魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
また、今回は残酷描写が目立つので、閲覧の際はご注意を。
港での激戦を終え、ルーラはベルデ、ミナエル、ユナエルと共に王結寺へ帰還した。スイムスイムとは鉄塔から転落した後から姿を見ていないが、彼女の魔法を知っているルーラは、おそらく大丈夫だろうと考えた。アビスは途中でガイ達を迎えに行くと言って別行動をとっている。
しばらくして、アビスを先頭にガイ、タイガ、インペラー、たま、スイムスイムが戻ってきた。たまはガイの肩に担がれた状態で運ばれてきて、あまりろれつが回っていないようだったが、いつもの事だとルーラは切り捨てた。
スイムスイムは作戦通り、スノーホワイトのキャンディーを奪取できており、加えてガイは乱入してきた龍騎から逆にキャンディーを奪うという成績を残した。弱気に思えた戦略的撤退は、結果的に功を奏したらしい。ルーラは心の中でほくそ笑んだ。
「で、スノーホワイトはどれだけ持ってたのかしら?」
ルーラがスイムスイムのマジカルフォンを覗き込んでみると、『2904』と表示されていた。スイムスイムに確認したところ、彼女が元々所持していた数は、『826』個。差し引きすれば、『2088』。その数の多さに、ルーラは眉をひそめた。2088という数値は、現時点において、このメンバーで最も所持数の多いルーラの分の倍以上だったからだ。
「あいつ1人で2000も稼いでたんだ」
「どうやったらそこまで集められるんだか」
「ブルジョワやね」
「なら、これって現代の打ち壊しだね」
「あぁそっか。お姉ちゃんマジクール」
双子がそう呟いている間にも、ルーラは続いてガイのマジカルフォンから、龍騎の所持数を確認した。持ち前の頭脳を活かして素早く計算した結果、『1584』個と判明した。スノーホワイトよりは少ないものの、第3位だった事を考えると納得がいく。
今回強奪した2人のキャンディーの総数は『3672』個。それが伝わった途端、一同の中で話題になったのは、キャンディーの分配だった。
「えぇっと……。このキャンディーどうするの?」
たまの呟きに対し、真っ先に口を開いたのはインペラーだった。
「3672をこの場にいる人数の10で割れば、1人あたり367個。余りは2だな」
「おぉ、早いにゃ〜」
「そういやインペラーって、前からお金の計算早かったよね」
「そうそう。それだけは早いよね」
「まぁ、お金欲しさに働いてたらいつの間にか身についちゃってさ」
「でも、割り切れないね」
たまがそういうように、2個余った分はどうなるのか。こればっかりはどうしようもないので、優先的にリーダーであるルーラとベルデに1個ずつ献上しよう。1個程度の差なら気にする事もない。インペラーがそう言おうとしたその時、ルーラが割り込んできた。
「何を言ってるの? どうして10等分しなきゃならないのよ」
「へっ?」
インペラーがキョトンとする中、ルーラは格の違いを見せるかのように言った。
「この『3672』を3で割って、『1224』がリーダーである私とベルデの取り分。あとの『1224』を4で割った分がスイムスイム、アビス、ガイの取り分。残った『306』が他の5人の取り分。そこで余った1個は、龍騎から奪取できたガイにボーナスとしてあげれば良いわ」
一瞬にして破れ寺の中が静寂に包まれた。つまり、ルーラの話を改めてまとめると。
『マジカルキャンディーの獲得数』
・ルーラ、ベルデ……『1224』
・ガイ……『307』
・アビス、スイムスイム……『306』
・タイガ、インペラー、たま、ピーキーエンジェルズ……『61』
という計算になる。これではあまりにも差ができ過ぎていないか。インペラーが物申そうとしたが、ルーラにひと睨みされて、彼らは萎縮した。
「あら、文句ある?」
「うっ……」
「こうなって当然でしょ。作戦の立案、作戦実行時に最も重要な役割を担ったリーダーと、自分の役割をきちんと果たした役に立つバカや、それ以上の事をやってのけたバカ、与えられた仕事を満足にこなせなかった無能なバカが、何で報酬が等しくなれると思ってるの?」
バカなのか?
ルーラはそう問い質すが、誰も返事する者はいない。仮面ライダーの表情までは読み取れなかったが、たまの萎縮した顔、ピーキーエンジェルズの不満げな顔、スイムスイムの無表情な顔を見て、ルーラは不満を爆発させるように罵った。
「あぁバカだった。もう確定事項だった。あなた達がバカで無能で6対2で足止めすら出来なかったから、もう少しで作戦そのものが失敗しそうになったんだった。私が忘れてたのね」
「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないか……? だってその……」
インペラーが我慢出来ずに反論しようとするが、王笏の石突きを木の床に打ち付ける事で会話を絶った。
「1番無能なあなたがそれを言う? 己の分を知れバカ共。罰を与えられなかっただけ、ありがたいと思いなさい。それで良いわよね、ベルデ」
「……ふん」
段差の上に腰掛けていたベルデは鼻を鳴らし、異論がない事を告げた。
「生きたいと思うなら、黙って私やベルデのような者に従っていればいいのよ」
インペラーがまた何か言おうとするが、それよりも早くアビスの声が遮った。
「チャットが始まる。みんな、入ろう」
そう言われて、王結寺にいるメンバーは全員チャットルームにログインした。チャットルームには、ファヴやシロー、クラムベリー、オーディンがいた。が、それ以外のメンバーはいない。明らかに参加率が激減していた。
ファヴ:『今日は人数少ない気がするぽん?』
シロー:『頻繁に参加しているオルタナティブ達がいないな』
ファヴ:『後でログ閲覧すれば良いかと思ってるぽん? それに今いるみんなもあんまり喋ってないみたいだし、もうちょっと明るく楽しくいこうぽん』
誰がするか、とツッコみたくなる言い方だが、文句を言っても何も始まらない。
シロー:『さて、それでは皆が最も気になっている成績発表をしよう』
ファヴ:『そうだぽん。今週最も少なかったのは……』
「(……ふん。そんなものは決定事項。最も少ないのは、全て奪われて0個になってるスノーホワイトに決まってるわ)」
ルーラがニヤつきながら画面を見つめる中、ファヴの口から脱落者の名が告げられた。
ファヴ:『ルーラだぽん』
「……え」
名前を呟かれた魔法少女は、一瞬だけ頭が真っ白になった。
今、何と言った? 脱落者はルーラ? スノーホワイトではなく?
そんな言葉が思い浮かぶ中、ファヴとシローのコメントは続いた。
シロー:『ほう。ルーラか。私としては、少々意外だったな』
ファヴ:『ファヴもそう思うぽん。いろいろ頑張ってたみたいだけど、残念ぽん』
シロー:『だがこれもいた仕方ない。結果がこれではな』
ファヴ:『ちなみに順位の変動はないぽん。スノーホワイト、2週連続トップおめでとうぽん!』
そんな事はどうでもいい。インペラーならともかく、何故自分が最下位になってるのか。そちらが間違っているのではないのか。
そうコメントしようとして指を動かそうとしたその時だった。
「……フハ。ハッハッハ」
堪えていた笑いを我慢出来なくなったかのように、笑い声をあげる者が。ルーラが恐る恐る振り返ると、ガイが仮面の下から笑い声をあげ、面白おかしく手を叩いていた。否、ガイだけではない。その隣にいたピーキーエンジェルズも不敵な笑みを浮かべているではないか。まるでこうなる事を予測していたかのように。引きつった表情で、ルーラは口を開いた。
「あ、あんた達、一体……」
「いや〜、やっぱその顔まじウケるわ。傑作ものだね」
「うんうん!」
「ホントホント!」
「なっ……⁉︎ まさか、お前らバカ共が、この私を、出し抜いたというのか⁉︎ どうやって……」
「んな事どうでもいいだろ」
そう呟いたのは、不意に立ち上がったパートナーのベルデ。
「ファヴもシローも言ってたろ? 今週脱落するのはお前だ、
ベルデの低い呟きに、ルーラは戦慄した。無能な彼らに、自分を陥れるだけの策が考えられるとは思えない。となると、今回の計画の首謀者は……。
「あなた、なの……? 何で、どうして、どうなってるの⁉︎ 何で、どうして……⁉︎ だってあなたは私の」
「パートナーってか? ハンッ、あんなもんお飾りだろ。俺からしたらな」
「……っ!」
「パートナーで生き残れてたら近いうちに良い事あるって言ってるけどな。そんなのは実力で手に入れるもんじゃねぇからな。いらねぇんだよ、ハナっからな」
初めて見る、社長の豹変した態度に恐れ慄いたのか、ルーラは後ずさった。そして魔法を行使してベルデを止めようとしたが、
『HOLD VENT』
それよりも早くベルデがバイオワインダーを出して、ルーラの持つ王笏を弾き飛ばした。動揺するルーラに対し、ベルデは歩み寄りながら、堂々と語り始めた。
「お前はその魔法でこいつらを掌握出来てるつもりだっただろうが、所詮魔法は魔法。面と向かって従わせている奴にはこれっぽっちも効かねぇんだよ」
「……!」
ベルデの言葉に偽りはない。ベルデの変身者である高見沢は、イニシアチブをとるのが誰よりも上手く、それ故に、彼に忠誠を誓う部下を生み出してきたところを、ルーラ……もとい早苗は何度も身近で見てきたはずだ。
確立した『死』が迫る中、ルーラはあてもなく逃げ出す事だけを選択し、足を動かそうとした。が、それを妨げるかのように、ピーキーエンジェルズが素早くルーラの足をそれぞれ掴み、続けてガイ、そして後方にいたアビスがそれぞれ肩を掴んだ。それにより完全に身動きが取れなくなったルーラはたまらず叫んだ。
「な、何をする⁉︎ 離せ!」
「あれあれ〜? 高貴なお姫様が敵を目の前にして逃げ出すなんて、プライドもへったくれもなくなっちゃった感じ?」
「あぁ〜あ、いい気味だねぇ」
「そーそー。ダッサイよねぇ」
ガイ、ミナエル、ユナエルがルーラをからかって、ガッチリと四肢を掴んでいた。一方、何が起こっているのか分かっていないのが、たま、タイガ、インペラーの3人だった。リーダーの脱落が発表されたと同時に、メンバーの半数が態度を変えてルーラに手を出そうとしているのだから、困惑するのも無理はない。
「え、何⁉︎ どうなってるの……⁉︎」
「お、おい待てって! これって……」
インペラーとたまがガイ達に近寄ろうとした時、2人の肩をスイムスイムが掴み、動きを止めた。
「す、スイムちゃん……⁉︎」
「な、何して……」
「邪魔しちゃダメ。これはリーダーの決めた事」
無表情で呟くスイムスイムを尻目に、ベルデはルーラをひれ伏させて、彼女の顎に手を触れてグイッと上げた。
「要するに、お前にリーダーなんてハナから無かったって事だ。分かったか?」
「しゃ、社長……!」
「そんなバカなお前に、最後に教えといてやるよ。さっきお前は生きたかったら俺みたいな奴に従っとけって言ってたがよ……。俺からしたら0点だ。今の社会じゃ通用しねぇ」
そしてベルデは足をダンッ! と踏み鳴らすと、ルーラを覗き込むようにこう叫んだ。
「生きるって事はな、他人を蹴落とす事なんだよ! リーダーって呼ばれる奴も、周りにいる奴らも含めてな!」
「……⁉︎」
「ヒューヒュー! カッコいい!」
「さっすが現役のリーダー!」
ルーラの背筋に冷たい汗が流れた。ピーキーエンジェルズが囃し立てる中、ベルデは少し距離を置いた後、カードデッキに手を置いた。
「だがこのまま死んでくんじゃみっともねぇだろ。ねむりんよりか少しばかり大人だってのは分かったからな」
お前にピッタリなやり方でやってやるよ。
そう呟いてベルデが取り出したカードをルーラに見せた瞬間、ルーラの顔が引きつった。彼の手にあるのは、自分自身のアバター姿が中央に描かれている、パートナーカード。
「ま、待て! それだけは……!」
ルーラが必死に赦しを請うが、ベルデは聞く耳を持たない。たまらずスイムスイムに助けを求めた。
「す、スイムスイム! ルーラの名の下に命ずる! ベルデを止めなさい!」
「……」
だがスイムスイムは無反応のまま、ジッと事の成り行きを見守っていた。当然だ。今のルーラは魔法を行使するための条件が揃っていない。
そしてベルデは、バイオバイザーからカードキャッチャーを引き伸ばし、パートナーカードを挟んでベントインした。
『OBEY VENT』
ルーラの魔法と同等の効果を行使出来る『オヴェイベント』が発動し、ベルデは手元に現れた王笏を、ルーラではなく、少し離れた所にいるタイガに向けた。
『ベルデの名の下に命ずる。タイガよ』
「……?」
タイガが突然の事で考える暇もなくベルデに顔を向けると、ベルデはこう命じた。
『ルーラにトドメを刺せ』
「! や、やめ……!」
ルーラが強張る中、タイガは無言で頷き、カードデッキから取り出したカードを、デストバイザーの刃の付け根の白虎の部分をスライドさせ、挿入口にベントインした。
『FINAL VENT』
直後、ルーラ達の後方に置かれていた、割れている丸鏡の中からデストワイルダーが飛び出してきて、背後からルーラを押し倒し、そのままルーラをうつ伏せのまま引きずって前進し、近くに支柱にぶつけた。
「ガッ……⁉︎」
ルーラの額からぶつけた衝撃で血が流れ出るが、デストワイルダーはお構いなしに再びルーラを引きずり、今度は壁に激突させた。激痛に伴って悲鳴をあげながら顔を上げたルーラが、デストワイルダーが方向転換して引きずっていく先を見て、目を見開いた。その先には、デストクローを両手に取り付けたタイガが腰を低くして力を込めて構えていたのだ。
「ハァァァァァァァッ……!」
操られているタイガが気合いを入れ、タイガに向かってデストワイルダーがルーラを引きずっていく間、ルーラはパニックに陥っていた。インペラーやたまの声が聞こえるが、それを聞き取る余裕はない。鋭く光るデストクローの鉤爪が眼前に迫っている。
「(何で、何でよ……⁉︎ こんな結末望んでない! 私は間違ってなんかいない! スノーホワイトや九尾みたいな奴らが正しいはずもない! 私が統治していれば誰もヘマせずに済むのに⁉︎ どうしてどうしてどうして何でどうし)」
刹那、王結寺の室内の至る所に、生暖かさが感じられる液体が飛散した。
「やったーやったー! 嫌な奴がいなくなったー!」
「そーそー! 偉そうにしてる奴がいなくなったー!」
「キャンディーちゃんと分けなかったからこうなるんだよねぇ」
「バカだのアホだの悪口ばっか言ってるからこうなるんだよねぇ」
しばらくの間、ミナエルとユナエルがそこらじゅうを飛び回りながら侮辱と罵倒を口にして、喜びを爆発させていた。ガイは口こそ開かなかったが、仮面の下で笑いながら腰に手を当てていた。スイムスイムとアビスは黙り込んでおり、ベルデは疲れたかのように息を深く吐いて腰を下ろした。たまは膝を抱え、耳を伏せ、全身を震わせて目を逸らしていた。
「あ、あぁ……!」
インペラーは目の前に広がる惨状に理性が耐え切れず、腰を抜かしていた。彼がそうなるのも無理はない。
そこには、変身が解けているスーツ姿の木王 早苗が息絶えており、彼女を中心に多量の血液が、幾つも穴の空いた腹部から今なお広がり続けているという、変わり果てた姿がそこにあった。うつ伏せに倒れているため、体の前部はほぼ血に染まっていると見て間違いないだろう。
彼女のそばには、必殺技である『クリスタルブレイク』をルーラに向けて放ち、デストクローでルーラの体を難なく貫いた張本人であるタイガが、血に染まったデストクローを呆然を見つめたまま、立ち尽くしていた。その足元は、早苗から流れ出た血で覆われている。
自らが得意としていた魔法によってトドメを刺される。ルーラは彼女にとってまさに屈辱的とも言える最後を遂げてしまったのだ。
あまりにも酷い最後を目撃してしまい、震えが止まらないたまを見て、ガイがしゃがんで頭を撫でた。
「気にしなくていいって。あぁなってもしょうがない奴だったんだからさ。もう泣くなよ」
たまは顔を上げ、涙を浮かべながら思わずガイに抱きついた。よほど不安に駆られていたのだろう。
「ところでさー。これ、どうする?」
「だよねー。邪魔でしょうがないし」
ルーラを特に嫌っていたピーキーエンジェルズは、早苗の死体を突きながらどうするか考えていた。すると、真っ先に挙手したのは普段からルーラに付き添ってばかりだったスイムスイムだった。
「死体は私が片付けておく。掃除もやっておく。良いよねリーダー」
スイムスイムは念のために現リーダーであるベルデに確認をとると、ベルデは肩を竦めた。
「……好きにしろ。どうせ今日はこれで解散だからな」
それから立ち上がって背伸びをした後、皆の方を向いて告げた。
「お前らもそいつみたいになりたくなかったら、信頼を裏切るようなバカな真似はするなよ」
「大丈夫だってー! 何てったって、ベルデは超尊敬できるし!」
「天才だしー!」
「……ふん」
ベルデはピーキーエンジェルズに煽てられながら、王結寺を後にした。門の戸締りだけはちゃんとしとけよ、と呟きながら。
スイムスイムは血だらけの早苗を抱き起こし、背負った。スイムスイムの背中一面に血がベットリとつくわけだが、本人は至って気にしてないようだ。途中で引き戸を開けてもらうのをアビスに手伝ってもらいながら、スイムスイムは外に出て、アビスもそれについていった。ガイはたまを自宅付近まで送るために、2人で王結寺を後にした。ピーキーエンジェルズもタイガとインペラーにさよならを告げてから、文字通り一直線に王結寺からN市上空へ飛び去って帰宅した。
「……」
兄のタイガは未だに、床に広がる血の跡を見つめ続けており、弟のインペラーはこれから先に待ち受ける、底知れぬ不安を全身に感じていた。
門の外に出て、暗い裏通りに横たわらせておこうかと考えていたが、アビスのアドバイスを受け、後先の事を見据えて、あえて裏庭の一角に置くことにした。
血まみれの早苗を茂みの奥に置いた後、その姿をボンヤリと見つめながらスイムスイムはある事を思い返していた。
つい先日、ルーラが女王様として皆から崇められている夢を見た。清く凛々しく振る舞うルーラを見て、彼女はいつも憧れの眼差しを向けていた。
ルーラはスイムスイムにとってお姫様であり、可愛く、賢く、カッコいい存在だった。そんなお姫様に仕える事が、スイムスイムの夢だった。
『そんなにルーラが好きなの?』
その時、横に立っていたパジャマ姿の少女がそう問いかけた。スイムスイムが無言で頷くと、さらに少女は驚くべき事を言った。
『そっか〜。でも、あなたはお姫様にならないの?』
それは、お姫様に仕える事だけを夢見てきた彼女にとって、ハンマーで殴られた時の衝撃を感じるに等しい一言だった。
『きっとなれるよ。女の子はみんな、お姫様候補なんだから』
それから別れの言葉を告げた後、パジャマ姿の少女はどこかへ消え去り、そこで目が覚めた。辺りは暗く、柔らかい布団の感触が肌をくすぐった。夢を見ていたらしい。
「……私が、ルーラに、なる」
夢の中で思わぬ事を教えてくれた少女の姿をボンヤリとではあるが思い返し、スイムスイムは目覚めた時と同じセリフを裏庭で呟いた。自分が憧れていたルーラになるには、ルーラを消さなければ、本当の意味でルーラになったとはならない。機会を伺って排除する必要がある。そう思っていた矢先、ベルデがスイムスイムの考えを見抜いて、自らの理想に賛同してくれたのだ。リーダーの座を譲るにはまだ早いが、ルーラになる事を実現するのは悪い事ではない、と告げて。
今はまだ完全な意味合いでルーラになれたわけではない。だが、ルーラの死により、着実に一歩前進した。
否、訂正しよう。ルーラはまだ死んだわけではない。
「大丈夫……。ルーラは死なない。私がルーラになるから。だからルーラはずっと生きてる」
ルーラがなれなかった、本物の『ルーラ』に、必ずなってみせる。そう誓うように、
「さようなら。今までどうも、ありがとう」
深々と一礼した彼女の両目からは、止まることなく涙が零れ落ちている。このチームがこれからどうなったとしても、ルーラの教えは忠実に守っていこう。スイムスイムは指先で涙を拭いながら心の中でそう誓った。背後からアビスがその後ろ姿を見つめていた。その瞳に映るものは、果たして……。
そして。
林の奥から、2人に気づかれる事なく、現場を目撃していたオーディンは腕を組んだまま、背を向けてその場を後にした。
≪中間報告 その2≫
【ルーラ(木王 早苗)、死亡】
【 残り、魔法少女14名、仮面ライダー16名、計30名】
※ただし、現時点で参加が認められていない魔法少女も含む。
……えぇ〜っ、ルーラファンの皆さん、並びにルーラ役の日笠 陽子さん。かなり酷い扱いにしてしまい、申し訳ありませんでした。作品を読んだ当初並びに今後の展開を考察した結果、日付が変わるのを待たずして殺害されるという展開が妥当だろうと考え、このような結末を迎える事になりました。(文句は一切受け付けませんが……)まぁ、これから先、こんな感じがトントン拍子に続くと思えば、まだ序の口だと思っておいてください。
後、「魔法少女育成計画」の4話でのスイムスイムのあのシーンと、今現在Youtubeで配信されている「仮面ライダー龍騎」の42話の東條のあのシーンがダブって見えたのは私だけではないはず。
次回はなぜルーラが脱落したのか。そして九尾達に訪れる新たな進展がベースになります。