魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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「魔法少女育成計画」の中でも一大イベントが、遂に開幕……!


73.ライダー&魔法少女集結

「承諾した、か……。あのリップルが素直に受け入れるとは思わないけどねぇ。ま、どうせ龍騎やトップスピードあたりに唆されたんだろうけど」

 

マジカルフォンに表示されていた、『リップルと龍騎が、カラミティ・メアリからのお願いを聞いてくれたぽん。待ち合わせ場所に時間通りに来てくれるぽん』というファヴからのメッセージを読み終えた、くたびれた中年姿の女性、『山元(やまもと) 奈緒子(なおこ)』はマジカルフォンから目線を外し、片手に持っていたボトルから、グラスに酒を注ごうとした。が、中は空っぽだった。いつの間にか飲み干していたようだ。

いつ飲み干したのか全然記憶にないな、と思いつつも、奈緒子はボトルを放り捨てた。ボトルはいとも簡単に砕けた。

 

「まぁ、酒ぐらい後で飲めるしな。お楽しみは後にとっておくか」

 

今は、それ以上に楽しませてくれる事が待ってるからな。

そう呟いた奈緒子はVIPルームの裏手に隠しておいた、あらゆる武器を手に持って手入れを始めた。面倒ではあるが、相手をいたぶるにはその武器の特性を最大限に活かさなくてはならない。

奈緒子にとって至福な瞬間。それは、強い者や偉ぶった者、美しい者、賢い者、そして自身に満ち溢れた者など、彼女にとって気に入らない、上にいるはずの者が抗いようのない暴力に辱められた時に見せる、苦悶に満ちた表情。それを見る事が出来た時、この上ない支配欲で満たされたと実感できる。

そして。今の奈緒子には酒の力を借りなくとも、特別な力がある。そして今宵、その力が最大限に発揮される時が来るのだ。

必要な武器を、四次元袋に入れ終えた奈緒子は、そこでマジカルフォンにメッセージが届いている事に気づいて、確認してみた。

 

『こっちの準備はOKだから、派手に面白いゲームを始めて。 ガイ』

 

「……フッ。ならお望み通り、面白くしてやるよ。思いっきり派手にね」

 

これを見た奈緒子は不敵な笑みを浮かべながら、直ぐ近くでいびきをかいて寝ているヘビ柄の服を着た男性、浅倉 陸を叩き起こした。

 

「ほら、いつまで寝てんだい。もう直ぐ待ち合わせの時間だ」

「……アァ?」

 

浅倉はバッと目を開けて、奈緒子を睨みつける。普通なら失神し兼ねないほどに鋭い目つき。だが奈緒子には全く通じていないようだ。

 

「さぁ。あんたの溜め込んでいるイライラを、この辺で一気に発散してやろうじゃないか。あんたとあたしなら、それが出来る」

「戦える場所があるなら、誰と組もうがどうでも良い」

「そうさ。時は満ちたんだ。後はガイが呼び込んでくる役者さえ揃えば、最高の舞台になる。あたしらを恐れないもの全て……。そう、街も人も、魔法少女も仮面ライダーも、お嬢ちゃん(リップル)バカ(龍騎)も、焼き尽くすのさ!」

 

自分をイラつかせる奴らは全員潰す。狂気性に満ちた2人は、予め設置されていた鏡の前に立った。浅倉はポケットから蛇の紋章が刻まれたカードデッキをかざし、奈緒子はマジカルフォンを手に持つ。カードデッキをかざした事で、浅倉の腰にVバックルが出現。右腕でポーズを取り、スナップを利かせ、同時に奈緒子もマジカルフォンをタップし、2人は叫んだ。

 

「「変身!」」

 

カードデッキを差し込んだ浅倉に鏡像が重なり、蛇をモチーフにした紫色の仮面ライダー『王蛇』へ、光に包まれた奈緒子は、ガンマンスタイルの魔法少女『カラミティ・メアリ』へと変身した。

王蛇は首を回して音を鳴らしてから、両肩を震わせ、カラミティ・メアリは景気付けにホルダーから取り出した拳銃を握って、近くに置かれていたビンが銃弾を打ち込むと、床に広がる液体を見つめながら、ニヤリと笑った。

 

「あたしらは強いのさ。逆らうな、煩わせるならムカつかせるな……。あたしらを恐れない者は、許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファヴ:『えぇ〜っ。今日は、キャンディー獲得数の成績が良かったペアへのレアアイテムが配布されるぽん!』

シロー:『今回獲得した3組目のペアは、『龍騎&トップスピードペア』だ』

ファヴ:『おめでとうぽん! これからも人助けを、力を合わせて頑張ってほしいぽん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと手に入れたな、このアイテム! 早く使いてぇ!」

「……はしゃぎすぎ」

「まぁ良いじゃん。一番欲しがってたし、別に寿命を取られるわけじゃないからさ」

「にしても、そろそろ約束の時間だな……」

「あ、ホントだ。来てないみたいだけど、もうちょっと待とうか」

「やっぱり罠じゃ……」

「そんな事ないって。リップルも案外心配性なんだな」

「お人好しバカに言われたくない」

 

リップルは舌打ち混じりにそう呟く。

中宿のホテルプリーステスの屋上にて、強化アイテムを手に入れた龍騎、トップスピードに加えて、リップルの姿があった。彼らはカラミティ・メアリからの誘いを受けて、普段行動を共にしているナイト達と別行動でこの場に来ていた。が、待ち合わせ時間が迫ってきているにもかかわらず、呼び出した張本人が一向に姿を見せない。リップルは周囲を警戒する中、龍騎とトップスピードは暇になったのか、世間話を始めていた。警戒心が薄すぎやしないか、と思うリップルだったが、ずっと周りに意識を集中させていると、どうにも疲れてくる。そこでリップルも一旦肩の力を抜いて、トップスピードにこんな事を尋ねた。

 

「……ねぇ、トップスピード」

「ん?」

「聞いていい? お前は昔、暴走族のリーダーだったって言ってたよな」

「そーだけど?」

「……どうして、普通の生活に戻れたの?」

 

『普通』というものを身近で経験する機会がなかったリップルは、どうしても気になっていたらしく、『普通』を取り戻したであろうトップスピードに話を聞いてみたのだ。尋ねられたトップスピードはハッとしてから、少し考える素振りを見せた後、首からぶら下げてあるお守り袋に目をやった。

 

「……小学校の頃に、隣に越してきた家に、同い年の女の子と7つ上の兄貴がいてさ。その兄貴、結構口うるさくてさ。しょっちゅう喧嘩してた。でも、そいつのおかげで今みたいに丸くなれたんだ」

「兄貴……。そいつが、トップスピードを?」

「うん、まぁ……。ちゃんと話し合えたのは、多分高校の時だろうな。そっからまぁ、色々あって……。うん。色々あったよ」

 

トップスピードの表情が段々と暗くなっている事に、リップルは気づいていないのか、質問を続けた。

 

「色々って、何が?」

「そ、それは、その……」

「ちょ、トップスピード……! さすがにそれ以上は……! リップルもほら! もうこれ以上聞かない方が良いかも……」

「何でそうなる。その様子じゃ、龍騎は知ってるんだな」

「ま、まぁ、そうだけど、これはさすがに本人が簡単に口に出せるものじゃないしさ!」

「言ってる意味全然分かんないけど。その兄貴とは、どうなったんだよ」

「そ、それは、まぁ、一応幸せになっ」

「!」

 

トップスピードが言葉を続けようとしたその時、殺気立った気配を感じ取ったリップルが、龍騎とトップスピードに飛びかかった。何が何だか分かっていない2人は困惑しながら地面に倒れこんだが、直後に耳元に入ってきた、地面が抉れる音を聞いてハッと音のした方に目を向けた。3人が立っていた地点から数十センチほど離れた場所に、抉れた痕が残っていた。その穴の形からして、銃弾だとすぐに察した2人は、この銃弾を撃ち込んだであろう犯人の名をトップスピードは叫んだ。

 

「カラミティ・メアリか……!」

「ど、どこから撃ってきたんだ⁉︎」

 

龍騎が首だけを動かし、狙撃者を探そうとしたが、再び遠くからの銃声と共に弾が3人の近くに着弾した。しかも今度は目と鼻の先を掠め取るように。

 

「ヤベェぞ!」

「おわっ⁉︎」

 

これを見たトップスピードは、龍騎とリップルを引き連れて、一目散に銃弾を撃ち込まれたであろう方角から遠ざかるように駆け出した。3人の背中越しに、再び銃弾が迫ってくるが、奇跡的にもそれらは掠りもしなかった。今夜は少し風が強いという事もあり、照準がズレているようだ。

 

「お、おいおい⁉︎ 何でこんな事するんだよ⁉︎ 俺達は話し合う為に来たのに!」

「やっぱり、最初から私と龍騎を殺す気でいたんだ!」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!」

 

3人は口々に叫びながら、どうにかして防壁のある場所までたどり着いた。厚い壁があるおかげで、弾が貫通してくる事はなさそうだ。

 

「大分遠くから撃ってきてるみたいだし、このまま箒でビルの陰から逃げちまおう!」

 

こうなっては話し合いなど皆無だ。そう考えたトップスピードはラピッドスワローを手に持つが、不意にリップルがトップスピードの手を振り払った。

 

「売られた喧嘩は買わないと……!」

「あ、危ないって!」

 

リップルが顔を覗かせようとしたところを、龍騎が慌てて彼女の顔を掴み、引き戻す。その間も、銃弾は3人のすぐ近くを飛び交っている。

 

「バッキャロォ! こんなのもう喧嘩じゃねぇ! 良いから来いって!」

 

トップスピードはそう一喝し、リップルを無理矢理ラピッドスワローに乗せた。

 

「龍騎も早く!」

「あ、あぁ!」

 

龍騎もこの場から逃げた方が得策だと考え、カードデッキからパートナーカードを取り出してベントインした。

 

『BROOM VENT』

 

上空から降ってきた、龍騎版ラピッドスワローをキャッチした龍騎は、手早く箒にまたがった。

 

「メーター振り切って飛べば、あいつだって捕捉できねぇ!」

「メーター……?」

「ものの例えだ! 行くぞ! 俺に続け、龍騎!」

「ッシャア!」

 

龍騎に合図を送ったトップスピードは、最大出力でラピッドスワローを発進させた。龍騎もそれに続く。なおも銃弾は背後から聞こえてくるが、動く的に当てるのは、カラミティ・メアリをもってしても至難の技のようだ。

さらに出力を上げて、全速力で遠ざかろうとしたその時、3人の前方から何かが迫ってきているのが見えた。もしや王蛇が足止めに来たのか。そう思って身構える一同だったが、すぐにそれは違う事が判明した。その人物の背中には、巨大なコウモリが張り付いている。それは彼らにとって何よりも頼れる味方である事を指し示していた。

 

「ナイト!」

「何でここに⁉︎」

 

あれほどこの場所には来ないと言っていたはずのナイトが現れた事に困惑していたが、ナイトはすれ違いざまに叫んだ。

 

「あいつらは俺が足止めする! お前達は逃げろ!」

「で、でも……!」

「死にたくなければ、これ以上奴らに関わるな!」

 

そう言ってナイトは、カラミティ・メアリがいるであろう方角へと突き進んだ。

 

「あいつ……。なんだかんだ言って、俺達の事気遣ってたのかよ。素直じゃねぇな」

 

ナイトの素直じゃない一面を見て、一瞬だけリップルの方を向いてから、少しだけ笑みを浮かべて前に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、カラミティ・メアリはビルの上を飛び交っていた。目的はもちろん、3人を狙い撃ちするのに最適なポジションにつくため。

 

「手を焼かせやがって……」

 

カラミティ・メアリは不満げに呟きながら、再び銃口を向けて2発撃ちこむが、やはり当たらない。舌打ちしながらも再度スコープを覗き込もうとしたその時だった。

 

『キィィィィィィィィ!』

「!」

 

甲高い鳴き声と共に、上空から人が降りてきて、手に持っていた武器を振り下ろした。メアリはとっさに後方へ地面を転がりながら回避する。メアリはすぐに起き上がり、襲撃者を睨みつけた。ダークバイザーを構えたナイトだった。彼を連れてきた契約モンスターのダークウィングは、役目を終えたと言わんばかりに、ミラーワールドへと戻っていった。

 

「あんた……!」

「やはり最初から狙いは、2人を始末する事だったか」

「なるほど。万が一に備えてあんたは後方で待機してたってわけだ。そんなにお仲間が大切かねぇ? 今となっては、ライダーも魔法少女も敵だってのにさ」

「何を勘違いしている」

「あっ?」

「俺は、戦いをしにここへ来た。そうでなきゃ俺のいる意味はない。ここでお前達を倒せるのなら、好都合だ」

「……ムカつくね。あんたのそういう傲慢なところ。死んでも骨は拾わないよ」

「そんな汚い手で拾われても、迷惑でしかない」

 

そう言ってナイトはダークバイザーの装填口を開いて、カードデッキからカードを取り出した。

 

「!」

 

対するカラミティ・メアリも、手に持っていたドラグノフと呼ばれる狙撃銃を捨てて、比較的扱いやすいハンドガンに持ち替えて、引き金を引いた。が、銃を持ち替えている隙が、ナイトにベントインさせる時間を充分に与えていた。

 

『SWORD VENT』

 

ダークバイザーを腰に戻し、ウィングランサーを構えたナイトはメアリに斬りかかった。メアリもまた、間合いを計って下がりながら撃ち続けるが、耐久性はウィングランサーに分があるようだ。次第にメアリはこれ以上後ろに下がれないところまで追いやられていた。

 

「チッ……!」

「フンッ!」

 

ナイトが一気に勝負を決めようとしたその時、背中に強烈な痛みが走った。

 

「グアッ……!」

 

ナイトが前のめりによろめき、カラミティ・メアリが足を突き出してナイトを蹴り上げると、距離が離れた隙に横に飛んで、先ほど放り捨てたドラグノフを拾った。ナイトは起き上がり、背後から襲撃してきた人物を睨みつけた。そこにいたのは、ベノサーベルを肩に乗せている王蛇。

 

「貴様……」

「俺にも戦わせろよ。ハァッ!」

 

王蛇はベノサーベルを振り下ろし、ナイトに攻撃を仕掛けた。ナイトは器用にかわしながらも、カラミティ・メアリ以上に躊躇のない攻めにたじろいでいた。

 

「(やはり、人間離れしているな)」

 

ナイトはそう愚痴りながらもウィングランサーを持つ手を強くしてから、目線をメアリの方に向けた。メアリが体を向けている先には、龍騎、トップスピード、リップルの3人が豆粒のようになっていた。ナイトの足止めが功を奏し、かなりの距離を稼げたようだ。これだけ距離があっては、メアリも龍騎とリップルの殺害を諦めざるを得ないだ

 

「逃げるなら、戻ってこさせりゃいいだけの事さ」

 

……ろうと思っていた時期が、あった。

3人を狙撃するチャンスを失ったにもかかわらず、メアリからは依然として余裕の表情が崩れない。何か秘策でもあるというのか。そう思っていたナイトの目の前で、カラミティ・メアリがとった行動。

それは銃口を3人のいる上空ではなく、ナイト達がいるビルと龍騎達がいる地点の、丁度中間辺りに向けるというものだった。そこは通称『上道』と呼ばれる国道が通っており、夜19時という事もあって、様々な車種の車が飛び交うように行き来している。メアリはそれらに目をやって、口の端をつり上げているのが、ナイトには見えた。

 

「! まさか……!」

 

これからメアリがやろうとしている事を察したナイトが足を止めると同時に、メアリは引き金を引いた。

そして、ナイトの視線の先では宙を舞う車が。視力が向上した事で、車の中にいた運転手が困惑と恐怖で歪んだ顔が見え、道路に前からぶつかると同時に、車は爆発と同時に大破した。さらにメアリは後方から接近してきた車にも、同じく弾を当てて、爆発させた。中にいた人達がどうなったかなど、考えるまでもない。

 

「貴様ぁ!」

「ハァッ!」

「グゥ……!」

 

一瞬で頭に血が昇ったナイトは冷静さを欠いてしまい、王蛇の腹蹴りを受けて地面を転がった。

 

「何をよそ見している……! 俺と戦えよ、もっとよぉ!」

「グッ……!」

 

そうこうしている間にも、メアリは躊躇う事なくドラグノフから火を噴かせた。爆発と炎上が立て続けに発生し、上道を走る車は次々と破壊されていった。加えて玉突き事故も発生し、運良く玉突きから逃れた車も、メアリが漏らさず破壊していった。夜の国道が、一瞬にして昼間のように明るくなったのだ。

車を破壊しつつも、その近くで逃げ惑っていた男が目について、戯れ程度に撃ってみた。胸から血が噴き出し、特にこれといったリアクションもなく倒れこんだ。それを見て、メアリは鼻を鳴らす。

 

「……フン。威力がありすぎて、面白みがないね。やっぱり車の方が、断然良い……!」

 

そう呟き、再度車を狙い撃ちするメアリ。轟音と悲鳴が、上道を中心に埋め尽くしている。すると、国道の周辺に位置する繁華街でも、爆発音が鳴り響いた。それを聞いて、メアリは笑みを浮かべる。

 

「(どうやら、ガイが張った罠もちゃんと作動したみたいだね)」

「オォ……!」

 

すると、鈍い音と共に王蛇が呻き声を上げたので、一旦手を止めて振り返った。王蛇は後ずさっており、ナイトがメアリに顔を向けていた。仮面に覆われていても、鋭い視線が向けられている事が分かる。だが、その程度で臆するほど、カラミティ・メアリも落ちぶれてはいない。

 

「珍しいね。普段はクールなライダーだと思ってたのにさ」

「黙れ……!」

 

ナイトが声を荒げてウィングランサーを突き出すが、カラミティ・メアリはフゥッと息を吐いてからこう言った。

 

「こうなったのもさぁ。全部龍騎やリップルが悪いんだよ」

「何……⁉︎」

「初めて会った時に、どっちも素直に頭下げてりゃ、こんな事にならなかったのさ。あたしや王蛇を恐れていなかったから、こうなるんだよ」

 

そしてメアリは、四次元袋からマシンガンを取り出して、ナイトに向けた。

 

「車とか一般人にぶちかますよりもさぁ。もっと面白くて、気持ちが良いはずだよ。魔法少女を、仮面ライダーを、ぶっ殺すのはねぇ!」

 

特別な力を手に入れた、ガンマン系魔法少女は、迷う事なくその引き金に手をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上道での爆発が起きるほんの少し前。スノーホワイトの変身者である小雪は自宅に居座り、同じ魔法少女であるラ・ピュセルの変身者、颯太にマジカルフォンで連絡を取っていた。

 

『大地と、連絡がつかない?』

「うん。そうちゃんも気づいてたかもしれないけど、最近のだいちゃん、何かおかしいよ。考え事ばかりして、こっちの話をあまり聞いてくれなくて……。それに危ない事に積極的になりすぎてて、不安で……。そうちゃんは、どう思う?」

『どうって言われてもなぁ……。でも確かに、最近の大地は変わったと思う。また学校に行くようになってからは、大地が家まで車椅子を押してくれるんだけど、その時も、他ごとばかり考えてるみたいだし……』

「そう、なんだ。やっぱり……」

『それにさ。今日は朝見かけた時から変な感じだった。帰りは、用事があるって言って、さっさと帰っちゃったしさ』

「そうなの? じゃあそうちゃん、今日は朝の時しか見かけてないの?」

『まぁ、そうだな』

「(用事って、家の手伝いかな……? でもそれならそうって言いそうだし……。だいちゃん、どこにいるの……?)」

 

小雪がパートナーの安否を気にかけていたその時、遠くの方から轟音が聞こえてきた。

 

「な、何⁉︎」

『小雪! 今のって……!』

 

どうやら颯太の方にも同じ音が聞こえてきたらしい。ふと顔を見上げて、風通しを良くしようと開けていた窓の方を見ると、かなり離れた場所で灯りがともっている。が、窓を開けてよく目を凝らすと、それは蛍光灯やネオンライトとは全く違う、燃え盛る炎だった。

 

『小雪! 外で何が起きてるんだ⁉︎ こっちからは外の状況が分からない!』

 

まだ車椅子無しでは満足に歩けない颯太では、カーテンを開けて外を見る事が出来ない為、小雪に状況報告を頼んだ。小雪は声を震わせながら、現状報告を行った。

 

「燃えてる……! 多分、高速道路がある方!」

『何だって⁉︎ そこって確か、リップル達がカラミティ・メアリと待ち合わせにしてる場所じゃ……!』

 

颯太が声をうわずらせて叫んだ。

 

『小雪! 前まで解散場所にしてた所に集合だ! 手塚さんも蓮二さんも気づいてるはずだから、僕達も向かおう!』

「う、うん!」

 

会話を打ち切って、小雪は画面を戻してからタップし直した。

 

「変身!」

 

小雪はスノーホワイトに変身し、窓の手すりに手をかけた。下を見ると、両親や近所の人々が爆発地点を指差しながら口々に話している。スノーホワイトは皆に気づかれないように屋根の上を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がどうなってるんだ……⁉︎」

 

小雪との会話を終え、颯太は近くに人の気配を感じない事を確認してから、その場でマジカルフォンをタップした。

 

「変身!」

 

光に包まれた颯太は、魔法騎士ラ・ピュセルへと変身し、足を床につけた。魔法少女姿なら、足の怪我など心配しなくても良いので、思う存分動き回れる。ラ・ピュセルは窓を開けて、はるか向こうに見える火の海をその目で確認して絶句した。かつてこのような被害がN市で起きただろうか。ラ・ピュセルは家を出る前に、大地に連絡を取ろうとしたが、一向に出る様子はない。

 

「こんな時に何やってるんだ……! まさか、大地もあそこにいるのか……⁉︎」

 

もの言えぬ不安がよぎったラ・ピュセルは、すぐさまスノーホワイトらと合流する為に、一気に跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

不意に聞こえてきた爆発音で、占いに集中していた手塚は意識を窓の外に向けた。街の灯りが強くなっているのかと思ったが、そうではない。国道を中心に、火が燃え広がっている。

手塚は思わずテーブルに目をやった。そこには、火のついたロウソクやコインが散りばめられている。

先ほど占った際に浮かんできた光景は、火の海と化した街に、逃げ惑う人々、そしてその街中で縦横無尽に駆け巡り、戦い始める仮面ライダーや魔法少女。

そして、血で全身が汚れている九尾と、そこに横たわる1人の男性。

 

「大地……!」

 

このままでは、大地は、九尾は取り返しのつかない事をしてしまう。そして何よりも今目の前に見えている出来事を解決しなくては、と思った手塚は鏡にカードデッキをかざし、右の人差し指と中指、親指を立てて叫んだ。

 

「変身!」

 

仮面ライダー『ライア』に変身すると、家を出て、現場へと向かった。その道中で、ライアは途中で合流したスノーホワイトとラ・ピュセルの姿を発見した。

 

「ラ・ピュセル、スノーホワイト!」

「ライアさん! 高速道路が……!」

「あぁ。……九尾はどうした?」

「それが、さっきから何度かけても連絡がつかない。もしかしたら、もう現地にいるのかもしれない……」

「九尾が……」

 

ラ・ピュセルとライアが九尾の事を話していると、スノーホワイトは唐突に頭を抑えた。

 

「ど、どうしたんだスノーホワイト⁉︎」

「き、聞こえる……! みんなの悲鳴が、頭の中に響いて……!」

「(そうか。スノーホワイトの魔法はフルオートだから、入ってくる量も尋常ではないはず……)」

 

『困っている人の心の声が聞こえるよ』という魔法を持つスノーホワイトにとって、普段の活動時ならまだしも、この状況ではノイズのようなものだ。そう察したライアはスノーホワイトを落ち着かせながら2人に言った。

 

「とにかく、ここにいても仕方がない。俺達だけで向かうぞ。龍騎達も助けに行かないとな。スノーホワイトも無理しない程度についてきてくれ。君の魔法が、救助に必要になってくる。ラ・ピュセルも援護してくれ」

「あぁ、分かった! 行こう、スノーホワイト!」

「う、うん!」

 

3人は人命救助と原因究明の為に、戦地へと出向く事にする。と、その時、3人のマジカルフォンにメッセージが届いた。

 

「こんな時に一体誰が……」

 

非常事態であるにもかかわらず、メールを送ってきた相手とその文面を見て、ハッとした表情を浮かべた。

 

『中宿の方で、面白いものが見れるからさ。みんな来てね。待ってるから。 ガイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、リュウガとハードゴア・アリスも、上道の方で火が燃え広がっている光景を目にした。そしてリュウガはマジカルフォンに記載された、ガイからのメールに目をやる。

 

「面白いものを見せてやる、か……」

「……私、行きます。きっと、スノーホワイトも、九尾も、来ます」

「……分かった。俺も行こう」

 

おそらく龍騎も来るだろうし、そこでじっくりと観察してやる。そう呟きながら、リュウガはハードゴア・アリスと共に、戦地へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送信完了っと」

 

メールを打ち終え、今現在生き残っている全ての魔法少女、仮面ライダーに一斉送信し終えた芝浦は、燃え盛る街中に目をやり、笑みがこぼれた。

 

「すっごいなぁ。さすがはカラミティ・メアリ特性の罠だけあるなぁ。おかげで面白くなってきたじゃん」

 

予めカラミティ・メアリが用意してくれた罠を、国道近くの街の至る所に設置していた芝浦だったが、予想以上に効果てきめんのようだ。そして彼は、より刺激的な展開へと持ち込む為に、全メンバーに召集をかけた。23人のライダーや魔法少女が一同に集結し、戦い合えば、ゲームとしては盛り上がる事間違いなし。芝浦は自分の考案に酔いしれていた。そして彼もまた参加者として出向く為に、王結寺にいるたま達よりも早くゲームの進行状況を知りたい為、早速カードデッキを近くにあったショーウィンドウにかざした。

 

「変身!」

 

そして芝浦は仮面ライダー『ガイ』に変身し、手を叩きながらその先に待ち構えている、『ゲームの盤面』と称した戦地へと、足取り軽く歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひょ、ひょっとしてガイが言ってた、面白い事って、アレの事じゃ……」

 

王結寺からでも、中宿の国道の悲惨さが伺える。たまはガイに言われた通りに王結寺で皆に召集をかけていたのだが、爆発音が聞こえてビクついていると、パートナーからのメールを貰い、待機していたスイムスイム達に声をかけた。

 

「み、みんな! 国道がめちゃくちゃになってるよ! た、助けに、行かなくちゃ!」

「……でも、リーダーがいない。リーダーの指示は、必要」

「で、でも……」

 

スイムスイムの言う通り、王結寺には何故かリーダーであるベルデの姿はない。たまもそれが気になって、皆に呼びかけたが、誰も知らないと一点張りだった。ミナエルに至っては、膝を抱えてブツブツ言っていた為、会話すら成立していない。

と、そこへアビスがスイムスイムに寄ってきた。数分前までどこかに姿をくらましていたのだが、どこにいたのだろうか。たまが聞き出すよりも早く、アビスはスイムスイムにしか聞こえない声で呟いた。

 

「お前は、ルーラになりたいのだろ? なら、今からなってみれば良い」

「……?」

「お前が今から、リーダーとして俺達を動かす。ベルデがいなくとも、お前はリーダーとして、ルーラとしては最適だ。ルーラから教わった事を、今こそ発揮する時だ。その為に、お前はルーラを討ったのだろ?」

「……!」

「この状況で適任なのは、お前だ、スイムスイム」

「私が、リーダー……」

 

スイムスイムは、手に持っていた『ルーラ』を見つめる。それからすぐに頷いて、たまの方に顔を向ける。

 

「たま。ガイに連絡して。私達も、そっちに向かうって」

「えっ? う、うん。じゃあそれが終わったらみんなで助けに……」

「救助は、他の魔法少女と仮面ライダーに、任せる」

「えっ? どういう事……」

 

予想外な返答に、戸惑いを隠せないたま。スイムスイムは無表情のまま、リーダーとしての決断を下す。

 

「脱落者は、後7人必要。まだ先は遠い。でも、この混乱に乗じて、他の魔法少女や仮面ライダーを、狙う」

「えっ……」

「ミナエル、タイガ。2人も、準備を」

「……うん」

「そうだね……。何ならさ。みんな殺しちゃおうよ」

 

タイガとミナエルも、スイムスイムに同意した。特にミナエルは不気味なほどに薄笑いを浮かべている。救助に向かうのかと思えば、スイムスイムの狙いは、脱落者をこの1日でなるべく多く増やす事だった。

 

「み、ミナちゃん。でも……」

「これは、ユナエルの弔いなんだ……! 絶対に、失敗なんかしない……!」

「……決まり。みんな、急いで準備を」

 

元々自分の意見を押し通そうとは思わない性格のたまには、これ以上説得する勇気はなかった。結局、スイムスイムに言われた通りに、『元気が出る薬』や『透明外套』を手に持って、一同は戦地へと出向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ガイからメールが送られてきた時には、すでに戦地に到着しているペアがいた。

 

「あれが、ガイの言っていた面白いもの、ですか」

『そうみたいだぽん』

「もっとも、見ている限りはカラミティ・メアリがこの事態を引き起こしているようだが」

 

あちこちから火の手が上がっている中、クラムベリーとオーディンが、まだ火がついていないビルの屋上から、地上で逃げ回っている人間達を見下ろしていた。

 

『試験とはいえ、一般人を巻き込むのはあまり感心しないが、まぁ、世間にはテロとして情報を流しておこう』

『こういうのは疲れるから面倒だけど、この一件でこの試験が魔法の国にバレたら、それはそれで面倒だぽん。ファヴも久々に張り切ってやるぽん!』

 

ファヴとシローが今後の事を話し合う中、オーディンはクラムベリーに尋ねた。

 

「で、どうするつもりだ。ガイの誘いにあえて乗るのか、このまま高みの見物といくのか」

「そうですね……」

 

クラムベリーは考える素振りを見せ、また新たに響いてくる爆音や、こちらに近づきつつある、魔法少女や仮面ライダーの気配を魔法で察知しながら、こう答えた。

 

「最初の内は、様子見としましょう。機会があれば参戦する、といったところでしょうか」

「分かった」

 

様々な思惑が交錯する中、依然として被害が拡大していく中宿に、真実を知らぬまま、『候補生』達は、戦いの渦中へと、足を踏み入れていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……この2人を除いて。

 

「言って聞かせても分からねぇようなら……、直に味わって死んでくのがお似合いだ! なぁ、九尾!」

「言ってろよ……。俺は、絶対にお前を、殺す……! 後の事なんて、もうどうでもいいんだよ……!」

 

とある地下駐車場にて、カメレオンのライダー『ベルデ』と、狐のライダー『九尾』が、その身を血に染めながら、対峙していたのだ。

 

 

 

 




久しぶりに長く書いたなぁ……。

次回は、九尾とベルデの方にスポットを当てていきます。

ちなみに今回出てこなかったゾルダとマジカロイド44はその次の回に登場します。

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