魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今度の3月下旬に公開される「スーパー戦隊×仮面ライダー」のPVで、何故か『龍騎サバイブ』と『ゾルダ』が映ってたのですが、ひょっとしてあの2人、出演するのかな……?(15周年という節目ではあるから、無くはないかも)


49.悲しみと憎しみと懐かしき思い出

ミラーワールドでただ1人、モンスターと戦う姿を呆然と見つめている小雪。加勢しようとするよりも早く決着はついた。いや、そもそも彼女は動けなかった。もっと早く加勢できたはずなのに、それが出来なかった。理由は自分でも分からない。

彼女にできたのは、目に涙を溜めながら傷ついていくパートナーの後ろ姿を見つめるだけ……。

 

「小雪ちゃん!」

 

不意に声が聞こえてきたので振り返ると、正史が駆け寄ってきた。モンスターの気配を察知したのだろう。

 

「……あれ? 大地君は?」

「……っ」

 

小雪が息を詰まらせて、黙り込んだ。正史は訝しんだが、辺りを見渡して口を開いた。

 

「とにかくモンスターだ! 早く変身しないと……」

 

正史が電話ボックスを見つけて、近づいてカードデッキをかざそうとしたその時、ミラーの中から九尾が出てきた。

 

「! 九尾!」

 

正史が驚く中、九尾は変身を解き、大地の姿に戻った。全身ずぶ濡れで、腕からは血が出ていた。表情も濡れた髪に隠れてよく見えなかったが、覇気が感じられなかった。

 

「大地君、その腕……!」

「……大丈夫です。これくらい……」

「で、でも……!」

 

正史が大地の腕の怪我を見て不安げな表情になった時、新たに近寄る人影が。

 

「正史? それに大地も」

「美華?」

 

先に声をかけてきたのは、彼ら同様葬式に参加していた美華だった。その背後には疲れ切った表情で雫に寄り添う奈々の姿も。一方で小雪は、初めてみる女性の名を正史が美華と呼んだ事に疑問を感じていた。

 

「美華って、確か城戸さんの……。もしかして、皆さんが……⁉︎」

「……そうか。君が、スノーホワイトか」

 

いち早く察した雫は、小雪の顔を見てそう呟いた。それから地面に落ちていた制服を拾うと、大地に差し出した。

 

「マジカルフォンからモンスターの出現が知らされて、すぐに向かおうとしたんだが、ご覧の通りだ。もう君が倒したようだな」

「……」

 

雫は奈々を慰めながら、大地に問いただした。大地は無言で頷く。それから雫も同じく無言で自分が差している傘の中に大地を入れてあげた。

 

「そのままじゃ風邪を引く。親御さんも、心配するぞ」

「……ありがとう、ございます」

「それですまないが、どこか休憩できそうな場所を教えてくれないか? この区域は少々不慣れでね。奈々を休ませたい」

 

確かに今の奈々は憔悴仕切っている。後で分かった事だが、同じく行動を共にしていたオルタナティブ改め香川の死を目の前で見てしまったショックから、今日までほとんど眠れていないのだという。加えて先ほどまでの事で泣き疲れており、どこかで腰を下ろして休む必要があると判断した雫は、大地達に尋ねた。小雪と正史が口を開くよりも早く、大地が言った。

 

「……なら、俺の家が近いんで、そこにしましょう。広いんで、多分大丈夫です」

「かたじけない。では、無礼を承知で頼もう」

 

そう言って一同は大地の両親と合流した後、会話を交えて徒歩でN神社へと帰宅した。盛り塩をして、自分達の体にも塩を振ってから家に上がり、彼らは大地の自室に入ってようやく腰を下ろした。

電気こそついているが、場の空気は非常に重苦しい。

 

『……』

 

大地、小雪、正史、美華、雫、奈々はしばらく座り込んで沈黙を貫いていたが、やがて居心地が悪くなったのか、最初に口を開いたのは小雪だった。

 

「えっと……。この姿で会うのは、初めてですよね。私、姫河 小雪、です。魔法少女スノーホワイト、です」

「……そうですね。では、私達も自己紹介しておかないと。私は羽二重 奈々。シスターナナの『ナナ』は本名からとってます。そしてこちらが……」

「亜柊 雫だ。ヴェス・ウィンタープリズンの変身者だ」

「もう知ってると思うけど、私が霧島 美華。こいつの元カノ」

「私達、同じ大学の出身で、香川先生が所属しているゼミ生なんです」

 

簡単にではあるが、互いに自己紹介を終え、大地は立ち上がった。

 

「何か、暖かい飲み物持ってきますね」

「なら、私も手伝おう」

 

話したい事もあるしな、と言って雫も大地の後ろをついて行って、部屋を後にした。

残された一同は再び黙り込んだが、やがて意を決したように、奈々が口を開いた。

 

「……先生の件、本当に、残念でなりません」

 

他の一同は顔を上げて、奈々に目をやった。

 

「今日の葬儀を見ていただいた通り、先生は私に限らず、雫や美華、同じゼミ生、そして小雪さん達にとって希望そのものでした。あの方がいてくれたから、私は雫と愛し合う事をためらわずに済んだのです。それなのに、どうしてこのような悍ましい事態に先生が……!」

 

すすり泣きと共に顔を埋める奈々を見て、小雪も我慢できなくなったのか、再び目に涙が溜まり始めた。香川を悼んでくれた者がいる事に涙が出たのか、それとも彼の死を思い出して涙が出たのか、本人達にも分からないところはあった。

 

「一番起こってはいけない事が起きてしまったという事実は変えられません。ひょっとしたらベルデ達とは別に、悪意を持って誘導している者がいるのかもしれません……」

 

一瞬。小雪の脳裏にラ・ピュセルを重症まで追い込んだクラムベリーとオーディンのペアがよぎったが、その思考は奈々の次の言葉でかき消される事になる。

 

「私が最も恐れているのは、これをきっかけにキャンディーや、人助けなんて関係なくなる、ただの殺し合いが、始まってしまう事です」

「……!」

 

小雪は背筋が震え上がる感覚を覚えた。魔法少女や仮面ライダー同士で戦う。キャンディーの競い合いから、奪い合い、そして人同士の殺し合いへ。段々とシフトしていく現状を改めて理解した小雪は、誰かの手を掴みたくなった。

すると、そんな彼女に応えるかのように、奈々が勇気を振り絞って小雪の手を握った。

 

「ですが、ただ黙って現状を過ぎ去るのを待つだけでは、例え生き残ったとしても、人としての虚しさが残るだけです。このような悲劇を増やす事は許されない以上、我々は団結すべきなんです」

 

以前にも同じような事を、小雪や正史を含めた8人にも語っていた事を思い出す2人。が、今度の奈々は真剣そのものだった。

 

「改めてこちらからお願い申し上げたいのです。皆で知恵を合わせて、解決策を探しましょう」

「……私に、私達にできる事があるなら、頑張ります! リップルさんやナイトさんの方は、私も出来る限り説得します。城戸さんも、お願いします!」

「え、う、うん。(でも、あんな事言ってる2人に話なんて通じるのかな……)」

 

正史は会場の外でのやり取りを思い返していたが、小雪や奈々の真剣な表情に根負けしたのか、笑みを浮かべて頷いた。

 

「先生の死を無駄にしたくないのは、私達も同じです。協力させてください」

「……ありがとう、小雪さん! スノーホワイトの時と同様、本当にお優しい方ですね……!」

 

そう言って2人は互いに慰め合うように抱きしめた。それを見ていた正史と美華は、言いたい事を言えぬままジッと見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小雪と奈々が話し合う一方、大地と雫はキッチンでポットのお湯が沸くのを待ちながら、ティーカップを揃えたりと手を動かしていた。大地の両親は、落ち込んでいるであろう大地やその知り合いになるべく干渉しないようにと気を利かせて、別場所で休憩していた。そんな中で、2人の方でも会話が行われていた。

 

「……惜しい人を、亡くしたな」

「……はい」

 

そう呟きながら、気絶する寸前まで聞こえていた、恩師を目の前で殺した憎きベルデの高笑いを思い出したのか、拳を知らず知らずのうちに強く握っていた。それを見た雫は、ポケットに手を入れて、彼に見えないところで同じように握り拳を作った。

 

「私も同じさ。あいつが、憎くて仕方ない」

 

お湯が沸騰している音だけがキッチンに響き渡る中、雫のはっきりとした口調が耳にこびりついた。

 

「でも、私が一番許せないのは、ベルデがシスターナナの姿を利用して先生を騙し討ちした事だ。優しいナナを侮辱するかのような行為に、私は今でも猛烈に腹が立っている」

 

雫が言っているのは、視界が悪くなっていた時にオルタナティブを油断させて襲撃するためにコピーベントでベルデがシスターナナの姿を借りて、何のためらいもなく攻撃した事だ。シスターナナを愛しているからこそ生まれた怒りなのだろう。

 

「先生という支柱を失ってしまったとはいえ、それで崩れる私達ではない。先生の教えを守って、必ず奈々を守り抜いてみせる」

「雫、さん……」

 

雫の並々ならぬ決意を目の当たりにして、大地は不意に聞きたくなった。なぜそれほどまでに奈々を守ろうとするのかを。2人のその姿は、仲良しの範疇を超えて、愛し合っているようにしか見えないからだ。

 

「本当に、その……。好きなんですね。奈々さんの、事が」

「好きだなんて軽々しいものじゃないさ」

 

そこだけは堂々と述べる雫に、大地はどこか圧倒されていた。

 

「どうしてそこまであの人の事を……?」

「私が彼女と出会ったのは、大学のゼミだ。自分で言うのも何だが、どうも私は見た目の影響からか、大学に入る前からずっと女子からの視線を浴び続けていた。もちろん男性とも付き合った事はあったが、長続きはしなかった。大学でもそんな感じだろうと思いつつ、ずっと退屈な日々を過ごしていた」

 

でも、奈々だけは違った、と雫は静かに語りだす。

 

「一目見た時、私は不思議と幸せな気持ちになった。何故そうなったのかは、未だに分からない。でも分かったのは、彼女こそが私の理想としていた、心の底から憧れる人物なのだとね。もっと奈々と近づきたい。だから私は彼女の所属しているサークルに入部して、最初はなるべく彼女の機嫌をとるように努力した。そうしたら、向こうも時間をかけてようやく私を受け入れてくれた。その時の彼女の笑顔が、何より可愛かった。そして、守りたいと誓えるようになった」

「なるほど……。でも、こんな事言うのも失礼かもしれませんけど、女同士、ですよね……?」

「愛の前ではそんなもの、些細な問題だ」

 

落ち着いた表情で、躊躇いもなく宣言する雫を見て、大地はそれ以上何も言えなくなった。それが彼女の強みなのだとしたら、それに口出しをするべきではない。

お湯も沸騰し、全ての準備が整ったところで、部屋に向かおうとした大地だが、そこで隣にいた雫がお湯の入ったポットを手に持ちながら、大地にこう言った。

 

「君も何れ、愛というものを知る時が来る。だからそれを知るまでは、君は手を汚すべきではない。一度手を汚せば、そこから先は何も手に出来なくなるかもしれない。……だから、ここから先は私が引き受ける。先生の仇は、私が討つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっかで食事しない?」

 

大地の部屋でティーブレイクし、N神社で解散したした後、何故かその場に残った美華は帰ろうとした正史を呼び止めて、食事に誘ったのだ。どういう風の吹き回しか分からなかったが、このまま自宅に戻るのも癪にさわった正史は、美華と共に、近場の喫茶店に足を運んだ。

数分前まで飲み物を飲んでいた事もあり、さほど喉は渇いていないため、適当に軽食を注文するだけにとどめた。

 

「こうやって2人きりになるのって、久しぶりじゃないかな?」

「そ、そうだな……」

「何改まってるのよ?」

「いや、別に……」

 

いつになくフレンドリーに話しかけてくる元カノに、戸惑いを隠せない正史。デートの時以来となる2人きりの時間に、若干緊張しているのだろうか。そうこうしているうちに料理が出てきて、しばらくは食事に専念する事にした。料理の味の感想などを出し合いながら話を進めていくが、やがてそれも底をついてしまった。

 

「……あの、さ」

「?」

 

やがて話題が切り替わったのは、目の前の料理を3分の2ほど消化した頃だった。

 

「こんな事、お前に聞くのも変かもしれないけど……。やっぱり戦わなきゃ、生き残れないって思うか……?」

 

それは、シスターナナの理想とは真逆の質問。蓮二に言われてからずっと疑問に思っていた事。自分はそうは思わないが、他人がどうか、この際聞いておこうと思い切って、美華に質問したのだ。

対する美華の口からは……。

 

「……奈々には申し訳ないけどさ。あたしは、戦うよ。相手を殺す事になったとしても」

「……そっか」

「あんたはバカみたいに優しいから、ためらうだろうけど。あたしは違う。先生を殺したベルデが憎いんだ。あたしのお姉ちゃんを殺した、あいつと同じくらいにね」

「! それって……」

「前に話した事あるだろ? あたしのお姉ちゃんは、浅倉 陸に殺された。大した理由もなかったのに、ね」

 

浅倉(あさくら) (りく)

名前だけなら、N市では知らない者はいないと言われるぐらいに有名な人物。ただし、それは良い意味ではない。寧ろ最悪の名だ。

数々の傷害事件を起こし、時には人を殺めるほどに危険な人物。そして彼に殺された人物のリストに、美華の姉の名があった。彼が暴れていた当時はN市を震撼させていたが、警察の懸命な努力の末、遂に逮捕する事に成功……したのだが、それから僅か数日で留置所から脱獄したのだ。その原因は未だに分かっていないが、外部から牢屋が破壊された痕跡しか残っておらず、規模が大きすぎて誰が彼の脱獄に加担したのか判明していないのだ。が、ここ最近は鳴りを潜めているのか、目撃情報は出てこないため、いつしか浅倉の脅威は皆の記憶の中から薄れつつあった。

当時付き合っていた頃にその話を、正史は美華から聞いていた。そして彼女はこう言った。

彼は人間じゃない。モンスターだ、と。

 

「だから、あたしはこの力を人助けのためだけに使うつもりはない。あんたが止めたって、あたしは戦う。……で、あんたはどうするのこれから? 誰かと戦う事になったとして、戦うつもり?」

「……蓮二にも同じ事言われたばっかなんだけどさ。正直、まだ迷ってる。こんな時ちゃんとやる事決めておかないといけないのにさ……。でも、相手を殺す為に戦うのは、まだ抵抗があるっていうか……」

「あんたさ。そういうところは相変わらずっていうか、学習してないっていうか……。まぁ、あんたらしいけどね」

「ちょ、なんかバカにされた気がするけど。お前も前からそんな感じだったよな」

「そっかぁ〜?」

 

ニヤつきながら料理を口に運ぶ美華。正史はやれやれといった表情を浮かべていたが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼らはまだ知らない。

 

戦いの激しさは、ここから更に過酷なものへと進展していってしまう事になろうとは……。そのきっかけとなる事態は、すぐそこまで迫っていた……。

 

 

 

 




試験が近づいていますので、今週の投稿はここまでとなります。

次回、遂にこの先の戦いを加速させるであろう、あのイベントが……!

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