魔法少女&仮面ライダー育成計画 〜Episode of Mirror Rider〜 作:スターダストライダー
N市の一角にある西門前町には、その名の通り寺が多く、大小様々に軒を連ねていた。そんな西門前町にある、最も古びているように見える『王結寺』は、普段から人が寄り付かないという事もあって、隠れ家にはもってこいの場所だった。
現在、王結寺には魔法少女5人、仮面ライダー5人の計10人が居座っていた。段差の上の方でルーラが、ティアラに手を添えて、長いマントをクッション代わりにして腰を下ろしており、少し離れたところに置かれている廃れた仏像には、ベルデがもたれかかっていた。ルーラの隣には、正座しているスイムスイム、立って腕組みをしているアビスがおり、ルーラが見下ろせる範囲で、たま、ガイ、ミナエル、ユナエル、タイガ、インペラーが座り込んでいた。
「今回、マジカルフォンがバージョンアップされたわけだけど、これによって端末間でキャンディーを移動させる事が可能になった」
「う、うん……」
「……で、これが何を意味しているのか、お判り?」
ルーラが問いかけると、最初に挙手したのはたまだった。
「えぇっと……。たくさん持ってる子が足りない子にキャンディーを分け与えましょう……って事かな?」
「0点」
「あぅぅ……」
たまの回答に、ルーラは冷たく採点した。続いて口を開いたのはピーキーエンジェルズ。
「チームを組んで、その中でキャンディーやりくりして、どうのこうのって事じゃね?」
「あぁ、それ正解っぽい。お姉ちゃんマジクール。ならあたしらが一番有利だね」
「30点」
「「えぇ〜」」
ルーラの採点に不満げな様子のピーキーエンジェルズ。と、今度はインペラーが答えた。
「でもな〜。こんな機能より他の奴のキャンディーの数が分かるようにしてほしいよな」
「誰が愚痴をいえと言ったバカ。−5点」
「ひでぇ⁉︎」
インペラーが悲鳴をあげる中、ルーラはさっさと無視してタイガに尋ねた。
「タイガ、あなたはどうかしら?」
「……」
「……チッ。ならスイムスイム、あなたはどう思う?」
「……」
タイガを首を傾げ、続くスイムスイムも首を横に振って、存在感のある乳を大きく揺らした。それがルーラを最も苛立たせて、睥睨した。
「ったく。本当にバカしかいないのかしら」
ルーラは頼みの綱とばかりに、ガイに質問した。
「ガイ。あんたはどうかしら。チャットであれだけ言ったのだから、分かってるはずよね」
「あぁ、この機能ね」
尋ねられたガイは、あっさりと答えた。
「マジカルキャンディーには命がかかってる。んでもってこのタイミングで譲渡機能の解除。これはもうアレでしょ。『お前ら生き残りたかったらキャンディーを奪い合え』っていう、運営からのメッセージ」
「……まぁ、85点ってところね」
「イェーイ」
「え、マジで⁉︎」
ガイがわざとらしく喜んでいる中、何人かは驚きを隠せずにいた。
「無理やり奪ってもいいの?」
「いいの? ってかそんな事やれるの?」
「フフフ……。それが出来るのよ」
そう言ってルーラは立ち上がり、ピーキーエンジェルズに近づいて口を開いた。
「時にミナエル」
「「いや、そっちユナエル」」
タイガとインペラーの兄弟によるダブルツッコミが炸裂し、ピーキーエンジェルズは笑いを禁じ得なかった。ルーラでさえ未だに見分けがつかないのだが、2人には即座に判明できた。単にショートカットのはねが内か外か、足首についているリボンが右か左かという違いだけだが、それでも注意して見ておかないと間違えやすいのだ。
「えぇい紛らわしい! ではユナエル!」
カンカンに怒りながらルーラは、ユナエルに「玉を掴む鷲」の像が先端に飾られた1メートルほどの象牙の王笏を向けると、呪文のような言葉を呟いた。
『お前のキャンディーを全て私に差し出せ』
「……はい、仰せのままに」
ユナエルはまるで操られたかのように自身のマジカルフォンを差し出し、操作をした。すると、RPGのレベルアップ音のような音が鳴り響き、マジカルキャンディーがルーラのマジカルフォンに転送されたのが確認できた。
「凄い……。本当に出来ちゃった」
「……!」
「フフ、そうよ。私の持つ魔法なら」
「コラァ! ユナエルのキャンディー返せ!」
「わ〜⁉︎ 落ち着けって!」
ルーラがその先を言おうとした時、ミナエルが体当たりをかましてきて、キャンディーを取り返そうとした。慌ててインペラーがミナエルをルーラから引き離し、ルーラは王笏をピーキーエンジェルズに向けて、その場で正座させるように命じた。すると2人は抵抗する事なく正座した。
そう。これこそがルーラの持つ魔法『目の前の相手に何でも命令できるよ』であり、この魔法によってガイ達を服従させてきたのだ。
ルーラはユナエルにキャンディーを返した後、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「この能力はただのキャンディー集めなら不利。……でも、やっと私へと流れが変わったのよ。加えて……」
そう言ってルーラはベルデの方を見た。
「パートナーシステムによって、俺もこの魔法が使えるようになったってわけだ」
そう言ってベルデがカードデッキから取り出したのは、ルーラのアバター姿が描かれているカード。つまり、強奪できるチャンスが二倍に増えたという事なのだ。それからルーラは愚民達に問い正すように言った。
「さぁ、分かったかしら? 死にたくなければ、これまで通り、私とベルデの指揮下で働く事ね。この先は私達2人の指示に従ってもらうわ。それが嫌なら去るも良し。ねむりんの後をすぐに追わせてあげる」
だが、誰も反対する者はいなかった。ルーラの魔法は、極めて強力であり、逆らったところで下剋上できる未来が見えてこない。異論なしと判断したルーラは、鼻で笑いながらこう言った。
「では、作戦と役割を発表する。とは言っても、お前達バカでもやれるようにシンプルにいく。先ずは現時点でキャンディーの所持数がトップのスノーホワイトからだ」
「おぉ。そりゃあ楽でいいや」
「超クールだよね」
「……本当に、やるの?」
「うぅ〜ん。他の奴から強引に奪うのも、何ていうか良心が……」
ピーキーエンジェルズがいち早く賛同する中、たまとインペラーだけは未だに倫理的な理由からか、悩んでいた。そんな2人に、タイガとスイムスイムが声をかけた。
「これはリーダーの命令だよ。従わなきゃ死んじゃうよ」
「リーダーの言う事は絶対」
2人にそう促され、たまとインペラーは頷いた。
それからルーラは全員に、スノーホワイトからのマジカルキャンディー強奪作戦を伝え、役割を命じた。
「以上だ。作戦はそれぞれ本番までにイメージトレーニングしておく事。遅れたり失敗した者にはキャンディーはないと思いなさい」
そこで解散となり、皆はそれぞれの家に帰っていった。
それから数日間、キャンディー集めの為の人助けをしつつ、下僕達は斥候に駆り出され、スノーホワイト、そしてパートナーや同じチームメイトがどこを拠点にしているのかを、隠れながら探索していた。過去のチャットログに書かれた内容と照らし合わせながら、ルーラ達はようやくスノーホワイト達が倶辺ヶ浜の近くにある鉄塔をアジトにしている事を突き止めた。
成績発表の前日。その報告を聞いたルーラはマジカルフォンの電源を切り、ホッと一息ついてから、不意に隣の方に目をやった。
「……で、あなた何で正座しているの?」
ルーラの目線の先には、魔法をかけていないはずのスイムスイムが正座で待機していた。すでに長時間そこにいるわけだが、足が痺れたりしないのだろうか。
「尊敬すべきリーダーには、正しい姿勢で応えるべき」
「……それ、私が言った事?」
「言ったこと」
スイムスイムは事あるごとに、過去にルーラが指導したであろう内容を復唱していた。『したであろう』というのは、あまりに多すぎて言った本人でさえ覚えていないからだ。忠誠心が表れているが、若干鬱陶しいところもある。それが、知識は少なくとも、記憶力だけはずば抜けているスイムスイムなのだ。
ルーラは気分を良くしたのか、スイムスイムに歩み寄り、腰を曲げて彼女の頭を撫でた。
「胸の大きい女は大抵バカだから嫌いだが」
「……?」
「尊いものを頭に詰めておけば……バカでも少しはマシになる、か」
「尊いもの……。それって何?」
その問いに、ルーラは笑い、だが冷ややかな声でこう答えた。
「私の言葉。全て頭に入れておけ」
「ルーラの言葉……。尊い……!」
「お前もあいつらと同じバカだが、信用できるバカだ。明日はしっかり頼むぞ」
そう言ってルーラは再びスイムスイムを撫でた。
「……」
その様子を、物陰からベルデとアビスがジッと見ている事に気付かずに……。
「尊いもの……ねぇ」
「どうかされましたか?」
成績発表当日。N市には数多くの高層ビルが並び立っているが、その中でも特に別格を放っているビルの最上階の社長室に、強者の雰囲気を漂わせているようにビシッとしたスーツを着込んだ、大企業の高見沢グループの総帥兼社長である『
高見沢は何でもないと告げて、ポケットから緑色のデッキケースを取り出して机に置いた。
「いよいよ今夜決行か……」
「あいつらがバカみたいにポカさえしなければ、それでいいんですよ。チームとしての完成度は決して低くないですから。これも、人選において的確に選抜してくれた社長のおかげですよ」
「フッ。それぐらい見抜けなきゃ、こんな企業のトップに立ちゃあしねぇよ」
やはりこの会社に入っておいて正解だった。と、周りの社員からは「できる女」と評される秘書の早苗は密かに思った。
木王 早苗は小学校の頃からエリート教育を受けて、常に成績優秀だった。小学校から中学校を経て高校、大学では注目の的となり、大学卒業後もトップクラスの企業に就職した。
が、彼女は最初から最後まで、周囲をバカばかりだと考えていた。自分の価値も分からないバカと付き合うつもりはないと公言しており、その影響か、学校でも職場でも一人ぼっちだった。職場でもその性格が災いして、社長と口論になり、数日後には退職させられた。が、早苗は最初からその気だったらしく、辞めさせられる事に不満はなかった。所詮は自分の価値観を見抜いてくれなかっただけの烏合の衆ばかりの職場だったのだ、と自分に言い聞かせた。
とはいえ職を失ったのも事実。もっと自分を必要としてくれる会社はないのかと、ネットを使って調べていくうちに、高見沢企業の会社に目がいった。そこそこのエリート社だと噂は耳にしていたので、早速履歴書を片手に、会社へと足を運んだ。
面接の結果は当然の如く合格。会社でしばらく働いていくうちに、早苗はこの会社を大変気に入った。そこにいる全ての社員が、自発的に行動を起こして、企業に貢献していく。つまり、自分らしさをこの職場なら最大限に活かせる。早苗はようやくあるべき場所を見つけたのだ。
早苗は入社して以降、メキメキと成績を伸ばして、遂には秘書の座を獲得するところまで登りつめた。そこで早苗は初めて、社長である高見沢 大介という人物をはっきりと目撃した。頭も良く回り、カリスマ性に溢れており、何より社員達から慕われている紳士的な人物であり、すぐに早苗の長所を見抜いてくれた。早苗は確信した。この会社こそが、自分に最も相応しい場所なのだと。
すると、そんな早苗を祝福するかのように、彼女の元に幸運が訪れた。
『おめでとうぽん! 君は魔法少女「ルーラ」になれたぽん!』
前の会社に勤めていた時から気晴らしにやっていた『魔法少女育成計画』をプレイしている最中、端末からマスコットキャラクターである『ファヴ』が飛び出し、早苗を魔法少女に変えたのだ。
裾を引きずるほどに長く、宝石が散りばめられた光沢ある朱子織のマント、王笏、パーティー用の長手袋、小さくもダイヤが埋められたティアラ、薄紫色の髪を髪飾りでまとめ、ガラスの靴を履き、何よりも美しい美貌を兼ね備えた魔法少女『ルーラ』が鏡の前に現れた時、全てが解放された気分になった。自身の魔法も大変気に入り、早苗は満足していた。
魔法少女になってしばらくするうちに、何と社長である高見沢が、同胞とも呼べる仮面ライダー『ベルデ』である事が発覚。以降、2人で行動する時間はさらに長くなり、ベルデの厳選のもと、後輩にあたる魔法少女や仮面ライダーを雇い、彼女がリーダーとして君臨した。
「今頃スノーホワイトやその仲間共は上位になれてると思って余裕なんでしょうけど……」
間も無く闇夜が街を支配する頃、早苗は立ち上がり、近くに置かれた姿見を見つめた。その瞳からは邪悪さが込められている。
「だからこそ、打ちひしがれた時の絶望感は大きいもの。そして彼女は全ての気力を失い、脱落する……」
「スノーホワイトはともかく、そいつといつもつるんでる奴らは気にいらねぇな。大人のやり方を教えてやるとするか」
高見沢も立ち上がり、時計に目をやった。早苗もそれに続いて時計を見た。
「早めに向かいましょうか。リーダーとしてあいつらを統括しておいた方が良いかもしれませんし」
「あぁ。迎えの方には、自分で帰ると言ってあるし、このまま向かうか」
高見沢と早苗は姿見の前に立ち、高見沢は緑のカードデッキをかざし、Vバックルを腰に取り付け、早苗はマジカルフォンを取り出した。
「変身」
早苗はマジカルフォンの画面をタップし、高貴な魔法少女『ルーラ』へと姿を変えた。一方、高見沢も右手を左に持ってきてから指を鳴らして呟いた。
「変身」
そのまま元に戻る形でカードデッキをVバックルにはめ込んで、鏡像が重なって仮面ライダー『ベルデ』へと変身した。
2人は同時に姿見を通じてミラーワールドに入り込み、下僕達が隠れているであろう目的地まで足を運んだ。
音1つ聞こえてこない世界に、女王の堂々たる呟きが足音と共に響き渡った。
「……さぁ。最高峰の
余談ですが、最後にルーラが放った言葉は声優ネタであり、私の好きな、とあるアニメのセリフのオマージュになってます。ヒントは「歌って戦う戦士」です。
次回、戦いの幕が上がる……。