魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回はあのペアに焦点を当てて、話を進めていきます。


69.ゲームを盛り上げよう!

芝浦 淳一郎は、定められたルールには必ず従う、という独特の美学を持っている。その為か、ルールを守らない者にはより一層厳しくし、逆に忠実な者には年上だろうが年下だろうが関係なく友好関係を築こうとしていた。

彼がその美学を持ち合わせる事になった1つの要因として、一番に挙げられるのはやはり『ゲーム』の存在があっての事だろう。大手ゲーム会社の社長の息子、ということもあって、幼少期からありとあらゆるゲームに没頭し、普段の日常生活では味わえない恍惚感に浸っていた。常に限界ギリギリのスリルや刺激を求めているのだ。

M大学へと進学した彼が、『何万人かに一人の確率で本物になれる』と噂される『仮面ライダー育成計画』に興味を持つのは当然の事であった。無課金であると同時に自分の思い通りにアバターをいじれるという事もあり、芝浦は早速このソーシャルゲームに手をつけた。幼少期に気に入ったゲームを参考に、サイをモチーフにした仮面ライダー『ガイ』を動かし、ゲーム内に出てくるモンスターを退治していた。ソーシャルゲームとは思えないほどに飽きさせないシステムが功を奏したのか、芝浦はしばらく没頭していた。

そうしてプレイしてから数週間が経ち、遂に都市伝説通りの事が起きた。ゲームの画面に突然現れた、マスコットキャラクターのシロー。彼からスカウトを受けた芝浦は一も二もなく承諾。本物の仮面ライダーとして、力を得たのだ。

人助けに関しては面倒くさいし、つまらないという事もあって手をつけなかったが、モンスター退治の方は積極的に参加していた。彼曰く『そっちの方がゲームとしては楽しい』との事。

数日後、今度は彼の元に2人の同胞が現れた。魔法少女『ルーラ』と仮面ライダー『ベルデ』だった。2人はガイの腕を見込んで自分達のチームに勧誘しに来たのだという。話を聞くうちに、ガイはその2人から面白みを感じ、承諾に応じた。加えてベルデの正体も判明し、それが自分の尊敬する、父親の経営する会社と交友関係の深い大企業の総帥、高見沢 大介だと知った時は、喜び勇んでチームに合流した。

その後もチームに新しく所属する者が増え、遂には10人ほどの派閥へと成長を遂げ、その度に芝浦の心にくすぶる野心は増大していった。そして彼は思う。こんなにも面白いゲームなら、より一層現実的に応用させ、世に広める事だって出来るはずだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの日、自分が独自に開発したゲームの実用性を確かめる時が来た。しかし、間近で見れるギャラリーを自分以外に1人ぐらい増やしたい。そう思った芝浦は、マジカルフォンを通じてある人物を呼び出した。

 

「お、きた来た。こっちこっち」

「ハァッ、ハァッ……! ご、ごめんね、芝浦さん……」

 

現れたのは、地味な服装の小柄な少女。彼女の名は犬吠埼(いぬぼうざき) (たま)。名前からも分かる通り、芝浦のパートナーである魔法少女『たま』の変身者である。出会った当初から気が弱く、強く言われたら逆らう事もない。その姿は常にルーラやベルデらに言われた通りに行動する、正に忠実な犬。そんな彼女を、ガイは個人的に気に入っていた。故に彼女がしようとしている人助けも、嫌々ながらも手伝っていた。

 

「えと、その……。面白いものがあるって、聞いたんですけど、それって……」

「うん。もう直ぐ始まるところ。まぁ、何があるのかは、自分の目で見なよ」

 

そう言って芝浦は笑いながら、黒いフード付コートを投げ渡した。

 

「ひゃっ⁉︎ な、何ですかこれ?」

「それ着といて。一応顔ぐらいは隠しとかないと後で警察とかにバレたら面倒だし」

 

芝浦自身もフード付コートを着用し、珠は彼の後を追うように、港の方へ足を運んだ。

しばらくして、物陰に隠れながら、芝浦と共に珠の目に映ったのは、中で火のついたドラム缶の支柱が円状に設置されている舞台。不気味な雰囲気しか感じられず、何かの儀式のようにも見えた。その舞台の中に、2つの人影が。どちらも芝浦や珠が被っているものと同じ服装をしており、両手には各々異なる武器が握られている。顔は鉄仮面で覆われている為、誰なのかも想像がつかない。一体何が始まるというのか。珠が怯えながら気になっていると、芝浦が腕時計に表示された時刻を確認してから、ニヤッと笑って呟いた。

 

「さぁ、ゲームスタートだ」

 

それが合図となったのか、鉄仮面の者達は同時に動き出し、武器を相手に向かって振り下ろした。

 

「……ぁ!」

 

珠は短い悲鳴をあげた。まるで本気の殺し合いだ。そう思って止めようかとも思ったが、あまりにも殺伐とした雰囲気に、足が竦んで動けなかった。そんな珠を安心させるように、芝浦は優しく彼女の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だって。あれは俺が考案したゲームだからさ。『マトリックス』ってやつなんだけどね」

「げ、ゲーム……⁉︎」

 

より一層、鉄仮面達の動きが激しくなる中、珠は動揺を隠せなかった。

 

「そ。若いくせに人生退屈しきってる奴らに、俺がちょっとした楽しみを与えてやったんだよ」

「そ、それが、これ……?」

「うん。ゲームを作ったんだよ。キャンディー集めの合間に、色々とプログラムを考えてね。もちろんただのゲームじゃない。人間心理を様々な観点から分析して、俺達がよく口にするゲームに応用したんだ。俺のゲームにハマった奴は、より強い刺激を求めるようになる。んで、画面と向き合うだけのゲームじゃ物足りなくなって、本当に戦い始めちゃう。計画通りに動いてくれて、マジ助かったよ。あ、ちなみにこのゲームの元ネタは、今この街で流行ってる、ライダーと魔法少女の生き残り合戦なんだよね」

 

ヘラヘラ笑いながら、経緯を語る芝浦だが、話が進むうちに珠は顔を青ざめる。そうこうしているうちに鉄仮面達の体のいたるところから血が流れ始めている。早く止めさせないと、と思う珠だが、どう説得すれば良いのか分からず、オロオロしていた。そんな彼女を見て、面白おかしそうに笑いながら、鉄仮面達に目をやった。

 

「まぁ、今戦ってるのは、俺が所属してるサークルの先輩達だけど」

「えっ……⁉︎」

「けどまぁ、元々危ない奴らだったんだけどね。放っておいたら俺の方が危なかったし」

「ど、どうして、こんな……」

「楽しいからに決まってんじゃん。このゲームを観てくれてる人達からも絶賛されたし、これで俺の優秀性も実証された訳だし。珠もそう思うだろ?」

「え、わ、私は……」

 

やっぱゲームは面白いわぁ。そう呟く芝浦とは対称的に、返答に迷う珠。悪い事だとは分かっているが、彼女1人で皆を止める自信はない。もっと言えば、自分に優しく接してくれている芝浦に異議を申し立てるなど、考えられない。どうすれば良いのか、と頭を抱えていると、鈍い音と共に鉄仮面達が倒れた。両者同時ノックアウトという形で決着がついたようだ。

 

「あ、あぁ……!」

「あらら。引き分けって……。ホントしょーもない奴ら」

 

芝浦が呆れる中、これ以上は見てられないと思った珠が、倒れている2人に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎ しっかりしてください!」

「別に気にしなくても良いのにさ、そんな奴ら」

 

芝浦もやれやれと思いながら、珠の側に寄る。珠が1人の鉄仮面に近づいて思いっきり体を揺すっていると、体を起こすと同時に鉄仮面が外れて、男の顔が現れた。男は目の前に同じフードを被った人物が2人いる事に驚いて、珠を突き飛ばすと、後ずさりながら立ち上がって逃走した。傷を負っている状態でこれ以上敵と戦いたくないという意思表示だろう。

だがその直後、芝浦と珠の持つマジカルフォンから音が鳴り響くと同時に、近くに停められていたトラックのミラーから触手が伸びて、そこを通りかかった男に絡みついて、男をミラーワールドに音もなく引きずり込んだ。

 

「⁉︎ い、今……!」

「モンスターか」

 

芝浦は珠の肩を叩いて、共に駆け出してトラックの前に立った。芝浦はカードデッキをかざし、珠はマジカルフォンを取り出す。

 

「変身!」

 

芝浦は右腕を曲げて、ガッツポーズするような感じでポーズを決めて、Vバックルに差し込んで仮面ライダー『ガイ』に変身。

 

「へ、変身!」

 

珠はオドオドしながらもマジカルフォンをタップし、光に包まれて魔法少女『たま』に変身した。

そして2人のミラーワールドに突入し、モンスターを追いかけた。が、目の前にモンスターの姿はない。

 

「どこ行った……」

 

ガイが辺りを見渡していたその時だった。

 

「ひゃあ⁉︎」

 

後方からたまの悲鳴が聞こえてきて、ガイは振り返った。見れば、たまの肩に触手がひっついて、投げ飛ばされる姿があった。その触手の持ち主である、イカ型のモンスター『バクラーケン』は再びたまに襲いかかろうとするが、ガイが割り込んで殴りかかった。その後たまも立ち上がり、バクラーケンを背後から抑えようとしたが、振りほどく力も強く、ガイさえも寄せ付けなかった。

 

「ってぇな」

 

ガイが腹部を抑えながらも、再び反撃しようとする。が、それよりも早くバクラーケンは、後ろにいたたまに向かって触手を伸ばし、その華奢な体に巻き付いた。

 

「わっ⁉︎ な、何これ⁉︎」

 

吸着性の強い触手に絡め取られてしまい、身動きが取れなくなるたま。

 

「た、助けてぇ!」

「まぁジッとしてて。今なんとかしてやるからさ」

 

そう言ってガイはカードデッキから1枚のカードを左肩についたメタルバイザーに向かって投げて、ベントインした。

 

『STRIKE VENT』

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

ガイの右腕にメタルホーンが付けられ、バクラーケンに向かって突きを入れた。バクラーケンは地面に倒れるが、たまも連動して倒れ込む。が、その衝撃で触手から解放されたようだ。痛がりながらも立ち上がったたまはガイにお礼を言った。

 

「あ、ありがとう、ガイ……」

「ほら、ボサッとしてないでいくよ」

 

ガイはそう言ってバクラーケンに追い打ちをかけた。バクラーケンは器用にかわしながら、反撃とばかりに突撃してきたが、対するガイは仮面の下で笑いながら、1枚のカードを取り出した。そこにはアバター姿のたまが描かれている。

 

『HOLE VENT』

 

すると、バクラーケンの進行方向に穴が出現し、バクラーケンはとっさに止まれずに穴に落下した。パートナーカード『ホールベント』によって、たまの魔法同様、地面に穴を開けたのだ。

 

「へへっ。さぁて、どうなったかなぁ」

 

ガイが笑いながら穴を覗き込んだその時、ガイの顔に穴から伸びた触手が絡みつき、ガイは慌てて後ろに下がった。その要領でバクラーケンは引っ張られて地上に戻り、そのままガイを拘束した。ガイは振りほどこうとするが、バクラーケンの方が力が強く、どうする事も出来ない。これを見たたまは叫んだ。

 

「め、メタルゲラス! ガイを、助けて!」

 

直後、バクラーケンの横手から契約モンスターのメタルゲラスが突進してきて、バクラーケンを吹き飛ばし、ガイを解放した。そしてガイは素早く新たなカードをベントインした。

 

『FINAL VENT』

 

「……んなろぉ。雑魚のくせに調子乗んなよ」

 

ガイはそう吐き捨てて、メタルゲラスの前に立った。そしてメタルゲラスが駆け出すと同時にガイは跳躍して、メタルゲラスの肩に両足をつけて、メタルホーンを突き出したまま、バクラーケンに向かって猛スピードで体当たりしてきた。ガイの必殺技『ヘビープレッシャー』を回避する間もなく、バクラーケンは直撃と同時にその場で爆散した。

 

「や、やった……!」

 

マジカルフォンにキャンディー獲得の知らせが入り、たまがホッとしていると、ガイが彼女のところに戻ってきた。が、その様子はどこか物足りなさを感じさせる。

 

「……う〜ん。こういうのじゃないんだよね〜。俺が求めてるゲームってのは。さっきみたいにもっとこう、みんなが乗り気になってくれる事にならないと、誰も興味持ってくれないよなぁ」

「……?」

 

ガイの言い方に首を傾げるたま。

すると、たまを差し置いてガイは妙案を思いついたかのように頷くと、たまに言った。

 

「ねぇねぇ。どうせだったらさ。もっとこのゲームを面白くしようよ。上手くいけば人数が減って早く決着つくかもしれないし」

「へっ? えっ?」

「そうと決まれば……」

 

ガイは不敵な笑みを浮かべながら、未だに困惑するたまを引き連れて、とある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てなわけでさ。他の奴ら一緒にぶっ潰そうってのが、俺達の考え。どう? 悪くないっしょ?」

「「……」」

 

ガイとたまがやって来たのは、城南地区のとあるVIPルーム。裏口から誰にも気付かれる事なく入って、そこを拠点とするペアに話を持ちかけたのだ。隣にいるたまは、気を抜けば失神し兼ねないほどに怯えていた。

それもそのはず。目の前でふんぞり返っているのは、城南地区で縄張りを張って、悪名高い事で有名な仮面ライダー『王蛇』と、魔法少女『カラミティ・メアリ』。元リーダーだったルーラでさえ恐れ慄いた2人なのだから、気の弱いたまにとってこれ以上に居心地の悪い事は無いだろう。いくつもの酒やタバコの匂いが混じって、異臭がこれでもかと鼻に付く。

そんな中、王蛇とカラミティ・メアリは不機嫌そうな様子で、急に尋ねてきた訪問者達を観察していた。先日、オーディンとクラムベリーからの依頼でライアを殺そうとしたが、結果的に失敗。人質として捕らえたスノーホワイトばかりか、後から駆け付けた龍騎やトップスピード、そして九尾とラ・ピュセルすら殺せずにいた。加えて後からやって来たナイトとリップルには、レアアイテムとして配布された『サバイブ』によって、全くと言っていいほど手も足も出なかった。以来、2人はナイトやリップル、更には自分達の邪魔を続けてきた龍騎に対してイライラが溜まり続けている。

その最中にやって来たのは、2人に手を貸そうと言ってくるガイ。たまは完全にオマケ扱いだったが、王蛇もカラミティ・メアリも気に留める事すらなかった。

やがてカラミティ・メアリが口を開いたのは、ボトルのウィスキーを飲み干した頃だった。

 

「……1つ聞いていいかい?」

「ん? 良いけど」

「あんたがあたしらと手を組む目的は何だい? まさか手を組むって言っておいてこっちの寝首を取る、なんて事考えてないよね?」

 

そう言って銃口をガイに向けるメアリ。たまは震えが止まらなくなってガイの腕にしがみついたが、本人は至って平気そうだ。

 

「そりゃあもちろん、ゲームを面白くしたいからさ。今のままでも良いけどさ。やっぱ人数が減ってきてからじゃイマイチ盛り上がりに欠けるんだよね。だから、今のうちに面白くしてこうって思っただけ。もちろん俺達は下っ端って事で良いよ。別にあんたらを殺るつもりはないし。ってか逆らったり煩わせたりムカつかせたらアウトでしょ?」

「……ほぅ。その辺は弁えてるみたいだな」

 

少しばかり関心の意を示したメアリ。と、今度はたまに目線を向け、同時に銃口も向ける。

 

「……で、あんたはどうだい? こいつと同じ、ゲームを盛り上げるって算段か、それとも……」

 

カチリ、とロックを外して、引き金に手を置くメアリを見て、たまは涙目になって首を全力で横に振った。返事が聞けたメアリはそれで満足したのか、銃を下ろして口を開いた。

 

「オーケイ。乗ってやるよ、その取り引き。見返りは、とにかく面白くすれば何でもアリ、って事で良いんだな?」

「そうそう。話早くて分かりやすいね。さすが先輩って感じ」

「褒めても酒なんて出すつもりないよ」

 

メアリは笑いながら、新しいボトルに手をつける。ガイはともかく、たまはまだ未成年の為、どの道丁重に断ろうとは思っていた。そもそも、酒なんて飲もうとも思わない。

 

「で。こっちからも確認しとくけど。おたくらが優先的に殺りたいのは、龍騎とリップルって事でOK?」

「……はっ! 誰でも良いが、先ずは俺をイラつかせたそいつらを潰す……!」

「ま、そういう事だ。もしあいつらが尻尾巻いて逃げようってんなら、その時は……」

「任しといてよ。俺が仕掛けといてやるからさ。どれだけチキンでも、逃げられないようにね」

 

どうやら3人の中で、万が一龍騎とリップルを逃した場合の対策が決まっているようだ。会合に参加出来ず、ただジッと事の成り行きを見ているだけのたまは、どうして良いかも分からず、身を縮こませるしか、やる事がなかった。

 

 

 




本編では会う事すらなかったメアリとたまの絡み、いかがでしたでしょうか。(まぁ、ほとんどガイに主導権握られてましたが)

次回は、皆さんが気になっていたであろう、王蛇の正体が明らかに……⁉︎

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