魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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今回は久しぶりにあの男が登場します。


46.暗躍の陰

チャットルームに、2匹の姿があった。

 

ファヴ:『え〜。今日はみんなにお知らせがあるぽん』

シロー:『本来なら我々の登場は3日後になるわけだが、無視できない事態が発生した』

 

当然予定されていない時間帯に現れたという事もあって、チャットルームには誰1人としていなかった。

 

ファヴ:『昨日、ラ・ピュセルが事故に遭って大怪我をしたぽん。ファヴもシローもそれを聞いた時はと〜っても心配したぽん』

シロー:『だが不幸中の幸いか、命を落とすところまでは至らなかったらしい。したがって、現状に大きな変更点はないものとする』

ファヴ:『みんな、キャンディー集めに必死になるのは分かるけど、事故で死んじゃった〜なんて事になったら元も子もないぽん。周りに気をつけて頑張るぽん。あ、因みにだけど、もし事故か何かで死んじゃった時は、その週は脱落者を出さない事にしてるぽん。連絡し忘れてごめんなさいぽん』

シロー:『さすがにキャンディー集めとは無縁の範疇で死なれては、皆もそうだろうし、私達としても心苦しいものがある。これは厳然たる措置だ。そしてもう1つ、君達に連絡事項がある。それは、バージョンアップに伴う「レアアイテム」の解放だ』

ファヴ:『次の脱落者が出た後、便利なアイテムをダウンロード出来るようになるぽん! どんなものがあるのかは、その時までのお楽しみぽん。因みにここだけの話、ペアで残っている人達だけには特別なアイテムが購入可能になるぽん。というわけで、後3日間だけど頑張ってほしいぽん! それじゃあ、シーユーぽん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあ、また明日の夜来るよ」

「……あぁ」

「えっと、その……。お大事にね、そうちゃん」

 

夕方、病室を後にした大地と小雪は扉を閉めた後、しばらくその場から動くことはなかった。

事故から2日が経ち、意識が戻った颯太は気持ちの整理がようやくつき始め、見舞いに行ける許可が下りた為、2人は揃って出かけた。

病室のベッドに上半身だけ起こしていた颯太は、両足を太いギプスで固定されており、怪我の具合の悪さが見て取れた。そしてその表情には覇気がほとんど見られなかった。両足に大きなダメージを負い、魔法少女と同じくらいに大好きだったサッカーは出来ず、場合によっては夢が叶わなくなるかもしれないのだ。

どうにかして彼の沈んだ心を潤さなければ。そう思った小雪や大地はとにかくたくさん話しかける事にした。明るい話題をベースに話す2人だったが、颯太は「うん」や「あぁ」といった相づちしか反応を見せない。唯一長く語った言葉といえば、

 

「……みんなに迷惑かけたくない一心で、クラムベリーと戦ったのに、結局、大地や小雪、みんなをこんなに心配させてさ……。……情けないよな。きっと、バチが当たったんだよ……」

 

であった。もちろん2人はすぐに否定したわけだが、颯太の耳には届いていないだろう。

2人が一階に降りて受付の近くに差し掛かった時、見覚えのある人物が前方から現れた。

2人や颯太の恩師であり、仮面ライダーオルタナティブの変身者、香川 俊行である。

 

「おや、お2人も来てましたか」

「「先生!」」

 

シスターナナに呼ばれて以来の再会である。

 

「もう、見舞いは済んだようですね」

「はい。ついさっき……」

「先生もひょっとして……」

「えぇ。これから向かうところです。昨日のチャットで知った時は慌てましたよ。シスターナナも大変心配してましたから」

「シスターナナが……」

 

慈愛の塊とも言えるシスターナナが、ラ・ピュセルに訪れた不幸を悲しむ様子を、2人は容易に想像出来た。と、ここで香川が2人の顔色を伺った。

 

「かなり疲れきっているようですね。どうでしょう。まだ時間はありますし、そこで少し休憩しましょう」

 

香川は2人を引き連れて、周りに人がいないスペースを確保してから、すぐそばの自販機でジュースを購入して2人に手渡した。2人はお礼を言うと、3人揃って腰を下ろした。

その後、香川は大地から事の次第を聞き、深く息を吐いた。

 

「なるほど。今度は彼に矛先を向けた、というわけでしたか」

「えっ?」

「実を言うと、先日私達も彼女から手痛い仕打ちを受けましてね。どうにかその場を凌げたのですが、向こうも諦めてはいなかったようですね」

「クラムベリーにオーディン……。あいつら一体何が目的でこんな事を……」

 

大地が険しい表情で半分飲み干した缶を見つめていると、小雪がポツポツと喋りだした。

 

「……私が」

「?」

「私が、弱いせいで……。守ってもらう立場にばかりいたから、そうちゃんやだいちゃん、みんなが前に出て、それで今回、そうちゃんが……。情けないのは、私の方だよ……」

 

目に涙を溜めながらそう呟く小雪を見て、大地はどう声をかければ良いのか判断に迷ったが、そんな中でもいち早く彼女に接したのは香川の一言だった。

 

「誰だっていつかは自分が無力だと気づく時があります。あなただけではない、大地君も私も、やれる事は限られます。そこに一般人と仮面ライダー、魔法少女の差はありません。人は、誰だって弱いものです」

 

ですが……、と、香川は小雪の顔を覗き込むようにして言った。

 

「そう思ってしまう事自体が、もっと己を弱くしてしまう原因なのです。あなたの持つ独特な強さは、私も知っています。後は、自分の手でそれに気付き、誇りを持って自分自身で磨き上げ、自身の武器としていく。これだけです」

「自分の、強さ……」

 

香川の言葉を聞いて、不思議と小雪の表情が和らぎ始めた。

 

「……ありがとう、ございます。何だか、勇気が湧いてきました」

「そうですか。それは良かった」

「やっぱり凄いな、先生は。俺なんかじゃ絶対無理そうだし、俺ならもっと別のやり方選ぶかも」

「恐縮だよ。それに大地君」

「はい?」

「これから先、生きていれば迷う時もあるでしょう。そんな時は一旦立ち止まって、自分の心に正直になって行動する事をお勧めしますよ。あなたなら、きっと出来ますよ」

「……ははっ。俺にもアドバイスをくれるなんてな」

 

大地は苦笑いしながら、缶をゴミ箱に入れた。

 

「でも、先生が仮面ライダーで本当に良かった。先生はいつから仮面ライダーになってたんですか?」

「半年ほど前になりますね。元々は妻が『魔法少女育成計画』を空いた時間にやっていたのを見ていて、それに便乗してやり始めたのが、あの『仮面ライダー育成計画』でした。ゼミ生もほとんどの方がやっていましたから、割とすんなり溶け込めましたよ。さすがにまだ幼い裕太にはやらせないようにしてましたけどね。そうやって何日か進めていく内に、シローが現れて、私は仮面ライダー『オルタナティブ』になりました。驚いた事に、同じゼミに所属していた何人かが同じ仮面ライダー、もしくは魔法少女になっていたのです」

「それってもしかして」

「えぇ。シスターナナ、ヴェス・ウィンタープリズン、ファム。みんな私の現役のゼミ生です」

 

それは凄い偶然だな、と2人は率直な感想を述べた。やがて、香川は立ち上がった。

 

「……さて、それではそろそろ颯太君の方に見舞いに行きます。また会いましょう。時間があれば、食事に誘ってあげますよ」

「はい!」

「それじゃあ、お互い頑張りましょうね、先生!」

 

香川は軽く会釈して、颯太のいる病室に向かった。

やっぱり先生と出会えて本当に良かった。きっと先生なら16人の枠に残れるはずだ。そう思いながら、行きと違って少し弾んだ気分で病院を後にし、夜の活動時間になるまでそれぞれの家に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その晩の事だった。王結寺ではベルデを新リーダーとした魔法少女や仮面ライダーのチームが、固まって話し合いをしていた。

 

「でもさー。誰がルーラの死体動かしたのかね〜」

「ほんとそれー。ま、見つかったってあたしらには関係ないけどね。魔法少女や仮面ライダーが関わってるなんて誰も気づくわけないし」

「んな呑気な事を言ってる場合じゃないだろ」

 

ベルデの言葉を聞き、一同は静まり返る。

 

「わざわざここの庭に捨ててあったあいつを誰かが運び込んだって事は、明らかにそいつは俺達の動向を把握している。いつ狙ってくるか、たまったもんじゃないな」

 

まぁ、来たところで返り討ちにするだけだが、と付け足して、ベルデは壁にもたれた。

 

「何のつもりで俺達に脅しをかけてるか知らねぇが、そいつは確実に狙ってやがる。俺達仮面ライダーや魔法少女の、息の根を止める為に。ラ・ピュセルをそうしようとしたように」

「え、えっ? で、でもら、ラ・ピュセルは、事故で怪我をしたってファヴが……」

 

たまがおずおずと手を上げて発言するが、それを遮ったのはアビスだった。

 

「それはないと判断した。仮面ライダーも魔法少女も身体能力は通常の人間と比較しても上の立場だ。滅多な事が無ければ、怪我なんて起こり得ない」

「滅多な事って……」

「同じ力を持つ仮面ライダーや魔法少女が、そいつを殺そうとしに来ない限り」

 

アビスの一言は、たまを震え上がらせるには充分だった。一方で他の者はすんなりとアビスの意見を受け入れていた。

 

「シローもファヴも言ってたろ? 事故なんかで死人が出たら、その週の脱落者は無いって」

「あぁ。だからラ・ピュセルを狙ったそいつも、それを見越して殺そうとしたわけか」

「さっすがリーダー。話分かりやすいし」

 

ピーキーエンジェルズが囃し立てる中、ベルデは静かに語りだす。

 

「シローやファヴが何を考えてるのか知らねぇが、そっちがその気なら、あえて乗ってやっても悪くないだろうな」

「えっ? それってまさか……」

「決まってんだろ」

 

ベルデは立ち上がり、僅かに開いた引き戸の隙間から、月明かりの夜空を見つめて、そして呟く。

 

「世間知らずのガキ共に、大人の本性ってやつを教えてやるのさ。俺達にとって今後邪魔になりそうな奴を、片っ端から消してやる事でな」

 

 




本編ではこの辺りでアイテムが解禁されますが、もうしばらくお待ちください。


次回からいよいよベルデチームが動き出しますよ!

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