魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

81 / 144
今回は77という縁起のいい数字が並んでいますので、ひょっとしたらいい事あるかも? という気持ちで読んでください。


77.烈火の覚醒

全身を引き裂かれるような痛みが、いつになっても襲ってこない事に気付いたリップルは、目を開けた。浮いているような感覚がしたので下方を見ると、先ほどまでいたビルの屋上が、大きく抉られた状態になっているのが遠目で把握できた。その近くにはカラミティ・メアリと王蛇がいる。

 

「バッキャロォ! ナイトも無茶しやがって!」

「大丈夫か⁉︎」

 

不意にトップスピードと龍騎の声が聞こえてきたので顔を見上げると、ラピッドスワローに乗ったトップスピードがリップルの右腕を掴んで持ち上げていた。その側では同じくラピッドスワローに乗っている龍騎がナイトの体を支えていた。

どうやら手榴弾が爆発する直前に猛スピードでかっ飛んできた2人が、横合いからナイトとリップルを掻っ攫っていったようだ。リップルが足を離した事で地雷も起動したが、ラピッドスワローの飛行速度がそれを振り切り、結果的に僅かな火傷程度で済んだ。

何とか一命を取り留めてホッとしていたリップルだったが、すぐに思い返して、トップスピードに言った。

 

「さっきの所に戻って!」

「な、何でだよ⁉︎」

 

トップスピードの質問に答える前に、リップルは体を1回転させて、後部座席に座りなおした。

 

「絶対にここで仕留める!」

「ヤクザもんみてーな事言ってんじゃねぇぞ! ここは退いとけ! 大体、勝ち目とかあんのかよ!」

「勝ち目とか、そういう問題じゃない!」

 

リップルはそう叫び、一呼吸置いてから呟いた。

 

「これは、私や龍騎に対する嫌がらせだ。私達が……特に龍騎が、この街や何の関係もない人々が困ってるのを放っておけないって分かってて、こんなテロ行為をやってる」

「奴らの事だ。2人が死ぬか、邪魔が入るまで、狩りを続けるだろうな。2人を挑発する為なら、平気で人の命をおもちゃ扱いにする」

「そんな……!」

「マジかよ……」

 

龍騎とトップスピードが絶句する中、リップルは下界に見える、燃え盛る中宿を睨みつけながら、こう語った。

 

「私は、世界中の人間を救いたいわけじゃないし、救えるとも思ってない。でも……!」

 

リップルは龍騎とトップスピードに顔を向けて言った。

 

「たとえ、通りかかっただけの人だとしても、あそこにいる人達を見捨てて逃げられない。逃げたら、そんなのはもう魔法少女じゃない」

 

そして彼女は口にする。かつて憧れを抱き、今は行動を共にして、キャンディー集めや人助けに勤しむ、白い魔法少女の姿を脳裏に浮かばせながら。

 

「私は、魔法少女だ」

「リップル……!」

「……俺も、このまま尻尾を巻いて逃げるつもりはない。仮面ライダーだから、じゃない。俺の気がすむままにやりたいからだ」

「ナイト……!」

「……あぁ、そうかい」

 

龍騎は2人の並々ならぬ決意を込めた言葉を聞いて黙り込み、トップスピードは少し時間を置いてから、フッと息を吐いて、右手でとんがり帽子のひさしを押さえた。同時に、トップスピードが運転するラピッドスワローも減速する。

 

「偉そうに言うじゃねーか。つーかリップルがそんなに喋るの初めて見たわ(そーだよな。ここで他の奴ら見捨ててちゃ、万が一生き残れなくても、昇一に顔向け出来そうにねぇし)」

「……トップスピード?」

 

トップスピードが苦笑したのを見て訝しむリップル。トップスピードはそれに気付かずに口を開いた。

 

「ただまぁ、アレだ。ちょいと言葉が足らんとこがあるね。俺だって」

 

『ADVENT』

 

「! 避けて!」

「おわっ⁉︎」

 

トップスピードが何かを言いかけた瞬間、リップルが前へ身を乗り出し、トップスピードを押し倒した。するとその真上を、黒いエビルダイバーが通過していき、Uターンして戻ってくるのが見えた。王蛇が召喚した黒いエビルダイバーが、4人を襲撃しに来たようだ。

 

「何だよ! 人がせっかく良いとこ決めようとしたのによぉ⁉︎」

「俺達を逃す気はない、という事か」

 

ナイトが冷静に判断していると、龍騎が叫んだ。

 

「ッシャア! 上等だ! こんな事、今すぐ止めさせてやるからな! 行こうぜトップスピード! あ、後勝手に前には出るなよ! 体の方も大切にしとけよ!」

「お、おぅ!」

 

興奮している為か、龍騎の言葉の意味がよく分からなかったが、先んじてビルへ向かって飛び出す姿を見て、トップスピードもリップルを乗せたまま急行する。後方からは黒いエビルダイバーが迫ってきた。

カラミティ・メアリが屋上から4人に向かって狙撃を始めるが、自在に動き回る2機のラピッドスワローは、暴れ馬よろしく被弾する事がない。

 

「チッ。だったら、こいつをお見舞いしてやろうか!」

 

そう言ってメアリは、四次元袋から再び手榴弾を取り出し、ピンを抜いた。そして身構えている4人に投げるのではなく、地上に向かって放り捨てた。それを見た4人は目を見開いた。地上には、依然として避難を完了していない者達で溢れかえっている。そんな人だかりのど真ん中に手榴弾が放り込まれたら、大惨事になる。

 

「やめろぉ!」

 

『SWORD VENT』

 

とっさに龍騎がドラグセイバーを手に持ち、手榴弾が地上に落ちる前に、一旦地面スレスレのところまで急降下し、手榴弾の真下に来たところで急上昇し、ドラグセイバーを使って野球のようにフルスイングで手榴弾を上に打ち上げた。

が、打ち上げて数メートルもしないうちに、引火した手榴弾が爆発。近くにいた2人だけでなく、後から駆け付けてきたトップスピード、リップルサイドも巻き込まれてしまう。

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」

「グッ……!」

「うっ……!」

 

衝撃波に呑み込まれ、4人はラピッドスワローから振り落とされてしまい、地上に落下してしまった。

その様子を、カラミティ・メアリと王蛇は鼻で笑っていた。

 

「仕留めた……とは言い難いかもしれないね。どうせならあいつらの死に顔を拝んでおきたいからね。降りてみるか」

「アァ……! まだまだ足りないなぁ、もっと戦いたいんだよ!」

 

そして2人は、さらなる刺激を求めて、地上へと向かっていった。

そんな事もつゆ知らないリップルは、全身の痛みが和らいだところで起き上がって、近くで倒れこんでいるナイトに駆け寄った。辺りには大破した車が点在しており、国道のどこかだと判明した。

 

「大丈夫……⁉︎」

「あぁ。中々に巧妙な手口だが、この程度では根を上げるつもりはない」

 

そう言ってナイトも立ち上がり、周りを見渡していた時に、ある事に気付いた。

 

「……あの2人はどこへいった?」

「……!」

 

リップルもパートナーの言葉を受けて、辺りを見渡した。一緒に地上に突き落とされたはずの龍騎とトップスピードの姿が見えない。言いようのない不安に陥ったリップルは、ナイトと共に2人の捜索を始めた。カラミティ・メアリと王蛇の始末も最優先だが、それ以上に2人の行方を気にしている点から見ても、やはりリップルは魔法少女なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ、ツゥ……!」

「うぅ……」

 

一方、龍騎とトップスピードは、国道の真下に位置する建物の中で横たわっていた。爆破の衝撃で吹き飛ばされ、ナイトやリップルと違ってはるか下方まで落下していたのだ。無抵抗のまま落下するトップスピードを見て、龍騎が無我夢中でトップスピードに抱きつき、背中から建物にぶつかってしまったので、抱き抱えられているトップスピードにはさほどダメージは入っておらず、逆に龍騎は上半身にトップスピードの乗せたまま、全身に広がる苦痛が容赦なく彼を襲った。

それを見たトップスピードは慌てて龍騎から降りた。

 

「わ、悪りぃ! 大丈夫か⁉︎」

「お、おぅ。トップスピードこそ、大丈夫……?」

「あぁ、おかげでな。でも、無茶しすぎだろ。さっきも言ったけど、自分の命くらい大切にしねぇと」

「分かってるって。分かってるから、俺はお前の事を……あっ!」

 

すると、龍騎がトップスピードの後ろに目をやって驚いた。何かの気配を察したトップスピードも、同時に振り返る。

そこには、薙刀『ルーラ』を持つ魔法少女『スイムスイム』と、そのパートナーである仮面ライダー『アビス』が立っていた。ミナエル達とは別行動を取っていた2人は、何故か現場とは離れているこの場所にいた。

 

「お、お前らどうしてここに……」

「……なるべくなら、正面からの戦いを避けたかったが、仕方ない」

 

アビスが少し残念そうに呟くと、カードデッキからカードを取り出し、アビスバイザーにベントインした。

 

『SWORD VENT』

 

「少々予定は狂ったが、良いよな?」

「……うん」

 

2刀のアビスセイバーを持ったアビスが、隣にいたスイムスイムに確認をとり、スイムスイムは迷いなく頷く。

 

「お、おいよせよ! 何の真似だって!」

「今日、たくさんの魔法少女、仮面ライダーがここに来る」

 

スイムスイムはルーラを構えると、その刃先を2人に向ける。

 

「だから、このまま後7人をやっつける。そうすれば、残り16人になって、それでおしまい」

「なっ……⁉︎」

「こいつらも、初めから殺す気満々じゃねぇか……!」

 

どうやらアビスとスイムスイムは、今現在中宿で起きている混乱に乗じて魔法少女や仮面ライダーを殺害するのが目的だったようだ。が、偶然にも龍騎とトップスピードに目撃されてしまった為、急遽不意打ちではなく正面からの強行に出たのだ。

 

「ハァッ!」

「おわっ⁉︎」

 

アビスが斬りかかってきたところを、2人は横に飛んで回避し、そのまま外に出た。龍騎のドラグセイバーは、手榴弾による爆発の衝撃で手から離してしまい、再召喚するには時間がかかる為、接近戦が出来なくなっている。その一方でトップスピードはマジカルフォンをタップして、ドラグセイバーを構えた。そして向かってくるスイムスイムと刃を交える。が、体格差のある2人では、どちらに軍配があがるかなど、見るまでもなかった。

 

「うぐっ……!」

「……」

 

トップスピードは押し倒され、スイムスイムは無表情のまま、攻め上がった。

 

「トップスピード!」

「お前の相手は、俺だ」

「こ、のぉ……!」

 

『STRIKE VENT』

 

「俺はお前達を殺すつもりなんてないんだ! もちろん殺されるつもりもな! それに、向こうでまたあいつらが暴れまわってるなら、絶対止めないと!」

 

そう叫んで右腕についたドラグクローを後ろに引いて、ドラグレッダーと共にドラグクローファイヤーを放とうとするが、

 

『FREEZE VENT』

 

アビスが新たにベントインしたカードの効力で、ドラグレッダーが凍結してしまった。これではドラグクローファイヤーは発動出来ない。

 

「なっ⁉︎ あいつ、タイガと同じカードを持ってやがったのか!」

「俺達を差し置いて助けに行くだと? 随分となめられたものだな」

 

『STRIKE VENT』

 

「なら、お前は後回しだ。そこで黙って見ていろ。ハァッ!」

 

そう言ってアビスは、右腕についたアビスクローを突き出し、アビススマッシュを龍騎に向けて放った。激流に呑み込まれて、龍騎は絶叫と共に、後方の壁を突き破って吹き飛ばされた。

 

「! 龍騎ぃ!」

 

パートナーがやられた所を見たトップスピードは、急いで駆けつけようと走り出すが、スイムスイムの方が動きが早かった。横に振るったルーラが、彼女の左足の太ももを掠め取った。

 

「ゥア……!」

 

太ももにつけられた傷口から鮮血がほとばしり、トップスピードは倒れこんだ。左足を押さえつけているトップスピードに、スイムスイムは躊躇いもなくルーラを振り下ろす。ハッとなって横に転がるトップスピードだったが、今度は右肩から血が流れた。

 

「あぁ!」

 

距離を置いてから、再び立ち上がろうとするトップスピード。だが、左足の痛みに伴って、立っていられずに後ろから倒れこみ、壁に背を当てた。もはや逃げる気力すらなかった。

勝利を確信したのか、スイムスイムはアビスと共にゆっくりとトップスピードに歩み寄った。トップスピードの血がついたルーラの刃が、近くにあった蛍光灯によって反射して輝いている。そしてその輝きが、トップスピードの命を奪おうと、迫ってきている。

 

「クッソォ……! 何で足が動かねぇんだよ……! 龍騎やリップルやナイトの所に、行かなきゃいけねぇのに……!」

「……どうして」

 

と、ここでスイムスイムが疑問を投げかけた。

 

「どうして、こんな時でも、他の人の事を、考えられるの」

「……決まってんだろ! ナイトは、リップルは俺のダチだ! もちろん、スノーホワイトや九尾やラ・ピュセルやライア、他の奴らだって同じだ! それに、龍騎は俺のパートナーだ! こんな戦いを止めたいっていうあいつの願いを、叶えたいんだよ! だから……!」

 

まだ、死ぬわけにはいかない。せめて、後半年は。

そう叫ぶトップスピードだが、スイムスイムの心には届く事はない。

 

「……アビス、ダチって何?」

「友達の略だ。まぁ、覚えていても意味はないが」

「友達、パートナー……。ルーラが言ってた。手下とリーダーの関係はあっても、友達なんていい加減な関係はない。パートナーも、同じ」

「……!」

 

それは以前、スイムスイムをルーラの元へ送ろうとした際に彼女が投げかけた言葉。もう説得は通じない。トップスピードはそう痛感した。

 

「後で、龍騎をやっつけに行こう」

「あぁ。殺れ、スイムスイム」

 

アビスがそう言うと、スイムスイムはルーラを振りかざした。反射による輝きは、より一層増した。

 

「(……あ。これ、もうダメなやつだ)」

 

刹那、トップスピードは全身の力を抜いた。自分の死期を悟ったからなのかもしれない。だから、無抵抗のまま、ありのままの現実を受け入れようとしたのだろう。

死にたくはなかった。まだ遊び足りないと思っていた。1度は奪われたものの、再び幸せになりたいと思った。

 

「(……悪いな、みんな。俺はここで終わりみたい)」

 

みんなというのは、龍騎やリップル達はもちろんの事、家族や隣近所、地域でお世話になった人々。そして、お腹の中で外の世界がどんなものなのかを今か今かと待っているであろう、名もなき子供に向けられたものに違いなかった。

 

「(ったくよぉ。今日は朝からちょいと気分が良かったから、昇一が好きだったカレーでも作ろうかと思ってたのになぁ……)」

 

と、そこである事を思い出すトップスピード。

 

「(……あ、でもアレか。カレーの材料、買い忘れちゃってたんだっけ。……困ったなぁ。後で買いに行こうと思ってたのに)」

 

だが、もうそんな事はどうでも良かったのかもしれない。何故なら、もう買い物に出かける事は、ないのだから。

 

「……正史。俺、昇一のとこに、行ってくるわ」

 

そんな小さな呟きは、スイムスイムはもちろん、アビスに届くはずもなく、空き地の一角で、血が飛散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

「どうした?」

 

国道で倒れている人を安全な場所に避難させていたスノーホワイトだったが、不意に立ち止まって、キョロキョロと辺りを見渡した。ライアが尋ねると、彼女は曖昧そうに答えた。

 

「なんか今、変な心の声が聞こえてきて……」

「声?」

「はい。カレーの材料が何とか、って……」

「……悪意ある言葉ではなさそうだが、場所は分かるか?」

「すいません。突然聞こえてきたから、場所までは……」

「そうか。とにかく今は、人命救助と九尾の捜索が最優先だ。急いで向かおう。ラ・ピュセル達が時間を稼いでくれているからな」

「! はい!」

 

そう言って2人は再び国道を走り出した。謎の声の正体は気になるものの、立ち止まるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

閉じていた目を開こうとすると、思うようにまぶたが開こうとしていた。死んだ人間には、到底できない真似だ。それ以前に、痛みを全く感じていない事に気づくトップスピード。

そして目が開かれ、ようやく目の前の様子が明らかになった時、トップスピードはさらに目を限界まで見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、ウゥォォォォォォォォッ!」

 

トップスピードとスイムスイムの間に立っていた、龍を彷彿とさせる仮面の戦士は、振り下ろされたルーラの柄を掴んで受け止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!」」

 

スイムスイムとアビスは、突如割り込んできた龍騎に驚く素振りを見せるが、すかさずスイムスイムが腕に力を入れ込める。わずかに肩のアーマーに食い込んでいたルーラの刃先が、さらに深く沈み込み、血が滴り落ちた。

 

「龍騎ぃ!」

「オォォォォォォォォ!」

 

龍騎は咆哮と共に、柄を強く握りしめ、無理やり肩から引き離すと、アビスに向かってルーラごとスイムスイムを押し倒した。一旦距離を置く為に後方に下がる2人。龍騎は息を荒げながら、後ろ目でパートナーに目をやった。

 

「良かった……。今度は、ちゃんと間に合った……」

「龍騎、お前その肩……!」

 

トップスピードが震える指で指した先には、肩から流れ出る血が。だが龍騎は平気そうに首を横に振った。

 

「これくらいの怪我なんて、すぐに治るからさ! そっちこそ、足とか肩とか大丈夫かよ?」

「ま、まぁ……」

「まだ立ち上がれる気力があったか。悪運の強い奴だ。いや、それとも単にバカ故の単純思考がそうさせたのか」

 

アビスは悪態をつきながら、龍騎に顔を向けた。

 

「またバカ呼ばわりされてるけど、今はそれでも良いよ」

「?」

「モンスターや、お前らみたいな奴から人を守れたなら、俺はそのバカで全然良いから」

 

そう呟く龍騎の背中からは、燃えるような神々しさが出ているように、トップスピードは思わずそう感じてしまった。

 

「俺は結局、今でも迷ってるよ。ライダーや魔法少女と戦うなんて、間違ってると思う。……でも、それ以上に間違ってる事はあるよ。目の前で困ってるのに、助けようとしない事だ! それこそ本当に間違ってる!」

「!」

「俺はあの時、ファムを助けれなかった。死なせてしまった……。でも、そんな失敗があったからこそ、やりたい事を見つけれた!」

「やりたい事……?」

 

スイムスイムが首を傾げていると、龍騎は叫んだ。

 

「自分の手が届く所だったら、大きな犠牲も、小さな犠牲も出さずに、最後まで戦う! どんな事があっても必ずみんなを守ってやるんだ!」

「そんな屁理屈が通用すると思っているのか?」

「アビス、お前の言いたい事も分かるよ。今の状況がそれを物語ってるって。確かに綺麗事かもしれないけど、それでも俺は、自分が決めた道を最後まで信じるって、決めたんだ!」

 

そこで龍騎は一旦会話を途切らせてから、トップスピードにチラッと目をやると、再び2人に目を向けた。

 

「それに、今の俺には小さい事だけど、やりたい事を見つけてる。何か分かるか」

「……」

 

スイムスイムは首を横に振る。そんな彼女に向かって龍騎は堂々と宣言した。

 

「トップスピードさ」

「えっ?」

「トップスピードと一緒に、最後まで生き残るって事だ! だから……!」

 

一度深呼吸してから、声高らかに言い放つ。

 

2人(・・)は、俺が守る!」

「(2人……? でも、ここには俺しかいないはずだけど……)」

 

トップスピードが、龍騎の言葉に疑問を抱き、辺りを見渡すが、トップスピード以外、守るべき対象はいなさそうだが……。

 

「! まさか、お前……!」

 

その時、トップスピードは気づいてしまった。守るべきもう1人の人物は、自分の中にいるではないか、と。

トップスピードは思わず自身の腹に手をやった。魔法少女姿であるため、腹部は膨れていないが、そこには確かに、新しい命が宿っている。

 

「龍騎、お前って奴は……!」

 

驚き半分、嬉しさ半分といった眼差しを、龍騎の背中にぶつけた。彼は、守ると誓ってくれたのだ。パートナーだけでなく、その身に宿した子供の事まで。血の繋がりもなければ、本来なら関わる事もなかった2人を、龍騎は躊躇いなく守ると言ってくれた。それが、彼なりに小さな正義なのだとしたら、それを支えてやるのもパートナーの務め。ならば自分も横に立とう。

トップスピードは、ゆっくりと立ち上がり、龍騎の隣に立った。『生きたい』という強い意志がそうさせたのか、足の痛みが引いていったような気がした。

 

「トップスピード……?」

「まさか今度は龍騎に助けられるなんてな。でも、ありがとな。そう言ってくれて」

「へっ?」

「だからさ。俺にも戦わせてくれ。守るための戦いってやつをさ。俺にだって、守りたいものがあるんだ。だから、戦う」

 

そう言ってから、今度はスイムスイムに顔を向けた。

 

「なぁスイムスイム。さっき友達なんていらないとか言ってただろ?」

「ルーラがそう言ってたから」

「友達ってのはさ、必要なんだよ」

 

きっぱりとそう言い切るトップスピード。

 

「でもルーラは……」

「あいつにだって友達はいたさ」

「……誰?」

「俺や、隣のパートナーさ」

 

得意げに話すトップスピードの表情には、先ほどまで怯えていた面影は微塵もなかった。その事にアビスは訝しんだ。

 

「お前……、死ぬのが怖くないのか?」

「怖いに決まってんだろ。でもな、こんな時だからこそ、戦って生き残らなきゃって、思えただけさ。それに、守りたいもんは最後まで守り通す。それが俺達なんだ」

「……」

「そうさ。俺だって、魔法少女だからな!」

 

それは、先ほどリップルの前で言いそびれてしまった宣言。魔法少女として、何より人間として、守りたいものがあるのなら、自らの意思で、その先に戦場が広がっていたとしても、前へ出向く。そう言いたいのだろう。

そしてトップスピードは、龍騎に顔を向けた。

 

「そんなわけだからさ、やってやろうぜ龍騎! 俺は絶対に死なない! 龍騎も死なせない! アレを使ってな!」

「アレ……? あぁ、アレか!」

 

相づちを打つ龍騎を見て、アビスもスイムスイムも訝しむ。が、アビスは思い出してしまった。つい先ほど、ファヴとシローからの連絡で、レアアイテムを獲得したのが、目の前の2人だという事に。何が起こるのかは分からないが、止める必要があると思ったアビスはとっさに飛び出す。が、その頃にはすでに2人は動いていた。

 

「行くぞトップスピード!」

「おう!」

 

龍騎はカードデッキから1枚のカードを取り出し、目の前の相手に見せた。そこには、『SURVIVE』と表記された、左翼と炎の背景があるカードが。それに続いてトップスピードもマジカルフォンを取り出し、左翼のついたアプリをタップする。それと同時に、2人を中心に熱風が吹き荒れて、アビスは後ずさった。スイムスイムも眩しそうに目をそらす。

そして龍騎が左腕を突き出すと、装着されていたドラグバイザーが無くなり、新たに龍の頭部を模したハンドガン型の召喚器『ドラグバイザーツバイ』が手元に現れた。一方でトップスピードの左腕についていた篭手の手首部分に、ホルダーが取り付けられた。

龍騎はカードをドラグバイザーツバイの口の部分に装填し、口を閉じ、トップスピードはマジカルフォンをホルダーにはめ込んだ。

 

『『SURVIVE』』

 

すると、龍騎に鏡像が重なり、炎を表すかのようなショルダーアーマーが追加され、仮面には髭を表すかのような触角がついた、『龍騎サバイブ』が姿を見せた。

そしてトップスピードは光に包まれ、露わになったのは、元々ワンピース姿だったのが、上半身は焦げ茶色のメッシュが入った服で、下半身はカボチャパンツへと変貌し、左腕にしかつけられていなかった紫色の篭手が右腕にも取り付けられ、上腕と腹に銀色のアーマーがつき、ブーツには膝当てがつけられた。とんがり帽子には新たに星のマークがあり、耳のピアスも星からハート型に変わっている。胸元のリボンにピンク色の球体がデコレーションされ、首には、今は亡き昇一が渡してくれたお守り袋がついている。全体的に防御面に特化した、『トップスピードサバイブ』の姿が、そこにあった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

「! あれが、サバイブか……!」

「サバイブ……」

 

アビスとスイムスイムが、姿の変わった2人を見て身構える。

 

「おぉ、こいつはいいな! 気に入ったぜ!」

「ッシャア! これなら……!」

 

トップスピードサバイブは、溢れ出る力に興奮しており、龍騎サバイブは気合いを入れた。龍騎サバイブは早速カードを引き抜いて、ドラグバイザーツバイの後頭部にある装填口にベントインした。

 

『SHOOT VENT』

 

「なら俺もだ!」

 

トップスピードサバイブもまた、マジカルフォンをタップして、龍騎サバイブが持っているものと酷似しているドラグバイザーツバイを手に持った。デザイン等はほぼ同じだが、装填口はないのである。

すると、上空からサバイブによってドラグレッダーから進化した『ドラグランザー』が姿を現し、龍騎サバイブとトップスピードサバイブの間に降り立った。そして口元に炎を形成し出すと、龍騎サバイブもトップスピードサバイブも、ドラグバイザーツバイを2人に向けた。

スイムスイムが、ルーラを構えて攻撃が来る前に先制しようとしたが、アビスの大声がそれを遮った。

 

「撤退しろ、スイムスイム!」

「でも……!」

「急げ! 後で合流だ!」

 

『DIMENSION VENT』

 

そう言ってアビスはレアアイテムの一つである『ディメンションベント』を用いて、後ろへ下がると同時にその場から姿を消した。離れた場所に転移したようだ。それだけ、目の前から来る攻撃に危機感を抱いたのだ。

 

「「ハァッ!」」

 

そうこうしているうちに、チャージし終えた龍騎サバイブとトップスピードサバイブは、ドラグランザーと共に、ドラグバイザーツバイからはレーザー光線が、ドラグランザーからは炎が放たれて、『メテオバレット』がスイムスイムに襲いかかる。すると、スイムスイムの下半身から、地面へと沈んでいくのが見えた。

 

「なっ⁉︎」

 

その様子を、龍騎サバイブもトップスピードサバイブも見逃さなかった。メテオバレットはスイムスイムに直撃する事なく、彼女がいた地点を抉り取り、再び静けさが戻ってきた。否、戻ってきたわけではない。依然として国道の方では様々な音が鳴り響いている。しばらくは周りに目を配るが、アビスもスイムスイムも、襲いかかってくる気配はない。どうやら本当に撤退したようだ。

 

「なんとかなった……かな?」

 

ドラグバイザーツバイを下ろし、ホッと一息つく龍騎サバイブ。と、その時彼の隣が光り出し、何事かと振り向くと、お腹が膨れ、マタニティドレスに身を包んだつばめの姿があった。そしてつばめは一息つくと同時にゆっくりとその場にしゃがみ込み、壁にもたれた。よく見ると、額を中心に汗が滲み出ていた。

 

「お、おい! 大丈夫か⁉︎」

「あ、あぁ。平気だよ。ただちょっと疲れたっつうか、ブルっちまってな」

 

アハハと笑いながら、お腹に手を当てて息を整えるつばめ。ようやくひと段落つき、緊迫感ある空気から解放されて、一気に緊張の糸が切れたのだろう。だが、過度なストレスはお腹の中の胎児にも影響があるかもしれない。そう思った龍騎サバイブは、安心させるようにつばめの手を握った。その手は最後に美華に触れた時と違って、温もりがあった。そして守り切れた事を実感させるぐらいに、温かかった。

龍騎サバイブの行為に、つばめは顔を赤くした。

 

「ん? なんか顔が赤いけど、本当に大丈夫?」

「なっ⁉︎ だ、大丈夫だって! 心配性だなぁ」

 

そんなやり取りが行われている最中、2人の元へ足音が近づいてきた。龍騎サバイブとつばめがその方を向くと、ナイトとリップルの姿があった。どうやら探しに来てくれたようだ。

 

「あっ! ナイト、リップル! おーい!」

「そこにいたか。それにその姿……」

「あぁ。お前と同じアイテムを使ったんだ。トップスピードもな」

「チッ。手間をかけさせ……、て……」

 

不意にリップルが言葉を詰まらせたのは、龍騎サバイブの隣に、見知らぬ妊婦の姿があったからである。ナイトもそれに気付き、龍騎サバイブに誰なのかを問おうとした時、つばめが口を開いた。

 

「んっ? ……あぁ〜。そういやバレちまったな。俺の秘密」

 

つばめは、腹に手を当てながら恥ずかしげに笑みを浮かべた。

 

「秘密だと……? ……! まさか、お前は……!」

「……ぁ!」

「あ、うん。そうなんだ。この人は……」

「トップスピード……なのか……?」

 

リップルの質問に、つばめは頷いた。

 

「まぁ、そういうこった。これが俺の生きたい理由。後半年は絶対に死ねない理由って事。黙っててゴメンな。でもまぁ、こういうのは恥ずかしいっていうか……」

 

が、つばめが言い終わる前に、リップルが前に出て唐突につばめを抱きしめた。

 

「お、おい……⁉︎」

「……んで、なんで……! なんで……!」

「いやだから悪かったって。でも恥ずかしいのもあるし、変に気を遣わせるのもアレかなって。それに、ファヴの話じゃ魔法少女のままなら全然問題ないらしいしさ」

「そんな事聞いてるんじゃない……! 自分に言ってるんだ……! どうしてもっと早く、気づいてやれなかったって……!」

「そ、そりゃあ教えてないし……」

 

つばめを抱きしめながら、体を震わせるリップル。ナイトは龍騎サバイブに話しかけた。

 

「……城戸。お前、この事を知ってたな」

「あ、あぁ。ちょっと前にね」

「……そうか」

 

会話はそれだけだった。

そんな中、つばめはリップルの背中に手を回して、落ち着かせるように呟いた。

 

「心配してくれてありがとな。でも、もう大丈夫だ。龍騎が、守ってくれたからさ。だからもう自分の事を悪く言うのはやめとけよ」

「……だったら!」

 

そこでリップルは顔を上げて、トップスピードの変身者の目を真っ直ぐ見た。その目は僅かだが、赤く腫れていた。

 

「だったら約束しろ……! この先何があっても、絶対に1人で無茶だけはしないって……! お前を失ったら、私は……!」

 

初めて見る、リップルの弱気な姿を見て、つばめは深く頷き、その頭を優しく撫でた。

 

「分かってるって。もうこの体は、俺1人のものじゃないしな。それに、リップルや龍騎、ナイト達に守ってもらえるだけでも、俺は幸せ者さ。……後な」

 

不意につばめは顔を上げて、龍騎サバイブとナイトの方に顔を向けると、こう宣言した。

 

「あの時は、最低でも半年って言ってたけど……。それ前言撤回な。俺、絶対にもっと生きるって決めた。早くこんな争い終えて、平和になって、この子を産んで育てて……。そんでもって、また遊ぶんだ。どんだけ歳とっても、自分が満足するまでな」

 

 

 




はい、というわけでタイトル通り、龍騎サバイブ覚醒に加えて、本来ならこの辺りで死ぬはずだったトップスピードも無事生存し、サバイブとなる事が出来ました! 多分皆さんも、こんな感じの展開は見たかったって人が多いのではないでしょうか。

トップスピードサバイブに関しては、さほど変化はないかもしれませんが、一応『遊びに長けた幼稚な魔女』をイメージして描いてみました。防御面に特化する理由としては、やはり『守る(パートナーや仲間、そしてお腹の子を)』事を意識した、といったところでしょうか。

龍騎もサバイブになったので、挿入歌もRevorutionにしようか悩みましたが、お楽しみは後にとっておこうと思います。

さて、次回はいよいよあの対決に決着が……⁉︎

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。