魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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44という不吉な数字が並んだ回でこの展開になるとは、私も予想だにしてませんでした……。


44.ラ・ピュセル、死す……⁉︎

「グァァァァァァァァァァッ!」

「ウァァァァァァァァァァァァッ!」

 

港を舞台にしたミラーワールド内に、2人分の悲鳴が響き渡る。

突如劣勢に置かれていたクラムベリーが無傷で復活したかと思うと、彼女のパートナーであるオーディンが乱入し、右腕を突き出すと、黄金の羽根が九尾とラ・ピュセルに降り注ぎ、触れた瞬間爆ぜた事で、2人に多数の切り傷が生じた。地面を転がる2人を見下ろしながら、オーディンは口を開いた。

 

「クラムベリーを追い詰めるほどの実力がある事だけは認めてやろう。だが、粋がるのもそこまでだ」

「こ、のぉ……!」

 

ラ・ピュセルが立ち上がってエビルウィップを振るうが、命中した手応えはなく、オーディンは空気に溶け込むように消えた。

 

「残像……⁉︎」

「その通り」

 

ハッとした時にはラ・ピュセルの背後に回っており、オーディンは軽くラ・ピュセルを弾き飛ばした。よろめいているラ・ピュセルに今度はクラムベリーが突撃して、ラ・ピュセルを殴りつけて吹き飛ばした。口元からは再び血が溢れ出ている。

 

「ラ・ピュセル! んなろぉ……!」

 

九尾は真っ向から拳を振るってオーディンを攻めたが、ヒラリヒラリとかわされて、一発も当たらない。右足を突き出した途端、オーディンが右足首をガッチリと掴み、一旦持ち上げると、九尾を地面に叩きつけた。

 

「グァッ……!」

 

頭を強く打って目眩が生じた九尾の胸ぐらを掴んだオーディンは、腹パンを決めて九尾を宙に浮かせた。凄まじい痛みが全身を走り、落下して地面に叩きつけられた。気合いを振り絞って立ち上がって再び駆け出そうとした九尾の眼前にクラムベリーが迫り、思わず両腕をクロスする九尾だったが、ニヤリと笑ったクラムベリーはフェイントをかけて、拳による連打を決めた。一発当たる毎に口から空気が漏れ出し、息をする事さえ辛くなっていく九尾に対し、クラムベリーは手を緩めず、蹴りを入れて後ずさった九尾に、今度はかかと落としを彼の頭に直撃させた。

 

「ガハッ⁉︎」

 

その衝撃に、片膝を地面につける九尾。顔の下部分を生温い液体が流れているのが感覚的に分かった。白い毛並みの装甲にも、赤色の水滴がいくつか付着している。血が出ている。そう思った時にはクラムベリーによって顔面に蹴りが叩き込まれ、口元から血が飛び散り、地面に滴り落ちた。

続けてオーディンが背後から急襲し、足払いされて地面に仰向けになった九尾に向かって右足で踏みつけた。最初に狙われたのは九尾の右足。力強く踏まれた事で激痛が伴い、九尾の口から絶叫が溢れ出た。この状況を打破する為に新たなカードをベントインしようと右腕を動かそうとしたが、それに気づいたオーディンは、今度は右手を踏みつけた。痛さのあまり手を動かせず、オーディンに蹴り飛ばされる九尾。転がった先には、偶然その場に倒れていたラ・ピュセルの姿が。

 

「九、尾……! 大丈夫……か……!」

「ラ・ピュセルの、方、こそ……! けど、さすがにヤバい、な……」

 

互いに励まし合いながら、どうにかして立ち上がる九尾とラ・ピュセル。どちらも、特にラ・ピュセルは当初からのダメージが蓄積されている為、ほぼ限界に近い状態だった。それでも尚、目線だけはオーディンやクラムベリーをしっかりと捉えていた。

目の前の脅威を排除する。それだけを考えて、2人は駆け出す。2人が狙いに定めたのは、前衛に位置するオーディンであり、カウンターを仕掛けてきたオーディンの攻撃を避けた後、2人は血の付いた拳を突き出し、オーディンを後ずらせる。どうやら全く効いてないわけでは無さそうだ。

 

「これなら……!」

 

ラ・ピュセルが背中の鞘から剣を取り出して、魔法で肥大化させようとしたその時、普段マジカルフォンから耳にしている、警報が辺りに鳴り響いた。それは、活動時間の限界が迫っているという合図だった。

 

「! この音……!」

「そんな……! いくらなんでも早過ぎ」

 

九尾が、鳴るのには早過ぎる警報に違和感を感じ、思わずラ・ピュセルと共に自身のマジカルフォンに目をやる。が、そこで意識がマジカルフォンに向けてしまった事で、前方から迫り来る気配に気づくのが遅れてしまった。

 

「ふんっ!」

「「ガッ……⁉︎」」

 

ハッと振り返った時には、オーディンの両拳が各々の胸元に直撃し、2人は吹き飛ばされて、コンクリートの壁に背中から叩きつけられた。血が滴り落ち、ズルズルと地面に倒れ込もうとする九尾とラ・ピュセルだったが、唐突に首元を絞め付けられ、無理矢理持ち上げられる感触が2人を襲った。

同時に目を開けると、クラムベリーが片方ずつの手で2人の首を絞め上げているのが確認出来た。その力強さに、ラ・ピュセルは思わず剣を手放してしまった。2人が苦しみながらも気道を確保しようとして両手をクラムベリーの手にしがみつかせる中、クラムベリーはふと思い出したかのように悠々と語り始めた。

 

「そう言えばラ・ピュセル。あなたのいう王道には続きがありましたね。戦いの末、強者が強者を知り、お互いを認め合う」

「グ、ウァァァァァ……!」

「ガ、ァグァァ……!」

 

2人は必死に抵抗するものの、時間だけが過ぎていき、意識が朦朧とし始めている。

 

「……でも、この状況では、認めてもらえそうにないですね」

 

残念です、と呟いた後、更に強く握りしめるクラムベリー。ラ・ピュセルからは悔しさが滲み出ていた。

 

「グァァ……! お、おまえ、を、野放し、に、して、たら……! 小雪、が……! スノー、ホワイトが……! みんな、が……!」

 

どうにかして九尾だけでも助けたい一心だったが、最早自由すら効かない。

 

「グゥゥゥゥ……! (こ、こんな、所で、死ぬわけ、には、いかねぇ、のに……!)」

 

首を絞められながらも打開策を考える九尾だが、そうこうしている間にも、失神寸前まで追いやられていた。勝負ありと思ったクラムベリーがトドメを刺そうとしたその時、何かを察したクラムベリーを突き飛ばす影が。クラムベリーはすんでのところで2人の首を離して後方へ飛び上がった。

唐突に酸素が入り込んで来たので、地面に倒れながら咳き込む2人だったが、顔を上げると、2人の前に仁王立ちしている狐のモンスターがいた。

 

「フォクスロード……!」

『グルルルルルル……!』

 

自らの契約モンスターの名を呼ぶと、フォクスロードはクラムベリーとオーディンを睨みつけながら唸った。まるで主人やその仲間を守るかのように、フォクスロードは立ち塞がった。

 

「ほぉ。カードを使わず、パートナーもいないこの状況で契約モンスターを呼び寄せるとは……」

 

クラムベリーもオーディンもやや関心の様子を見せ、フォクスロードは2人に突撃した。2人と一匹が交戦している中、好機だと思った九尾は、右手をカードデッキに当てて、カードを取り出した。痛みにこらえながら、左腕につけられたフォクスバイザーにベントインする。

 

『TRICK VENT』

 

九尾の周りに何体もの分身が現れて、フォクスロードの援護をするようにオーディンとクラムベリーに向かって駆け出した。

その隙に、九尾はラ・ピュセルの手を握って、その場を離れた。フォクスロードや分身を相手にしている2人はそれに気付かず、全ての分身を倒した頃には、そこには血痕以外何もなかった。フォクスロードもどさくさに紛れて退却したようだ。

念を入れてミラーワールドから退出し、辺りを見渡したが、血の跡こそ残っているものの、その根源となる人物はいない。クラムベリーは肩を竦めながら、しかし表情だけはさも楽しんだかのように笑みを浮かべていた。

 

「ここまで高揚する戦いは久しぶりでした。ウィンタープリズン達の時とは大違い。やっとそれらしい戦いになりました。……ですが、あの九尾が強者を前に逃亡という選択肢を取るのは如何なものかと……」

『……それで、どうするつもりだ』

『また逃がすぽん?』

 

2人の持つマジカルフォンからファヴとシローが立体映像として現れ、声をかけた。どうやら一部始終を見ていたようだ。

 

「無論、今回はタダで帰すつもりはない。勝者には、褒美を。敗者には、罰を。それだけの事だ」

 

そう呟くオーディンの目線の先には、一台のトラックがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……、ハァッ……!」

 

港付近に位置する、人気のない路地を2人の人影がゆっくりと歩いていた。クラムベリーやオーディンとの戦闘で疲弊した大地と颯太である。が、2人のその姿は決して無事とは言えず、身体中に擦り傷が出来ており、颯太の指の爪がいくつかひび割れており、大地の鼻からは血が出ていた。現在、シャッターで閉められている店が立ち並ぶ、通称『シャッター通り』を、颯太が大地に左肩を担がれている状態で前へと進んでいた。が、足取りもおぼつかず、いつ倒れてもおかしくない状態にあった。

大地は時折振り返りながら、港からなるべく早く遠ざかるように歩を進めた。

 

「(さ、さすがに向こうも諦めたか……。……にしても、なんて奴らだ。クラムベリーもそうだが、オーディンはかなりヤバい……。まるでこっちの攻撃が通じてなかった……)」

 

先ほどの戦闘を思い返しながら内心震え上がっていると、ミラーワールドを出てから今まで黙っていた颯太が口を開いた。

 

「……どうして」

「……?」

「何で、僕を、助けたんだ……。また、僕のせいで大地が、傷ついて……。迷惑かけて……」

「あんなぁ……!」

 

不意に大地は少し尖った口調になり、颯太を振り下ろして肩を掴んで叫んだ。

 

「前にも言ったろ? 迷惑だなんて気にすんなって……! 何かあったら頼れって……! そう約束しただろ……! 俺はそれを守っただけだ。自分だけで突っ走って無茶ばっかして、少しは周りの事も、考えろってんだ……!」

「! でも、それでも、僕は……!」

 

颯太が何かを言いかけたその時、2人は港方面から大きくて黒い影が迫ってくるのを視界に捉えた。目を凝らしてみると、それは比較的よく見かけるタイプのトラックだった。が、ライトはついておらず、唯一分かったのは、トラックが2人めがけて猛スピードで突っ込んでくるという事だった。

 

「! ヤバッ……⁉︎」

 

大地は咄嗟に颯太を突き飛ばし、2人は衝突から回避した。と、今度はトラックが数メートルほど進んだ後に急に切り替えしてきて、再び迫ってきた。そこで始めて、運転席に誰もいないのが見えた時には、すぐそこまで迫っている事に気付いて、大地はスレスレの所で避けたが、そこで右足に強い痛みが走り、大地は跪いた。オーディンに踏まれた時の痛みが戻ってきて、足を捻ったようだ。と同時に、激しく動いて脳が揺さぶられた影響で、意識がグラついてきた。

トラックは急回転して、大地にしつこく狙いを定めるように、一直線に突っ込んできた。誰かが魔法の類で操っている事は分かったが、そんな事は最早大地には関係なかった。トラックはすぐそこまで迫っている。後方にはシャッターのある店、前方からは無人のトラック。そして大地には自ら動くだけの判断が追いついていない。

 

「大地ぃ!」

 

どこからか颯太の叫び声が耳に入ってきたが、朦朧としている大地には、死が目前に迫っている事しか理解出来ていない。

 

「(……あ。ヤバいな、これ……)」

 

もう回避するだけの気力は残っていない。呆然と迫り来るトラックに目をやっていた大地。

トラックが数メートル付近まで迫ったその時、大地の視界は大きく歪み、夜空が見えた。月は輝いているのに、星は1つも見えない。

刹那の事だった。轟音が耳を震わせ、金属が破裂する音が鳴り響き、地面を擦る感触が肌に伝わった。そこで大地の意識は僅かながら回復した。全身には想像していたほどの痛みは感じられない。手を見渡しても、あるのは戦闘で出来た擦り傷だけ。道路の真ん中に転がっていた大地は、不意に視界が歪む直前に誰かに触られた感触があった事を思い出し、顔を上げて、段々とはっきりしてきた視界で辺りを見渡す。

やがてある一点に目をやった大地は、唐突に思考が止まった。

そこに広がっていた光景。それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運転席の部分がひしゃげたトラックと、ぶつかった衝撃で折れ曲がっているシャッター。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2つに挟み込まれるように、上半身だけを突き出して、赤い液体に身を包まれている少年の倒れ込む姿が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そ……た……」

 

最初はか細い声だったものが、途端に叫び声となって、辺りに響き渡った。

 

「そ、颯太ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 

見間違えるはずもない。トラックとシャッターに両足を挟み込まれて血を流しているのは、大親友の颯太に違いない。

 

「……あ、アァァァァァ……! そう、た……! 颯太ぁ! アァァァァァ……!」

 

不思議と足に力が入ってきた大地は、死に物狂いで颯太に駆け寄った。割れたシャッターの破片に埋もれながら、血が止まる事なく溢れ出ている。大地は咄嗟の判断で、トラックを退かしてスペースを作って颯太を引きずり出そうとした。が、重量の重いトラックは、中学生1人の力ではどうにも動かす事が出来ない。それでも、自分を突き飛ばし、身代わりとなってしまった親友を助けたい一心で、力を入れ続けた。

するとそこに人影が降り立った。

 

「大地! 颯太!」

「……! ライ、ア……!」

 

現れたのは、颯太のパートナーでもあるライア。突然響いた轟音を頼りに到着したようだ。

 

「ライア! 颯太、が……、颯太が……!」

「分かっている……!」

 

大地が何か言うよりも早く、状況を理解したライアはトラックを押した。2人の力が合わさった事でトラックは動き、ようやく颯太を安全な場所に動かす事に成功した。

大地は必死に声をかけた。

 

「颯太! しっかりしろ! 死ぬな! おい!」

 

大地の叫びが届いたのか、颯太の口から微かに呻き声が漏れた。意識は朦朧としているようだが、まだ息はあるようだ。ライアはトラックを見て、燃料が漏れ出してないかを確認した後、変身を解き、颯太の体をチェックし、大地を落ち着かせるように言った。

 

「まだ息はあるが、急いで止血しないと命に関わる。大地はこのタオルで応急処置を。破片が突き刺さっているから、なるべく刺激しないように。俺は警察等に連絡を入れる。一刻を争う事態だ。頼むぞ」

「……はい!」

「気をしっかり保てよ、颯太……!」

 

手塚は颯太を励ましながら、大地に持参していたタオルを手渡し、スマホを使って警察や救急車に連絡を入れた。大地はなるべく傷つけないように、足に突き刺さっているシャッターの破片を避けながらタオルを当てて止血を始めた。

 

 

 

〜俺の、せいだ。俺のせいで、颯太はこんな大怪我を負ってしまった……。〜

 

 

 

そんな自分への不甲斐なさを心に突き刺しながら、視界が滲み始めた大地は必死に呼びかける。それしか、今の大地に出来る事は、ないのだから。

 

「頼む、死ぬな……! 頑張れ、颯太……!」

 

人気のない事故現場に複数のサイレンの音が鳴り響いてきたのは、それから数分後の事だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俗に言う『タイトル詐欺』な回でした。

……まぁ、こういう血生臭い展開は基本好まない作者ではありますが、さすがに無傷で生存させるのはちょっとアレだったので、このような展開にさせました。気にくわなかったらすいません……。

因みに今回のタイトルの元ネタは、某人気カードゲームアニメから。
ヒントと言っては何ですが、ふと思いついた、この回を次回予告にした場合に、脳内で思い描いたのはこちら↓

『やめて! オーディンの介入で九尾まで追い詰められたら、今度こそラ・ピュセルは助からなくなってしまうわ! お願い! 死なないでラ・ピュセル! 頑張って九尾! あんた達が今ここで倒れたら、小雪ちゃんや仲間達との約束や叶えたい夢はどうなっちゃうの⁉︎ まだ起死回生の一手は残ってる! ここを耐えれば、きっとその先には……! 次回「ラ・ピュセル、死す……⁉︎」戦わなければ生き残れない!」
(CV:真崎 杏子[齋藤 真紀])


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