魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
『SWORD VENT』
「ダァァァァァァ!」
ライアとラ・ピュセルを鉄塔の方に向かわせた後、龍騎はガイ、タイガ、インペラーの3人を足止めするために武器を構えた。依然として同胞を傷つけようとまで考えているわけではないが、少なくとも武器無しで対峙しようとは考えていなかった。それに龍騎自身、このような状況は初めてではない。まだ選抜が行われていない、比較的平和だった頃に誤って城南地区に入り込み、王蛇とカラミティ・メアリから一方的な攻撃を直に受けた経験がある。あの時の出来事を活かし、今度は武器を手に持って足止めする事に徹した。
が、やはり人数差もそうだが、目の前にいる3人は龍騎よりも長く仮面ライダーを務めている。そう簡単に状況が覆るわけもなかった。
「せいっ!」
インペラーがガゼルスタッブでガードし、その隙にガイがメタルホーンで反撃してきた。ギリギリのところでかわす龍騎だが、そこにさらなる猛追が。
『STRIKE VENT』
「ふんっ!」
「グァッ⁉︎」
タイガの両手に熊の手のような、爪の鋭い武器『デストクロー』が装着され、思いっきり振るうと、龍騎にダメージを与えた。負けじとガイに飛びかかり、龍騎は不意に感じた疑問を叫んだ。
「大体お前ら、何でライア達に襲いかかってんだよ! 今日は発表日だろ⁉︎ 大人しく結果を見とかなきゃダメだろ!」
「はぁっ? だから何って話。キャンディー集めたいなら、人助けしなくたって別に方法あるっしょ。例えばさ、今1番キャンディー持ってる奴からごっそりいただいちゃうとか」
「なっ……⁉︎」
ガイの言葉にハッとした龍騎は一旦距離を置き、頭の中で整理した。
「まさかお前ら、譲渡機能を使って、スノーホワイトを……!」
「あんたが俺達を止めてる間にも、計画は順調に進んでるっぽいし、結局無駄足になってるってわけ。分かった?」
「このぉ……!」
ガイ達のやり方に怒りを覚えた龍騎は、完全に頭に血が上っていた。
「もうあったまきた! お前ら許さねぇからな!」
「悪いって分かってるけどさ! こうでもしなきゃルーラに見限られちまうんだよ! 俺達だって生き残りたいし!」
インペラーがそう弁解するが、龍騎はとことん無視した。
「こんな事、絶対止めてやる!」
「あっそ。じゃあさっさと終わらせよっか。ウザくてしょうがないし」
ガイは左手の親指を立てて、下に向けた。本気で龍騎の息の根を止めにいくようだ。再び立ち向かう龍騎だが、やはり人数差に苦戦を強いられている。そこで龍騎が取り出したガードは『アドベント』のカード。
『ADVENT』
上空からドラグレッダーは咆哮をあげて龍騎の隣を旋回した。そして口から火炎弾が放たれようとしたその時。
『FREEZE VENT』
タイガがカードをベントインし、ドラグレッダーは瞬間凍結された。もはや攻撃する事さえ出来ない。
「なっ⁉︎ ドラグレッダーが……!」
動揺する龍騎に対し、インペラーはチャンスと見たのか、タイガに指示を出した。
「今だ! 俺をあいつのところに飛ばしてくれ兄貴!」
そう言ってインペラーが取り出したのは、ユナエルのアバター姿が描かれたパートナーカード。それをガゼルバイザーにベントインした。
『TRANS VENT』
すると、インペラーの姿が歪み、その容姿をタコに変えた。そのタコを掴んだタイガは龍騎の顔面に向かって投げ飛ばした。
「た、タコ⁉︎ おわぁっ⁉︎」
インペラーの使ったパートナーカード『トランスベント』は、パートナーのユナエル同様、魔法によって生き物全般に自分の意思で変化する事ができるのだ。当然龍騎は知る由もなく、顔面に張り付いたタコ(インペラー)を引き離そうとするが、逆に墨を吐かれて、視界が遮られた。
「み、見えねぇ⁉︎」
「ダァッ!」
慌てふためく龍騎に対し、その場で元に戻ったインペラーが連続で蹴りを叩き込んだ。インペラーが下がり、龍騎がよろめいていると、タイガが新たなカードをベントインし、インペラーもそれに続いた。
『ADVENT』
『KICK VENT』
タイガが『アドベント』のカードによって現れたのは、契約モンスターの『デストワイルダー』。それが龍騎の後方から接近し、剛腕な両腕で龍騎を軽く吹き飛ばした。その落下地点にはインペラーが待ち構えており、『キックベント』によって脚力が強化された一撃『ガゼルブレイク』が龍騎の腹に直撃。龍騎はなす術なく吹き飛び、近くの工場に全身をぶつけた。背中越しの壁にクレーターのような穴が開き、龍騎は地面に倒れこんでうずくまった。
満身創痍の龍騎を見て、ガイは笑いながら一歩一歩確実に龍騎に近づいていた。未だに視界が遮られており、どこに敵がいるのかさえも判断出来ない。龍騎が立ち上がってカードを引き抜こうとした時には、すでにガイが目の前に佇んでいた。
「じゃあね」
そう言ってガイがメタルホーンを構える右腕を突き出し、龍騎の首元を突いた。
「ゴフッ……⁉︎」
言葉にならない悲鳴をあげ、視界がグラついたかと思うと、龍騎の意識は次第に薄まり、完全に視界が真っ黒に染まった時には、無意識にガイに寄りかかって、両足にしがみついていた。
「触んなよバカ」
ガイはそんな龍騎を蹴り飛ばし、仰向けに寝転がせた。
タイガとインペラーの2人も気絶している龍騎に近づいて、顔を覗き込んだ。
「お、おい。こいつ死んでねぇよな……?」
「大丈夫っしょ。こいつバカだから石頭っぽいし。ま、仕事を邪魔したのが運の尽きってやつだよ」
ガイがヘラヘラ笑って、龍騎を足で小突いていると、水の波紋のような音が鳴り響き、3人が振り返ると、1人の魔法少女が立ち尽くしていた。先ほどマジカルキャンディーを奪取し、ルーラと分かれたばかりのスイムスイムである。
「あ、スイムスイム。そっちはどうだった?」
「終わった。スノーホワイトのマジカルキャンディーは、全部私のマジカルフォンの中」
「じゃあ、作戦は成功したんだね」
タイガの言葉に、スイムスイムは無言で頷く。それから不意に周りを見渡し、口を開いた。
「……たまは?」
「さっきライアに踏み倒されてそれっきりだったっけ」
「オーイ! たま、生きてるか? 返事してくれ!」
インペラーが、たまの掘った穴に向かって叫ぶと、弱々しくも、確かにたまの声が返ってきた。
「う、う〜ん……。ちょっと頭がクラクラするけど、大丈夫にゃ〜……」
「明らかに口調が変わってるぞ⁉︎ 本当に大丈夫なのかよ⁉︎」
インペラーがそうツッコむと、スイムスイムのマジカルフォンに着信が入った。見てみると、ルーラからのメッセージだった。文面を読んだスイムスイムは、ガイ達に伝えた。
「ルーラから連絡。任務完了。至急王結寺に戻れ」
「じゃあ行こうぜ。早く行かねぇとまたドヤされるし」
インペラーがそう言い、タイガと共に王結寺に向かって一足先に帰還した。スイムスイムが魔法を使ってたまを救出している最中、ガイだけは倒れこんでいる龍騎に目をやった。ふと目線を外して、龍騎の足元に転がっていた、『あるモノ』を見た途端、ガイは仮面の下でニヤリと笑い、それを手に取った。そこへ、別の足音が聞こえてきて、ガイが振り返ると、そこに現れたのは、ルーラ達と共に撤退したはずのアビスだった。ガイの口元はさらにつり上がった。
静まり返った港に大勢の人の足音が鳴り響いたのは、それから数10分後の事だった。龍騎を探しにやってきた九尾、スノーホワイト、トップスピード、ライア、ラ・ピュセル、ナイト、リップルは、そこで仰向けに倒れている龍騎を発見した。
「! 龍騎!」
「城戸さん!」
皆が駆け寄り、龍騎の周りに群がった。特にパートナーのトップスピードはこれでもかと言わんばかりに龍騎の体を揺らしていた。
「おい、しっかりしろ! 死んでねぇよな⁉︎」
「落ち着け。息があるという事は、気絶しているだけのようだな」
ライアが冷静に呟いていると、うめき声と共に龍騎が上半身を起こした。
「……ん、あ、あれ……。みんな……」
「龍騎! 心配させやがって!」
トップスピードが涙を浮かべながら龍騎を抱きしめた。心底心配していたのだろう。それからトップスピードを落ち着かせた後、龍騎は質問をした。
「そ、そうだ。あいつらスノーホワイトのマジカルキャンディーを狙ってたみたいだけど、どうなったの……」
「……ごめんなさい。奪われちゃったんです。龍騎にも迷惑かけちゃって……」
「い、いいよ。俺の事は気にしなくても。元々勝手に割り込んできたんだし。……でもあいつらマジで許せねぇな」
「まぁ、バージョンアップされた以上、大方予想は出来てた。あいつらみたいに行動を起こす奴らが出てくる事は」
ナイトが肩を竦めて語っていると、ラ・ピュセルが体の向きを変えて、夜空を睨んだ。ライアが低い声で呼び止めた。
「待て。どこへ行くつもりだ」
「僕が取り返してくる! スノーホワイトから奪ったキャンディーを!」
「だ、ダメだよ……!」
慌ててスノーホワイトがラ・ピュセルの腕を掴んだが、ラ・ピュセルは表情を険しくして叫んだ。
「何言ってんだ! 今日は週間ランキングの発表日だ! 急がないと君が……!」
ラ・ピュセルの言う通り、このままではキャンディーの数が最も少ない可能性の高くなったスノーホワイトは脱落する。同じチームとして、何より幼馴染みとして、黙って見過ごす事の出来ない事態だ。が、スノーホワイトは力が抜けたように首を横に振って、静かに呟いた。
「……それでも、良い」
「「!」」
「なっ⁉︎」
これにはその場にいる7人に動揺が走り、たまらず皆は口々に叫んだ。
「いい訳ないだろ⁉︎ 死んじゃうんだぞ!」
「そうだよスノーホワイト! なんだったら俺のマジカルキャンディーあげる……って、あぁ⁉︎」
「どうした?」
龍騎がスノーホワイトにキャンディーを分け与えようとして自身のマジカルフォンを起動した時、龍騎は思わず叫んだ。
「俺の持ってたマジカルキャンディーの数が、減ってる……!」
「何だって⁉︎」
「……あいつらが倒れたあなたからついでに奪った、って事だろ」
「自業自得だな」
「んな呑気な事言ってる場合かよ! あいつらそんな事まで考えてたのかよ、信じらんねぇ……」
龍騎の言うように、彼の所持するマジカルキャンディーの数は全てではないにしろ、かなり減っていた。ガイが拾い上げて、自身のマジカルフォンに転送させたのだ。
トップスピードが絶句している中、九尾はスノーホワイトと龍騎を交互に見合った。そして歩き出し、ラ・ピュセルの横に立って口を開いた。
「ラ・ピュセル。みんなを頼む」
「九尾……?」
「どこへ行く」
「! まさか、九尾……!」
「お前が止めても、俺が行く。龍騎の分も、取り返しに行く」
「待て! そんな怪我であの10人と戦って、勝ち目があるとは思えない!」
ライアがそう言うように、九尾の右腕には戦闘で生じた傷がある。血は止まっているものの、ダメージはそれなりに蓄積されているはずだ。限られた時間内にそんな状態で戦ったところでどうなるかは、結果を占うまでもない。
「それでも……」
だが、九尾は迷う事なく決断する。
「それでも、このまま黙ってなんていられない。俺なりにケジメをつけなきゃならないんだ。だから、城戸さんと、小雪を、絶対に死なせない」
怪我なんて言い訳に出来ないしな、と語るように、今回の件で彼なりに責任を感じたと同時に、プライドがあるのだろう。九尾はキャンディーを取り返そうと、前進しようとした。
「ダメだよそんなの!」
スノーホワイトの悲痛な声を聞きながら、九尾は立ち止まって呟いた。
「もし、上手くいかなかったら……」
「いかなかったら……?」
「俺の持ってるキャンディーは全部お前にやる。スノーホワ」
「ダメ!」
刹那、九尾の背中に何かが密着した。声からして、スノーホワイトが九尾を背後から動けないように抱きしめているらしい。そのスノーホワイトは、嗚咽を鳴らしながら、静かに呟いた。
「だったら絶対、行かせないから……! お願いだから、そういう事しないで……! 私、死ぬのも怖いけど、それで九尾が、パートナーが死んじゃう事になったら、生きてく自信ない……!」
「……」
「どうしても行くんだったら、キャンディーの数を同じにして……。死ぬ事になっても、2人一緒だったら……私……」
「小雪……」
「小雪ちゃん……」
ラ・ピュセルと龍騎が呆然と呟き、他の面々もどう声をかければいいのか分からない様子だ。九尾はスノーホワイトを泣かせてしまった事に罪悪感を感じながら、右手でスノーホワイトの右手を優しく握った。
「……ごめん。悪かったな」
慰めるように呟いた後、肩の力を緩めた。どうやら思いとどまれたようだ。頃合いとみたライアが、2人に声をかけた。
「とにかく、キャンディーの数を確認しよう。スノーホワイトの所持数が0でも、最悪この場にいる俺達が均等に分け与えれば、生き残る可能性はある。この譲渡機能は、そのためのものでもあるだろ?」
「……あぁ、そうだな!」
「ナイト、リップル。不合理なのは分かるが、今は頼む」
「……仕方ないな」
「少しだけなら構わない」
普段は人付き合いの悪い2人の承諾も得て、一同は早速スノーホワイトのマジカルフォンに貯められているキャンディーの所持数を確認した。
「⁉︎」
「……えっ」
だが、マジカルフォンに表示された数値は、皆の予想を遥かに上回るものだった。
「これは……⁉︎」
「どういう事だ……?」
湿っぽい風が吹いている港の一角で、困惑の空気が漂い始めた。
やっぱり3対1は厳しいですよね……。
今回インペラーが使った『キックベント』は攻撃系のオリジナルアドベントカードです。彼やシザースって出番が少ない事も要因ですが、特殊能力系のカードが少ないから取り入れてみました。
そして次回、2人目の脱落者が発表される……。