魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
いよいよ3人目の脱落者が発表される間近にて、あのライダーに不穏な陰が……。
3週目を迎える、脱落者の発表日。魔法少女や仮面ライダーの間では、緊迫したムードが漂っていた。『脱落=死』と分かっているからこその雰囲気なのだ。
仮面ライダーインペラーこと東野 光希もその1人だ。
「ただいま〜」
この日のバイトを終え、帰宅したのは日が沈みかけている頃だった。この後は王結寺でベルデ達と合流し、ある程度の活動後に発表を聞く。そんな流れを確認しつつアパートに帰ってきて扉を開けてみたが、部屋の中はシーンとしている。普段なら兄の智が居てもおかしくないのだが、どこを探しても見つからない。靴がない事から、外へ出かけたと思われる。
「(ひょっとして、先に行ったのか? でもそれなら連絡してくれても……)」
光希がコップに注いだお茶を飲み干したその時、マジカルフォンではなくスマホに電話がかかってきた。電話の相手は智だった。
「兄貴?」
気にはなったが、出てみる事にした。電話越しからは智の声が聞こえてきたが、どこか様子が変だ。
「もしもし? 何かあった?」
「……うん。実は、大変な事になっちゃって……」
「大変って、まさか、マジカルキャンディーの事で何か?」
「それも、そうかもしれないけど……。でもこれは光希の事なんだよ。光希が逃げ出そうとしてるのが、ベルデにバレてるみたいなんだ」
空気が凍りつく、というのはまさに今の状況が相応しいだろう。光希は愕然とした表情で固まった。あれだけ細心の注意を払っていたにもかかわらず、裏切りが露見されている。
光希は慌てて確認をした。
「な、なぁ! それ本当なのか⁉︎」
「……うん。最近の光希の行動に目をつけてたみたい。それで僕だけ呼び出されてね。それで無理やり自白されちゃって……」
「なっ……!」
「向こうも怒ってるみたい。もし王結寺にやってきたら、パートナーカードを使ってインペラーからマジカルキャンディーを没収するって言ってるんだ」
甘く見ていた。まさかベルデがそこまで徹底して自分達を監視していたとは。ルーラとは違う怖さを感じさせる一方で、光希は軽くパニック状態に陥っていた。マジカルキャンディーを没収するという事は、すなわち脱落を強要させ、そしてルールに従って死ぬ。まさに裏切り者への罰だ。
「そ、それで、兄貴はどうするんだ?」
「今は近くにベルデはいないよ。だから隙を見て僕も逃げるよ。ちょっと怖いけど、どこか別の場所で会おう」
「あ、あぁ。そっちも気をつけろよ!」
電話を切った光希は、壁にもたれた。よりにもよってこんな時に。光希は誰ともなしに呟く。
何より最悪なのは隠れ蓑がまだ見つかっていない事だ。未だに仲間として迎え入れてくれるチームは皆無で、このままでは逃げ場所も見つからず、下手にベルデ達に見つかってしまったら、そこでインペラーの脱落はほぼ確定する。否、インペラーだけではない。タイガやピーキーエンジェルズにも被害が及ぶ事もある。
タイガが自白された事を考えると、このアパートも位置が知られている可能性があるため危ない。とにかく、今はこの場から遠ざかる事を優先的に動くしかない。
「チックショオッ!」
光希は悔しがりながらもコートを羽織り、必要最低限の荷物を抱えて外に飛び出した。どこにでも良い。誰かに助けを求めれる場所へと光希は急行した。
「……これで、良いよね」
「「うんうん!」」
「本当に裏切るなんてね〜。ま、どうせ生き残れそうにないのは目に見えていたけどさ」
「……ルーラが言ってた。目の前の事実から逃げる弱者には、容赦するなって」
「……で、でも。これから、どうするん、ですか……?」
「決まってんだろ。忠告も聞かなかったガキに、大人の怖さを教えてやる」
「どうやら本気みたいだな。なら、先ほどの打ち合わせ通りに」
「りょうかーい!」
「オッケー!」
「……」
「……オイ。今更怖気付いたわけじゃねぇよな。『英雄』になりたいんなら、こんぐらいの事でビビってどうすんだ」
「……英雄。僕が……」
「……つっても、アテもなしに来たけど、本当に大丈夫なんだよな……」
外へ逃げ出した光希がやってきたのは、門前町からかなり離れた先にある堤防の近くだった。ここまで来れば、ベルデ達も見つけにくいかもしれない。
「(いや、あの人の事だ。俺以上に賢いし、全員で来られたらマジで終わりだ……!)」
少なくとも、タイガと合流するまでは油断できない。光希はそう自分に言い聞かせた。
「(こんな所で死んでたまるかよ! 俺には俺の人生があるんだ……! それだけは絶対に守ってみせる……!)」
光希が辺りを警戒していたその時、マジカルフォンから音が鳴り響いた。モンスターの出現を知らせるものである。
「こんな時に……!」
モンスター退治に参加すればマジカルキャンディーは増える。が、下手に暴れまわって居場所を突き止められたら、せっかくゲットしたマジカルキャンディーも奪われて水の泡だ。
ここは身の安全を優先してこの場を退くか。そう思って急いでその場から離れようとした時、耳につん裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。
声のした方に向かうと、女子学生がヤゴ型のモンスター『シアゴースト』に背中を掴まれて、ミラーワールドに引き摺り込もうとしているのが見えた。天里姉妹と同年齢ぐらいの女性が襲われている姿を見て、光希は自分でも気づかないうちに駆け出し、飛び蹴りでシアゴーストを吹き飛ばした。シアゴーストはそのまま奇声をあげながらミラーワールドに逃げ込んだ。
「早く、逃げて!」
「あ、あなたは……」
「いいから! 真っ直ぐお家に帰れよ!」
光希の言葉に弾かれるように女子学生は走って逃げ出し、光希はそれを見送った後、シアゴーストが逃げ込んだ鏡の前に立った。
本当はこんな事をしてる場合ではない。頭では分かっているものの、放っておけない感情に催促され、光希は苦々しい表情のまま、両腕をクロスしてカードデッキを鏡にかざした。
「(こうなったら、俺の強さをとことん他のみんなにアピールして、仲間に入れてもらうっきゃないか!)」
[挿入歌:果てなき希望]
腰にVバックルがつけられ、両腕を上げた後、クロスしていた状態から元に戻して叫んだ。
「変身!」
そして素早くカードデッキをVバックルに取り付けると、鏡像が重なって、インペラーに変身した。
「行くぜ!」
手を叩いて気合いを入れたインペラーは、ミラーワールドに突入した。ヨロヨロと逃げているシアゴーストを見つけたインペラーは早速1枚のカードをベントインした。
『SPIN VENT』
「そぉら!」
右手に装着されたガゼルスタッブの突きがシアゴーストに命中。シアゴーストは地面を転がり、再び立ち上がって糸のようなものを吐いたが、インペラーはそれをガゼルスタッブで弾き、接近して連続蹴りを放った。
「ダダダダダッ! ダァッ!」
連撃を受けたシアゴーストは苦しそうに呻くと、糸をそこらじゅうに放って近づけさせないにしていた。
「なら、こいつだ!」
『FINAL VENT』
「ハァァァァァァァ! ハァッ!」
インペラーが構えのポーズをとっているその後方から、契約モンスターであるギガゼールなど、多数のレイヨウ型モンスターが一斉にシアゴーストに襲いかかった。多勢からの攻撃に翻弄され、なす術もないシアゴーストに向かって、ギガゼール達に紛れてインペラー自身が飛び出した。そして左足を曲げて、膝蹴りでシアゴーストを勢いよく吹き飛ばした。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
インペラーの必殺技『ドライブディバイダー』が炸裂し、シアゴーストは遠くに吹き飛ばされながら、空中で爆散した。インペラーが着地すると、マジカルフォンから電子音が鳴り響き、マジカルキャンディーの数が上昇した。先ほどの女子学生を助けた事が功を奏したようだ。
さっさと離脱しようと思ったその矢先、今度は別方向から大きな音が鳴り響いた。誰かがモンスターと戦っているのかもしれない。そう思ったインペラーは誘われるように現場に向かった。
「ハァッ! ダァッ!」
インペラーの予想通り、インペラーのいた地点からさほど離れていない所で、龍騎がドラグセイバーを片手に持ち、3体のシアゴーストを相手に互角の勝負を繰り広げていた。
九尾達の所へ合流しに行く途中でモンスターの出現を知った龍騎は、そのままミラーワールドに突入して3体のシアゴーストを退治しに行ったのだ。個々の戦闘能力はさほど高いわけでもないため、倒せない相手ではないが、数の多さに加えてしぶとさがある為、カードをベントインする隙がないのだ。
「クッソォ。しぶといなこいつら!」
ドラグセイバーを振り回しながらボヤいている龍騎だったが、そこにこんな電子音が聞こえてきた。
『TRANS VENT』
「パォォォォォォォォン!」
その直後、大きな地響きと共に鳴き声が聞こえてきたのでその方角を振り返ると、一頭の巨大な象が迫ってくるのが見えた。
「うわっ⁉︎ 何で象が⁉︎」
龍騎が慌てふためいて横に飛び退き、象は直進してシアゴースト達に体当たりした。シアゴーストはいとも簡単に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた衝撃でしばらく起き上がれそうにないようだ。
一方で象は立ち止まると全体像が歪んで、人型になった。それは、パートナーカードで象に変わっていたインペラーだった。それに気づいた龍騎は驚きながら指を指した。
「あ! お前……!」
「早く! 今のうちにやって!」
「お、おう……!」
『FINAL VENT』
インペラーの登場に驚きつつも、カードをベントインして、必殺技の構えに入った。
「ハァァァァァァァ! ハァッ!」
上空に飛び上がり、ドラグレッダーが旋回する中を一回転して、右足を前に突き出すと、ドラグレッダーの火球に押し出された。
「ダァァァァァァァッ!」
龍騎の必殺技『ドラゴンライダーキック』が、逃げようとするシアゴースト達に直撃し、その場で爆散した。着地した後、龍騎はインペラーの方に振り向き、身構えた。
「というよりお前、何でこんな所にいるんだよ。まさかお前、また俺からマジカルキャンディーを奪うつもりなのか!」
「ち、違うって! それ誤解だよ! さっき別のモンスターと戦ってたら偶然見えただけで……」
インペラーが両手を突き出して否定した。本気で抵抗している様子を見て何かを察した龍騎が両手を下すのを見たインペラーは、ハッとして懇願するように叫んだ。
「そ、そうだ! なぁ龍騎! 俺を助けてくれ!」
「ま、またそれかよ!」
「頼む! お願いだ! このままじゃ俺、ベルデに殺されちゃうよ!」
「えっ……⁉︎ どういう事だよそれ!」
インペラーの口から出た情報は龍騎を驚かせるのに十分だった。
それからインペラーによって語られたのは、ベルデの企てた計画によってルーラは脱落し、タイガを操ってルーラを殺害。それを見てしまったインペラーは兄やピーキーエンジェルズをベルデの魔の手から逃がそうとして他の面々に助けを求めていたが、先ほどの連絡で裏切りがバレたというものだった。
「そんな……。じゃあ本当に……」
「嘘は言ってない! だから頼むよ! 俺、まだ死にたくないんだよ! 少しの間だけでいいんだ! 俺や、できるなら他の3人を匿ってくれ!」
「お前……」
どうやらルーラチームの全員が全員、邪な考えを抱いていたわけではないらしい。まだ信用できるかは分からない奴だが、少なくとも悪さばかりを働いているという印象は払拭されていた。
「ま、まぁ。少しぐらいなら別に良いけどさ。ちゃんとトップスピード達にも説明してからだけど」
「! 本当か⁉︎ 助かるよマジで! じゃあ早速……」
インペラーが上機嫌で龍騎の手を握ろうとした時、彼の後方、それも上空から人影が見えた。それも3つ。
「あっ! あれ!」
「ん?」
インペラーが指さした先に目をやった龍騎も、そこで初めて存在に気づいた。月明かりに照らされて見えてきたのは、天使の羽が生えた2人と、その2人に両脇を抱えられながら、白と水色の鎧を着込んだ戦士。インペラーはもちろん、龍騎もその容姿に見覚えがある。
それは、インペラーが救いたいと考えていた、兄のタイガと、そのパートナーであるミナエル、そして自身のパートナーでもあるユナエルだった……。
本当ならインペラーが活躍してるので、ここでの挿入歌は本編の時期的に「Revorution」がベストなのでしょうが、序盤という事もあって、そのまま「果てなき希望」にしておきました。
さて、次回、3人目の脱落者が……。