魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜   作:スターダストライダー

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ルーラの魔法って、発動条件は厳しいけど、型にハマれば最強クラスだと思うんですよね。


27.脅威の絶対服従

「そうちゃん、ライア……。大丈夫かな……」

「ま、あいつらがそう簡単にやられるとは思えないけどな。……っていうか良いのか? またそうちゃんって呼んで」

「あ、また言っちゃった……。つい癖で……」

「よっぽど仲良かったんだな」

「でも、だいちゃ……大地君だってそうちゃんと小学生の頃から遊んでたんだよね?」

「あぁ。校庭で一緒にサッカーやってるうちにいつの間にか……な。ってか今、俺の呼び方変じゃなかった?」

「えっ⁉︎ う、ううん。き、気のせいだよ……」

 

何故か顔を紅くして目線を逸らすスノーホワイト。それ以上追求しない事にした九尾は、先ほどのピーキーエンジェルズの様子を思い返していた。

 

「(互いの担当区域での活動は、許可なしでは禁止されているって言ってたし、あいつらはキャンディー集めの為に来た感じじゃなかった……。って事は……)」

 

九尾がマジカルフォンを見つめながら考え事をしていると、後方から足音が聞こえてきた。それも2人分。

スノーホワイトと同時に振り返ると、2人の魔法少女がそこにいた。1人は今の季節には先ずお目にかからない水着姿の魔法少女、スイムスイム。もう1人は紫髪の女王を模した魔法少女、ルーラ。

スノーホワイトが驚愕に顔を歪ませる中、九尾はパートナーを守るように前に出た。

 

「やっぱり、あいつらはおとりだったか。本当の狙いはこっちだったってわけだな」

「その通り。お前を含めて3人同時に誘き寄せればベストだったが、あのアホどもにそんな事が出来るわけもないからな。2人だけでも十分だ」

「……譲渡機能を利用して、マジカルキャンディーを横取りするって算段か。あんた、チームのリーダーやってる割には随分と低レベルな考えだな」

「横取りって……⁉︎」

 

スノーホワイトが目を見開き、九尾が淡々とルーラを罵るが、ルーラは依然として笑みを崩さない。

 

「随分余裕そうね。それだけ自分の力に自信があるのかしら? ……まぁ、根拠のない自信を持ってるバカほど、油断は大きいもの」

「何……?」

 

九尾が目を細めていたその時、九尾の後方から何かが首に巻きついて締め上げた。

 

「ぐっ……⁉︎」

「九尾⁉︎」

 

スノーホワイトが叫び、九尾が左手で巻きついているものを緩めた。よく見るとそれは、ヨーヨーの糸のようだ。次第に強い力で後ろに引っ張られて後ずさり、遂に鉄塔の上から落下してしまった。

 

「逃げろ、スノーホワイト……!」

「九尾ぃ!」

 

スノーホワイトが涙を浮かべながら叫んで手を伸ばすも、届く事なく九尾は街灯のない暗闇の路地に向かって引きずり落とされた。

同じチームメイトが全員いなくなってしまい、動揺を隠せずにいたスノーホワイトに対し、ルーラは鼻で笑い、一歩近づいた。

 

「無様ね。正面からやりあうだけが戦い方じゃないのよ。さぁスノーホワイト。覚悟はよろしくて?」

「何で……、何でこんな酷い事を……⁉︎」

「この期に及んでまだ抗おうとしないのかバカ。いや、間抜けと呼ぶべきか」

 

スノーホワイトの様子に毒づくルーラ。一方でスノーホワイトは後ずさりながらパニックに陥っていた。早く逃げなければ何をされるか分からない。今ならマジカルフォンの画面を操作して武器を召喚する事も可能だが、相手はモンスターではなく人間、それも自分と同じ魔法少女だ。同じ仲間同士で戦おうだなんて考えたくない。その気持ちが、スノーホワイトの行動を制限していた。

戦おうという意思が無いと判断したルーラは、さっさと終わらせようとして、手に持っている王笏をスノーホワイトに向け、魔法の行使を宣言した。

 

『ルーラの名の下に命ずる。スノーホワイトよ。身動きをとるな』

「!」

 

その瞬間、スノーホワイトは自分の体の自由が利かなくなっている事に気付いた。どれほど抵抗しようとも、指一本動く事さえ叶わない。

ルーラが隣にいるスイムスイムに目配せすると、スイムスイムはゆっくりとスノーホワイトに近づき、自身のマジカルフォンを向けて操作した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、落下していた九尾は左手で緩めながら、空いている右手でカードを引き抜き、フォクスバイザーに素早くベントインした。

 

『SWORD VENT』

 

直後、上空から落ちてきたフォクセイバーをキャッチして、巻きついていた糸を斬り裂いて自由を取り戻し、空中でバランスをとって怪我する事なく着地した。フォクセイバーを構え直す九尾の目の前には、九尾を引きずり落とした張本人であろう、カメレオン型のライダー、ベルデがいた。その両手には千切れたバイオワインダーが握られている。その後ろには、アビスが佇んでいた。

 

「……最初から俺達を引き離すのが目的か」

「俺はあいつに興味はねぇ。お前の実力がどれくらいのもんか確かめたいだけだ」

「それでこんな大胆な奇襲をしたってわけか。ゲスいな、あんた達」

「ガキのテメェにはまだ分かっていないようだが、大人になればこんな事日常茶飯事だぜ」

「……さっさと通してもらいたいけど、その気は無さそうだな」

「だったらどうする?」

「……戦って蹴散らすだけだ!」

 

九尾は駆け出してベルデに斬りかかった。ベルデは器用にかわし、カウンターとばかりに回し蹴りを仕掛けるが、九尾も俊敏さを活かして回避した。そこへアビスが迫ってきて、九尾は飛び上がってフォクセイバーを構え直した。

 

『SWORD VENT』

 

アビスがカードデッキから取り出したカードを左腕につけられた召喚機『アビスバイザー』にベントインし、2刀のアビスセイバーを手に持った。アビスセイバーを構えたアビスの猛追に対し、九尾はフォクセイバーを交互に振って攻撃をいなした。互いに激しい剣の打ち合いが続く中、両者の武器が弾き飛ばされ、迷いなく肉弾戦に持ち込んだ。拳と拳がぶつかり合い、鈍い音が鳴り響く中、ベルデは1枚のカードをベントインした。

 

『CLEAR VENT』

 

その瞬間、ベルデの体が透明となって周りの景色と同化したのを九尾は見逃さなかった。どんな能力を使ったのか知らないが、敵は確実に隙をついて襲いかかってくる。そう考えた九尾は足を使ってアビスを転ばせて、距離を置くと、周りに意識を集中した。

 

「……そこ!」

 

風の動きから推測した九尾が体を屈んで、何もない空間を握った。すると腕のような感触を感じた九尾はそのまま背負い投げするように投げ飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

叩きつけられた事でクリアーベントの効力が切れたらしく、ベルデは地面に倒れた状態で姿を現した。

 

『ACCEL VENT』

 

続けざまにベントインした九尾は、素早い動きで起き上がろうとしたベルデとアビスにパンチやキックを入れて、最後は飛び蹴りで2人を吹き飛ばした。一旦九尾がその場で止まると、ベルデは舌打ちしながらバイオバイザーにカードをベントインした。

 

「調子に乗るなよクソガキが!」

 

『ADVENT』

 

まだアクセルベントの効力は切れていない。追い打ちをかけようとしたその時、後方に現れたベルデの契約モンスター『バイオグリーザ』が長い舌を突き出して、九尾を縛り上げた。

 

「……!」

 

身動きが封じられた九尾に向かって、ベルデは飛び蹴りを叩き込み、九尾はなす術なく地面を転がった。それに続いてアビスが落ちていたアビスセイバーを再度拾い、九尾に斬りかかった。九尾は体を全力で横に逸らすが、刃先が装甲に覆われていない九尾の右肩を掠め取り、そこから血が飛び散った。九尾は反射的に傷口に左手を当てた。

 

「うっ……!」

 

幸い傷は浅い為、まだ戦闘は続行可能であるが、怪我をしている状態でベテラン2人を相手にする事に、若干焦りを感じ始めた。

 

「(さすがに手強いな……。ベルデもそうだが、アビスも無駄な動きが1つもない。けど、ここで立ち止まってちゃ、スノーホワイトは助けられない……!)」

 

早くパートナーの所に向かってルーラとスイムスイムを撃退させたいが、目の前の敵を先に片付けるしかない。焦る気持ちを押し殺して足元に落ちていたフォクセイバーを手に持って、戦闘を再開しようとした。

その時、すぐそばの鉄塔に向かって誰かが猛スピードで接近しているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スイムスイム、まだ終わらないの?」

「まだたくさん残ってる」

「(こんなにも時間かかるなんて、1人でどんだけ稼いでいるのよ……⁉︎)」

 

予想以上にスノーホワイトのキャンディーの所持数が多い事に、ルーラは王笏を構える右腕の痺れを感じながら驚きと同時に呆れていた。

ルーラの持つ魔法は極めて強力だが、弱点もある。それは発動条件の多さだ。

 

・王笏を向け、ポーズをとらなければならない。

・ルーラの名の下に命じなければならない。

・命令している間はずっとポーズをとり続けなければならない。

・相手との距離は5メートル以内でなければならない。

 

これら1つでも満たしていなければ、魔法は発動しない。だからこそ、ルーラがとった作戦は、ピーキーエンジェルズ、たま、ガイ、タイガ、インペラーにスノーホワイト以外の3人を自分から遠ざける、いわば陽動役を演じさせ、仮に1人だけそこに残った時は保険としてベルデとアビスが迎え撃つ。そしてルーラが魔法を発動している時にスイムスイムがキャンディーを奪取。万が一ルーラが攻撃を受けかけた時はスイムスイムが魔法を駆使して守ってもらえるようにする。シンプルだが効果的な作戦だとルーラは考えていた。

だが、まだ足りないと感じたルーラはスノーホワイトへの命令をあえて「キャンディーをよこせ」ではなく「身動きをとるな」とした。キャンディーを奪取した後でスノーホワイトが即攻撃を仕掛けてくる可能性もあったので、安全を最優先にした。

が、そんな心配も懸念だったか、とルーラは思った。スノーホワイトに戦闘の意思表示は見受けられない。こうしている今も恐怖に支配されて、僅かながらに体を震わせている。所詮は他の人間と同じ、無能な連中に手を差し伸べるだけの間抜けなのだろう。ルーラはそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直なところ、ルーラにとってこの作戦はある種のテストに過ぎず、最終的な狙いは別にあった。

それは、宿敵とも言えるカラミティ・メアリを跪かせる事。

事の発端は、ルーラが魔法少女になったばかりの頃。当然ベルデの存在も知らず、ファヴからの紹介でカラミティ・メアリが教育係としてルーラのところにやって来た事があった。その頃のカラミティ・メアリはまだ王蛇とコンビを組んでおらず、いわゆる一匹狼として城南地区を荒らしていた。

が、教育係であるにもかかわらず、カラミティ・メアリは葉巻を吸って副流煙をルーラにわざと吹き付け、合間合間に酒を飲んでおり、全くと言っていいほど指導をする事はなかった。その不真面目さに腹が立ったルーラが詰め寄ろうとした瞬間、銃声とともに背後で爆音が轟き、振り返ってみれば、そこにはビルの壁に直径3メートルほどの穴が開いていた。恐る恐るカラミティ・メアリの方を見ると、彼女の右手には拳銃が握られていた。そしてカラミティ・メアリはニヤつきながら呟く。

 

『カラミティ・メアリに逆らうな。煩わせるな。ムカつかせるな。オーケイ?』

『こ、これが、あなたの魔法……?』

『何でそっちが質問してんだ? あたしが聞いてんだよお嬢さん。ほら、バカみたいに頷いていりゃあそれで良いんだよ』

 

そう言って銃口をルーラに向けるカラミティ・メアリ。魔法によって銃の威力を底上げしている事は把握出来たが、何しろ規模がデカすぎる。今の自分に回避できる確信がない。ルーラは黙って頷いた。

 

『オーケイ、オーケイ。良い返事だ』

 

それで気を良くしたカラミティ・メアリは再び酒ビンを傾けて口に含んだ。口から零れたアルコールが胸元まで流れていくのを、ルーラはただ黙って見ている事しか出来なかった。結局、ルーラは暴力に対して何も出来なかったのだ。

それと同時に込み上げてきたのは、血に煮え滾る屈辱。命令する前に、素早さで勝っているカラミティ・メアリの銃弾の嵐に晒されてしまうので、自身の魔法とは分が悪いのだ。

この時から、ルーラはカラミティ・メアリに復讐する事だけを目的に行動を開始した。今の自分に必要なのは、自分がカラミティ・メアリに魔法を行使する際に、自身の魔法が有効になる状況を作り出し、守ってもらうための肉の壁だ。ベルデと出会い、人の才能を見抜く力を持つ者が現れた事で、ルーラは彼に真相を隠しながら、新しい魔法少女や仮面ライダーが入ってきた時に人選をしてもらい、スカウトしてカラミティ・メアリを潰すための派閥を作る事にした。ベルデが選んだ者達は一癖も二癖もある者ばかりだったが、社長である高見沢の判断を信じていたし、自分で判断して動く事のない愚か者なら、自分に使われた方が意義のある活動が出来る。ルーラのために死ぬ方がよっぽど幸せだろう。そう自分に言い聞かせて、リーダーとして統治した。

 

 

 

 

 

 

 

 

今こそ大人数のチームの力を試す時だ。そう決断してこの強奪作戦を実行した。依然としてスイムスイムはスノーホワイトからキャンディーを奪取し続けている。さすがに長く感じたルーラは苛立ちながら呟いた。

 

「ったく。このポーズ疲れるんだけど。まだ終わらないの⁉︎」

「もうちょっと……」

 

とその時、スイムスイムが何かを察して塔の下に目を向けた。ルーラもそれに続いて見下ろした。見下ろした先には九尾がベルデ、アビスと交戦を続けているが、そのすぐ近くから、砂利を蹴散らし砂埃を巻き上げて疾駆してくる騎士の姿が。その後方からはピンク色のライダー。さらにその後方からは双子の天使が猛スピードで迫ってきていた。それを見てルーラは頭に血が上った。

 

「んなっ⁉︎ あのバカどもアホどもゴミ屑ども! 足止めも満足に出来ないのか⁉︎」

「ルーラ。もうちょっとで終わる」

「黙ってろボケ!」

 

ルーラが苛立ちながらそう叫んでいる間も、内心焦りを隠せない。ここで作戦が中断するようでは、カラミティ・メアリに敵うはずもない。万事休すか。そう思っていた矢先。マジカルフォンから音が鳴り響き、スイムスイムは顔を上げて呟いた。

 

「終わった」

 

スイムスイムがそう呟いたのを確認したルーラは右腕を下ろし、スノーホワイトにかかっていた魔法を解いた。スノーホワイトは呆然としながら、力が抜けたように膝をついた。ギリギリではあるが、目的は達成したようだ。荒げていた息を整えてから、ルーラは言った。

 

「よし。スイムスイム。このままベルデ達と合流して……」

 

だが、その先の言葉が続く事はなかった。何故なら、足場である鉄塔が轟音とともに大きく傾いて、バランスを崩してスノーホワイト、スイムスイムとともに地面に向かって落下していったからだ。

 

 

 

 

 




キャンディーを奪われてしまったスノーホワイト。

次回、依然として苦戦を強いられている九尾達に、意外な助っ人が……?

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