魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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『シンフォギア』の4期のPVが出てきましたね。スマホでもゲームが出るそうなので、今年は躍動の1年になりますね(もちろんゆゆゆも)



78.復讐の闇

高見沢 大介が『超人的な力』を欲するようになった一つの要因として、父親の惨めな姿を近くで見続けた事が挙げられる。

元々は小さな港町にある鉄鋼業で細々と働いていた高見沢一家だったが、大介が幼少期の頃、とある大企業が多額のお金と引き換えに、彼の住む港町もろとも買収した事が、全ての始まりだった。事実上、土地を追い出された高見沢一家は、都会に出てから慣れない事業に手をつけ、再興を図ろうとしたが、全て失敗に終わり、遂には借金まみれの生活が続いた。

その後相次いで母親が病に倒れて帰らぬ人となり、父親はその日を境に壊れ、遂には一人息子であった大介を捨てて、行方をくらましてしまった。

都会に立ち並ぶビルを見上げながら、高見沢 大介は1人、拳を握りしめながら呟く。自分は、父親のような弱者にはならない。強者として、誰も寄せ付けないほどに強大な力を手にして、全ての頂点に立つ、と。

その誓いを皮切りに、高見沢は独学で経済を学び、遂には高見沢グループという大企業を創り出して、その総帥として一躍名を馳せた。それは、幼少期の頃にはそこに立つとは思いつかなかったであろう地位だった。

だがこの頃から、高見沢は飽くなき欲望を内に秘めていた。富、名声、地位といったものを手にはしたが、まだ残っているものがある。それが、直接的な力。そのカテゴリーを手に入れてこそ、自分は絶対的な支配者として、人間の頂点に達する。高見沢は、そう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、解き放ってみるが良い。お前のその欲を力に変えて、証明してみたまえ、仮面ライダーベルデ』

 

それは、今から1年ほど前の出来事。横の繋がりを持っている会社を通じて知った『仮面ライダー育成計画』を、バカバカしく思いつつもプレイしていた最中、彼は仮面ライダーに選ばれたのだ。都市伝説として本物になれるかもしれないとは聞いていたものの、本当になれるとはこの時の高見沢は信じていなかった。

マスコットキャラクターのシローからは、教育係として、以前から仮面ライダーを務めていたらしいオーディンの紹介し、1日だけではあるが、仮面ライダーとしての役目を教えてもらった。が、話を聞くうちに、くだらなさを感じていた。力を人助けの為に使うなど、弱者の証。真の強者は、その力で他人を蹴落とし、頂点に君臨する為にこそあるのだと、ベルデは考えていた。

 

『あなたに頼みたい事があるの』

 

そんなある日、彼の元に『お姫様』を連想させる姿をした魔法少女『ルーラ』が現れた。後に彼女の正体が、つい最近自分の会社に入社した途端にメキメキと才能を発揮し、高見沢自身が秘書として迎え入れようと思えたほどに将来有望だった女性、木王 早苗だと気付くわけだが。

ルーラが頼んだのは、チームの編成だった。ベテランのベルデを介して、大きな派閥を組織するというものだった。理由は教えてくれなかったが、魔法少女や仮面ライダーがいる社会でも派閥を作っておいても良いだろうと考え、ベルデはルーラと共に使えそうな人材を集めた。

その結果、ガイ、スイムスイム、アビス、ピーキーエンジェルズ、タイガ、インペラー、たまといったメンバーを募らせ、普段から人が寄り付かないであろう、門前町の王結寺を拠点に、活動を始めた。

その派閥の中ではルーラがリーダーとして統治する事となり、ベルデは一歩下がってその様子を観察するようにした。

しかし、観察していくうちに、ルーラが魔法を行使してばかりいて、ほとんどが彼女に反感を買ってばかりいる事に気付き、リーダーとしての適性がないように感じ始めた。

そして始まった、生死をかけた競い合い。それを利用して、ルーラを支配者の座から引きずり落とす事を決め、今の体制に不満を持っている他のメンバーの賛同を得たり、依然としてルーラを崇めているスイムスイムを言葉巧みに自分のグループに入れて、結果的にルーラを脱落させた。

早苗の死体を見下ろしながら、彼は思った。所詮は魔法無しでは何も出来ない女に、初めから統治など無理な話だった。やはり必要なのは力そのものであり、それらは全て、自分が生き残る為のものなのだ、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォォォォォォォォォッ! ハァッ!」

「フンッ! これくらいで……!」

 

現在、九尾とベルデが死闘を繰り広げているミラーワールドは、地下に位置する立体駐車場が舞台となっていた。2刀のフォクセイバーを器用に振り回し、剣舞の如く素早い動きで攻撃を仕掛ける九尾に対し、ベルデは軽いステップで、バイオワインダーを構えながらかわしている。勝負はほぼ五分といったところだ。

 

「オラァ!」

「!」

 

九尾の動きを見切ったベルデが、九尾の足元めがけてバイオワインダーを放つと、左足に巻きついて、引っ張ると同時に九尾はバランスを崩して倒れ、フォクセイバーが手から離れた。そしてそのまま引き寄せて腹を踏みつけようとするが、九尾も素早く対処に出た。

両足をクロスしてベルデの右足による踏みつけを阻止すると、今度は両手でバイオワインダーの紐を掴んで引っ張り、ベルデを前のめりに倒れさせると、その顔面に向かって拳を振るった。殴られたベルデは後ずさり、その間に解放された九尾はフォクセイバーを拾った。

 

「この……クソガキがぁ!」

 

バイオワインダーを放ち、左手に握られていたフォクセイバーを絡め取った後、それをベルデのところに引き寄せて手に取ると、九尾に斬りかかった。だが、剣術ならば使い慣れている九尾に分があったのだろう。何度も打ち合いをした後、ベルデの持つフォクセイバーが弾き飛ばされて、九尾のフォクセイバーが横に振るわれて、ベルデの右肩を掠めた。

 

「……ッ!」

 

僅かに血が垂れて後ずさるベルデを見て、一気に勝負を決めようと、九尾は新たなカードをベントインする。

 

『ACCEL VENT』

 

「ハッ! またそいつか! 効くかよ!」

 

『CLEAR VENT』

 

だがベルデも、以前港での戦いで手の内を知っている為か、クリアーベントのカードで透明化した。颯爽と突撃した九尾は、高速でフォクセイバーを振るっても手応えが無いことに気づいて立ち止まるが、気配を察知する前に、背中に強烈な痛みが走った。

 

「ウッ……!」

「セイッ!」

 

透明化したベルデが、バイオワインダーであらゆる方向から地道にダメージを与えているようだ。このまま身動きしないままでは危険だと判断し、九尾は駐車場の奥に向かって駆け出した。ベルデもその後を追いかけ、九尾を執拗に狙った。

そうこうしているうちに、アクセルベントもクリアーベントも効力が切れて、再び2人は向かい合った。だが、九尾の方が息が上がっていた。

 

「ハッ! どうしたガキ! そんなんじゃ、俺は倒せないぜ! もう無理なら、さっさとギブしな! 楽にあいつらのところに送ってやるよ!」

「……殺す!」

 

瞬間、九尾は殺意を甦らせて、カードデッキからカードを取り出し、フォクスバイザーの口の部分に入れて、口を閉じた。

 

『MIND VENT』

『TRICK VENT』

 

「(? 2枚だと……?)」

 

フォクスバイザーから聞こえてきたのは、2つの電子音。一つはパートナーカードであるマインドベント。そしてもう一つが、シャドーイリュージョンによって分裂するトリックベント。

2枚使ってくる意図は分からなかったが、迫り来る8体の九尾を前に、考える余裕は消し飛んだ。このままでは数の差で不利になると考えたベルデは、立体駐車場という場所を利用して、車や支柱の陰に隠れながら、捜索の撹乱をした。

 

「(どこに隠れた……! そっちが物陰から来るなら!)」

「(この中に本物が1人か……。 なら、こいつで紛れこむか)」

 

同時に次の行動を選択した2人は新たなカードをベントインする。

 

『BLAZE VENT』

『COPY VENT』

 

九尾は両手に形成したブレイズボンバーを、そこら中に点在する車めがけて放ち、引火した車が大爆発を起こした。

だが、周りにいるのは九尾の分身体だけ。肝心のベルデの姿はなかった。分身体を含む九尾は探し回ったが、それらしいものは見つからない。

 

「なっ……⁉︎」

「どこへ消えた……」

「そっちにはいないのか」

 

分身体達が、状況報告の為に一斉に集まったその瞬間、九尾の中の一体が、突然周りの九尾達をフォクセイバーで斬り倒していった。

 

「お前!」

「まさか!」

「ハッハッハ! 気づくのが遅かったな!」

 

分身体が徐々に消滅し、その場に2体しかいなくなった時になって、次々と分身体を斬り倒していた九尾の姿は、ベルデへと戻っていった。ブレイズボンバーが放たれる直前、ベルデは九尾の姿をそっくりコピーし、分身体に紛れ込んでいたのだ。

 

「さぁ、後はお前らのどっちかが本物って事になるよな。まとめて潰してやるよ」

「やれるもんなら」

「やってみろよ!」

 

2体の九尾は、ベルデに向かって駆け出し、フォクセイバーを振るうが、ベルデの方はまだ余力があるようだ。

 

「なら、こいつだ」

 

『SCYTHE VENT』

 

ベルデが手に持ったのは、レアアイテムの一つである、死神の大鎌を連想させる武器だった。それを見た九尾は仮面の下で目を見開いた。

 

「! それは……!」

「中々に便利なアイテムだったぜ。おかげでウィンタープリズンの厄介な魔法も楽に対処できた」

「くっ、そがぁ……!」

 

九尾が猛烈に腹を立てているのも無理はない。ベルデが手にしている武器は、購入イベントの際に九尾が買おうと思っていたものだった。だがスノーホワイト達によって止められ、後一歩というところで誰かに買われて、手にする事が出来なくなってしまった。そして皮肉にも、その武器を使って殺そうとした相手がそのアイテムを買い、ウィンタープリズンを窮地に追い込み、そして同じチーム達と共に彼女を殺した。

込み上がる怒りをなるべく抑えながら、九尾は攻めの姿勢に出た。だが大鎌の方がリーチがフォクセイバーよりも長く、その切れ味の良い刃先を見れば見るほど、うかつに近づく事は困難だと本能的に感じてしまい、一歩踏み出せずにいた。

 

「ハッ! ビビってばかりじゃ、勝負にならねぇよ!」

 

今度はこっちの番だと言わんばかりに、ベルデが前に出て、大鎌を横に振るった。一体はとっさの判断でしゃがみ込んで回避し、もう一体は避けきれずに、真っ二つに引き裂かれた。引き裂かれた方はガラスが割れたような音と共にその場で消滅した。どうやらベルデが倒したのは分身体のようだ。

そのチャンスを逃すまいと、残った九尾がタックルを入れて、ベルデの両手から大鎌を引き離し、遠くに向かって蹴った。ベルデとの取っ組み合いが始まったが、軍配が上がったのは体格の方で上回っているベルデだった。

 

「オラァ!」

「グフッ……!」

 

胸のあたりを蹴られ、立ち上がりながら咳き込む九尾を見て、ベルデはニヤリと笑いながら、カードデッキからカードを取り出した。そこには、かつてのパートナーだったルーラのアバター姿が描かれている。

 

「こいつをくらいな」

 

『OBEY VENT』

 

すると、ベルデの手元に王笏が現れた。そして王笏を九尾に向けて、こう言った。

 

『ベルデの名の下に命じる。九尾よ。動くな』

「!」

 

すると、九尾の体は石で固められたかのように動けなくなってしまった。パートナーカードによって、ベルデの思うがままに九尾の体は操られてしまったのだ。

 

「せっかくだからよぉ。こいつで終わらせてやるよ。あの時と同じようにな」

 

そう言ってベルデが王笏をかざしながら、空いた左手で取り出したのは、カメレオンの紋章が描かれたカード。

 

「!」

「あの世で、先生とやらと、仲良くしてな」

 

『FINAL VENT』

 

ベルデがバイオバイザーにカードをベントインすると、九尾の後方に透明化していたバイオグリーザが現れ、舌を出すのと同時に、逆立ちしたベルデの足に巻きついた。そして振り子の要領でベルデは、身動きが取れなくなっていた九尾を捕らえ、上空に向かって回転すると、パイルドライバーのように両足を九尾の腕につけて、一気に急降下した。

 

「これでお前も、脱落だ!」

 

そして。

轟音と共に、九尾の頭が地面に激突した。九尾は声をあげる事なく、地面に仰向けに横たわった。

必殺技である『デスバニッシュ』が決まり、動きが止まった九尾を見て、ベルデは勝利を確信。肩を竦めた後、喜びに浸った様子で高笑いを始めようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、次の瞬間、目の前で倒れていた九尾はガラスが割れた音を立てながら、消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルデが目の前で起きた現象に困惑したのと、背後から殺気が迫ってきたのを感じたのは、ほぼ同時だった。全力で体を捻らせたのと同時に、フォクセイバーを構えた九尾が縦に振るってきた。フォクセイバーはベルデの右腕に直撃し、鮮血がその傷口から飛び散った。

 

「ナァッ……⁉︎」

「くっ! 浅いか……!」

 

直前で回避行動を取らされた事で、完全に息の根を止められなかった九尾は舌打ち混じりに、足払いでベルデを横倒しにして、その左足に片方のフォクセイバーを突き刺した。ベルデの口から初めて絶叫が溢れ出て、血が噴き出た。足からフォクセイバーを抜いて、一旦距離を置く九尾。ベルデは身の危険を感じたのか、撤退しようと、九尾から遠ざかるように足の痛みを庇いながら駆け出すが、九尾の方が一歩先を行っていた。

 

「ハァッ!」

 

九尾の投げたフォクセイバーがベルデの右腕に刺さり、ベルデは倒れこんだ。そこへ九尾が飛びかかり、馬乗りになった。刺さったフォクセイバーは地面に転がり、もう片方のフォクセイバーを構えた九尾は、その先端をベルデの首元に向けた。

馬乗りになった状態では、この後ベルデがどう振り落とそうとしても、先に九尾がベルデの首にフォクセイバーを突き刺す方が早い。完全に九尾の優勢である。こうなってしまっては、ベルデには死を待つばかりだった。

そんな中、ベルデは九尾に問いかけた。

 

「テメェ……! 何で生きてやがる……!」

「あんたと同じ手を使っただけだ。あの爆発で俺の姿をコピーした時、俺も動いてたんだ。物陰に隠れ潜んで、油断したところであんたにとどめを刺すってな」

「! そうか、あの時か……!」

 

ベルデが九尾達に紛れて襲撃しようと考えていた時には、すでに九尾はこのような事態を想定して、ベルデの対処を分身体に任せて、オリジナルの方は隠れてやり過ごしていたのだ。そして敵の手の内を晒し終えたところで、反撃に打って出た、という事なのだろう。

 

「だ、だが……! 何で俺がこう動くと分かってたんだ……!」

「……スノーホワイトの魔法だ」

「ハァッ⁉︎」

「お前が散々バカにした魔法少女が行使する魔法の前じゃ、俺をどう倒そうか『困ってる』声なんて、全部聞き取れるんだよ」

 

刹那、ベルデは最初に九尾がマインドベントを使った意味を察した。スノーホワイトの魔法を応用し、敵の作戦を読み取って対処したのだ。筒抜けになってしまっていては、如何に仮面ライダーとしてはベテランでもあるベルデとて、どうする事も出来ない。

 

「(やった……。やっと、この時が来た……。もうこいつは動けない。後は、この手を動かせば……!)」

 

完全にチェックメイトだった。九尾はフォクセイバーを突きつけ、ベルデの首元に狙いを定めた。対するベルデの口からは、悔しげな呻きしか聞こえてこない。

 

「終わりだ……!」

「!」

 

これで、オルタナティブやヴェス・ウィンタープリズンを葬った、憎っくき悪の塊は息絶え、仇を取れる。もう慈悲の心など、目の前の男には必要ない。ここで仕留める。

そう決めた九尾は、一度深呼吸をしてから、フォクセイバーを両手で握り、ほんの少し引いてから、一気にベルデの首元に向かって突き出した。

そしてその刃先は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この辺りはまだ探してなかったな」

「だいちゃん……! どこにいるの……?」

 

一方、依然として連絡が取れない九尾を探しに、国道から少し離れた場所にあった、ビルの地下駐車場に足を踏み入れたのは、スノーホワイトとライアだった。国道での惨状は、未だに解決してない為、一刻も早く戻る必要があるのだが、ベルデチームが人助けをそっちのけにして襲いかかり、ラ・ピュセル、ハードゴア・アリス、リュウガが応対している。九尾を呼び戻さなければ、もっと酷い事になると判断した2人は、捜索を続けていた。

 

『クソッタレが……! こんな、ところで……!』

「! 今の声……!」

「どうした?」

「誰かが、この近くで困ってるみたいです……!」

「まさか、九尾がいるのか……?」

 

今現在2人がいるビルは、国道で起きてる被害を受けてない為、全く別の事件が起きていると見て間違いない。2人は顔を合わせると、一目散に声のした方へと駆け出した。

ようやく地下駐車場へと入り込んだその時、2人の目線の先で、驚くべき光景が。

 

「! あれは……!」

「九尾! それにあの人……!」

 

2人が見たもの。それはベルデに馬乗りになった九尾が、フォクセイバーをベルデの首元に突き刺そうとしている光景だった。

 

「(! ダメだ! このままでは九尾は……!)」

 

本当に人を殺してしまう。ライアが声を出すよりも早く、九尾の手は動いた。

 

「……!」

 

だが、フォクセイバーの刃先が首に触れるほんの僅かのところで、手が止まった。

 

「……ッア! ッグ……!」

 

よく見ると、九尾の両腕は、震えていた。呼吸も荒げている。あともう一押しというところで、九尾の中で何かがセーブしているようだ。

 

「! 俺、は……! 俺は……!」

 

 

 

 

何を迷っているんだよ。

 

目の前にいるライダーは、俺の尊敬する人を殺した。

 

だったら俺も、同じ事をすればいいだけじゃないか。

 

こんな機会、滅多にあるわけじゃないぞ。

 

さぁ、遠慮するなよ。一思いに殺れ。

 

 

 

 

「ウゥ、ウァ……!」

 

頭の中に、自分の声が囁いてくる。こんなところでためらってなんていられない。九尾は首を盛大に横に振り、再びフォクセイバーを突き出そうとする。が……。

 

「だいちゃん!」

 

不意に聞こえてきた、パートナーの声を耳にして、手を止めてその方に顔を向ける九尾。涙目のスノーホワイトと、こちらをジッと見つめるライアの姿が、そこにあった。

 

「……フンッ!」

 

だが、その一瞬の隙が、ベルデに体を動かすだけの時間を作ってしまい、力を入れて体を横へ捻り、体勢を崩した九尾は膝をつき、ベルデは倒れこむ前に右足のつま先を、九尾の左のこめかみにぶつけた。

脳を揺さぶられたショックで、九尾はそのままうつ伏せに倒れこんだ。

 

「「九尾!」」

 

スノーホワイトとライアは慌てて九尾に駆け寄り、体を抱き起こした。意識はあるが、体は未だに震えている。

 

「……どうした。何故俺を殺そうとしなかった」

 

不意にベルデが、ヨロヨロと立ち上がりながら、九尾を見下すように睨みつけた。そして、吐き棄てるように呟いた。

 

「お前、やっぱり見掛け倒しだったな。所詮、お前も落ちこぼれのライダーだったわけだ」

「九尾の事、悪く言わないでよ!」

 

これを聞いたスノーホワイトは、彼女なりに鋭い目線をベルデにぶつけた。それだけ九尾を罵ったベルデに怒りを覚えたのだろう。彼女なこれほどにまで怒ったのは、シザースがねむりんの魔法を悪用している事を知って以来だろう。

当然ライアもスノーホワイトの怒りに賛同した。

 

「ベルデ。お前は随分と九尾を罵っているが、破滅に追いやられる寸前だった事を自覚してないのか? 俺の占い通りだったら、お前はもう、とっくに九尾の手で破滅していたんだぞ」

「……ほぉ。だが、結果はこのザマだ」

 

ベルデは手を広げながら、平然と呟いた。

 

「なぁ。ライダーも魔法少女も、自らの弱点を相手にさらけ出しちまったら、どうなるか分かるか?」

「……!」

「そうさ。お前はもう、他の奴らにとっての、美味しい獲物って事だ。そうなったらもう、その獲物は破滅するしか無いんだよ」

 

ベルデが九尾を指差したその瞬間、ライアが駆け足でベルデにタックルを仕掛け、その頬や傷口を思いっきり殴った。傷口を痛めつけられた事で、ベルデは後ずさった。

 

「テメェ……!」

「ライアさん!」

「……呆れたな。お前は、九尾によって運命を変えられた事にまだ気づいていないようだな」

「何……?」

「俺にはお前が破滅する運命が見えていた。だが実際は、九尾が自分の手で運命を変えた。だから、お前は殺されずに済んだんだ」

「運命ねぇ……。そんなもん、力でねじ伏せればどうという事は無いだろ。この世界は、力を持つ奴らしか生き残れない。力の使い方に迷ってるようじゃあ、生きてる意味なんて無いだろ」

「!」

 

スノーホワイトは目を見開き、思わず自分の手を見つめた。

その一方で、ライアは懐からコインを取り出し、上に放り投げた。

 

「何のつもりだ」

「お前のこの先の運命を、占ってるところだ」

 

そしてコインを掴み、裏面をジッと見つめた後、ベルデに占いの結果を告げた。

 

「ここから退くのはお前の勝手だが、その先には、何も残らない」

「あぁ?」

「破滅しか残らない、という事だ」

「……脅しのつもりか」

「俺の占いは当たる。絶対だ。……だが、お前が自分の手で運命を変える力があるなら、外れる事もあるかもしれないがな」

「……フン。この借りはいつか返させてもらうぜ」

 

そう言ってベルデは、怪我をした足を引きずりながら、3人に背を向けて立体駐車場を後にした。その後ろ姿を、ライアは悲しげな目で見つめている事に、誰も気づいていない。

 

「……もっとも、お前にはもう、運命に抗えるだけの力は残っていないようだがな」

 

そう呟いてから、ライアは九尾に歩み寄り、膝をついて口を開いた。

 

「最近、お前の挙動がおかしいとは思っていたが、全てはこれの為だったんだな」

「……」

「なんてバカな真似を……と怒りたいところだが、お前が自分の手で踏みとどまれたのなら、俺も何も言わない。お前にも、運命を変える力があったという事だ」

「そ、そうだよ! だってだいちゃん、あれだけ酷い事したベルデを殺さなかったんだから、凄いよ! だから、もうこんな事やめて、私達と一緒に、みんなの所に……」

「……ッア、アァ、ァァァァ……!」

 

スノーホワイトが必死に励ましていると、九尾の震えはより一層増し、両手と両膝を地面につけると、

 

「ウ、ウァ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……! アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!」

 

広い立体駐車場が舞台となっているミラーワールド内に、復讐を果たす機会を自ら潰してしまった少年の嘆きと、自身への怒りがこもっているかのように、地面を殴り続ける音だけが響き渡り、スノーホワイトもライアも、とっさに彼に声をかけられなかった。

 

「何で、なんだよぉ……! 俺は、俺はァァァァァァァァァァァァァァァァ……!」

 

遂には頭を抱え、錯乱してしまう始末。

こうして、14歳の少年が変身する仮面ライダーの復讐劇は、内にくすぶっていた、『人に手をかける』事への迷いが出てしまい、果たされる事は永久に無くなってしまったのである。

 

 

 

 




まだ九尾には善人でいてあげないと、ねぇ……。

そして次回、激化するこの戦いに終止符が……⁉︎

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