魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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魔法少女育成計画の二期アニメ化、やってくれないかなぁ〜……。


60.龍騎、迷う

「何よ、人が折角良い気分でゴロちゃんの美味い料理口にしてたのに」

「ほんとですね。早くしないと冷めちゃいますから」

「や、それはゴメンな」

「で、ご用件は?」

 

翌日、N市の一角に構える『北岡法律事務所』に来客が現れた。秘書の吾郎が作ったカレーを食べている最中、インターホンを鳴らして顔を覗かせてきたのは、正史だった。話があるという事だったので、食事を中断して北岡は真琴と共に外へ出た。おそらく仮面ライダーや魔法少女絡みだろうと考え、吾郎に気づかれないように、外で話す事にしたのだ。

 

「実はさ……。俺、戦おうって決めたんだ」

「はぁ?」

「それはどういう……」

「何とぼけてんのさ。いつもの事だろ?」

 

そう言って正史は乾いた笑みを浮かべながら、カードデッキを取り出した。が、彼がライダーや魔法少女同士の戦いに断固反対している事を知っていた2人にとって、疑い深いものだった。

 

「お前本気か? いつ宗旨替えしたのさ?」

「まぁ、昨日かな。生き残りたかったら、やっぱ戦わなきゃって思って。止めようとした俺がバカだったんだよなぁ。そりゃあナイトやリップルから嫌な顔されるわけだよなぁ」

「「……」」

 

依然として笑っている正史を見て、2人の表情は次第に冷め始めた。そして鏡のある方へ連れて行こうとした正史を振りほどいて、こう言った。

 

「俺だって無様に死にたくないし、戦いを否定するつもりはちゃんちゃら無いけどさ。悪いけど遠慮しとくよ」

「な、何でだよ」

「1つは今ちょっとそういう気分になれないってのがあってね。こっちはゴロちゃんの料理が楽しみなの。後は……」

 

そこで一旦言葉を詰まらせて、正史の顔を改めて見てから、見抜いたような顔で呟いた。

 

「こないだのファムの事が関係してるんだろうけどさ。見てられないんだよ、お前のそういう態度。そういうのウザったいっていうか……。そう思うだろ、真琴?」

「まぁ、私としてはあなたがどう決意なさろうと構いませんが、私達にそういう価値観は押し付けないでくださいな。私、やりたくないと決めた事は一切やらない主義なので」

「そういう事。そんなに戦いたかったら、他当たれよ」

「……チェッ。分かったよ……」

 

正史は不貞腐れながら、その場を後にしようと、背を向けた。そんな正史に対し、北岡は最後に一声かけた。

 

「あ、そうそう。1つ言い忘れてたけどさ。俺も真琴も自分が一番可愛いと思ってる。他人の為の犠牲とか、全然美しくないからな」

「……」

 

正史は一旦立ち止まったが、すぐまた歩き出す。やがて2人も背を向けて、事務所に向かって歩き始める。

 

「……彼、随分と落ち込んでましたね」

「ま、惚れた女が突然死ぬのは心苦しいし、そこは俺も同情するけどさ。無関係な俺達まで巻き込まないでほしいね」

「同感です」

「さてと、ゴロちゃんには悪いけど、またカレーを温め直してもらおっか」

「そうですね」

「(っと、その前に……)」

 

不意に北岡は立ち止まり、マジカルフォンを取り出して、メッセージを打ち込んだ。ここで貸しを作っておいても良いかもな、という遊び心で、彼はある人物達にメッセージを送信した。

 

『おたくらの仲間、ちょっとヤバいかもよ。あれ相当参ってる。死なせたくなかったら、助けてやれ。 ゾルダ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、霧島さんの事、好きだったのかな……」

「……さぁな」

 

数時間後、商店街付近で正史を探す大地と小雪の姿が。つい先ほど、ゾルダから謎のメッセージを受け取り、2人はもちろんの事、手の空いているメンバーで正史を捜索していた。

 

「……何で、こんな事になっちゃったのかな。美華さん、何も悪い事してないのに、突然死んじゃうなんて……! いつまでこんな気持ちにならなきゃいけないの……?」

「小雪……」

 

再び目尻に涙を浮かべる小雪を見て、大地はその肩に触れようかと思ったが、途中で思いとどまってしまう。すると今度は2人のマジカルフォンにライアこと手塚からの連絡が入った。正史が見つかったという事で、すぐに来てほしいという内容だった。

2人が急いで駆けつけると、どこかへ行こうとしている正史を、蓮二と手塚が必死に取り押さえている光景が目に入った。

 

「離せよ!」

「止めておけ、お前には無理だと、あれだけ言っただろ!」

「考え直せ、城戸!」

 

一体何がどうなっているのか。気になった2人は、近くで成り行きを眺めていた華乃に尋ねた。

 

「あれ、どうなってるんですか」

「ゾルダとマジカロイドのペアと戦おうとしてたけど、向こうは拒否したらしい。それで、カラミティ・メアリと王蛇のペアが縄張りを張っている城南地区に行こうとしたところを、蓮二さん達が見つけてこうなってる」

 

簡潔に説明した華乃の言葉を聞いて、居ても立っても居られず、小雪は正史に駆け寄って腕を掴んだ。

 

「だ、ダメです城戸さん! 戦っちゃダメですよ!」

「は、離せよ! 俺は、戦いたいんだ!」

「……バカが」

 

強行手段として、正史の胸倉を掴んだ蓮二。それが功を奏したのか、正史は力が抜けたように、ズルズルと地面に座り込んだ。

 

「……何でだよ。俺は、もう……」

「城戸、さん……」

「城戸。お前の気持ちが分からない俺達じゃない。だが、もう諦めろ。どう足掻いても、ファムは俺達の前に戻ってこない。……このままいけば、間違いなくお前が破滅してしまう! そんな事は俺が」

「もうどうでも良いだろそんな占い! 俺だって、もう美華が帰ってこない事ぐらい分かってる! ……分かってるから、変わらなきゃって思ってるのに!」

 

正史の足元に水滴が落ちて、地面に染み込んだ。何度も滴り落ちる姿を見て、小雪や大地も辛い気分に陥る。

手塚が再び何かを言いかけたその瞬間、マジカルフォンから音が鳴り響いた。

 

『!』

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

モンスターが現れたという通達を受けて、一同は現場へと急行した。やってきたのは、数多くのコンテナが立ち並ぶ港の一角。そこへ到着すると、男性の叫び声が聞こえてきた。

 

「た、助けてくれぇ! ウワァァァ!」

 

みれば、作業服を着た男性が、体の前部に強固な盾をつけた、イノシシ型のモンスター『シールドボーダー』に襲われている。すぐさま蓮二と手塚が飛び蹴りでシールドボーダーを蹴り飛ばした。シールドボーダーはそのまま近くにあった車のボンネットから、ミラーワールドに逃げ帰った。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

「早く逃げてください!」

 

正史と小雪が作業員に声をかけて、逃げるように示唆した後、大地、華乃を先頭に、正史、小雪、蓮二、手塚も後を追うように車に向かった。そして後部の窓に立ってカードデッキを取り出してかざしたり、マジカルフォンを片手に持ち、同時に叫んだ。

 

「「「「「「変身!」」」」」」

 

6人は変身した後、ミラーワールドへ突入し、シールドボーダーを倒しに向かった。

 

「「ハァッ!」」

 

先ず先手で龍騎とスノーホワイトが飛びかかってシールドボーダーの動きを封じようとするが、向こうも必死に振りほどこうとしており、なかなか動きが止まらない。

 

『SWING VENT』

 

ライアはエビルウィップで中距離攻撃を繰り出し、シールドボーダーに地道にダメージを与えていき、よろめいたところで、ナイトが蹴りを入れる。

リップルが手裏剣を手にとって投げつけるが、シールドボーダーが体から取り外した盾が、それらを難なく弾いた。

 

「思ってたより硬い……」

「ならこれで……」

 

『HIT VENT』

 

「リップル、クナイを!」

 

リップルは言われた通りにクナイをナイトに渡して、前方に投げつけた。ただし、投げた方向は、シールドボーダーのはるか後方。すると、クナイはブーメランのように弧を描いて、シールドボーダーの背中に直撃し、シールドボーダーは唸り声をあげた。リップルの魔法には、百発百中という追尾機能がある為、無防備な背中にダメージを与える事が可能なのだ。

 

「……なら」

 

リップルはマジカルフォンをタップして、ウィングランサーを構えると、飛び上がってシールドボーダーの背後を取ってからウィングランサーで斬り裂いた。

 

『SWORD VENT』

 

「ふっ! ハァッ!」

 

九尾はフォクセイバーで、乱舞の如く華麗に動き回り、シールドボーダーを翻弄した。

 

『『FINAL VENT』』

 

そして龍騎と九尾は並び立つと、互いに必殺技の体勢に入った。

 

「ハァァァァァァァ!ダァァァァァァァッ!」

「ウォォォォォォォ!」

 

飛び上がって投げつける右足を突き出すと、ドラゴンライダーキックとブレイズキックがシールドボーダーに直撃。いかに防御力の高いシールドボーダーといえど、パワーに優れた2人の一撃は、盾をもってしても防ぎきれず、盾は破壊され、吹き飛ばされて爆散した。

マジカルフォンにキャンディー獲得の知らせが入るが、6人の耳には一切入ってこない。それ以上に、緊迫した局面になろうとしていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確か、この辺だったよな……」

 

遅れて港に駆けつけたのは、ラピッドスワローから降りて地面に着地したトップスピードだった。現場に到着した頃には、すでに反応は消えており、誰かが倒したのだろうと思いつつも、気になって様子を見に来たのだ。そして、近くの車の窓ガラスに目をやると、トップスピードは目の前の光景を疑った。見間違いでなければ、パートナーの龍騎が九尾、スノーホワイト、ナイト、リップル、ライアと激しい合戦を繰り広げているのだ。

 

「な、何やってんだあいつら……! どうして龍騎が……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ! ダァッ!」

「フンッ! ウォォォォォォォ!」

「や、止めて!」

「よせ龍騎! 何のつもりだ!」

 

ドラグセイバーを構えた龍騎が、ダークバイザーを構えるナイトや短剣を握るリップルと戦う状況を、スノーホワイトは青ざめた表情で、どうする事も出来ずオロオロしており、ライアと九尾が必死に止めに入る。だが、3人の争いはより激しさを増す一方だった。

 

「こ、のぉ……!」

 

九尾は拳を振るって直接止めようとするが、龍騎は一向に手を緩めない。そればかりか、九尾に反撃して、コンテナに体をぶつけた。

 

「もう、やめてぇ!」

 

スノーホワイトの悲痛な叫び声がミラーワールドにこだまするが、誰1人動きを止めない。リップルは舌打ちしながら短剣を突きつけるが、ドラグセイバーに弾かれ、その腹に蹴りが入って、リップルは後ずさった。

 

「(やはり本気で来たか……!)」

 

ナイトは新たにカードをベントインしようとするが、ライアがその腕を掴んで、止めに入った。

 

「やめるんだナイト! こんな戦いに何の意味がある!」

「邪魔するな! これは奴が決めた事だ! 俺も俺のやり方で奴を倒す!」

「そうじゃない! このままでは、あいつは本当に壊れる! そうなっては……!」

「だからどうした!」

 

ナイトはライアを振りほどき、ライアは仕方なしに、今度は龍騎を止めに入った。

 

「龍騎! お前はこんな所で終わるやつじゃなかったはずだ! 目を覚ませ!」

「うるさい! 俺はもう、もう……! ウァァァァァァァァァァァァァ!」

 

龍騎は何かが吹っ切れたように、ドラグセイバーを振るう。その剣先が、ライアの右手を掠め取り、血が流れ出た。

 

「グァァ……!」

 

ライアは地面を転がり、傷を押さえ込むように右手を空いた左手で握った。

 

『STRIKE VENT』

『BLAZE VENT』

 

「「ハァァァァァァァッ!」」

 

龍騎は右腕にドラグクローがつけられ、九尾の両手に火炎弾が形成され、互いに同タイミングで、ドラグクローファイヤーとブレイズボンバーが炸裂。どちらもぶつかった瞬間に爆ぜて、その場にいた全員が吹き飛んだ。

 

「や、めて……! もう嫌だよぉ……! どうして、なの……! 龍騎、どうして……!」

「……決めたんだ。俺」

 

スノーホワイトが泣きながら問いかけたのに対して、龍騎はいつになく冷徹な声で、ドラグセイバーを構えながら淡々と答える。

 

「……もう、迷わない。……何も、考えない。迷ってたって、考えてたって、人はどんどん消えてく……。ずっと戦おうとしなかったら、何も守れない。誰も、助けられない……」

 

九尾達に迫りながら、これまでの事を振り返る龍騎。

龍騎は、ずっと悩んでいた。迷っていた。考えていた。人数削減と称して、同じ力を持った者同士が次々と死んでいく事。ライダーや魔法少女同士が戦う事。そして失って初めて気づいてしまった、かけがえのないもの。

それもこれも、自分が先立って何もしようとしなかったから、と自分に言い聞かせて、彼は言う。

 

「……だったら、俺はもう、迷ったりしない。戦ってやる。誰を殺しても、もうどうでもいい。そうやって、生き残るって、決めたんだ。だから」

「バカヤロォ!」

 

突然鳴り響く怒声。それは、ライアでも、トップスピードでも、九尾でもない。その声は、横から割り込んで、龍騎と九尾達の間に入って、両腕を広げた人物から発せられたものだった。

 

「と、トップスピード……!」

「……どいてよ。俺は、倒さなきゃいけないんだ」

「どかねぇよ! 俺は、あんたに人を、殺してほしく、ねぇんだ……!」

 

そう叫ぶトップスピードの声は震えていた。否、体全身も。

 

「あんたと俺は、同じ過ちを犯してる! だから分かるんだ! お前のその気持ちだって! 誰かを守るって事は、めちゃくちゃ難しい! でも、だからってそれが出来ないから他の奴を理由もなく殺して、それでいいわけねぇだろ! 目ぇ覚ませよバカ!」

「……っ」

 

トップスピードの言葉に、龍騎は喉元を詰まらせる。

 

「頼むよ……! 頼むから、俺の我が儘も聞いてくれよ! 今までずっと自分の正義を貫いてきたお前が、そうやって変な覚悟を決めて誰かを殺っても、ファムが……! ウィンタープリズンが、シスターナナが、オルタナティブが……! ねむりんが、ルーラが、インペラーが、シザースが、ユナエルが、納得してくれるわけねぇ!」

「……!」

「……もし、あんたがそれでもっていうんなら。……俺だけで、終わりにしてくれ」

「! トップスピード……!」

 

リップルは思わず、立ち上がって彼女の前に立とうとした。自ら犠牲になるつもりか、と心の中で叫びながら。

 

「……」

 

龍騎はドラグセイバーを握る手に力を込めた。そして、ほんのわずかだけ振り上げた。

 

「……!」

 

一同が緊迫する中、カランカランと言う音が耳に入った。地面に目をやると、ドラグセイバーが横たわっている。そして目の前の龍騎は、微動だにする事なく、しばらく静止していた。

やがて龍騎は膝から崩れ落ち、両手を地面について、涙声で口を開く。

 

「……結局、こうなるのかよ……! 変わろうって思ってたのに……! どうやっても結局、俺は……!」

「龍騎……」

「城戸、さん……」

「……ゴメン、美華ぁ……!」

 

龍騎は、かつて愛していた女性の名を呟き、そして頭を抱える。

 

「俺は、どうしたら……!」

「……」

 

ライアは、この場で龍騎の行く末を占おうかと思ったが、途中でやめる事にした。きっとここで結果を開示しても、彼が本当の意味で変わる事はない。もし変えられるとすれば……、と思い、1人の人物に目を向けた。その人物もまた、極限の緊張から解放されたのか、地面にへたり込んだ。

 

「俺は、もう……。どこにも、戻れないんだ……」

 

そう呟いた龍騎は、立ち上がって九尾達に背を向けた。それは、自ら仲間を殺そうとしてしまった責任を1人で抱え込もうと、決別を意味する行動だったのかもしれない。

誰も、彼を引きとめようとはしなかった。そんな余裕がなかったからだ。スノーホワイトは泣きながら九尾に寄り添い、九尾はスノーホワイトの手を握り返す。ナイト、リップルは複雑な表情のまま目を逸らし、ライアは傷を負った右手を見つめた。

ただ1人、トップスピードだけは、被っていたとんがりハットを外して、ギュッと握りしめたまま、水色の瞳を龍騎の背中に向け、完全に姿が見えなくなるまで、ずっと見つめ続けていた……。

 

 

 




まぁ、長らく戦いという異色の舞台に身を置いていると、龍騎本編みたいに心身ズタズタになるのも無理ないかもしれませんね……。

さて、次回はいよいよ、あの魔法少女の哀しき過去が明かされます!
余裕がある方は、ハンカチのご用意を……!(笑)

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