魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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医学の知識が全くない作者ではあり、上手く書けてるか心配な回です……。


45.砕かれかける夢

N市は近辺と比べても大規模であり、故に夜遅くになっても灯りが灯っている所は多い。街の中心部に行けば、その規模は数知れず。その中心部の一角に佇んでいるのは、N市が誇る大病院。

その病棟の一室の、『集中治療室』と書かれた蛍光灯が赤々と灯る扉の近くに設置された長椅子に座りながら、榊原 大地は祈るように手を組んで額に当てていた。

 

「……」

 

つい先ほどまで港付近のシャッター通りを、ラ・ピュセルを襲撃してきたクラムベリーやオーディンの魔の手から助け出して逃げていた大地だったが、無人のトラックが2人に迫り、結果的に颯太が大地を庇って、彼の両脚がトラックとシャッターに挟まれた。おびただしい量の血が流れる中、駆けつけた手塚と共に颯太を救出し、颯太は手塚が呼んだ救急車に運ばれて、この大病院に搬送された。

因みに手塚はやってきた警察に事情を説明したり、現場検証に立ち会う為に、事故現場に残った。大地は颯太と共に救急車に乗り込み、颯太のそばについた。意識はあるものの、血の流れる両脚を貫かれるような激痛が襲っており、苦しげな表情をずっと浮かべている。道中で大地の腕にできた怪我に気づいた隊員が簡単な治療を施しており、大地の腕には包帯が巻かれ、頬には湿布が貼られている。

やっとの思いでラ・ピュセルを、颯太を助け出せれたのに。後悔の念が大地の心中を渦巻いていた。如何に魔法少女といえど、元は人間だ。怪我の治りは早くても、助かるという確信はない。こんな時に限って、仮面ライダーや魔法少女の力が役に立たないという事実が、重くのしかかる。

今の自分には、こうやって親友の無事戻ってくる事を祈るしかできない。それを受け入れながら待機していると、病院であるにもかかわらず、何人もの足音が重なり合って響き渡ってきた。やがてその音は大地に近づいており、大地がふと顔を上げると、見知った顔ぶれだった。

 

「だいちゃん!」

「大地君!」

「小雪……、城戸さん。それに……」

 

現れたのは、パートナーの小雪や古くからの知り合いでもある正史。その後方には同じチームの蓮二や華乃がいた。小雪や正史には颯太が集中治療室に入ってからすぐに連絡を入れていたので来るのは分かっていたが、後の2人が来る事までは予想外だった。大方、マジカルフォンを通じて正史に無理やり叩き起こされて来たのだろう。

が、大地が声をかける前に小雪が大地に詰め寄ってしきりに問いかけた。

 

「ねぇだいちゃん! そうちゃんは⁉︎ そうちゃんは、どこなの⁉︎ 大丈夫なんだよね⁉︎ 死んじゃってないよね⁉︎」

「……今は、この部屋に。それ以上の事は……」

 

そう言って大地は扉に目を向けた。幼馴染みの安否や、パートナーの怪我の具合を心配する小雪は、しばらく涙が溢れ続けていた。

 

「だいちゃんまで、こんな風にさせるなんて……」

「どうしてこんな事に……」

 

正史も呆然と扉を見つめていた。ついさっきまで元気だった魔法少女が重症を負うなどと、誰が想像出来ようか。

蓮二が扉から大地に顔を向けた。

 

「……一体何がお前達にあった」

「それが……」

「大地君、小雪ちゃん!」

 

すると新たに駆け寄る人影が。颯太の両親だった。病院から連絡を受けてやってきた2人は、とにかく焦っていた。自分達の息子が大怪我を負って病院に運ばれたとあっては黙っていられるはずもなく、真っ先に颯太の母親が大地の肩を掴んで、切羽詰まった表情で彼を問い詰めた。

 

「大地君、どういう事なの⁉︎ 聞いた話だと、あなたから連絡を受けて助けに行った颯太が、あなたを庇って事故に巻き込まれたって……!」

「……っ。それは……」

「何で……! 何で颯太が……! あなたに何があったのよ⁉︎ ちゃんと説明して!」

「ちょ、ちょっと! 落ち着いてくださいよ!」

「息子の友達を責めて、それで何が変わる」

 

怪我をしている大地を大きく揺さぶる颯太の母親を、慌てて止めに入る正史と、冷静に引き離そうとする蓮二。2人に押さえつけられて、ようやく理性を保った颯太の母親は、自身を落ち着かせてから大地に謝り、疲れ切った表情で椅子に座り込んだ。憔悴仕切っている母親と、そんな彼女を励ますように肩に手を置いている父親を見て、大地は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。半分は、颯太の両親には自分が用事の為に、夜道を歩いていた際に鏡の中から出てきた化け物に追われ、颯太に助けを求めて、合流してから逃げていた際に、事故に巻き込まれたと、真実を誤魔化して伝えた事。もう半分は2人をここまで心配させてしまった事。

すると、『集中治療室』のランプが消えて、扉の奥から足音が聞こえてきた。手術が終わったようだ。それに気づいた皆が顔を上げると、扉からは手術を担当していたであろう医師が、マスクを取りながら大地達の前に姿を現した。大地達はすぐに医師に駆け寄った。

 

「先生! 颯太は……!」

「一時は危険な状態にありましたが、手早い応急処置が功を奏したのでしょう。足に突き刺さっていた破片も全て取り除きましたし、現在は脈も安定してます」

「じゃあ……!」

「えぇ。命に別状はありません。後は麻酔が切れるのを待てば、意識もはっきりします」

 

それを聞いて、一同はようやく安堵したように息を吐いた。どうやら最悪の事態は回避出来たようだ。さすがは大合併に伴って、最新の医療機器を備えてあるだけの事はある。とにかく颯太は無事だ。その事実が、大地達を安心させた。

……が、医師の次の言葉を聞いて、大地達は目を見開く事になる。

 

「ですが、破片が奥深く刺さった箇所に、靭帯があり、そこの損傷は少しばかり激しいものでした。他にもいくつかの神経が傷ついていますから、完全に歩けるようになるには、多少時間がかかるかもしれません。それに、後遺症が残る可能性も否定出来ません。もし、スポーツか何かをやっているようでしたら、多少なりとも、選手生命が危ぶまれる覚悟はしておいた方が良いかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院を出たその先は、常夜灯の周辺を除いて、漆黒の闇に包まれていた。颯太の両親は今しばらく息子の側につく事になり、残った大地達は、家に帰る事になった。扉の前で5人は固まり、周りに関係者以外の人物がいない事を確認してから、大地から事の次第が明かされた。話を聞き終えた小雪は泣き崩れた。

 

「酷いよ……! そうちゃん、何も悪い事してないのに……! なのに、もうサッカーが出来なくなるかもしれないなんて……!」

「……ごめん。俺の、せいだ。俺が、颯太を最後まで……」

「だいちゃんは悪くないよ!」

「そ、そうだよ! その事故だって、クラムベリーかオーディンが仕組んだ事なんだろ? だったらそいつらが悪いに決まってる!」

 

自虐する大地を、小雪と正史はどうにかして慰めていた。が、大地の表情は優れない。

魔法少女でいるうちは問題ないだろう。魔法少女になれば身体能力はぐんと向上し、現時点では難しいかもしれないが、やがては早期回復によって地に足をつく事だって造作もなくなる。キャンディー集め等の活動に支障をきたす事もない。だが問題は、変身前の状態だ。サッカー選手にとって命とも言える足に爆弾を抱えていては、まともにプレーする事だって難しい。今後のリハビリの経過にもよるが、彼のもう1つの夢だった、プロサッカー選手になるという願いは、叶わなくなるかもしれない。それを知れば、颯太は精神的にも追いやられるのは間違いない。魔法少女として活動する事と同時並行だった夢は、同じ魔法少女や仮面ライダーの手によって、砕かれかけようとしているのだ。

小雪の泣き声だけがしばらく響き渡る中、蓮二がもたれかかっていた壁から離れて歩き出した。

 

「蓮二? どこへ……」

「もう用は済んだはずだ。今日のところは帰らせてもらう。俺は明日も仕事があるからな。トップスピードにも、後でお前達から伝えておけ」

「ちょ、蓮二……!」

 

正史が呼び止めようとしたが、蓮二は無視してさっさと闇の中に溶け込んだ。やがて華乃も蓮二に続くように立ち去ろうとした。が、一旦立ち止まると、顔だけ振り返って大地達に言った。

 

「……あいつらが最初からラ・ピュセルを始末する気だったなら、今回の事故も、殺す気でやったって事よね」

「……はい」

「なら、次に他の奴らと会う時は……。その時は、そいつも殺人鬼だと警戒しておいた方が良い」

「「「……!」」」

「信用出来ないのは、あいつらに限った話じゃないから」

 

それだけ告げると、華乃も姿を消した。華乃の言葉がしばらく頭の中に響く中、2人と入れ替わるように、手塚が姿を見せた。どうやら現場検証を終えて、病院に直接向かってきたようだ。颯太の現状を聞き終えた手塚は頷くと、言いにくげに口を開いた。

 

「……つい先日、占いでラ・ピュセルに危機が迫っていると出た事があった。教えようとは思っていたが、逆にそうする事で、どんな形で未来が変わるか分からない。だからあえて黙って監視する事にしていたのだが……。これは明らかに俺の対応ミスが招いた結果だ。すまなかった」

「て、手塚が謝る必要ないって」

 

頭を下げる手塚に正史がそう声をかけたその時、自身のスマホから着信音が鳴った。相手は編集長の大久保だった。時間帯も時間帯だったので気にはなったが、出てみる事にした。正史はスマホを耳に当てながら、何やら情報を得ているようだ。他の3人も黙って様子を見ている中、正史の表情は段々と険しいものになった。やがて短い会話の後、スマホを耳から離すと、こう告げた。

 

「ごめん。たった今編集長から連絡があって、取材に行かなきゃならないんだ」

「そうですか。気をつけてくださいね」

「うん。それじゃあまた。明日か明後日は、みんなでお見舞いに行こうな!」

 

そう言うと、正史はバイクが置いてある駐輪場に向かって走っていった。それを見送ってからしばらくすると、遠くから車が見えてきた。大地の両親が運転する車らしく、病院にいる大地を迎えに来たのだろう。それを見た手塚は大地と小雪に言った。

 

「それじゃあ、俺はこのまま病院の中に入って、颯太の両親と話してくる。事故の事とかも話さないとな。とにかく、2人はゆっくり休んでおく事だ。また明日集まろう」

「「はい」」

「……まだ、彼の運命は破滅したわけではないからな」

 

そう言って手塚は手を振りながら病院内に入っていった。やがて両親と合流した大地は、心配をかけた事を精一杯謝罪した後、小雪を乗せて彼女の家まで送って、各々の両親同士で一言二言会話した後、N神社へ帰宅した。

親は特に何も言う事なく大地を彼の部屋へ入れた。暗闇に包まれた部屋の中でしばらく虚空を見つめていた大地だったが、不意に姿見に目をやり、ポケットからカードデッキを取り出して、かざして九尾に変身。ミラーワールドに入り込み、窓の外から出て屋根の上に足をつけた。

やがてミラーワールド内にこだましたのは、やり場のない怒りのこもった、少年によるあらん限りの咆哮だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結局、失敗に終わったようだな』

「の、ようですね」

『やっぱりトラックで轢き殺そうとするなんて、不確定要素がありすぎたんだぽん。ご利用は計画的に、ぽん』

「だが、今回の件が他の連中に良い刺激となれば、それに越した事はない」

「良い刺激……ですか」

 

森の奥深くない佇む廃屋にて、数時間前までラ・ピュセルや九尾と死闘を繰り広げていたクラムベリーとオーディンが平然とした様子でくつろいでいた。ファヴとシローもその成り行きを見ていた。

オーディンの発言に対し、クラムベリーが目線を横に向けて、とある記事に目を通した。

 

「それでは、この記事の事もそれに関係してそうですね。これ、あなたがやった事でしょう? おそらく、私が港で彼らを見ていた時よりも前に」

 

クラムベリーが見ていた記事には、『森で20代女性の変死体発見。鋭利な刃物による刺殺か』と書かれた見出しで大きく載っていた。

 

「わざわざルーラの死体を拠点から運び出し、あえて世間に公表させる。そうする事で、ベルデ達を我々の狙い通りに誘い出すと同時に、なるべく騒ぎを小さく済ませる。抜け目ないですね」

「あのまま隠されていても、後で見つかった時に試験に支障をきたされては面倒だからな」

『これからこのような事態は増える一方だからな。その対応で正解だろう』

 

シローが、オーディンの対応を賞賛した。その一方で、クラムベリーは考え込む表情を見せていた。

 

「このままいけば、我々が望んでいた展開が待ってますが、果たしてそう上手く事が運べますかね……」

『いけるいける。今回は人を集めるために、わざわざソーシャルゲームなんて若者向けな媒体を使ってるぽん。おかげで人はたくさん集まったし、年齢は一部を除いて若い奴らばかりぽん。それだけ血の気が多いはずだから、なーんにも心配する事なんてないぽん』

 

思えば、ソーシャルゲームを材料にすると提案したのもファヴだったな、と思いつつ、クラムベリーは足を組み替えた。自分の手柄として自慢したいのかもしれない。

 

『けどまぁ、そんなに心配だったら、もうちょっと燃料投下してあげても良いぽん。どうするマスター?』

「では、お願い致します」

『それじゃあシロー。早速手配するぽん』

『心得た』

 

その言葉を最後にファヴとシローは2人の前から姿を消した。

 

「……さて。次は誰が脱落しますかね。重症を負ったラ・ピュセルか、それとも別の誰かか……」

 

妖しき笑みが、飢えた魔法少女を包み込んだ。

 

 

 




本編では書きませんでしたが、正史が取材に向かったのは、ルーラこと木王 早苗の刺殺死体が見つかった山奥です。

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