魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
久々にあの魔法少女を登場させたかったのと、そろそろあのライダーを他の面々と会わせても良いかなと思った出来心だけです。
「……ねぇ、九尾。昨日のアレ。本当に龍騎さんもリップルさんも、大丈夫なのかな……」
「……」
「……ね、ねぇ! 聞いてるの?」
「……っ。悪い。ちょっと、な……」
翌日、九尾とスノーホワイトは、とあるビルの屋上から街を見下ろし、困っている人がいないかを探していた時の事。スノーホワイトからの呼びかけに、九尾は反応が遅れていた。
「九尾、本当に大丈夫なの? 2人もそうだけど、九尾の方も心配だよ……」
「何でそんなに俺を」
「それは、その……。パートナーだから、じゃダメ?」
「……まぁ、お前が何しようと気にしないけどさ。無理してお前が抱えなくても良い事だから」
「えっ……?」
「ほら、始めるぞ。マジカルキャンディー集め」
『MIND VENT』
そう言って九尾はパートナーカードのマインドベントを使い、困っている人の心の声を聞く事に専念する。
すると早速、マインドベントの効力、そしてスノーホワイト自身の魔法によって、叫び声に近いものが聞こえてきた。
『た、助けてくれぇ!』
「! 九尾!」
「あぁ」
九尾がいち早くビルから飛び降りて、裏口から駆け出した。スノーホワイトもそれに続く。2人が向かった先には、右手に槍のような長柄の武器を持つ、イカ型のモンスター『ウィスクラーケン』が、左手から伸びた触手で男性を絡め取ろうとしている。九尾は真っ先に飛び蹴りでウィスクラーケンを引き離し、ウィスクラーケンは後方にあった窓からミラーワールドへと逃げ込んだ。
「早く逃げてください!」
その間にスノーホワイトが男性の無事を確認して、その場から逃すと、先に入っていった九尾の後を追うように、スノーホワイトもミラーワールドへと突入した。
スノーホワイトが九尾に追いついた頃には、すでに戦闘が開始されていた。九尾は持ち前の瞬発力を活かして殴りや蹴りを入れているが、ウィスクラーケンも格闘戦に長けているのか、剛腕を振りかざして九尾と対抗している。
「九尾!」
「構うな! こいつは俺がやる!」
またしてもスノーホワイトの援護を拒絶する九尾。ここ最近はずっとこの調子だった。モンスターとの戦闘では必ず前に出て、力を出し惜しみする事なく、ただ倒すためだけに体を動かしている。
スノーホワイトは一瞬立ち止まったが、唾を飲み込むと、マジカルフォンを手に持って、画面をタップした。今の九尾を見ていて、心配になっているのだ。無理をしているわけではないが、何か目的を持って、自ら戦いの渦中にその身を置いているようにしか見えないのだ。このままでは、九尾が自分から遠ざかり、しまいには消えていなくなってしまうのでは、という不安が昨晩からよぎっていた。
「(そんな事には、させたく、ない!)」
恐怖心はあるが、九尾を見捨てられない。迷いに迷いながら、スノーホワイトはパートナーシステムによって上空から降ってきたフォクセイバーを受け取り、
「ヤァァァァァァァ!」
と叫びながら、ウィスクラーケンに突撃する。対するウィスクラーケンは九尾を槍で吹き飛ばした後、スノーホワイトの振り下ろすフォクセイバーを受け止め、横に弾いた。元々スノーホワイトも武器を持って戦う事に慣れてない為、フォクセイバーを握る握力も弱く、いとも簡単に彼女の手から離れた。
「!」
ウィスクラーケンは返り討ちとばかりにスノーホワイトを剛腕で殴りつけて、後方に下がらせた。
「ぅあっ……!」
声にもならない痛みが全身を襲い、スノーホワイトはその場にうずくまる。ウィスクラーケンは、奇声と共にスノーホワイトに飛びかかろうとする。九尾も立ち上がろうとするが、スノーホワイトの方には間に合わない。
スノーホワイトが思わず目を瞑ったその時、上空から何者かがウィスクラーケンの背後からしがみつき、スノーホワイトや九尾から遠ざけるように、ウィスクラーケンを引っ張った。
「……スノーホワイトに、九尾に、傷を、つけさせない」
「ハードゴア・アリス……!」
九尾は突如現れた、顔見知りの人物の名を呟いた。それは以前、王蛇からの強襲に割り込んで彼を殺そうとした、ハードゴア・アリスだった。魔法少女になって身体強化された体でウィスクラーケンにへばりつくが、ウィスクラーケンも鬱陶しくなってのか、無理やり引き剥がして、槍を突き出して、華奢な少女の首に直撃させた。突きによって、アリスの首はおかしな方向へとねじ曲がった。普通なら、首の骨が折れて息絶えてもおかしくない状態。
だが、九尾もスノーホワイトも知っている。彼女は、その程度では死なないという事を。その証拠に、折れ曲がっていたはずの首がみるみるうちに元の原型に戻り始めているではないか。ムクリと、平然と起き上がるアリスにたじろぐウィスクラーケン。だが臆したのは一瞬だけで、再び駆け出すウィスクラーケンだったが、
『グォォォォォォォォ!』
どこからともなく現れた黒龍が、ウィスクラーケンを吹き飛ばした。突如現れた黒龍『ドラグブラッカー』を見て真っ先に驚いたのは、九尾とスノーホワイトだった。
「えっ⁉︎ あれって、龍騎さんの……!」
「いや、見た目は似てるけど、色だけじゃなくて、雰囲気も違ってる……」
2人が辺りを見渡していると、別の足音が響き渡る。2人が同時に音のする方へ振り返って、そして息を呑んだ。
2人とハードゴア・アリスに向かって歩いてくるその人物の姿は、どこからどう見ても、普段から九尾やスノーホワイトが行動を共にしている龍騎と酷似しているのだ。唯一の違いは、龍騎が赤を基調としているのに対し、彼はハードゴア・アリスと同様に、全身が黒を基調としていた。
「龍騎、じゃない……! ひょっとしてあんたが……」
「……はい。私の、パートナー、です」
答えたのは、アリスの方だった。黒いライダーはアリスの方に顔を向ける。
「急にどこへ走り出すかと思えば、2人を助ける為に、というわけか」
「……心配かけて、ゴメン、なさい。でも、私は、2人を、守りたかった……」
「……まぁいい。それがお前が一番に為すべき事だったそうだからな」
会話からして、どうやら勝手に走り出したアリスを追いかけてきたようだ。
そこへ、スノーホワイトが単刀直入に問いかけた。
「あ、あの! あなたは、龍騎さん、じゃないですよね……?」
「龍騎……は知らないが、俺は、リュウガだ」
「仮面ライダー、リュウガ……」
どこからどう見ても龍騎とそっくりのライダー『リュウガ』との会合に、不信感を募らせる九尾だったが、不意に襲いかかってきたウィスクラーケンから避けているうちに、それどころではなくなってきた。
「くっ……!」
「俺とアリスも、手を貸そう」
「おい、何勝手に……! こいつは俺が」
「大丈夫、です。九尾には、迷惑、かけません」
「……」
『SWORD VENT』
九尾はため息をつき、カードをベントインしてフォクセイバーを両手に持った。一応は共闘を承諾したようだ。
『SWORD VENT』
一方のリュウガも、黒いドラグセイバーを手に持ってウィスクラーケンに斬りかかった。
「(にしても、あのリュウガっていうライダーの姿も武器もそうだけど、何であそこまで龍騎と瓜二つみたいになってんだ……?)」
気にはなったものの、このままリュウガやアリスだけに戦わせたくないと思い返して、リュウガと共にウィスクラーケンを圧倒した。
「わ、私も……!」
スノーホワイトも再びフォクセイバーを拾い上げて、援護に向かおうとするが、それを遮るように、いつの間にかアリスがスノーホワイトの横に立って、左腕を伸ばして制止した。
「な、何してるの……⁉︎」
「スノーホワイトは、武器を持って、戦う必要、ない、です」
「で、でも……」
「私がいれば、大丈夫……」
そう言ってアリスはマジカルフォンをタップして、その右腕に黒いドラグクローを装着した。
「……!」
そして無言で右腕を後ろに引き、ドラグブラッカーがアリスの周りに降り立つと、アリスが突き出したドラグクローと、ドラグブラッカーの口から黒い火炎弾が放たれた。ハードゴア・アリスによるドラグクローファイヤーによって、直撃したウィスクラーケンの槍にヒビが入った。
『ACCEL VENT』
すかさず九尾がアクセルベントのカードを使い、高速移動でウィスクラーケンに追撃を与え、遂には槍が粉々に砕け散った。
「……トドメは、俺がやる」
『FINAL VENT』
最後はリュウガがカードをベントインし、宙に浮くと、ドラグブラッカーが放った黒炎に押し出され、同時に命中した黒炎がウィスクラーケンを硬化させた。
「ハァァァァァァァァッ!」
リュウガの必殺技『ドラゴンライダーキック』が炸裂し、ウィスクラーケンは難なく爆散した。
黒炎から噴き上がる煙が辺りを支配し、リュウガの全身に異様なオーラが纏われているかのようなものを、九尾とスノーホワイトに感じさせた。
「す、凄い……(龍騎さんとは、違う意味で強いんだ、この人は……)」
初めて見るリュウガの実力に、スノーホワイトはいつの間にか釘付けとなっていた。
やがて4人のマジカルフォンからキャンディー獲得の知らせが入り、リュウガはゆっくりと3人に歩み寄る。すると、アリスの方に動きが見られた。彼女はマジカルフォンをスノーホワイトに差し出したのだ。
「えっ? 何、どういう事?」
「……今手に入れたキャンディー。スノーホワイトに、あげます。後で、九尾と分け合って、ください」
「い、いいよそんな事! だって私も九尾もたくさん持ってるし……! それにキャンディーがなくなっちゃったら困るのはあなたの方じゃないの⁉︎」
「……大丈夫、です。私も、たくさん持ってます。それに……」
「それに?」
「お二人に、恩返しが、したくて……」
アリスの呟く『恩返し』と言う言葉に、2人は首を傾げる。接触した回数が少ないという事もあるが、少なくともこれまで出会った内ではアリスを助けたような事は記憶にない。むしろ、王蛇の魔の手から助けてもらった礼がある。
それでもなお執拗にキャンディーをあげたがるアリスを見て、九尾は首を横に振った。
「悪いけど、貰えない。それはお前が手に入れたものだ。何が目的かは知らないけど、俺達には必要ない」
「わ、私も、かな……。だから、このキャンディーはあなたが持っていて」
「……それじゃあ」
アリスは少し残念そうな素振りを見せた後、唐突に近づいて、スノーホワイトの手を握った。いきなり手を握られて、スノーホワイトは短い悲鳴をあげる。
「ヒッ……⁉︎」
「お、おい……」
「……私、あなた方に、憧れて、魔法少女に、なりました。……握手を、させて、ください。……それから、私の事は、『あなた』じゃなくて、『アリス』で、お願い、します」
「えっ? あ、うん。分かったよ、アリス」
どうやらキャンディーを渡すのを諦めた代わりに、握手と名前で呼んでもらう事を約束してもらうようだ。それならば、という事でスノーホワイトも承諾し、その手を握り返した。死人のように冷たい手だった。よほど嬉しかったのか、ニッコリと笑ったつもりなのだろうが、隈のついた目で笑みを浮かべると、より一層不気味さが浮き立つ。
その後、スノーホワイトに言われて九尾も握手に応じた。その際、九尾はこう尋ねた。
「1つ、いいか」
「何でしょう、か?」
「アリス、お前と俺達はどこかであったか?」
「……。それ、は……」
尋ねられたアリスは、答えにくそうな様子だった。
九尾もそうだが、スノーホワイトもずっと気になっていた疑問。それはハードゴア・アリスの過度な密着。向こうは九尾とスノーホワイトに恩義を感じているようだが、2人には身に覚えのない事だ。ライダーや魔法少女同士の戦いが激化しているにもかかわらず、アリスは臆する事なく2人に近寄る。一体何が彼女をそうさせるのか。どうやらその答えはまだ聴けそうにない。
その代わりに返ってきたのは、リュウガからの質問だった。
「なら、俺からも聞きたい事がある」
「はい。何でしょうか?」
「さっき、お前達は俺の事を龍騎と勘違いしていたようだな。……俺は龍騎の事は、16番目に誕生したライダーぐらいしか情報はない。お前達は、どこまで奴と親しい。奴は、お前達にとって何なんだ」
自分とそっくりの存在に興味を抱いているようだ。
「どうと言われましても……。龍騎さんは、私達の仲間で、とても優しくて、強くて、九尾と前から親しくて……。あ、後はファムと凄く相性が良かったんです」
「ファムと……?」
「あ、はい。だから、ファムがいなくなって、凄く落ち込んでた時があったから、やっぱりあの人の事を……」
段々と口調が重苦しくなったスノーホワイトに、アリスはどう声をかければいいのか、分からないようだ。だが、それでもどうにかして接しようと、下から見上げるようにスノーホワイトの顔を覗き込んだ。その仕草に、スノーホワイトはビックリした。
「……スノーホワイト、泣かないで、ください。私が、ついてます。九尾の事も、あなたの事も、今度は、私が、守ります。そばに、い続けます。だから……」
「だ、大丈夫! そばにいてくれる人なら、間に合ってるから! だから、その……。今日は、ありがとう! それじゃあ私達、もう行くね! 行こっ、九尾!」
「あ、あぁ」
スノーホワイトに引っ張られて、その場を後にしようとする九尾。立ち去る直前、九尾は立ち止まり、リュウガの方に顔を向けた。
「? 九尾?」
「リュウガ。聞きたい事がある」
「……何だ」
「この間、その龍騎がミナエルに襲われたって聞いてる。妹のユナエルが、龍騎に殺されたから、その敵討ちにって」
「……」
「けど、だ。もし俺の予想が正しければ、本当は龍騎にそっくりのあんたが……」
「否定はしない」
その言葉を聞き、九尾は黙り込み、スノーホワイトは軽く血の気が引いた。ユナエルを殺したのは、今目の前にいる黒いライダーだと判明したからだ。
「どうして、そんな」
「全ては目的の為、ある事を成し遂げる為だ。それまでは、俺は死なない」
「……あんたは最初から、人を殺せるだけの覚悟を持ってたのか」
「お前は、どうだ? 魔法少女が、ライダーが、元は同じ人間だった者が次々と消えていくのを見ていって、何が変わった」
「……」
「き、九尾? 何言って……」
スノーホワイトが怯えながら九尾に声をかけるが、九尾はそれを無視してスノーホワイトの手を握った。
「……行こう。そろそろ家に帰らないと」
「う、うん……」
もう夜も遅い。2人は再度アリスとリュウガに手を振って別れた。アリスだけは名残惜しそうだったが、リュウガだけは自分の手のひらを見つめていた。手の中には、黒龍のペンダントが。
「龍騎……か。……もし、俺の予想が当たっているなら、シローもファヴも大それた事をしたものだな」
リュウガとハードゴア・アリスも、九尾とスノーホワイトが立ち去ってからすぐに現地で解散し、家路についた。
アリスは、屋根の上を飛び交いながら、親戚の叔父、叔母が住んでいる家の前に着地した。そこが、今現在のアリスの変身者の家だった。予めロックを外しておいた窓を、なるべく音を立てずに開けてからするりと滑り込むように、自室でもある和室に足を踏み入れた。手に持っていたウサギのぬいぐるみを本棚の上という定位置に置いた後、一度周りを見渡してから、自分の意思で変身を解除した。
光に包まれた後、露わになったのは、スノーホワイトの変身者である姫河 小雪と背丈が同じくらいの少女。少女は一息つくと、ベッドの上に座って、右手をジッと見つめた。先ほど、スノーホワイトや九尾と握手してもらった時の事を思い返しながらも、深くため息をついた。
「……どうしたら、上手く伝わるんだろう」
スノーホワイトに、九尾に、もっと近づきたい。そう考えているものの、いざ目の前にすると、自分の本心を素直に伝える事が出来ない。以前、シスターナナの紹介で確認した、2人と行動を共にしているチームメイトはどうやって2人と仲良くなれたのだろうか。
少女が悩みに悩んでいたその時、襖をノックする音が。少女が返事をすると、メガネをかけた初老の男性が襖を開けて入ってきた。
「叔父さん……?」
「どこかに出かけてたのかい? ついさっき呼んだんだけど、返事が無かったらね……」
「そ、それは……」
まさか、魔法少女としてキャンディー集め、そして恩人達と会ってきただなんて言えるはずもなく、少女は口を濁らせながら答えた。
「ずっと、部屋で、寝てました。その……、ゴメンなさい……」
「そ、そっか……。それなら良いんだ。謝らなくてもいいよ」
「(……ゴメンなさい。でも私、叔父さんや叔母さんには、どんな小さな迷惑も、かけたくない)」
少女が心の中でそう謝っていたその時、玄関のチャイムが鳴り響いた。少女やその叔父がビクッとなり、叔父が少女を守るような姿勢になると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。どうやら回覧板を渡しにやってきた近所の住民のようだ。叔父は直ぐに行くと返事をした後、少女に言った。
「大丈夫だ。とりあえず、今日はもう着替えて寝なさい。良いね?」
「はい……」
少女が返事をすると、叔父は少女の頭を優しく撫でて、部屋を後にした。少女は再びため息をついて、ベッドの上に座り直した。その体は僅かながら震えている。
とある事件があってから、少女は常に今のような生活を虐げられていた。虐げられているのは、叔父も叔母もひょっとしたら同じなのかもしれない。もちろん悪いのは少女でも、叔父でも叔母でもない。
……それでも、少女は自分を責め続けた。あの日以来、周りからの視線に怯えている叔父や叔母を見ていると、申し訳ない気持ちがぶり返し、『死にたい』という気持ちがよみがえる事も多々あった。ほんの少し前の彼女なら、この時点で死を選んでいてもおかしくなかった。
だが、今は違う。彼女は生きる事を望んでいた。そのきっかけとなったのは……。
「(『あの出会い』が、『あの人達』の助けがなかったら……。私、きっと自殺してたんだよね……。だから、今度はきっと、この気持ち、届けたいよ。だからお願いです。神様が本当にいるのなら、私にその勇気をください……)」
というわけで、どこかでそろそろアリスとスノーホワイト、九尾を本格的に関わらせようと思って書いた回でした。
そして次回、このシリーズの中間点に位置するイベントが……! さぁ、祭りの支度を明後日までにしておくように!