魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回は九尾とベルデの話がベースとなります。ベルデの名言連発です。(少しオマージュも含めて)


74.憎しみを力に

「では、今後ともよろしくお願いいたします」

「えぇ、こちらこそ」

 

夕日が見えなくなり始めた頃、巨大企業の高見沢グループが拠点とする大ビルの会議室にて、小企業の会社の社長との取り引きを終えた、総帥の高見沢 大介は握手を交わした。その対応や表情は紳士的で、誰からも慕われている雰囲気を醸し出していた。現に高見沢グループからの出資を受け取る事に成功した社長も満面の笑みを浮かべている。

その後会議室を出て社長室に戻り、秘書から手渡された、今回の取り引き相手の会社のプロフィール等が記載された資料に改めて一通り目を通した後、鼻を鳴らしてテーブルに放り捨てた。イスに腰深く座り、腕を伸ばしてリラックスした後、低く呟く。

 

「……ケッ。所詮は下につくしか能のないゴミ企業が。ま、絞るだけ絞ってやるか」

 

誰ともなしにそう呟いたその一言。

 

『そして頃合いを見計らって切り捨てる、か』

 

眉をひそめる高見沢。社長室には高見沢1人しかいない。声の発信源を探っていたその時、ポケットの中のマジカルフォンが鳴り響き、高見沢は思わず近くにあった姿見に目をやった。

本来なら身だしなみを整える為にと設置したその姿見が歪み、文字通り鏡の中から人影が飛び出してきた。

 

「テメェ……!」

「さすがに、ライダーや魔法少女をその手で殺した事のある男だけあるな」

 

そう呟いた、白い毛並みの裃に狐の仮面をつけた人物は、手に持っていたフォクセイバーを高見沢に向かって突き出した。高見沢は反射的に立ち上がって避けて、フォクセイバーはイスの背中をつける部分に突き刺さった。

フォクセイバーを抜いた後、床に放って、カードデッキに手をかけるとVバックルから取り外し、変身を解いた。露わになったのは、仮面ライダー九尾の変身者、榊原 大地。その瞳は真っ直ぐに高見沢を睨みつけている。

襲撃を受けたにもかかわらず、高見沢は高笑いし、余裕綽々にポケットに手を入れた。

 

「……ほぅ。前からガキみたいな考えしか持ってないなと思っていたが、まさか見た目も本当にガキだったとはな」

「あんたがベルデだっていう証拠は、先生やしず……ヴェス・ウィンタープリズンが遺してくれた資料にあった。ミラーワールドからこの場所に来てみれば、案の定ライダーの反応があったし、もう確信した」

「……フン。あんな奴らがねぇ……」

 

高見沢は肩を竦め、ドアの所まで歩いて鍵を閉めようと、ドアノブに手を伸ばした。誰かが途中で入ってこれないようにするという意味と、相手の逃げ場をなくすという意味があるようだ。

 

「で、今日は俺を殺しにきたってわけか。敵討ちのつもりか? だとしたらテメェもウィンタープリズンと同類だな」

「! やっぱり、あんたがウィンタープリズンを……」

 

ウィンタープリズンを殺したのがベルデだと判明し、再び怒りを露わにする大地だが、すぐに冷静さを取り戻し、冷徹な口調で口を開く。

 

「どのみちあんたはここで殺される。でもその前に聞いてみたい事があってな」

「何だ」

「目的だよ。あんたが、この戦いを望む理由。その事に先生やウィンタープリズンを殺した事が関係してるのかをな」

「目的、ねぇ……」

 

高見沢は一息つくと、ほんの少し朗らかだった雰囲気から一変して、卑劣感しか匂わせないような態度を取り始めた。

 

「まぁ、ここまで来たんだ。今更気取って話す事もないだろうよ。そうだろうよおい、ガキ」

「……」

 

大地は何も言わず、ただジッと高見沢を睨みつけている。その様子が面白おかしく見えたのか、高見沢は鼻で笑いながら、演説よろしく堂々と語り始めた。

 

「いいか。この世界はなぁ。所詮は力のある奴だけが勝ち残れる世界なんだよ。弱い奴は強い奴に食い殺される。そういう決まりで成り立ってる社会だ。そんな中で力を求めて何が悪いってんだ。言ってみろ、アァ?」

 

弱肉強食の典型例である、食物連鎖を思わせるような言い方に、傍聴していた大地は目を細める。

 

「大体なぁ。今はこうして16人って枠が決められて、初めて戦いが成り立ってるようなもんだから気づいてない奴らが多いかもしれねぇが、んなもん無くったって、そもそもライダーや魔法少女の戦いは終わらねぇんだよ! 力を手にしたその瞬間から、戦いの運命は避けて通れねぇんだよ!」

「力、か……」

 

と、ここで初めて大地が口を挟んだ。

 

「力を求めてるって言ってる割には、あんたはこの高見沢グループの総帥って呼ばれてるぐらい、N市だけにとどまらず、全国的にも名が通ってるらしいじゃねぇか。富も名声も手にしているようなあんたが、それでもまだ望むものがあるってか?」

 

その質問に対し、高見沢は両手を広げて、大地に歩み寄りながら嘲笑った。

 

「こんなもんはなぁ、屁みてぇなもんだ! 担いだところで俺の求める力には成り得ないんだよ! 俺の言う力ってのはなぁ、全てを屈伏させて、真に頂点を極める為のものなんだよ!」

 

簡単に言うならば、それは『超人的な力』。全てを手に入れたかに思われた男が、尽きることなき欲望によって求めている力。

 

「戦いってもんがあって人は生きる。いいか小僧。生きるって事はなぁ、他人を蹴落とす事なんだよ! それさえ出来ない奴に、この先生きてる価値なんてねぇんだ!」

「戦わなければ、生き残れない、か……」

 

以前、ナイトがスノーホワイトや大地達に向かって放った言葉を復唱する大地。高見沢は大地のすぐ隣に立ち、その耳元に向かって呟いた。

 

「人はなぁ、みんなライダーや魔法少女みてぇなもんだ。ライダーも魔法少女も、一般社会の常識には捉われないって言ってるが、俺からしたら、内も外も変わってるとこなんてどこもねぇんだよ。さっきも言ったが、力を手に入れた以上、戦いは避けられない。お前の言う先生とも何れは戦う運命にあったんだよ」

「……」

 

大地は首を横に向け、冷たい目つきで高見沢を見上げている。

 

「そういう意味じゃあ、俺はシスターナナみてぇな奴が一番気にくわなかった。それにバカみたいに同調してるオルタナティブも、ファムも、そしてヴェス・ウィンタープリズンもな。話し合いだけで争いを終わらせられるなんて、本気で思ってる輩がいるなんて思いもしなかったから、俺がその身に分からせてやっただけだ。シスターナナやファムは殺れなかったが、まぁどの道無様に死んでくのがお似合いだったろうよ」

「……」

「……それにな。シスターナナと同じくらいにくだらねぇ価値観ばかり押し付けてる奴がいるのも気にいらねぇ。……そうさ、テメェのパートナー、スノーホワイトだ。あのゴミ野郎に何1つ文句を言ってこないテメェやその周りをうろついてる他の奴らを嫌ってたのは、そういう事だったわけだ。あんな奴が掲げてるもんなんて」

「俺の事をどう罵ろうがあんたの勝手だろうけどよ……」

 

すると、大地が語気を強めて、殺意のこもった眼光が高見沢を襲った。

 

「スノーホワイトを、ラ・ピュセル達を、先生達をバカにするのだけは、絶対に許せねぇ……!」

「!」

 

刹那、高見沢の背筋を冷たい汗が流れ落ちた。自分よりも体格も知識もずっと格下の相手から発せられる、凶々しき殺意が、本能的に危険を感じたようだ。が、すぐに平然とした態度で大地を見据えた。

しばらく睨み合う両者だが、先に目を逸らした大地がため息をついた後、手に持っていたカードデッキの紋章を高見沢に見せるように向けた。

 

「……ハァッ。結局、聞くだけ時間の無駄だったかもな。どの道、あんたはここで俺に殺されて当然なんだからな」

「随分余裕があるみてぇだが、そんだけ俺を殺すって言っておいて、口先だけのクズだったなんて、ガッカリさせるなよ」

「口先だけなのはあんたの方だったりしてな」

「口だけは達者なガキだな。嫌いじゃねぇぜ」

 

高見沢は口の端をつり上げて、ポケットから黄緑色のカードデッキを取り出した。決闘を意を表明した証拠である。

2人は、最初に九尾が通ってやってきた姿見の前に立ち、カードデッキをかざした。2人の腰にVバックルが取り付けられ、大地は右腕を後ろに引いて力を込め、高見沢は右腕を左に持ってきて、指を鳴らした。

 

「「変身!」」

 

2人は同時にカードデッキをはめ込み、鏡像が重なって、大地は狐の仮面ライダー『九尾』に、高見沢はカメレオンの仮面ライダー『ベルデ』へと姿を変えた。両者は一度睨み合ってから、姿見を通じてミラーワールドへと戦いの場所を移した。

2人が決戦の地に選んだのは、会社の地下にある立体駐車場。転々と駐車されている黒塗りの車やコンクリートの支柱といった死角が点在する中、一定の距離で位置についた2人は、早速カードデッキからカードを1枚引き抜き、九尾はフォクスバイザーに、ベルデはバイオバイザーにベントインした。

 

『SWORD VENT』

『HOLD VENT』

 

九尾の両手にフォクセイバーが握られ、ベルデの両手にバイオワインダーが装着され、一気に殺伐とした雰囲気が漂い始めた。風一つなびかない舞台で、最初に動いたのは九尾だった。

 

「ウォォォォォォォォッ!」

「フンッ!」

 

九尾はフォクセイバーの刃先に憎悪を滾らせながら、ベルデに斬りかかり、対するベルデはバイオワインダーを駆使して九尾を絡め取ろうとする。

憎しみを力に変える事で、強くなろうとしている九尾。その憎悪はベルデに届くのだろうか。

その結末は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依然として爆発音や悲鳴が鳴り止まない、中宿の国道。その下方に多数の店が構えられている繁華街もまた、どこからともなく発生する爆発によって、甚大な被害が出ている。

その一角に、スーツ姿の北岡と、ニット帽を被った真琴がいる。今起きている騒動を最小限に食い止める事の出来る力を持った2人は、この非常事態にもかかわらず、変身していない。否、するだけの心の余裕が無かった、というのが正しいだろう。

 

「……ッ!」

 

真琴は膝から崩れ落ち、その場で俯いた。北岡は目の前の一点を虚ろな目で見つめていた。

彼が見つめている先には、崩れ落ちた鉄骨やコンクリートの瓦礫が散乱していた。いくつも積み重なった残骸。その僅かな隙間から覗かせていたのは……。

 

「……なんかさ」

 

やがて北岡が口を開き、真琴は震わせていた体を自分の意思で止めた。

 

「もう、どうでもよくなったって感じしない?」

「……奇遇、ですね。私も、今そう、思ってたところ、です」

「今更かもだけどさ。正義ぶって誰かを救うとか、ハナから無理だったって話なんだよ」

「もう、誰も、救えなくて、いいですよね」

「……あぁ」

 

北岡はポケットから秘書の吾郎からいつも手渡されていたポケットティッシュを使って鼻をかみ、真琴は腕を使って目から流れ落ちていたものを拭き取った。

 

「……そういうわけだからさ。ゴメン……」

 

北岡は謝罪を込めた言葉を放ち、そして、誰ともなしに呟いた。

 

「俺達さ。もう正義のヒーローとかヒロインに、なれそうにないかも」

 

 

 




ベルデの名言って、子供の頃は「そんなの間違ってる!」って言い切れてた自分がいたのに、段々と心身共に大人になっていくにつれて、彼の言っていた事が決して間違いではないように思えるんですよね。今の政治や社会情勢を見ていると。……なんか、悲しい。

そして皆さんが気になってるのは、最後の北岡と真琴のやり取りではないでしょうか。その詳細は次回明らかとなります。

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