魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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いよいよ70話目に突入!


70.情報収集

N市の都心から少し離れた住宅地に、一際目立つ家がある。丁寧に手入れがされているガーデニングを抜けた先にある玄関には、『北岡法律事務所』と書かれた看板が。

この日、『黒を白にしてしまう』弁護士として有名な男の元へ、1人の来客があった。

 

「いやぁ、よく来てくれたね。でも、もう少し早く来てくれれば食事をもう1人分用意出来たんですけど」

「いいえ、結構よ。こっちは取材目的で来たわけですから」

 

仮面ライダーゾルダの変身者、北岡 賢治は、OREジャーナルの記者で、北岡がターゲットにしている桃井 令子に、にこやかに接するが、本人は無反応で家の中に入った。

秘書の由良 吾郎の案内で席に座り、彼が淹れた紅茶で口を潤した後、北岡は口を開いた。

 

「さてと。今日は俺の事で取材しに来たって事で良いんだよね? 質問はどしどし受け付けるからさ」

「お生憎様。断じて違いますから」

 

そう冷ややかに呟いた令子はカバンに入れていた資料やノートを広げて口を開いた。

 

「半年ほど前に脱獄した、浅倉 陸について、お聞きしたいんですけど」

 

浅倉 陸。

その名前を呟いた途端、北岡だけでなく、そばで話を聞いていた吾郎や、マジカロイド44の変身者、安藤 真琴の表情が変わった。特に吾郎は目を細めて、鋭い目線を背後から令子に向けている。

 

「あなたが彼の担当弁護士だったわよね?」

「……ほぅ。相変わらず俺の事、何でも知ってるんだ」

「仕事なんで」

 

再びあっさりと返事を返す令子。

元々は行方不明事件や、ここ最近相次いでいる、若者を中心とした不審死について調査を進めていたが、これといった有力情報は掴めず、行き詰まっていた。そこへ編集長の大久保が、一旦羽休めとばかりに、丁度半年前ほどに脱獄し、行方をくらませている要注意人物の浅倉の調査を勧めてきた。

たまにはのんびりと取材しようという事もあり、令子はその取材を引き受けたが、そのためには浅倉をよく知る人物でもある北岡に話を伺わなければならない。個人的には関わりたくないのだが、仕事である以上、避けては通れない道なので、やむなく彼の所に出向いて取材を行うことにした。

令子が独自に調べていた資料に一通り目を通し、感嘆した後、今度は北岡の手元にある資料を令子に見せた。その間、令子の資料が気になった真琴は、許可を得て資料を眺めていた。

 

「浅倉が最初に犯した罪は、家族の殺害だった」

「えっ?」

「子供の頃に、実家に火を放って、両親と弟を殺した時から、彼の周りで密かに良くない噂が続いた。施設に預けられて以降、高校まではまだマシだったそうだけど、途中から獰猛な性格を表に出してきたらしい。強盗に無差別暴行。結構死人も出たらしいよ。それで警察も無視できなくなって、苦労の末に逮捕出来たのが、今から半年前ほど前。さっき言った、家族の殺害の件も逮捕した直後の事情聴取を通じて判明したらしい」

 

何度か耳にしてはいたが、浅倉という男の残忍性に顔をしかめる令子。そして令子は核心をついた。

 

「それで、あなたが浅倉の弁護をしに来たそうだけど、どうだったのかしら?」

「向こうも俺の事は知ってたみたいでね。まぁ知名度はそこそこあったし。浅倉の依頼で担当して、色々と調べてみたんだけど、どんな裏技使ったとしても、無罪になんて出来るわけもなかった。上手くいって懲役10年ってところか」

「へぇ。あなたの腕をもってしても無罪に出来なかったのね」

「大体、動機のほとんどが『イライラしたから』ってどう思うよ? あんなにイカれた奴は初めてだったね。それにさ。弁護するにしたって、相性ってもんがあるからね。他の奴にあたれって言ったら、浅倉の奴、取調室で暴れまわってさ。警官が数人がかりでやっと止めてたよ」

「で、結局浅倉の弁護は止めたって事ですよね」

 

そう呟いたのは、資料から目を離した真琴だった。北岡は頷くと、今一度紅茶を一口含んでから、息を吐いて呟いた。

 

「それから数日してからだったな。浅倉が脱獄したって警察から連絡を来たのは。そうだったよね、ゴロちゃん」

「えぇ、確かに。狙ってくる可能性があるから気をつけろって念を押されました」

「自分の事を弁護してくれなかった事に、逆恨みしてるって事ですね。また随分と面倒な性格を」

 

真琴は呆れ口調で呟いた。

その後も浅倉に関する情報を聞き出し、ある程度記事の内容が決まってきたところで、令子はお暇する事にした。

 

「あ。もし良かったら、今晩一緒にどうよ? たまに外食で行く上手い店があるんだけど。もちろん俺の奢りで」

「結構です。向こうに戻って今日の取材内容をまとめておきたいので」

 

またしてもお誘いを断られてしまい、若干ヘコむ北岡。

外まで送る為、吾郎と真琴は令子に付き添った。玄関のドアに足を運びながら、令子は2人に話しかけた。

 

「あなた達も大変ね。あんな男と一緒にいて、苦労しない?」

「そんな事ありません。あの人のおかげで、今の生活に満足してますから」

「私も。お給料もそこそこですから、おかげで生活に困らなくなりました。良い求人を見つけられたと思えば、これくらいなんともありません」

「そう……。でも真琴ちゃん、だっけ? あなた随分と年下っぽいけど、いくつなの?」

 

令子は気になっていた事を真琴に尋ねた。

 

「15です」

「15って……。じゃあまだ未成年って事よね? 学校とか両親は?」

「中卒ですよ。家は、たまに帰るぐらいでほとんどこの事務所か友達の家を転々としてますね。親から何かと口うるさく言われるのが面倒なんで」

「色々と事情があるのね。大地君とほとんど同い年の子でも、随分と環境が違うっていうか……」

「大地……?」

「ちょっと前にある事件を通じて知り合った、同じ会社で働く記者の知り合いでね。他にも、小雪ちゃんや颯太君って子と知り合ったの」

「へぇ……(そういえば、龍騎の変身者が、令子さんと同じ会社の人でしたから、もしかしたらそのお三方も……)」

 

そんな事を話しながら玄関の前までたどり着いたその時、インターホンが鳴った。誰かが事務所に尋ねてきたようだ。

 

「誰か来たみたいね」

「今日は他に来客の予定は無かったはずですけどね……」

 

吾郎は訝しみながらドアノブに手をかけようとするが、令子が前に出て代わりにドアノブを握った。

 

「付き添いはここまでで良いわ。後は今来たお客さんの相手をしてあげて」

 

それじゃあ、と言って令子がドアを開けたその瞬間、外にいた何者かが、彼女に向かって鉄パイプが振り下ろしてきた。

 

「! きゃあ!」

 

突然の事で恐怖した令子が身構えた瞬間、吾郎がとっさに前に出て、俊敏な動きで鉄パイプを掴んだ。おかげで誰1人怪我する事は無かったが、吾郎が鉄パイプから襲撃者に目を向けた瞬間、思わず鉄パイプを握った手を離し、ファイティングポーズをとった。

一方で令子の悲鳴を聞きつけて駆け寄ってきた北岡は、玄関にやって来たところで、険しい表情で襲撃者を睨みつける。令子もようやく冷静さを取り戻したところで、顔を上げた。

そこにいたのは、蛇柄の服を着た、獣のような目つきをした男性。令子を含め、その場にいる全員がメディア等で見た事のある顔だったのだ。そして北岡はその名を口にする。

 

「浅倉……!」

「!」

「……よう。役立たずの弁護士」

 

襲撃者……浅倉 陸はギラついた目で北岡を睨みつける。対する北岡は女性の令子と真琴を下がらせた後、呆れたように脱獄犯に話しかけた。

 

「相変わらずしつこいねお前。何度来たって、ウチにはその辺の警察よりも頼れるボディーガードがいるって分かってるのにさ」

「知ったことか。俺を無罪に出来なかった奴を見てると、イライラするんだよ……!」

「ここ最近は大人しくしてるなと思ったら、また性懲りも無く来るとはね。下手な借金取りよりも嫌になるよ」

「また、って……⁉︎」

 

令子が北岡の言い方に違和感を抱いていると、浅倉は鉄パイプの放り捨てて、唾を吐いてから口を開いた。

 

「今日も邪魔が入ったな。まぁ、また遊びに来てやるよ」

「出来れば2度と来てほしくないんだけどね。大体さぁ、お前最初から気に食わなかったんだよね。そうやって無駄に生きてる所とかさ」

「……ハッ。相変わらず潰しがいのある奴だな」

 

そう吐きすてると、浅倉は一目散にその場から走って逃亡した。

 

「浅倉……! あいつだけは……!」

「ゴロちゃん!」

 

吾郎は怒りを露わにして、北岡の制止も無視して浅倉を追いかけた。

 

「今のって、浅倉 陸よね……!」

「え、えぇ」

「こうしちゃいられないわ……!」

 

令子もジャーナリスト魂が目覚めたのか、脱獄犯という肩書きに臆する事なく吾郎の後を追いかけた。

 

「令子さん!」

「さすがにマズくないですかね? 吾郎さんはともかく……」

「やれやれ。追いかけた方が良いよねこれ?」

 

北岡と真琴も2人の後を追いかけた。

途中で吾郎に追いついた令子は、逃げる浅倉の背中を追っていたが、途中で曲がり角を曲がったのを確認した後、見間違える事なくその角を曲がった。が、直後に2人は唖然とした表情を浮かべた。

浅倉が逃げ込んだその道は一本道で、ほんの数メートル先は壁で覆われており、そこには猫1匹いなかった。あったのは、粗大ゴミとして放置されていた置物ばかり。

 

「どういう、事……⁉︎」

 

確かにこの角を曲がったはずなのに、と呟くものの、隠れられるスペースや、抜け道はザッと見た感じでは見当たらない。まるで蒸発してしまったかのように、浅倉は忽然と姿を消したのだ。地団駄を踏みながらも、見当たらないのでは手の出しようもないと思ったのか、吾郎は諦めて壁に背を向けた。

 

「……行きましょう。きっと、曲がる所を間違えたんですよ」

「そう、かしら……」

 

腑に落ちない気分になりながらも引き返そうとする令子だが、不意にある事を吾郎に尋ねた。

 

「ねぇ。さっき浅倉の顔を見て、北岡さん、また、って言ってたわよね? あれどういう事?」

「……あいつは脱獄してから、度々先生の所に出向いて襲って来るんです。弁護をしてくれなかった事への逆恨みですよ」

「なるほど……。かなり恨まれてるみたいだったわね」

「先生は、何も悪い事はしてないはずなのに……! 先生に手出しさせるつもりはありませんよ……!」

「ねぇ、どうしてそこまでして彼のボディーガードに徹するの?」

 

令子にそう質問された吾郎は、ポツポツと自分の過去を語り始めた。

 

「俺、実家が海の近くにあって、漁師を継ぐようにってうるさく言われてたのが嫌になって、家を飛び出してきたんです。それからしばらくしてちょっとした事件に巻き込まれて、そこで俺の弁護をしてくれたのが、先生でした。その時は先生に凄く助けられて、無罪を主張し続けてくれた事が嬉しくて……。でもその代わりに、俺は先生に取り返しのつかない事をしてしまってて……」

「? それって……」

「ゴロちゃん! 令子さん!」

 

と、そこへ後を追いかけていた北岡と真琴が駆け寄ってきた。

 

「大丈夫でしたか?」

「え、えぇ」

「いや〜心配したよ。ゴロちゃんも令子さんもあそこまで大胆になるなんてさ……」

「すいません……。……そういうわけで、俺はとにかく、先生に尽くす事だけが唯一の取り柄ですから」

「……分かったわ。あなたが彼を慕う理由。じゃあ、私はこの辺で失礼するわ」

「大丈夫? まだうろちょろしてる事だってあり得るし……」

「平気よ。とりあえず会社に戻ったら、警察に連絡しておくから」

 

そう言って令子は3人に手を振りながら、車が停めてある場所へと立ち去っていった。3人はその後ろ姿を見送りながら、口々に会話した。

 

「意外とタフでしたね」

「さすがはジャーナリストってとこか。ところでゴロちゃん。さっき令子さんと何か話してたみたいだけど、ひょっとして例の事、バレてないよね?」

「……大丈夫だと思います。ちょっと口を滑らせそうになりましたけど、勘付いてる様子はありません」

「そっか。なら良いんだけどさ。変に気を遣わせたくないしね。それにさ、ゴロちゃんも別に負い目を感じなくても良いんだよ」

「いえ、ですが……。俺の弁護をしたせいで、先生の体は……」

 

吾郎は普段とは違う様子で語るが、北岡は肩を竦めて呟いた。

 

「どの道間に合って無かったと思うよ。それに、今はゴロちゃんと出会えてホントに良かったと思ってるし。真琴もそうだろ?」

「……まぁ、そうですね」

「……ありがとうございます」

 

吾郎は照れながら、夕食の調達をする為に2人と共に家へ戻ろうとした。その際、北岡は浅倉が逃げ込んだと思われる場所に今一度目をやった。

 

「(しかし浅倉の奴、どうやってゴロちゃんから逃げ切ったんだ……? そもそもどうやって脱獄したのかも未だに分かってないしな)」

 

ふと、北岡の目についたのは、使い古されていたであろう、中ぐらいの鏡。何の変哲もない鏡だったが、北岡の脳裏に嫌な予感がよぎった。消失した浅倉、古びた鏡、そして頻繁に各地で目撃されるようになった、あるライダーの存在。1つの可能性を見出した北岡は、乾いた笑みを浮かべた。それに気づいた真琴が小声で話しかける。

 

「……先生? どうかされましたか?」

「ん。まぁね。色々と面倒な事になったなって」

 

そう呟くと、北岡は夕暮れに染まった空を見上げて、やれやれといった口調で言葉にした。

 

「シローもファヴもやってくれるね。そう簡単に勝ち残らせてはくれないって訳だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、城南地区に位置するとあるビルの屋上に、カラミティ・メアリは腰掛けていた。すると、その近くの窓ガラスから人影が出てきた。彼女のパートナーである王蛇だった。

 

「やけに早いじゃないか。どうだった?」

「……フン。どいつもこいつも俺をイラつかせる」

「まぁ、チャンスはたっぷりとあるんだ。決行は明後日。何ならその時に巻き添えにしちゃえば良いだろうよ」

「それじゃあまだ足りない……! この手で潰したいんだよ、俺は……!」

「フフッ。狙った獲物は逃がさないって事か。ますます気にいるよ、あんたのそういう所」

 

カラミティ・メアリは持参していたウォッカの入った瓶を王蛇に投げ渡した。王蛇はVバックルからカードデッキを取り外し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その仮面の下に隠れていた、蛇のような目つきの男性、『浅倉 陸』は、蓋を強引に開けてからウォッカを一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

観光スポットとして有名なN神社の敷地内にある、神主の自宅の2階の自室にて、大地がベッドの上に散りばめられた資料の数々を手にとって調べ事をしていた。

その資料は、今は亡きヴェス・ウィンタープリズンの変身者、亜柊 雫の自宅に保管されていたものである。とはいえ、彼女の部屋に置かれていた資料の大半は、大地の恩師であり、雫の所属するゼミの講師だった香川 俊行が遺したものだった。何故香川の持っていた資料を大地の手に渡っているのか。理由は至極単純だった。

香川が死亡した後、大地は密かに、彼を殺した張本人であるベルデの事を探っていた。そして彼の仲間だった雫が亡くなり、さらなる復讐心を煮えたぎらせた大地は、仮面ライダーの特性を活かして、九尾の姿でミラーワールドを通じて、ある時は香川の研究室へ、またある時は香川やその関係者の家へと、誰にも気付かれる事なく、ベルデに関する資料を漁っていた。雫の恋人だった奈々の家は全焼した為、資料は残っていないだろうと思った大地は、香川の研究室で雫の家の住所を突き止めた後、無人となった彼女の家へ侵入し、資料を捜索した結果、遂にそれらしきものを発見したのだ。

そして家に戻って調べを進める内に、遂に彼は突き止めたのだ。

今、最も憎き復讐相手でもあるベルデの、変身者の可能性が極めて高い人物の素性を。

 

「こいつが、ベルデかもしれないって事か……」

 

『かもしれない』だとしても、彼のやるべき事は変わらない。

全ては、無念に殺された恩師や仲間の敵討ち。そして彼らの死によって、流す必要の無かった涙を流させた事への懺悔をさせる為。

後は準備を進めて、実行に移すだけ。彼は1人、資料を握りしめて、殺意の籠った目線を窓に向ける。

 

「……絶対に、仇はとりますよ。先生、雫さん」

 

 

 




という訳で遂に判明した、王蛇の正体!(まぁ、皆さんは概ね予想できてたでしょうが)

そして明後日公開の映画「結城友奈は勇者である〜鷲尾 須美の章〜第1幕」はもう間近まで迫ってる! トップスピード役の内山夕実さんも犬吠埼 風役で出演したこの作品はとにかく、まほいくほどではないにしろ、それに近いスリリングがあって面白いですよ! 皆さんも是非ご覧になってみてはいかがでしょうか?

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