魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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ふと思ったのですが、皆さんは魔法少女及び仮面ライダーの中で、誰に対して「この人だけは生きていてほしかった!」と強く思ったのでしょうか?(もちろん原作では生存しているスノーホワイトとリップル以外で)
ちょっと興味がわいたので、もしよろしければコメントを書くついでに教えてくださるとありがたいです。(今後の参考にするとは言っていない)

なお、今年度の投稿はこれが最後になります。


41.金儲けにも色々事情がある

シザースこと須藤 充の死体が港で発見されて以降、彼が裏で行っていた悪事は次々と暴かれていった。加賀 友之が殺害された事件に関与した事はもちろん、違法な取り引きによって独自に動いていた事など、その数は計り知れず。

皮肉にも、結果的に彼は『悪を滅し続けた正義のヒーロー』ではなく、『数々の悪事を働いた犯罪者』として、世間にその名を知らしめる形となった。

これらの事件は、OREジャーナルはもちろん、様々なマスメディアを通じて報道されたのは言うまでもない。特に事件の最深部まで関わり、より濃厚な記事を書けたという事で、令子だけでなく正史も大久保から手厚く褒められた。

が、正史の表情は優れない。正史は新聞で報じられている内容以上に、須藤の事を知っており、素直に喜べはしなかった。加えて正史や大地達といった、事に関わったメンバーが不可解に思ったのは、須藤が左腕を切断され、頭を潰された状態で発見された事だった。昨晩のチャットでシザースの脱落が発表され、彼が死ぬ事は承知できたのだが、なぜ惨殺されたのかが理解できなかった。

パートナーだったねむりんのように心臓麻痺という形で死を迎えるパターンだけではないのか、あるいは第3者が人知れず手を下したのか……。

経緯は分からなかったが、単なる事故死とは思えず、スノーホワイトこと小雪の不安は更に積もり、いつしか、キャンディー集めの最中でも笑みを浮かべる機会さえ少なくなった。

すでに4人も脱落する中、次に死ぬのは果たして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんなスノーホワイトとは裏腹に、せっせとキャンディー集めに励む者も少なからずいた。

 

『SHOOT VENT』

 

「ハァッ!」

 

ミラーワールドにて、動き回るギガゼールを前に、ゾルダは両肩に備えられたビーム砲『ギガキャノン』を撃ち続けて爆散させた。

 

「ぬぉぉぉぉぉっ⁉︎」

 

その後方ではパートナーのマジカロイド44が、支給された武器でもあるギガランチャーを構えて、もう一体のギガゼールを狙って撃ったが、ギガランチャーは威力が大きい分、反動もデカい。小柄なマジカロイドでは耐えられるはずもなく、反動をもろに受けて吹き飛ばされる。ギリギリではあるが、ギガゼールに命中して爆散させたが、仰向けに倒れているマジカロイドはヘトヘトになっていた。

 

「おーい、大丈夫か?」

「……生きてマ〜ス」

 

ゾルダが声をかけると、マジカロイドはロボットらしくゆっくりと手を振った。

それから2人はミラーワールドを後にして、ビルの屋上でマジカルキャンディーの獲得数を確認しながら休憩していた。

 

「いや〜。しかしアレデスね。モンスター退治というのも一苦労シマスね。命に関わる事情がなければ、やりたくない仕事デシタ」

「それはアレか? 金儲けにならないって事か、単にやりたくない事だからってものか」

「両方デス」

 

マジカロイド44の変身者でもある真琴の事をよく知るゾルダは、なるほどと頷く。やはり自分と似たような性格を持って生きているなと共感していた。

すると、マジカロイド44がこんな話題を提示してきた。

 

「そういえば、先日シスターナナから連絡がありマシテ」

「へぇ、あの人から?」

「ハイ。運営の方に異議を申し立てる為に、是非とも協力してほしいとの事デシテ」

「無理だろうね」

 

シスターナナの考えを聞いたゾルダは即座に否定した。

 

「俺からしたら、ファヴもシローも人間の倫理が通じない連中だし、そんな奴ら相手に、世界中のライダーや魔法少女が束になったって聞き入れやしないさ」

「同感デス。しかし、彼女はワタシにとって嘗ての金づるデシタから、無碍にも断れないのデスよ……」

「金づる……か。けど何でまたシスターナナと?」

「まぁ、色々とありマシテね……」

 

そう言ってマジカロイド44は夜空を見上げながら当時の事を語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理想の王子様に出会ったのです」

 

それは、まだゾルダと出会う前の事。教育係となっていたカラミティ・メアリからの指導を全て終え(ただし、まともに教えられる事なく)、チャットルームで暇を持て余していた頃、そこで知り合ったシスターナナから直に会いたいという申し出を受け、暇つぶしにと許可を出し、早速待ち合わせ場所に出向いたマジカロイド44だったが、断っておけばよかったと、その時のマジカロイド44は激しく後悔していた。

目の前にいる修道服姿の魔法少女、シスターナナは据わった目つきで、理想の王子様が如何に素敵な存在であるかを朗々と語り、とにかくその『王子様』の事を全面的にアピールしていた。

以前、カラミティ・メアリがシスターナナの事を『愚図な女』と揶揄していたが、こうして直に会ってみるとそう言いたくなるのも無理はなさそうだった。

 

「何よりも大切に思ってくださるのです。……ですが、私が魔法少女となってしまったが故に、理想の王子様は、理想の王子様になれなくなってしまったのです!」

「……スミマセン。言ってる事、全然分からないのデスが」

 

もっともな事を呆然と呟くマジカロイド44。だがシスターナナはそれを無視してマジカロイド44の手を握った。

 

「理想の王子様は、いざという時に私を守ってくれるからこそ、理想の王子様であり、私は守られる立場になりたいのです。しかし今となっては魔法少女である私の方が、腕力で勝っています」

「マァ、そうでしょうネ」

 

実際、魔法少女や仮面ライダーは身体能力が非常識なまでに向上するとファヴからも説明があった為、間違ってはいない。

 

「私やあなたみたいに魔法少女という同じステージに立ってこそ、理想の王子様なのです」

「……」

 

何を言ってるんだこの露出狂は。それがマジカロイド44の率直な感想だった。

と、ここでようやく本題に入った。

 

「そこでですね。是非ともあなたに、彼女を魔法少女にさせる手助けをと思ってお呼びしたのです」

「それで、ワタシに何をしてほしいのデスか?」

「マジカロイド44さんは、22世紀からいらした魔法少女型ロボットだそうですね」

「……あぁ、そういう設定だったデスね」

 

曖昧そうに呟くマジカロイド44。

 

「便利な道具をたくさんお持ちだとか」

「便利じゃない道具の方が多いデスけどね」

「それを1つお貸ししていただけないでしょうか? 失礼を承知で、お礼も用意いたしました。些少ではありますが……」

 

そう言ってシスターナナが懐から取り出した茶封筒を受け取り、中を確認すると、諭吉が1人。

ふと、以前のチャットで「魔法少女も仮面ライダーも苦労があっても金にならない」とボヤいた気がしており、シスターナナはそれを覚えていたのかもしれない。

 

「お力添えいただけないでしょうか?」

 

ニッコリと微笑むシスターナナを見て、考え込むマジカロイド44。報酬が付くのなら、断らなくてもいいかもしれない。それだけでなく、上手くいけば良い商売相手になるかもしれない。

マジカロイド44は咳払いを1つして、腰についていた袋に手を突っ込み、ごそごそと漁ってから、1つの装置を取り出した。それを見てマジカロイド44は一瞬固まったが、意を決してPRを始めた。

 

「じゃじゃじゃじゃーん! 『昆虫雌雄鑑定機』デス!」

「これは……?」

「その名の通り、昆虫のオスメスを鑑定する事ができる便利な道具デス」

「どういう意味があるのでしょうか?」

 

興味深げに『昆虫雌雄鑑定機』を手にとって眺めながら、シスターナナは説明を聞いた。

 

「昆虫という生き物は宇宙や異世界からの来訪者という説さえある神秘的な生き物デス。そのようなファンタジッククリーチャーとの触れ合いによって、魔法少女の才能を引き伸ばす事がある……とも言えなくもないわけでもないかもしれないものデス」

 

最後は早口且つ小声だったが、幸いにも興奮気味のシスターナナの耳には届いていなかったようだ。

 

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます!」

 

シスターナナは飛び上がり、マジカロイド44にお礼を言った。真に受けてくれたらしい。

もちろんマジカロイド44の口から説明された全てが、金欲しさにでっち上げたものだという事は、言わずもがな。

改めて説明すると、マジカロイド44の魔法は『未来の便利な道具を毎日1つ使えるよ』というものであり、4億4444万4444個ある便利道具から1日一回、1つを取り出して使用できるのだ。が、この魔法は極めて扱いどころが難しいものだった。1つは出てくるアイテムがランダムである事。もう1つは日付けが変わる頃には使えなくなってしまう事。これだけ見ると、スノーホワイトの魔法よりも難しさを感じられる。

シスターナナに渡した昆虫雌雄鑑定機も同様で、「使っているうちに何故か壊れてしまいました」と、機械を片手に翌日再訪問してきた。

しかし、そんな事は百も承知だったマジカロイド44は、嬉しそうに喜ぶという演技を見せてシスターナナに言った。

 

「おぉ! それは素晴らしいデス! そのアイテムが壊れるほどに魔法的な影響を物凄い勢いで吸収したという事デス。これは脈があるという事デス」

 

何も知らないシスターナナは大いに喜び、マジカロイド44が新たに取り出したアイテム『デブリ除去専用マニピュレーター』を1万円で購入した。

以来、マジカロイド44とシスターナナのやり取りは続き、シスターナナが訪れる度にマジカロイド44は「兆候が見え始めている」などと煽って『完全自動掃除機(ルンバではない)』や『1日で漫画が描けるペン』、『対魔法生物用光線銃』などを売りつけ、1万円を手にする。このような無限ループが起こり、財布が少しずつ重くなるのを感じ、マジカロイド44はロボットに似合わない顔つきでほくそ笑んだ。

 

「これは、実にボロい商売デスね」

 

マジカロイド44は五百円玉に似た満月を眺めながらそう呟いた。

が、マジカロイド44の思惑は予想外な形で幕を閉じた。最初の出会いから1週間後、シスターナナは1人の魔法少女を連れてやって来た。

 

「ありがとうございます!」

「……へ?」

「昨日お借りした『マジカルパワー増幅ピアス』を、彼女につけたところ、ファヴが現れて魔法少女に目覚めたのです!」

 

シスターナナが連れてきた新人魔法少女である『理想の王子様』こと『ヴェス・ウィンタープリズン』は軽く会釈した。

 

「(……しまったァァァァァァァァ⁉︎)」

 

商売相手を失い、その日マジカロイド44は2人が何も購入せず帰ってから夜が明けるまで、噎び泣きしていたのだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり魔法少女も仮面ライダーも、金にならないのデスよ。改めてそう実感しマシタ」

「……あぁ、何となく分かった」

 

ゾルダも仮面の下で苦笑していた。

それ以来シスターナナと絡む事はほとんどなく、一度だけウィンタープリズンを魔法少女にしてくれたお礼をという事で歓迎パーティーに招待され、食事にありつく為に出向いたぐらいだった。余談だが、シスターナナと親しかったオルタナティブとファム、最近仲良くなったという事で呼ばれたライアとラ・ピュセルともそこで知り合い、新たな商売相手になるのではと試みたが、会話していくうちにそれは難しそうだと判断し、諦める事になったらしい。

 

「……でもまぁ。一応あいつらの提案に乗るふりぐらいは出来るんじゃないか? 上手くいけばまた儲けれるかもしれないし。今度は俺もいれば何とかなりそうだろ?」

「……そうデスね。まだまだ利用価値はありそうデスし。是非ともお願いしたいデス」

 

2人分の乾いた笑い声が辺りにこだました。もしこの場に他の魔法少女や仮面ライダーがいれば、この2人はよく似ていると評するに違いなかった。

 

「ア、それはそうと、少し話題は変わるのデスが……」

「?」

「さっきライアとラ・ピュセルの名前を出して思い出した事があるのデスが。あの2人、以前まではスノーホワイトと九尾のペアと行動していたそうデスが、最近はトップスピード、龍騎、リップル、ナイトのチームと手を組んだらしく、大きな派閥になってるそうデスよ」

「へぇ。よほど信頼できる仲なのかね」

「そこで提案なんですが、ワタシ達もスノーホワイト達の所とまではいきまセンが、どこかのペアと手を組んでみてはと思いマシテ。ワタシとしては、カラミティ・メアリと王蛇のペアと組むのが効率的かと。あの2人なら早々に脱落なんてなさそうデスし、カラミティ・メアリには教育係の件でお世話になりマシタから、すぐに入れてもらえるのデハと……」

 

マジカロイド44の提案を聞いたゾルダは肩を竦める。

 

「手を組む、ねぇ……。俺は反対かな。そういうのって結局下っ端につくって事になるし、それってなんか生き残っても美しくないよ。どうせならこのまま2人で残りたいし、その方がカッコいい」

 

それに……、と呟いたゾルダは立ち上がって背伸びしながらこう言った。

 

「……あの2人と、ってのはお勧めしないね。カラミティ・メアリはともかく、王蛇がいるのは宜しくないし。俺の予想が正しければ、チームを組むどころか首を持ってかれそうになるかもよ、俺達2人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、あんたも飲むかい?」

「……アァ」

 

一方、ゾルダとマジカロイド44のペアの間で話題になっていたカラミティ・メアリと王蛇のペアは、とあるクラブの一室にある黒革張りのソファーに腰を下ろしていた。

数分前まで、城南地区で2人を雇っている『鉄輪会』に刃向かう勢力を鎮圧しに『人助け』をしており、2人の前にある黒檀の小机には報酬として受け取った札束の入った茶封筒が。この場にマジカロイド44がいたら、目の色を変えていたに違いない。

カラミティ・メアリに勧められてウィスキーを飲む事にした王蛇は、一旦Vバックルから蛇の紋章が刻まれたカードデッキを抜き取り、変身を解除する。ヘビ柄の上着を着た、目つきの鋭い男性はウィスキーの瓶を受け取ると、グラスに注ぐ事なく直接喉に流し込んだ。度の強い酒類のはずだが、男性は全く気にしていない。その様子を見ていたカラミティ・メアリはクスクスと笑っていた。

 

「……アァ? 何だ?」

「いや、別に。随分と暴れ足りないように見えたからさ」

 

カラミティ・メアリは、数分前までそこらじゅうにいた組員を完膚なきまでに叩きのめしていた王蛇の様子を思い返していた。王蛇のそれは、まるで溜め込んでいたイライラを解消するかのように。が、それをもってしても完全にとはいかなかったようだ。

 

「あんたはやっぱり面白い。前の旦那とは大違いだ。退屈しない」

「どうでもいい」

 

全て飲み干したウィスキーの瓶を壁にぶん投げて割れた瓶からこぼれ落ちる、僅かに残った液体を睨みながら、男性は吠える。

 

「……あいつらじゃ足りない。誰とでも良いと思ったが、やはりライダーや魔法少女じゃなければ、俺を楽しませてはくれないなぁ……!」

 

戦えればそれで良い。

何度も耳にしたフレーズを聞きながら、カラミティ・メアリは笑みを浮かべ、空になったグラスを机に置き、今度は男性の真似事とばかりに瓶を片手に直接口に流し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先もっと楽にお金を稼げたら良いのに、と朝日に照らされながら思い耽っているのはリップルの変身者、細波 華乃だった。

現在彼女は3つの危機に瀕している。『将来』がかかっている学校生活。『日常生活』がかかっているバイト。そして『命』がかかっている魔法少女としてのキャンディー集め。何れか1つでも手を抜けば、破滅へと直結する。特に3つ目は。

電車通学の華乃は、キャンディーの競い合いという状況下に置かれた今、約35分間という移動時間の合間にスマホを通じて、従来の担当地区や、最近仲間になった九尾チームの担当地区の分を含めた箇所で、キャンディー稼ぎに最適そうな仕事を探すのが日課になった。

やがてそれも見飽きた華乃が次に閲覧したのは、魔法少女や仮面ライダーの目撃情報を取り扱っているまとめサイトだった。今日も数多くの目撃情報が寄せられているが、中でも多数を占めているのは、チームメイトのスノーホワイトだった。元々目撃情報が多い事で有名だったが、昨日は明らかに群を抜いていた。

 

『白い衣装の人が、服を真っ黒に汚れる事も厭わずに自転車のチェーンを付け直してくれた』

『白い魔法少女が、泣いている子供の頭を、誰よりも泣きそうな顔をしながら撫でていた』

 

などと、バリエーションは様々だ。だがその何れも、行動を共にしているリップルには見覚えのない情報だった。間違いなく自分達がいない所でも人助けをしている。現状のままでもキャンディーの数は他の魔法少女や仮面ライダーの中でもダントツなはずだが、華乃には彼女がここまで人助けする理由が分からなかった。

どこか、無理をしているようにも見える。シザースの脱落から一夜明けてからのスノーホワイトの様子を思い出した華乃は、どう声をかけるべきか悩んでいたが、目的の駅が近いというアナウンスを聞いて、スマホの電源を切って通学カバンにしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スノーホワイトの変身者、姫河 小雪は考え込んでいた。それこそ、前の座席と小雪の隣で会話している2人の友人の声が耳に入らない程に。

彼女の脳裏にはこれまで脱落していったねむりん、ルーラ、インペラー、シザースの姿が。彼らはもう、この世にはいない。何故彼らは死ななくてはいけなかったのか、小雪には全く分からなかった。善人のねむりんや、兄やパートナー、そのパートナーの姉を救いたいと願っていたインペラーはもちろん、悪事を働いたルーラやシザースが死ぬ理由など、1つも無かったはずなのに……。

そう思っていると、友人達がそんな小雪の様子が気になって声をかけた。

 

「小雪、どうしたの?」

「ここんところ元気無くない?」

「そうそう。暗いよ〜」

「え、えっ? そんな事ないよ」

 

小雪が心配をかけさせまいと首を横に振った。実を言うと昨晩も両親から同じような事を指摘されており、小雪は迷惑をかけているみたいで、申し訳なさげだった。

すると、友人達は小雪を見てこんな事を話し始めた。

 

「あ! もしかして失恋とか⁉︎」

「えっ……⁉︎」

「それって、こないだバーガーショップで一緒にいたあの子と?」

「そうそう! あのクールな子」

「ち、違うよ! そんなわけないじゃん⁉︎ だいちゃんとは別にそういう関係じゃなくて、あの時はただ……」

 

慌てて弁解しようとした途端、思わず大地の呼び名を親しんだ名で口にしてしまい、小雪は思わず口元を隠した。が、時すでに遅し。話を耳にした2人ニヤつきながら小雪の顔を寄せた。

 

「ほぉほぉ〜。だいちゃんとはまた随分愛らしいあだ名ですなぁ〜」

「んじゃあやっぱ失恋したわけじゃないみたいだね。で、あれからさらに仲が深まって……」

「も、もう! よっちゃん!」

 

からかわれて頬を膨らませる小雪だったが、そこへ追い打ちをかけるように、バス停に停車したバスに乗り込んでくる人達の中に、話題の中心人物がいた。

 

「……あ」

「よう」

「お、おはよう……」

 

榊原 大地だった。彼の顔を見た小雪は顔を紅葉色に染めて朝の挨拶をした。そこへ友人達もニヤつきながら挨拶をする。

 

「おっはよ〜、だいちゃん」

「おはようだいちゃん!」

「……何でさ」

 

目を細めながら、小雪以外の人物が挨拶し、更には小雪しか呼ばないあだ名で呼んできた事に訝しんでいた。

 

「ほらほら、仲良しカップルさん達はここに座った座った」

「ちょ、ちょっとスミちゃん⁉︎」

「ほら、こっち来て座んなよ」

 

スミちゃんと呼ばれた少女がわざと席を空けて、大地を小雪の隣に座らせるようにしたのを見て、小雪は慌てふためいた。もう1人の少女は大地に手招きしている。

そんな女子3人組のやり取りに呆れながら、大地は質問した。

 

「……てかさ。お前ら誰? 小雪の友達なのは分かったけど」

「あそっか。名前知らないんだっけ。吉乃浦(よしのうら) 芳子(よしこ)だよ」

「スミレよ」

「……榊原 大地」

 

自己紹介した後、大地は鼻を鳴らしながら、一応空けてくれた席に座った。普段は立ちっ放しになる為、久しぶりにリラックスしていた。

バスが再び動き始めてからも、隣同士座っているはずの小雪と大地には会話が無かった。やがて成り行きに見飽きた芳子とスミレは恋愛から派生したトークに夢中になり、2人から目線を外した。単に2人の仲を邪魔しないようにという気遣いもあったのかもしれない。

2人の間で沈黙が続き、退屈になってきた大地は少し目線を外すと、小雪の顔が見えた。その表情は暗い。見ていて居心地の悪くなった大地は、しばらく見つめた後、何かを察して小声で声をかけた。

 

「……シザースの事、まだ気にしてるのか」

「……! う、うん……」

 

急に声をかけられて驚いた小雪だったが、すぐに目線を下に向けて頷く。

 

「あいつは自分に溺れただけの奴だ。お前が気に病まなくても良い」

「で、でも……」

「お前はお前なりの正義を貫け。俺も颯太も、仲間のみんなも見守ってくれる。それを忘れんな」

「……うん」

 

それっきり、会話は途切れた。らしくない事を言ってしまったなと思いつつ、反応を見せない小雪を見て、大地は段々と心配になってきて、思わず彼女の手に触れようとしたが、直前で思いとどまった。

こういうのは俺の役目じゃない、と自分に言い聞かせ、しかし目線だけは小雪から離さなかった。

しかしこの時、小雪の頬が途中から暖房に当たり続けた時のように火照っている所までは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、ウィンタープリズンはシスターナナ、オルタナティブ、ファムと共にある人物の訪問を待ち構えていた。

クラムベリーとの一件から数日間はシスターナナも心に深い傷を負い、ウィンタープリズンも悔しさでいっぱいだった。オルタナティブとファムの援護がなければ、最悪の場合、シスターナナは殺されていたかもしれない。今度会った時は必ず一撃で仕留めようと心の底から決意したウィンタープリズンであった。

そんな中、シザースの脱落が決まった翌日からシスターナナは憔悴しながらも他の魔法少女や仮面ライダーに呼びかけを続けた。パートナーのオルタナティブも最新の注意を払いながら、仲間になってくれそうなメンバーを厳選していた。

そしてこの日、シスターナナ達はある人物と会う事となった。相手はまだ姿を見た事のない16人目の魔法少女。当然素性も分からない為、シスターナナ以外の3人は警戒心を強めて待つ事にしている。待ち合わせ場所でもある廃工場に予定より少し早く足を運んだ一同は、空気を和ませる為にしばらく話し合っていた。

約束の時間になり、少しした後、その人物は現れた。葬式帰りの喪服を思わせるようなドレスに、青白い肌、薄色の唇、暗く淀んだ瞳、その下にできた濃い隈、そして右腕に抱かれた白兎のぬいぐるみが、その魔法少女の不気味さを際立たせた。

 

「あなたが、新人の魔法少女、『ハードゴア・アリス』さんですね?」

「……」

 

尋ねられた魔法少女……ハードゴア・アリスはコクリと頷いた。それからファムが周りを見渡してから呟く。

 

「ねぇ、あなたのパートナーはいないの?」

「……」

 

ハードゴア・アリスは首を横に振る。どうやら1人で来たらしい。ちなみにハードゴア・アリスのキャンディーの初期所持数は全員の合計の平均だけ手にしているとファヴから事前に伝えられている。シスターナナは早速本題に入り、情熱を込めて熱く語り始めた。内容としては、魔法は人々を幸せにするものである事やカラミティ・メアリに襲われかけた時の事、今現在行われている競い合いの事、その過程で脱落し、死に至った者達の事、そしてクラムベリーという魔法少女の危険性などなど、全てを包み隠さず話した。

 

「今こそ団結すべき時です。これ以上の犠牲を出さない為にも知恵を集めて考えましょう。私達には現状を打開するアイデアが必要なのです」

「……」

 

……が、ハードゴア・アリスは出会ってから一度も口を開かない。ウィンタープリズンからしてみれば、無反応というよりもぼうっとしているようにしか見えない。さすがに苛立ったウィンタープリズンは声を荒げた。

 

「……おい、聞いてるのか!」

「……」

「そもそも今回の騒動の発端は、君が16人目の魔法少女としてこの街に現れた事なんだぞ。もう少し責任ぐらい感じても」

「ウィンタープリズン、そこまでです」

 

唐突にオルタナティブに肩を叩かれ、ウィンタープリズンは押し黙った。如何にウィンタープリズンといえども、講師に逆らう事は無かった。

それから話は続いたが、ハードゴア・アリスがようやく反応を示したのは次の話に入った時だった。

 

「つい先日、スノーホワイトが襲われたという話を聞きました。おそらくはキャンディーを狙っての事でしょう。彼女は所持数がダントツのトップでしたから。それに伴い、パートナーである九尾も深手を負ったとの事です。あぁ、なんという浅ましい事を……」

「……スノーホワイト、そして九尾とは」

 

シスターナナも口を閉じ、ハードゴア・アリスの話を聞く事にする。

 

「白い魔法少女、そして、白い仮面ライダーですか?」

「え、えぇ」

「スノーホワイトは学生服、そして九尾は、狐みたいな姿、ですよね」

「そうですね」

「どこにいるか、分かりますか?」

「そ、それは……」

 

シスターナナは返答に困り果てて3人の方に目をやった。

 

「以前までは倶辺ヶ浜にある鉄塔を拠点にしていたそうですが、先ほどシスターナナも言ったように、襲撃を受けてからはトップスピード達と共に場所を転々としていますからね……」

「……倶辺ヶ浜、ですね。ありがとう、ございます」

「あ、ちょっと!」

 

ハードゴア・アリスは頭を下げると踵を返して駆け出し、廃工場を後にした。

 

「あいつ、敬語を使う事ができたのか」

 

ハードゴア・アリスの後ろ姿を眺めながら、的外れを自覚した感想を述べる。

 

「でも、何で急にあの2人の事を……」

「スノーホワイト達を、助けに行ったのでは無いでしょうか?」

 

ファムとシスターナナの会話を耳にし、ウィンタープリズンはふと思った。

 

「……キャンディーを奪いにいったのか」

「えっ?」

「いや、何でも無い……」

 

考え過ぎか、と思い返し、ウィンタープリズンはシスターナナ達と共に廃工場を離れ、解散して帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、仮面ライダーとしての活動を終えた手塚はシャワーを浴びた後、ふとした気持ちで占いをする事にした。

机に置かれた何枚もの紙には様々な模様が描かれており、近くには火のついたロウソクが置かれている。それらをジッと見つめていると、偶々開いていた窓から吹き込んできた風がなびいて、机に置かれた紙を撒き散らした。手塚が椅子から立ち上がって拾おうとしたその時、手塚の手がピタリと止まった。何枚も散らばった紙の中の1枚だけが、ロウソクの炎に引火して燃えていた。そこに描かれていたのは、剣のような形の紋章。燃えカスとなった後もジッとロウソクの炎を見つめていると、脳裏に異様な光景が浮かんできた。

 

 

 

〜どこか分からない工場付近のシャッター通り〜

 

〜血の海の中心にうずくまる少年の姿〜

 

 

 

「……」

 

いつの間にか流れ出た汗を拭った後、ロウソクの火を消して窓の縁に手をかけ、夜空を見上げた。

そして呟く。

 

「……颯太」

 

手塚の全身に、先ほどとは違い、生温い風が吹き抜けた。

 

 




というわけで、今回は様々な人達に視点を向けてみました。

さぁ、ここからが本当の『正義なき戦い』の幕開けとなります。来年度も変わらぬご愛好をよろしくお願いいたします!

では、良いお年を。

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