魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

70 / 144
またしても66という不吉な数字が並ぶ回で、この展開になるとは……。これも定められた運命なのか、それとも……。

さて、冗談はほどほどにして、いよいよ物語も転換期を迎える事に……!


66.運命が変わる瞬間(とき)

「早く来い……! 俺をこれ以上イラつかせるなよ……!」

「焦るなよ。ちゃんと果たし状は送ってやったんだ。お仲間のピンチにバカみたいに駆けつけてくるさ。あたしは気に入らないけどな、そういうの」

 

とある廃工場にて、王蛇とカラミティ・メアリは所々破れたソファーに腰を下ろしていた。2人の前方には、カラミティ・メアリが持参していた縄で手足を縛られているスノーホワイトが。

人助けの最中、背後からベノスネーカーに襲われて、体を締め付けられながらミラーワールドへ引きずり込まれ、一旦気を失ったが、再び気がついた時には、すでに手足が縛られた状態で、この場所にいた。そのスノーホワイトは、目の前にいる、自分をさらった張本人達に恐怖しているのか、その小さな体を震わせながら、それでも意を決して2人に言った。

 

「どうして……! どうしてこんな事をするの⁉︎ 同じ魔法少女や仮面ライダーなのに、どうして……!」

「……アァ?」

 

2人の鋭い視線を受けて、スノーホワイトは萎縮した。王蛇は立ち上がって、近くに置かれていたドラム缶を蹴り飛ばした。ドラム缶はスノーホワイトの背後にあった壁に直撃する。

 

「戦いたいんだよ、俺は……! だから、俺をあまりイラつかせるなよ。でなきゃ……」

「まぁまぁ、その辺にしときなよ」

 

と、そこへカラミティ・メアリが王蛇の肩を叩いて下がらせた。代わりにメアリがスノーホワイトに近づき、怯えているスノーホワイトに向かって、拳銃を彼女の額のど真ん中に突きつけた。スノーホワイトは目を見開いた。

 

「あんたとこうして面と向き合うのは、これが初めてだったね。なら、特別サービスだ。お前に良いことを3つ教えといてやるよ」

 

そしてメアリは一旦拳銃を下げてから、顔をスノーホワイトに近づけた。蛇にも似たその鋭い眼光から、スノーホワイトは目を離せなくなった。

 

「カラミティ・メアリに逆らうな。煩わせるな。ムカつかせるな。これだけだ。オーケイ?」

「ヒッ……!」

「ほら、返事は? 黙ったままじゃ話にならないだろ? それともアレか? 1発その身に受けなきゃ分からないタイプか?」

 

そうして再び銃口をスノーホワイトに向ける。このままでは撃たれる。そう思ったスノーホワイトは涙を浮かべながら首を縦に振った。

 

「オーケイ。それで良い」

 

それで本人は満足したのか、笑いながらスノーホワイトから離れる。

カラミティ・メアリといい、王蛇といい、この2人は、異常だ。スノーホワイトはそう思わざるを得なかった。同じ魔法少女でも、一体何があったらここまで違ってしまうのか、スノーホワイトには理解出来なかった。

 

「(誰か、助けて……!)」

 

スノーホワイトが心の中で必死にそう叫んだ。すると、それに応えるかのように足音が近づいてきた。

一同がその方向に目を向けると、そこに現れたのは、ピンク色のエイをモチーフにした人影だった。

 

「へぇ。あんたが一番乗りかい」

「ライアさん……!」

「待たせたな。もう大丈夫だ」

 

ライアはスノーホワイトを安心させるように言った後、王蛇とカラミティ・メアリに目を向けた。

 

「随分と大胆な行動に出たな。誰かに唆されたのか?」

「あんたの質問に答える義理はないよ。……で、あんた1人かい? 他の連中は?」

「今は俺1人だ。後の面々も直に来るさ。……出来ることなら、俺1人で片付けたいところだか」

「誰でも良い……! ライダーが相手なら、悪くない。やろうぜ。さっきからイライラして仕方ないんだよ……!」

 

首を鳴らしながら、戦闘態勢に入る王蛇だが、ライアが待ったをかけた。

 

「その前にスノーホワイトを解放しろ。約束通り来たんだ。これ以上、彼女を巻き込むな」

「そいつは聞けない相談だね。こいつはまだ人質として使える。他の奴らに手伝ってもらえ」

「……そうか。なら、場所を変えるぞ。ミラーワールドで戦おう。戦えるなら、どこでも良いだろ?」

「……アァ。俺は構わないぜ」

 

王蛇も同意し、後方にある窓ガラスに親指を向けた。そしてライア、王蛇、カラミティ・メアリは窓ガラスに近づこうとする。と、そこへスノーホワイトの叫び声が。

 

「ライアさん! ダメです! このままじゃあなたは……!」

「大丈夫だ。運命は、変えられる(……本当に、変えられるのか。俺に、誰かの運命を変える事なんて)」

「!」

 

その時、スノーホワイトはハッキリとライアの心の声を聞いた。それは、今までの彼の占いに対する絶対的な自信とは裏腹に不安が勝るような言い方。スノーホワイトが再び声をかけようとした時には、すでに3人はミラーワールドに突入していた。残されたスノーホワイトはただ1人、どうする事も出来ない虚無感に、打ちのめされていた。

どうにかして、自分もライアの役に立ちたい。そう思っていると、新たな足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ミラーワールドでは現実世界と同様に、夕日が沈み、段々と辺りが暗くなり始めていた。

 

『SWORD VENT』

『SWING VENT』

 

王蛇はベノサーベルを、ライアはエビルウィップを召喚し、カラミティ・メアリは『スカーH』と呼ばれる武器を四次元袋から取り出して、引き金に手をかける。

2対1というハンデをかけられている中、劣勢に置かれているはずのライアは、考え事をしていた。

 

「(俺はあの日、雄一の運命を変えられなかった後悔から、ライダーとして生きる道を選んだ。この力があれば、運命を変えられると思っていた。……けど、本当にそうなのか? 俺には、運命を見通す力はあっても、変える力はないのだとしたら、俺は、何の為に……)」

「ハァァァァァ!」

「!」

 

だが、戦場で余所事を考えていればどうなるのか、目に見えていた。王蛇の奇襲に対応出来るはずもなく、ライアは押し倒された。そこへ更にスカーHの銃弾の雨が降り注ぎ、ライアは転がりながら回避する。

 

「くっ……!」

「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたんだい! そんなんじゃ5分もかからずに終わっちまうよ!」

 

カラミティ・メアリは久しぶりに銃をぶっ放せる機会が出来てご満悦なのか、その口元は笑っていた。

そして立ち上がったライアに対し、王蛇の猛攻が容赦なく彼を襲い、全身に痛みが走った。エビルバイザーを盾にしても、王蛇の方がパワーが高いのか、全く止める事が出来ていない。そればかりか、王蛇の戦闘本能に余計な拍車をかけてしまっているようだ。

この時、ライアの中で一つの迷いが生じていた。それは、彼の唯一無二の親友だった斎藤 雄一に課せられた死の運命。手塚自身はそれを見抜いていたし、雄一も親友がそれについて苦悩している事も知っていたに違いない。このままでは、彼は思い悩み続ける。ならばいっその事、その枷を解いてやろう。そう思った雄一は自ら命を絶つ道を選んだ。

そう、手塚は思っていた。

 

『もっと、違う道があったんじゃないかって、そう思って……』

 

だが、先日パートナーのラ・ピュセルの変身者、岸辺 颯太にそう言われて以降、心の隅で引っかかる所があった。

手塚は、雄一が自分で決めて死を選んだと思っていたが、もし、そうでは無かったとしたら……? 本当は、助けを求めていたのに、手塚自身がそれも運命だと勝手に決め付けて、見捨ててしまっていたとしたら……?

 

「(雄一……。お前は、俺を恨んでいるのか? 手を差し伸べてくれなかった事に。運命を変えられなかった事に。……なぁ、教えてくれ、雄一)」

 

ライアは心の中で雄一に問いかける。だが、返事は返ってこない。代わりに返ってきたのは、ベノサーベルとスカーHによる一撃だった。銃弾が足首を掠め取り、ベノサーベルが肩に直撃して、ライアはうずくまった。

 

「手応えが無さすぎる」

「あいつらも随分と退屈な相手を選んできたな。まぁ、ストレス発散には丁度良いか」

 

2人は肩を竦めながら、ライアにトドメを刺そうとする。と、その時、近くのため池からライアの契約モンスターであるエビルダイバーが、契約者の意思とは無関係に、2人に突進してきた。

 

「おぉっと……!」

「チッ……!」

「! お前……」

 

王蛇とカラミティ・メアリはそれを避け、ライアは突然現れたエビルダイバーに目を向けた。エビルダイバーはライアの周りを旋回し続け、戦いに集中しろ、と叱咤するようにライアを睨みつけた。ライアが戸惑っている間、エビルダイバーは再び王蛇とカラミティ・メアリに攻撃を仕掛けた。それを避けながら、王蛇は仮面の下でニヤリと笑った。

 

「よっぽど俺と遊びたいみたいだなァ……。良いぜ、使ってやるよ」

 

そう言って王蛇がカードデッキから取り出したのは、無色のカードだった。そこには、『CONTRACT』と書かれている。

 

「! レアアイテムのカード……!」

 

王蛇はそれを突撃してくるエビルダイバーに向かってかざした。するとカードとエビルダイバーは光り始めて、やがてカードが無色からピンク色の柄へと変貌したのを、ライアは見逃さなかった。

 

「……なるほど、こういう事か。面白い」

 

王蛇はエビルダイバーの攻撃を回避した後、カードに目をやってから再びデッキに戻した。そして再度攻撃を仕掛けるエビルダイバーだが、カラミティ・メアリが新たに取り出した鞭で絡め取られて、地面に叩きつけられた。

 

「ハンッ。契約モンスターと言っても、動きが読めれば大したもんじゃないね」

 

カラミティ・メアリがニヤつく中、王蛇は首を鳴らしてその場から動けないライアに向かって歩み寄る。ここまでダメージが蓄積されている影響からか、ライアは一歩も動けない。

そしてベノサーベルが振り下ろされる瞬間、何者かが割って入って、ベノサーベルを受け止めた。ドラグセイバーを構えた龍騎だった。

 

「ライア、しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」

「龍騎……!」

「俺達もいるぜ!」

 

その横手から、ラピッドスワローを片手に持つトップスピードが登場し、その傍らにはスノーホワイトがいた。どうやら2人が駆けつけた事で解放されたようだ。

 

「ライアさん! ごめんなさい、私が捕まっちゃったから……!」

「お前のせいじゃない。それよりも、今は……」

「ようやくお仲間のご到着かい。おまけに龍騎が来てくれるとはねぇ」

「お前らの方がまだ面白い」

「ふざけんな! 今度は俺が相手だ!」

 

龍騎は怒りの矛先を2人に向けて、ドラグセイバーを片手に駆け出し、王蛇と激突した。

 

「龍騎、ダメだ……! このままでは……!」

 

ライアが必死に何かを訴えかけていたが、カラミティ・メアリが銃口を龍騎に向け始めたのを見て、トップスピードがラピッドスワローを放り捨てて、慌ててそれを取り押さえた。

 

「止めてくれ姐さん! いくら姐さんでも、こればっかりは見過ごせねぇよ! そもそも、こんな事して何の得になるんだよ!」

「ここぞとばかりに正義感をふっかけてくるねぇ。前から思ってんだけどさぁ。あんたのそういう所、ハナっから気にいらねぇんだよ!」

 

腕にしがみついていたトップスピードを振り払って、スカーHを向けて、銃弾を放つメアリ。トップスピードは悲鳴をあげながら逃げ惑い、走りながらマジカルフォンをタップして、ドラグシールドを構え、銃撃を防いだ。

 

「要は、生き残れば良いんだろ? なら、何でもやるに決まってる。それが魔法少女でもあって、仮面ライダーでもあって、人間の本性みたいなもんだろ?」

「そんな……!」

 

ライアに付き添っていたスノーホワイトが絶句する中、龍騎と王蛇の戦いの方も激しさを増した。

 

「オォ、良い感じだ……! 前にお前と戦ってから、お前を倒す事が生き甲斐になった……!」

「お前……! どこまで狂ってやがるんだ! 関係ないスノーホワイトまで巻き込んで……!」

 

龍騎が王蛇の腹に蹴りを入れ、怯ませる。が、王蛇はその直後にカードデッキから1枚のカードを引き抜いていた。それに気づくことなく龍騎が走り出すと同時に、王蛇はベノバイザーにそのカードをベントインしていた。

 

『ADVENT』

 

その電子音と共に現れたのはベノスネーカー……ではなく、エビルダイバーだった。

 

「ガッ……⁉︎」

 

横手からの不意の一撃に対処出来ず、龍騎は体当たりを受けて、横に転がった。そして追撃とばかりに、王蛇に腹を踏まれる龍騎は、そこで体当たりしてきたモンスターに目を向けた。そこにいたのは、自分が知っているエビルダイバーとは色が違うものだった。本来ならピンク色のはずが、黒色に染められている。

 

「! どうして、ライアの契約モンスターが……!」

「さっき、王蛇はコントラクトのカードで、エビルダイバーの姿をコピーしたんだ……!」

 

一部始終を見ていたライアはスノーホワイトに支えられながら、龍騎にそう告げた。

 

「そんな……! それじゃあこいつは今、ライアの力の一部も……!」

「そういう事だ。さぁ、もっと楽しもうぜ」

 

王蛇は笑いながら龍騎を蹴飛ばした。そこから先は、龍騎の劣勢だった。立ち上がっても殴られ続け、次第に気力が失われつつあった。

 

「龍騎さん!」

「龍騎……!」

「ほらほら、よそ見してる暇あるかなぁ!」

「うわっ!」

 

トップスピードも援護しようとするが、カラミティ・メアリの猛攻に阻まれて、そこから動く事が出来ない。

 

「どうしよう……! このままじゃ……!」

「(雄一……。こういう時、お前だったら、どうしていた……。教えてくれ、雄一……。雄一……!)」

 

今は亡き親友に問いかけるライア。当然答えが返ってくる事はない。そうこうしている内に、龍騎は地面に倒れこんだ。

 

「クッソォ……! 王蛇……!」

 

龍騎が拳を固めながら立ち上がろうとしている姿が滑稽に見えたのか、王蛇は鼻で笑いながら、カードデッキから2枚のカードを取り出し、そこでベントインする事なく、わざと見せつけるような形で、裏側を突き出した。

 

「2枚あるぜぇ。どっちが好みだ?」

 

王蛇にしか絵柄は分からないが、今現在王蛇が手にしているのは、一枚は蛇の紋章が、もう一枚はエイの紋章が描かれたカード。どちらも、『FINAL VENT』と表記されている。

他の面々はそれを知る由も無かったが、スノーホワイトは直感的にそのカードを使わせたら危険だと感じたのか、ライアから離れて駆け出して、王蛇の腕にしがみついた。

 

「! スノーホワイト……!」

「止めて! もうこれ以上、龍騎さんに酷い事しないで!」

「お前に聞いてない。イライラするから、邪魔するなぁ……!」

 

王蛇はひざ蹴りでスノーホワイトを怯ませ、その胸元に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

「きゃあァァァァ!」

「スノーホワイト! お前、ふざけんなぁ……!」

 

スノーホワイトが蹴り飛ばされた事に怒りを感じた龍騎は、体に力を込めた。王蛇は地面にうずくまるスノーホワイトから目を離して、龍騎に再度質問した。

 

「さぁ、答えろよ。どっちが良い?」

「そんなの知るか! お前なんかにやられて、たまるかよ……!」

「……そうか。なら、消えろ!」

 

そう言って、王蛇が2枚ある内の1枚をベノバイザーにベントインした。そこに描かれていたのは、蛇の紋章。選んだのは、自身の必殺技。

 

『FINAL VENT』

 

「ハァァァァァァァ……!」

「! 嘘だろ……⁉︎ 逃げろ、龍騎!」

「くっ……!」

 

トップスピードが叫ぶが、今の龍騎に逃げるだけの余裕は無かった。

 

「!」

 

その瞬間だった。

ライアは龍騎に向かって無意識に駆け出した。何が彼をそうさせたのかは、自分自身よく分かっていない。もしかしたら、先ほど危険を顧みず龍騎を助けようとしたスノーホワイトの行動に触発されたからかもしれない。だが、触発にしろ、自分の無意識な選択にしろ、全ては、運命を変える為の行為だったと、ライアは信じたかった。

 

「(雄一……。今なら分かる。お前は、後悔なんてしていなかった。だからあの時、お前はあの選択をした。それは、生き永らえようとして他人に迷惑をかける自分が嫌だったわけじゃない。『運命』に固執し続け、定められたレールしか見ていなかった俺の運命を、変えようとしていたんだ)」

 

それに気づいた時には、多くの魔法少女や仮面ライダーは死に絶えた。何もかも遅すぎたかもしれない。もっと早く気付いていれば、救えた命もあったかもしれない。誰かの涙を流させる事も無かったかもしれない。運命を、変えられたかもしれない。

 

「(許せ、雄一。俺はお前の思いに気付いてやれなかった。だが、この運命だけは、変えてみせる。これが、俺の意思だ)」

 

王蛇は後方から現れたベノスネーカーの口元に向かって回転しながら飛び上がり、両足を龍騎に定めた。そして放たれた毒液に乗り、王蛇は『ベノクラッシュ』を発動した。

 

「ハァァァァァァァ!」

「! や、やめてぇ!」

「龍騎ぃ!」

「……ッ!」

 

スノーホワイトとトップスピードの叫び声がミラーワールド内に響き渡り、龍騎が身構える。その直後、ライアが龍騎を突き飛ばした。突然の事で驚きに満ちた様子の龍騎に目を向けた後、ライアは顔だけを、迫り来るベノクラッシュに向けていた。眼前に迫る死の一撃。だが、ライアには恐怖心は芽生えなかった。彼は、後悔する道を選ばなかったからだ。

 

「(これで、良いんだ。これで、龍騎は助かり、俺は死ぬ。後悔はしない。俺が、俺自身の手で、運命を変えられた。それだけで、十分だ)」

 

ライアは、手塚は、仮面の下で静かに微笑み、そして満足げに呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の占いが、やっと、外れる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そう。

 

運命は、確かに変わった。それは、紛れもない事実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」」

 

ただし。

 

運命を変えたのは、運命を見通せる力を持つ者では無く、運命など見えるはずもない、2人の少年だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

「ハァッ!」

 

自身の身長より少し大きい大剣を地面に突き刺した、魔法騎士『ラ・ピュセル』は、隣で支えてくれている仮面ライダー『九尾』と共に、腕の力だけで大剣を握って踏ん張った。

龍騎を突き飛ばしたライア。そのさらに前方で、ライアに直撃するはずだったベノクラッシュを、九尾とラ・ピュセルが構えた大剣でガードしたのだ。

 

『!』

 

その場にいた、九尾とラ・ピュセル以外の面々は、驚きを隠せない。だが、王蛇はイライラが最高潮に達したのか、さらに連続で蹴りを叩き込んだ。すると、ベノスネーカーの吐いた毒液で大剣が溶け始め、さらに衝撃でヒビが入ってきた。そして何度か蹴りが叩き込まれるうちに、遂に限界が来たのか、大剣は根元から大破し、その衝撃で大剣を支えていた九尾とラ・ピュセルは後方に吹き飛ばされた。

 

「「ウァァァァァァァァァ!」」

「グッ……!」

 

当然後ろにいたライアも巻き添えをくらい、3人は地面に叩きつけられた。が、呻き声こそ聞こえてくるものの、3人ともまだ息はある。ベノクラッシュの直撃が避けられた事で、致命傷を受ける事なく、運命は変わったのだ。

 

「グッ、ウゥ……!」

「ハァッ、ハァッ……!」

「! 九尾! ラ・ピュセル! ライア!」

「……アァ? どういうつもりだ」

 

一方でトドメを刺しきれなかった王蛇はイライラしているのか、低い声で呟く。一方でカラミティ・メアリは、地面にへばりついているラ・ピュセルの後ろ姿を見て、鼻で笑った。

 

「……ハッ! 死に損ないの魔法少女が、随分と張り切ってるみたいだけど、そんな事して何の得があるんだい? さっさとライアを見殺しにしてれば、その週であんたの脱落は無し。16人の枠に残れたはずだろ?」

「姐さん……!」

 

トップスピードが言及する前に、ラ・ピュセルの言葉がそれを遮った。

 

「……死なせ、ない!」

「あっ?」

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

カラミティ・メアリが呆けた声で呟く中、ラ・ピュセルはヨロヨロと立ち上がった。震えてはいるが、確かに自力で立ち上がっている。

 

「! そうちゃん、足が……!」

 

魔法少女になって身体能力が向上した事で、魔法少女姿なら頑張って立ち上がれるほどにまで回復していたようだ。そして彼女は、折れた大剣の柄を持って、全身を震わせながら、目の前に掲げた。

 

「もう、仲間を、死なせない! この剣に、誓う……! 魔法騎士ラ・ピュセルは! 自らの手で、悪夢(いま)を変えると! 仲間と共に、運命に立ち向かうと!」

「あぁ、そうだ……! 俺達は、決して恐れない……! 終わりなき戦いになったとしても……!」

 

九尾も立ち上がり、王蛇とカラミティ・メアリに向かって叫ぶ。

必ず、立ち上がってみせる、逆境(いつ)でも。

それは、揺るぎなき気高さを、心に抱く事のできた2人だからこそ口に出た言葉。命が、希望が果てる事はないと、そう夢見ているのだ。

 

「九尾、ラ・ピュセル……。……そうか」

「……くっだらないねぇ。理屈はどうあれ、あんたらもあたしらに逆らうって訳かい。ムカつかせるねぇ」

「どいつもこいつも、俺をイライラさせる奴らばかりだなぁ……! お前ら全員、潰してやるよぉ……!」

 

王蛇とカラミティ・メアリが再び戦闘態勢に入り、九尾達が身構えていると、上空からダークウィングの鳴き声と共に、ダークウィングを従えているナイトが王蛇へ体当たりを仕掛けた。王蛇は吹き飛び、カラミティ・メアリが訝しんでいると、別方向から手裏剣が迫ってきたので、それらを全て撃ち落とした。そしてメアリの前に姿を現したのは、ナイトのパートナーであり、メアリの因縁の相手でもあるリップルだった。

 

「リップル……!」

「随分と派手に暴れたな」

 

両者が睨み合う中、着地したナイトは、後方にいる九尾達の姿を確認してから叫んだ。

 

「お前達は逃げろ! 後は俺達でやる!」

「ナイト……! 分かった!」

 

本当なら加勢したい気持ちもあったが、龍騎自身体力に限界を感じている為、素直にナイトの言う通りにした。その間にスノーホワイト、トップスピードも龍騎と共に九尾、ラ・ピュセル、ライアのもとに駆け寄る。九尾とラ・ピュセルも極度の緊張から解放されたからか、地面に座り込む。

 

「だいちゃん! 怪我はない⁉︎」

「……あぁ、問題ない」

「大丈夫か⁉︎ どこか痛むところは……」

「今のところ、足以外は」

「ライア、俺に掴まれ! すぐにここから出るぞ!」

「あぁ。悪いが頼む」

 

そして龍騎はライアを、スノーホワイトは九尾を、トップスピードはラ・ピュセルに肩を貸して支えながら、入ってきた鏡に向かって歩き出す。ミラーワールドから出る前に、トップスピードは今一度後ろを向いて、ナイトとリップルに向かって叫んだ。

 

「お前らもキリのいいところで早く戻れよ! 待ってるからな!」

 

2人は首を振る事も、声に出す事も無かったが、理解しているだろうと思ったトップスピードは、そのまま皆を引き連れてミラーワールドを後にした。

 

「丁度良いや。あんたとはそろそろケリつけときたかったし、この争いに準じて、殺り合うかい?」

「今のお前に、私は殺せない」

「アァ?」

 

リップルの言い方に訝しむカラミティ・メアリ。ナイトとリップルは目を合わせて頷くと、ナイトは王蛇を、リップルはカラミティ・メアリを睨みつけた。しばらく沈黙が流れた後、ナイトは1枚のカードを、リップルはマジカルフォンを取り出して、タップした。

すると、2人を中心に、風が吹き荒れた。

 

「(風……?)」

 

ミラーワールド内では基本的に無風のはずだが、これも2人が引き起こしたものなのか?

初めて、目の前の敵に警戒心を強めたカラミティ・メアリは、スカーHに強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、無事にミラーワールドから脱出し終えた6人は、廃工場から少し離れた場所で腰を下ろして、息を整えていた。

 

「ハァッ、ハァッ……!」

「な、何とか逃げ切れたな……」

「そうちゃん、大丈夫……?」

「あ、あぁ。ちょっと足が痛むけど、これくらいなら平気だ。スノーホワイトこそ、無事で良かった」

「ゴメンね、みんな。私が捕まっちゃったから、みんな酷い目に……」

「気にしなくて良いって。悪いのはあいつらなんだからさ!」

 

涙を浮かべながら謝るスノーホワイトに対し、龍騎は慰める。

 

「そうだぜ! それにライアの占い通りにならなくて済んだんだし、万々歳じゃねぇか! そうだろ、ライア!」

「……あぁ。そうだな」

 

ライアが頷くと、九尾が口を開いた。

 

「……ライア。あんたは、自分じゃなくて龍騎の運命を変えようとした。でも、その自信が無かった。だから俺達に嘘をついてたんだな」

「……颯太から全部聞いたのか。確かに、颯太の為とはいえ、迂闊だったな。まぁ、結果オーライだったかもしれない」

 

ライアが苦笑混じりに呟くが、スノーホワイト、トップスピード、そして名前を出された龍騎には何の事かサッパリだった。

 

「えっ? どういう事?」

「龍騎の運命をって……。だって次に死ぬのは、ライアだったんじゃ……」

 

トップスピードの疑問に対し、ライアは小さく首を横に振って、そして告げた。

 

「違う。次に消えるはずだったのは……。……本当は、お前だったんだ。龍騎」

「「「⁉︎」」」

 

それを聞いた3人は愕然とした。龍騎本人は思わず自分の手を見つめ、パートナーのトップスピードに至っては思わず彼の右手を掴んでしまうほどだった。

 

「ほ、ホントかよ……」

「あぁ。俺自身、あの時はそんな未来を受け入れたく無かった。そして変えたいと思った。だから俺はあえて占いの結果と違う事を、颯太以外に伝えた。……まさにライアーという言葉が相応しい」

 

自嘲気味に全てを語るライア。他の面々は何も言い返せなかった。

 

「だが、こうして運命は変えられた。……もっとも、九尾とラ・ピュセルによって変えられるとは夢にも思わなかったがな」

「途中で気付けて良かったよ。でも、僕達の介入がなければ、君はあの時死んでいたはずだ。僕達の為を思って嘘をつくのは良いけど、自分の事も大事にしてほしい。僕も、これからはそう肝に銘じておくから」

「あぁ、そうだな。こうして運命が変えられると証明された今なら、その事もよく分かる」

 

ライアが一息つくと、6人の所へナイトとリップルが現れた。どうやら無事に帰還出来たようだ。

 

「あっ! ナイト、リップル!」

「どうやら全員無事らしいな」

 

皆は2人の安否を確認出来たところでホッとし、それからすぐに九尾が尋ねた。

 

「……王蛇とカラミティ・メアリは?」

「途中でモンスターが乱入してきて、逃げられた」

 

どうやら勝負はドローとなったようだ。ともあれ、誰1人として欠ける事なく生還出来た事に、龍騎やトップスピードを始め、スノーホワイト達も喜んでいた。ナイトとリップルは表情に出さなかったが、舌打ちはしなかった。

その後、ラ・ピュセルを大病院に送り返し、一旦各々の家に戻る事に。そんな中、自宅で変身を解いた手塚は、ちらほらと見え始めた星空に目を向けた。

 

「……見てるか、雄一。俺もようやく、運命を変えられるという確信を得たぞ」

 

そして彼は、ポケットからコインを取り出し、夜空にかざしながら、今一度この言葉を呟く。

 

「俺の占いが、やっと、外れたな」

 

 

 




……はい。というわけで見事にライアの運命は変わりました! 龍騎とまほいくをクロスする上で、とにかく第一にやりたかった事が出来て、正直ホッとしてます。ちょっとベターな展開だったかもしれませんが、私的に満足してます。

なお、今回チラッと出たナイトとリップルのサバイブ姿は、次回その詳細が明かされますので、次回からもお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。