魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回、遂に6人目の脱落者が……!


54.届かぬ手

亜柊 雫は、男女共に周りから終始注目の的となっていた。

その一番の要因は、やはりルックスだろう。背も高く、シュッとしたスタイルに、何より特徴的な美貌。端から見れば男性とも間違われても不思議ではない。

幼少期からノーブルな雰囲気、ボーイッシュなファッション、端整な顔立ちが確立しており、親でさえどうしてこうなったのか首を傾げていたほどだ。幼稚園、小学校、中学校、高校、そして大学へと、常に雫は周りから注目の的となっていた。無論雫も一途な乙女だ。交際経験もそれなりに豊富だった。(男女問わず)

が、どれも長続きしなかった。どうもしっくりくる相手では無いな、と雫が思ってしまうと、自然と自分から遠ざかってしまい、やがては破局となる。そんな事の繰り返しが続き、段々と周りからチヤホヤされる日々に飽きが生じ始めた頃、1人の女性との出会いが、彼女に運命の赤い糸を感じさせた。

羽二重 奈々。初めて彼女というものをしっかりと見たのは2年生の春、応用数学のゼミでの事だった。当時担当だった香川 俊行からのガイダンスを受けている最中、ふと目が合った途端、雫の心中に不思議な感性が芽生え始めた。俗に言う幸せな気分というやつだ。最初はそれぐらい漠然としていて、何だか分からなかったが、ゼミで一緒にいる時間が増えたり、偶然入部しようとしたスキーサークル部に奈々の姿があった時から、次第に彼女に雫自身が惹かれ始めた。それ以降、雫は奈々にお菓子をお裾分けしたり、帰りに駅まで送って行ってあげたりと、積極的に近づいた。何度も交流を深めていく内に、奈々の方から、好きな人がいるのかと聞かれた瞬間、雫は決心した。

彼女の笑顔を見る度に、自分は幸せになれる。退屈していた自分に良い転換期を与えてくれた。ならば、それに見合うだけの態度をとらなくては。あの笑顔を守ろうと思った雫は、今度1人で見ようとしていた映画のチケットを差し上げ、しまいには指輪まで購入し、彼女に手渡そうとまで計画していた。正式に交際を申し込む為だ。

が、計画実行の当日、やってきたのは、少し太り気味な奈々ではなく、コートを着た目がキラキラした美女だった。奈々の友人らしい人物と共に、その日は過ごす事となり、雫は内心ガッカリした。

だが、これで諦める彼女ではなかった。以降もアプローチを続け、奈々が好みそうな事は何でもやった。すると、そんな雫の想いが届いたのか、奈々の方から正式な付き合いを申し込まれたのだ。無論即座にそれを承ったのは言うまでもない。

こうして雫と奈々、同性愛という数奇な運命で新たな生活が始まった。誕生日が近づいた頃にマフラーをプレゼントしてくれた時は、大変喜んだ。そんな日々が続いてしばらくして、雫は奈々から『魔法少女育成計画』と呼ばれるアプリを勧められた。無課金という事もあったが、奈々の頼みを断るわけもなく、言われるがままにプレイし続けた。『ヴェス・ウィンタープリズン』という名前は、奈々がつけてくれた名称だ。その間、奈々は日に日に奇妙なアイテムを持ち出しては雫に近い所で起動させていたのが目に付いたが、彼女自身特に気にする事はなかった。

そして『魔法少女育成計画』を始めて何週間か経った頃に、雫は本物のヴェス・ウィンタープリズンになった。鏡を見て自分の姿が変貌している事に、当初は大変驚いた。が、その直後、もっと驚くべき事が。背後から奈々に呼ばれて振り返ると、そこにいたのは以前映画を観に行った際に現れた、『奈々の友人』と語っていた女性。そう、それこそが、奈々が同じ魔法少女育成計画を経て変身した、『シスターナナ』だったのだ。奈々の友人だとばかり思って奈々への想いを赤裸々に語ってしまっていた事を思考えると、余計に恥ずかしくなった。

こうして2人の関係はより濃密なものとなり、互いに魔法少女として有意義な時間を過ごしていた。野蛮な行為を繰り返している事で有名なカラミティ・メアリと王蛇に、シスターナナが忠告した際に襲いかかってきて、ウィンタープリズンが魔法を駆使してシスターナナを守ったり、ゼミの先生である香川改めオルタナティブや、同じゼミ生の霧島 美華改めファムと出会ってチームを組んだりと、様々な出来事があり、ウィンタープリズンは毎日が充実していた。そして思う。

こんな日々が、何時までも続けば良いのに……、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(……けど、幸せは何時までも続くわけじゃない、か)」

 

誕生日プレゼントとして受け取った、思い入れのあるマフラーを首に巻いている雫はそう自分に言い聞かせながら、門前町の付近に差し掛かり、周りを警戒しながら歩いていた。

1ヶ月半前から突如として始まった、魔法少女及び仮面ライダーの座をかけた戦い。最初はキャンディーの数の競い合いだったルールが、いつしか奪い合い、果てには生き残りをかけた殺し合いへと悪い意味で発展してしまっていた。つい先日、殺し合いの最初の犠牲者として、先生であるオルタナティブがベルデに殺された。冷酷にも、九尾を含めた教え子達の目の前で。

あれから数日間、奈々はショックのあまり、みるみる内に生気を失っていた。笑顔を見る機会も少なくなった。雫は猛烈に腹を立てた。あんな奴を野放しにしていては、奈々を幸せになど出来るわけもない。

そして彼女は1人、ベルデや彼が従える者達への復讐を決めた。が、手がかりもない状態では、動こうにも動けない。そう思っていた矢先、雫はベルデ達の拠点に繋がるデータを、ゼミの教室に置かれていた香川の遺品を整理していた最中に発見したのだ。香川が独自で調査していたようだが、門前町の王結寺を拠点にしている可能性が大いにあるという情報は、彼女を奮い立たせた。敵の位置は特定した。後は体調を万全に整えて、敵を一網打尽にする。

だが、同じチームメイトのシスターナナやファムはもちろん、ウィンタープリズンと同様、ベルデへの復讐に燃えている九尾を巻き込むわけにはいかない。何よりシスターナナを狙ってくる可能性も低くないため、人数差で彼女まで守りきれるかというと、少しばかり厳しいと思うところがあった。そこでシスターナナへ、少し用事で遅れるとメッセージを送って、彼女を引き離した。

 

「……」

 

これで良い、と雫はマジカルフォンと取り出しながら心の中で呟いた。

奈々の大切なものを、笑顔を守れるのなら、人を何人殺めても後悔はしない。この先奈々から嫌われても。その決意を胸に、雫は門前町への案内板の前に立ち、周りに誰もいない事を確認してから、マジカルフォンを構えた。

 

「……許せ、奈々。君に嘘を付いた事は一度もなかった。けど、私はやらなければならない。この復讐は、必ず成就しなければ、ならない。君の理想とも言える、魔法少女と仮面ライダーの在り方を否定する者を排除する為に」

 

そして、雫は叫ぶ。愛する奈々を守る為に。先生の仇を討つ為に。

 

「変身!」

 

マジカルフォンをタップして、ヴェス・ウィンタープリズンに変身した雫は、なるべく足音を立てずに王結寺へと直行した。

門の前に立ち、静かに扉を開く。顔を最低限出して周りを確認する。誰もいない。が、人の気配はあるような気がする。出来れば全員が寺の内部にいる事を確認してから、魔法の壁でまとめて息の根を止めたいところだが、下手に手をこまねいていると、気づかれて抹殺どころではなくなる。

頃合いだ。そう思ったウィンタープリズンは魔法を行使し、壁を王結寺の周りに立てて、一気に崩して押し潰そうとする。

 

『CONFINE VENT』

 

……が、そう上手くいくわけもなく、どこからともなく聞こえてきた電子音と共に、壁はボロボロと崩れ落ちた。

 

「や〜っぱ来たね。ラクショーラクショー」

 

その声と共にウィンタープリズンの背後に現れたのは、ガイとベルデ、たまだった。

 

「どうやって居場所を突き止めたのかは知らねぇが、ここで消せば関係ねぇ。お前も邪魔だ」

「……」

 

ウィンタープリズンはベルデから視線をチラッと外して近くのカーブミラーに目をやった。そこには彼らの契約モンスターでもあるメタルゲラスとバイオグリーザが睨みつけている。見張りの役割をしていたようだ。

が、ウィンタープリズンは3人を前に、依然として狂気の笑みを崩さない。

 

「あん? 不意打ちが失敗して、頭でもおかしくなったか?」

「まさか。こうして妨害してくる事ぐらいは、想定内さ。今君が使ったコンファインベントは、使用すればしばらくは使えない。私もしばらく魔法が使えない以上、これを使わせてもらう」

 

そう言ってウィンタープリズンはマジカルフォンを素早く取り出すと、タップしてパートナーの武器であるウィングスラッシャーを右手に持ち、3人に飛びかかった。

 

「ひゃあ⁉︎」

 

たまは恐れをなして逃げ惑い、ガイとベルデは即座に反撃に出た。ウィングスラッシャーを振り回し、なるべく相手を近づけさせないように交戦するウィンタープリズン。

 

「へぇ、ちょっとは楽しませてくれそうだね」

 

『STRIKE VENT』

 

ガイは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、メタルホーンを召喚してウィンタープリズンに向かって突き出した。武道に長けているウィンタープリズンと、簡単には崩せない攻撃と防御を兼ね備えたガイが互角の勝負を繰り広げている中、

 

『CLEAR VENT』

 

ベルデがカードをベントインして、姿を消した。そしてガイとの一騎打ちに意識を向けていたウィンタープリズンの背後から忍び寄り、羽交い締めにした。

 

「くっ……!」

「後ろがお留守だぜ!」

 

ベルデはそのまま彼女を門の中へ連れ出し、隙を見てガイがウィンタープリズンを蹴り飛ばすと、ウィンタープリズンは吸い込まれるように王結寺の内部へと転がり込んだ。

慣れない背中の激痛を少しでも和らげようと寝転がっていたが、瞬時にそんな余裕がない事に、ウィンタープリズンは気がつく。内部で待機していたアビスとスイムスイム、タイガが一斉に襲いかかってきたからだ。アビスは2刀のアビスセイバーを、スイムスイムは先日購入した薙刀、通称『ルーラ』を、タイガは斧状のデストバイザーを構えている。ウィンタープリズンは起きて身を翻し、奇襲を避けた。続いてガイとベルデが内部へ突入し、周りを5人に囲まれる形でウィンタープリズンは対峙した。

 

「(この数じゃ、ウィングスラッシャーだけでは難しいか……)」

 

そこでウィンタープリズンはマジカルフォンをタップして新たに武器を出した。白鳥の翼もモチーフにした盾『ウィングシールド』を取り出し、攻守を強化させた。

ガイとアビスの突きはウィングシールドで難なく防御し、ウィングスラッシャーでスイムスイムとタイガを薙ぎ払う中、ウィンタープリズンは密かにチャンスを伺っていた。彼女の目的は敵であるベルデチームの排除。だが、最初から一気に畳み掛けるつもりはない。先ず真っ先に狙うべきは、チームを統制するリーダー。彼らがオルタナティブという軸を潰したのなら、こちらも同じようにリーダーという柱を切り崩せば、後は脆くなった部分、つまり戦意を失ったチームメイトを片っ端から倒していく。

ウィンタープリズンは飛び上がり、壁に足を当てて、余裕そうに眺めているベルデに向かって、壁を踏み込んで加速して、ウィングスラッシャーを突き立てる。

 

「これなら……!」

「……フッ」

 

対するベルデは、隣にある何もない空間に手を伸ばした。するとどうだろう。何もなかったはずの空間に、突如として見覚えのある人物が驚きと恐怖に満ちた表情でベルデに掴まれている状況に陥った。

 

「! ナナ……!」

 

ベルデが突き出したのは、シスターナナだった。足元には布切れが落ちている。透明外套で姿を消されていたようだが、そんな事はウィンタープリズンにとって問題ではない。重要なのは、目の前にあえて隔離しておいたはずのシスターナナがベルデ達の所にいたという事実だった。

 

「(人質にされていたのか……⁉︎)」

 

突然、愛する者が目の前に現れた事で、ウィンタープリズンは思わず彼女を傷つけないようにとウィングスラッシャーを逸らし、足を止めた。

が、それが命取りとなった。

 

「ガッ……⁉︎」

 

気づいた時には、背中に熱さと痛さを感じ、血しぶきが流れた。ウィンタープリズンはよろめきながら後ろを睨んだ。タイガがデストバイザーでウィンタープリズンの背中を斬り裂いたようだ。武器を手離してしまい、血を垂らしながら踏ん張るウィンタープリズンのもとに、ベルデを無理やり振りほどいたシスターナナが駆け寄ってくる。シスターナナのその行為に、一瞬だけ思考が停止する。

何かが違う。目の前の人物は、確かにシスターナナの姿をしている。だが、中身が違っているような……。

と、一心不乱に情報を整理していた、そのわずか数秒間が、ウィンタープリズンに致命的な一撃を与える事となる。

 

「……っあ⁉︎」

 

不意に胸元が熱くなり、下を向いてみると、短剣が刺し貫かれている。心臓ど真ん中だ。

 

「ゴファッ……」

 

口から血を吐き出し、前のめりに倒れようとするウィンタープリズンに、血の付いた短剣を持つシスターナナが蹴りを入れる。

一体何が。困惑しているウィンタープリズンの目の前で、シスターナナはグニャリと変形した。短剣も同じく。やがて『シスターナナ』だったものは左肩から翼が生え、右足にリボンのついた天使に。『短剣』だったものは、右肩から翼が生え、左足にリボンのついたもう1人の天使に変化した。

 

「やったやったー! こーんな単純な偽物に引っかかるなんてね〜! やっぱバカップル丸出しじゃん!」

「あいつ刺されるまで全然気づいてなかったしー!」

 

そう言って笑いながらハイタッチしたのは、魔法でそれぞれに化けていたミナエルとユナエル、ピーキーエンジェルズだった。そこでようやくウィンタープリズンも理解し、笑みを浮かべた。何故強靭な肉体を持つウィンタープリズンに短剣如きで刺し貫けたのか。何故シスターナナに化けて武器を持つ目の前に姿を現したのか。

が、この時ウィンタープリズンの浮かべた笑みには、敵の愚かさをせせら笑っているという意味が含まれていた事を、彼らは知らない。

 

「ハァッ!」

 

この時ウィンタープリズンは、自分の死期を悟った。心臓からの出血は激しく、息も続かない。だが、このまま死んでしまっては、シスターナナに嘘をついてまでここに来た意味がない。為すべき事を果たす為に、ここで誰かを殺す。

ウィンタープリズンが手を床につけると、床板を割って、何枚もの土壁を形成した。時間が経って、ガイのコンファインベントの効力は切れていたのだ。

 

「おわっと……!」

「ぐっ……!」

 

パーティーを分断された。そう思った時には、壁は迷宮の如くせり上がって、彼らを閉じ込めた。それはまるで牢獄のようだったと、外から様子を伺っていたたまは、後に呟いた。

 

「ちょっ⁉︎ こいつ何でまだ生きてんの⁉︎」

「ちゃんと心臓刺したよね⁉︎ 分かんないし!」

「ってかこれ閉じ込められちゃったよね⁉︎」

「ヤバイよお姉ちゃん!」

 

特に慌てふためいたのは、ウィンタープリズンの近くで閉じ込められたピーキーエンジェルズ。どこから離脱しようとも、目の前に広がるのは壁、壁、壁。

こっちはダメ、なら向こうは、と行き来を繰り返している間にも、ピーキーエンジェルズは気づいてしまった。壁が迫り、いつの間にか逃げ道が全て塞がれて、身動き1つ出来ないぐらいに密着してしまっていた事に。

双子の天使達が動揺する中、貴公子の魔法少女は、普段からは想像もつかないような狂気に満ちた笑みを、2人に向ける。

 

「ナナに変身とは……。見事にしてやられたよ。……でも、変身を解いたのは、ハズレだ」

「「ハァッ⁉︎」」

「例え偽物だと知っていても、シスターナナの姿のまま、トドメを刺せていれば、こんな風には殺れてなかったって事さ!」

 

そう叫んで、ウィンタープリズンは左手を硬く握り締め、土壁に閉じ込められている、最後の最後で墓穴を掘ったピーキーエンジェルズめがけて突き出した。

狙うは天使達の体。逃げ場はない。ピーキーエンジェルズはどうする事も出来ず、体のあちこちから血を流しているウィンタープリズンの一撃を真正面から受け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『CONFINE VENT』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……る事はなかった。

何故なら、壁の外から聞こえてきた電子音と共に、壁が消滅し、自由の身となったピーキーエンジェルズは左右に飛んで、ウィンタープリズンの突きが空を割いたのだから。

 

「なっ……⁉︎」

「ひゃ〜、あっぶなかったぁ!」

「ありがとうガイ! マジ助かった!」

 

ウィンタープリズンは困惑した。壁が消えたのは、間違いなくガイの持つコンファインベントの影響だ。だが、彼は最初にウィンタープリズンが奇襲しようとした際に無力化する為に使っていた。まだあれから時間が経っていないにもかかわらず、何故同じカードが使えたのか……?

攻撃を外して前のめりによろめくウィンタープリズンに、ガイの冷ややかな一言が突き刺さった。

 

「へっへっへ。驚いたでしょ? カードは1枚だけじゃない(・・・・・・・・)んだよねぇ〜」

「……!」

 

やられた。ウィンタープリズンは己の思考を恥じた。

その可能性までは考察できていなかった。つまりガイは、『使用したカードを何らかの能力で再利用した』のではなく、『2枚あった同じカードを、2回使用した』だけだったのだ。考えても見れば、ライダーシステムにおいて、アドベントやファイナルベントのカードはともかく、それ以外に特殊能力系のカードは2枚以上持てないという定理はない。

仕留め損ねてしまったショックからか、意識が薄れ始めていく。だがまだ諦めない。ガイに向かって拳を振るおうとした瞬間、突き出した右手が、音もなく切断された。ゆっくりと隣に目をやると、スイムスイムが血の付いた『ルーラ』を構えている。その鋭い刃先で右手を切断したようだ。

膝をついたウィンタープリズンは飛んでいく右手をぼんやりと見送っていた。

 

「(あの手で、あの指で、奈々の髪を梳いてあげるのに必要なのに……)」

 

ウィンタープリズンは、雫は、宙を舞う右手を掴もうと、左手を伸ばす。が、その左手も吹き飛び、血しぶきが両手の先から流れ落ちた。今度は左に目をやる。そこには、血の付いたアビスセイバーを構えたアビスと、腕組みをしながら道端のゴミを見るような目つきで見下しているかのように立っているベルデの姿が。

不意に、走馬灯の如く脳内を駆け巡る、奈々とのこれまでの思い出。その何れにも、太陽のように眩しい、愛おしき奈々の笑顔がある。

 

「……奈々。最後、に、もう、一度、君の、笑顔、が……。見たかった、なぁ……」

 

どうか、無事に生き残ってくれ。奈々、美華。

ウィンタープリズンの姿が解け、亜柊 雫となった彼女は、両手のない腕を天に伸ばしながら、弱々しく笑みを浮かべると、そう刹那に願いながら、血の海に伏した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その6≫

 

【ヴェス・ウィンタープリズン(亜柊 雫)、死亡】

 

【残り、魔法少女13名、仮面ライダー13名、計26名】

 

 

 

 




ヴェス・ウィンタープリズン、誰1人殺せずここに散る……!

というわけで2人いる内の、先ず最初の脱落者は、皆さんも予想されてたと思いますが、ヴェス・ウィンタープリズンとなりました。

後々アニメや原作、短編集を見返したのですが、ウィンタープリズンもスイムスイムやカラミティ・メアリとはまた別の意味で、頭のネジが外れているような気がするんですよね。大切な同性の為に、結婚指輪を買ったりとか、人を躊躇いもなく殺すとか、ある意味で危険人物の1人だと個人的には思います。(まぁ少なくともファヴよりはマシかと……)

さて、次回でもう1人の脱落者が発表されます。

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