魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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先に申し上げておきます。

今回は今までの話の中で結構鬱な展開になります。


57.悲恋の愛

「あぁ〜、さっきはひでぇ目にあったなぁ」

 

トイレの洗面台で手を洗っていた正史は、水を止めた後、鏡に映る自分をジッと眺めていた。

 

「(美華は……、何か俺と違って結構変わったよな。前は絶対に奢ろうなんて言わなかったし、どっちかっていうと性格尖ってたし。ずっと1人で突っ走ってたくせに、オルタナティブやシスターナナ、ウィンタープリズンとも仲良くなれるなんて、思いもしなかったし)」

 

だが今となっては、その内の2人は、もうこの世にいない。奈々もそうだが、きっと美華もまた孤独になりかけているに違いない。そうなれば、誰が彼女に手を差し伸べる必要があるのか、守るべきなのか。その答えは必然だった。

 

「ッシャア! 俺がそばにいてやらなきゃな!」

 

これ以上、無駄な犠牲を出すつもりはない。そして彼女に人を殺させない。改めて美華と協力する事を決意した正史は、その旨を伝える為に、颯爽と美華の待っている場所へと戻った。

 

「……あれ? 美華?」

 

だが、そこに彼女はいない。あったのは、彼女が持ち歩いていたカバンだけ。

正史はカバンに近づいて周りを見渡すが、あるのは壁に立てかけられた鏡だけ。まさか、モンスターに襲われたのか……?

だが直後にその可能性を否定する。彼女には仮面ライダーの力がある。浅倉を殺す事だけでなく、モンスターの脅威から人々を守る為の力。それがあれば、襲われても問題はない。正史はカバンを手に持つと、辺りをくまなく捜索した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ファムに変身した美華は、襲いかかってきたリュウガの後をつけて、ミラーワールド内の、ビルの屋上に来ていた。

 

「どこだ……。どこにいるんだ!」

 

ブランバイザーを構えながら周囲を見渡していると、背後に気配を感じ、振り返った。そこにいたのは、龍騎にそっくりな容姿をしているリュウガ。夜という舞台に黒いボディと赤い複眼が、不気味さをより一層引き立たせている。

 

「……やはり来たか。喧嘩っ早い性格は、相変わらずのようだな」

「な、何の話だよ……⁉︎ 大体あんた、どうして龍騎と同じ姿を……」

「知りたいか? ……なら、聞き出してみろ。俺を倒す事でな」

「何者か知らないけど、臨むところよ!」

 

ファムは先制攻撃とばかりにブランバイザーの突きを放った。

 

「だが、お前には無理だ」

 

対するリュウガはブランバイザーの剣の部分を片手で鷲掴みにし、空いたもう片方の手で拳を作ってファムの腹に殴りかかった。

 

「ウァッ……!」

 

ファムはよろめき、リュウガが追い打ちとばかりに蹴りを入れると、ファムは屋上から転落した。ファムは慌てる事なく、背中のマントを翼のように開いて減速し、空中で体勢を整えると、足から着地に成功する。その後を追うように、リュウガが垂直落下して、ファムの前に立ちはだかった。足元には落下の衝撃でクレーターが出来ている。

 

「こ、のぉ……!」

 

『SWORD VENT』

 

ウィングスラッシャーを召喚したファムは、リュウガに斬りかかるが、依然として余裕があるのか、リュウガはカードをベントインする事なく対抗している。否、余裕があるというよりかは、まるで相手の動きを理解した上で対処しているようにも見える。

 

「どうして、あたしの攻撃をここまで」

「当然だ。俺はお前の事を知っている。だからどんな攻撃も丸裸だ。俺はお前に負ける事など、絶対にない」

「随分と余裕じゃない。だったら……!」

 

『BLAST VENT』

 

ファムはブラストベントを使用し、ブランウィングが巻き起こす突風でリュウガの視界を遮る作戦に出た。……が、

 

『CURSED VENT』

 

リュウガが取り出したカードをベントインすると、ブランウィングが紫色のオーラに包まれながらも、翼をはためかせた。が、その威力は見るからに弱く、リュウガは吹き飛ばされる事なくせせら笑った。

 

「まるでそよ風だな」

「それって、レアアイテムの……!」

「全てはお前と、あの男に復讐する為に手に入れた道具だ」

「あたしに……⁉︎ あんた一体……」

「まだ気づかないとはな。勘まで鈍ったか?」

 

リュウガにバカにされたと思ったのか、ファムは苛立った様子で、リュウガに斬りかかった。

 

「そうやって自分を傷つけるような奴には常に手をかける。あの時と同じだな。それで俺に勝てるとでも、思っているのか」

 

リュウガは余裕綽々といった感じで、ファムの腕を掴み、殴りや蹴りを連発する。口から血が流れる感覚を覚えたファムは、転がりながらも新たなカードをベントインする。

 

『WALL VENT』

 

すると、リュウガの周りに土壁が形成されて、前方以外が全て封鎖された。パートナーであるウィンタープリズンの魔法が行使されたのだ。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ファムは土壁に囲まれたリュウガに向かって飛び出した。この戦法は、以前ウィンタープリズンがクラムベリーに対して行ったものとそっくりそのままだ。逃げ場がなければ、どれほど強靭な敵でも真正面から一撃を受けるほかない。そう思っていた。

 

『ADVENT』

 

だが、彼女は知らない。リュウガの左腕についていたドラグバイザーには、すでに別のカードが装填され、いつでもベントイン出来る状態にあった事を。

ファムがそれに気づいた時には、リュウガの契約モンスター『ドラグブラッガー』が上空からファムに襲いかかり、噛み付いて地面を突き破った。

 

「グァッ⁉︎」

 

ドラグブラッガーはファムに噛み付いたまま、地下にある支柱にファムの頭をぶつけながら旋回した。

 

「あ、ァァァァァァァァ!」

 

支柱に叩きつけられ、更にはドラグブラッガーの歯が食い込んでいる体に走る痛みが、容赦なくファムを襲う。

ようやく解放されたのは、ミラーワールドの外、つまり現実世界に出てお好み焼き屋の近くに位置する公園の中心部だった。白かった背中のマントは、血で赤く染まっている。

 

「(う、嘘、だろ……? こんなところで、あたしは……)」

 

ファムは死に物狂いで立ち上がるが、リュウガがこちらに向かって歩いて来るのが見えて、ファムは背筋が震え上がった。

 

「く、くそ……!」

 

ファムは右手の薬指にレアアイテムの1つ、金の指輪をはめて、バリアを張った。

 

「そんなもの」

 

だが、リュウガは素早くファムの右腕を掴み、右足を振り上げて、その腕めがけてかかと落としを決めると、骨の折れる音が響き渡り、ファムは絶叫した。右腕に強い振動が伝わった影響で、指についていた金の指輪が地面に落ち、リュウガはそれを拾った。

 

「こんなもので、俺をどうにかできるとでも? だとしたら甘いな」

 

リュウガは地面に膝をついたファムに対し、足で顔を踏みつける。地面を転がり、心身ボロボロになったファムに対し、リュウガは冷徹に呟く。

 

「もう、終わりか? 本当ならジワジワと嬲り殺しにしようかと思ったが、そんな体ではもう立てないだろう。一思いに楽にさせてやる」

「……何なんだ」

 

ファムはボソリと呟く。そして口にする。彼女が最も疑問に思っていた事を。

 

「何者なんだ、お前は……! どうしてあたしの事を……!」

 

それを聞いた途端、リュウガは一旦停止し、すぐさま狂気を含んだ笑い声を発した。

 

「……アレだけヒントを与えてやったのに、まだ気づかないのか? なら、俺との思い出も、お前にとっては存在する価値すらなかったという事か」

 

そう言ってリュウガは懐からあるものを取り出し、ファムに見せる。視界が朦朧としているファムでも、その形はハッキリと見て取れた。

黒くて鋭い目の龍の形を模したペンダント。それを見た途端、ファムは仮面の下で目を見開いた。

 

「お前、ひょっとして……!」

「やっと気づいたか。だが遅い。もっと早く気づけばよかったものを」

 

そう言ってリュウガは龍のペンダントを握り潰し、ファムの近くに放った。

 

『STRIKE VENT』

 

「消えろ。忌まわしき女」

 

リュウガの左腕に黒色のドラグクローがつけられ、一旦退いてから突き出すと、周りを旋回していたドラグブラッガーから黒炎が放たれた。

ファムは、目の前で自分を殺そうとするリュウガの正体に気づき、僅かに反応が遅れる。

そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『正史、これ、どうしたの?』

『ん? あぁ、すぐそこのクレーンゲームでゲットしたやつ。いや〜、あいつが手伝ってくれたおかげでコツが掴めてさ。んで、これお前に似合うかなって』

『白鳥……か。ありがとな。大切にするよ!』

『おう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近くで爆発音が聞こえた瞬間、正史は肝を冷やした。何かが起きている。正史は爆発音が聞こえた場所へ駆け出した。途中で焦げ臭い匂いが漂い始めた事で、正史は嫌な予感が頭によぎった。

そして現場であると思わしき公園に足を踏み入れた瞬間、正史は頭が真っ白になった。

焦げた地面の中心地に、見覚えのあるコートを着た女性が、煙にまみれながら仰向けに倒れている。美華だった。

 

「み、美華ぁ!」

 

正史はカバンを放り捨てて、美華に駆け寄り、上半身を抱き起こした。よく見ると、コートだけでなく、髪の毛や皮膚にも焼かれた痕があり、火傷の酷さが伺える。

 

「おい、しっかりしろよ! 今、救急車呼ぶからな!」

 

正史がそう叫びながら、ポケットからスマホを取り出そうとする。が、その手を掴む者がいた。それは弱々しくも目を開いた美華だった。

 

「正、史……」

「美華! お前どうして……!」

「……ご、めん。あたし、もう、……ダメ、かも」

「んな事言うな! 俺が守るって決めたんだ! 俺達は絶対に生き残るって! そんな簡単に……!」

 

正史が切羽詰まった口調でそう言ったのを聞いて、美華は笑みを浮かべる。

 

「……は。やっぱ、変わん、ない、ね。……でも、そんな、正史に、惚れた、んだよ、な」

「美華……! 死ぬなよ、美華!」

「……青のり、ついてる」

 

美華は震える手で、正史の歯についた青のりを指さす。それから、呼吸を荒げながら目線を下に向けて、靴紐に目を向けた。

 

「……また、靴紐、解けてる、じゃん」

「んな事今はどうだっていいだろ!」

 

言いながら、正史の目に涙が溜まる。それを見て、美華の瞳も次第に潤い始める。

 

「……やっぱ、あたし、ライダーには、向いて、なかったの、かな……。こんな、惨めな、人生、しか、送れ、なくて……。自分勝手、で、周りの、事とか、全然、気にしてやれ、なくて。……嫌い、だったよね、こんな、あたしの、事、とか」

「んなわけないだろ! 俺だって、ちゃんとお前の気持ち、分かってやれなくて……! お前がライダーだったから、香川さんも、雫ちゃんも、奈々ちゃんも、幸せに、なれたんだ……!」

「……そう、なの、かな」

 

本当は、もっと伝えたい事があった。リュウガの正体。そして次に狙われるのは、正史である事も。

だが、彼女の中で、優先すべき事があった。それは、もう2度と伝えられないであろう、自分の心中。

 

「正史……。靴紐、ぐらい、は……。ちゃんと、結べる、ように、なって、ほしい、けど、さ……」

「……おい、もう喋るな! これ以上は、お前が……!」

「……それ以外、は、変わって、ほしく、ない、な。……後、は。そう、だ、な……」

 

美華は最後の力を振り絞るように、手のひらに握ってあった白鳥のペンダントを、正史の手に握らせた。そして呟く。彼女が望む、最後の願い。

 

「……幸せ、に、な……れ、よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せになれ。

その一言が、口から発せられたのを最後に、白鳥は、静かに翼をたたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……美華?」

 

正史が、目の閉じた美華の体を揺する。

 

「……嘘、だろ? なぁ、目ぇ覚ませよ美華……! 美華ぁ……!」

 

どれだけ彼女の名前を呼んでも、羽ばたく素振りを見せない。

 

「美華ァァァァァァァァ!」

 

ありったけの一吠えすら、ぐったりとした彼女の意識に、届く事はない。

 

「……あ」

 

嘘寝であってほしいと、刹那に願いたい。

 

「アァ……」

 

また一緒に同じ刻を過ごせたら、変われたかもしれないのに。

 

「……ゥア」

 

その願いは、『大切な人を守れなかった絶望』となって、お人好しのバカに、降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファヴ:『えぇ〜。先日の、ヴェス・ウィンタープリズン並びにユナエルの脱落に続いて、また1つ、悲しいお知らせぽん』

シロー:『つい先ほど、ファムの死亡が確認された』

ファヴ:『ファヴもシローも、1週間でこんなにたくさんの魔法少女や仮面ライダーが死んじゃうなんて思ってなかったぽん。とっても悲しいし、辛いぽん』

シロー:『なお、今回は特別措置として、2週間ほど、キャンディーの総数による脱落者の発表を先送りにする』

ファヴ:『みんな、この長い期間を有意義に使って、キャンディー集めを頑張るぽん。それでは、シーユーぽん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

羽二重 奈々は当初、亜柊 雫という女性に対して、何ら好印象を持たなかった。大学に入ってすぐに彼女の噂を、一方的に聞き、1年の内はなるべく出会わないように努力した。所詮は才能の塊だ。自分とは住む世界が違うのだから、と自分に言い聞かせて。

2年の春、香川のゼミで初めてお目にかかった時も、お付き合いは極力避けようとも考えていた。別に周りから終始『プリンス』と称されている彼女に嫉妬しているわけではない。奈々にとって、プリンスとはフィクションの中で優しく自分を抱きしめてくれる存在だから、単純に興味がなかったのだ。

一方で同じゼミに居座る影響からか、一度雫と目を合わせて以降、時折雫からの目線が奈々に飛んでくる事が多くなった。この時から脳裏に嫌な予感が掠める訳だが、こういう予感は、嫌なものであるほど的中するものだと、奈々は思い知らされる。

そしてその予感は勘付いてから数日後に、現実のものとなった。唯一自分しか女生徒のいなかったスキーサークルに、突如として雫が入部してきたのだ。入部希望の書類を見せるために部室にやって来て、雫が同じゼミ生である奈々の顔を見て「おやっ?」という表情を浮かべた時には、奈々の顔から血の気がサァーッと引いて、足元が崩れるような感覚を覚えた。それまでサークル内で女王的ポジションにいた奈々は、雫の襲来により、玉座から転落した。

奈々は陰口を叩くのを嫌い、面と向かって罵倒する事も好まなかった性格だった。つまり、心の中でどれだけ汚いことを考えていようと、決して口には出さない。それは、フィクションの王子様に愛される権利を喪失してしまうと、考えているからだ。奇妙な信念だ。

その一方で、雫は奈々に優しくしていた。席を譲ってくれたり、ダイエットしている奈々に対し、お菓子や飲み会で出された揚げ物を差し出した。が、奈々にとっては迷惑行為としか受け入れられなかった。何故女王の座に君臨しているくせに、自分が我慢しているものを与え、無理を押し付けようとするのか。試しに奈々は、帰りの電車内で、普段は断っていた雫の付き添いをあえて許可して、2人以外誰もいない車内で問い詰めた。もちろん内心憤りを露わにしつつ、優しめな口調で。そして彼女は言った。奈々を元気にさせたくて、色々と食べ物を与えていた、と。奈々は余計なお世話だ、とは口にせず、しかし勢いに任せて、好きな人がいるのでは、と尋ねた。そこで雫は観念したかのように、奈々に興味を抱いていた事を白状する。

どうして目があっただけでここまで苛められなければならないのか。帰り際に映画のチケットを半ば強制的に渡された、その時の奈々はそう思ってしまうほどに、雫とどう離れようか、悩みに悩んだ。当時、同じゼミの女生徒で、不思議と仲の良くなった霧島 美華にも相談しようかと考えたが、ろくな答えが返ってくるとは思えなかった。

神様、助けてください。そんな風に祈る日々が続きながら、今宵も最近インストールした『魔法少女育成計画』をプレイする。すると、それから数日後に神ならぬ者から、救いの手が差し伸べられる事になる。

 

『という訳で、あなたには魔法少女として活動してもらう事になったぽん。教育係については、同じ魔法少女か、もしくはシローがスカウトする仮面ライダーに担当してもらう事になるけど、いかんせんまだ人数が……。って、ちょっとちょっと、聞いてるぽん?』

「もちろん聞いてますよ、ファヴ。ウフフ」

 

声色も、肌のツヤも、髪も、何もかもが違う。修道服姿の魔法少女『シスターナナ』になれた奈々は、ダイエットを通じて目指していた美貌を手に入れたのだ。

そして早速奈々はこの力を使って、雫との因縁に終止符を打とうと、計画を実行した。シスターナナに変身後、修道服姿を隠す為にコートを羽織ってから、雫が指定した映画館に足を運んだ。その際、雫には「奈々は急用が入ってこれなくなったので、代わりに友人である私が来た」と嘘をつき、雫を圧倒した。これで諦めてくれればそれで勝ちだったのだが、雫はそのままシスターナナを映画館に引き連れた。

上映中、シスターナナは終始青ざめていた。彼女の不得意なゾンビ映画だった為、内容が全く入ってこなかった。それでもシスターナナは雫を観察していた。相変わらずの無表情だった。それから自販機で買った飲み物を口にしていると、今度は雫から質問攻めにあった。特に、「あなたと奈々はどんな関係だ」という質問に対しては、腰を浮かすほどだった。シスターナナは友達だ、と言い張ったが、雫は、そうとは思えないと語っていた。もしや正体がばれたのでは、と、ファヴの説明にあった、資格の剥奪に触れる事態になるのではと、内心ビクビクしていたが、話を進めていくうちに、そうではないと察した。そればかりか、雫は奈々に渡し、正式に交際を申し込む予定だったと言って、可愛らしいデザインの指輪を見せた。その時のシスターナナは、思わず強く握りしめた影響で缶の中身をぶちまけてしまった。雫は、「例え君が何者であっても負けるつもりはない。女同士という立場など、愛の前では些細な問題だ」と、言って、その日はそのまま立ち去った。シスターナナはただ、「あぁ」と深く息を吐いて椅子の上に崩れ落ちる事しか出来なかった。一応ケリはついた、とシスターナナ改め奈々は、自分を納得させた。

ところがそれ以降、どういうわけか今度は奈々自身が雫に対して興味を持ち始める事となった。ゼミで一緒にいる機会が、あのデート(?)以降増えた影響からか、雫から目が離せなくなってしまったのだ。もしや、これが恋というものなのか。そう思うと、ますます自分の在り方が分からなくなってしまい、どうすれば良いのか悩んでいた時、ゼミの先生だった香川から声をかけられた。彼は奈々が何かに悩んでいる事に気付いたらしく、個別で相談にのってやった。あまり乗り気になれない奈々だったが、魔法少女になれた影響からか、思い切って前進しようと、悩みを吐露した。その際、香川の心温まるアドバイスやカウンセリングを受けた結果、奈々は想いを雫に伝える事を決意する。当然雫も喜んでそれを受け入れ、いつしか学内でも噂になるほどのカップルとして、新たな気持ちでキャンパスライフを送り始めた。美華も陰ながら応援すると言い、さらに2人の仲は深まった。

そしてしばらくして、教育係となったオルタナティブの正体が香川と判明し、途中から加わった新メンバーのファムもまた、親友の美華だと分かり、上機嫌になった奈々は、今度は雫を『理想の王子様』として魔法少女にしようと企てた。が、そう簡単になれるはずもないだろうと考え、雫に『魔法少女育成計画』を勧める傍ら、最近魔法少女になったマジカロイド44の協力を得て、遂に雫は魔法少女『ヴェス・ウィンタープリズン』となり、シスターナナは大いに喜んだ。

ちなみに後で分かった事だが、あの日雫は、奈々と目の前にいる友人と称する女性との間に特別な関係があるのではと思い、それを断ち切って自分が奈々を守る立場になり変わろうとして、あのようなキツい言い方をしていたのだという。つまりは思い違いだった。

その後も魔法少女や仮面ライダーの後輩は誕生し続け、羽二重 奈々は、愛すべき女性やゼミの先生、最高の友人と共に、毎日が飽きる事のない生活を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だがそれも、今は昔の話。奈々の周りには、楽しかった思い出も、そばにいてくれる人もいない。

 

「……」

 

この数日間で、奈々と親しく接してくれた者は皆、帰らぬ人となった。

香川 俊行は仮面ライダーベルデが率いるチームによって殺され、その仇を討とうとした亜柊 雫もまた、彼らに返り討ちにされ、命を落とした。そしてつい先ほど、霧島 美華の脱落、即ち死亡が発表された。

間違っていたのか、自分の理想など、世間には一切通用しないのか。何度も同じ疑問が頭をよぎり、その度に、涙を流す。ここまでは酒やおつまみでどうにか理性を堪えていた奈々だったが、唯一の心の拠り所だった美華が消えた今、奈々は決断した。

優しく、ヒロインとして王子様を庇って死ねるような魔法少女にすらなれなかった自分は、ここでお終いだ。後に残る者達にどんな地獄が待ち受けているかなど、もうどうでもよかった。戦って死ぬよりは、自分の手にかかった方がまだマシだ。そう思った奈々の行動は素早いものだった。雫の遺品であるマフラーと、近くに置かれていた椅子を持って、カーテンレールの下に椅子を置くと、その上に立ってマフラーをカーテンレールに結ぶ。輪も作れば、後は首を輪に通し、足で椅子を蹴り倒せば、それで完了。

 

「最後まで他の者と戦う事を拒絶するか」

 

……が、それが叶う寸前、背後から聞こえてきた声が奈々の動きを止めた。一旦首を輪に通すのを止めて恐る恐る振り返った瞬間、奈々は驚きのあまり、椅子から転げ落ちた。そこにいたのは、黄金の不死鳥を彷彿とさせる、腕組みをした仮面ライダー『オーディン』。以前、奈々の考えを拒絶して襲いかかってきたクラムベリーのパートナー。そして聞いた話では、ラ・ピュセルに重傷を負わせた張本人。

 

「あ、あなたは……」

「折角ヴェス・ウィンタープリズンの死体をここまで運び、お前の愚かな思考を否定する事で戦いを強要させようと思ったが、とんだ期待外れだな」

「! まさか、あなたが雫を……!」

「もっとも、私もクラムベリーも、ましてやファヴもシローも、お前になど初めから生き残る要素がないと判断していたからな。お前はただ、この舞台を引き立たせる、いわば小道具の役割でしかなかった」

「……何を、何を言っているのですか⁉︎」

「……消えゆくお前に語ったところで徒労になるだろうが、特別に教えてやろう。……我々が望む、この試験の目的を」

 

試験。魔法少女になって初めて聞くその単語を聞いて、キョトンとなる奈々だったが、オーディンの口から語られる、『魔法少女育成計画』並びに『仮面ライダー育成計画』がソーシャルゲームとして配信され、魔法少女や仮面ライダーがN市で32人も誕生した、その目的を聞かされると、奈々はサークル室で雫と初めて会った時とは違った意味で、足元が崩れ落ちる感覚を覚えた。

 

「そ、そんな……⁉︎ そんな悍ましい事を、あなた方は……!」

「だから言ったのだ。シスターナナ、お前に生き残る要素など、初めから存在すらしていなかったと」

 

顔面が蒼白になる奈々を見て、オーディンは手元に錫杖型の召喚器『ゴルトバイザー』を出現させて、カードデッキから1枚のカードを取り出した。

 

「お前がここで死ぬならそれも良し。……だが、脱落を望むのであれば、この試験に相応しい最後を迎えてもらう。これは、私からのせめてもの手向けだ」

 

『FINAL VENT』

 

先端の鳥状の飾りの下の部分をスライドさせて、そこにカードを差し込み、装填する。

すると、窓ガラスからゴルトフェニックスが現れ、オーディンの背後に立ち、オーディン自身は浮かび上がる。

何が起こるというのか。奈々が呆然としていると、オーディンの背後から後光のような、熱を持った光が奈々に向かって降り注ぎ、次の瞬間、奈々を含めた、部屋全体が炎に包まれた。

奈々は全身にほとばしる炎の熱から生じる痛みを浴びながら、悲鳴と共に倒れこんだ。再び顔を見上げた時には、オーディンの姿はなかった。

服が、髪が、それまで大切にしてきた思い出の品が、全て燃える。奈々は肌を焼きながらも、必死に這いつくばる。伸ばした手が掴んだのは、先ほどカーテンレールに結ばれていた、雫のマフラー。火事によってカーテンレールが落ちた為、掴む事ができたのだ。

不意に掴んだマフラーの前に、陽炎の如く、愛すべきプリンス、ヴェス・ウィンタープリズンの姿があった。炎に包まれてもなお美しいその姿に、奈々は自分に死が訪れているとも知らずに見惚れた。やがてウィンタープリズンの姿は、雫になり、幻影となっている彼女は、優しく奈々の手に触れ、引き寄せるように近づいて、奈々を抱きしめた。

奈々は、笑みと共に、涙が溢れた。これからは、ずっと一緒ですよ、と呟いて満足したのか、奈々は炎に包まれながら、静かに横たわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ここで臨時ニュースをお伝えします。先ほど、○○地区のマンションの一室から火が出ていると、マンションの管理人から通報があり、警察と消防が合わせて15台駆けつける大惨事になりました。火はおよそ1時間半後に消し止められましたが、出火元とされる一室は全焼し、焼け跡から全身が焼けただれた、1人の遺体が発見されました。警察の調べによりますと、出火元のマンションに住んでいた、羽二重 奈々さん21歳と連絡が取れない事から、この遺体は、羽二重 奈々さんのものだと断定しました。また、同マンションの屋上に、両手が切断されている亜柊 雫さん21歳の遺体が、屋上の片隅に置かれており、警察は出火原因を調べると共に、2人が何らかの事件に巻き込まれた可能性があると見て、捜査を進める方針です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その7≫

 

【ファム(霧島 美華)、シスターナナ(羽二重 奈々)、死亡】

 

【残り、魔法少女11名、仮面ライダー12名、計23名】

 

 




……えぇ。皆さん、かなりショッキングな展開に驚いているかと思われますが、いきなり2人脱落です。
ファムと王蛇の絡みが見たいという方も大勢おられたかと思いますが、今後私が思い描いている展開にする為にも、こうしました。後悔はありません。

シスターナナも、今回はちょっと残酷な最後を迎える事になりました。まぁ、要するにアレです。「互いに殺しあって生き残るしか術のなくなったこの戦いの中で、自殺という形で逃げれると思うなよ」という意味を含んでいます。

……ここまでくると、私もスイムスイムやカラミティ・メアリの事をとやかく言えないかなぁ〜。

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