魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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もうお気づきかもしれませんが、今回のタイトルは、第3話と対になっています。理由はもちろん、あの魔法少女が登場するから……。

てなわけで、今宵九尾達はあの魔法少女とご対面!


53.黒き魔法少女

『兎の足。持ってて大ピンチになったら、ラッキーな事が起こるかもしれないアイテムぽん』

「んな事は分かってる。俺達が聞きたいのは、どうしてこれがスノーホワイトの手に渡ってるのか、だ」

 

王蛇からの襲撃を受けた翌日。小雪の家にはパートナーの大地と、道中で出くわした手塚が、小雪と共に彼女の自室でファヴと話をしていた。

机の上には、白くフワフワした毛の塊が置かれている。先日レアアイテムとして登場した『兎の足』である。だが、これは本来寿命6年という代価を払って購入できる代物だ。スノーホワイトこと小雪がそれを持っている事に気付いたのは、王蛇と途中から現れた黒い魔法少女の戦闘から離脱した後だった。

 

「どうして、私がこれを……」

『誰かが落としたのを拾っちゃったとかがあり得るぽん』

「なら1つ質問させてもらおうか。この兎の足は、誰が購入したものだ? 売りに出した以上、それぐらいの記録は残ってるはずだ」

 

手塚の質問を受け、ファヴは詮索するためにしばらく黙り込んでいたが、やがて1人の名を告げた。

 

『あぁ。それは、ハードゴア・アリスが購入したものぽん』

「ハードゴア、アリス……?」

 

聞きなれない人物名に、小雪は首を傾げた。大地も疑問に思ったのか、手塚に顔を向けた。

 

「手塚さん。知ってますか? その人の事」

「いや、俺も初めて聞く名だな……。ただ、心当たりはある。キャンディーの競い合いが始まった頃に入ってきた16人目の魔法少女。その人物とは面識がないから、おそらくは……」

『ちなみにハードゴア・アリスは、不思議の国のアリスの真っ黒バージョンみたいな子ぽん』

 

それを聞いて、大地と小雪は確信した。

昨晩2人の目の前に現れ、王蛇に背後から首を切断され、そして王蛇を殺そうと、首から上のない状態で立ち上がり……。

そこで小雪は、口元を抑えた。込み上げてくる吐き気を抑えているようだ。ここのところ穏やかでない事ばかり続いた影響なのだろう。そんな彼女を見て、ファヴは体を揺らしながら平然と語り出した。

 

『まぁまぁ。何が起きたって正気失うような事はないから、そこは安心してほしいぽん。魔法少女も仮面ライダーも、精神的だったり肉体的だったりと、健やかじゃないとやってけない商売ぽん』

「テメェ……! それ以上知ったような口聞くなよ……!」

 

ファヴの呆気からんとした呟きに、大地は苛立った。

 

「全くだ。そもそも彼女がここまで精神的に追いやられたのも、君達の管理能力の低さが原因だという事を自覚してないのか?」

 

さすがの手塚も、逃げ道を封じるかのような発言に憤りを覚えたらしい。が、ファヴはそれ以上語ろうともしない。小雪も、さっさとファヴとの会話を打ち切ろうかと思ったが、そんな勇気は彼女には無かった。

今定義すべきは、兎の足の処理だった。首が斬り落とされても平気だったハードゴア・アリス。龍騎達と合流して以降、チャットを何度か覗いてみたものの、ハードゴア・アリスや王蛇といった、脱落者の名前は無かった。つまりあの2人は、今も生きている。

ハードゴア・アリスは、小雪が兎の足を所持している事をどう思うのか。落し物を偶然拾ったなどという好意的な解釈をしてくれるのか、判断しにくいところはある。下手に手を打てば、また新たな争いの火種になりかねない。彼らがファヴを呼び出した理由も、そこにあった。

 

「これ、返してもらえない?」

 

小雪がファヴに向かって兎の足を差し出すが、ファヴはフワフワと漂いながらこう答える。

 

『いやいや。そういうのは直接交渉してもらわないと困るぽん。いくらマジカルフォンが便利だからって、転送機能まで付いてるわけじゃないぽん。でも、ハードゴア・アリスと連絡つけてあげるくらいならファヴにも出来るぽん』

「それが嫌だから頼んでるのに!」

 

ファヴのあんまりな言い方に、小雪も癇癪を起こして、机に突っ伏して泣き始めた。大地と手塚はファヴを睨むが、本人は平然としている。

それから5分経って、ようやく小雪は泣き止んだ。

 

「……大丈夫か」

「……うん。ちょっとだけ、すっきりしたかも」

 

目を腫らしている小雪を見て、大地は複雑な心境になった。と、その時、小雪のマジカルフォンから音が鳴り響いた。ファヴが真っ先にチェックすると、3人に告げた。

 

『シスターナナからの連絡ぽん』

「シスターナナ、から……?」

 

連絡してきた相手はシスターナナだった。

今夜、会わせたい人物がいるとの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩、九尾、スノーホワイト、ライアの3人は、龍騎、トップスピード、ナイト、リップルを引き連れて、シスターナナが待ち合わせ場所に指定してきた廃スーパーへと足を運んだ。

 

「あぁ。皆さん。お久しぶりです」

 

中ではシスターナナが7人を出迎え、後方ではファムが立っていた。が、何故かファムのパートナーでもあるヴェス・ウィンタープリズンの姿はない。

 

「……ウィンタープリズンは?」

「先ほど連絡があって、少し野暮用を済ませてからこちらに向かうとの事です」

 

シスターナナの説明が終わると、ファムが気になった事を尋ねた。

 

「ラ・ピュセルは……、来てないみたいね」

「あ、はい……。まだ魔法少女姿でも足が痛むらしくて……。もう少し時間がかかるそうです。それに……」

「……そうよね。先生の件もあるし、しばらくそっとしておいた方が良いかもね」

 

ファムの一言で、空気が重くなった。この場にいなくなってしまった1人の仮面ライダーの喪失感は、想像以上に堪える。

そんな暗い雰囲気を払拭するかのように、シスターナナは口を開いた。

 

「今度ラ・ピュセルに会う機会がありましたら、私達の事もよろしく伝えておいてください」

「はい」

「それよりも、早く要件を伝えろ」

 

ナイトが待ちくたびれたと言わんばかりに、本題に移行した。シスターナナが7人を呼んだのは、誰かを会わせる為だと言っていたが、果たして……。

 

「そうでしたわね。実は、私の考えに共鳴してくれる魔法少女が現れまして」

「お前の……?」

「えぇ。それで今晩、こちらにお招きして、皆さんに紹介しようと思いまして。……ファム、お願いします」

「もう出てきても良いわよ」

 

ファムがスノーホワイト達から目線を外して声をかけたのは、7人の後方、つまり彼らが入ってきた入り口の方だった。一同がそこへ視線を向けたその時。

 

「っあ……⁉︎」

「お前は……!」

 

スノーホワイトは短い悲鳴をあげ、九尾は仮面の下で目を見開いた。

そこに立っていたのは、白い兎のぬいぐるみを抱いた、真っ黒い不思議の国のアリス。見間違えるはずもない。昨晩九尾とスノーホワイトの前に現れ、首を切断されながらも、王蛇を追い払った魔法少女。そんな彼女が、元に戻った状態で再び2人の前に姿を現したのだ。

一方で、初めて目にする龍騎、トップスピード、ナイト、リップル、ライアは何とも言えない気持ちで魔法少女を見つめていた。

 

「……え? 誰、この子? みんな知ってる?」

「いや、俺も初めて見る奴だなぁ……。ライアは?」

「俺も同じく。ただ、ひょっとして君が16人目の魔法少女、ハードゴア・アリスなのか?」

「……」

 

黒い魔法少女……ハードゴア・アリスはコクリと頷くと、九尾とスノーホワイトの前に歩み寄った。

 

「……お前、生きてたのか。でもあの時……」

「……あら? あなた達、知り合ってたの?」

「はい。知り合い、です」

 

九尾が昨晩の事を口に出す前に、ハードゴア・アリスは先んじてファムに答えた。言い出すタイミングを見失ってしまった九尾は黙り込み、スノーホワイトは彼の背中に隠れて震えていた。

 

「彼女の魔法、とても素晴らしいものなのですよ。見ているこちら側としては気分が良いわけではありませんが……」

 

シスターナナの言い方に引っかかる九尾達だが、それは次のアリスの行動で明らかになった。

アリスが懐から取り出したのは、1本のサバイバルナイフ。それを、九尾やスノーホワイトに見せつけるように突き出した左腕に向かって、思いっきり突き刺した。当然左腕の傷口からは血がドクドクと流れている。

 

「ヒィ……!」

「っ!」

「ちょ⁉︎ 何してるんだよ⁉︎」

「ば、バカッ! やめろって!」

 

スノーホワイトが目を背け、九尾、ナイト、リップル、ライアが息を呑む中、龍騎とトップスピードが慌てふためいて、ハードゴア・アリスに駆け寄って自殺行為を止めようとした。そこへ、ファムが割って入ってきた。

 

「2人とも落ち着きなって。大丈夫よ。ほら見て」

 

ファムに言われて九尾達がアリスの左腕に目をやると、信じられない事が起きていた。

左腕からは依然として血が滴り落ちているものの、そこにあるべき傷口は綺麗さっぱり消えていた。

 

「傷が、消えた……?」

「これが彼女の魔法なのです。そうですよね、ハードゴア・アリス?」

「……はい。私の、魔法は、『どんなケガをしてもすぐに治るよ』です」

 

これを聞いた一同はどよめいた。あのナイトやリップルでさえも、目が惹かれるほどに。

 

「ま、マジで⁉︎」

「うぉっほい! そいつはスゲェな! もうアレだろ! どんだけ怪我しても治るとか、無茶苦茶っつーか、チートじゃね?」

「あまり良い表現ではない気がするが……。でも、その気持ちは分からなくもないな」

 

紳士的なライアもそう評価する中、ハードゴア・アリスは九尾とスノーホワイトの2人だけを一点に見つめて呟いた。

 

「私も、九尾や、スノーホワイト。2人がいるなら、協力します」

「ありがとうございます! あぁ、今日はなんて素晴らしい日でしょうか! 志を同じくする仲間が11人もいれば、きっと現状を打破する事も夢ではありません!」

 

いつ俺(私)がお前らの仲間になった、と言わんばかりに鋭い視線を向けるナイトとリップルのペアだったが、興奮気味のシスターナナには気づかれていないようだ。

が、不意にシスターナナは辺りを見渡し、掛け時計に目を向けると、ソワソワし始めた。

 

「? どうした?」

「あ、いえ……。ウィンタープリズン、中々来ませんね……」

「確かに変ね。こんなにも遅れてくることなんて一度も無かったはずよね」

 

シスターナナに続き、ファムも不安な声色でウィンタープリズンの事を気にかけた。

 

「私、彼女を探しに行こうと思います。皆さんはここで待っていてください」

「なら、私も向かうわ」

「ありがとう、ファム。折角ですし、もしよろしければ、ここに残る皆さんで、交流を深めていってくださいな」

 

シスターナナはそう言って微笑んだ後、ファムと共に廃スーパーを後にした。

静けさが戻り、どこからか野良猫の鳴き声が聞こえてくる。ハードゴア・アリスはジッと、九尾とスノーホワイトを見つめてくる。隈のついた両目が不気味さを増し、九尾は段々と気味が悪くなってきた。

そんな3人の様子を見つめているライアだったが、ふとある匂いが鼻についた。

潮の、海水の匂いだった。だが、この近くに海はない。さらに匂いの発信源をたどってみると、ハードゴア・アリスから漂ってきていた。ライアの視線に気づいたアリスは、腰を折り曲げて覗き込むように尋ねた。

 

「……何か?」

「いや……。君の体から海水の匂いがしてな。ここに来る前に泳いできたのか?」

「いいえ」

 

ハードゴア・アリスはそれ以上何も答えない。

必要以上の発言をしない彼女を見て、スノーホワイトはこの場から逃げ出したい気持ちに駆られたが、トップスピードがレジャーシートを広げる姿を見て、無理だと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ? うめぇだろ?」

「……はい。美味しい、です」

「だろ! 濃すぎず薄すぎず、この辺りがベストポジって感じで……」

 

トップスピードの自慢話をよそに、ハードゴア・アリスは変身を解いた大地とスノーホワイトの間に入る位置で黙々と料理を口にしていた。

今日のメニューは五目チャーハンに春巻きといった、中華料理がメインとなっていた。

リップルや、同じく変身を解いた正史、蓮二、手塚も食事にありつく中、大地とスノーホワイトは明らかに普段よりペースが落ちていた。昨晩首を切断された少女を隣にして、食欲が湧かないようだ。

 

「そういやよ。お前のパートナーってどこにいるんだ?」

「……分かりません。普段から、一緒にいるわけじゃ、ありません」

「え、そうなの?」

「アリスのパートナー……。あくまで俺の推測だが、俺がライダーになるよりも前に活動していた人物の中に1人、心当たりがある。ただ、会った事や見かけた事もない。そんなライダーだ」

「へぇ。そんな奴がいるんだ」

「……」

 

時折感じる、ハードゴア・アリスからの強い視線を浴びながら、早く帰りたい衝動に駆られるスノーホワイトだったが、不意に思い出して、ポケットから兎の足を取り出して、購入者に突き出した。

 

「これ、あなたのものだよね? 別に、盗ったわけじゃなくて、その……。気がついたら、持ってただけなの……」

 

事実を述べたはずなのに、これでは言い訳にしかなっていないような。そう思い始めるスノーホワイトだったが、当の本人は無表情のまま呟く。

 

「違います」

「え、違うって……。けどそいつはお前が」

「それはあなた方のものです」

「ち、違うよ。だってこれ、寿命と引き替えにしたアイテムでしょ? そんな大事なもの……」

「私が、お二人に、あげたから、あなた方の、ものです」

「何で、私達に……?」

 

そうスノーホワイトが尋ねると、ハードゴア・アリスは首をガクンと傾けた。その動作に、スノーホワイトだけでなく、成り行きを見ていた正史もビクッとした。

 

「気が向いた、から」

「……?」

「気が向いたから、あげました」

「それってどういう」

「気が向いたから」

 

しつこく連呼するアリスを見て、スノーホワイトもそれ以上口を開かなかった。

 

「……大丈夫、です。私、死にません。でも、スノーホワイトは、九尾は、危ない。だから、あげます」

「や、優しいんだね、ハードゴア・アリスは」

 

正史はやや緊張気味にフォローした。

その一方で、オーディンやクラムベリー、はたまた王蛇とはまた異なるベクトルの怖さを持つハードゴア・アリスを見て、背筋が寒くなり始める大地であった。

蓮二とリップルも、同じ事を思ったのか、不死身とも称される魔法少女を目の当たりにして、今まで以上に警戒心を強めている。

そんな中、手塚はただ1人、マジカルフォンを凝視していた。

 

「それにしても、ウィンタープリズンがあの場にいなかったのは、少々気になるな……」

「うんうん。どっか遠出でキャンディー集めてるのかな? ほら、ウィンタープリズンならシスターナナのためにって張り切りそうだし」

「だとしても、単独行動は危険だ。ましてやオルタナティブが殺された後だ。なおさら集団で行動すると思うが……」

 

ちょっと占ってみるか。

そう呟いて、手塚はコインを3枚取り出して、指で弾いて床に落としてみた。3回の動作が終わり、しばらく見つめ続ける手塚。大地達だけでなく、ハードゴア・アリスも興味深げに占いの様子を見つめる中、不意に手塚が目を見開いた。何かを察したようだ。

と同時にタイミングを見計らったかのように、全員のマジカルフォンから連絡が入ってきた。ファヴとシローからのメッセージだ。互いに顔を見合わせてメッセージを読んでみると、そこに書かれていたのは、新たに2人の脱落者が出たという情報と、その人物の名前だった……。

 

 

 




ハードゴア・アリスって、生き方は不器用だけど、根は優しいんですよね。(だから、そんな彼女を殺したスイムスイムはマジで許せねぇ……!)

さて、次回は脱落者の発表となります……!

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