魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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『555』はやっぱり名作だなぁ……。


47.悲劇の襲来

『今夜、北区の大橋の下で、話したい事があります。助けてほしいです。私1人で待ってます。 たま』

 

「これは……」

「罠……か。しかしたま1人となると」

 

その晩、オルタナティブ宛に、マジカルフォンにメッセージが送られてきた。送信相手はたま。ベルデの傘下にいるメンバーの1人という事もあり、疑念を抱かずにはいられなかったが、待ち合わせの指定場所は彼らが拠点としている門前町から離れている。おまけにたまは比較的良心的な魔法少女である事はオルタナティブ達も充分承知していた。となると、このメッセージは本物の可能性が高い。

 

「もしかしたら、インペラーさんの時と同様に何か酷い仕打ちを受けかけているのでは……! だとしたら、一刻も早く救いの手を差し伸べなくては……!」

 

シスターナナは焦った表情で他の3人に訴えた。こういった時のシスターナナは頑固な所が出るため、3人も承諾し、細心の注意を払って待ち合わせ場所に向かった。

大橋に向かう道中、4人はすぐ近くのビルを転々としながら同じ方向に向かう白い人影を見つけた。

 

「おや? 九尾ではありませんか」

「先生?」

 

唐突に声をかけられた九尾は立ち止まり、4人と合流した。何故か単独行動をしていた事に疑問を抱く4人だったが、その理由を本人が明かしてくれた。

 

「さっきたまから連絡が入って、助けてほしいって来たんです。どうやら俺1人にしか来てないらしいんですけど……」

「君だけなのか……?」

「はい。多分スノーホワイト達には……。まだ集合には余裕があるから、とりあえずこっちに来てみたんです」

「九尾だけを呼び出し……。何かきな臭いな」

 

ウィンタープリズンは険しい顔つきになりながらも、シスターナナに催促されて大橋に向かった。

橋の下にはチョロチョロと流れる小川だけでなくコンクリートで造られた道があり、陰で隠れてはいるものの、誰かがそこで縮こまっているのが確認できた。僅かに覗かせる犬耳が、そこにいる人物がたまである事を決定付けた。

 

「お待たせしました!」

「……あ」

 

5人がコンクリート式の地面に着地して、真っ先にシスターナナが声をかけると、たまはビクついたように飛び上がった。

 

「念のために聞いておくけど、ここにいたのは、あなた1人?」

「あ……、う……」

「黙ってちゃ分からないだろ? 早く答えたまえ」

「え、えぇっと……」

 

不意に、オルタナティブはたまの挙動に違和感を感じた。元々挙動不審なところは見受けられていたが、いつもと様子がおかしい。

まるで、自分達を留まらせて、何かを待っているかのように……。

 

「! 離脱を!」

「えっ⁉︎」

 

オルタナティブがいち早く叫んだ瞬間だった。

 

「きゃあ!」

 

突如、ファムの背後から何者かがしがみついて、引き離そうとしていた。スク水姿の魔法少女、スイムスイムだった。だが、先ほどまで5人以外の人の気配は感じられなかった。一体どこから出てきたのだろうか。

 

「ファム!」

「何⁉︎」

 

突然の奇襲に驚くオルタナティブと九尾だったが、その2人を突き飛ばす者が。

 

「ぐっ……!」

「はいはーい。隙だらけだよ」

 

2人の後方から、ガイが手を叩きながら歩み寄ってきた。

 

「そんな……!」

「貴様ぁ!」

 

ウィンタープリズンはキッと目を細めて、怯えながら役目を終えて逃げ出そうとするたまを睨みつけた。自分達を嵌めたであろう相手に対し、ウィンタープリズンは容赦なく魔法で壁を形成して、たまにぶつけようとする。

 

『CONFINE VENT』

『STRIKE VENT』

 

だが、途中で壁は崩れ落ち、動揺しているウィンタープリズンめがけて、虎の手が振るわれてウィンタープリズンは地面を転がった。魔法を打ち消したのはガイであり、タイガが隙を狙ってデストクローで攻撃したのだ。

 

「ウィンタープリズン!」

「シスターナナ! 下がって!」

 

ウィンタープリズンは立ち上がりながらシスターナナの前に立ち、隠れるように示唆した。

 

「「そぉれ!」」

「ぐっ……!」

 

魔法が一時的に使えなくなっているウィンタープリズンに対し、上空からミナエルとユナエルが急降下してきて、ダブルキックでウィンタープリズンを後ずらせた。加えて橋の欄干から飛び降りてきたアビスが九尾と交戦を始めた。もう疑う余地は無い。この場にはベルデチームの全員が隠れ潜んでいた。恐らくはたまが良心的であるという認識を利用して、5人からキャンディーを奪う為に。

しかし、肝心のリーダーは未だに姿を見せていない。その事に不信感を募らせながらも、九尾はアビスに対抗した。

 

「こんのぉ……! やってくれたわね!」

 

『BLAST VENT』

 

ファムはスイムスイムを振り払うと、ブランバイザーにカードをベントインする。すると上空から契約モンスターのブランウィングが姿を見せた。

 

「……アビスラッシャー」

 

対するスイムスイムはパートナーの契約モンスターで、両手に鋭いサメの歯のような武器が付いている『アビスラッシャー』を呼びだし、ブランウィングが翼をはためかせて、突風を巻き起こした。アビスラッシャーは口から水を噴射し、突風とぶつかって相殺させた。水流が吹き荒れて視界が悪くなり、オルタナティブは立ち止まる。無闇に動いては、敵の思うツボであり、長年の勘から待ち構える事に専念した。

が、ようやく視界が良くなり始めた時、オルタナティブに向かってくる影があった。

 

「? シスターナナ?」

 

オルタナティブは隠れていたはずのパートナーが駆け寄ってくるのが見えて、思わず思考を停止した。1人では心細かったのかもしれない。そう思ってシスターナナのそばに寄ろうとしたその瞬間、あろうことか、シスターナナは拳を固めてオルタナティブに無言の腹パンを決めた。

 

「ぐぅっ……⁉︎」

「あっけないものだな」

 

その言葉は確かにシスターナナの口から発せられたものだが、明らかに声色が違っている。そう気付いた時には、今度は膝を曲げて腹に当てて、オルタナティブを吹き飛ばした。

 

「ナナ⁉︎」

「えっ?」

 

ウィンタープリズンが目の前の光景に困惑し、シスターナナの名を叫んだが、唐突に別方向から驚きに満ちた声が聞こえてきたので振り返ると、シスターナナは隠れていた場所から一歩も動くことなく、ただ呆然とオルタナティブが倒れる姿を目撃していた。一瞬ユナエルが魔法でシスターナナに化けたのかと思った九尾だが、彼女は依然としてウィンタープリズンと交戦中だった。

では、オルタナティブを攻撃したシスターナナは一体……? その疑問は、シスターナナの姿が歪むと同時に明らかになった。

 

「どんなに賢いあんたでも、初見じゃ防ぎようがねぇもんな。ましてやパートナーの姿じゃ、油断もするだろうよ。まぁ、俺はそんなヘマを犯すこたぁねぇが」

「ベルデ……!」

 

シスターナナに化けていたのはリーダーのベルデだったのだ。『コピーベント』の能力で、孤立していたシスターナナを気づかれる事なく、視界が悪くなったタイミングで姿そのものをコピーしていたのだ。

 

「フッ。それじゃあ終わりにしてやるよ。あんまり長引くのは好きじゃなくてな」

「やらせるかよ!」

 

『SWORD VENT』

 

オルタナティブに何かを仕掛けようとするのを見た九尾はアビスを蹴り飛ばして、フォクセイバーを構えてからベルデに突撃した。全ては、オルタナティブを守る為に。

 

「先生に手を出させるか!」

「はんっ! 随分とナメた口をきくガキだな。こないだの礼は返させてもらうぜ」

 

『HOLD VENT』

 

ベルデはバイオワインダーを構えて、九尾に投げつけた。ヒラリとかわす九尾だったが、ベルデは一歩退き、バイオワインダーを引き戻した。すると、バイオワインダーは九尾の首に巻きつき、思いっきり引っ張ると九尾はバランスを崩し、よろめいた。そこへベルデの膝蹴りが命中し、思わずフォクセイバーが手から離れると、ベルデは回し蹴りで九尾を吹き飛ばした。

立ち上がろうとする九尾だったが、そこで右足に痛みが走った。以前クラムベリー、オーディンペアとの戦闘で負傷した右足が再発した可能性があり、膝をついた。

 

「!」

 

『ADVENT』

 

これを見たオルタナティブは契約モンスターのサイコローグを召喚し、九尾を援護しようとするが、

 

『FREEZE VENT』

 

タイガのベントインしたカードが、サイコローグを停止させてしまう。

完全に無防備になっている九尾に対し、ベルデは笑いながら歩み寄る。

 

「おいおい。随分とボロボロになってるみたいだな。俺達の知らない所で何があったかは知らねぇが、勝負の世界に情けはいらねぇ。モンスター退治とか人助けもいいが、ライダーや魔法少女の敵は、同じ力を持った奴らでもあるって事を忘れてるようだな!」

「何、だ、と……!」

「もうお止めください! 私達は団結すべきなんです! 魔法少女や仮面ライダー同士が戦うなんて、以ての外なのです!」

「黙ってよ、口だけの奴はさ」

 

必死に説得するシスターナナに対し、ガイが殴りかかり、妨害をした。

 

「ナナ!」

「よそ見は禁物!」

「禁物!」

 

助けに向かおうとするウィンタープリズンだが、ピーキーエンジェルズがパートナーの武器を構えて行く手を遮っている。ファムもスイムスイムや合流したアビスの猛攻で、思うように動けていない。

 

「先ずは邪魔な奴からだ。消えな」

 

そう言ってベルデが取り出したのは、カメレオンの紋章が描かれたカード。それをバイオバイザーにベントインした。

 

『FINAL VENT』

 

すると、橋の上にベルデの契約モンスター、バイオグリーザが姿を現した。ベルデが逆立ちすると、バイオグリーザは舌を出して、足に巻きつけると、振り子の要領で、九尾に迫った。

 

「「「! 九尾!」」」

「……!」

 

とっさに逃げようとする九尾だが、足の痛みがそれを許さない。両手を広げて捕まえようとするベルデが目前に迫り……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させません!」

 

その寸前の所で、九尾を突き飛ばしたのはオルタナティブだった。が、ベルデは仮面の下でニヤリと笑い、九尾の代わりに眼前に現れたオルタナティブを拘束した。そして上空に舞い上がり、両足を逆さになっているオルタナティブの腕に乗せて、地面へと垂直に落下し始めた。真下には、コンクリートの地面が広がっている。そのまま勢いよく落下すれば、どのような事態が待ち受けているか、容易に想像できる事だろう。

 

「! や、止め……!」

 

九尾が地面を転がりながら、必死に手を伸ばす。他の3人からも、先生と叫ぶ声が響き渡る。

一瞬、オルタナティブの顔が九尾に向けられたような気がしたが、九尾にはそれを気にする余裕はない。ただ、必死に手を伸ばした。オルタナティブを、恩師を、助けたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大地君。これから先、あなたには様々な困難が待ち受けているに違いありません。現に私にもありました。人生楽もあれば苦もある。楽な事ばかりに進んではいけません。苦を、受け入れる事も大切なのです。あなたには、きっとそういったものを受け止められるほどの強さを秘めている。私はそう思うのです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が炸裂し、オルタナティブの頭は、コンクリートに叩きつけられた瞬間を、九尾は目撃してしまった。『デスバニッシュ』を決めたベルデは地面に降り立つと、勝利を確信したように高笑いした。オルタナティブは地面に仰向けに倒れた。九尾は右腕を伸ばしながら思考を停止していた。

 

「先生ぇぇぇぇぇ!」

「イヤァァァァァァァァァ!」

「! 先生……!」

 

ファム、シスターナナ、ウィンタープリズンの悲鳴や叫び声が辺りに響き渡り、ハッと我に帰る九尾。

高笑いをやめたベルデは、絶命寸前のオルタナティブを見下ろしながら問いかけた。

 

「ライダーの中じゃキレるあんたも、結局こんなもんか。九尾を庇うようなバカな真似しなければ、助かったものを」

「……フッ」

「何がおかしい」

「教え、子を、最後まで、守る、のが……、教師である、私の、役目、です……! 後悔、は、ありま、せん、よ……」

 

その言葉を呟いた瞬間、変身が強制解除され、白衣を着たメガネの男性が目を閉じて大の字になっている状態で露わになった。

 

「先生らしいごもっともな意見だが、所詮勝ち残った方が正しいのがこの社会だ。つまりテメェのそれは、間違ってたって事だ」

 

刹那、九尾の口からこれでもかと言わんばかりに奇声が溢れ出て、ベルデに殺気が向けられた。ベルデはほんの一瞬だけ背筋を凍らせたが、すぐに元に戻る。九尾は、怒りに満ち溢れていた。今にも飛びかかろうとしたが、すんでのところで九尾の背中を強烈な痛みが貫き、地面に伏した。震えながら顔を上げて振り向くと、九尾の背後でタイガがデストバイザーを構えて見下ろしている。

ベルデは肩を竦めて、こう呟いた。

 

「そもそも、何で九尾をここに連れてきたのかまだ分かってないようだな。それはあいつに大人ってもんがどういうものなのかを教えてやる為だ。俺からしたら、まんまとお前らは俺の張った罠に易々と引っかかってくれて、万々歳なんだよ。これで九尾も少しは懲りるだろうよ」

「おぉ! ハナっからオルタナティブ殺るのが狙いだったのかー!」

「ベルデマジエリート!」

 

ピーキーエンジェルズが囃し立てる中、九尾は頭にのぼっていた血が冷め始める感覚を覚えた。始めから、九尾を陥れる為に、先生やその仲間を利用したのか。

そしてその果てに……、先生は……。

用は済んだとばかりにベルデは高笑いしながら、仲間を引き連れてその場を後にした。現役の教え子達が駆け寄って恩師の冷たくなった手を握る姿を視界に捉えながら、九尾の意識は深い闇に堕ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファヴ:『クラムベリー、オーディン。こんばんはぽん!』

シロー:『発表の日ではないにもかかわらず参加してくれるとは大いにありがたい事だ。おまけにBGMも流してくれるとは。助かるぞクラムベリー』

ファヴ:『えぇ〜。今回は、悪いお知らせが入ってきたので、それをみんなにお伝えするぽん』

シロー:『脱落者……というよりも、死亡者が出てしまったというべきか。とにかく、我々が懸念していた事態が起きてしまったのだ』

ファヴ:『それじゃあ手短にお知らせするぽん。「オルタナティブ」が事故(・・)で死んじゃったぽん。ファヴもシローも悲しいぽん。辛いぽん』

シロー:『実力も確かだったからな。このような形で脱落してしまうとは、本当に残念でならない』

ファヴ:『でも、この犠牲を無駄にする事なく、みんな頑張ってほしいぽん』

シロー:『なお、先日も述べたルール通り、オルタナティブが死んだ事で今週の脱落者は無しとする』

ファヴ:『連絡はこれで以上ぽん。あ、因みにキャンディー所有数のトップ3の発表は、本人達が嫌がってたから、今後から取りやめにしたぽん。ご了承くださいぽん』

シロー:『それからもう1つ。レアアイテムの解放は従来の脱落者の発表日に行う。我々も、しばらくはオルタナティブの件で忙しくなってしまうからな』

ファヴ:『それじゃあ、また3日後にぽん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジカルフォンから聞こえてくるはずのBGMは、廃屋でいつになっても来ない九尾をずっと待っていたスノーホワイト、龍騎、トップスピード、ナイト、リップル、ライアの耳には入ってこなかった。

やがて、最初はすすり泣き程度だった音が次第に大きく響き渡り、6人の中で今週の脱落者と最も関係の深かった白い魔法少女の顔はグシャグシャに濡れだして、身をよじらせ、吠え叫んだり、泣き喚きながら、近くに転がっていた木材を思いっきり殴り続けた。

時折折れた先の部分が、スノーホワイトの拳に食い込み、血が少しずつ流れているが、他の5人はかける言葉すら思いつかない。

スノーホワイトはただただ泣き続けた。何が恩師の身に起きたのか、ひょっとしたら未だに姿を見せない九尾も関わっているのではないか、などと、考えるゆとりもない。

オルタナティブの死が、香川 俊行の死が、悲しくて、辛くて、恐ろしすぎて、認めたくなくて、嘘だと思いたくて、でもやっぱり悲しくなって、ただただ泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『てなわけで、オルタナティブが死んじゃったから、今週の脱落者の発表は無しになったっていう報告ぽん。つまり、今週君が脱落する可能性はゼロになったって事だぽん』

 

消灯時間はとっくに過ぎ、暗い病院の個室の中で、立体映像としてファヴが浮いているマジカルフォンの明かりだけが、ベッドの上で上半身を起こしている岸辺 颯太を照らしていた。その表情は固まっていた。彼の今の表情を一言で表すなら、『絶望』がピッタリと当てはまる。

やがて、颯太は唇を歪めた。引きつった笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「……ははっ。何言ってんだよ。ファヴも冗談がキツイぞ。あの先生だぞ。そんな簡単に死ぬわけ」

『だーから何回も言わせるなぽん。オルタナティブはついさっき、事故で死んじゃったんだぽん。もう君のいう先生はいないんだぽん』

 

嘘だ。

そんなはずはない。

先生は、仮面ライダーの、そして魔法少女の見本に値する、尊敬できる人だ。

自分の夢を、後押ししてくれた、優しい正義の塊が、そんな簡単に……。

 

『こないだも言ったけど、事故で死んだ人も脱落者として扱うぽん。だから今週はキャンディー数による脱落者は出なくなったって事ぽん』

「……違う」

『何が違うぽん。言ってる意味分からないぽん。もっと素直に喜ぶべきぽん。おかげで数が少なかった人は助かったし、ラ・ピュセルはまだ生きていられるぽん。ここは前向きに捉えて、早くその足の怪我を治して、キャンディー集めを頑ば』

 

ファヴの声が途中で途切れたのは、颯太が強制的に電源を切ったからだった。

辺りは再び黒に包まれ、小さな耳鳴りだけが聞こえてくる。

 

『颯太君。私は君に、もっと広い目で世界を見て、多くの事を学んでいただきたいのです。道は1つに絞るものではありません。そしてその道を創り上げるのは、君が魔法少女でいる時のような、強い意志です。焦らずゆっくりと、その足を治していく内に、きっと見つかる事でしょう』

 

数時間前、大地と小雪の2人と入れ替わるように見舞いに訪れてくれた恩師のありがたい言葉が、不意に脳内に響き渡ってきた。

 

「……そう、だよ、な。これ、やっぱり夢、だよな。そうだよな、先生……」

 

呆然の虚空を見つめながらの問いに、答える者はいない。代わりに返ってきたのは、先ほど耳にしたファヴの無感情な呟き。

 

『オルタナティブはついさっき、事故で死んじゃったぽん』

 

……やめろ。

 

『もう君のいう先生はいないんだぽん』

 

もう……!

 

「やめて、くれ……!」

 

誰でも、いい……!

 

「誰、か……!」

 

誰か、これは、そう……。

 

「誰か、夢だって、言ってくれよぉぉぉぉぉ……!」

 

夢であってくれ。

その願いは届く事なく、動く事の叶わない颯太は両手を、目から止まる事を知らずにこぼれ落ちる滴を拭うように当てた。だが、塩辛い水滴は止まらず、口からは嗚咽が次第に大きく鳴り響く。

巡回していた看護婦や隣の病室にいた患者達が音に気付き、颯太のいる室内に駆けつけて、慰めて気を落ち着かせるまで、それから数時間かかったという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その5≫

 

【オルタナティブ(香川 俊行)、死亡】

 

【残り、魔法少女14名、仮面ライダー13名、計27名】

 

 

 




……さぁ、閲覧者の皆さん、絶望してファントムを生み出せぇ……!

……てなわけで、冗談はさておき、唐突ではありますが、脱落者……もとい死亡者の発表がなされました。油断してると、皆さんにとって気に入ってたあの人物が……なんて事になり兼ねませんよ。

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