魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
教室に入ると、騒がしさは一段と増した。教室という狭い空間ではクラスメイトが固まって談笑しており、大地にとって、鬱陶しい事この上なかった。
窓際の席に、なるべく気配を殺しながら着席して、愛読書を取り出そうとしたが、そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、何人かの男子が一斉に大地のいる席に集まってきた。
「よう、大地!」
「おはよう!」
「……おはよう」
大地は素っ気なく挨拶をした。朝からテンション高く話しかけてくるのは、大地にとって好ましくなかった。
そんな彼の心情を知る由もなく、話題は昨夜のテレビ番組の内容や、近所でのおかしなエピソードだったりと、大地にとってどうでも良いと思うものへと移っていった。
基本的に相槌を打つだけで、軽く聞き流していた大地だったが、この日は最後までそれが続く事はなかった。
「あ、そうそう! この記事見たか⁉︎」
「ん? それって、仮面ライダーとか、魔法少女の事?」
1人の少年がスマホの画面から、今朝出会った女子中学生達が見ていたものと同じサイトの画像を大地を含む皆に見せた。
仮面ライダーに魔法少女。今朝のバスに引き続き、再び話題になり、そろそろ聞き飽きたな、と思いつつもまた軽く聞き流そうと思ったが、少年が見せた記事のタイトルに思わず目が惹かれた。
『N市に出没する謎の戦士と少女、通称「仮面ライダー」及び「魔法少女」のコスチュームが、某人気ソーシャルゲームに登場するアイテムと酷似?』
「某人気ソーシャルゲームって、『仮面ライダー育成計画』とか、『魔法少女育成計画』の事だろ? まぁ、言われてみりゃそうかもしれないけど……」
「ただの偶然だろ?」
「それがそうでもないらしいぜ」
と、ここで少年が目を光らせながら、得意げにこんな話をし始めた。
「実はさ。別の学校に通ってるいとこから聞いた事あるんだけど。この『仮面ライダー育成計画』で遊んでたら、何万人かに1人が、本物の仮面ライダーになれるらしいぜ!」
「……え」
大地は短く呟いた。今朝の話を総合すると、『魔法少女育成計画』と『仮面ライダー育成計画』。その両ゲームで遊んでいたら、ごく稀にそのゲーム内のキャラクターである、本物のヒーロー、ヒロインになれるらしい。
「あ、それなら俺も噂だけ聞いた事ある!」
「何だよそれ。都市伝説だけの話だろ? 本物なんて、いるわけねぇじゃん。俺結構やってるけど、そんな人知らねぇぞ?」
「でも、この記事に書かれてるみたいに、このゲームと噂って何か関係してると思うんだよな」
「ふ〜ん……。で、大地はどう思う?」
「あっ?」
「さっきの話だよ。お前もやってんだろ?」
「へぇ、そうなのか?」
「う……」
不意に声をかけられた大地はどう答えようか迷い、少し黙り込んでいると、チャイムが鳴り渡り、担任が教室に入ってきた。
それにより討論は中断。この時ばかりは、タイミングよく入ってきてくれた担任に心の片隅で感謝する大地であった。
そんな大地でも、元から人付き合いが苦手な方ではない。友達や知人に対してはちゃんと挨拶を交わしている。ただ、ここ最近になってから様々な都合が出来始めて、段々と面倒になってきているだけなのだ。
例えば放課後。
「よう、大地!」
校門前で元気よく声をかけてきたのは、5人ほどのグループの中心にいた、学生カバンと土のこびりついた部活用のバッグを肩から担いだ、見るからに元気モリモリな少年だった。大地はキョトンとした顔つきで返事をした。
「颯太か。部活は?」
「顧問の先生が職員会議に出てて、今日は朝練だけ」
大地に話しかけてきた少年の名は、
同じ学区だった為、中学も同じ場所になったのだが、その頃から2人の仲は激変してしまった。中1の頃はクラスも一緒だったが、大地の家庭でとある事情が出来て、段々と遊ぶ機会が減っていってしまった。加えて颯太も部活動のサッカーで活躍するようになって、一目置かれる存在になり、教室以外で話す事は無くなった。学年が1つ繰り上がり、クラスが別々になってからは、いよいよ会う事さえ難しくなってしまった。
だからこそ、大地と颯太の2人がこうして面と向き合うのは、本当に久しぶりでもあった。
「なぁ。これからみんなで、近くの美味いバーガーがある店に寄ってこうとしてるんだけど、お前も来ないか? 久しぶりだからさ」
向こうもそれを気にしていたらしく、快く大地を歓迎しようとした。が、肝心の大地は苦笑しながら首を横に振った。
「……悪い。今日も神社でやる事あって、すぐに戻らなきゃならないんだ。ほら……」
「……あ、そっか。もうすぐ祭りがあるんだっけ」
颯太も何かを察したように呟いた。
「ホントにゴメンな。また祭りの時に時間を見つけて会おうぜ。んじゃあ」
「あ、あぁ。またな! 祭り、ちゃんと観に行くから!」
大地は手を振りながら、バス停に向かって歩き去った。その後ろ姿を見ながら、他の男子達も口々に呟いていた。
「……なんか、付き合い悪くね? 家の手伝いなんて面倒なだけじゃん。俺だったら絶対サボるし」
「あいつの家って、N神社だっけ? 親が神主だからって、中学生から手伝わせるか? 普通」
「あれ? お前知らないのか? あいつの所の兄貴ってさ……」
そんな会話を耳にしながら、彼が去っていった方を見つめていた颯太は親友の力になってやれない虚しさを、風に吹かれながら感じていた。
学校からバス停まではそこそこ距離があり、歩いている間に知人と出会うのも珍しくない。
「あ! 大地君!」
「城戸さん。こんにちは」
1人で歩いていた大地に、原付バイクで走行していた青年がすぐ近くで停めて、ヘルメットを取ってから声をかけてきた。
彼も大地の知人であり、名を
「今日も神社の手伝い?」
「えぇ、まぁ……。もうすぐ祭りですし、バイトの人ばかりに任せてちゃ悪いかなと思って……」
「そっか〜。偉いなぁ」
「そういう城戸さんも、仕事ですか?」
「うん! 最近は、例の噂を調査してるんだけど……」
「噂?」
「ほら、この街で目撃されてる、魔法少女とか、仮面ライダーの事とかだよ!」
「あぁ……」
「いやぁ、スッゲェよな! 令子さんとかは全然信じないけどさ。俺はやっぱいるって信じてるんだ! だってさ……!」
もう何度目か分からないが、その単語を聞いて、いよいようんざりしている大地であった。それから、熱心に語る正史とのやりとりが面倒になったのか、声をかけた。
「そういえば、こんなところで道草食ってて良いんですか? 仕事中でしょ?」
「……あ、ヤッベェ! 編集長にすぐ戻って来いって言われてたんだ!」
正史は慌てたようにエンジンを吹かせて、ヘルメットをかぶる前に大地に言った。
「じゃあまた! もしそれらしい人達を見かけたら、連絡して! 後、祭りの時はちゃんと取材するから!」
「は〜い」
そして正史は、足早にその場を去っていった。相変わらず落ち着きがない人だな……と、苦笑いしながら再び歩き始めた。
しばらく誰とも出会う事なく、バス停の近くの道路に差し掛かった時、道端でシートを広げて、その上に設置された椅子に座る、1人の青年がいた。始めて見かける顔だが、見たところ正史と同い年ぐらいのようだ。
彼の目の前には小型のテーブルがあり、小さめのテーブルクロスの上には、3枚の銀貨が転がっており、側には『コイン占い』と書かれた手作りの看板が置かれている。
一度チラリと見ただけで、関わる必要も無いだろうと思って通り過ぎようとした。
「随分と退屈そうな顔をしてるな」
だが、そういった時に限って嫌な予感は的中してしまう。青年は大地の顔を見て、心情を察したようだ。それから青年は3枚の銀貨を手に持った。勝手に占うつもりなのだろうか。
「あの、お金を払う気は……」
「そんなつもりはない。これは俺の気まぐれだ」
そう言って、青年は銀貨を一枚ずつ親指で弾いてテーブルに落とした。大地が何となく気になってしまい、目が離せずにいる中、青年はその動作を3回行った後、大地の目を見つめて、こう告げた。
「近いうちに、退屈だと思える日常は終わりを告げる。……ただ、その事が、お前の運命を大きく変える。それも、決して良い事ばかりとは言えない」
「……それって、俺の運勢が悪いって事?」
「そうとも捉えられる」
だが……、とここで青年はハッキリとした口調で呟いた。
「運命は変えられる。君がそれを望むなら、きっと君なりに良い運勢だと思える時が来る」
そう言ってから、店じまいをするらしく、道具を片付け始めた。大地も用は済んだとばかりに立ち去ろうとした。すると、青年が大地の背中を見つめながら言った。
「1つ言い忘れてたが、俺の占いは当たる。絶対だ」
「……」
大地は返事をする事なくバス停に向かって歩いていった。
青年は荷物を全てカバンの中に仕舞うと、周りに気付かれないようにポケットからある物を取り出した。
「……何れまた、俺と会う時が来るかもな。今度は、異能の力を手にして、な」
彼が見つめていたのは、中心にエイの紋章が刻まれている、ピンク色のケースらしきものだった。
家路につき、玄関で靴を脱いでいると、巫女の衣装に身を包んだ、母親が廊下を忙しそうに通り過ぎようとしているのが見えた。母親も息子が帰ってきた事に気付いて呼びかけた。
「大地、おかえり」
「……ただいま」
「早速で悪いけど、着替えて境内の方を手伝ってきて。バイトの子だけじゃ追いつかなくなってるみたいだから」
「分かった」
大地はそう返事してから、2階の自室に入って荷物を置き、境内の控え室に入って、袴に着替えた後、バイト仲間と共に売り場を手伝ったり、境内を掃除してたりと、忙しく働いていた。市内で有名な観光スポットという事もあるが、間も無く年に2回ある祭りが迫っているので、いつも以上に参拝に訪れる人は多い。
休憩用の紙コップやポットを運んでいる大地の姿を見ていた参拝客は、小さな声で口々に呟いていた。
「大変だねぇ……。まだ中学2年生なのに、あんなに忙しく働いてて……」
「それに引き換え、あの子のお兄さんは……」
「もう1年になるんだっけ? 彼のお兄さんが急にいなくなったのって……」
「噂じゃ、経営に嫌気がさして家出したかもしれないって」
「それであの子が仕方なしに後を継ぐ事になったって訳か」
「昔はそんな悪い子には見えなかったけどね……」
この日も全ての行事が終了し、時刻が9時を回った頃、ようやく一家揃って食事が始まった。両親がクタクタになりながらも互いに労いながら食卓に並ぶ料理に箸を伸ばす中、大地は黙々とご飯を口に運んでいた。目線は誰もいない空間が広がっている。
正方形のテーブルを囲んでいるわけだが、彼の対面には、伏せられた状態の茶碗や湯のみ、箸が置かれている。
それらは約1年前まで、大地の兄である
今では恥ずかしくて口には出せないが、大地にとって律木は自慢の兄であった。おやつを半分に分けてくれたり、一緒に遊んでくれたり、怪我した時もすぐに応急処置をしてくれたりと、優しくしてくれた。喧嘩も時々したが、最後にはちゃんと仲直りできるほどに、誰の目から見ても中の良い兄弟だった。
そんな兄が忽然と姿を消したのは、1年ほど前だった。兄が本格的に将来の進路を考え始めた矢先の事だった。行き先も告げずにフラリと出かけてから、神社に姿を現す事なく現在に至る。警察と協力して捜索してもらったが、手がかりは掴めず。半年ほど経ってから、遂に両親の方から心が折れて、捜索を打ち切る事となった。その結果、次男である大地が神社の経営に携わる事になり、次期神主として、日々手伝いに駆り出される事になったのだ。毎日似たような仕事が続き、退屈に思い始めたのも、思えばその頃からだった。
皆は口々に、兄は逃げ出した、兄は両親や弟を置いて勝手にどこかへ行ってしまった、などと律木を批難するような言葉を呟いていたが、大地だけは違うと感じていた。
あんなに優しかった兄が、何の理由も無しに自分達の前から姿を消すとは思えなかった。
「(きっと、どこかで大きな事件に巻き込まれたんだ。そうじゃなかったら、絶対におかしい……!)」
大地は常に自分にそう言い聞かせて納得させた。
ご飯を食べ終えた後、自室にこもった大地は、宿題を済ませた後、ベッドに寝転がってスマホの電源を入れて、あるアプリを起動させた。画面には鳥のような姿のマスコットキャラクター……シローが誠実そうな男性の声で叫んだ。
『仮面ライダー育成計画へようこそ!』
大地は途中で思い出して、机の上に置かれていたペットボトルを持ってくるために、スマホをベッドに置いた。スマホからはシローの元気そうな声が響いていた。
『あなただけの理想のヒーローになるためのRPG、それが仮面ライダー育成計画なのです! いつの時代も勇気が必要です! さぁ、みんなも一緒に、最高のか』
前置きを聞くのが面倒になったのは今に始まった事ではない。さっさとタップする事で飛ばして、クエストを始める事にした。
毎日を退屈に過ごしていた大地であったが、ここ最近になって、そんな暇を持て余す為に始めたのが、この『仮面ライダー育成計画』であった。
『仮面ライダー育成計画』
それは「魔法の国」から、世界中で悪さをしている怪物をやっつける為に送り出された「使者」……すなわち仮面ライダーという設定のもと、様々な特殊能力やアイテムを駆使して、「モンスター」と呼ばれる怪物を退治し、世界の平和を守るという、クエスト系のゲームにはありがちな設定のソーシャルゲームだった。このアプリは基本的にヒーロー系が好きな男子から人気を博しており、その反対に女子に人気なのが、今朝も話題になっていた『魔法少女育成計画』なのである。 『魔法少女育成計画』は、いわば『仮面ライダー育成計画』の女性向けバージョンのようなもので、どちらも同じ会社、スポンサーによって配信されている。そのためか、しょっちゅうと言っていいほど合同イベントが行われたりしており、どちらもゲームを進行していくにあたって重要なアイテムとなる「マジカルキャンディー」が使われている。
大地がこのゲームをやるようになった理由は簡単だった。律木が空いた時間にプレイしていたからだ。本人もこれは面白いと太鼓判を押しており、失踪する直前まで会話の話題にしていた。
当初はまだ携帯という電子媒体を所持していなかった大地には、どこがそんなに面白いのか、理解出来なかった。が、1ヶ月ほど前にようやく買ってくれたスマホで、途中で飽きたら止めればいいと思いながらダウンロードしてやり始めたのだが、これが意外にも退屈だった日常を少しばかり払拭させる、暇つぶし方法となった。
周りの人達のコメントや最初にあったシローの説明通り、初心者でも簡単に入り込めるし、マジカルキャンディーを集める事でたくさんのアイテムを手にして、自分が設定したアバター……もとい仮面ライダーを強化して、自分の理想とする戦術やコンボが構築出来た。何よりも、いくらプレイしても完全非課金である事が、大地にとって大助かりだった。この辺りが、人気の秘訣である事は間違いなかった。
大地自身もゲームは苦手ではない為、時間が空いた時には決まって『仮面ライダー育成計画』をプレイしていた。こういった方面には決して弱くなかったのが功を奏したのか、着々と強化は進んでいた。
「えぇっと……。こいつは確か無駄に硬いから、このカードを使って先にダメージを与えておいて、と……。よし、後はこの必殺技で……。……よし!」
順調にモンスターを倒し、マジカルキャンディーやアイテムをゲットした大地は小さくガッツポーズをした。そんなこんなでスマホをいじっていると、気がつけば、日付が変わろうとしていた。
「……今日はここまでだな」
時計の針の位置を確認した大地は、ログアウトしてから充電器につないだ。
それから明かりを消して、ベッドに横になった時、不意に今日1日の出来事を思い出した。
『マホ育で遊んでると、何万人かに1人、魔法少女になれるんだって』
『この「仮面ライダー育成計画」で遊んでたら、何万人かに1人が、本物の仮面ライダーになれるらしいぜ!』
『俺はやっぱいるって信じてるんだ!』
『運命は変えられる。君がそれを望むなら、きっと君なりに良い運勢だと思える時が来る』
「あの占い師の言ってた事も気になるけど、魔法少女に仮面ライダーか……。んな話、デタラメに決まってるのにさ……」
大地はやれやれと思いながら、占い師の言葉を気にしつつ、眠りについた。
……だが、あの青年が言っていた占いが本当に的中する事態が起こってしまった。
「……ん。今度は複数で攻めてくるモンスターか。なら、このカードで分裂させて、一斉攻撃、と。……ふぅ、楽勝だな」
それは、占い師と出会って3日後の夕方。この日は珍しく参拝客が少なかった為か、帰宅してすぐに母親から呼び出される事はなかった。そして暇を持て余す為に『仮面ライダー育成計画』をプレイし、幾度となく戦ってきた事のあるモンスターを難なく退治し、マジカルキャンディーやアイテムをゲットした。
喉が渇いたので、一旦ゲームを中断しようとして、終了ボタンを押そうとした。が、突如その画面が消えて、シローがフワフワと横に動きながら、画面いっぱいに映った。
『おめでとう! 私はシロー。このゲームのマスコットキャラクターを務めている!』
「今更だな……。ってか何だこれ? また合同イベントでも始まるのか?」
『さて、君にとって嬉しいお知らせだ!』
大地が、見た事のないコマンドに戸惑っていると、シローがある事を告げた。
それを聞いた瞬間、大地の目は大きく見開かれた。
それは彼にとって信じがたいものであり、その内容とは、次のようなものであった。
『君は、本物の仮面ライダーに選ばれたのだ!』
というわけで、今回はオリ主の日常紹介と共に、龍騎本編から2人の主要人物が登場しました。1人は名前から察する通り、本編の主人公でもある城戸 真司をモチーフにしております。そして占い師はもちろんあの、龍騎の運命を変えた男をモチーフにしております。
次回から、待ちに待った新ライダーが登場します! どんなオリジナルライダーが出てくるのか、楽しみにしていてください!