魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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では、どうぞ。


56.白鳥の想い

「……じゃあ奈々。風邪引かないようにしてね。ご飯もちゃんと食べるんだよ」

「……」

 

返事はない。微かに聞こえてくるのは、すすり泣きぐらいか。美華はそれ以上かける言葉が思いつかず、ドア越しから覗かせていた頭を引っ込めた。静かに扉を閉めてから、しばらく歩いた所で、ハァッ……とため息をついた。

今から2日前、オルタナティブの仇を討とうとしたヴェス・ウィンタープリズンは、ベルデ達によって返り討ちにされ、そのまま帰らぬ人となった。一時はファムとシスターナナも危機に陥っていたが、突如現れた、龍騎にそっくりな人物が介入し、ユナエルを殺した事で、隙を見て逃亡する事が出来た。

その後奈々の住むマンションの屋上にたどり着くと、どういうわけか、雫の遺体が屋上に横たわっていた。ベルデ達とは違う、別の誰かが運んできたのだ。両手を失った雫にしばらく寄り添った後、奈々の我が儘で、雫の遺体を人目につかない屋上の物陰に隠した。少しでも彼女を1人にさせたくないという、奈々の気遣いが表れている選択だった。

とはいえ、それ以降奈々の生活スタイルは激変し、元の明るい振る舞いは消え失せていった。毎日様子を見に来る美華がどれほど話しかけても、雫の遺品でもあるマフラーを握りしめているだけ。まともな食事は出来ていなかった。当然外に出かける事も無くなってしまった為、キャンディーが溜まる機会が激減した。今週はもうウィンタープリズンの死によって、脱落者が出る事はないが、次の週もそうなるとは限らない。

このままいけば奈々は確実に脱落する。雫の意思を無駄にしない為にも、彼女を死なせるわけにはいかない。そう思った美華は、今日もキャンディー集めに最適な場所をくまなく捜索していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくその機会が訪れたのは夕方の、夕日が沈みかけた頃だった。マジカルフォンにモンスター出現を知らせる音が鳴り、美華は現場に向かった。反応があった場所には、男性のものと思わしき、片方だけの靴とカバンが転がっている。すでに捕食された後のようだ。

だが、美華のやる事は変わらない。キャンディー集めの為にも、1人で戦う。そう決めた矢先、横手から美華の見知った人物が走ってやってきた。同じ仮面ライダーでもあり、昔の彼氏でもあった城戸 正史だ。

 

「美華!」

「! 正史……! あんたどうして」

「この近くで仕事があったんだけど、モンスター出たから、こっちに来たんだ。それより、早くやるぞ!」

「で、でも……」

「どうしたんだよ⁉︎ ほら、早く……」

 

正史はそう言ってカードデッキを近くの窓ガラスにかざした。美華も何か言いたげだったが、正史に続いてカードデッキをかざす。正史は右手を左に突き出し、美華は両手を、翼を広げるように動かしてから正史と同じように右手を左に持ってきた。

 

「「変身!」」

 

Vバックルにカードデッキが付けられて、2人は龍騎、ファムに変身し、そのままミラーワールドに突入した。

そんな2人の後を追うかのように、その場に現れた人物達が。

 

「あいつ、ライダーだったのか……」

「モンスターの反応はこの先です。どうしますか? ここは諦めて別の場所に……」

「いや、行こうよ。どのみち女は放っておけないしさ」

 

それは北岡 賢治と安藤 真琴だった。北岡はカードデッキをかざし、真琴は北岡の言葉を聞いて若干呆れつつも、マジカルフォンを取り出す。

 

「「変身!」」

 

2人はゾルダ、マジカロイド44に変身し、同じくミラーワールドに突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

「ハァッ!」

「ヤァッ!」

 

龍騎とファムの前に現れたモンスターは、大量のシアゴーストだった。パワーは大した事もないのだが、数が多く、捌くのに苦戦を強いられていた。

 

「ウォッと……! こいつら、何でこんなに……!」

「知らないわよ! 無駄口叩く前に、さっさとやるわよ!」

「な、何だよ……。今日はやけに冷たいなぁ……」

 

『『SWORD VENT』』

 

普段よりも焦っているようにも見せるファムに訝しむ龍騎だったが、彼女の言うように、愚痴を言っている場合ではない。龍騎はドラグセイバーを、ファムはウィングスラッシャーを用いてシアゴースト達を薙ぎ払った。

 

「きゃあ!」

 

しばらく交戦を続けていると、ファムが足を滑らせて転んでしまい、シアゴースト達がチャンスと思ったのか、一斉に襲いかかってきた。

 

「危ない!」

 

これを見た龍騎はファムの前に立ち、シアゴースト達の攻撃をその身に受けまくった。

 

「い、イダダダダダダッ⁉︎」

「! 龍騎!」

 

痛がりながらも必死にファムを守ろうとする龍騎を見て、ファムは彼と付き合っていた頃のことを思い出していた。喧嘩が特別強いわけでもないのに、不良に絡まれた自分を助け、彼自身は傷を付けられて、その時の顔が何よりも面白くて、よく笑って……。

やっぱり、彼は何時まで経っても変わらない。そう思いながら龍騎に駆け寄ろうとしたその時だった。

 

『SHOOT VENT』

 

どこからか放たれた砲撃が、シアゴースト達に命中し、龍騎も軽く吹き飛ばされた。2人が目線を一点に向けると、ギガランチャーを構えたゾルダが見えた。その隣にはパートナーのマジカロイド44もいる。

 

「ちょっと⁉︎ 俺まで巻き込む事ないだろ⁉︎」

「せっかく助けてやったのにその言い方かよ。ま、俺はそいつを助けてやるつもりだったから、お前がどうなろうと関係ないんだけどね」

 

ゾルダがファムに顔を向けてそう呟く。

 

「関係ないって、あんたなぁ……! けどまぁ、ありがとな」

「皆さん、また来マスよ」

 

マジカロイド44の言葉を受けて、一同は再び迫ってくるシアゴースト達に目を向けた。

 

「よぉし! 4人で協力してやっつけるぞ!」

「! 待てよ龍騎! あたしは……」

「ッシャア!」

 

だが龍騎はファムの制止を無視して駆け出した。

 

「やれやれ。相変わらずのバカだな」

「デスね」

 

ゾルダとマジカロイドも呆れつつも、マグナバイザーと、マジカルフォンから呼び出したギガキャノンを装着して、シアゴースト達をねじ伏せた。ファムも、仕方なしに交戦を始めた。

戦う仲間が2人も増えた事もあってか、シアゴースト達の数も段々と減りつつある。

 

「よっしゃ! もらった!」

 

『『FINAL VENT』』

 

龍騎とファムは同時にファイナルベントのカードをベントインし、必殺技の体勢に入った。

 

「ハッ! ハァァァァァァァ……!」

 

龍騎は腰を低くしてポーズをとってから、飛び上がり、旋回するドラグレッダーの中で一回転して右足を突き出す。ファムはウィングスラッシャーを構えると、ブランウィングが巻き起こした突風で吹き飛ばされたシアゴースト達に向かってウィングスラッシャーを振り抜いた。

 

「ダァァァァァァァッ!」

「ハッ! フッ! ヤァッ!」

 

ドラゴンライダーキックとミスティースラッシュは、シアゴースト達を多量に一掃し、残っていた残党勢力も、ゾルダとマジカロイド44が相手にしていた。

 

「それじゃあ、今日はこいつを使ってみますか」

 

そう言ってゾルダが取り出したのは、マジカロイド44のアバター姿が描かれたパートナーカード。それをマグナバイザーにベントインした。

 

『FUTURE VENT』

 

すると、ゾルダの手元に近未来的な雰囲気を漂わせるガトリングガンが現れた。『フューチャーベント』によって、マジカロイドの魔法と同様に未来の武器を使用できる能力のようだ。

 

「こいつは良いな」

 

そう呟いて銃口を向けると、向かってくるシアゴーストに銃弾の雨が降り注ぎ、シアゴースト達はなす術もなく爆散した。敵が全滅した証拠に、マジカルフォンからキャンディー獲得の知らせを告げる音が鳴り響いた。

その後、一同はミラーワールドを後にして、現実世界に戻っていった。ミラーワールドを出た途端、ファムは地面に膝をついて、変身を解いた。

 

「お、おい、大丈夫かよ……。ってかお前、何か無理してる感じがしてたぞ」

 

龍騎が心配になって手を差し伸べるが、美華はそれを拒んだ。

 

「放っといてよ……! 大体あんた達が来たせいで、キャンディーが全然溜まらなかったじゃないか……!」

「な、何でそんなムキになってんだよ……! 俺はただ、お前だけに戦わせるのは危ないって思って……」

「……またお人好しか。あんたねぇ」

「まさかお前がファムだったなんてな」

 

すると、ゾルダが美華に話しかけてきた。美華が眉をひそめていると、ゾルダはVバックルからカードデッキを取り外して変身を解いた。ゾルダの素顔を見た美華は、驚きと同時に鋭い視線をぶつけた。

 

「あんたは……! 北岡 賢治……!」

「えっ⁉︎ 美華、北岡さんの事知ってるのか?」

「お知り合いですか?」

 

同じく自然な形で変身を解いた正史と真琴も、気になって尋ねてみた。しばらく2人の間で睨み合い(ただし美華による一方的な)が続いたが、先に口を開いたのは、美華の方だった。

 

「……前に話した事あっただろ? あたしのお姉ちゃんは、浅倉に殺されたって。目の前にいるこいつは、その時浅倉の弁護を担当してたんだ……!」

「……えっ⁉︎ 北岡さんが、浅倉を……」

「あぁ、それなら聞いた事ありますね」

 

正史が、判明した2人の意外な接点に驚く中、真琴は1人、思い出したかのように呟いていた。あの脱獄犯の浅倉を弁護し、姉を彼に殺された美華にとって因縁のある人物が、これほどにまで密接な関係下にあったとは……。そんな中で、北岡は肩を竦めながら口を開いた。

 

「ま、さすがにあいつの弁護は骨が折れたよ。強盗、殺人、暴行、その他諸々。罪状が多すぎたから、せいぜい懲役10年ってところが限界だったよ。その時は結構怒ってたなぁ、あいつ。それこそ、その勢いで俺を殺しそうだったよ」

「あんたが……! あんたがあいつの弁護なんかしたせいで、刑を軽くさせられて、お姉ちゃんやあたしの気持ちを考えないで……!」

「お、落ち着けって美華……! ってか、北岡さんはどうして美華の事を……」

「浅倉がやらかした事件を調べてるうちに、資料の中に偶々顔写真があってね。一度見た女の顔は忘れない主義だからさ」

「あんたなぁ……」

 

謎の自慢話に呆れる正史。真琴も正史に同情の意を示している。と、不意に正史は真琴に目線を向けた。

 

「……っていうか、お前がマジカロイドだったんだな」

「あぁ。この姿では初めてですね。安藤 真琴です。まだ未成年で、15歳ですよ。今は先生の下でバイトしてます」

「(大地君達の一個上なんだ……)」

 

軽く自己紹介を終えたところで、キリが良いと思ったのか、美華が正史に話しかけてきた。

 

「あぁ、もうなんかムシャクシャしてきたからさ。正史、あんたこの後暇でしょ? 食事に付き合ってよ」

「へっ? まぁ、良いけど……」

「決まりだね。なら行くよ。美味い店知ってんだ」

 

そう言って美華は正史の腕を掴み、引っ張るように歩き出した。

 

「ちょっ、危ないって……! じゃあ北岡さん、真琴ちゃん、またね!」

「へいへい。仲良しカップル同士、上手くやってけよ。……あ、それから令子さんにもよろしく伝えておいてよ。24時間いつでも連絡待ってるからさ」

「言うもんか!」

 

正史の怒声が響く中、北岡は不意に美華に声をかけた。

 

「あ、ちょっと君!」

「……何?」

 

美華が睨む中、北岡は言葉を詰まらせて、やがて首を横に振った。

 

「……あ、いや、何でもない。まぁ、気をつけなよ。最近色々と物騒だしさ」

「余計なお世話よ」

 

そっぽを向いた美華は正史を連れてその場を立ち去った。

その後ろ姿をジッと眺めている北岡の表情は優れなかった。

 

「……先生? ひょっとしてアレですか? あの方に罪の意識を感じてるとか」

「いや、そういうわけじゃないんだけどさ……」

 

北岡は咳き込みながら、口を籠らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここって……」

「覚えてるだろ? あんたと初めてデートした場所」

 

正史が入り込んだ店内を見渡しながら、当時の思い出が徐々に蘇えらせながら席についた。お好み焼き専門店『てんこ森』に足を踏み入れた2人は、空いた座敷に腰を下ろし、注文をした後美華が口を開いた。

 

「今日はあたしが奢るよ。心配すんなって。お金はちゃんと持ってきたからさ」

「……」

 

それを聞いて、正史は不意にカバンの中に入ってある自身の財布に手を置いた。どうやらまだ盗られてはいないようだ。表情には出さなかったが、内心焦っているに違いないと確信した美華は、声に出さずに笑い続けた。

しばらくして具材が運ばれてきたので、2人は早速焼き始める。すると美華が、こんな事を言い始めた。

 

「そういやあんた。前にここに来て最初に焼き始めた時、青のりの入った缶を思いっきり鉄板にぶちまけた事あったよね。不器用なのは分かってたけど、あそこまでとは思わなかったよ」

「あぁ、そうだったな。けど流石にもう今は……」

 

正史が苦笑いしながら、青のりの入った缶を手に持って、蓋を開けた瞬間、衝撃で手が滑って、まだ火の通っていないお好み焼きの上やその周りの鉄板に、青のりが散乱した。

 

「「……」」

 

気まずい空気が漂う中、2人はなるべく周りに悟られぬように、ヘラで青のりをお好み焼きの上に静かに乗せた。再び会話が始まったのは、お好み焼きが出来上がってからの事だった。

 

「……うん。やっぱあんた、全然変わってないよ。変わってないって言えば、あんたが靴脱いだ時に気づいたんだけど、靴紐が解けてたよ」

「……ゲッ⁉︎」

「あれだけ直す癖つけとけよって言ってたのにさ。一緒にいるこっちが恥ずかしくなってたよ、あの時は」

 

美華が、正史の脱いだ靴に目線を向けると、正史もそれに続く。恥ずかしくなって顔を俯かせる正史に、8等分に切り分けたお好み焼きを正史の前に置いた。

 

「ほら、食べよ。冷めちゃうぞ」

「あ、あぁ」

 

正史は頷くと、箸でお好み焼きを摘んだ。形がしっかりしており、自分とは正反対の器用さがよく出ている。味も中々に良かった。これならトップスピードと良い勝負が出来るかもな、と正史が思うほどに。

しばらく食事を堪能した後、不意に美華が水の入ったコップを置いて、ポツリと呟いた。

 

「……あ、あのさ」

「?」

「今日は、ありがとね。その……、助けてくれて。後、酷い言い方してゴメン。あの時のあたし、どうかしてたよ。1人で気を張っちゃって、無茶やらかして……。あんたが来てくれなかったら、キャンディー集めどころじゃなかったかも」

「俺1人が、ってわけじゃないだろ。北岡さんや真琴ちゃんも来てくれたから、助かったんだ。俺だっていつもトップスピード達とキャンディー集めしてる時は、助けられてばっかりだしさ。オルタナティブやウィンタープリズンと一緒にいた時も、そうだったんだろ?」

「……そうね。そうだった。シスターナナも含めた4人で、いつも街の平和を守ろうって、正しい魔法少女や仮面ライダーでいようって、決めてた。最初はそんな事、これっぽっちも考えてなかったのにさ」

 

どこか自嘲気味に話す美華を見て、正史はずっと気になっていた事を尋ねた。

 

「なぁ、1つ聞いていい?」

「何? 答えられる範囲でなら」

「美華はさ。どうして『仮面ライダー育成計画』をやりだしたんだ? 『魔法少女育成計画』じゃなくて」

「あぁ、その事ね」

 

美華は水を一口含んでから、仮面ライダーファムになった経緯を明かした。

 

「1つは、単純に魔法少女なんかよりは、仮面ライダーになった方が、カッコいいかなぁって思ったんだ。あたしにシスターナナや、それこそあんたの相棒のトップスピードみたいな格好は似合わないだろうし」

「うん。俺もそう思う」

 

そう呟いた直後、正史は顔面に威力の弱い不意打ちの右ストレートを受けて、呻き声と共に鼻を押さえた。美華はため息をつきながら、話しを続けた。

 

「まぁ、都市伝説程度には、本物になれる可能性があるって聞いてたよ。まさか本当になれるとは思わなかったけどさ。でも、あたしにはあの格好がしっくり来たよ」

「そ、そっか……。あ、でも『1つは』って事は、まだ理由があるのか?」

「もう1つは……。……もしなれた時には、この力で、浅倉を殺そうって決めてた」

「……」

 

正史の表情が、隣の席で焼きあがったお好み焼きの如く固まる。

 

「あいつは、お姉ちゃんだけじゃなくて、色んな奴を殺してきた。なのに、誰もあいつを止められない。あんな怪物を倒せるとしたら、それって仮面ライダーや魔法少女みたいに、人並み外れた力じゃなきゃ、もうどうにも出来ない気がしたんだ」

 

美華の胸の内を聞いた正史は、複雑な気持ちになりながらも、口を開いた。

 

「お前の気持ち、分からなくもないよ。ほら、最初にお姉さんの事を話してくれた事あっただろ? あの時、俺も浅倉の事、許せないって思った。……けど、今の仕事やり始めるうちにさ。浅倉ほどじゃないけど、色んな犯罪者の取材をやってくうちに、段々、考えが変わったっていうか……。浅倉だって、1人の人間だし、そういう意味だとさ……」

「意味だと……?」

「死んでも、殺されても良い奴だなんて、言えなくなったんだ」

 

正史の話を聞いた美華は、どこか納得した様子で小さく頷いた。

 

「やっぱりね。あんたならそう言うと思った。ってかここであたしの予想を裏切るような言い方してたら、あんたとはとっくに縁をバッサリ切ってただろうし」

「ちょ、そんなザックリ言うのかよ……⁉︎」

「相変わらずのバカっぷりは健在、か。でも、あんたらしいよ。正史、あんたがシローのスカウトでライダーに選ばれた理由。ちょっと分かるかも」

「そ、そうなの……?」

 

正史が首を傾げる様子を、美華は笑っていた。こんなにも笑ったのは、本当に久しぶりだ、と自分に言い聞かせながら。

それから会計を済ませた後、店を出た2人。しばらく歩いたところで、美華は立ち止まり、正史の方を向いて、ある事を話し始めた。

 

「ね、ねぇ正史」

「? 何?」

「あ、あのさ……。もし、あんたが今でも変わってないって自覚出来てたらさ。その……、もう一度、あたしと……」

 

頬を紅く染めて、モジモジし始めた美華を見て、正史は再び首を傾げた。

 

「な、何だよ急に……。トイレでも行きたいのか? だったら早く……」

「なっ……⁉︎」

 

これを聞いた美華は、別の意味で顔を紅くして、足を振り上げると正史の、男の急所とも呼ばれる部分に一撃を与えた。

 

「ってぇ⁉︎ 何すんだよ!」

「……バカ」

「本当にどうしたんだよ……。ってか俺がトイレ行きたくなった! 何か変な事言ってたら謝るけどさ! ちょっと待ってて!」

 

そう言って正史は、少し離れた場所にあるトイレへ直行した。正史の姿が見えなくなったところで、美華はやれやれといった表情で、近くの壁にもたれかかった。

 

「(正史とこんなに話したのって、何年ぶりだっけ)」

 

そう思い始めた美華の顔は、段々と笑みがこぼれていた。

 

「(最初はあいつの方が良いって思ってたのに、何か正史以上に恋愛云々に関して不器用過ぎだったからなぁ……。まぁ正史も正史でからっきしだったけど、嫌な気分にはなれなかった。……早く終わんないかなぁ、こんな戦い。終わったら今度こそ正史に……)」

 

そこまで呟いたその時、不意にある事を思い出した美華。

 

「(そういや、まだこないだの事聞いてなかったな。あの時あたしとシスターナナを助けてくれたのって、本当にあいつだったのか……)」

 

美華が、正史が戻ってきた時に改めてその事を聞き出そうと思っていたが、どういうわけか、正史は未だに戻ってこない。

 

「……おっそいなぁ。何やってんのよ」

 

美華が首を動かしながら待ちくたびれていた、その時だった。不意に美華の首に締め付けられるような感覚に襲われた。

 

「⁉︎」

 

それは、背後から手で握りしめているような気がしたので、慌てて振りほどいて、美華は目を見開いた。

美華の立っていた後ろの壁には鏡が設置されていたのだが、その鏡の中から、左腕を伸ばしている者の姿が。黒い装甲に赤い複眼。それは間違いなく、先日美華達を助けて、ユナエルを殺したライダーだった。その容姿は正史の変身する龍騎の色違いとも言えたが、その人物から発せられるオーラは、正史とは全く別ものだ。

 

「……龍騎、じゃない。お前、誰なんだ……⁉︎」

「……俺は、リュウガだ。仮面ライダーリュウガ」

「リュウガ……」

 

リュウガと名乗るそのライダーは、右親指を美華から見て左に向かって振った。ついて来い、と言っているようだ。

美華は鏡から距離を置くと、カードデッキを取り出して、突き出した。

 

「何のつもりか知らないけど、あたしを殺そうってんなら、返り討ちにしてやる!」

「……」

「変身!」

 

腰に現れたVバックルにカードデッキを付けて、仮面ライダーファムに変身したのを確認したリュウガは、指で指した方向へと姿を消した。ファムも後を追うように鏡の中に存在する世界、ミラーワールドへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 




次回、遂にファムとリュウガの一騎打ちが繰り広げられる!

「戦わなければ生き残れない!」

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