魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
今回は、九尾達に手を貸す者達が登場!
「はっ! 調子に乗るのもそこまでだぜ」
「悪く思うなよ」
ベルデとアビスに挟まれる形で、九尾は交互に見返していた。右腕からは、アビスからの攻撃で受けた傷があり、血が滴り落ちている。
急がなければ、スノーホワイトのマジカルキャンディーは全て奪取され、一気に最下位へ転落する。脱落者の発表までの時間はそう遠くない。パートナーである以上、そして優しい彼女を絶望で終わらせたくないと思う以上、挫けるという選択肢は九尾にない。
どこまで通用するか分からないが、力で押し通すしかない。そう思ってフォクセイバーを強く握りしめたその時、別方向から声が聞こえてきた。
「九尾!」
「! ラ・ピュセルか……! それにライアも」
それは先ほどピーキーエンジェルズの後を追っていたラ・ピュセルとライアだった。ライアの後方からはピーキーエンジェルズが妨害しようとしており、ライアが対抗していた。
「大丈夫か! 今援護する!」
「俺の事は構うな! それよりもスノーホワイトを……!」
そう叫んで鉄塔の方を見上げた時、スノーホワイトをまとっていた光が消えて、跪いたのが確認できた。
「間に合ったみたいだな」
アビスの呟きを聞き逃さなかったラ・ピュセルは、全身の血が荒ぶるような感覚に襲われ、怒りを露わにした。
「クッソォォォォォ!」
間に合わなかったとはいえ、早くスノーホワイトを保護しなければ。そう思ったラ・ピュセルは手に持っている剣に意識を集中した。すでにガイの『コンファインベント』の効力は切れている。これでラ・ピュセルはいつでも魔法を使える。
ラ・ピュセルは一瞬にして剣を鉄塔とほぼ同じサイズの大剣に形を変えて、咆哮とともに大きく振りかぶり、鉄塔にぶつけた。
「っ! あれがあいつの魔法か……⁉︎」
「……!」
あまりにも巨大すぎる剣の大きさに気を取られ、ベルデとアビスは一歩も動けない。
鉄塔の下から見たら、震度2程度に激しく揺れているようにしか見えないが、上の者にとってはそんな生易しいものではない。電線がまとめて千切れ、猛烈な揺れに襲われ、無防備だったスノーホワイト、ルーラ、スイムスイムは耐えられるはずもなく、鉄塔の上から転落した。
ルーラの悲鳴がこだまする中、スイムスイムは空中でバランスをとってルーラの手を掴み、上空に放り投げた。ルーラを放り投げた事で落下速度が加速したスイムスイムは、途中で姿が見えなくなった。一方のルーラは、空中を舞っていたところをピーキーエンジェルズによって両脇を抱えられる事で難を逃れた。みっともない状態を晒す事に怒りを覚え、ルーラはさっさと下ろすように命令した。
スノーホワイトは未だに恐怖から逃れられる事なく、悲鳴を上げながら落下していた。
「スノーホワイト!」
だがそこに、ベルデとアビスの注意が別方向に向けられたのを見逃さずに飛び上がった九尾が、落下地点から10メートル高い場所でスノーホワイトを受け止めて、近くのビルの屋上に着地した。右腕に若干の痛みが走るものの、依然として涙を浮かべながら怯えているスノーホワイトに、九尾は声をかけた。
「おい、大丈夫か」
「! キャンディーが……。! 九尾、その腕……!」
「ん」
スノーホワイトが九尾の腕を見つめて驚いていた。九尾がその視線をたどると、自身の右腕が見えた。どうやら右腕から流れる血を見て驚いたらしい。
「これくらい平気だ。それよりお前は」
「わ、私は、大丈夫。でも……」
スノーホワイトが、傍らに落ちていた彼女のマジカルフォンに目をやった。九尾もそれに目をやり、軽く舌打ちした。やられたか、と呟きながら。
一方、地上に降り立ったルーラの前に、ラ・ピュセルが立ちふさがり、大剣をルーラに向けた。
「ルーラぁ! これがお前達のやり方か! 剣の一太刀を受ける覚悟は出来ているか!」
「ふん。バカな奴ほどよく吠えるものね。生きるためには、要は頭を使えばいいのよ。それが出来ない奴は、できる者に従う。それすら出来ない者に生きてる価値なんてないも同然」
「お前……!」
ラ・ピュセルの怒りの眼差しを受け流しながら、ルーラは考えていた。現状、人数差は従来より減っているとはいえまだ僅かにリードしている。ルーラの最終目標はカラミティ・メアリへの下剋上。が、今のカラミティ・メアリは以前と違って王蛇がパートナーとなっている。彼の危険性は耳にタコが出来るくらいに聞いており、それが彼女を悩ませていた。
だがペアである事が分かったと同時に、魔法少女達には戦力の強化が付与された。目的であるキャンディーは奪えたが、それだけでは足りない気がする。実際に交戦した際、力でねじ伏せる策が使えるか試せる機会も多くない。この状況を利用して、個々の戦力にどれほどの影響があるのか、確かめてみるのも余興だ。そう思ったルーラは、両隣りにいたミナエルとユナエルに指示を出した。
「あなた達。撤収にはまだ早過ぎるわ。足止めもマトモに出来なかった罰として、あいつらと直接戦ってきなさい。しょうがないから、私も手伝ってあげる」
「へぇ〜、戦っていいんだ!」
「いいんだ!」
これにはピーキーエンジェルズも俄然やる気が出たらしく、ニヤつきながら前に出た。
「じゃあ遠慮なくやっちゃおうよ、お姉ちゃん!」
「私達の強さ、あいつらに見せつけてやろうよ!」
「まだやろうという事か」
ラ・ピュセルの隣にライアが降り立ち、2人の後方からはベルデとアビスが歩み寄ってきた。
「お前はここにいろ。あいつらとはまだ決着が付いてない」
そう言って屋上にいた九尾もスノーホワイトを下ろして立ち上がった。
「九尾! でも……!」
「……お前は優しすぎる。だから、関わって欲しくないんだ。こういう戦いには。……それから、すまなかった。お前を最後まで守ってやれなくて」
そう呟いて、九尾も地上に降り立った。スノーホワイトは止める事も出来ず、ただジッとその後ろ姿を眺めていた。
地上では、ピーキーエンジェルズが各々のマジカルフォンをタップして、パートナーの武器を召喚した。ミナエルの両手には、タイガの武器『デストクロー』が取り付けられ、ユナエルの右手にはインペラーの武器『ガゼルスタッブ』が握られた。
「おぉ、カッチョいい〜!」
「お姉ちゃんの武器の方がなんかカッコよすぎなんですけど。ま、いっか。使いづらくはないし」
2人の身体は他の魔法少女と比べても小さい。ミナエルは体と同じサイズのデストクローを、ユナエルは自分よりもはるかに長いガゼルスタッブを振り回していた。興奮しているピーキーエンジェルズに、ルーラの喝が入った。
「呑気にはしゃいでないで、さっさと戦えバカ共!」
そう言ってルーラもマジカルフォンをタップして、右手にベルデの武器『バイオワインダー』を出した。それを合図に、ピーキーエンジェルズは突撃し、ラ・ピュセルに向かった。
「ウォォォォォォォ!」
ラ・ピュセルの一振りは、初動の速いピーキーエンジェルズにかすりもせず、そのままルーラと交戦する事にした。ピーキーエンジェルズは狙いをライアに替えて、素早く詰め寄った。
「さっきのお返しだ!」
「お返しだ!」
「!」
ライアはとっさに身を翻し、2人の攻撃を避けた。が、ピーキーエンジェルズは方向転換し、二手に分かれて再度挟み込むように接近した。デストクローとガゼルスタッブの突きが襲いかかり、ライアは体を反らして回避しようとした。が、完全には避けきれず、脇腹を掠め取るように攻撃が当たり、ライアはよろめいた。
「やった! 当たった!」
「このままやっちゃえ!」
「(本来のスピードや切り返しの早さに加えて、攻撃力が増大した事で厄介な強さを手にしている。これもパートナーシステムの恩恵あっての事か)」
『COPY VENT』
だが、弱音を吐いてばかりでもいられない。ライアはコピーベントを使い、再びベルデとアビスの2人と交戦している九尾が握っているフォクセイバーに目をやって、フォクセイバーをコピーし、両手にそれを持った。
「(今はこれで時間を稼ぐしかないな)」
だが、発表まで時間はあまりない。焦る気持ちを押し殺しながら、ピーキーエンジェルズに立ち向かった。
一方、ラ・ピュセルとルーラの戦闘も白熱化していた。
「このぉ!」
「ふん! さすがに戦闘向けの魔法を持ってるだけの事はあるけど」
ラ・ピュセルの一振りがルーラに襲いかかるも、ルーラは余裕と言わんばかりに避けている。元々戦闘経験の乏しいルーラではあるが、魔法少女であるが故に、攻撃を回避出来るぐらいには身体能力は向上している。そして何より、ラ・ピュセルの剣の攻撃は当たれば強烈だが、今のようにあまりにも大きすぎると、振り切るまでに多少のラグがある。それさえ見抜ければ、タイミングを見計らって回避出来る。加えてルーラは、頭をフル回転させて反撃のチャンスを伺っていた。
「ハァッ!」
剣の一太刀を回避した後、ラ・ピュセルに向かってバイオワインダーを投げつけて、ラ・ピュセルの体を両腕とともに縛り上げた。
「! しまった……!」
身動きが取れず、両腕の自由が利かなくなったので大剣を振るう事が出来ない。ルーラは勝ち誇った笑みを浮かべてバイオワインダーを引っ張り、ラ・ピュセルを引き寄せると、大剣を蹴り飛ばしてラ・ピュセルから武器を引き離した。
「ほぉらね。真正面から正々堂々と戦おうとするからこうなるのよ。それがあなたの最大の弱点とも気づかずにね!」
そう言ってルーラはラ・ピュセルの腹に、身体強化された蹴りを叩き込み、ラ・ピュセルを近くの壁に叩きつけた。ラ・ピュセルの口から空気が溢れ出て、目眩を感じた。どうにかして立ち上がる力は残っていたが、依然として両腕は縛られたままだ。
九尾の方も、劣勢に置かれる状況が続き、余裕がなくなりつつあった。ひたすらにベルデとアビスの攻撃を避け続け、防戦一方に追いやられている。
そんな彼らの様子を、スノーホワイトは一歩も動く事なく眺めていた。
「(どうして……⁉︎ どうしてこんな事に……!)」
同じ魔法少女や仮面ライダー同士が、キャンディーを目的に戦いあう事自体、スノーホワイトにとって信じがたい事だが、それ以上に九尾、ラ・ピュセル、ライアの安否が心配だった。見るからにボロボロになっているにもかかわらず、彼らは、自分を陥れた者達と戦っていた。傷ついていくその姿は、見るに堪えないものがあった。
「(私が……、私が行って助けてあげなきゃいけないのに、何で、動けないの……⁉︎)」
それが、恐怖による竦みなのだが、今のスノーホワイトにそれを理解するだけの余裕がない。
誰でも良い。彼らを助けてほしい。そう願っていたスノーホワイトだが、それを叶えるかのように、スノーホワイトの耳にこんな声が。
『NASTY VENT』
否、スノーホワイトだけではなく、その場にいた全員がその声を確かに聞き取った。
『耳を塞いどいた方がいいかもしれねーぞ!』
不意に聞き覚えのある、心の声を聞き取ったスノーホワイトはとっさに両手で耳を塞いだ。すると、スノーホワイト以外の全員の耳に、金属を擦り合わせたような、不快感を覚えさせる音が鳴り響いた。
「グッ……⁉︎」
「な、何だこれは……!」
「ヒィィィィィ⁉︎ 何この音チョー気持ち悪い!」
「頭が割れそぉぉぉぉ⁉︎」
「い、一体どこから……」
皆が苦しみながらも辺りを見渡すと、ユナエルが何かを見つけて指差した。そこには、音の発信源らしき、巨大なコウモリの旋回している姿が。彼らはすぐにそれがモンスターだと分かった。そしてスノーホワイト、九尾、ラ・ピュセル、ライアにはすぐにピンとくるものがあった。
「契約モンスター……、ダークウィングか!」
「という事は……!」
4人の予想に応えるかのように、ダークウィングの後方から人影が向かってくるのが見えた。ダークウィングを従えている仮面ライダー『ナイト』。そのパートナーである魔法少女『リップル』。さらに2人といつも行動を共にしている龍騎のパートナー『トップスピード』の3人だった。
[挿入歌:果てなき希望]
ラピッドスワローから飛び降りたナイトは九尾の前に降り立った。
「随分と派手にやってるな」
「! ナイト、あんた……」
「勘違いするな。俺は戦いにきた。それだけだ」
『SWORD VENT』
ナイトはウィングランサーを手に持ち、剣先をベルデとアビスに向けた。
「……チッ! 妙なタイミングで現れやがって」
ベルデは毒づきながらもナイトに向かって突撃した。アビスもそれに続き、ナイトと九尾も駆け出した。
一方、リップルもラピッドスワローから飛び降りて、ライアとピーキーエンジェルズが交戦している場所に着地した。
「お姉ちゃん! あいつリップルだよ! けっこー強いって噂の!」
「マジ⁉︎ 何でこんな所に来てるのよ⁉︎ 意味分かんねーし!」
「分かんねーし!」
ピーキーエンジェルズが喚き立てている様子を見て、リップルはそれに負けないぐらいの舌打ちを響かせた。ふと目線を外し、驚きながらも涙目になっているスノーホワイトと、右腕に赤い血が付いている九尾を見つけた後、後方にいるライアに問いかけた。
「……あれ、どういう事。そもそも何でこうなっている」
「……スノーホワイトのキャンディーを強奪するのが奴らの目的だった。今はもう全て奪われてしまっている。九尾とラ・ピュセルもここまでの戦闘で負傷している」
「スノーホワイトと、九尾が……」
「すまないが、協力してくれ。脱落者の発表まで時間はそう残っていない。一刻も早く彼らを退ける必要がある」
「……なら、あなたはラ・ピュセルの所に行って。こいつらは、私1人で十分」
「だが……」
「私の魔法があれば、あいつら程度、問題ない」
リップルの言葉を受け、ライアはしばらく黙りこんだ後、頷いた。
「分かった。君を信じよう。無理はするなよ」
「お前に言われるまでもない」
ライアの言葉を背中越しに聞いて答えると、ライアはラ・ピュセルがいる地点に向かった。その一方で、リップルが1人で戦いに挑もうとする様子に、ピーキーエンジェルズはイラついていた。
「私1人で十分とか、ナメプだよね。そういう態度、マジムカつく」
「ホントそれ」
「キャンディーを奪うだけしか能のないお前らが、勝てるわけない」
それに……、とリップルは顔を上げてスノーホワイトと九尾の姿を交互に見た後、目をキツく細めて、マジカルフォンを取り出してタップし、パートナーの武器であるウィングランサーを構えた。
「誰かを泣かせ、傷つけていくような奴にだけは、負けたくないから」
「アァ〜、もううるさいなぁ! こうなったら意地でも泣かせてやるんだから!」
「やっちゃおう、お姉ちゃん!」
そう叫んでピーキーエンジェルズは、リップルに向かって武器を突きつけた。対するリップルはウィングランサーを盾代わりにして攻撃を受け止め続けた。ピーキーエンジェルズがどれほど俊敏に裏を取ろうとしても、リップルはまるで最初から分かっていたかのように対処していた。さすがのピーキーエンジェルズも焦りが見え始めたが、リップルは余裕があるかのように表情を崩す事無く、冷たい目力を放っていた。業を煮やした2人は目配せすると、挟み込むように体当たりしてきた。が、それもリップルにとって計算済みだったらしく、ウィングランサーと、自前の短刀で防御し、双子の動きを止めた後、ミナエル、ユナエルの順に強烈な蹴りを叩き込み、2人を別方向に吹き飛ばした。
「な、何あいつ⁉︎ 何で私達の攻撃が通用してないの⁉︎」
「やっぱマジ強!」
ピーキーエンジェルズが喚くが、リップルはお構いなしに、懐から手裏剣を何枚か取り出し、2人に同じ数の手裏剣を放った。慌ててこれを回避するピーキーエンジェルズだったが、すぐさま異変に気づいた。手裏剣がその勢いを衰える事無く回転して、2人に向かって追尾してきているのだ。リップルの魔法により、手裏剣が百発百中を彷彿とさせるように双子に迫っているのだが、当然2人はそんな事を知る由もなく、ただひたすらに飛び回り続けた。追いかけるのも面倒になったリップルは、その場で双子が必死に逃げ狂う姿を眺めていた。
その頃、ルーラの持つバイオワインダーによって拘束されていたラ・ピュセルだったが、
「ウォォォォォォォ!」
どこからか咆哮が聞こえてきたかと思うと、一瞬の隙にバイオワインダーの糸がプツンと千切れ、ラ・ピュセルは自由の身となった。
「おい、大丈夫か!」
ラ・ピュセルに声をかけてきたのは、降下してラピッドスワローから降り立ったトップスピードだった。その手にはパートナーの武器であるドラグセイバーが握られている。先ほどバイオワインダーを斬ったのはトップスピードらしい。
「ありがとう、トップスピード! でもどうしてここに……」
「細かい話は後だ! それより……」
トップスピードは少し前進して、対峙するルーラを睨みながら両手を広げて叫んだ。
「お前ら一体何してんだよ! 仲間同士で争ってる場合じゃねぇだろ!」
「チッ! 今日はホントにバカな奴らとしか出会わないわね! 大体何であんたがここに来てるのよ! さっさとそこをおどき!」
「ダチが悪い事してるんなら、それを止めるのが俺の役目だ!」
「ダチって、お前まだ私をそんな風に呼んでるのか⁉︎ こっちは最初からお前の事なんかこれっぽっちも友だと思ってないわよ!」
「い〜や! お前は俺のダチだ! 俺が勝手にそう決めた!」
頑なに主張を曲げないトップスピードに、ルーラの怒りは最高潮に達した。そして、王笏を手に持ってトップスピードに向けた。
「なら、今すぐその減らず口を黙らせてやる!」
「させるか!」
これを見たラ・ピュセルは剣を拾い、一旦元のサイズに戻してから、剣先をルーラに向けた。ラ・ピュセルは魔法を使って剣のサイズを変化させたが、今回は幅や厚みを変える事なく、長さだけを大きく一直線に伸ばし、ルーラの持つ王笏を弾き飛ばした。
「グゥゥ……!」
弾かれた時の振動で手を痛めたルーラに対し、ラ・ピュセルはマジカルフォンを取り出してタップし、左腕にエビルバイザーを装着した。
「ラ・ピュセル、援護するぞ」
『STRIKE VENT』
そこへリップルの所から離れてやってきたライアが合流し、2人で同時に左腕を横に振るい、ソニックブームを放った。
「きゃあ!」
直撃こそしなかったが、目の前の地面が爆ぜて、ルーラは地面に倒れこんだ。ここまで打ちのめされたのは、カラミティ・メアリとの一件以来だ。唇を噛み締めながら顔を上げたルーラは、そこで周りの現状を把握した。ベルデとアビスは九尾とナイトに僅かながら押されており、ピーキーエンジェルズはリップルの攻撃から逃げ回る事しか出来ていない。
スイムスイムはともかく、この場にいない他の4人はどこで道草を食っているのか知らないが、応援は期待できないようだ。現時点でナイト達の援護により人数差が逆転されている。おまけにナイト達のチームは戦闘能力が高い事で知られている。このままでは勝ち目がない。弱気な選択ではあるが、ルーラは仕方なしにと、こう叫んだ。
「撤収するぞ!」
幸い、当初の目的であるスノーホワイトからのマジカルキャンディー奪取は完了している。そこから先はあくまでボーナスポイントを得るようなものだ。無理に続ける必要もない。ただ、ピーキーエンジェルズだけは頬を膨らませて不満を口にした。
「えぇ〜? 自分から戦えって言ったくせに〜」
「そ〜そ〜」
「うだうだ言うなポンコツ共! 戦略的撤退よ! アビス!」
ルーラがそう一喝した後、アビスの名を叫ぶと、彼は小さく頷き、他の4人と合流して一箇所に集まった。逃げようとする彼らを追ってこちらも一箇所に集まった九尾達を見て、アビスは1枚のカードをアビスバイザーにベントインした。
『STRIKE VENT』
すると、アビスの右腕にサメを模した『アビスクロー』が装着され、右腕を突き出すと同時に、口の部分から激流が溢れ出し、『アビススマッシュ』として九尾達に向かって襲いかかった。
「ワァッ⁉︎」
「「くっ……!」」
「うっ!」
前線にいた九尾、ラ・ピュセル、トップスピード、リップルの4人は真正面から水流を全身に被り、行く手が遮られた。ようやく視界が開けてきた時には、すでに5人の姿はなかった。
「逃げたか……」
そう呟く九尾の全身は、アビススマッシュによってびしょ濡れになっていた。もちろん他の魔法少女達も同じく。
「バカヤロー! 寒ぃし、こんな時期だから風邪ひいたらどうすんだよ!」
誰もいない先に向かって場違いなツッコミを怒鳴り散らすトップスピード。彼女のみならず、水浸しになった魔法少女達の服はベッタリと肌に張り付いており、特にリップルは体を震わせながら、元から綺麗な素肌を、さらに強調させるような容姿になってるので、九尾は目のやり場に困って、黙って目線をそらした。遅れてラ・ピュセルもそれに気づいて顔を紅くして俯いた。
その後、6人は屋上に待機しているスノーホワイトの所に向かった。スノーホワイトも一部始終を見ているので、不安な表情で出迎えた。
「みんな、大丈夫……?」
「まぁ、なんとかな」
「んな事より、スノーホワイトこそ大丈夫なのか?」
「無事……とは言い難いですけど……」
スノーホワイトがそう呟くのも無理はない。せっかく大量に貯めていたマジカルキャンディーが奪われてしまったからだ。それも、同じ魔法少女や仮面ライダー達によって。未だにショックが隠しきれていないようだ。
「すまない。僕が先走って奴らの策にはまったばかりに……」
「お前が謝る事ねぇよ。俺の方こそ、油断してた。情けねぇよな……」
ラ・ピュセルと九尾が謝る中、ライアが言った。
「自分を責める事はない。それを言うなら、大人である俺にも監督出来ていなかった責任がある」
それより……、と、ライアがナイト達に顔を向けた。
「さっきは協力してくれて感謝する。おかげで事なきことを得た」
「良いっていいって! そんな堅苦しくなくてもさ!」
トップスピードが大らかな態度でそう言った後、ラ・ピュセルが気になっている事を質問した。
「ところで、君達はどうしてこの場所に?」
「っと、いけねぇ忘れてた! なぁみんな。龍騎見なかったか?」
「龍騎……ですか?」
スノーホワイトが首を傾げた。
「あぁ。いつになっても来る気配がなくてな。俺としてはどうでもよかったが、トップスピードがうるさく言ってくるから、仕方なく、といったところだ」
「そりゃあ心配するだろうよ! 俺のパートナーだし、今は同じチームだろ?」
トップスピードの正論を受けて、リップルは軽く舌打ちした。と、そこへラ・ピュセルが慌てたように声をかけた。
「龍騎だったら、さっき僕達をこの場所に行かせてくれたんだ!」
「……またいつものお人好しが出たか」
ナイトが呆れていると、ライアが港の方に顔を向けた。
「まだガイ達と交戦している可能性が高い。全員で向かおう」
「分かった! 案内してくれ!」
トップスピードにそう言われ、ライアとラ・ピュセルを先頭に、一同は龍騎がいるであろう港へ急いで足を運んだ。
魔法少女に武器が支給された事で、さらにバトルロワイアル感らしさが出てると確信したい。
余談ですが、以前「炎の体育会TV」で仮面ライダーナイト役の松田悟志さんの、バスケに真剣に打ち込む姿が当時のライダーバトルを彷彿とさせるようでカッコよかったですよね。おまけに龍騎の紹介を「Revorution」を流しながらやっていたのが個人的に嬉しかった。
次回は龍騎とガイ達の戦いの模様を書いていきます。