魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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アニメ版の「覇王龍ズァーク」強すぎませんか……?

……それはさておき、ラ・ピュセルとあいつの前に、あの強敵が登場!


43.黄金のライダー

岸辺 颯太は大がつくほどに魔法少女好きだ。

その原因としては、幼馴染みの姫河 小雪と幼少期から魔法少女系のアニメを視聴していた事にある。どんなピンチに陥ろうとも、希望を胸に、最後には必ず勝利を掴みとる。そんな姿に彼は惹かれ、何時しか憧れていた。小雪と共にいつもアニメキャラの真似事をして遊んでいた。以来、彼は約10年間に渡って魔法少女に携わってきた。

しかし成長するにつれて周りが魔法少女を卒業していく中、段々と羞恥心が芽生え始め、颯太ははたと困り果てた。唯一、幼馴染みだけは未だに魔法少女を捨てていないようだが、男である颯太は葛藤していた。それでも夢を捨てきる事はなく、親や親友には内緒で、魔法少女に関する事柄なら、アニメは欠かさず視聴し、漫画は揃え、部屋の隅に隠し置いていた。

そんな彼にはもう1つ夢があり、それはプロのサッカー選手になってヨーロッパで活躍する事だった。魔法少女に携わる傍ら、サッカーに勤しんでいた際に出会ったのが、榊原 大地と呼ばれる少年だった。校庭で遊び相手を探していた際、同じクラスだった大地に誘って共にサッカーをして以来、意気投合。毎日のように互いの家に遊びに行ったり、街に出かけたりと、自他共に認める『大親友』として2人3脚で小学校生活を楽しんでいた。同じ中学に上がると、大地の家の都合で会う機会も減ってしまったが、サッカーに一生懸命取り組み、魔法少女にかじりつく事だけは変わらなかった。

そんな彼が『魔法少女育成計画』と呼ばれるアプリと出会ったのは、中学2年に上がって間もない頃。『プレイしていると本物になれる』という噂も耳にしていたが、颯太は気にせずプレイしていた。そもそも期待すらしていなかった。少女でない自分が魔法少女の力を身につけても大変みっともない。ただ、理想の魔法少女を作るという作業が、魔法少女ファンである颯太にとって楽しくないわけがない為、あくまで純粋に楽しむ事だけを目的にゲームを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……が、どんな運命のいたずらが働いたのか、彼はなってしまったのだ。竜騎士を彷彿とさせる魔法少女『ラ・ピュセル』に。

 

「いや困るから⁉︎ 確かに魔法少女は好きだけど! 自分がなりたいってわけじゃないから!」

『そんなのこっちだって困るぽん。男の子の魔法少女はレアなのにぽん』

「しょ、少女って……」

 

ラ・ピュセルは思わず鏡に目をやり、体のあちこちを触り、そこでようやく自分の性別そのものまで変貌してしまっている事を確信し、顔を最高潮に赤らめた。

魔法少女になってから1週間が経ち、正体を隠しながらも夕方から深夜にかけて人助けやモンスター退治、先輩魔法少女や先輩ライダーとの交流も徐々に進め、ようやく慣れ始め、そろそろ教育係が決まりかけてきた頃、ラ・ピュセルは不思議なライダーと出会った。まだ会った事すらない人物だったが、どことなく不思議なオーラの持ち主である事は理解できた。

 

「……なるほど。君が数奇な運命に選ばれた者か」

「?」

「俺はライア。君が新人のラ・ピュセルだな?」

「え、えぇ」

「中々に大変な事情を抱えているな、君は」

「……え」

「異性として手にした力をどう使うか悩んでいる。俺の占いでそんなお告げがあった」

「……⁉︎」

 

ライアの言葉を聞いて愕然としたラ・ピュセル。どのような経緯で知ったのか定かではないが、明らかに自分の秘密がバレている。必死に言い訳をする間も無く、ラ・ピュセルは崩れ落ちた。さすがに気を悪くしたかと思ったライアはラ・ピュセルを落ち着かせ、話し合う事にした。話を進めていくうちに、ラ・ピュセルの心に出来た傷は癒されていった。元々心理学を学んでいたようだが、彼の語る言葉はラ・ピュセルを勇気付けた。そして彼は最後にこう語る。

 

「人間誰だって踏み間違えたレールを進んでしまう事がある。だがそこから修正する事だって出来る。それは自分に誇りを持つ事だ。そうすれば、自ずと運命は変わる」

 

異性である自分を認めてくれる。

ラ・ピュセルはライアに感謝すると同時に、彼の下で指導を受けてみたいと思うようになり、当初はシスターナナが受け持つはずだった予定を急遽ファヴやシローに頼み込んでライアに変えてもらった。

2人での活動を進めていくうちに、今度は颯太を驚かせる出来事が。まとめサイトで見かけるようになった新人の魔法少女を調べてみた結果、幼馴染みが子供の頃に描いていた理想の魔法少女像と酷似している事に気付き、その魔法少女『スノーホワイト』が小雪だと気付いた時には大変驚き、また会いたいという衝動に駆られた。しかし出会いはそれだけにとどまらず、今度は親友である大地が仮面ライダーになっていたのだ。学校でモンスターの出現を知り、人目のつかない所で変身しようとした最中、彼は大地が新人の仮面ライダー『九尾』になる所を目撃する。その際颯太の秘め事まで知られる形になったが、結果的に大地は颯太を、ラ・ピュセルを認めてくれた。その時の歓喜は今でも忘れる事がなかった。

そしてスノーホワイト、もとい小雪と再会し、ライア、九尾と共にチームを組み、共に行動出来る日々が楽しかった。理不尽なゲームが始まってからも、彼女の意志は変わらなかった。何があっても、3人を守り抜いてみせる、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな特別な事情を抱えている魔法少女……もとい魔法騎士は不気味な雰囲気を漂わせる魔法少女『クラムベリー』と対峙していた。キャンディーの奪取が目的ではなく、強敵との戦いを目的としている事に不信感を募らせるラ・ピュセルだったが、向こうがその気なら返り討ちにするまでだと思い、剣を構えた。ラ・ピュセル自身、強敵との戦いを欲していたのも事実であり、仲間に危害を加えさせる事なく勝利するという二重の目的を持って、決闘を受け入れた。

最初に動いたのはクラムベリーで、一直線に突撃してきた。ラ・ピュセルは飛び上がり、追いかけてきたクラムベリーに肥大化させた剣を振るう。が、クラムベリーは紙一重でそれをかわし、屋根の上に降り立つ。ラ・ピュセルが電柱に降り立った途端、周りの家に明かりが灯り始めた。外から聞こえてくる激しい音が気になったのだろう。

 

「(マズイ……! ここだと人目につく……!)」

 

魔法少女同士の争いに、一般人を巻き込むなど言語道断。そう思ったラ・ピュセルは屋根の上を飛び交いながらクラムベリーに目配せした。ついてこい、と。

対するクラムベリーは少し考える素振りを見せた後、ラ・ピュセルの後を追いかけた。

ラ・ピュセルがやってきたのは、民家から遠く離れた、倉庫が立ち並ぶ港。クラムベリーはそこでラ・ピュセルが窓ガラスに入っていくのを目撃し、クラムベリーも同様に窓ガラスへと突入した。

窓ガラスや鏡などの向こうに存在する世界『ミラーワールド』に入り込んだ2人は倉庫の屋根の上で距離をとって向かい合った。音1つしない世界を見渡しながらクラムベリーは呟く。

 

「……或いは罠かと思いましたが、考えすぎでしたか」

「ここなら人目にもつかないし、いくら暴れても現実世界に影響はない。存分に互いの力を出し切るのに、ミラーワールドは最適な場所だから、正々堂々と戦おう」

「それは失礼いたしました。強者を目指し、強者を求めて、2人が全力で戦うには、確かに最適なフィールド。王道を上手く利用しましたね」

 

クラムベリーがラ・ピュセルの対応を褒め称える中、ラ・ピュセルは険しい表情で剣の柄を握った。

 

「私は……私のなるべき魔法少女を目指す! それだけだ!」

 

そう叫んだラ・ピュセルは剣先をクラムベリーに向け、長さを変化させた。よりリーチの長くなった大剣は屋根を擦りながらクラムベリーへと迫ったが、クラムベリーは難なく避ける。

無論ラ・ピュセルもそうなる事は想定済みだったらしく、元の大きさに戻す反動でクラムベリーの真下へと体を動かし、飛び上がって体を捻らせると両足を突き出した。クラムベリーは両腕をクロスしてこれをガード。別の屋上に足をつけた両者は手を緩める事なく戦闘を続けた。ラ・ピュセルの振るう大剣をかわしつつも反撃とばかりに拳を振るってくるクラムベリー。剣を相手に拳だけで対抗するクラムベリーも賞賛に値するが、ラ・ピュセルも負けてはいない。空中戦に持ち込まれると、クラムベリーが途中でバランスを崩し、ラ・ピュセルは隙を逃す事なく蹴りを入れる。

 

「……やはり、強い!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

劣勢な立場にいるはずのクラムベリーが強気な笑みを浮かべる中、ラ・ピュセルは咆哮と共に飛び上がり、上空から下降して斬りつけようとした。

 

「(ミラーワールドでの活動時間にも限りがある! 現実世界で力を振るう事にならない為にも、ここで一気に決着を……⁉︎)」

「何を焦っているのですか?」

「⁉︎」

 

命中したという手応えがない。そう思っていた矢先に砂埃の中からクラムベリーの声が聞こえてきた。ハッとした時には、すでに首元を掴まれていた。

 

「他事を考えなくても結構なのですよ。私もあなたと同様に強者を求めています。……いや、求めている? そんな生易しいものではないですね」

「……!」

「飢えて、いるのです」

 

その時、ラ・ピュセルは見てしまった。クラムベリーの顔が興奮のあまり紅潮している事に。その笑みは今まで見てきたどの表情よりも恐ろしさを感じさせている。

クラムベリーの右腕を引き離そうとした時、クラムベリーの膝蹴りがラ・ピュセルの腹を直撃した。無防備な箇所への一撃を受けたラ・ピュセルは口から血を吐き出しながら屋上にワンバウンドしてから地上に落下した。

以前ルーラから受けた腹蹴りよりも痛みが数倍響いており、ラ・ピュセルはすぐには立ち上がれなかった。そんな彼女の元へ、クラムベリーは降り立ち、語り始める。

 

「でも、あなたのように自分が強くなる為に戦いに挑んでいる訳ではありません」

「……⁉︎」

「私は、より強い者を、この手で殺したいのですよ」

「コロ、ス……⁉︎」

 

ラ・ピュセルが反応するよりも早く、クラムベリーはラ・ピュセルの胸ぐらを掴み、左の拳で殴り飛ばした。声にならない悲鳴をあげながら地面を転がったラ・ピュセルへの、クラムベリーの猛攻は止まらない。ボロボロになりながらも立ち上がったラ・ピュセルに対し、クラムベリーは接近して右のこめかみにキックをかました。

ラ・ピュセルは吹き飛ばされ、そして気づく。眼前にはコンクリートの壁が広がっている。あれに無抵抗で直撃すれば、自身の体はタダでは済まない。

 

「……っ!」

 

ラ・ピュセルが思わず身構えた、その時だった。

 

「ハァッ!」

 

壁に激突する直前、何者かが横から飛び出してきて、彼女を抱き抱えながら地面を転がった。クラムベリーは目を細めて、乱入者を確認した。そして、ニヤリと口元を歪める。それはある意味で対決を希望していた人物だったからだ。

 

「ギリギリってとこか。無事じゃなさそうだけど」

「九尾……!」

「ったく。無茶しやがって。小雪が泣くぞ」

 

突如現れた親友の介入により、ラ・ピュセルの窮地は救われたのだ。ラ・ピュセルは口元についた血を拭いながら疑問を口にした。

 

「でも、どうしてここが……!」

「さぁな。何となく引き返したらお前がクラムベリーに追いかけられているのが見えてな。ついていっただけだ。さすがにこの場所を特定するのには時間がかかったけどな」

「そうか……。済まない」

「だから無茶すんなって言ったろ? 1人で抱え込みやがって」

「けど……!」

「まぁ、細かい話は後だ。それより……」

 

九尾はラ・ピュセルの前に立ち、襲撃者を睨みつけながら口を開いた。

 

「……お前、何をしてるんだ」

「見ての通り、決闘ですよ。文字通り、死力を尽くして戦う、本当の戦い。つまりは殺し合いのようなものです」

「殺し合い……? 何でそんな事を」

「それが私の流儀だからです。……いや、そもそもこれが定理なのですよ。より強い強者を求めて戦うだけでは足りない。その強者を殺め、喰らい尽くす。そうする事で、私達魔法少女や仮面ライダーは、強くなれる」

「ち、違う……! 僕は、そんな事がしたくて、この戦いを受けたんじゃ、ない……!」

 

クラムベリーの言葉を聞いたラ・ピュセルは震え上がり、地面に座り込んだ。クラムベリーは眉をひそめる。

 

「おや、戦う相手が出来る事を望んでたのでは?」

「でも、殺し合いだなんて……!」

 

それを聞いたクラムベリーは落胆するようにため息をつき、そして呟く。

 

「何か、勘違いされてませんか? 人知を超える力を持つ者同士が戦うのですよ? 生きるか死ぬかが明確になるのは当然でしょ?」

「……」

「そ、そんな……!」

 

九尾は黙り込み、ラ・ピュセルは愕然としている。それを見たクラムベリーは冷めた口調になり、ラ・ピュセルに近づいた。

 

「……ラ・ピュセル。あなたには幻滅しました。死んでください」

「死なせねぇよ」

 

そこへ立ちはだかるように、九尾はクラムベリーの前に出た。躊躇なく殺害しようとする相手を前に、九尾は怖気付く様子を見せない。

 

「俺も、ラ・ピュセルも、死なない。あんたが死ぬならそれはあんたの勝手だ」

「ウフフ……。やはりあなたは強者です。そこの彼女とは大違いですよ。だからこそ、倒し甲斐があるというものですよ」

「やってみろよ。ラ・ピュセルを、俺のダチを傷つけたお前になら、容赦しなくてもいいからな」

「では、お言葉に甘えて」

 

刹那、クラムベリーは九尾に素早く回し蹴りを叩き込む。が、九尾はしゃがんで逆に足を突き出してクラムベリーを転ばせた。立ち上がって踏みつけようとするが、クラムベリーはいち早く回避する。

 

「ラ・ピュセル。ここからは俺がやる」

「ま、待て! 相手は厄介だ! 九尾1人じゃ……!」

「んな怪我を見せられたら、行かせられねぇよ。ま、ヤバくなったら頼むぞ」

 

九尾がラ・ピュセルの顔に付着している血痕を見てそう呟くと、クラムベリーに向かって駆け出した。

九尾とクラムベリー。拳と拳がぶつかり合う中、クラムベリーはこんな事を話し始めた。

 

「やはりあなたはメインディッシュに相応しい実力の持ち主です。前菜では、私の腹は満たされない。もう少し熟してからいただこうと思っていましたが、気が変わりました」

「前菜とかメインディッシュとか、訳のわかんねぇ事を……!」

「ラ・ピュセルでは物足りないのですよ。シザースと同じようにね」

「何でそこでシザースの名が……」

「以前、この付近で左腕と頭が無い男性の遺体が見つかった事はご存知ですよね? 人並み外れた力で無くては考えられないほどに潰された跡を残して」

「……! お前……」

 

不意に察した九尾は後方に跳んで壁を蹴って、クラムベリーに蹴りを入れた。クラムベリーは右腕でそれを受け流すと、悠々と答えた。

 

「そう、その通り。その死体こそが、仮面ライダーシザースの正体であり、あれをやったのは、私です」

「妙だとは思ってたが、お前が絡んでたのか……!」

「彼は強者になる事を望んでいた。しかし結果は散々でした。この私を失望させたのですから、当然の報いですよ。そしてそれはラ・ピュセルも然り。シザースよりは期待してましたが、所詮はあの程度……」

「あいつを、バカにするのはそこまでだ」

 

不意に低い声で呟いた九尾は接近して懐に入るとアッパーでクラムベリーを吹き飛ばした。口元から血が流れるのを確認しながら、クラムベリーは空中で体制を整えている。

 

「何を知ってるわけでもないお前に、ラ・ピュセルの事を語る資格はない……!」

 

『BRAZE VENT』

 

フォクスバイザーにカードをベントインさせた九尾の手に、炎の球体が出現し、

 

「ハァッ!」

 

と一声発すると火球がクラムベリーに向かって投げられた。『ブレイズボンバー』を回避するクラムベリーだったが、爆炎で九尾が近くまで詰め寄っている事に気付かず、放たれた右ストレートまでは回避できず、地面を転がった。

 

『SWORD VENT』

 

九尾は手を緩めず、フォクセイバーを握ってクラムベリーに斬りかかる。クラムベリーは依然として余裕があるのか、体をしならせて避けている。隙を見て足を蹴ると、九尾はバランスを崩して倒れこみ、そこへクラムベリーのつま先が腹めがけて蹴り込まれようとするが、左手に握られたフォクセイバーでどうにかガードできた。

一旦距離を置いたクラムベリーは、その手にマジカルフォンを握った。

 

「素晴らしい剣術をお持ちですね。しかし忘れてはいませんか? 私の武器は拳だけではない事に」

 

そう言ってタップすると、その両手にゴルトセイバーが出現し、九尾に斬りかかった。金属がぶつかり合う音がミラーワールド内に響き渡り、火花が散った。互いに互角の勝負を繰り広げる中、クラムベリーには口を開く余裕があるのか、九尾を評価していた。

 

「私は魔法少女としての暦が長いですが、ここまで対等に渡り合える者はそういません。やはり最初から期待に添える人材ですね。ただ、唯一の欠点を申し上げるなら……。あなたには、人を殺めるだけの覚悟が足りない」

「そんなもの」

「いらない、とお思いでしょう。ですが、あなたも何れ気づく時が来る。世界は常に刺激を求めている。守れないものだって出てくる。その手を血に染めて、強大な力を振るってあらゆるものを手にする。そしてその資格が、あなたにはある。あなたなら、なれるはずですよ。飢えるほどに戦いを欲する、最強の仮面ライダーに」

「そんな事にはさせない!」

 

不意にクラムベリーの左腕に、エビルウィップが巻きつき、身動きが取れなくなったクラムベリー。隙を逃さず九尾は左腕を蹴り上げた。左腕から鈍い音が鳴り響き、クラムベリーは後退して妨害した相手を睨みつける。エビルウィップを片手に構えたラ・ピュセルの隣に、九尾が降り立った。

 

「さっきの言葉、そのまま返させてもらう。私の武器は、剣だけではない!」

「……行けるのか?」

「もちろん! あんな奴を野放しにはしておけない! 九尾を、人殺しになんかさせるものか!」

「同感だ。俺はあいつとは違う」

 

2人は剣を構えて、同時に走り出した。左腕にダメージを負ったクラムベリーは、右足を振って寄せ付けないようにしたが、2人はその手前で飛び上がった。訝しむクラムベリーの両端からはさみ込む形で両者は降り立ち、剣を立てて駆け出した。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」

 

咆哮と共に迫り来る2人を交互に見合い、クラムベリーは思考した。どちらの勢いも凄まじい。しかし無策にも見える。このままギリギリまで引き寄せれば、飛び上がって回避したその瞬間、両者は勢いを抑えきれずに互いの剣が互いに突き刺さる。

クラムベリーの選択肢が定まったその時、ラ・ピュセルは不意に持っていた大剣を上空に放り投げた。自ら武器を捨てた事に違和感を感じていたが、次の瞬間、ラ・ピュセルはクラムベリーにしがみつき、身動きを封じてきた。最初からこれを狙っていたのか。クラムベリーは引き離そうとするが、ラ・ピュセルは強い力で押さえつけている。

 

「クラムベリー! お前のような奴を魔法少女とは認めない! 九尾!」

 

ラ・ピュセルは九尾に合図を送ると、九尾は2刀のフォクセイバーをクラムベリーに向けて突き出した。クラムベリーは必死の抵抗を見せるようにラ・ピュセルを力強く振りほどき、体を反らした。フォクセイバーはクラムベリーの両腕を掠め取り、傷口から血が流れた。だが、大ダメージとはなっていない。ニヤリと笑ったクラムベリーはガラ空きとなった九尾の腹に膝蹴りを放とうとする。が、それよりも早く九尾は地面を蹴って、クラムベリーの真上を飛んだ。

 

「ハァッ!」

 

すると、先ほど吹き飛ばしたはずのラ・ピュセルが九尾に向かって飛び、宙を舞っていた九尾の足に、自身の足を踏みつけた。

 

「ふんっ!」

 

九尾はそのまま足を振り上げて、ラ・ピュセルを上空に飛ばした。ラ・ピュセルを目線で追っていくうちに、クラムベリーは気づいた。ラ・ピュセルの向かう先には、先ほど彼女が空高く放り投げた大剣が落下している事に。更に、大剣やラ・ピュセルに注意を向けた事で、九尾の存在が疎かになり、九尾はクラムベリーの両足の甲めがけてフォクセイバーを突き刺した。

 

「!」

 

痛さまではさほど気にならなかったが、足の身動きが封じられており、大剣を手に構えて迫り来るラ・ピュセルの攻撃を回避出来ない。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「これで……!」

 

ラ・ピュセルは鋭くない部分を見せつけるように振り下ろした。彼女にはクラムベリーを殺す気など毛頭なく、叩きつけて失神させるぐらいで十分だと考え、しかし手加減する事なく、クラムベリーに強烈な一撃を与え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『TIME VENT』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……る直前、謎の電子音が2人の耳に聞こえてきたかと思うと、クラムベリーの姿が歪んだ。

 

「「⁉︎」」

 

ラ・ピュセルの一撃が地面に激突し、砂埃が晴れた時には、クラムベリーの姿はそこにはなかった。クラムベリーがいたはずの地点には、地面に突き刺さったフォクセイバーだけがあった。が、肝心の本人はいない。そもそも、手応えが感じられなかったのだ。

 

「なっ……」

「一体どこに……!」

 

2人が辺りを見渡していると、

 

「意外でした。九尾はともかく、ラ・ピュセルにまだそのような力が残っていたとは」

 

ハッとして振り返ると、最初にラ・ピュセルやクラムベリーが降り立った屋根の上に、クラムベリーは悠然と立っていた。よく見ると、先ほどまでついていた傷は綺麗さっぱり消えており、全くの無傷状態でそこにいたのだ。立ち位置も全く同じ場所におり、まるで、『時間が巻き戻った』かのような状態だった。

 

「何で……⁉︎ 何であいつは……!」

「よく分からないが、相当厄介な事になったぞ……!」

 

2人はクラムベリーの様子に驚いていると、クラムベリーは口を開いた。

 

「さすがに危ないところでした。あなたの援護がなければ、ね」

 

クラムベリーがそう呟いたその時、クラムベリーと2人の間に上空から光が差し込んできた。思わず2人が目を細めていると、光の中から、腕組みをした人物が降り立った。その人影を見て、ラ・ピュセルは目を見開いた。

 

「お前は……、オーディン!」

「……」

 

目の前に現れたクラムベリーのパートナー、仮面ライダー『オーディン』は、静かに九尾とラ・ピュセルを見合った。そして無言で右手を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ゴルトフェニックスからの強襲を受けていたライアは、1枚のカードをベントインした。

 

「お前の相手をしている暇はない!」

 

『ADVENT』

 

近くのカーブミラーから契約モンスターのエビルダイバーが現れて、ゴルトフェニックスが体当たりした。

 

「奴の足止めを頼む!」

 

ライアがそう指示すると、エビルダイバーは頷くような仕草を見せて、ゴルトフェニックスに向かっていった。その隙にライアはその場を離れてラ・ピュセルを探しに向かった。

 

「(不死鳥の姿をした契約モンスター……。それに当てはまるライダーやパートナーの魔法少女は、一組しかいない……!)」

 

これまで素性が掴めていないペアの事を思い出しながら、付近を捜索していたその時、轟音が辺りに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく形勢逆転となりかけたその時、九尾とラ・ピュセルの前に現れた、最強のライダー、オーディン。その実力に、2人は震え上がろうとしていた……。

そして次回、衝撃の結末が……。

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