魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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またまた40話目という節目にもかかわらず、4人目の脱落者の発表となります。

そしてラストでは……、残酷描写が目立ちます。

P.S SMAPの皆さん、長い間、歌手活動お疲れ様でした。これからも応援してます。


40.偽りの正義

「……何で、あんな事したんだよ」

 

令子が入院している病院から少し離れた、海沿いの噴水広場に、正史の低い声が響き渡る。その後方では、不安げな表情の小雪と、険しい顔つきの大地、颯太、手塚が立っており、彼らの目の前には、海に目を向けている須藤が。悪事がバレたにも関わらず、その表情には余裕が見受けられる。

 

「加賀の事ですか? あれはちょっとしたトラブルですよ」

「トラブル?」

「まだ仮面ライダーに選ばれる前の事ですよ。仕事のやり取りの最中、向こうが報酬に対して、破格の値上げをしつこく要求してきたものでして。それでついカッとなって手を下した。それだけの事です」

 

須藤はそう淡々と語るが、聞いてる方は決して気持ちの良い話ではない。現に小雪は目の前にいる男性に恐ろしさを感じて、思わず隣にいた大地の袖を握った。

 

「仕事……という事は、君の職業と関係ありそうだな」

「えぇ。これでも私は正義の味方を目指していた1人ですから」

「正義の、味方……⁉︎」

「どんな理由があったか知らないけど、人を殺す事が正義だっていうのかよ!」

 

颯太の怒りの声を聞いてもなお、須藤は清々しい表情のままである。

 

「無論、私も最初はそんな定義を持ち合わせてはいませんでした。しかし、警察というこの世界に入って、そしてこの力を手に入れた時、私は自分が為すべき事を見つけたのです」

 

そう言って、須藤は自らの経緯を明かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須藤 充は、『正義の味方』を夢見ていた。

きっかけは、幼少期に事件に巻き込まれかけた際に助けてくれた刑事の堂々たる姿を目撃した事にあった。以来、彼は警察官になる事を目指し、そして刑事となり、晴れて市民の平和を守るヒーローとなった。若さゆえに様々な功績を残し、道案内をしたりして人々から感謝の眼差しを向けられた時は、とても上機嫌だった。

しかし、世の中は楽しい事だけが全てではない。自分がどれだけ頑張っても、犯罪を犯す者は減らない。加えて最前線に出れば出るほど、社会に蔓延る『闇』を否が応でも見てしまう。その過程で目撃してしまった、警察内での賄賂の応酬は数知れず。おまけに、幼少期に自分を救ってくれたその刑事も、『闇』を知りすぎてしまったが故に今ではその行方すら分からない所へ追いやられたと耳にした。

須藤はこの時ほど、世間に愕然とした事はなかった。そして彼は次に、アンティークショップを経営している加賀 友之と知り合い、彼を通じて犯罪リストを入手して摘発し、その度に報酬を払う事で正義の味方を目指そうとした。しかし前述でも述べた通り、些細な喧嘩で彼は人を殺めた。加賀の死体を壁に埋める中、彼は考えた。自分は、間違っていたのだろうか。『正義』など、最初から儚き幻想に過ぎなかったのだろうか……。

 

 

 

『なら、君が正義になれば良いだけの事だ』

 

 

 

 

 

自身の姿が、黄色のカニみたいな仮面ライダーに変貌している事に困惑していた須藤の目の前で、鳥をモチーフにした『仮面ライダー育成計画』のマスコットキャラクター、シローはそうアドバイスした。

仕事の合間に憂さ晴らしにプレイしていたゲームをやっていた最中、画面が切り替わり、君には仮面ライダーの資格があるなどと、訳も分からぬ言葉を呟かれたままタップし続けた結果、彼は仮面ライダー『シザース』となった。

 

『君に与えられたその力があれば、最も相応しい生き方を自由に選べるのだ。その力をどう使うかは君の自由であり、仮面ライダーという力の前では、同じ力を持つ者以外、何人たりとも逆らう事は出来ない』

 

その言葉を聞いて、須藤……もといシザースは興奮を抑えきれなかった。これまでの自分はやれる範囲が限られていたが、今の自分は、ある意味で最強の存在だ。この力を有効に活用すれば、今の社会に制裁を与える事だって可能だ。

この時から、須藤は自身がやるべき事を確立させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「犯罪者がいくら更生しても、一度深みにはまった者は、そこから抜け出す事など不可能に近い。その結果、また新たな犠牲が生まれる。……だったらいっその事、根元を断ち切ってしまえば良いだけの事だったんです。全ての犯罪者を根絶やしにすれば、少なくともこの街の平和は保たれる。より強大な強さを手にする事も可能ですしね」

「! じゃあ、今まで行方不明になった人達のほとんどは……!」

「以前、あなたが助けた男性も、『鉄輪会』と呼ばれる暴力団の回し者でしてね。ちょうど取り引きでもしようとしていたらしくてね。裁きを下そうとしたまでの事ですよ。まぁ、結果的にあなたに邪魔されてしまいましたが」

 

須藤はカードデッキを片手に、自らの生い立ちを明かした。

 

「以来、私はこの力を使って闇に堕ちた者を消し、人知れず平和を守る事に専念してきました。ミラーワールドに引きずり込めば、特別な力を持たない彼らは自然と粒子化し、消滅する。どうせ生きていても価値のない方々でしたから、躊躇いなんてありませんでした」

「……!」

 

須藤の手口に、唖然とする一同。そんな中で、小雪は疑問を口にする。

 

「そ、そんな事をして、マジカルキャンディーなんて、集まるんですか……?」

「えぇ。もちろん溜まりましたよ。悪を根絶やし、人々をそういった人達による脅威から守る事もまた、人助けの一環でしたから」

「そんな……!」

「とはいえ、私もこのような事態になるとは想定外でした。人数を増やしすぎたが故に、半分まで減らされる事になろうとは」

 

須藤の言う通り、今回の件は全くもって偶然の事であり、内心焦りを隠せなかったのだという。自分が脱落してしまっては、この街の平和を保つ事は再び難しくなる。おまけにパートナーシステムによって魔法少女が1人つく事により、行動を共にする機会も多くなると思い、どうするべきか悩んでいたが、その心配は無用だった。選ばれたそのパートナーは魔法少女の中でも積極的に動く事のない魔法少女だったからだ。

 

「ねむりんがパートナーだったのはある意味で幸運だったかもしれませんね。私の素性を探る事なんて先ずありえませんでしたし、あの性格上、私にたてつく事はなかったわけですから。それに彼女の魔法が使えるようになったおかげで、仕事もはかどりました」

「どういう事だよ……」

「! まさか、お前は……!」

 

手塚が何かを察したのか、須藤を睨みつけた。対する須藤は口の両端をつり上げて言った。

 

「ねむりんの魔法はご存知の通り、夢の中を自由に行き来できます。そして何より夢の中で起きた事は現実世界に多少ではありますが、フィードバックされる。これがあれば、私の仕事を邪魔しようとする者の記憶を少々イジって、捜査を撹乱させる事も出来る。本当に役に立ちましたよ、彼女の魔法は」

「……酷い! ねむりんの魔法を、そんな事に使うなんて! ねむりんだって、あなたの事を想ってその魔法を託したはずなのに、何とも思わないんですか……⁉︎」

 

珍しく小雪が反抗的な態度をとったが、須藤は平然としていた。

 

「今更彼女がどう考えていようが、もう関係ない事じゃないですか。『死人に口無し』というやつですよ」

「こいつ……!」

 

颯太は歯ぎしりしながら須藤を睨みつけた。同じ魔法少女であったねむりんを嘲笑った事が許せないのだろう。

 

「……トップスピードを狙ったのは何故だ」

「生き残る為ですよ。ルーラチームがそうしたように、キャンディーが十分な量さえあれば脱落なんてない。そして全て奪われた者は死ぬ。誰を狙っても良かったわけですが、一昨日の件もありましたし、先ずは戦闘能力の低そうな、あなたのパートナーから奪う事にしました。またしても妨害を受けるとは思いませんでしたが」

「……それだけの理由で、トップスピードを」

 

大地は恐ろしく低い声で呟く。

 

「今回の件に関わった者達も、後で始末してしまえば良いだけの事ですよ。あなた方も、あの女記者も……。そして生き残る為には、あなた達のようなライダーや魔法少女を倒さなければならない。そうやってマジカルキャンディーをより多く手にして、強さを求める。当然の事でしょう?」

 

これが私なりの正義です。

須藤のそれを聞いた正史は一歩前に出て、自らを『正義』と称する男性を睨んだ。

 

「……俺は、人々をモンスターの脅威から守る為に、ライダーになる道を選んだ。それは今でも変わらないし、これからもそうしていくつもりだ」

「それは素晴らしい事だ。それがあなたなりに掲げる正義なら、どうぞ続けていってください。私は止めやしませんよ」

「……でも!」

 

そこで正史は口調を荒げ、更に詰め寄った。

 

「あんただけは許せない……! ねむりんの気持ちも考えないで、ただ邪魔な相手を殺す事だけを考えて……! そんな奴とだけは、戦わなきゃいけないと思う……!」

「同感だな。須藤、君のやっている事は、今まで君が殺めてきた者達と大差ない。もはや引き返せない運命の真っ只中に、君はいる」

「お前みたいな奴を仮面ライダーだなんて、僕は認めない……!」

 

手塚と颯太も、怒りを露わにして前に出る。大地も無言を貫いていたが、明らかに須藤と事を交えるつもりらしい。

 

「やっとその気になれたようですね。なら、2人までなら相手にしてあげますよ」

 

須藤もカードデッキを掲げて前に出た。

そんな中、小雪は未だに迷いが生じていた。確かに須藤のやっている事は決して許される事ではない。だが、元は何であれ同じ人間だ。このまま戦って、相手を屈服させる事が本当に正しいのか。小雪が口を開きかけたその時、2人の人影が割り込んできた。

 

「止めておけ。お前達には無理だ」

「! 蓮二! それに華乃ちゃんも! でも俺は……!」

 

別行動をとっていた2人の登場に驚きつつも、正史は何かを言おうとするが、蓮二はそれを遮る。

 

「そいつが許せないから戦うんじゃない。生き残る為に戦う。それだけで理由としては十分だ」

「そんな……! 待ってください! 気持ちは分かりますけど、戦うだけが全てじゃ……!」

「甘い考えは捨てろ。これはもうキャンディーの競い合いじゃない」

 

小雪が説得しようとするが、蓮二は冷たく吐き捨てる。更に華乃がこう言った。

 

「あなた達が手を下す必要はないから、邪魔しないで。……それに、こうやって自分の手を汚す事ぐらい、もう慣れてるから」

「華乃、さん……」

「あなた達は話が早い。いいでしょう。あなた方2人なら、十分相手になるでしょう」

 

人数差でハンデがあるにもかかわらず余裕を見せる須藤に対し、華乃はいつものように舌打ちをした。バカにされた気分になったのだろう。

そして蓮二と須藤はカードデッキを、華乃はマジカルフォンを取り出し、互いに見せつけた。決闘の合図は鳴らされた。3人は近くの窓ガラスの前に立ち、蓮二と須藤はカードデッキをかざし、腰にVバックルを装着させた。

 

「変身!」

 

蓮二が右腕を曲げて左に持っていった後、カードデッキを差し込むと、鏡像が重なり、仮面ライダー『ナイト』へ。

 

「変身!」

 

一方、須藤は右手を突き出し、人差し指だけを立ててからカードデッキを差し込むと、鏡像が重なり、仮面ライダー『シザース』へと変身した。

 

「変身」

 

華乃はマジカルフォンをタップし、光に包まれると、魔法少女『リップル』へと変貌した。

そうして戦闘を始める為にミラーワールドへ突入しようとしたその時、不意にシザースが立ち止まった。2人が眉をひそめていると、シザースは正史達の方に振り返り、呟いた。

 

「おっと。忘れてましたが、あなた達の相手はこれですよ」

 

そう言って取り出したカードを見て、小雪は目を見開いた。

 

「! それって、ねむりんのカード……!」

「先ほど申し上げたように、ねむりんの魔法は現実世界にも影響がある。つまりは、こういう事も出来るのですよ」

 

『DREAM VENT』

 

シザースバイザーにパートナーカードをベントインしたシザースは、周りを見渡し、やがてとあるマンションに目線を向けると、左手を突き出し、光線を放つと、引っ張るような動作をした。何が始まるのか身構えていると、マンションから引きずり出されるように姿を現したのは、現実世界では先ず目にかかる事のない存在だった。

 

『ギャオォォォォォォォォォッ!』

「ど、ドラゴン⁉︎」

「な、何でドラゴンが出てくるんだよ⁉︎」

「! そうか。あのマンションに住む誰かの夢の中にいたドラゴンを……!」

 

手塚の推測に対し、シザースは平然と答える。

 

「その通り。夢の中にあるものを具現化する事も、この能力なら容易い」

 

それから、シザースはナイトとリップルに顔を向けた。

 

「さぁ、これで邪魔される事なく、存分に戦えますよ」

「……ふん」

 

2人は態度を変える事なく、シザースと共にミラーワールドへ突入した。一方正史達も、迫り来る巨大なドラゴンに対抗しようと、カードデッキやマジカルフォンを取り出した。

 

「「「「「変身!」」」」」

 

5人は変身し、武器を構えた。

 

「とにかく今は、このドラゴンをこれ以上この場から引き離さないようにするんだ。もしこれが街中に出たら大変な事になる」

「あ、あぁ!」

「任せてくれ! ドラゴン退治は僕の専売特許だから!」

「行くぞ、スノーホワイト」

「う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

「ウォォォッ!」

 

静まり返っているはずのミラーワールドに、鉄がぶつかり合う音が響き渡る。ダークバイザーとシザースバイザーがぶつかり合っているのだ。

ナイトの後方からは、リップルが動き回りながら手裏剣を投げつけ、魔法によってシザースへ必中していた。だがシザースの防御力は思っていた以上に高く、さほどダメージにはなっていないようだ。それでも怯まずに手裏剣を投げ続ける事で、気をそらせる程度には功を奏しているようだ。

さすがに鬱陶しく思ったシザースは、一旦ナイトを突き飛ばして、リップルの方に向かって左腕を振るった。身を屈めながらかわすリップルだったが、隙ができて背後に回られた直後、後方から左腕で首を強く絞めつけられた。失神させて戦力を削るのが目的らしい。

 

「!」

 

『NASTY VENT』

 

だがナイトがそれを見過ごすはずもなく、現れたダークウィングから放たれた超音波攻撃『ソニックブレイカー』がシザースを直に襲った。

 

「ぐっ⁉︎ うぅ……!」

「!(ここだ!)」

 

あまりの苦しさに左腕を緩めたのを確認し、リップルは全体重を後ろにかけると、右足を振り上げてシザースの顔を蹴りつけた。シザースが後ずさりながら距離を置くと、ナイトは次なるカードをベントインした。

 

『SWORD VENT』

 

ウィングランサーを構え、ナイトはシザースに突撃した。負けじとシザースもシザースバイザーを盾代わりに凌いでいたが、リップルが放ったクナイによって左腕が弾かれて、ウィングランサーの突きがシザースの腹に直撃し、シザースは壁に激突した。

 

「やりますね……!」

 

『STRIKE VENT』

 

今度はシザースピンチを右腕に装着し、ナイトに向かって振るった。一進一退の攻防が続くが、リップルが弾き飛ばされ、ナイトの注意がパートナーに向かれた事で均衡が破れた。左足の蹴りでナイトの足を攻撃してバランスを崩させると、シザースピンチで首元を挟もうとした。ナイトはウィングランサーを盾に首元までは届かせないようにしたが、ウィングランサーごと首が引き裂かれるのも時間の問題だった。

 

「どうです? これが今日まで培ってきた私の実力です。人を殺めた事のないであろうあなたでは、到底勝ち目などありませんよ」

「随分と余裕だが、隙が多いのが貴様の欠点だ!」

 

そう言ってナイトは腰につけられていたダークバイザーを抜き取り、シザースの腹部めがけて振るった。シザースは苦痛と共に怯んで後退した。そこに追撃とばかりにリップルが手裏剣を投げつけ、ダメージを与えた。

 

「くっ……。あなたの相手はこれで充分です」

 

『ADVENT』

 

シザースの前に契約モンスターのボルキャンサーが立ちはだかり、リップルは舌打ちと共に交戦したが、ボルキャンサーの硬さに、短刀で応戦しているリップルも苦戦を強いられている。

これ以上長引くと不利になるかもしれない。そう思ったナイトは1枚のカードをベントインした。

 

『FINAL VENT』

 

後方からダークウィングが現れ、背中にしがみついてマントとなった。

 

「そちらがそう来るなら……!」

 

『FINAL VENT』

 

目には目を、ファイナルベントにはファイナルベント。

シザースがカードをベントインすると、リップルの相手をしていたボルキャンサーがシザースの後方に立ち、ナイトが飛び上がると同時に、シザースも飛び上がり、ボルキャンサーに打ち上げられた。

 

「ウォォォッ!」

「ハァッ!」

 

ナイトはマントに包まれドリル状になった姿で急降下する『飛翔斬』を、シザースは自ら回転を加えて高速前転で体当たりする『シザースアタック』を放ち、互いにぶつかると爆発が起こった。

リップルが呆然とする中、煙の中から現れたナイトは、地面に倒れこんだ。

 

「ナイト……!」

「どうやら、私の、防御力の方が、一枚上手、でしたね」

 

ハッと顔を上げると、そこには息を荒げて膝をついているものの、まだ動けそうにあるシザースの姿が。やがて立ち上がると、ナイトと、彼に駆け寄ってきたリップルに目を向けた。

 

「これで1人減ったようなものですね。次はあなたですよ。……やりなさい」

 

シザースの指示を受けて、ボルキャンサーは咆哮と共にリップルへ襲いかかった。ナイトから引き離されながら、リップルは必死に抵抗した。助けに行こうとするナイトだったが、先ほどの攻撃を受けて、腕ぐらいしかまともに動けない状態にあった。シザースはその様子を鼻で笑いながらナイトに近づいた。

 

「これで分かったでしょう。私の掲げる正義こそが、この世の中を変えるに相応しいと」

「ぐっ……!」

「では、マジカルキャンディーを頂きましょうか。これであなたは脱落です」

 

そう言ってナイトの傍らに落ちていた、ナイトのマジカルフォンに手を伸ばそうとした時だった。

 

[挿入歌:果てなき希望]

 

「させない!」

「むっ……⁉︎」

 

シザースの左腕にエビルウィップが巻きついて、身動きが取れなくなった。シザースが振り向くと、そこにはエビルウィップを手に持ったラ・ピュセルの姿が。否、ラ・ピュセルだけでなく、九尾とスノーホワイトの姿もあった。

 

「ダァッ!」

 

そして、両手の鋭いハサミを突き出したボルキャンサーの前に、ドラグシールドとドラグセイバーを構えた龍騎がリップルを守るように現れた。

 

「! あなた……」

「ハァッ!」

 

続けてライアがかかと落としでボルキャンサーにダメージを与え、龍騎はドラグセイバーでボルキャンサーを後ずらせた。

一方でシザースは九尾達が乱入してきた事に驚いていた。

 

「! まさか、こんなにも早くあのドラゴンを倒すとは……!」

「仲間がいたからこそ、掴み取った勝利だ! お前には一生理解できないだろうけどね!」

 

そう言ってラ・ピュセルはエビルウィップを引っ張り、シザースを引き寄せた。よろめくシザースに向かって九尾が急接近し、右足を蹴り上げてシザースの顎に命中した。シザースが倒れこむ中、龍騎達はナイトに近寄った。

 

「おい、大丈夫かよ!」

「気遣いはいらん。あれは俺の敵だ」

「んな状態で言っても説得力ないって」

「貴様……!」

「前にも言っただろ? 俺だってその気になれば戦えるって」

「……ふん。なら、やってみろ」

 

ナイトはそう言うと、1枚のカードをベントインした。

 

『HIT VENT』

 

その後ナイトはウィングランサーを握り、ボルキャンサーめがけて投げつけた。するとウィングランサーは勢いが衰える事なくボルキャンサーに向かい、ボルキャンサーを突き飛ばした。パートナーのリップルの魔法でもある必中攻撃を繰り出したようだ。

 

「おぉ、スゲェ……!」

「後は任せる」

「ッシャア!」

「行くぞ、龍騎」

 

龍騎とライアがボルキャンサーに立ち向かう一方、シザースは九尾と交戦していた。

 

「ハァッ!」

「グゥッ……!」

 

ナイト達との戦いで消耗しているのか、九尾の素早い動きに対処できずに後ずさっており、せいぜいシザースピンチを振り回す程度だった。そんなシザースに対し、九尾は語った。

 

「あんたが色んな事を見てきて、性格が歪んだのはよく分かった。けどな。あんたが振りかざしているものは、結局は偽りの正義でしかならない!」

「偽りの、正義……」

「んな事にすら気づかずに人を殺し続けたあんたに、俺達が負ける理由なんて、あるわけないだろ!」

「黙りなさい……! 私こそが正義! 私こそが最強のライダーなのですよ! 生き残るのは、私の方ですよ!」

 

シザースがヤケクソ気味に突撃してくるが、当然九尾には通用するはずもなく、後方から現れたラ・ピュセルと並んで蹴り飛ばされた。

 

「グハッ!」

 

シザースの倒れこんだ先には、ボルキャンサーが唸り声を上げていた。

 

「お前の命運も尽きたようだな」

「俺達は、お前なんかに負けない! いくぞぉ!」

 

『『FINAL VENT』』

 

龍騎とライアは同時に飛び上がり、龍騎は右足を突き出して『ドラゴンライダーキック』を、ライアはエビルダイバーに乗っかって『ハイドベノン』を放った。これを見たシザースはボルキャンサーの背後に回り込み、ボルキャンサーはハサミをたてて突撃しようとした。

やがて龍騎とライアの必殺技がボルキャンサーに命中し、ボルキャンサーはいとも簡単に爆ぜた。煙が晴れると、そこには誰もいなかった。シザースはボルキャンサーを盾代わりにした後、どさくさに紛れて逃亡したようだ。

 

「ふぅ……。どうにか退けたみたいだな」

「これに懲りて、2度と来てほしくないものだ。九尾もそう思うだろ?」

「全くだ」

「……どうして」

 

不意にスノーホワイトが、先ほどまでシザースがいた地点を見つめながら、困惑気味に呟いた。その瞳には涙も浮かんでいる。

 

「どうして、魔法少女や仮面ライダー同士で、奪い合って、争って……! こんな気持ちじゃ、いつまでも人助けなんて続けられないよ……! もう、嫌だよぉ……」

「「スノーホワイト……」」

「泣いてばかりで誰かが助けてくれると思うか?」

 

スノーホワイトの様子を見て、ナイトは起き上がりながら冷ややかな一言を浴びせた。当然龍騎はこれを咎めた。

 

「ちょっと! 少しはスノーホワイトの気持ちも考えて……」

「これが戦いというものだ」

 

だがナイトをそれを無視し、そして呟く。

 

「仮面ライダーと魔法少女は合わせて残り29名。そして今日、その内の一人が脱落する。残れる枠は16。後13人は敵と認識して、倒さなければならない。……その13人の中には、お前達も含まれている」

『……!』

 

ナイトの発言を聞き、リップル以外の一同に動揺が走った。

 

「戦わなければ生き残れない」

 

よく覚えておく事だ。

スノーホワイトにそう言い聞かせるように呟くが、スノーホワイトはすぐには首を縦に振れなかった。それなりに葛藤しているのだろう。心を読まずとも理解できた。

そんなスノーホワイトの表情を見て、リップルは心の中で呟いた。

 

「(この子は、なるべくして魔法少女になったんだろうな……)」

 

港での一件以来、行動を共にするようにはなったものの、まだ面と向き合って話した事はない。無論それを言ってしまえば、ナイト以外のメンバーとも会話が成立した事が無いのだが……。

それでもリップルには分かった。スノーホワイトは、いつ如何なる時でも困っている人がいたらすぐに手を差し伸べるほどに優しすぎる。ある意味で正統派だ。マジカルキャンディーを競い合うという異常な状況下でなければ、人助けなど考えもしなかったリップルとは正反対だ。

 

「(まぁそもそも、なりたくてなったわけじゃないし……)」

 

それでも、心のどこかでもっとスノーホワイトの事を知りたいという気持ちはあった。と同時に、そのパートナーである九尾の強さの秘訣を知りたいと感じていた。更に、スノーホワイトだけでもこのような争い事には関わってほしくないという気持ちも芽生えた。他人の事など今まで気にする事はまずなかったはずなのに……。

しばらく重い空気が漂っていたが、そんな空気を払拭するかのように乱入する者が。

 

「うぃっす! ここにいたのかよ! 連絡の1つや2つよこせってぇの!」

 

ケタケタと笑いながらやって来たのは、ラピッドスワローに跨ったトップスピードだった。空気を読めと言わんばかりにリップルは舌打ちするが、トップスピードには聞こえていなかったようだ。

 

「んで、どうしたのこの状況」

「実は……」

 

ラ・ピュセルが代表して事の次第を説明した。説明が進むにつれて、トップスピードの表情は険しくなって唸った。

 

「なるほど。そいつはいただけねぇなぁ……。ま、とにかく無事でよかったから、そこは素直に喜ぼうぜ、なっ!」

「は、はい……」

 

トップスピードがスノーホワイトの肩を叩き、慰めた。それからふと思い出したかのように、皆の方を向いた。

 

「あ。そういやさ。もうすぐ発表の時間じゃねぇか?」

「あっ! そうだった!」

 

一同はミラーワールドを後にして、早速マジカルフォンを起動してチャットルームへ入室した。

そこでファヴとシローの口から発表された、今週の脱落者とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……! まさかここまで深手を負うとは……」

 

一方、命からがら逃げ延びたシザースは港に足を踏み入れた。

 

「偽りの正義……ですか。まぁ、誰が何と言おうと、私は生き残りますよ。私という者がいて初めてこの街の秩序は……」

 

シザースが九尾の言葉を思い出しながら歩いていたその時、前方から人影が。九尾達が追ってきたのかと身構えたが、その人物はその誰でもなかった。

 

「こんばんは、シザース。随分と派手に暴れたそうですね」

 

尖った耳に、花によって全身が彩られた、エルフのような魔法少女『クラムベリー』がそこにいた。

 

「……何の事でしょう」

「とぼけなくても結構ですよ。私は聴力に関しては他の魔法少女より優れてますから。なので、先ほどのあなた方の会話は全て聞かせてもらいました」

 

クラムベリーの言い方からして、事の経緯は全て聞いているという事になる。それはつまり……。

 

「(彼女もまた、私の事情を知った。ならば、始末する他ありませんね)」

 

幸い、今度はナイト達の時と違って相手はクラムベリーただ一人。手札は少ないが、所詮は魔法少女。戦闘面ではライダーの方が優れている以上、実力なら負けるはずもない。そう思ったシザースはカードデッキに手を当てた。それを見て、クラムベリーはほぉ、と感心した顔つきになった。

 

「私を消そうというわけですか。私を前にして、伊達に強いと自負しているだけの事はある。では見せてもらいましょう。あなたの強さを」

「……!」

 

刹那、クラムベリーの全身から発せられるオーラに気圧されたシザースは勢いよくカードを引き抜き、ベントインした。

 

『BUBBLE VENT』

 

この相手を前に、出し惜しみは出来ない。そう直感したシザースは右手にバブルシューターを構えて、『バブルショット』を撃った。ただし、ボルキャンサーは消滅しているためバブルシューター単体だけでの攻撃ではあったが、威力は申し分ない。クラムベリーに直撃した。

 

「⁉︎ 何⁉︎」

 

ハッと気配を感じ取った時には、クラムベリーははるか上空に飛び上がっており、狂気に満ち溢れた表情でシザースに飛びついた。エルボードロップを決めて、シザースをよろめかせると、クラムベリーは右手の指を立てて、一直線にシザースの左肩めがけて突き出した。その速さにシザースは目で追う間も無く。

 

「グギャア⁉︎」

 

気付いた時には、その右手はシザースの肩の装甲を貫いていた。血が飛散し、遅れて感じた痛みが、シザースの口から悲鳴のようなものを吐き出させた。だがクラムベリーの猛攻はそれにとどまる事を知らず。今度は突き刺さっている右腕を強引に横へ振り払うと、鮮血が飛び散り、シザースが顔を見上げた時には、シザースバイザーが宙を舞っていた。

自身の左腕が舞っている。そう気付いた時には、声にならない悲鳴が漏れ出し、地面を転げ回った。左肩から先の感触がない。左腕がシザースから離れた位置に落ちたが、それに目をやる余裕は完全に消し飛んだ。召喚機が手元から離れてしまっては、新たなカードをベントインする事すら叶わない。そもそも、シザースにはこの日ベントインできるカードはもう残っていなかったのだ。

 

「おやおや、こんなものでしたか。失望しました」

 

クラムベリーは冷めた口調で呟きながらも、顔には不満げなものは感じられない。クラムベリーは地面に膝をついているシザースの頭を、先ほど左腕を破壊した手で鷲掴みにして持ち上げた。その腕力の強さは、シザースの想像をはるかに超えていた。

 

「う、グァッ……! あぁ……!」

「自分の強さすらも偽っていたようですね。がっかりですよ。私は強者との刺激ある戦いを望んでいたものですから」

 

メリメリと音を軋ませながら、クラムベリーはシザースの頭を握る手を更に強めた。必死に空いた右手だけでクラムベリーの右腕を掴み、抵抗しようとするシザースだが、クラムベリーの腕力の方が勝っている為、ほぼ無駄に近い。

この魔法少女は、普通ではない。そう理解したシザースだが、そこへクラムベリーが唐突にこんな事を言い出した。

 

「そういえば、あなたはもう消えゆく身でしたね。なら、ここで私が手を下しても、何ら問題はなさそうですね」

「な、何を……⁉︎」

「おや、逃げる事に必死でチャットを見ていなかったようですね。今週の最下位はあなたでしたよ、シザース」

「⁉︎」

 

シザースの頭が真っ白になる中、クラムベリーは空いた左手でマジカルフォンを取り出し、画面を見せた。そこには確かに、シザースの名が表示されている。

 

「どうやらトップスピードらを始末する事に専念しすぎて、マジカルキャンディーを集める機会を見失っていたようですね」

「そ、そんな……! 私は……!」

 

いかに強大な力を持ったシザースといえど、結果を変えるなど不可だ。狼狽えるシザースに対し、クラムベリーは静かに答える。

 

「どうやらあなたの信じた正義は、全て無駄に終わったようですね。せめて、強者との戦いを目指す私の手で幕を下ろして差し上げましょう」

 

そう言ってクラムベリーは更に強くシザースの頭を握りしめた。頭全体が悲鳴をあげており、シザースはかつてないほどの恐怖を感じた。

 

「さようなら、弱者(シザース)さん」

「ば、バカな……⁉︎ わ、私は、絶対、生き延びて……!」

 

クラムベリーがニヤリと笑い、更に強く握りしめる。

そして……。

 

「あ、あぁ……! アァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『う〜ん。クラムベリーはいつもやる事がえげつないぽん』

「少し期待してたばかりに、それをあっさり裏切られたわけですから、これくらい当然の報いでしょう」

 

船の汽笛が耳に入る中、スノーホワイト達が持っているものとは少しばかりデザインが違うマジカルフォンから立体映像として現れたファヴは、クラムベリーと、地面に転がるものを交互に見合った。

全身に生暖かくて赤い液体が付着しているクラムベリーの足元に転がっていたのは、コートを着込んだ人と、その人物を中心に流れ出る赤い水たまり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その人物は『左肩から先』と、『首から上』が抜け落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、強者との戦いこそが、私を最高に刺激させる。ここは1つ、私の方から動かしてみましょう」

『あんまり過剰に動いてもらっても困るぽん。この試験の目的を忘れてもらっては困るぽん』

「私には関係のない事です。これでも参加者の1人なのですから」

『……で、誰を相手にするつもりぽん?』

「……そうですね。先ずはシスターナナに同調しそうな者で、且つ強そうな人物。……九尾はまだメインディッシュとして取っておくとして、前菜程度になりそうな人物に、1人心当たりがあります。そこから手をつけていきましょう」

 

そう呟いた後、クラムベリーは手にこびりついていた、ブヨブヨしたひも状のものを口に近づけた。俗に言う『脳みそ』と呼ばれる部位に付着していた血を、愛おしそうに舐めた。

そして評価する。

 

「……2つ星。まずまずといったところでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪中間報告 その4≫

 

【シザース(須藤 充)、死亡】

 

【残り、魔法少女14名、仮面ライダー14名、計28名】

 

 

 




……いかがでしたでしょうか?

本編とは違い、ボルキャンサーに捕食されるのではなく、魔法少女、それもクラムベリーによって始末されるという、皮肉な最後を遂げる展開も悪くないと思い、このようにしました。まぁ、あのラ・ピュセルを『遺体の損傷が激しすぎて人目に見せられない』レベルにぶっ潰したクラムベリーですから、これぐらい造作もないでしょう。(多分)

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