現させた。アビスが警戒していると、エクソダイバーの腹部から雷が落ちて、避雷針代わりとなっていた大剣に当たり、剣に電流を帯びた状態で、ミナエルに向かって振り下ろした。サバイブによって新たに得た『ヴェイパースパーク』は、大剣を中心に放電して、空中を飛んでいたミナエルにダメージを与えた。

 

「ぐ、アァァァァァァァァァァァ!」

 

全身が痺れたミナエルは地面に膝をついた。タイガがミナエルを抱き抱えると、龍騎サバイブがダメ押しとばかりに新たなカードをベントインした。

 

『ADVENT』

 

「頼む、ドラグランザー!」

 

龍騎サバイブはドラグランザーにそう言うと、応えるように咆哮を上げて、スイムスイム達に襲いかかった。4人は身を翻して回避した。そこへ向かってドラグランザーが口から火炎放射をなるべく周りに被害を出さない程度に放った。

やがて炎が晴れると、4人の姿はなく、遠くに傷を負ったミナエルを抱えてビルを飛び交うタイガの姿があった。おそらくアビス、スイムスイムらと二手に分かれて逃亡したのだろう。ようやく敵を退けることに成功した2人はホッと一息ついた。

 

「良かった……。ありがとう龍騎」

「まさかこんな朝から戦いを仕掛けてくるなんてな……。なんで奴らだよ。っていうより、ラ・ピュセルも九尾も、何でここに?」

「それは後にしよう。先ずは九尾と彼女の所に」

「あ、あぁ」

 

2人はサバイブ状態を解除すると、九尾のいる地点へ出向いた。

九尾と亜子がいたのは、現場からそれほど離れていない地点の、シャッターの閉まったタバコ屋の、屋根の下だった。

 

「九尾!」

「ラ・ピュセル、それに龍騎も」

「その子、大丈夫だった?」

「……」

 

亜子は全身を震わせながら、うずくまっていた。死への恐怖と、何も出来なかった事への悔しさが混じっているのだろうか。龍騎は周りに誰もいない事を確認してから変身を解除し、正史の姿に戻った。

 

「えぇっと……。とりあえず、無事で良かったね。あ、俺は城戸 正史。君は……」

「……鳩田、亜子、です」

 

亜子は声を震わせながらも自分の名を告げた。

 

「亜子ちゃん、か。もう大丈夫だから。またあいつらが来ても、すぐに追い返してやるからさ!」

 

正史は亜子を励まそうとしたが、依然として亜子の表情は優れない。仕方なく、正史は九尾とラ・ピュセルに顔を向けた。

 

「そういえば、2人はどうしてここに?」

「あぁ、それは……」

 

ラ・ピュセルが代表して事の次第を話した。

大地に車椅子を押してもらう形で、颯太と2人で学校に登校していた途中で、通り魔が隣近所の中学校に通う生徒を襲ったという情報を耳にして、妙な胸騒ぎを覚えた2人は、人目につかないところで変身して、街中を捜索した。襲われた少女は通り魔から逃げている最中だという。一刻も早く保護しなくては、とラ・ピュセルは内心焦りながら探していた。

しばらく捜索していると、九尾がスイムスイム達の姿を目撃した。しかも彼らの前には、血を流した自分達と同い年くらいの少女が。なぜスイムスイムらが一般人を襲おうとしているのかは分からなかったが、放っておけるはずもなく、ラ・ピュセルが真っ先に飛び出たのだという。

 

「……って事なんだ。城戸さんはどうしてここに?」

「この辺は仕事場に向かう時に使う道だったからね。マジカルフォンが反応を見せたから、変身して追いかけたんだ。そしたら2人と亜子ちゃんがいるのが見えてね」

 

どうやら正史が駆けつけたのは、通勤途中に異変に気付いた事が要因らしい。

正史は亜子の背中にできた傷に目をやると、九尾とラ・ピュセルに告げた。

 

「亜子ちゃんは俺が何とかするから、2人はもう戻っていいよ。この後学校があるでしょ?」

「え、えぇ。でもその子は……」

「大丈夫。俺がついてるからさ」

「……分かりました。また今夜会いましょう」

「了解!」

 

正史とラ・ピュセルで話がつく中、九尾は膝を曲げて、亜子に目線を合わせた。

 

「……まさか、お前がハードゴア・アリスだったなんてな」

「覚えて、くれてたん、ですか……?」

「まぁ、おぼろげだけどな」

 

九尾は納得していた。なぜこれほどまでに彼女が執拗なまでに自分やスノーホワイトに絡んでこようとしてきたのかが、今やっと、理解出来たのだ。

 

「……鍵、あれから失くしてないな?」

「! は、はい」

「なら良かった」

 

それだけ告げると、九尾は立ち上がってラ・ピュセルと並び立った。亜子は何かを言いたげだったが、途中でつっかえてしまったのか、口に出る事はなかった。九尾とラ・ピュセルは2人に手を振ると、学校のある方へと跳躍していった。

残された正史は、一度亜子の傷に目をやってからスマホで手当てをしてくれそうな近くの病院を探し始めた。

 

「……うぅ〜ん。この時間だとまだやってない所が多いかなぁ」

「あの……。私も、そろそろ学校に……」

 

そう言って亜子が立ち上がり、雨の中に出ようとするが、正史がそれを見過ごすはずもなく。

 

「そんな怪我してるのに学校なんて無理だろ⁉︎ 先ずは病院で治療しなきゃ……」

「でも、それじゃあ、あなたに迷惑をかけちゃいます……。それに病院なんて行ったら、叔母さん達を心配させちゃ……」

「だからってこのまま放っておいたらもっと酷くなるかもしれないだろ⁉︎ ちょっと待ってて……」

 

正史は亜子の腕を引っ張りながら検索を続けるが、芳しい結果は出ないようだ。空いた片方の手で頭をかきむしりながら、正史は亜子にこう言った。

 

「とりあえず、ここにいたら風邪ひくかもしれないしさ。俺の勤めてる会社に行こっか。『OREジャーナル』ってところでさ。この近くにあるんだ」

「えっ? でも……」

「大丈夫だよ。変な会社じゃないからさ」

 

正史は安心させるように言った後、カバンの中に入れておいた折り畳み傘を開いて、亜子を中に入れさせてから、亜子の背中に気をつけながらOREジャーナルへと、並んで足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、グゥ……!」

「……あ」

 

ミナエルの意識がはっきりしてきた頃。タイガはミラーワールド内を移動していた。タイガに掴まれている事に気付いたミナエルは、乱暴に振り払った。

 

「離せよ! あいつらどこにいるんだよ!」

「もう逃げたよ。僕達は今、二手に分かれて行動してる」

「クソッ! 今度こそやれると思ってたのに……! こうなったら、あたしらだけでも、もういっぺん行こうよ! どうせまだ遠くまで逃げてないんだろ⁉︎」

「……」

 

タイガが黙り込む中、ミナエルは息を荒げながら鏡の外を睨みつけた。

 

「大体、ファヴもシローも、ふざけてるとしか思えねぇんだよ! まだ目標人数にも到達してないのに、その上さらに8人にまで減らすなんて……! いつになったら終わりが来るんだよ! ユナが死んで、こっちも気が気じゃないのに……!」

 

その時、タイガが顔を上げて、ミナエルに背中越しに尋ねた。

 

「ミナちゃんにとって、ユナちゃんは大切な人なんだよね」

「ったり前だろ! 今まで何見てきたんだよ! ユナがいてくれたから、毎日が飽きなくて、大切で……! だから何で死んじゃったのか、分からなくて……!」

「……へぇ」

 

間延びした声を聞いて、ミナエルはイラついていた。だからこそ、背後にいるタイガに注意が向いていなかったのかもしれない。

 

「……ねぇ」

「アッ? 何だよあたしは」

 

ミナエルが振り返るよりも早く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな天使の羽根が、血飛沫と共に宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……⁉︎ アッ、ッヅァ……⁉︎」

 

羽根の付け根から血が溢れ出し、ミナエルは地面を転がった。目を血走らせながら見た先には、血の付いたデストバイザーを構えるパートナーの姿が。

斬り落とされた天使の羽根が、音を立てて地面に落ちた。

 

「た、タイガァ……! なんの、つもり、だよぉ……! ガハッ……!」

「ミナちゃん。僕ね……。前からずっと考えてたんだ。どうやったら早く英雄になれるかなって」

「は、ハァッ……⁉︎」

 

唐突に何を語りだすかと思えば、それはいつも彼が口にしていた『英雄』という言葉。それがミナエルに襲いかかる事とどう関係があるのか。その答えを、タイガの口から教えられた。

 

「この戦いに勝ち残る事で、英雄になれるのは知ってる。でも、それだけじゃあ英雄になるのはまだまだ先って思った。……でも、さっき気付いたんだ。光希もそうだけど、ユナちゃんが死んだから、僕は英雄にまた一歩近づけた。だからね。僕にとって大切な人が犠牲になれば、それって僕が英雄にまた近づけるって事じゃないかな」

「ナァッ……⁉︎」

 

めちゃくちゃな論破じゃないか。ミナエルがそう口を開こうとするが、タイガは暴走を止める事を知らず。

 

「ミナちゃんは、僕にとって大事な人。だからね。犠牲になってもらわないと」

「……アッ、アァ……!」

 

僕が『英雄』になる為に。

その一言を聞いて、ミナエルは全身が震え始めた。まさか、智が自分を、パートナーを殺そうとするだなんて……。

 

「ゴメンね、ミナちゃん。僕、君を倒して、必ず英雄になってみせるから」

 

そしてカードを取り出し、デストバイザーにベントインしようとしたその時だった。

 

『キェェェェェェェェェェェ!』

 

横手からタイガに襲いかかってきたのは、偶然出没した鳳凰型のモンスター『ガルドストーム』。タイガと同様に斧を振り回して、タイガに襲いかかる。

 

「!」

 

今がチャンスだと思ったミナエルは、よろめきながら、その場を後にした。それに気づく事なく、タイガはデストバイザーを振るって、ガルドストームを押し倒した。

 

「……君は、英雄には相応しくないから。邪魔しないでよ」

 

『FINAL VENT』

 

先ほどベントインしようとしたカードを使い、両手にデストクローをつけたタイガは待ち構えた。ガルドストームの背後からデストワイルダーが飛びかかり、タイガに向かって引きずっていく。ガルドストームは抵抗するが、抜け出すよりも早く、タイガのデストクローが食い込み、『クリスタルブレイク』をまともに受けたガルドストームは爆散した。

一息ついて辺りを見渡すタイガ。が、そこにあったのは血の付いた天使の羽根と、奥へ転々と続く血の痕。

 

「(逃げたのかな……。でも、あの様子だと、もう助からないよね。これで2人目。後は……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ……! んだよあいつ! 何であたしを……! 何考えてんだよ……!」

 

一方、タイガから逃げのびたミナエルは、ミラーワールドを出て、壁伝いに必死に前へと進んでいた。が、ラ・ピュセルからの攻撃に加え、タイガの奇襲を受けて、ミナエルはすでにボロボロになっていた。脚に力が入らなくなり、坂道になっていたところを、転がりながら前に進んだ。

息をどうにかして整えながらも、這いつくばりながら前に進むミナエル。ただ必死に前へと進んだ。何かを目指しているわけでもない。ただ、前に進みたかった。ユナエルの、最愛の妹の分まで生き残る為に。

 

「……っ! 死にたく、ないよぉ……! あたしにだって、帰りたい、ところが、あるんだから……!」

 

出血が酷くなり、だんだんと朦朧としてくる意識。

 

「……アァッ?」

 

不意に、前方から声が聞こえてきた。誰かが助けに来てくれたのか。スイムスイムか、アビスか。そんな期待を寄せて、ミナエルは顔をバッとあげる。

その数秒後には、全身から血の気を引く事になるが……。

 

「おやおやぁ〜? 迷子の迷子の天使ちゃん〜? あんたのお墓はど〜こかな〜?」

 

とある童謡のリズムにあやかって口笛を鳴らしながら、テンガロンハットの奥からギラつかせた目を向けてくる女性と、紫色の蛇を彷彿とさせる姿を見に纏った男性が、傷だらけのミナエルを見下ろしていた。

刹那、ミナエルに浮かんだのは、『絶望』の二文字。口をパクパクさせている天使を見て、肩を竦めたライダーは、カードデッキから1枚のカードを引き抜いて、そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シロー:『今回、新たな脱落者が出たので、皆に伝達する』

ファヴ:『今回の脱落者は、「ミナエル」だぽん』

シロー:『主な連絡は以上だが、ついでに例のレアアイテムについて話そう』

ファヴ:『いよいよ最後のレアアイテム獲得ペアとなったぽん! そのペアは最もマジカルキャンディーの獲得数が多かったペアだから、ひょっとしたらもう誰かは分かるかもしれないけど、もう少しで解禁するつもりなので、心待ちにしてほしいぽん! それじゃあ、シーユーぽん!』

シロー:『おっと。クラムベリーもBGMをかけてくれて感謝するよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天里 美奈、優奈の双子姉妹は常に2人で1人、ワンセットという扱いを受ける事が多かった。双子というのはどうしても歳をとるにつれて趣味や主義、容姿でさえ差異が生まれてもおかしくないのだが、美奈と優奈は特別違った。

大学生になってからも互いに仲が良く、同じものを好み、同じ服を着て、まさに瓜二つな2人は、親でさえ区別がつかない。当然大学も同じであれば、同じマンションに暮らし、終始行動を共にしている。

もっと言うなれば、片方に彼氏が出来ても必ずもう片方も隣を歩いているのだ。それ故に男女交際が長続きする事はなかったが、それでも2人に不満はなかった。2人だけの世界でも、何ら不便な事はないと、美奈も優奈も思っているのだ。

そんな彼女達だが、唯一例外として、東野 智、光希の兄弟との付き合いは思っていた以上に長く続いた。きっかけは、2人のカバンをひったくった犯人を、偶然通りかかった光希が追いかけて、取り押さえてくれた事から始まった。以来、すれ違う度に話し合う関係が芽生えて、数日後には兄の智も紹介してくれた。オフの日に4人で固まって会話を交える事に、2人は新たな楽しさを感じていた。とりわけ美奈は智の純粋そうに見える雰囲気が気に入り、いつしか妹には内緒で好意を抱いている時もあった。

これだけ双子が一緒にいる事に生きがいを感じているのだから、『魔法少女育成計画』に2人揃ってハマるのも当然の事。無課金だからと始めたゲームに昼夜を忘れて没頭していた。東野兄弟にもこの話題を振ると、自分達も同じメーカーが配信しているとされる『仮面ライダー育成計画』を兄弟揃ってプレイしていると話すと同時に、何万人かの確率で本物になれる、という噂も耳にした。天里姉妹は内心面白がっていたが、口では信じていないと告げていた。

そんな2人の目の前に、ある時、マスコットキャラクターのファヴが立体映像が飛び出してきて、気がついた時には、双子は魔法少女『ミナエル』、『ユナエル』へと変貌を遂げていた。

 

『双子が揃って魔法少女になるなんて、初めてのケースだぽん』

 

各々が手に入れたマジカルフォンからファヴの声が重なって響いてくるが、そんな事はお構い無しに、2人は魔法少女になれた事に歓喜していた。本来の目的である人助けやモンスター退治など、ハナからやるつもりはなく、魔法少女である事を利用して、『ピーキーエンジェルズ』と名乗って、新たな娯楽を追求し始めた。

が、現実はそう上手くいかない。数日後には突然現れたルーラに屈服されて、2人はほとんど雑用係として、毎晩を過ごすようになった。彼女を引き連れてきたベルデはともかく、ルーラの態度には毎度イラついていた。とにかく不平不満が絶えなかった。そんな彼女達をなだめてくれていたのが、当時は同じく新人だった仮面ライダーのタイガとインペラーだった。その正体が東野兄弟だと判明した時は、内心ホッとしたのをミナエルは覚えている。おかげで毎日がストレスまみれになる事は避けられそうだ、と。

魔法少女として人気を得ようとして、携帯端末が同じIDだったせいで自演がばれた事もあったが、失敗はかえって絆をより深め、今まで以上に仲良く魔法少女活動を営んできた。

 

「やっぱ時代は、ワンコとかよりも天使だよね〜!」

「分かる分かる! お姉ちゃんマジナイス!」

「てな訳で、今日も行くよ〜!」

「オッケー!」

 

2人は人気獲得の為に、美奈は左手を、優奈は右手を互いに合わせてから、いつもマジカルフォンをタップして変身していた。

 

「「変身!」」

 

そして2人は魔法少女『ミナエル』、『ユナエル』になってから、今宵も夜空を縦横無尽に飛び回り、幸せを感じていた。

いつまでも、これからも、こんな日々が続く。ファヴとシローの口から、魔法少女及び仮面ライダーの人員削減が発表されるまでは、少なくともお互いにそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が解けて露わになったのは、口から血を流した若い女性だった。硬直した腕は何かに向かって伸ばしていたが、そんなものは、王蛇やカラミティ・メアリが知る由もない。仰向けに倒れている彼女の胸には、ベノサーベルが突き刺さっていた。その持ち手に手をかけた所有者の王蛇は、ためらいなく美奈の胸からベノサーベルを引き抜いた。

貫かれた胸から、血がドッと噴き出た。やがてそれは勢いを失くし、それ以上何も起こらなかった。ただ、降り注ぐ雨が美奈の体についた血を洗い流している。

 

「……つまらん」

 

王蛇はただ一言、そう吐き捨てた。

先日の戦いでガイを殺した2人だが、王蛇の方はまだ暴れ足りないと、荒々しく駄々をこねていた。そこでメアリと同行しながら、やりあえそうな相手を朝から探していた。ようやっと見つけた相手は、瀕死に近い状態だった。実際、王蛇が前に出て戦闘を繰り広げたが、全くと言って良いほど、相手にならなかった。その事が王蛇をよりイラつかせた。

 

「あの弁護士を相手にした方がよっぽど面白い。……ゾルダ、だったなぁ。潰してやるヨォ……!」

 

王蛇は鼻を鳴らして、こんなものは勝負の内に入らない、と言わんばかりに美奈の死体を放置して、さっさと立ち去ろうとする。メアリは一度、手に持っていた銃を美奈に向けたが、引き金を引くことなくホルダーにしまった。

魔法少女や仮面ライダーに弾丸を撃ち込むのは楽しいが、すでに物言わぬ死体と化した奴を撃っても、面白みがない。肩を竦め、不敵な笑みを浮かべながら、カラミティ・メアリも王蛇の後を追った。

朝から降り続く雨は、双子の片割れに容赦なく降り注ぎ、血だまり一つ残すことなく、まっさらになるまで洗い流された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その10≫

 

【ミナエル(天里 美奈)、死亡】

 

【残り、魔法少女10名、仮面ライダー10名、計20名】

 

 




はい。というわけで今回の脱落者はハードゴア・アリスではなく、ミナエルとなりました。本来ならクラムベリーに殺されるところですが、もうこれ以上この双子を動かせる場面も少ないという事で、ここで退場させていただきました。
いよいよタイガも本性を露わにしていきますから、今後もご注目。


そして次回は、OREジャーナルが大活躍……?

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