魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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前回のコメントでは、ベルデに対する怒りのコメントが多くて、意外な展開に慌てふためいている作者であります……。


48.慟哭の雨

榊原 大地は、雨の日が苦手だった。

決して嫌いというわけではない。ただ、どうしても良い思い出が見つからないだけだ。その原因の大元として、N神社の先代の当主だった祖父の死が関与している。

祖父は大地が5歳の時にガンを患って、そのまま息を引き取った。そして葬儀の日、朝からシトシトと雨が降り続けていた。普段から大地はもちろん、兄の律木にも優しく接し、そばにいるだけでも楽しかった存在でもある祖父の突然すぎる死を、当時の大地はなかなか受け入れ難いものがあった。

時折聞こえる雨の音を耳にしながら、数多くの花に埋もれながら、安らかな表情で横たわっている祖父の顔を見る度に、涙が出そうになる。その都度、隣で手を握ってくれていた律木からは、男なら泣くなと指摘され、とにかく必死に堪えていた。結局、家に帰ってからは堪えていた分だけ号泣したのだが……。

こういった経緯もあり、大地には『雨』に対する苦手意識が今なお心の中で燻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私情を抱えている大地だが、やっぱり雨は嫌いだ、と、しめやかに行われている、恩師の香川 俊行の葬儀の最中で改めてそう思った。

北区の大橋の真下で、首の骨が折れた状態で発見された香川は、橋からの転落死という形で処理された。原因は未だに判明していない、というのが、警察の言い分だった。

市内でも2、3番目に大きな葬儀会場にて、式は行われ、多数の関係者らが彼の死を惜しんだ。彼が勤務していた大学の生徒や教授等はもちろん、小学校に赴任していた時の教え子やその家族に教員、学生時代の同僚でもある博士や教授も参加していた。これだけでもかなり多くの繋がりを築き上げ、どれだけ大切にされてきた存在だったのか、大地は改めて香川の凄さを思い知らされた。

だが、そんな優しかった恩師はもういない。そしてその原因を作ってしまった一端に、自分の名は間違いなく挙げられる。あの日、倒れこんだ自分を庇った事で、同じ仮面ライダーの1人であるベルデに殺された。あの時、足の痛みを庇いながら回避出来ていれば……。そんな後悔の念を抱きながら、ひょっとしたら香川の代わりに自分の顔写真が額縁に収められていたのではという恐怖心が芽生えつつあり、思わず目の前に広がる香川の写真から目を逸らした。

現在、香川の遺体が納められている棺のそばには、彼の妻である典子が、昨日まで元気だったはずの夫を突然失った悲しみのあまり、声をあげながらしゃがみ込んで棺に手を当てて涙を流す姿が。隣には、息子の裕太が呆然とした表情で棺をジッと見つめていた。まだ小学校に上がる前の彼には、父親の死が理解出来ていないのかもしれない。その姿が、大地の胸に突き刺さるものを感じさせた。

ふと目線を外すと、大地のいる席から少し離れた所に座っていた、小太りな女性が何度も涙を拭う姿が。その隣には、来ている喪服をよく見ていないと男性と間違えそうな感じの女性が、小太りな女性を慰めている。その隣には、2人ほどではないにしろ、やるせない表情で俯いている女性が。大地は知っている。その3人が、香川の現役の教え子であるシスターナナこと羽二重 奈々、ウィンタープリズンこと亜柊 雫、ファムこと霧島 美華である事を、先日香川の遺体の処理をする為に警察に通報した際、変身を解いて連絡していたので、よく覚えている。

やがて時間は刻々と過ぎ、参列者が数人に固まって棺の前に出て花を入れる時間になった。大地やその両親、隣に座っていた姫河一家も済ませ、しばらくすると、一際目立つグループが前に出た。

車輪から音を立てながら、ゆっくりと棺に近づくそれは、颯太が乗る車椅子から鳴っていた。後方からは颯太の両親が車椅子を押している。病院からの許可を得た颯太は、当然の事ながら葬儀に参加していた。が、その表情は大地や小雪が見舞いに行っていた時とは比べものにならないぐらいに暗かった。両足に太く巻かれたギプスが、痛々しさを物語っている。まだ立ち上がるだけの筋力は戻っていない為、花は両親の手で代わりに添えられた。唯一彼に出来たのは、香川の顔を拝める事だけ。

 

「先生……!」

 

自分の夢を応援してくれた大恩人の死に顔を目の当たりにして、遂に堪えきれなくなったのか、握り拳を棺に置いて、体を震わせ、顔から水滴が溢れ落ちる姿を、大地はハッキリと目撃した。小雪にも見えたらしく、もらい泣きをしている。他の面々も影響されたのか、どこからともなくすすり泣きが聞こえてくるようになった。

大地は、香川の家族に今一度目をやり、拳をこれでもかと強く握りしめた。こんなにも数多くの涙を流させたのは、自分だ、と言い聞かせながら。

と同時に、沸々と湧き上がる『何か』が、大地の全身を支配しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その葬儀の様子を、降りしきる雨の中、正史は傘を差しながら、会場の外からジッと見つめていた。学界のホープとも呼ばれていた香川の死を聞いて、OREジャーナルとしても黙っていられなかったのか、大久保は取材を命じた。直接的な関わりは大地よりも少なかったものの、同じ仮面ライダーの死を悼んだ正史は真っ先に志願し、葬儀会場に足を運んだ。令子もついてきたのだが、現在は別の場所で取材を続けているようだ。

事の顛末は大地の口から直接聞いている為、正史は知らず知らずのうちに傘の柄を握りしめていた。遂に直接的な殺し合いが始まったのだ。それは正史自身最も恐れていた事態だ。実際にはルーラから始まり、シザースも第3者の手で殺されているが、今回の件はキャンディーの競い合いから、仮面ライダー並びに魔法少女同士による、生き残る為の殺し合いへシフトした事を明確化させるようなものである。

 

「……何で、こんな事が……!」

 

誰ともなしに正史は声を震わせながら呟く。

 

「随分と、慕われていたようだな。香川という男は」

 

不意に後方から、聞き慣れた声が。正史が振り返ると、傘をさして葬儀会場に目を向けている蓮二の姿が。その隣には華乃もいた。バイト終わりに立ち寄ったのだろう。蓮二は正史の隣に立って顔を覗き込むと、口を開いた。

 

「よほど滅入っているようだな。お前と奴とは、さほど面識はなかったはずだが」

「そりゃあそうだけど……。でもあの人、大地君達の先生だったんだろ。俺だって辛いし。それに、同じ仮面ライダーだったんだし、気分いい訳ないだろ……」

 

神妙に呟く正史とは対照的に、蓮二は肩を竦める。

 

「俺としては、何れこうなる事は見込んでいた。兆候はあったわけだしな。……それに、奴はライダーだ。ライダーや魔法少女同士に同情なんて必要ない。これで脱落者の枠が1つ減らされた。敵も減ったし、俺としては大助かりだ」

「……おい!」

 

蓮二の言い方が気に入らず、正史は蓮二に詰め寄った。

 

「今の言葉、大地君達の前でも平気で言えるのかよ! それでもライダーなのかよ! ライダーも魔法少女も、殺しあう為に力を手に入れたんじゃないだろ!」

「何を勘違いしている。今はある意味で敵同士だ。お前達とは利用価値があるから付き合ってやってるだけだが、妙な真似を起こせば、こっちから手を切るつもりだ」

「何ぃ……!」

 

歯を剥き出しにして鋭い目線を向ける正史を見て、蓮二は鼻で笑った。

 

「な、何だよ」

「つくづくお前はライダーになるべき人間じゃないなって思ってな」

「それはお前の方じゃないのかよ! ライダーや魔法少女と戦う事ばっかり考えて……。ちょっとは悲しんでる大地君達の事も考えてやれよ!」

「戦う事でしか、生き残る術はない。颯太が重症を負ったばかりなのに、そんな事も気づかないのか? お前みたいな奴は、そんなバカなと思うかもしれないが、そのバカな事にしか賭けられない奴だけが生き残れる」

「……!」

 

蓮二の一言出た背筋が凍りつく正史。

 

「とにかく、今後も俺や華乃の邪魔だけはするなよ。それが守れるなら、そこにいてやってもいい」

「邪魔をって、仲間同士で戦う事がかよ!」

「それ以外に何がある」

「もしそうなら絶対止めてやるよ! お前に何言われても、引っ込むつもりないし! 大体、俺はこれからもこの力で困ってる人を助けたり、モンスターを倒すって決めてんだ」

「何の為に」

「だから! 誰かをモンスターから守る為に……」

 

そこまで呟いたその時、蓮二が正史の胸ぐらを掴んだ。互いの傘が地面に落ちて、多量の雨が2人の頭上に降り注ぐ。

 

「じゃあ聞くが、その安っぽい正義感で、ベルデのように人を殺せるのか!」

「……!」

「それくらい出来ないようなら、この先生き残れるわけもない! お前だけじゃない。手塚や大地に颯太、トップスピード、それに小雪にも同じ事が言える」

「ちょ、何で小雪ちゃん達まで……! じゃあ華乃ちゃんはどうなんだよ!」

「華乃も俺と同じだ。俺達は背負っているものの為なら何でもできる。何ならこの場でお前達を叩きのめしてもいい!」

「お前……!」

 

カッとなった正史は蓮二を掴み返そうとして、胸元に手をやった。すると、正史の手は蓮二がいつも首からぶら下げているペンダントに届き、押し倒した勢いで紐が千切れてしまった。そこで正史は手に握られたペンダントに初めて目をやった。写真を入れるタイプのもので、開いていた部分を見てみると、そこには蓮二ともう1人、華乃とは別の女性との2ショットが写っていた。年齢は華乃より年上、蓮二より年下に見えた。

 

「!」

 

蓮二よりも早く華乃がそれを素早く奪い返し、蓮二に渡した。華乃が正史を睨みつけると、正史はペンダントを指差しながら叫んだ。

 

「今のって……。ひょっとして、お前が生き残りたい理由と関係あるのか⁉︎」

「お前が知る事じゃない!」

 

そう言ってペンダントをポケットにしまい、傘を拾って背を向けた。が、数歩進んだところで再び振り返る。

 

「最後に聞いておきたい。お前はこの戦いで何を背負っている。無いなら別に良い。勝手に死ぬ事にはなるからな」

 

蓮二の問いに対し、正史はしばらく濡れた地面を見つめ続けたが、やがて1つの答えを出した。

 

「大地君達」

「……何?」

「もうあんな涙を流させない為に、それからあの子達が最後まで生き残れるまで、とりあえず俺は死なない。もちろんその後も。それだけで、背負うものは充分だ」

「……本当のバカだな」

 

呆れがピークに達したのか、それ以上何も言わずに、その場を後にした。華乃は正史の方を振り返ってこう言った。

 

「あなたがどう考えようと勝手だけど、もし蓮二さんをこれ以上侮辱するなら、覚悟しておいて」

「……えっ」

「あの人の事、何も知らないくせにでしゃばるなって事」

 

口調を尖らせながら、華乃も蓮二の後を追うように立ち去った。

 

「……ひょっとして、華乃ちゃんも蓮二の事で、何か知ってるのかな」

 

傘を拾い上げて呆然としていた正史だったが、やがて葬儀会場の方から声が聞こえてきたので振り返った。どうやら葬式は終わったようだ。正史は大地達に会う前に、令子に声をかけようと、会場に近寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ベルデを失格にさせてほしいぽん?』

『どういうつもりだ』

 

葬式が終わり、身支度が始まった頃、大地は小雪と共に会場の外にあった、人気の無い場所でファヴとシローを呼び出した。なお、颯太は式が終わってすぐに病院へと戻っており、現在は2人しかいない。小雪が腫れた目を見開きながら提案したのは、香川改めオルタナティブを殺した張本人であるベルデを失格にし、仮面ライダーとしての称号を剥奪してほしいというものだった。

 

「だいちゃんから全部聞いたよ。先生、事故で死んだんじゃなくて、ベルデに殺されたんでしょ⁉︎ そうだよね、だいちゃん!」

「……あぁ」

『で、それが許せないからベルデを失格にさせろと?』

「だって……! 同じ仮面ライダーなんでしょ⁉︎ キャンディーを奪うだけじゃなくて、今度はその命まで奪うなんて……! そんなの、仮面ライダーでも何でもないよ!」

 

言いながら、小雪はその場に崩れ落ちる。香川の死を無念に感じて、力が抜けたのだろう。大地はジッとマジカルフォンを見つめながら、ファヴとシローの返答を待った。

 

『だから何って話ぽん』

 

だが、2匹からの回答はそっけないものだった。

 

『だいたい物的証拠もないだろう。それじゃあ向こうに言いがかりだって言われても不思議じゃない』

『それにベルデは今現在のルールに反してるわけじゃないぽん。ここで失格にさせようものなら、それこそルール違反だぽん。ファヴ達が勝手にそんな事やったら、他のみんなから嫌われるぽん。そんなの嫌だぽん』

「でも……!」

『手短に言うなら、君の提案したそれは全く理屈が通っていない、ただの私情だ。そんなものを私達が受託するとでも?』

 

シローの呟きに、小雪は黙り込んだ。彼らの言う通り、これは単なる私情であり、論破できるだけの手札がない。だが、それでも小雪は口だけは止めないようにと、感情を露わにする。

 

「でも、このまま野放しにしてて、いい訳ないよ! 今度は別の魔法少女や仮面ライダーが狙われるのかもしれないんだよ! それで先生の家族みたいに悲しむ人だってたくさんいるかもしれないのに……!」

『言いたい事はそれだけぽん? ファヴもシローも、みんなの尊厳をちゃんと考えて君の言い分を否定してるのに。こっちも暇じゃないから、用がないならこれにて失礼させてもらうぽん。それじゃあ!』

「待って……! 待ってよファヴ!」

 

小雪が呼び止める前にファヴは彼女のマジカルフォンから姿を消した。全く相手にさせてもらえなかった悲しみからか、再び涙が溢れ落ちて、濡れた地面に蹲った。

大地は小雪に声をかける事も、そばに寄る事もせず、ただジッとシローを見ていた。

 

『何だね。君も言いたい事があるようだが』

「……そっちの方で、ベルデをどうにかするのは無理って、事だよな。だったら……」

『何か勘違いしているようだが、私達はあくまで、「こちらから称号の剥奪などといったルールに関与出来ない」という意味を込めてこう言っているのだぞ?』

「……!」

『後は自分達で考えて動く事だ』

 

それだけ告げると、シローも姿を消した。

残された2人は雨の音を聞いながら、しばらくその場に居続けた。雨の音に混じって、小雪の嗚咽が聞こえてきており、大地は黙り込んでいた。まるで何かを考え込むように……。

と、その時だった。マジカルフォンからモンスター出現の音が鳴り響き、2人が顔を上げた時、小雪の背後にあった水たまりから、鋭い鉤爪を持った鳳凰型のモンスター『ガルドミラージュ』が小雪に迫った。

 

「きゃあ⁉︎」

「!」

 

とっさに大地が小雪を突き飛ばし、ガルドミラージュの鉤爪はそのまま大地の制服の上から斬り裂いた。地面に血が飛び散り、大地は膝をついた。そしてふと脳裏によぎる。もしあの時、庇いにきたオルタナティブを今みたいに突き飛ばしていれば……と。

ガルドミラージュはそのまま近くの公衆電話のガラス戸を通じてミラーワールドに逃げ込んだ。

 

「だいちゃん!」

「これ、くらい……。先生が味わったもんと、比べたら……!」

 

大地は黒の制服をその場に脱ぎ捨てた。降り滴る雨を全身に浴びながら、大地はガラス戸に歩み寄った。ガルドミラージュと戦うつもりなのだろう。

 

「待ってだいちゃん! 私も」

「……下がってろ」

「えっ、でも……」

「俺だけでやるって言ってんだ! お前はすっこんでろ!」

 

大地の普段感じる事のない気迫に押されて、小雪はその場に立ち止まった。大地はカードデッキをかざして、Vバックルを腰に装着した。

 

「変身!」

 

その時、小雪は気づいた。雨に濡れて透けているTシャツからでも、大地の背中に大きな切り傷が出来ていた事に。小雪は知る由もないが、それはタイガに背後から攻撃を受けた際にできた傷であり、まだ完治していないようだった。

だが大地は気にも留めていないのか、九尾に変身してすぐにミラーワールドに突入した。小雪もすぐにマジカルフォンを使ってスノーホワイトに変身しようと考えたが、何故か足が竦んで動けない。先ほどの大地の怒声を聞いてしまったからなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グフッ……!」

 

一方、雨の降り注ぐミラーワールド内では、九尾とガルドミラージュによる死闘が始まっていた。円盤状の武器を用いて戦うガルドミラージュに対し、九尾はフォクセイバーで対抗していた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

フォクセイバーを振り回しながら、九尾は考えた。それは、先ほどシローがかけた言葉。

彼らは言っていた。自分達からはゲームのルールに干渉する事は出来ない。しかし、逆を返せば、それはつまり……。

 

「(俺が、ベルデを殺せば、いい……!)」

 

シローやファヴに出来ないなら、自分の手でベルデに手を出せばいい。向こうはすでに2人も殺している。ならば自分が手を下しても、何らルール違反にはならない。

 

「(俺が今から、ベルデを殺せるぐらいに、強くなれば……!)」

 

それは、明確なる復讐の確立。自分達や香川を慕っていた者達から何もかも奪い取った奴への制裁。

決意したその瞬間、九尾は自分でも驚くほどに脳内が冴え渡った。眼前で戦っているガルドミラージュをベルデと仮想した途端、迷いは吹っ切れた。

 

「ウァァァァァァァァァァァァァ!」

 

雄叫びと共に、フォクセイバーを構えた九尾は、殺す事だけを目的に、ガルドミラージュに立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を、ガラス戸から小雪が傘を差しながら見つめていた。何度も立ち向かっては吹き飛ばされて血を流し、なおも立ち上がり、また血を流す。それでもなお、彼は前に進む事を止めない。何度地面を転がっても、何度傷が増えても、何度止められても……。

そうこうしているうちに、根性で乗り切った九尾の一手がガルドミラージュに届き、吹き飛ばされたガルドミラージュの上に、九尾が馬乗りになった。そして、躊躇う事なくフォクセイバーをガルドミラージュの顔に突き刺した。ガルドミラージュの口から悲鳴が漏れ出すが、九尾は手を緩めない。何度も引き抜いては刺し、引き抜いては刺しの繰り返しが続いた。まるで息の根を完全に止めようとしているかのように。まるで煮えたぎった怒りをぶつけるかのように。

不意に目に涙を溜めていた小雪は、自身の体が震えている事に気づいた。バスで出会ったあの日から、ミラーワールドで再開し、コンビを組んで人助けに勤しみ、やがてラ・ピュセルやライアとチームを組み、この理不尽なデスゲームが始まるまで、一度として感じられなかった、九尾に、大地に対する恐怖心が初めて芽生えた感覚がした。

 

「(止めて……。もう、止めて……!)」

 

声に出そうにも、喉につっかえているかのように、どうする事も出来ない。

何度も串刺しにされたガルドミラージュが完全に力尽き、爆散して九尾がその場で雨空を見上げるまで、小雪はただジッと、溢れ出る悲しみを表情だけで表していた……。

 

 

 




1人、復讐を誓う事となった九尾。果たして、復讐の道を選んだ彼がその目に見るものとは一体……。

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