魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
時刻は17時を少し回った頃。ミラーワールドでは、1人の仮面ライダーがモンスターと戦っていた。
「ハァッ!」
『ギシャアッ!』
コウモリを彷彿とさせるライダー『ナイト』である。仕事を終えて帰宅途中にモンスターの出現がマジカルフォンから通達され、現場に向かうと、大量のメガゼール、マガゼールがミラーワールド内で暴れまわっていたのだ。このまま野放しにしておけば、外に出て悪さをするに違いない。ナイトはダークバイザーを片手に、モンスター達に立ち向かった。
『NASTY VENT』
ダークウィングから放たれた超音波でモンスター達の動きを鈍らせた後、連続で斬りつけ、数を減らしていった。
「(さすがに1人では、骨が折れるな……)」
ナイトが心の中でそうボヤくのには、訳がある。
つい先日、新たな脱落者としてヴェス・ウィンタープリズン、シスターナナ、ファム、ユナエルの4名の名が挙げられた。あまりにも多すぎる脱落という事もあるが、それ以上に前者の3人の死は、少なからずナイト達に衝撃を与えた。
スノーホワイトはシスターナナ、ファムの名が発表されてから、解散するまでずっと泣き続けて、九尾に顔を埋めていた。その九尾は何も言わずにスノーホワイトのそばに居続けた。トップスピードも、スノーホワイトほどではないが、時折すすり泣きが聞こえてきた。ライアは、占った結果が的中してしまい、「また、運命を変えられなかった……」とボヤいて以降、口数は減った。リップルは、これといったリアクションを見せなかったが、普段よりも表情は暗かった。
ナイト自身も、戦うべき相手が減った事は良かったが、部分的な協力関係にあった者達が全滅してしまった事は無念に思っていた。
だが、それで落ち込んではいられない。まだ戦いは続いている。生き残るためにも、こういった戦いの場で力をつけておかなくては。
『FINAL VENT』
「ウォォォォォォォッ! ハァッ!」
ナイトは飛び上がり、ダークウィングと合体して、飛翔斬で密集して固まっているメガゼール、マガゼール達を一掃した。
だが、降り立つと同時に残っていた勢力が一斉にナイトに襲いかかり、ナイトは再び構える。
『STRIKE VENT』
が、その直後、どこからか電子音が聞こえてきたかと思えば、横手から火炎弾がメガゼール、マガゼール達に着弾し、爆散した。ナイトが
火炎弾の向かってきた方角に目をやると、ある意味で予想通りの人物が、右腕を突き出していた。
赤い龍の仮面ライダー『龍騎』だ。
「龍騎、お前……」
ナイトは驚いたように呟く。ファムが死亡し、その日から今日まで姿を見せてこなかった男が、唐突に姿を見せたのだ。ナイトは近寄ろうとして、不意に立ち止まった。どこか、様子がおかしい。今まで見てきた龍騎とは、別のオーラを感じさせる。
やがて、龍騎の方から出た言葉は……。
「ナイト、俺と、戦ってくれ」
「……⁉︎」
どういう風の吹き回しだ、といった様子を見せるナイト。それもそのはず。今まで同じライダーや魔法少女同士の戦いを拒んできた者が、突然仲間として行動を共にしていたナイトと戦おうとするのだから。
龍騎も、ナイトがそう反応してくる事は分かっていたらしく、さらにこう言った。
「俺、あれからずっと無い頭で考えて……。……それで、答えを、出したんだ。戦うって」
「……どこまで本気だ」
「迷っていても、誰も救えないのなら、戦った方が良いに決まってる。戦いの辛さとか、重さとか、そんなの全部自分だけで背負い込めば良かったんだ。それが出来なかったから、あの時……」
龍騎の手は震えていた。今なお後悔しているのだろう。
守ると決めた矢先に、自分の腕の中で、大切な人の尊い命を失ってしまった事を。が、すぐさま龍騎は顔を上げて告げる。
「自分の手を汚さないで誰かを守るなんて、甘いんだ。お前は、最初からそれに気づいていたから、迷わずに戦ってた。……なら、俺にだって出来るはずなんだ……。覚悟を決めた俺なら」
龍騎の言葉を聞いたナイトは、ゆっくりと顔を上げて、カードデッキからカードを取り出す。龍騎もそれに続いてカードを引き抜く。
「お前がそう決めたのなら、俺も俺のために戦うだけだ」
「あぁ」
『SWORD VENT』
互いに近接型の武器であるドラグセイバーとウィングランサーを構え、しばらく睨み合った後、最初に動き出したのは、戦いを挑んできた龍騎だった。
「ダァァァァァァァッ!」
「!」
思っていた以上に迫力のある龍騎の攻めの姿勢に、僅かだが反応が遅れたナイトが、バランスを崩す。龍騎はそれを見逃すはずもなく、ドラグセイバーを振るって追撃を与える。
「ウォォォォォォォ!」
「フンッ!」
ナイトも負けじとウィングランサーを振り下ろし、龍騎に対抗した。
最初のうちはほぼ互角の勝負になっていたが、しばらくすると、龍騎の方が勢いづいてきた。
本来同じ近接型の戦いであれば、経験値の高いナイトの方に軍配が上がってもおかしくないのだが、龍騎にはそれが通じないのか、一向に息切れする気配がない。否、ナイトの方が、龍騎に攻撃する事への迷いがあるようにも見えた。
「ハァッ!」
ナイトを振り払い、ガラ空きになった腹に向かって、空いた左の拳が直撃し、ナイトは呻き声と共によろめいた。そこへドラグセイバーの突きが炸裂し、ナイトは勢いを殺せずに地面に転がった。
これが奴なりの覚悟か。ナイトは歯ぎしりしながら、立ち上がろうとした。彼にとってある意味で望ましい戦いであるはずなのに、相手がここまで行動を共にしてきた龍騎だと認識していると、心のどこかで歯止めがかかっているようにも感じられた。
「くっ……!」
やられてばかりではいられない。反撃しなければ。ナイトは立ち上がり、新たなカードを取り出そうとする。
一方の龍騎も、短期決戦を望んでいるのか、力強くカードを引き抜く。ドラグバイザーをスライドし、カードをベントインしようとした、その時だった。
「……っ!」
不意に、龍騎の脳裏にここまでの記憶がフラッシュバックしてきた。
港での、ルーラチームのガイ、タイガ、インペラーとの戦い。そのインペラーを狙って強襲してきたピーキーエンジェルズとの戦い。歓迎するオルタナティブ。ヴェス・ウィンタープリズンとナイトの対立。仲間が増えたと思って喜ぶシスターナナ。
……そして、美華が久々に見せてくれた笑顔。そして付き合っていた当初の思い出。最後の言葉……。
『他は、変わってほしくないかな』
「……! ……ぁ!」
龍騎の震えは、目の前で対峙するナイトにも分かるほどだった。
龍騎の右手から、カードがこぼれ落ちた。『ファイナルベント』のカードだ。おそらく次の一手で勝負を決めようとしたのだろう。だが、出来なかった。出来ると思っていたはずなのに……。
「……決めたのに」
龍騎は膝から崩れ落ち、呆然と呟く。
「戦うって、さっき決めたのに……! 結局、俺、また迷ってるのか……!」
「城戸……」
思わず変身前の姿の名を呟くナイト。龍騎は、迷いが臨界点を超えたのか、頭を抱えて錯乱し始めた。
「う、ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
そして徐ろに立ち上がり、近くの金網に自ら体をぶつけて、何度も思いっきり殴りつけた。戦う事が出来ない自分を責めているのだろう。
背後が無防備となった今、ナイトにチャンスが巡ってきた。ウィングランサーを握りしめ、その鋭い先端を、龍騎の背中に向けて、ゆっくりと近づく。そのまま一突きすれば、それで決着がつく。龍騎という仲間を失うのは心苦しいが、全ては生き残る為。龍騎にはここで犠牲になってもらおうと、ナイトは決意した。
今更龍騎に手をかけたところで、その前からすでに自分の手は汚れている。何もためらう事はない。ここで龍騎を殺しても、誰から嫌われても、構う事はない。これでトップスピード達から咎められても、それならそれで、1人になって戦い続ければ良い。仮面ライダーになるずっと前から、そうしてきたように……。
ウィングランサーを握りしめる力がさらに強くなり、未だに嘆いている龍騎に向かって突き出し
『まぁたこんなにたっくさんの怪我作っちゃって! ちょっとは心配するあたしの身にもなってよ!』
『知るか。向こうが勝手にふっかけてきた事だし、俺が勝手にやろうと決めた事だ。いちいち口を出すな』
『……バカ』
『?』
『……もう、あたし達しかいないんだよ。家族の繋がりがあるのは。お願いだから、勝手にどっか行っちゃったりしないで。あたしも、離れないよ。だってあたしがいなくなったら、寂しくなっちゃうでしょ? 蓮兄』
『……分かった。分かったら、もうそんな顔するな、
「……」
不意に、ナイトはウィングランサーを下ろし、地面に置いた。
そしてマジカルフォンから、活動時間の限界が近づいている警報が鳴り、再び歩き出して、龍騎の腕を掴む。
「おい、行くぞ」
「……」
「……さっさと立て!」
ナイトは叱咤し、龍騎を連れてミラーワールドを後にした。
ミラーワールドから離れて、開けた場所に出た2人は、その場に腰を下ろした。互いに息切れが激しい中、正史は心底悔しげな表情を浮かべ、拳を地面に叩きつける。
「……何で、俺は」
「仕方ないだろ。それがお前なんだ」
「そんな簡単に言うなよ! 俺だって、ちゃんと悩んで決めたのに……! これじゃあ、何もしないのと同じだろ……!」
「……」
蓮二は黙り込む。黙ったまま、地面を見下ろした。
どうして正史が、誰かと戦う事をここまで拒んでしまっているにもかかわらず、彼のその考えを仕方ないと割り切ってしまったのか、自分でもよく分かっていなかった。
やがて日が暮れ始め、帰ろうとした矢先、正史が不意に立ち上がって、ボソボソと呟いた。
「……考えるから、ダメなんだ。何も、考えなければ、きっと……」
「城戸……?」
「じゃあな。次は、本気でやるよ、俺」
それだけ告げると、正史は歩き去った。おそらく今日も蓮二達とは共に活動に参加しないのだろう、と蓮二は思った。蓮二は首からぶら下がっているペンダントを手に取り、中身を開いて、写真を見つめながら、誰ともなしに呟く。
「……俺も、随分と甘ちゃんになったな。これもお前がそうさせたのか、それとも、あいつらがそうさせたのか……。どうなんだろうな、……
ここから2、3話は、龍騎の葛藤を描いていきます。
そして蓮二の口から語られた、1人の女性の名前。……そうです、その人物こそが、彼の戦う理由に深く関わっていくのです。詳しい事は後々明かされます。